帝京歴784年 7月末。
高校が夏休みに入り、時間に余裕ができたある日、鈴音は久方ぶりに鹿角家を訪れていた。
鈴音は自分の中で鹿角家がもはや帰る場所ではなく、訪れる場所という認識になっていることに少しばかり違和感を感じる。
たった数ヶ月ではあるが、八咫総合事務所はすっかり鈴音にとっての帰る場所となっていた。
そんな中、鹿角家を訪れた理由は一つ。
何か姫斬りに関する古い文書や記録がないか探すためだ。
花鈴はそういった過去には興味がないらしく、同行はしていない。
鈴音は一人で姫斬りが納められていた和室から順に家の中を捜索するが、特に何も見つけることはできなかった。
念のために和室の天井裏や軒下に何かないかと思い覗き込んだものの何もない。
妖力や霊力を感知できるようになった今なら何か収穫があるかとも考えたが、成果はなかった。
「むぅ…。」
八咫烏にも鹿角家に関する記述はほとんどない。
まるで故意に消されたかのように記録が抹消されていることに鈴音は何かきな臭さを感じながらも、現状どうすることもできなかった。
しかし何もなかった、と分かったことも一つの成果と言えば成果だ。
そう思いなおし鈴音は鹿角家から出ることを決める。
そして玄関を開けて外に出た。
その時だった。
「あんた、鹿角の子かい?」
不意に年老いた女性の声が鈴音に向かって投げかけられる。
玄関前、インターホンの前に一人の老婆がいた。
老婆はジーンズに黒地に派手な金色の花柄がはいったシャツという、年齢と不相応な若々しい恰好をしていた。
髪は白髪交じりの黒髪を後ろで一つにまとめていた。
首元や指に派手なシルバーのアクセサリーを身に着けており、老婆が動くたびに太陽の光が反射してきらきらと煌いた。
片手には風呂敷でくるまれた荷物を持っている。
どうやらチャイムを鳴らそうとしていたところ、たまたま鈴音が出てきたらしい。
「鹿角の子…はい…一応、鹿角です。」
少しばかり言葉を濁らせながら鈴音が言う。
その言葉に老婆は小さく首をかしげながらも、ちょうどよかったと頷いた。
「じゃ、
「父…ですか…。」
「そうだよ、ツツジのババアが来たと言えば分かるから、ちょいと呼んできておくれ。」
「…父は、もういません。」
「いません…?」
「死にました。」
鈴音は短く事実を述べる。
父の死亡を知らないということは旧い知り合いであろうか。
老婆──ツツジのババアは鈴音の言葉に目を丸くすると、哀し気に目を伏せ、頭を掻いた。
「そうかい…まさか親より先に死ぬとはねえ…。」
「親…まさか…貴女は…?」
「あー、私はあんたの祖母ちゃんじゃないよ、あんたの祖母ちゃんは…ここさ。」
ツツジは手に持っていた風呂敷でくるまれている荷物を手に掲げながら言う。
「私は祖母ちゃんの…友達だよ、今日は骨を還しに来た。」
鈴音はツツジを家に招き入れた。
とりあえず居間に通し、茶を淹れる。
客人に茶を淹れることには慣れていた。
そういった雑用も鈴音のこの家での仕事であったからだ
「粗茶ですが。」
「子供がそんなかしこぶんじゃないよ、ったく。」
決まり文句を言う鈴音に対し、ツツジは笑いながら茶を口に運ぶ。
動作の一つ一つが若々しかった。
見た目はそれほど老いているようには見えないが、祖母の友人ということならおそらく70歳近いくらいの年齢であろう。
服装の若々しさもあるとはいえとてもそうは見えなかった。
背筋もしっかりと伸びており、歩き方一つとっても若い。
袖から伸びる腕も老婆とは思えないくらいしっかりとした、張りのある筋肉がついていた。
ツツジがしげしげと自分を眺める鈴音の目線に気づく。
「あんた、名前は?」
「私は…鈴音です、ツツジさん。」
