帝都の鬼姉妹。 ふぉっくすらいふ!外伝   作:百合道いおりん

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13話 異臭

 

 

 

 

 

動く屍の群れを始末した鈴音と蟷螂坂は、霧の様に霧散した奴らの死体があった個所を調べていた。

「…。」

「…。」

無言のまま、何か痕跡はないか調べる。

物静かな二人故に、ほとんど会話はない。

ただ黙々と何か手掛かりはないか戦闘があったオフィスを調べ、奴らが出てきた通路も調べる。

しかし強い妖力の気配も見当たらず、二人して首をかしげる。

そのとき、花鈴から通信が入った。

『あーあー、すーちゃん聞こえるー?』

「聞こえてるよ、どうしたんだ?」

首筋に手を当てながら鈴音が答える。

その声色から緊急事態ではないと判断し、慌てずに平然としたままで答えた。

『監視カメラが動いてた、なんか私らのこと見てるやつがいるっぽいね。』

「なに…!?」

花鈴の言葉に少し目を見開き、小さく驚きの声を上げる。

蟷螂坂も少し驚いたのか、ばッと鈴音の方を向き少しずれたサングラスを整えている。

そしてお互いに会話をするように視線を交わすと頷き、鈴音は花鈴に通信を続ける。

「分かった、私たちもこのビルに監視してる奴がいないか探してみる。」

『おっけー、私たちもそうするね。』

ぷつり、と感覚的に妖力の波が途切れたことを察し、鈴音は首筋から手を離す。

「…ということらしいです。」

「承知…。」

蟷螂坂が鈴音の言葉に一言で答える。

鈴音は端的な会話は嫌いではないが、流石にここまで端的だと少々やり辛い。

少しづつ表情を読み取れるようになってきたが、まだまだすぐ察知できるというわけでもない。

「…。」

「…。」

無言のまま、通路を歩き、二人は他の部屋を回り始める。

元は物置であったのであろう部屋やトイレに使われていたであろう部屋。

その所々には古い血痕の様なものが隅に残されたままになっていたり、何かが置かれていたであろう跡を残す様に線上に黒ずんだ血の痕が残っていた。

血が清掃された痕跡はあるのだがそれも甘く、仕上げの清掃を行う前に清掃業者が立ち去ったように感じられる。

それはここで殺し合いがあったことを感じさせる、生々しいものであった。

「…。」

「…。」

無言でお互い誰かがいた痕跡はないか調べていたが、ふと鈴音が口を開いた。

「蟷螂坂さん…。」

「…?」

「さっきの屍、妖力で実体化してたみたいでしたけど、それって可能なんですか?」

鈴音の言葉に蟷螂坂が思案するようにサングラスに手を添える。

鈴音の疑問は霊剣の修行の際に聞いた言葉があった。

霊剣は強い霊力があれば、それこそ強大な妖怪程のものがなければ不可能だが、霊剣を実体化させることが可能だと聞いたのだ。

しかし先ほどの屍は霊力や妖力に属する力によって実体化しており、その肉体を斬った感触が鈴音の中に生々しく残っている。

だが蟷螂坂は妖力を全身にまとわせ、陽炎のように揺らぐほど妖力の扱いにたけている。

そんな彼女ならなにか心当たりのある手段はないかと考えたのだ。

「…なくは、ない。」

サングラスからそっと手を離し、蟷螂坂は答えた。

「たとえば…ほかの物を媒介にして…創り出す。」

「…代償に、相応のものを用意するということですか?」

こくり、と蟷螂坂は頷き、つづけた。

「実体化した霊剣は…強大な力によって結果できるもの…媒介をもって創られない…。」

おそらく鈴音の疑問を持った理由が分かったのであろう蟷螂坂はそう言った。

「姫斬りの様に…物体が変異する…そういったものはある。」

「つまり、あの屍はなんらかの実体がある媒体を妖力か霊力で変異させた可能性が?」

分かりやすいたとえをだした蟷螂坂の言葉に鈴音がそう問いかけると、蟷螂坂は頷いた。

考えてみれば鈴音の脳内に映し出された光景の中では、姫斬りの元になった刀は一見変異していない普通の刀のようであった。

それがあそこまで異質な刀に変化し、時には花鈴の身体に吸い込まれるように妖力の塊となって飛散し、吸い込まれる。

