帝都の鬼姉妹。 ふぉっくすらいふ!外伝   作:百合道いおりん

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幕間劇2 激闘 八咫総合事務所vsバーチャル夢魔。

 

深夜の八咫総合事務所。

静かな夜であった。

狂骨は相変わらず泥酔したままソファーで爆睡し、翌日に待つ二日酔いという地獄を今だけは忘れて穏やかな寝息をたてている。

蟷螂坂も翌日の仕込みを終えて布団に入っており、鈴音もトレーニングを終えて眠りに就いていた。

ユリカは八咫烏によって管理された特殊な寮に住んでいるため、ここにはいない。

ただ、二人、花鈴と化け猫は違った。

皆から隠れるようにこそこそと、なにやらパソコンの前に集まっている。

「化け猫、例のモノは?」

「これよこれ…夏のコミマ前に配布された体験版…抽選でゲットできるなんてラッキーだったわ。」

「みせてもらおうじゃないの、試作型のYOMの性能とやらを。」

化け猫が取り出したるは簡素なプラスチックケースに入れられた白塗りの無地のディスクで、黒マーカーで”式神伝・乱 試作型”と書かれていた。

式神伝とは現在熱狂的な人気を誇る対戦型アクションゲームであり、これはそのキャラクターを元に作られたファンメイドの作品である。

所謂二次創作の同人作品であった。

化け猫がディスクをパソコンに挿入し、インストールを始める。

十分も経たないうちにインストールは完了し、ゲームの起動画面が現れた。

「うおお…!」

「これは…。」

二人が思わず声を漏らす。

起動画面のイラスト、多種多様な美少女が描かれたイラストが添えられた画面は、肌色率が高かった。

イラストのクオリティも高い。

もちろん公式イラストレーターである敷島秋美のものとは比べものにならないが、それでも同人作品としてはかなりレベルが高い。

そしてなにより──

「「えっろ。」」

二人の声が重なった。

そう、この作品、エロいのだ。

一応全年齢向けなのだがギリギリのきわどいラインを狙っている恋愛アドベンチャーゲームだ。

原作ではありえない、式神伝の女性と一部男性キャラクターの乱れたお姿を堪能できる作品である。

乱、とはそういう意味を込めてつけられた言葉であった。

二人がゲームを始める。

操作するのは化け猫であった。

「にゃふふふ…まずは燐ちゃんから攻略するわよ。」

「やっぱあんたはそうよね、私はどうしよっかなぁ。」

「まぁまぁ私がゆっくり堪能させてもらうから、その間にじっくりと考えておきにゃ…さ──」

ゲームを開始した途端、化け猫が急に言葉を途切れさせる。

花鈴が何があったのかと不思議そうに画面を覗き込むと、そこに表れたのはプログラムらしきアルファベットや記号の羅列。

それは瞬く間に画面全体を埋め尽くし、大量のウィンドウが開かれては消えを繰り返していった。

「にゃ…にゃによこれ…ウィルス…!?」

「うっそでしょ…なによこれ…。」

困惑した表情で画面を眺めていた二人であったが、ウィンドウの数は徐々に少なくなり、消えていく。

そうして最後のウィンドウが消えたとたん、画面に急に一人?の女性が現れた。

妖艶な、露出の多い黒いボンテージ風の衣装を身にまとった女性であった。

むっちりとした肉感のある肢体に、突き出た豊満な胸と尻。

艶やかな長い黒髪は胸先にまでたれており、自然と胸に視線が行ってしまう恐ろしい効果を生み出していた。

「え…にゃに、これ…?」

「いや…わかんない…。」

茫然とする化け猫をよそに、不意に二人とは違う声が事務所に響いた。

『うふふ、どうもこんばんは…あらぁ、女の子なのね、それも上玉の。』

二人がぎょっとする。

その音声はパソコンから響いていた。

つまりパソコンが喋っているのだ。

「にゃ、にゃんなのよお前は…!?」

『私は夢魔よ、信じられないかもしれないけど、貴女たちみたいなエッチなものがお好きな方々の精を活力にして生きている妖怪。』

夢魔というと夢の中に忍び込み、精を奪い取ってそれを糧に生きる存在だと伝承されている妖怪だ。

妖怪の中には枕返しや獏のように眠りや夢に関わる存在がいる。