「鈴音か、あの
ツツジはしみじみとした様子で言うと、茶が入った湯呑に視線を落として何かを飲み込むように茶を口に運ぶ。
「…ツツジさんは、祖母の友人と聞きましたが…。」
「おう、ちょっと事情があってあんたの祖母ちゃんが祖父さんと別れた後、一緒にいたんだよ。」
「それで…訃報を伝えに?」
「時間はかかっちまったけどね、こっちとは連絡を絶ってたから大変だったけど記憶を頼りに戻ってこれた。」
そこでお前さんがいた、とツツジが鈴音を指差す。
「ま、あんたを見りゃ一目で分かったよ、こりゃ鹿角の子だってな。」
「…何故?」
「鹿角流、やってんだろ、見れば分かるよ。」
「やはり、分かりますか…。」
「そりゃあね。」
ツツジはくすりと笑いながら茶を飲み干すと、煙草を胸ポケットから取り出した。
ベージュの下地に濃紺の文字で名前が刻まれたクラシックな雰囲気の紙巻きたばこだ。
「…灰皿は?」
「…ないです。」
「そうかい、爺は吸ってたんだけどね…。」
ツツジは残念そうに言いながら煙草を仕舞った。
「…その言い方だと、やっぱり爺ももういないのかい?」
「祖父も自分が生まれたころにはもう失踪していました。」
「そっちは覚悟してたけどね、みんな先に逝っちまったかな。」
「…覚悟してた?」
ツツジの言葉に鈴音が疑問を抱く。
「ま、事情があんのさ、いろいろとね。」
「事情ですか…。」
また事情か、と鈴音は眉をひそめた。
それに気づいたのかツツジが少しばかり困ったように苦笑いを浮かべる。
「すまんが、今の鹿角家には関係ない話さね…。」
「今の鹿角家には、ですか。」
「そうだよ。」
「つまり、妖怪絡み、ですか。」
鈴音がそう言葉を発した。
その言葉にツツジの表情が変わる。
緩い老婆の顔からピリッとした鋭い目つきの顔──歴戦の猛者を思わせる表情に変化する。
「何言ってんだい、あんた…。」
「もう巻き込まれてますよ、私も。」
鈴音はツツジの目を真っすぐに見据えながら言った。
「父も、母も、それで死にました。」
「なんてこった…。」
ツツジは拳を強く握り、顔をしかめる。
そして先ほど仕舞った煙草を再度取り出すと、今度はためらいなく火をつけた。
「悪いが無理にでも吸わせてもらうよ。」
「構いませんよ、事情、話してもらえるなら。」
「いいよ、妖怪のことわかってるなら、話してもいい。」
ツツジはゆっくりと煙草を一本、心の中を整理するように吸うと、茶を飲み干した湯呑の中に煙草をねじ込んだ。
そして大きく一つため息をつくと、腕を組み、ようやく口を開く。
「この鹿角家は、一時期──あんたの祖父さんの世代まである組織と密接に関わってた。」
「ある組織…八咫烏、ですか?」
「そう…じゃないがね、まぁその前身になったような組織さ。」
言われてみればそうかと鈴音は頷く。
八咫烏が結成されたのはそう旧い話ではない、現天皇である安倍晴明が結成したことが始まりだ。
たしか現天皇はまだ30歳を越えたかどうかだったはずである。
「退魔士には退魔士なりのつながりがあってね、それを束ねる集まりみたいなのがあったんだよ。」
そうツツジが解説する。
「ただ、鹿角家は一時期から妖怪退治は行っていないんだよ、ほとんどね。」
「…鹿角家は妖殺しと呼ばれていたと、ある妖怪の口から聞きましたが。」
「そんなもん遠い昔の話さ、ま、ご先祖はそりゃもう暴れまわってたらしいがね、しかしそのツケが来たらしい。」
「ツケ?」
「相手を考えずにあれこれ喧嘩売りまくったらしいのさ、妖怪とあれば容赦なく、敵味方関係なくね。」
ツツジが説明しながら呆れた様に肩をすくめる。
「結果、干されちまったのさ。」
「組織の中で妖怪退治を行わせてもらえなくなったと…。」