それを考えれば先ほどの屍が散華した妖力となって散華した理由も説明がついた。

妖力や霊力が実体化することもあればその逆、最終的に物体あるものが消えるということもある訳かと鈴音は解釈した。

「…あくまで推論。」

「はい、わかっています。」

蟷螂坂の言葉に鈴音が頷く。

推論ではあるがどことなく正体がつかめた気がする。

おそらく何者かが監視カメラを使用し侵入してきた人間を見て、ビル内に設置しておいた媒介をもとにあの屍を創り出して襲わせたのだろう。

「…とにかくあの屍を倒しながら監視カメラを潰して、このビルにいるであろう何者かを追い詰めましょうか。」

「…ああ。」

蟷螂坂が鈴音の言葉に同意する。

そして鈴音は何かに気づいたように少し目を丸くさせ、蟷螂坂を見た。

「…。」

「…?」

そんな鈴音に蟷螂坂はどうしたのかと小さく首を傾げた。

鈴音はつい送ってしまったその視線に少し困ってしまったように視線を外し、小さく口を開いた。

「あの…蟷螂坂さんと長く話したの…初めてだなと。」

「…あ…うん…。」

思ってみれば、と蟷螂坂がそのことに気づき、ほんの少し動揺したよう目線を泳がせた。

そして鈴音と同じく困ったように視線をそらし、サングラスに触れた。

「変…だった…か?」

「いえ…そんなことは…。」

「…。」

「…。」

お互い目線を反らしながらどうしたものかと、思案するように沈黙が二人を包む。

それから逃れるように通路に出ながら、本来なら他の部屋をまわるところこのぎこちない空気のままではどうしたものかと足を止めた。

「その…蟷螂坂さん。」

小さく口を先に開いたのは鈴音であった。

「妖力の扱い…今度教えてください。」

「ああ…。」

「素手で、あそこまで強い力を発揮できるようになるんですね…。」

「いや…僕は…まだまだ…。」

鈴音が蟷螂坂に向き直りながら、指で鳥のくちばしの様な、先ほど蟷螂坂が戦闘の際に作っていたカマキリの鎌を思わせる手を形作り言う。

蟷螂坂は自分を褒める言葉にほんの、ほんの微かに耳元を赤く染めながら、照れたように口をすぼめる。

「鈴音がコツを掴んだら…僕よりきっと…うまく使える。」

「私が…そんな…。」

「できる。」

少し、いつもの口調より力強く蟷螂坂が言う。

言いながらそっとサングラスを外し、その人ならざる複眼の目で鈴音を見つめる。

まるで心の内を晒すことを、己の言葉に嘘はないということをその身で表現するかのように示して見せた。

「鈴音なら、できる。」

「…信じます。」

鈴音は自分が信じられなかった。

己の才能がないことは誰よりも自分が一番知っている。

本当の天才がどういう存在なのかということも知っている。

だが、蟷螂坂の言葉を信じることにした。

鈴音は鍛錬を所詮自己満足の産物で産物であり、価値のあるものだとは思っていなかった。

必要以上に身体を追い込み、壊れる寸前まで痛めつけるような、それで自分は努力しているのだと言い訳をするような鍛錬。

しかしそれを日常として続けた結果が今実を結んでいる。

蟷螂坂は鈴音の信じるという言葉に頷くと、サングラスをかけなおす。

二人の間にできた、小さな信頼。

それを互いの胸に抱きながら二人は明かりのないビルの中、歩みを進めた。

この階はある程度調べ終えた、もう次の階に行こうと階段にさしかかる。

その時であった。

「…?」

鈴音がくんくんと鼻をひくつかせるようにして立ち止まり、周囲に鋭い視線を向ける。

「…鈴音?」

「煙草の臭い…化け猫さんとは違う…。」

「何…?」

辺り一面に漂う血なまぐさい臭いに慣れた鈴音の鼻が、新たな異臭を鋭敏に感じ取った。

事務所で嫌というほど嗅いだ化け猫の煙草の臭い。

その臭いとは別の煙草による独特の臭いを嗅ぎ取った鈴音が階段の上を睨んだように見つめる。

「上…まだ臭いは辿れそうです…。」

蟷螂坂を見つめながら鈴音が言うと、蟷螂坂は無言でうなずいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぽつりと、明かりのないビルの通路に赤い火が点る。