枕返しは眠っている間にその名の通り枕をひっくり返し、体の位置を入れ替えると言われている。

獏は悪夢を食べると言われている妖怪だ。

どうやら彼女もそういった妖怪の一種らしい。

「妖怪…パソコンの中に…!?」

『そうよ…って、あら、妖怪ってことにはびっくりしないのね貴女たち。』

「画面越しには分かんないかもしれないけど、私たちも同族だから。」

『あらあら、お二人も妖怪なの、偶然ね~。』

朗らかに妖艶な女性──夢魔は笑う。

思わずその雰囲気にのまれそうになるが、二人は首を振って正気を取り戻す。

「いやいやいやそうじゃなくて…!なんでゲームの中に…!?」

『私はそもそも実体の無い夢に入る存在なのよ~、それである日思いついたの、無暗に目標を探すより、エッチなことが好きな人のところに自然に行ければって。』

「それで…このゲームに憑依した…!?」

なんと妖怪がバーチャルな存在になってしまうとは驚きである。

いつの日にか妖怪がバーチャルな配信活動なんてする時代が来るかもしれない。

『そうよ~お姉さん頭良いと思わない?』

「いや待て待て待て、それならもっと適切なものがあるだろ、アダルトなゲームとか。」

花鈴がそうツッコむ。

それに対し夢魔は真面目な表情に顔を切り替えた。

『…それにはね、一つ事情があるの。』

「事情?」

『私は…相手は幼い方が好みなの…!』

「「はぁ?」」

二人がポカーンと口を開ける。

構わずに夢魔は言葉を続けた。

『アダルトな作品だと行く先はだいたい大人でしょ!?でも全年齢向けのこの作品なら…若い子の元に行ける可能性がある!』

「にゃ…にゃんてえ理由なの…ひっでえ。」

化け猫が呆れたように言う、花鈴もその発言に苦い顔をしていたが、ふと思い出したように手を叩く。

「てか待て、元のゲームは?私の式神伝・乱はどうしたおい?」

「いや花鈴のじゃなくて私の…ってそうよ、返しなさいよあんた…!」

『そうねぇ…どうしちゃおうかしらぁ~?』

「花鈴、なんか変なDVDとか持ってない?インストールしたらどうなるか試してみましょう。」

「そういや蟷螂坂が変な番組録画してたわー、”職人の流儀 板前見習いの過酷な一日”だっけ。」

「いいじゃない、この女には一日中寿司握ってもらいましょ。」

『待って待って待って!お願い止めて!!』

二人の言葉に必死に夢魔が懇願する。

『ふ、ふふ…貴女たちがゲームを取り戻すには一つ、私のゲームをクリアすること。』

気を取り直し、夢魔がそう条件を提示する。

そうして画面に表示されたのは”夢魔ちゃんクエスト ときめき冒険譚!”という文字と、アナログな感じのドット絵によるグラフィックであった。

その画面を見て二人は絶句する。

「うわぁ…。」

「ネーミングが古臭い。」

化け猫がドン引きし、花鈴がバッサリと切り捨てる。

二人のリアクションにぴくぴくとこめかみに血管を浮かび上がらせながらも、夢魔は言葉を続ける。

『こ、このゲームはいろんな誘惑を勇者、つまりプレイヤーの貴女たちが乗り越えて魔王を倒すゲームよ、さぁプレイしてみなさい!』

「ふーん、けどたかがドット絵じゃにゃいの、そんなものに負ける訳ないじゃにゃーい。」

「そうそう、センスの古ーーいあんたには分からないかもしれないけど、今時のグラフィックに慣れてる私らにドット絵って。」

馬鹿にしたように二人が笑う、たかが古臭いドット絵ではないかとあざ笑う。

だがその言葉には夢魔は怒りはしなかった。

それどころかどこか自信に満ちたような不敵な笑いを浮かべている。

『ふふふ、じゃあプレイしてみなさい…そして思い知るが良いわ…貴女たちが古臭いと言ったドット絵、それは私の──夢魔の力をもって真価を発揮する。』

夢魔が笑う。

まるでこの先の未来が分かっているかのように笑う。

『グラフィックのリアルさが、ゲームの決定的な魅力でないことを教えてあげる…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「化け猫おおおおおおおお!!!帰って来なさい化け猫おおおおおおおお!!!!化け猫おおおおおおお!!!!」

