帝都の鬼姉妹。 ふぉっくすらいふ!外伝   作:百合道いおりん

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2話 二人の日常

鈴音はまだ一部の教員や守衛しか姿がないくらいの時間に学校に到着し、ちょっとした用事を済ませてから自分のクラスである2年の教室に向かう。

用事が済むころには大体始業が始まる前くらいになっていた。

ガラっと教室のドアを開けて鈴音が中に入ると、一瞬室内の空気がピンと張り詰める。

鈴音はクラスで恐がられていた。

寡黙な性格、陰鬱な雰囲気、不気味な空気。

それだけなら怖がられるというよりいじめられるかもしれないが、問題は鈴音の体格にある。

身長は160後半と女性にしては長身な部類に入り、更に日々の鍛錬によって鍛え上げられた身体は並の運動部員のそれではなかった。

ごつごつと筋肉が盛り上がっているわけではないが、体が分厚いのである。

太いというより厚い、そんな身体であった。

席に座って数分もすると担任が来て始業が始まり、そのまま授業に入る。

適当にノートを取りながらいつも通りの授業を受け、昼休みに入った。

本来ならささっと昼食を食べ図書室でくつろぐのが日常だが、今日は少し別の用事がある。

バッグの中から朝に作ったおにぎりを掴み、教室を出てある場所に向かう。

その時だった。

「あ、鈴音…」

ばったりと隣のクラスの花鈴と鉢合わせた。

花鈴は複数人の友達やら取り巻きと一緒に皆で食事に行くところらしい。

中には同級生ではなく後輩の姿も見える。

鈴音とは対照的に花鈴はみなの人気者だ。

中性的な美人であり、身体つきもモデルのようにスラっとしていてまるで宝塚の舞台俳優の様である。

花鈴に憧れを抱く存在は男女問わず多く、その人望から大多数の人間に生徒会役員に推薦されるほどである。

生徒会といっても特に学校の実権を握っているとかそういうわけではないが、花鈴なら自分たちのために何かをしてくれるだろうという信頼からであった。

そして花鈴はその信頼に答えた。

花鈴の行動によっていくつかの不自由だった校則がいくつかが改訂され、購買の商品が増えるなど生徒会の役割というものを示して見せた。

同時に学校行事では率先して生徒のまとめ役として動き、部活同士のごたごたなども花鈴の仲介によって収まったことが多く、教師陣からも非常にありがたい存在であった。

クラスで孤立している鈴音とは正反対である。

(まぁ、これくらいの距離間で良い…)

内心そう思いつつ、声をかけてきた花鈴に小さく会釈して先を進む。

そんな鈴音の姿に取り巻きの人間が怪訝な目を向けた。

”なんでこんな奴が花鈴と姉妹なのだ”