月明かりが差し込み淡い、青い光と静寂の中に擦過音が響きわたりハッキリとした赤色が青の中に灯った。

同時に紫煙が辺りを舞い、開けっ放しにされたビルの窓から吹き込む風によって散らされる。

「なんなんだよあいつら…。」

赤い火を──煙草を口にくわえながら先ほどまでノートパソコンを眺めていたくせっ毛の女性が通路を歩き、階段へ向かっていた。

その脇にはノートパソコンが抱えており、けだるげに煙草を口から外して煙を吐き出す。

「楽しませてくれるじゃんと思ったけどさあ、強すぎるでしょ…もっとさぁ…ゆっくり来いよ。」

ぶつぶつと独り言を呟きながら女性は階段を上っていく。

その先にはもう上に上がる階段はない、屋上につながる階段。

階段を上るだけで軽く息を切らしながら、それに対しいらだちを隠さないように女性は顔をしかめた。

しかしその表情の中には強い不安が見受けられ、まるで自分で自分を慰めるかのように独り言をつづけた。

「大丈夫、大丈夫…まだ奥の手があるから私には…大丈夫…くひひ。」

プッとくわえた火のついたままの煙草を床に吐き捨て、女性は屋上へつながる扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっつけぇんだよ!!」

ビルの通路に花鈴の怒号が反響し、同時に股から頭上に向かって真っ二つに斬り開かれた屍の腐った血が辺りに飛び散る。

ビル2階の探索を終え、3階に突入した花鈴たちのチームにまたしても動く屍が襲い掛かっていた。

「一匹一匹はたいしたことないけど…こうも数が多いと面倒だね!」

狂骨は正面の屍の額を撃ち抜き、横から突き出された別の屍の腕を肘で弾き飛ばしつつ一歩踏み込んで肩による体当たりで体勢を崩させ、その隙に新たに掴みかかってくる屍を蹴り飛ばす。

次の瞬間にはするりと光の筋が暗闇の中に走り、蹴り飛ばされた屍の首がなくなっていた。

化け猫が狂骨の動きに合わせて大通しを振るったのである。

「このままだと、先に上に行った二人と合流するのはいつになるのかしらね!」

「ほんとそれ…はい化け猫パス!」

「パスじゃにゃいんだよお前!」

花鈴が後ろから迫っていた屍を後ろ蹴りで化け猫のいる方向に向かって蹴り飛ばし、化け猫も突然の指示に文句を言いつつ即座に息を合わせその頭を背後からスイカの様にたたっ斬った。

その時、不意に三人の頭に声が響いた。

『こちら鈴音、人の痕跡を確認、その跡を追います。』

「すーちゃん!?」

突然の通信に花鈴が驚きの声をあげ、その内容に狂骨が目を見開く。

「鈴音ちゃん!?痕跡って!?」

『煙草の臭いを感じたのでそれを辿ります。今のところ4階…5階より上のようです、追って連絡を。』

「分かった、悪いけどこっちはまだ時間がかかりそうだ!」

『了解。』

戦闘中であることを察した鈴音は最後に短く返事を残し、通信を切る。

「ということだみんな、こいつらを片付けたらすぐに上に向かおう。」

「了解!」

「りょーかい!」

狂骨の声に化け猫と花鈴が答え、同時に腐った血が壁に模様を作る。

三人がすべての屍を片付けたころには、通路はまるで赤絨毯のように血で染まっていた。

 

 

 

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