真夜中の八咫総合事務所に花鈴の悲痛な声が響き渡る。

その声に事務所の面々は一気に目を覚ました。

「どうした花鈴!!?」

「敵襲…!?」

まずは鈴音が大通しを片手に部屋のドアを蹴り飛ばしてオフィスにあらわれ、同時に蟷螂坂が寝室のドアを蹴り飛ばして姿を見せる。

狂骨も何事かとまだ酔いの残ったまま身体を起こし、懐の霊銃に手を伸ばした。

「ちょっとちょっと…なにがあったのさ…。」

「化け猫が…化け猫が…。」

パソコンが置かれたデスクの横に立っている花鈴が茫然とした表情で言う。

化け猫はパソコンの前に座っていた。

眠ったように目を閉じ、椅子にぐったりと背を預けている。

いや、眠っているようだというより、本当に眠っている様子であった。

鈴音は不思議そうに眠っている化け猫に近づく。

化け猫は幸せそうな、それはそれは幸せそうな表情を浮かべて眠りについていた。

口元はデレデレと緩んでおり、よだれまで垂らしている。

よく耳をすませば寝言まで言っていた。

「にゃふ…ふふふ…ハーレムぅ…ここが…極楽…。」

「ば、化け猫さん…?」

戸惑う鈴音が花鈴に説明を求めるように視線を送ると、花鈴は無言でパソコンの画面を指さした。

鈴音、蟷螂坂、狂骨がその動きによって全員が画面を覗き込む。

「な、なに…これ?」

「……奇怪…!」

「うわ、うわわわわわ!なにこれ!?」

画面の中に、化け猫が映っていた。

画面の中の化け猫は美少女に囲まれている、それも猫耳を装着しかなり際どい水着のような衣服に身を包んだ女の子たちに。

それはそれは幸せそうに、今眠っている現実の化け猫と同じように表情を緩ませながら酒池肉林とばかりに女の子たちを堪能していた。

「花鈴…何があった?」

「その…かくかくしかじか…で、夢魔のゲームをしてたんだけど。」

「まるまるうまうま…そんなことが…でもゲームをプレイしてどうしてこんなことに。」

「それがさぁ、イベントで魔物に誘拐された女の子たちを救い出すっていうのがあって、その後に女の子たちがお礼に勇者をもてなすシーンが出たの。そしたら画面を見てた化け猫が眠ったみたいになって、画面に化け猫が…。」

