帝京歴784年8月中旬。
秋奈町の駅前。
コンビニエンスストアにマンションが立ち並び、いくつかの食事処やカフェ、娯楽施設が近くに建っている平凡な駅前。
繁華街の様に発展しているわけではないが程よい喧騒が聞こえる賑やかさに不便には思わない程度の施設の数々。
どこかのどかさが残るその風景の中、明らかにのどかではない風貌をした五人組がいた。
一人は黒一色のシャツにロングスカート姿でごついブーツを履き、シャツから覗く腕が一見しただけでも分かる程度に力強く、常に鋭い眼光を崩さない少女。
一人はTシャツにジーンズというかなりシンプルな格好ながら、それだけでもモデルの様に姿が決まっており、俳優のように華があふれる少女。
一人は黒いパンツスーツを着崩し、服装がスーツでなければ少女の様な外見ながらも携帯灰皿を片手に煙草を口に咥え、けだるそうにたたずむ女性。
一人は夏だというのに黒いスカートスーツをぴっちりと着こなし、サングラスをかけ無表情で立つ姿はどこかの諜報員ではないのかと思えてしまう女性。
一人は薄手のパーカーを羽織りサンダルにジャージ姿というラフな格好で癖のある髪を無造作に伸ばし、瞳にどこか昏さを持つ女性。
駅前を行き交う人々が周囲の光景とは明らかに不釣り合いな彼女たちをちらりと見てはすぐに目を逸らし、そそくさと早足で去っていく。
彼女たちはどことなく居心地の悪さを感じながらもその場に立つ。
彼女たちがここにいる理由は一つ、ある人物?を待っているからだ。
「…花鈴、今何時?」
「もうとっくに約束の電車は通り過ぎてる時間だよ化け猫。」
モデルの様な少女である花鈴が、煙草をくわえた女性である化け猫の質問に答える。
化け猫の持つ携帯灰皿は既にパンパンになっており、それだけで結構な時間を待たされていることが分かった。
「…私、酒飲んで寝過ごしてるに昼ごはん代賭ける。」
「いいじゃにゃいのユリカ、私は…酔ってそもそも電車を間違えたに賭ける。」
昏い瞳の少女、ユリカの言葉に化け猫がそう乗った。
「んじゃ私は駅前で飲んでたら時間を忘れてたに賭ける、すーちゃんは?」
「え…私も賭けるのか…じゃあ、お酒を買って電車賃が足りなかったとか…。」
その話題になにやら面白そうだと花鈴も乗っかり、眼光鋭い少女──鈴音にどうするかと問いかけた。
鈴音もとりあえず話にのっかり隣にいたサングラス姿の女性、蟷螂坂に視線を向ける。
「…飲みすぎて…道端で倒れてる…に。」
蟷螂坂はぼそぼそとつぶやくようにそう答えた。
それからしばらくは五人で会話をしながら目的の相手を待っていたが、それでも相手は来ない。
相手は携帯電話を故障させたせいで連絡手段がなく、帰る電車のおおまかな時間を伝えたのも公衆電話からだった。
そのせいで彼女たちは当てもなく待ちぼうけをくらっているのである。
コンビニエンスストアで軽食を買い、喫煙者である化け猫とユリカが喫煙所の前に常駐し始め、花鈴は日陰に入って携帯ゲームを持ち出し、鈴音と蟷螂坂が武術に関する会話を始める。
「ユリカ、暇だし適当に思いついた番号の煙草買わない?」
「やだよ私メンソ嫌いだし…いくら暇だからってさぁ…。」
「八相のスーパーアーマーで鎧通し当ててコンボでゲージ回収、白虎覚醒でキャンセルかけて──うわ、これバランス壊れんじゃない。」
「蟷螂坂さん…この型の動きはどう使えば…?」
「私は肘につなげるけど…たとえば後ろに回り込んで──」
思い思いに時間を過ごしているが、それでも限界はやってくる。
ユリカと化け猫は煙草が一箱なくなって。
花鈴はゲームの画面に汗が数滴垂れてしまったことにいらついて。。
鈴音と蟷螂坂は思わず会話に熱が入り始め実演に及んでしまったところで。
「…帰らにゃい?」
「帰る。」