と心の声が思いっきり聞こえてくるようである。

もちろん花鈴がいる手前、清廉潔白清楚博愛な彼女の前でそんな悪口を言うようなヘマを取り巻きたちはしないが、態度から丸わかりである。

ささっとその場から離れて目的の場所へと向かう。

まず校舎を出て学校のはずれにある部室棟に向かい、その裏に回った。

そこには制服を着崩し、菓子パンやスナック菓子を広げながらげらげらと笑っている男の集団がいた。

どんな学校にでも存在する所謂不良たちである。

人目につかないこともあって昼休みのこの場所は彼らの溜まり場になっていた。

そこに入るだけで整髪料の匂いがぷんと鼻についた。

スナック菓子の油の匂いも相まって少々辟易する。

「ども…」

ぬるっと彼らに近づきそう声をかけると、彼らはびくっと身体を震わせて鈴音の方を向いた。

「うわっ、お前かよ…鹿角姉…」

「あ、相変わらず幽霊みたいに来やがるなお前は…」

怯えた声色で男たちが言う。

鈴音は彼らと少し距離を置いて地べたに胡坐をかき、おにぎりのラップを外しながら彼らに顔を向けた。

「今日の朝、嫌な気配を感じたんだけど…」

ぱくりと大判のおにぎりを口にほおばりながら聞く。

行儀は悪いが彼らにはそんな気遣いはいらないだろう、むしろ変に行儀をよくするほうがこの場においては不作法というもの。

問いかけられた彼らは全員で顔を見合わせ、一斉に首を振った。

「んなことするかよ!お前に喧嘩売るなんざ二度とするか!」

一人が声を張り上げる。

てっきり朝の嫌な気配は不良どもがよからぬことを企てているのかと思ったが、この感じではそうもないらしい。

「言っとくが鹿角妹にもなんもしてねえからな…」

そう付け足される。

以前この不良たちを鈴音が叩きのめしたという理由は花鈴だ。

人気者になるということはその分嫌う者もいるということ。

特に真面目でリーダーシップをとる花鈴は不良のような存在からして疎ましいことこのうえないのだろう。

少しばかり怖い目にあってもらおうかと不良たちが画策していたのだが、それが表にでる前につぶしたのが鈴音だ。

鈴音でも相手にならない不良程度、花鈴なら片手であしらえるだろうが喧嘩となれば妙な噂が出回ったり面倒なことにはなるだろう。

そうなるなら日陰者の自分がやったほうが良い。

「まぁでも、お前があれか?変な感じしたってんならマジだろ?まぁ他の学校のダチにも聞いといてやるよ」

そういった男は鈴音に以前叩きのめされた後、復讐に不意打ちを狙ったことがあった。

結果として後ろから掴みかかった瞬間レバーに肘鉄、腕を取って関節を軽く痛めつけられ逆に背後に回られた後に優しく締め落とされかけたのだが。

その経験があってか鈴音の殺気が分かるという感覚が嘘ではないことを身をもって知っているのである。

「助かる、疑って悪かった」

「謝んなよ気色わりぃな…」

菓子パンを頬張りながら不良が複雑な表情を浮かべる。

普通自分を叩きのめした相手など表面上は従っていても反感を抱くものなのだが、意外にも不良たちにそんな気配は今はない。

むしろ表面上は嫌っているのに内心ではどこか憧れを抱いてしまっているような、真逆の雰囲気があった。

話を終えると、鈴音が来るまでの喧騒はどこへやら不良たちは気まずそうに口を閉じている。

そんな彼らを気にする様子もなく鈴音はもくもくと大判のおにぎりを頬張っていた。

食い終われば立ち去る気であったが、そんな鈴音を見て、ふと一人が開く。

「お前すげえ量食ってんな、それ全部筋肉にでもする気かよ」

「…そうか?」

新しいおにぎりのラップを開きながら、鈴音は首をかしげる。

その脇にはまだ開かれていない掌に余るサイズのおにぎりが三つほど置かれていた。

「腹八分なんだがな」

鈴音としては後一つは余裕で食べられるのだが、他の家の者が食べる分と冷や飯ぐらいの立場を鑑みて自重していた。

真顔で少し困ったように言う鈴音のその表情に、思わず一人が吹き出してしまった。

「ぶふっ、いやお前よぉ笑かすんじゃねえよ!」

「ねーわー!マジねーわ!」

つられたように他の面々も笑い出す。

鈴音としては笑いを取る気はなかったため少々困惑してしまった。

思わぬ展開に少し戸惑いながらも鈴音はおにぎりを食べ進める。

思えば誰かと食事をとるのは久しぶりであった。

存外、悪い気はしなかった。

 

 

 

 

 

 

私はある日私を奪われた。

あの日は父のいない場所でたくさん泣いた。

泣いて一人縋れるあの子に縋った。

あの子だけだった。

私にはあの子しかもういない。

あの子は泣かなかった。

何も言わなかった。

静かに私を見つめるだけ。

助けてよ。

私を助けてよ。

なんで助けてくれないの。

なんで何も言ってくれないの?

どうしてなの。

どうすればいいの?

あの日から私は止まったまま。

誰かいっそ全部壊してくれればいいのに。

そしたらきっと私とあの子の人生がまた始まる。

 

 

 

 

 

 