戸惑いながら花鈴がそう説明する。

すると画面に別のウィンドウが開き、夢魔が姿を現した。

『それに関しては私が説明するわ。』

「あ!すーちゃんこいつ!こいつが今説明した夢魔!」

「ほう…急所が丸見えの格好だな、不安になる。」

『…こ、この格好をそんな目で見られるのは初めてだわ。』

鈴音の予想外の言葉に夢魔が戸惑いながら言い、そして説明を始めた。

『この子はね…想像しちゃったの…。』

「…想像?」

『そう…ドット絵の力、それは想像力。』

夢魔が笑う、思い通りにことが運んだと笑いながら言う。

『美麗なグラフィック、それは素晴らしいわ、しかしそれは想像の余地がなくなってしまうという欠点を孕んでいる。』

オーバーに眉間に手を当て、悩まし気な動きで夢魔が続けた。

『ドット絵であるからこそ!想像できる自分好みの世界!ドット絵の情報をもとに頭の中で自分好みに改変されたキャラクター!私はドット絵の可能性に目を付けた!』

「まさか…。」

夢魔の言葉に何か気づいたのか、花鈴が冷汗を垂らす。

『そうよ、頭の中で自分好みの光景──シチュと言えばよいかしら、それを想像した途端、私が夢の世界へと誘う…!!』

「うーん、ちょっと待って、今二人の話を聞いてたんだけどさ…つまりこれは…化け猫の理想のシチュエーション?」

『YES!この子は女の子たちにもてなされたシーン…それを自分好みの女の子たちに頭の中で改変して想像したのよ。』

その言葉と同時に夢魔の映ったウィンドウは消え、代わりに化け猫の映った画面がデカデカと映し出された。

『化け猫様ぁ…今夜は私のところに…。』

『ダメよ、化け猫様は今日は私と一緒!』

『にゃはははは!私は二人でも何人でも一向にかまわないわよ!にゃッははははは!!!』

「うわぁ…化け猫ってこういう趣味だったんだ。」

「…化け猫。」

狂骨が少し引いた口調で言い、蟷螂坂が見てはいられないと顔を伏せる。

画面の中の化け猫の行動はどんどんとエスカレートしていき、最初はただ雰囲気を楽しんでいた様子からボディタッチが増えていき、発言も過激に、そして──

『じゃあそろそろお楽しみのベッd──』

「アウトおおおお!!!!」

花鈴がこれ以上は化け猫の尊厳のためにもマズいと電源ボタンを押し、強制的にパソコンを終了させた。

そうすると夢から覚めた様に、いや、実際に夢から目が覚めた化け猫が跳び起きる。

「あれ…女の子は…てか私にゃにをして…!?」

化け猫は混乱した様子で周囲を見渡し、自分が何をしていたのか少しづつ思い出し、どんどんと青ざめていく。

「え、ちょ、なんで、私ににゃにがあったの…え?」

「化け猫さん…私はどんな貴女も尊敬してますから。」

優しく肩に手を置き、鈴音が言う。

その言葉に、化け猫の顔からさらに血の気が引いた。

 

 

 

 

 

 