「帰る!!」
「え…ああ…帰ろうか。」
「帰る…。」
全員相手を待つことなくあっさりと帰ってしまった。
そして皆が相手に会うのはそれからさらに数時間後、八咫探偵事務所のオフィスであった。
「ひぐ…えっぐ…みんななんで帰ったのさ!私大変だったのにぃ!」
長く空に居座る夏の太陽がようやく落ちようとする頃、八咫総合事務所の扉が開かれた。
そこにいたのは新調された黒いスーツを少し着崩し、美しい銀の長髪と綺麗に整った顔立ちを台無しにしながら目に涙を浮かべる人物だった。
「あーおかえりリーダー、えらく遅かったじゃにゃいの。」
「なんだよ化け猫その反応は!一週間ぶりの狂骨さんだよ!喜んでもいいじゃん!!」
八咫総合事務所のリーダー、狂骨は涙目で皆に訴えかけるが全員反応は薄い。
そう、皆が狂骨と顔を合わせるのは一週間ぶりであった。
八咫総合事務所の面々が海水浴に出かけた海沿いの町、狂骨はそこで起こったある事件に巻き込まれてしまった。
盛大な警察沙汰に発展し、謎の妖怪による死者まで出てしまった今回の事件の後始末に狂骨は拘束され、ようやく解放されたのが今日の朝。
そんな事情が込みでも皆が狂骨を邪険に扱う理由は明白、狂骨の帰りが大幅に遅れたことに加えまだ中身が少し残る一升瓶を手に持っていたからだ。
「だからって何時間待たせる気だったのよリーダー…。」
「あーそうだ!なんでこんなに帰るの遅れたのさ狂骨!?」
口をとがらせる狂骨に対し、花鈴がそう問う。
それは待ち合わせ時に狂骨が遅れた理由で昼食を賭けるという遊びをしていたからだ。
花鈴にそう問われると、涙目だった狂骨の顔から涙が引っ込み、そして何か気まずそうに目線を泳がせながらぼそぼそと口を開く。
「えっとその…みんなにまず電話しました…。」
「それで?」
花鈴が先をせっつく。
「…わざと電車の時間を遅く伝えてお店でお酒を飲みました。」
「結局それで電車逃したんでしょ!私の勝ち!」
「違うよ!いやたしかに逃したけどそれだけじゃな──というか勝ちって何!?私で賭けしてたの!?」
「え…それだけじゃないって…何それ…。」
花鈴が私の勝ちだと声を上げるが、狂骨はそれだけではないと否定する。
その言葉にユリカが思わず顔をしかめた。
「その…酔ってたから路線間違えちゃって…。」
「リーダーそれマジ!?私の勝ちじゃにゃいの!!」
「間違えて降りた駅で落ち着こうとお酒買ったら秋奈町までの電車賃が足りなくなって…。」
「あの…落ち着こうと思ってお酒って──あ、私も当たった。」
化け猫と鈴音が狂骨の言葉に予想が当たったことを口にする。
しかしそれでもまだ狂骨の言葉は止まらない。
「仕方ないからなるべく近くの駅まで行こうしたら今度は寝過ごしちゃって秋奈町に着いて…でも降りられなくて戻ってぇ…。」
「情けな…いや、秋奈町まで来たら電話してくれればよかったのに。」
「切符ギリギリまで買ったから財布に十円もなかったんだよユリカちゃん!!」
「てか寝過ごしたんなら私も当たりだわ。」
「ユリカちゃんまで賭けてたの!?酷い!!」
「てか賭けを始めたの私だし。」
「うわあああああん!!みんな嫌いだぁ!!!」
思わず狂骨が叫び声を上げるが、ハッと何か思い出したかのように顔を上げ、何か期待するように蟷螂坂の方を見た。
目線を向けられた蟷螂坂は無言でこくりと頷く。
その頷きに狂骨はパァっと顔を輝かせた。
「リーダー…。」
「蟷螂坂…君は賭けなんてしてな──」
「帰り道で…行き倒れたり…しなかった…!?」
「もうやだあああああ!!!やっぱりみんな嫌いだあああ!!!!」
「僕だけ…当たらなかった…か…。」
叫ぶ狂骨を見ながら蟷螂坂がしゅんと肩を落としてしょぼくれる。
だがそこで狂骨が俯きながらぼそりと呟いた。