「そう、といってもこれは私も聞いた話でね、私が鹿角家を知った時点でもうそうなってたよ。」
「…そして、代わりに行っていたというのはまさか。」
「人殺し、だよ。」
「やっぱりそうですか。」
鈴音は何か納得したようにうなずく。
その言葉にツツジが首をかしげる。
「なんだい、何か心当たりがあるような言い方して。」
「鹿角流の技術体系ですよ。」
鈴音がそう答える。
「鹿角流、その技術はほとんどが人を斬るための型になっています、普通に考えれば当たり前ですが、今となってはそうは思いません。」
「なるほどねえ…それで勘付いたか。」
鹿角流には対妖怪に練られたような不自然な型や技術は鈴音が知る限りではなかった。
ほとんどが対剣術による技術で占められている。
今まで鈴音が妖怪相手に使ってきた技術はあくまで人を斬るための技術の応用だ。
「つまり鹿角家は組織の汚れ仕事を担う暗部となることで、退魔士の世界に関わることを許されていた?」
「そうみたいだね。」
「…なぜあなたはそれを?」
「私も退魔士だったからだよ、元、だけどね。」
ツツジは2本目の煙草に火を付けながら答えた。
「組織の中でも鹿角家はタブーな存在だった、八咫烏にもほとんど記録は残っていないんじゃないかね?」
「その通りですよ…それを何故貴女が知って…?」
「ここの爺とは長い付き合いだったからね、所謂幼馴染ってやつだったのさ。」
懐かしむようにツツジが言う。
「だから事情は知ってた、外には洩らさなかったがね。」
「…それが祖父の失踪、それに貴女が祖母と一緒にいたということに繋がるんですか?」
「ああ、鹿角家はそのせいで恨みを買いすぎた、人からも、妖怪からも。」
ツツジは一度大きくたばこの煙を吐き、続けた。
「特に妖怪は長生きだ、人の家がいくつも世代を超えるような時間も奴らにとっちゃ些細な時間に過ぎない。」
「…長い時を経た怨恨、ですか。」
鈴音にとっては聞捨てならない話である。
結果として鈴音もそれによって家族を失う羽目になった。
鹿角家だけに対する恨みではなかったが。
「だから爺はそれを断ち切るために、退魔士の世界から離れることを決意したのさ。」
「…縁を切ったと?」
「ああ、そのためにあんたの祖母さんと別れて、いざというときのために信頼できる私をそばに置いて遠い地に離れさせた。」
「…そばにいれば、巻き込まれるから。」
「いつ鹿角家への恨みが身内に牙をむくか分からないからね。」
「…しかし、無茶な話です。」
鈴音はそう考えた。
いくらなんでも無理な話だ。
退魔士の世界から離れたところで恨みは変わらない。
たしかに事情を知らないなら捨て置くような妖怪も存在するかもしれないが、そんな楽観的な考えはできないだろう。
「そうさね、私も正直そう思った。」
「だったら…。」
「一人、爺の協力者が現れた。」
そこでツツジは一拍間を置くと2本目の煙草を湯呑にねじ込み、小さく息をつく。
「当時は12代天皇候補だった、現天皇、安倍晴明だよ。」
「…。」
「今は八咫烏なんて組織しちゃいるが、そんなもん作るにはそれなりの裏の仕事が必要だったろうね。」
「祖父が裏の仕事を担うことを代償に、組織的に鹿角家を保護させようとした…?」
「ああ、八咫烏という組織自体は立派なもんだよ、もうその世界を離れた私にも伝わるくらい活躍は聞いてる。」
だが、とツツジは顔をしかめた。
「結果として爺が守ろうとした息子は死に、孫のあんたは退魔士の世界に巻き込まれ、本人は失踪か、きな臭いね。」
「…祖父が失踪したのは私が生まれる前です、まだ天皇は年齢を高く見積もっても10代前半だったと思いますが、それほどまでに影響力が?」