「で、こうなってるの化け猫は?」

時間は経ち、時刻は真夜中から朝に移って八咫総合事務所に出勤してきたユリカがそう言った。

その目の前には泥酔した様子の化け猫がいた。

胸元に半分ほど中身が入った一升瓶を抱き、足元には空になった空き缶と空き瓶が何本も転がっていた。

ウィスキーに日本酒にチューハイ、その種類には統一性がなく、ただただ飲みたいから飲んだという様子である。

このように泥酔しているのは当然、自分の欲望を思いっきり晒されてしまったからだ。

「にゃによおおおお!!!いいじゃにゃいのおおおおお!!!!」

「いやマジウケるわ、これ、面白すぎない。」

「こらこらやめてあげなって、ユリカちゃん。」

にやにやと笑いながら化け猫を眺めているユリカを狂骨が嗜める。

「それでユリカちゃん、例の夢魔に乗っ取られたパソコン、ちょっと見て欲しいんだけど。」

「いや、別に私パソコンのプログラムとか詳しくないんだけど。」

「いやいやいや、それでも一番詳しいからさー、頼むよ。」

まるで年配の会社員がとりあえず若いからというだけでパソコン周りの仕事を押し付けるように、狂骨が言う。

ユリカは少しばかり辟易としながらもパソコン前に座り、電源を入れる。

すると操作するまでもなく勝手に画面が動き、プログラムが流れると件の夢魔が画面に現れた。

『あらあらあら~さっきの猫耳ハーレムちゃんとは別の子が来たのね。』

「なにこいつ、痴女?」

『まぁエッチなお姉さんなのは否定しないわ。』

「…キモ。」

露骨に嫌悪感を丸出しにしてユリカが吐き捨てる。

流石にその言葉には傷ついたのか、少しばかり笑顔を歪ませた。

『ま、まぁ良いわ、貴女が次のプレイヤー?』

「は?んな訳ないし…とっととアンインストールすっから。」

『あらあら、そんなことできると思ってるの~私はこのパソコンともはや一体なの、そんなことさせないわ。』

「ウッザ!………チッ、ほんとに削除できないし!」

ユリカはカチカチと何度も削除の動作を繰り返すが一切パソコンはそれを受け付けない。

『ちなみにパソコンを物理的に壊しても良いのよ~その時は憑依を解くだけだし、もうあの猫耳ちゃんの欲望は美味しくいただいたから最悪それでも。』

「ウッザ!!!てか仕事のデータあっから壊せないし。」

『さぁさぁ、貴女もこちらの世界に来なさい!』

「そうにゃユリカ!人のこと笑いやがってよおおお!!お前もやれええええ!!!」

「や、やめろこのエロ猫!離せ!!!」

化け猫は酒臭い息をまき散らしながら力ずくでマウスを操作させ、夢魔ちゃんクエストを起動させようとする。

「分かった!やるから!」

化け猫の圧に屈し、ユリカがゲームを起動させた。

「まっ、私がそんな変なこと考える訳ないし、お前と花鈴じゃないんだから、エロ女共。」

化け猫に向かって嘲笑を向けるユリカであったが、化け猫はにたにたとした笑みを返す。

「そう言ってられるのも今の内だにゃ…そのムッツリ剥いでやる…。」

「おい化け猫…なんかあの夢魔みたいなこと言ってるぞ…まぁ私もムカつくしあいつがムッツリ女であってほしいけど。」

エロ女共、と言われてしまった二人がそろって言う。

そうしてユリカはプレイを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『げっへへへ、良くみたら上玉じゃないですかこの女。』

『おいおい売り物だぜ、手出しするんじゃねえぞ。』

勇者ユリカは盗賊集団に騙されて捕まってしまい、拘束された状態で牢に入れられていた。

武器は全て取り上げられてしまい、打つ手がない。

こんなことで冒険は終わってしまうのか、しかも魔物ではない人間の手で。

勇者ユリカはその事実に絶望する。

人間は人間の手で自ら滅びに歩み寄ってしまったのだ。

しかし突如、牢屋の外が騒がしくなる。

『お前!何を…グワーッ!!!』

『てめえ俺たちを裏切るのか!!』

盗賊たちが叫ぶ声が聞こえる。

そして剣戟の音がいくつか響くと、傷だらけの少女が目の前に現れた。

それは盗賊の仲間であったはずの女盗賊であった。

『迎えに来てやったぜ、勇者サマ。』

何故…と目線で疑問を投げかけると、女盗賊は牢のカギを開けて拘束された勇者ユリカに近づき、ぐっと顔を寄せる。

『勘違いすんなよ、私は別に人間と魔王とかどうでもいいし、正義の味方じゃない、ただ──』

勇者ユリカは高速されたまま、身動きが取れない。

その状態で女盗賊はソッと勇者ユリカの身体に手を伸ばし、愛でるように撫でながら耳元に唇を近寄せる。

『好みの女は盗んででも私のモノにする…それだけだ。』

そして女盗賊は勇者ユリカの衣服に手をかけ──

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああ!!!!!!」

夢から覚めたユリカの叫びが事務所にこだまする。

同時に化け猫と花鈴の爆笑が響き、他の三人はいたたまれなさそうに目線を逸らしていた。

「にゃっはははははは!!!結構エロいシチュじゃにゃいのユリカちゃああああん!!」

「あはははは!もっと見たかったけど武士の情けで電源切ってあげたことに感謝するのね!!」

「うるさいエロ女共!!!もうやだぁぁ…。」

ゲームのプレイ内容としては、イベントの選択肢をしくじったことで、勇者が盗賊に捕まってしまった。

その時に盗賊の仲間であったはずの女盗賊が仲間を裏切って勇者を助けに来る。

そんな内容が流れた途端にユリカは意識を失い、画面の中にユリカが映し出されたのだ。

「よくそれで私のことエロ猫なんて言えたわね!」

「あーむずがゆい!!なんか乙女感バリバリで!!!」

先ほど散々な言われようだった二人は全力でユリカをからかった。

「黙れ!!!こうなったら花鈴!!!お前もやれ!!!」

ユリカが叫ぶ。

叫びながら化け猫の胸元から一升瓶をひったくり、そのまま一気に喉に流し込んだ。

化け猫はその様子を自分と重ね合わせながら、花鈴の肩に手を乗せた。

「そうにゃ…花鈴、こうなったらあんたも一蓮托生よ、エロ女!」

「いいわよエロ猫…まぁ私がサクッとクリアしてやろうじゃないの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者花鈴が、魔王の配下であり幾度も勇者パーティの前に立ちはだかった黒騎士を打ち倒す。