「…まぁ帰る途中公園で寝ちゃったんだけどね。」
「おーい、聞こえてるよ狂骨。」
その呟きを聞き逃さなかった花鈴がじとりとした目を向けながら言う。
すると肩を落としていた蟷螂坂がバッと顔を上げ、拳を強く握った。
「当たった…ッ!」
「これで全員正解じゃにゃいの!」
全員賭けが当たるという思いもよらなかった展開に皆がはしゃぎ、狂骨はその言葉にもはや茫然としながら乾いた笑みを浮かべる。
「はは…ははは…皆当たるなんてすごいねー…私のことよくわかってるねえ…愛されてるなぁ私…。」
「あ、あの…狂骨さん…。」
乾ききった表情を浮かべる狂骨はついに一升瓶を両腕に抱きしめると事務所の隅に独りうずくまった。
流石に気の毒に思った鈴音が声をかけるが、狂骨はぷいっと顔をそむける。
「いいもんだ…私にはお酒があるもん…みんな嫌いだぁ…。」
「そ…その…。」
「ぷいッ…。」
分かりやすく拗ねる狂骨を見ながら鈴音はあたふたとしているが、他のメンバーは相手をしない。
それも仕方はない。
たしかに一つや二つの失敗を重ねて電車に遅れた程度なら十分に間に合うほど五人は待ったのだ。
いくらなんでも五つも失敗を重ねるともう呆れるしかない。
とはいえ狂骨は皆の態度に本気で拗ねてしまった様子であり、隅でうずくまりながらぶつぶつと愚痴を吐き始めた。
「だってぇ…一週間ずっと警察にいて…お酒も飲めなくて…八咫烏の人たちは来るし…お酒飲めなくて…。」
「あの…お酒飲めなくてが二度…。」
困惑する鈴音が思わずツッコミを入れるが、狂骨は構わない。
「私がパトカーに轢かれて気絶してる間に変な妖怪が出て暴れたってぇ…聞かれても私気絶してたもん…知らないもん!」
「へ、へぇ…そんなことがあったんですね…。」
「そんなことばっかずっと聞かれるし!他の時間も延々見張られてるし!隠れてお酒を飲もうとしても警察署にお酒なんてないし!!」
「飲もうとはしたんですね…。」
「当たり前だよぉ!!それでようやく解放されたんだよ!!そりゃ飲むじゃん!飲むよね!うわああああん!!」
狂骨は皆の目もはばからず泣きじゃくり、丸まりながら子供の様に地面を転がっていじけている。
鈴音も細かい事情は聴けてはいないが、少なくとも狂骨が人助けのために必死で頑張ったということは理解している。
その結果として謎の妖怪の出現にくわえ、一週間拘束されたというのは納得いかないだろう。
たしかに良いことをしたのに報われないというのは辛いことだが、いくらなんでもこの醜態は如何なものかと鈴音は思わず眉間に手をやる。
かといって放置も具合が悪い。
「じゃあ…その…狂骨さんは…どうしたいんですか…?」
「…遊びたい。」
「え?」
「皆だけ海で遊んで…私だけ遊んでないもん。」
狂骨はふてくされながらも鈴音の言葉にそう答えた。
実際狂骨は海で一切遊んでいない。
初日はバイトに明け暮れ、二日目は砂浜が封鎖されたうえに巻き込まれた事件解決のため奔走していた。
ここまで拗ねているのもどうやら自分だけ仲間外れにされて遊べなかったことが根深く関わっているらしい。
「あの…狂骨さんこう言ってますけど…。」
「うーん、まぁたしかにかわいそうだし…私は遊びに行くんにゃら付き合っていいわよ。」
化け猫が渋々ながらも遊びならばと賛同した。
その言葉を聞いてほかのメンバーも頷き始める。
「私も遊びに行くってくらいなら…まぁ…。」
「別に予定もないし、すーちゃんが行くなら付き合うよ私も。」
「僕も…夕飯の仕込みは明日使えば良い…し。」
「ほ、ほら狂骨さん、みんなこう言ってくれてますから…。」
鈴音がそう声をかけると狂骨の耳がピクリと動いた。
「本当に…?」
「はい…皆そういってくれてます…。」
「私の行きたいとこに連れてってくれる…?」