「あったよ、どんな事情があったのか妹君の天照様が12代目に選ばれたが、あのガキは間違いなく12代目だと言われてたんだ。」
何か苛立ったようにツツジは言った。
そこで一息つくと、3本目のたばこに火を付けながら鈴音に視線を向ける。
「それで、あんたは何があったんだい?」
「私、ですか?」
「どうしてこっちの…妖怪絡みの世界に関わった?」
「…分かりました、話します。」
鈴音はツツジにすべてを話した。
突如現れた鬼のこと、妹が姫斬りという刀に選ばれたこと、その後八咫烏に保護されていること。
全てを話し終えたころにはツツジが5本目の煙草を湯呑にねじこんでいた。
「そんなことがあったのかい…。」
「今日も姫斬りに関する情報がないか家探しをしてたんです。」
「そこに私が来たって訳かい、なるほどねえ。」
ツツジは思案するように天井を見上げ、記憶を探ったのちに鈴音に向き直る。
「だったら私から一つ、話せることがある。」
「本当ですか…!?」
「姫斬りに関しては私も知らないがね、ずっと封印されてたんだ、ただ、もう一本の刀に関してなら話は別だ。」
「もう一本…?」
「ああ、鹿角家にはもう一本の刀が伝わっていたんだよ、爺が使っていたんだがね。」
「まさか…。」
突然の言葉に鈴音が驚きの声をあげ、記憶を探った。
少なくとも自分はそのような話は聞いたことがない。
しかし、刀というなら一つ、心当たりがあった。
あの日、花鈴が姫斬りに見初められる直前、脳裏に浮かび上がった謎の映像。
女武者と鹿角と呼ばれた男武者の戦いに、姫斬りが生まれた経緯。
その末に女武者が最後まで手放さずにいた一振りの太刀。
「それは、大振りな太刀ではないですか…古い造りの。」
「む、どうしてそれが分かるんだい?」
「…姫斬りが教えてくれたんですよ、その刀の存在を。」
「信じられん話だね…だが、そうなるとなおさら爺の行方を調べないといけないねぇ。」
「その刀は確実に姫斬りと関わっています、捨て置けません。」
「…分かった、私も協力しよう、何か分かれば連絡する。」
そうしてツツジと鈴音は連絡先を交換した。
「しばらくはこの秋奈町にとどまるから、何かあれば連絡しな。」
「ありがとうございます、そちらこそ、何かあればすぐに。」
「ははっ、若造に心配されるほど腕はなまっちゃいないよ。」
「…やはり、なにか剣術を?」
「新陰流だよ、爺とはよく喧嘩したもんさ。」
「なら…是非いつか手合わせを…。」
「ほぅ、それは私も望むところだ!」
鈴音の言葉にツツジは豪快に笑いながら答えた。
どうやらツツジも相当な好き者らしいことを鈴音は理解し、胸が高鳴る。
それからはひたすら、陽が落ちるまで剣術に関することを話し込んだ。
時折椅子から立ち上がり、角度がどうとか、体捌きがどうだとか、構えはこうだとか。
話題は尽きないまま、延々と話し続けた。
「名残惜しいが、そろそろお暇するよ。」
窓の外の赤く染まった景色を見てツツジが言った。
その言葉に少しばかり残念そうに鈴音がうつむく。
ツツジはそんな鈴音に対して、まるで孫に向けるようにやさし気な眼差しを向けるとそっと頭を撫でた。
「そんな顔すんじゃないよ、別に何かなくてもいい、暇になったら連絡しな。」
「…すみません。」
「ばーか謝んじゃないよ!」
にかッとツツジは笑うと、ぺしっと優しく鈴音の頭を叩いた。
その暖かみある言葉に、鈴音が微かに笑みを浮かべた。
思わず自分の顔に浮かんだ笑みに、鈴音自身が驚く。
戦いの中以外で笑みを浮かべたのは久々であった。
「花鈴…ちょっと外に出れるか?」
「いいよ!えへへ、すーちゃんからお出かけ誘ってくれるなんて初めてかも!」
鹿角家から八咫総合事務所に帰宅した鈴音はそう花鈴に声をかける。