黒騎士の兜が弾き飛ばされ、現れた顔──それは勇者花鈴と瓜二つであった。

『もしかして…あんた…。』

『そう…私は生き別れの貴女の姉よ…花鈴。』

『どうして…私の前からいなくなったの…すーちゃん!?』

『力こそ全て──魔王のその思想の方が、私にとって居心地が良かった…それだけだ。』

『ふぅん…そっか…でも負けちゃったよね…すーちゃん。』

『ああ…殺せ…それが敗者の運命だ…。』

『違うよ、すーちゃん…。』

勇者花鈴が雷の魔法を放つ。

その雷は黒騎士の鎧のみを破壊し、黒騎士はインナー姿になった。

『敗者はね…殺すだけじゃなくて、好きにしていいんだよ勝者が…。』

勇者花鈴は勇者とは到底呼べぬ悪人じみた笑いを顔に浮かべ、横たわる黒騎士──いや、姉に向かって歩み寄る。

『いなくなった時間の分たーーっぷりと私の愛を──』

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでこんなシチュがあるんだよおおおおおお!!!!」

化け猫が電源を落とそうとしたところでゲームのウィンドウが自動で消え、それによって目覚めた花鈴が絶叫した。

その言葉に応えるように画面に夢魔が現れる。

『いや、敵が肉親でしたって燃える展開だし…それが妄想が行き過ぎてこうなるなんて…これは危ないって思わずゲーム消しちゃった。』

「殺す!」

「待て…花鈴…やめろ!」

思わず姫斬りを抜こうとする花鈴を必死に鈴音が止める。

今回ばかりは化け猫とユリカもからかうことはできず、気まずそうに視線を泳がせる。

「いやー…お姉ちゃん子だとは思ってたけど、にゃはは……。」

「ガチ…か…。」

「えーえーそうですよ!いいもん!すーちゃんもわたしのこと好きだもん!ねー!!?」

「はぁ…もちろん私も好きだよ…花鈴。」

「えへへへへへ!すーちゃん好きぃ!!」

ショックのせいか幼児退行したように幼げな口調になる花鈴を鈴音は宥める。

しばらく花鈴にかかりきりになりそうな鈴音を見て狂骨はため息を吐いた。

「次は鈴音ちゃんに任せようと思ってたけど…私がやるしかないか…。」

「大丈夫なのリーダー、不安なんだけど…。」

「正直不安しかないけど、私がやるしかないじゃない?」

「あの…僕は…。」

「「機械音痴は下がってて。」」

蟷螂坂が二人同時に叩きつけられた戦力外通告にいじけた様に部屋の隅に座り込む。

そんな蟷螂坂を捨て置き、狂骨はパソコンの前に座った。

「さーて、勇者狂骨の冒険を始めようか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

はじまりの村、その酒場。

旅立ちのために仲間を集まるべく行ってみてはと言われたその場所で、勇者狂骨は酒を飲んでいた。

『もう…今日は旅立ちの日じゃない、飲んでていいの?』

酒場のママが見かねて言うが、勇者狂骨は酒を飲むことをやめない。

酒場には二人以外誰もいなかった。

徐々に進む魔王の侵略によってどんどんと過疎化が進み、その余波はこの村にまで及んでいた。

『だってさ、ここで飲めるの最後かもしれないし…後悔の無いように飲んでるのさ。』

『…そんなこと言うんだったらもうお酒出さないわよ。』

『も~勘弁してよ、帰ってくるから!もう一杯!』

『仕方ないわね…。』

小さな酒樽のようなジョッキに並々と琥珀色のビールが注がれる。

それを一息で飲み干して、勇者狂骨はジッとママの左手、その薬指を見つめた。

『…どうしたの?』

『まだ指輪、付けたままなんだ…。』

『そうよ…それが…どうかした?』

『忘れられないの…旦那さんのこと?』

『…そうね。』

『ママさんを置いて…この村を捨てたあの男を?』

『やめて!』

ママが叫ぶ。

勇者狂骨は動じない。

『私がこの酒場を捨てたくないってワガママを言っただけ…あの人は悪くないわ。』

『それでも、ママさんを捨てたんだよ、あの男は…。』

『やめて…どうしたの貴方…一体…。』

『飲む以外にも、私には一つ心残りがあってさ。』

勇者狂骨は席から立ち上がるとカウンターをひょいと飛び越え、ママに迫る。

『…いけないわ…そんな…何歳離れてると思ってるの。』

『ずっと昔から好きだったんだ…ママさんのこと。』

『…戻ってきてくれる…わよね。』

『当たり前だよ…。』

そうして勇者狂骨はママの衣服に手をかけ──

 