「…ああ…大丈夫…だと。」
鈴音は狂骨の言葉に困ったように皆を見回すと、仕方なさそうに全員が大丈夫だと身振りで伝える。
すると狂骨はまだうずくまったままぼそりと行きたい場所を呟いた。
「──バクラ。」
「え?」
「キャバクラ行きたい。」
秋奈町から離れた帝都では有名な繁華街。
そこにある俗にキャバクラと言われるクラブに八咫総合事務所の面々はいた。
煌びやかなライトに高級感の漂うブラウンのソファと綺麗なガラス張りのテーブル。
全体的に内装はシックな雰囲気に纏められており、一見夜の遊び場らしくないように感じる。
しかしところどころに上手くライトの光を反射するようにガラス製のインテリアが設置されていたり、上品さを保ちつつ豪奢な雰囲気を醸し出す演出がなされている。
そういった部分を見るとまさしく大人の遊び場らしいと言えた。
「ここが…キャバクラなの…か。」
「ふーん、ドラマとかで見てもっとピンクな感じかと思ってたけど、こういうとこもあるんだ。」
初めて見る大人の遊び場の雰囲気に新鮮さを感じながら鈴音と花鈴は周囲を見回す。
本来なら十八歳に達していない鈴音と花鈴が入場することは不可能であるのだが、二人が背も高く大人びて見えることと、そもそも見た目が幼い化け猫が堂々と喫煙しながら入店しているせいかすんなり入店できてしまった。
周囲を見てみれば楽しく騒ぎはしているものの節度を保って楽しんでいる様子であり、年齢層も高めに感じられた。
ただ、そんなこの店の大人たちが皆大人らしく遊ぶかと言えば決してそうではない。
「あっはははははは!もう最高!この解放感!あははははッ!!」
少し前まで事務所でふてくされていた者とはたして同一人物なのか疑わしいほど明るい狂骨の声がホールに響き渡る。
六人は大きなテーブル二つをソファで囲んだ席に通され、既に狂骨と化け猫はキャストの女性と楽しげに声を上げながら談笑している。
「にゃっはははは君可愛いじゃにゃ…んんッ…可愛いわねえ、今夜何時までなの?お姉さんアフター誘っちゃおうかなぁ。」
化け猫はぐびぐびとグラスからカクテルを煽りながら猫言葉を抑えつつ盛り上がっていた。
その顔は既に真っ赤になっており、狂骨の言葉で来たとは思えないほどに楽しんでいた。
「あ…私甘いお酒でお願いします…え…えへへ…。」
ユリカにもキャストの女性が付き、落ち着かない様子ながらも普通に会話をできている様子だった。
会話下手なユリカに対して会話をしっかりしつつ、楽しい雰囲気を作るというのは流石はプロだなと鈴音は感心する。
「…おススメのフードとか出前…ある?」
ただ蟷螂坂はマイペースにキャストの女性にお気に入りの料理について尋ねていた。
おそらくこういった場所でどのような食事が気に入られるか純粋に興味があるのだろう、どこまでもマイペースな姿に鈴音は安心感すら覚える。
そうして鈴音と花鈴以外にはキャストがついているが、まだ二人の元にはついていない。
急な六人の来客ということでキャストの準備が追いつかず、もう一人準備中ということだった。
慣れない雰囲気に鈴音は少し落ち着かないが、花鈴はいたって平然とした様子でソファに腰かけている。
「花鈴…よく落ち着いていられるな…。」
「いやーせっかくだからさ、楽しんだ方が勝ちじゃないこういうの?」
「たしかに…そうだな…。」
「もしすーちゃんが一人でここに来たっていうなら私も気が気じゃないけど、今日は一緒だし、変なことにはならないでしょ!」
「…何かの事情で一人で来ても変なことにはならないと思うぞ…花鈴。」
「いーや!すーちゃんにその気がなくても相手がその気になる可能性がとっても高い!」
「そんなことありえないよ…。」
自信満々な花鈴に対し、少し呆れながら鈴音が言う。