鹿角花鈴は放課後の廊下を歩いていた。

行き先は生徒会室、今日もまた面倒なくだらない集まりが始まる。

いい顔をして優等生ぶっているだけでいいからまぁ良いのだが、せめて仕事もせずにくっちゃべったりしないでさっさと終わらせてほしい。

「こんにちはー!」

生徒会室の扉を開け、にっこりと笑顔を浮かべながら挨拶する。

私の声にみんなが振り向いて口々に挨拶をかわす、適当に返事を返しながら私は自分の席の前に座った。

そして引き出しを開け、いつも入っているモノを確認し、笑みを浮かべる。

私は引き出しから入っていたモノ…USBメモリを取り出し、備品のPCに差し込む。

あ?コーヒーか紅茶か?後輩Aが声をかけてきたがどっちでもいいわそんなん。

周囲の会話を見る限りコーヒーが多いみたいなので合わせておく。

適当に営業スマイルを浮かべながら中のデータを確認する。

今日私が作るはずだった次回の集会の資料がほとんど完璧な形で作られていた。

本当に便利だよあいつは、なんなんだ本当に。

このデータも多分朝早くに登校して作ったんだろう。

適当に資料を私っぽく手直ししながら適当に会話に参加し適当に愛想をふるまいコーヒーを飲む。

そして手直しが終わったところで資料を会長に手渡し、内容が承認されたことを確認すると私は生徒会の皆に申し訳なさそ~に用事があるからとさよならを告げる。

あ?なんだ後輩A?いかないでお姉さまじゃねえんだよいつからてめえは私の妹になった、てめえに私の姉妹が務まる訳ねえだろカスが、それができるのはあいつくらいだ。

「ごめんね、お詫びは明日…二人きりでランチでいいかな?」

はい必殺スマイル、これで終わり、男女問わずぶっ飛ばすこのパーフェクトフェイスにかぎればこんなもんよ。

振り向いて昇降口に向かう私の背後から後輩Aが倒れる音がするが知ったこっちゃねえ。

あの馬鹿さ加減は将来悪い男か女に引っ掛かる気しかしなくてウケる。

小走りに私は学校を抜けて外に出ると時計を確認した。

毎日の稽古までまだ時間はある。

最悪あいつとの型稽古さえしときゃ親父の目を騙すくらい身体は練り上げられる。

そうして私が足を向けた先は──

「おかえりなさいませ、お嬢様。」

メイド喫茶。

嗚呼、ここぞ我が家、私の家。

メイドの衣装はクラシカルな、所謂ヴィクトリアンメイドで揃えられていた。

内装も厳かな雰囲気であり、テーブルや椅子もまさか本物のブランド品ではあるまいがそれなりにらしく見えるものが用意されており、自然と心を昂らせる。

椅子に座るとすかさず私のお付きのメイドが注文を取りに来た。

「コーヒーをまずもらおうかな、それと今日のおススメを。」

私がお決まりの注文をすると、静かに一礼し、メイドがキッチンへ注文を伝えに行く。

良い、これだよこれ、最高だ。

無駄なことは言わない、ただ静かに役割をこなす。

いやね、わかるよ、可愛いフレンチメイドさんの愛想たっぷりな接客も萌え萌えきゅんも良いさ。

でも私は断然こちらを推すね。

万人受けしないことはわかるよ?

今日も店内を見回すとそれほど客が入っているわけでもない、しかし所謂いつメン…いっつもいんなこいつらと言いたくなる常連がいる。

まぁ私もその一人なのだから何も言えない、ここの雰囲気はなにものにも代えがたいのだ。

将来は金を稼いだら絶対にメイドを雇おう…いや、あいつにメイドさせてもいいかもな…。

空気に浸っているうちにメイドがコーヒーを持ってくる。

コーヒーを音を立てずにそっとテーブルの上に置き、フレッシュの入ったポットを手に私の方を向く。

「ご主人様、ミルクは少しでよろしかったでしょうか?」

「ああ、いつも通りな。」

やや尊大に私が答えると、メイドがそっとフレッシュを入れて混ぜてくれる。

クリーム色に染まったコーヒーを私の目の前に置くと、静かに礼をしてテーブルから離れる。

あああああ、良き!

いやコーヒーを混ぜてもらうのが正式な作法としてどうなのかとかは知らん!

ただ私がやってほしくてやってもらっている!

私はなるべく上品にコーヒーカップを口に運び、そっと一口含む。

美味い。

世界一美味い。

コーヒーの味の良し悪しは知らないが、美味い。

このまま毎日のおススメケーキを食いながらとにかくここの空気に浸るのが癒しだ。

ここではメイド以外、誰も私に干渉しない。

本を読んでも、書室で書類仕事をするがごとく宿題をしても良い。

これこそが人生、愛しきマイライフ!

 

 

 

 

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