 

 

 

 

 

 

「まず冒険を始めろおおおおおおおおお!!!!!」

化け猫が怒声と共にパソコンの電源を落とし、狂骨の頭を思いっきりぶっ叩いた。

狂骨は目を覚ますと目をパチクリさせ、がっかりしたように肩を落とす。

「いいとこだったのに!なんてことするんだよ!!」

他のプレイしたメンバーとは対照的に一切恥ずかしがることなく狂骨は言ってのけた。

「いやクリアする気あったのリーダー!?」

「マジで…引くわ…酔い覚めるわ…。」

化け猫とユリカはあまりに早い、冒険すら始まらない狂骨のゲームオーバーにドン引きしていた。

「あったよ!ただ言われた通り酒場に行ったら勝手にあんな…。」

「普通はあの酒場には仲間がいるのに消えてんのよ!リーダーの妄想が行き過ぎてて!」

「いや…行きつけのバーのこと思い出しちゃって…そこのママさんと旦那さんは別れてないんだけど、最近倦怠期気味らしくて──」

「生々しいんだよ!」

バシーンと狂骨の頭を化け猫が引っぱたいた。

二人が漫才を繰り広げている隙に、パソコンの前に座る影が一つ。

「僕の…出番!」

「「蟷螂坂!?」」

機械音痴の蟷螂坂がパソコンの電源を付けようとポチポチといろんなスイッチを押しまくる。

そして偶然押した電源スイッチによってパソコンは起動、そこからは夢魔の手によって自動で画面が開かれた。

その様子を化け猫と狂骨が不安な目で見つめているが、何故か蟷螂坂は自信満々な様子でキーボードに手をかけた。

「僕が…世界を救う…。」

 

 

 

 

 

 

「すーっ…すーっ…。」

「いや普通に寝るんじゃないわよ蟷螂坂!!!」

「……ッ!?」

化け猫が思い切り蟷螂坂を引っぱたく。

蟷螂坂は普通に眠っていた。

昨晩真夜中にたたき起こされたせいで残っていた眠気が、あまりにも操作が遅いことによって徐々に増していき、普通に爆睡していた。

化け猫のおかげで目を覚ましたが、その目はまだ半分閉じていた。

「…続…き。」

「もういいから…蟷螂坂…やめよう。」

狂骨の憐みを込めた優しい言葉に、蟷螂坂はスッと目を閉じる。

そのまま夢の中へと誘われていった。

その後見た蟷螂坂の夢。

誰にも覗かれることのなかったその夢の内容、それは八咫総合事務所のメンバー全員が蟷螂坂の料理に舌鼓を打つ、そんな夢だった。

蟷螂坂にとってはそれが何よりの幸せだった。

 

 

 

 

 

 