鈴音は花鈴が自分を評価してくれるのは嬉しいが、いささか過剰に評価しすぎだと困惑していた。
だがそれが表情に出ていたのか、花鈴は鈴音の顔を覗き込みながらにこっと笑って見せる。
「まず、すーちゃんはとっても優しいです。」
「え…?」
突然の花鈴の言葉に、鈴音は少し戸惑いながら首をかしげる。
「今日だって、すーちゃんがいなかったら狂骨はまだ床にころがっていじけてたね、絶対。」
「…狂骨さんには、お世話になってるから。」
なにか言い訳をするように鈴音はそう言うが、花鈴は鈴音に対し距離をつめながら続ける。
「で、優しい癖に自分には厳しい。」
「…厳しいって…私は別に厳しくないよ。」
「そういうところなんだよねぇ、すーちゃんはさ。」
鈴音の言葉を聞くと花鈴は小さく肩をすくめ、さっと身体を離してソファにもたれかかる。
「凄く優しいのに自分には厳しくて頑固な頑張り屋さん、そこに気づいちゃったら”私が支えてあげなきゃ!”ってなると思うんだよねぇ。」
「…花鈴も、そうなのか?」
「私は違うよ、私にはすーちゃんしかいない。」
「花鈴…。」
「それだけだよ、すーちゃん。」
「でも、今は──」
「ここまでにしよっか、こんな場所でする話じゃなくなっちゃった。」
鈴音の言葉を遮るようにそう言って花鈴が会話を切り上げる。
たしかに、キャバクラの待ち時間でするような内容の話ではなくなってしまった。
しかし鈴音は花鈴が発した言葉に不安を感じていた。
花鈴にとって鈴音は今でも唯一の存在だと言う。
だが、自分を押しとどめていた頃ならいざ知らず、今の花鈴はとても自由に日常を謳歌しているように見えた。
八咫総合事務所の面々とも、楽しく日常を過ごしているはずだった。
少なくとも鈴音にとって八咫総合事務所の皆は花鈴と同じく、もう家族同然の存在だった。
それは今まで鈴音に家族と呼べるものが存在しなかったからかもしれない。
花鈴という存在以外は空っぽになってしまった、鈴音の心に存在する空席に腰かけさせてしまったからかもしれない。
でも、花鈴にとっては違うのだとしたら。
不意に鈴音の心に不安のもやがかかっていく。
「なぁ花鈴。」
「…どしたのすーちゃん?」
「今の生活、楽しい…よな?」
少し不安げな表情のまま、鈴音は花鈴に問う。
その表情を見て花鈴はほんの少し困ったようにまゆをひそめながらも、鈴音に微笑み返した。
「大丈夫だよすーちゃん、楽しんでるから今の生活は。」
「なら…いいよ、変なこと聞いて悪かった。」
花鈴の言葉を聞いて鈴音の心のもやが少しばかり晴れた。
まだどこか不安は残る、しかし花鈴の言葉に嘘はない。
それは分かる。
産まれてからずっと同じ時を過ごしていた、花鈴相手だから分かる。
そんな存在は鈴音にとっても花鈴だけだ。
そう思い、鈴音は心を落ち着ける。
「しかし…結構時間がかかってるな。」
「そうだねー、うちの面子、顔はいいから誰出せばいーか困ってんじゃない?」
「たしかに…。」
花鈴の言葉に鈴音は納得する。
八咫総合事務所の面々は全員美人揃いだ。
特に花鈴はモデルの様に華がある。
姉の贔屓目かもしれないが鈴音は本気でそう思っていた。
「綺麗さなら花鈴には誰も勝てないだろうな。」
「…すーちゃん、真顔でそう言われるとさすがに恥ずかしいんだけど。」
鈴音の誉め言葉に花鈴が顔を赤くしながら口を尖らせる。
華やかさでは花鈴には勝てない。
ならば競わずに持ち味を活かすキャストを選ぶしかないだろう。
そんなことを思っているとようやく二人の元にキャストの女性がやってきた。
女性はまだ少しぎこちない様子で二人の元まで歩いてくると、深くお辞儀をする。
「お、お待たせしました!ヒナですよろしくお願いいたしま──す。」
「ん?」