珍しい鈴音からの誘いの言葉に花鈴はすぐさま肯定の言葉を返すと、意気揚々と身支度を済ませた。
二人で事務所を出て、夜道を歩きだす。
大きな通りをはずれ、人通りの少ない日の落ちた住宅街を特に目的無く歩く。
そうして少しばかり八咫総合事務所から離れたところで、花鈴が口を開いた。
「で、いきなりどうしたのすーちゃん?」
「いや、ちょっと二人きりで話したいことがあってな…。」
「二人きりで…そんなすーちゃん…今更告白なんて恥ずかしいよぉ…。」
「…ごめん、そういう話じゃない。」
一人頬を赤らめる花鈴に対し気まずそうに鈴音が謝ると、花鈴は表情一転、すぐさま悪戯っぽい笑みを浮かべて鈴音の腕に組みついた。
「分かってるよ、ジョーダンジョーダン!」
「ったく…ちょっと今日、ある人に会ってな…。」
鈴音はそう言って、ツツジという老婆にあったこと、そして新たに知った鹿角家の秘密に関してのことを伝えた。
花鈴は静かに話を聞いていたが、そこまで興味なさげに相槌を打つばかりで、特に大きな反応をすることもなかった。
「…驚かないんだな、花鈴。」
「ま、そんな感じかなって予想はしてたし、驚かないよ。」
「そうか、やっぱりすごいな花鈴は。」
「そうでしょ~、えへへ、もっと褒めて!」
鈴音は甘えてくる花鈴の頭を撫でる。
花鈴はさらに甘えるように鈴音に身を寄せ、肩に頭を載せるようにしながらそっと口を開いた。
「…大丈夫だよ、すーちゃん。」
「花鈴?」
「何があってもすーちゃんは私が守るから、絶対に死なせない。」
「…ありがとう。」
「ずっと、ずっとすーちゃんだけが私を守ってくれてたんだもん、当たり前だよ。」
「…。」
「あのクソみたいな鹿角家の生活に、クソみたいな学校生活…大嫌いだったけどすーちゃんは少しでも私が自由になれるようにしてくれてたもん。」
「逆だよ、私はそれしかできなかった…。」
「それだけで私は良かったよ、それだけもしてくれる人なんていなかったし。」
「…。」
「それにあの夜だってそう。」
あの夜、とは鬼が鹿角家を襲撃し、鈴音が危うく命を落とす寸前だった日のことであろう。
鈴音は花鈴をかばったせいで鬼に肉体を貫かれ、死に瀕した。
死ななかったのは花鈴の己の血を分け与えたキスによって、鈴音の肉体が人ではなくなったからだ。
そのことに鈴音自身は一切の後悔はない。
だが花鈴にとっては違う。
「今度は、私が守る番。」
改めて決意を固めるように、花鈴が言う。
そして同時に鈴音に向けて自分の唇を突き出した。
その様子に鈴音は少しばかり呆れた様に、しかし同時に優しい微笑みを浮かべた。
今日は久々に良く笑った日だな。
そんなことをふと思う。
「まったく…かっこいいこと言う割に、甘えんぼだな花鈴は。」
「それとこれとは別!」
「はいはい…。」
鈴音はあきらめた様に突き出された花鈴の唇に自身の唇を軽く重ねる。
どこに人目があるか分からない外だというのに、まさか花鈴にここまで甘くなってしまうとは鈴音自身も思わなかった。
少し前なら間違いなく断っていただろう。
自分がどんどんと変わっていくことと、その変化の心地よさに浸りながら、鈴音は少しばかり長く花鈴と口づけを交わした。
『晴明様、過去の関係者と観察対象Sが接触した模様です。』
『そう、思ったより早かったかな。』
『どういたしますか?』
『君は何もしなくていいよ、猿女留美子、あくまで君の一番の任務は坂本雪の護衛だ、片手間に報告してくれるだけでありがたいよ。』
『…了解。』
『あの刀の力は興味深い…下手に介入するよりも、そのままにしておけば自然と力が目覚める日が来るはずさ。』
『…。』
『楽しみだね、その時にあの刀と彼がどうなるか…。』