『あらららら、まさかこんなことになっちゃうなんてね~おかげでお腹いっぱいよ私。』

夢魔が満足そうに画面の中で笑みを浮かべる。

化け猫、ユリカ、花鈴、狂骨の欲望という名の精力をいただき、ご満悦であった。

しかしただエサにされた四人──いや、狂骨を除く三人はその言葉に苛立ちを浮かべる。

「こいつ…どうにかして痛い目に遭わないかしら…。」

「同感、マジでウぜぇ…。」

「じゃあ最後の希望…すーちゃん!頼んだ!」

「残ったのは私だけか…うーん…ゲームは分からないんだが…。」

「大丈夫だよすーちゃん!とりあえずやってみてよ!私の仇討のために!」

「仕方ない…やってみる。」

『うふふふふ、貴女はどんなシチュが好みなのか楽しみね~。』

夢魔は余裕そうな表情で鈴音のプレイ開始を見守っていた。

鈴音は一応キーボードのタイプにはそこそこ慣れているだけあり、ゲームには不慣れながらも化け猫と花鈴にアドバイスを受けながらスムーズに操作を進める。

そうして仲間を集めるべく最初の酒場にやってきた。

狂骨の想像の酒場とは違い、戦士や僧侶、武闘家など、様々な仲間たちがそこにいた。

「これに…話しかけるのか?」

「そうだよすーちゃん、結構仲間って重要だから、よく考えてね。」

「そうそう、変なパーティ組んじゃうと苦労しちゃうのよね。」

「よく考える…か。」

鈴音はそうして画面を凝視する。

途端、鈴音がうとうとと、まどろみ始めた。

「え!?すーちゃんここで!?」

「うっそ!にゃんでなの!?」

急な事態にうろたえる二人であったが、それは二人だけではなかった。

『な、なによ…これ…この想像力…そして欲望は…!!!?』

夢魔も何か予想外の事態が起こったのか、画面の中に現れると困惑した声を上げ、苦しそうに頭を押さえている。

そして夢魔を押しのけるように鈴音の映ったウィンドウが画面に表示された。

そこには勇者ではない、現実にいる鹿角鈴音本人としか思えない姿で鈴音が映っていた。

「え…なに…これ?」

ユリカも今までと全く違うパターンの出来事に困惑する。

そんな皆をよそに画面の中で物語は進行を始めた。

勇者鈴音…いや、鹿角鈴音は画面の中で戦士、僧侶、武闘家と向かい合っていた。

それぞれ屈強な身体つきをしており、油断ない表情で鈴音に目をやる。

『仲間になるといっても、自分より弱い奴の仲間にはならねえ…。』

三人を代表するように戦士が言った。

その言葉を待っていたとでもいう様に鈴音が腰の刀に手をかける。

『つまり…勝てば良いということだろう。』

その顔には笑みが浮かんでいた。

現実の眠っている鈴音の顔にも、同じく笑みが浮かんでいる。

「え、これ…にゃに…?」

画面の中では鈴音と戦士が剣を抜き、一切の躊躇がない戦いが始まった。

今まであった性的な展開など一切感じられない、闘争一色に染まった展開。

「これは…まさか…!?」

「何か分かったの花鈴!?」

「すーちゃんは私がいないとき、良く独りで型稽古をしてたの…いないはずの相手をイメージして。」

「つまり…イメージ力…型稽古で鍛えられた想像力が強すぎるせいで、あの夢魔の力が勝手に引き寄せられた?」

「仮説だけどね、それになにより…すーちゃんは戦うことが大好きだから。」

『そ、そんな…ありえな…い…わ…私の力は…エッチな欲望にしか…。』

花鈴の仮説を聞いた夢魔が画面にかろうじて小さなウィンドウを表示させ、苦しそうに表情を歪めながら言う。

今の夢魔は自分が喰らうことのできない欲望を解消させるために力を利用されている状態だ。

それまでは力を使ってもそれ以上の精の収穫があったが今は違う。

『ち、力が…無理やり引っ張られ…しかも夢が…その子と繋がってるせいで…離れられな──きゃあああああああああああ!!!!』

夢魔は悲鳴を上げた。

その悲鳴もプツンと画面のウィンドウが消え、途切れてしまう。

画面の中ではひたすら、ひたすらに鈴音が戦い続けていた。

戦士たちを力づくで仲間に従え、盗賊を壊滅させ、幾度も魔物との激戦を繰り広げ、黒騎士を退け、魔王を倒し、世界を救った。

それは戦いの物語でしかなかった。

本来ならゲームにあった日常を描くような部分は全てカット。

花鈴がプレイしたときの様な黒騎士の正体の様なシーンもすべてカット。

戦いのみをダイジェストで映したような、怒涛の戦闘シーンの連続。

魔王を倒した瞬間、画面が暗転する。

そして流れたのはエンドクレジットであった。

「ん…んん…あれ、私…夢に入っていたのか…?」

同時に鈴音が目を覚ます。

その顔はつやつやと輝いており、珍しく微笑みを──満足げな表情を浮かべていた。

晴れ晴れとした、まるで熟睡したうえで陽の光を浴び、早起きした時のような顔。

「楽しかった…。」

満足気に鈴音が言う。

そして対照的な、やつれたか細い声が、パソコンのスピーカーから微かに流れる。

『やっと…解放…され…た。』

その言葉と同時にクレジットに浮かぶ”THANK YOU FOR PLAYING”の文字。

そして夢魔は憑依していたパソコンから完全に消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃはは…痛い目に遭えばいいとおもったけど…。」

 

「まぁ、自業自得だし。」

 

「やっぱ凄いや…すーちゃんは…。」

 

 

 

 

 

 

 

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