ヒナ、そう二人に向かって挨拶をした女性は、頭を上げて二人を見ると一瞬だけ驚いたように目を見張った。
鈴音は何があったのかと首を傾げるが、花鈴は気にしない様子でにっこりと微笑んでいる。
「お、お隣失礼します。」
「ああ…どうぞ。」
ヒナはそう言って鈴音の横にゆっくりと腰かける。
まだ言葉使いにぎこちなさが残り、みるからにまだこの仕事に慣れていない様子だった。
見た目も他のキャストに比べるとまだまだ幼い雰囲気が漂う。
少し濃いめに化粧をしているが、顔立ち自体が幼く見えた。
髪は緩やかにウェーブを描く髪を綺麗に編み込んで後ろで纏めているが、どこか大人っぽさを無理に演出しているように見える。
タイトで肩の出たイエローのドレスを身に着けているが、まだ少し着られている感が強い。
ただその初々しさによる独特の可愛らしさはある。
そこはモデルの様に華のある花鈴にはない魅力かもしれなかった。
例えるならば道端にこっそりと生える綺麗なたんぽぽのような可愛らしさかもしれない。
ふと日常の中で気づく暖かみのような、そういった魅力を醸し出す女性だった。
ヒナ、という雛から幼さを連想させるような名前も似合っている。
「あ、あの!ドリンクはいかがいたしますか?」
「ドリンク…申し訳ないが未成年なので…オレンジジュースで。」
「じゃ、私はコーラで。」
「…そうですよね、ではオレンジジュースとコーラで。」
ヒナは鈴音の言葉に頷くとボーイを呼んで注文を告げるが、鈴音はヒナの言葉に首を傾げた。
”そうですよね”とヒナは言った。
たしかに鈴音と花鈴は未成年どころか本来ならこの店に入れない年齢だ。
とはいえ元から未成年であることが分かっていたようにヒナが言葉を発したことが不思議であったのだ。
花鈴の方をちらりと見れば、なぜかにやにやと面白そうに笑っていた。
そうしてヒナはボーイに注文をしたところでボーイからこそりと何かを言われると、慌てて二人に向き直った。
「すみません!私もなにかドリンクいただいてもよろしいでしょうか!」
二人に向かって小さく頭を下げる。
「え…あ、ああ…。」
「すーちゃん、お店の子が飲むお酒とか、お客さんが出してあげたらお金になるんだよ。」
首をかしげる鈴音の肩を花鈴が小さく叩き、そう耳打ちする。
「そうなのか…よく知ってたな花鈴。」
「…アレ見れば分かるよ、すーちゃん。」
そういって花鈴は親指でぐいぐいとある方向を差す。
何かと思い鈴音が顔を向けると──
「お姉さんがシャンパンもう一本入れたげるからぁ~アフター行こうよぉ~!」
酔っぱらった化け猫がそんなことを言いながらキャストの女性に詰め寄っていた。
キャストの女性は化け猫のアフターという言葉に対し、曖昧にはぐらかす様に受け答えしながら、巧みに酔っ払いの化け猫がお酒を注文するように誘導している。
それを見て鈴音も納得した。
おそらくシステムとして客がお酒代を出せば出すほど店の売り上げになるのは当然だが、その分キャストの女性にもお金が入るのだろう。
化け猫が言っているアフターというのが分からないが、どうやらキャストの女性はそれをエサに巧みに化け猫に酒を頼ませているようだ。
「…あの人が頼んでるシャンパンって何円くらいするんですか?」
「お安いものでしたら二万円ほどでご用意させていただきますが、その…私は──」
「お酒飲めないんじゃないの、貴女も?」
好奇心から鈴音がヒナに値段を聞くと、ヒナが答えの後に何かを付け加えようとした。
だがその前に花鈴がそう問いかけをする。
ヒナは花鈴にそう言われると驚いた、というより何かにおびえるように身体を小さく跳ねさせ、頷く。
「そ、そうなんです、まだ未成年で…よくお分かりになりましたね。」
「いやーヒナさんだっけ、貴女も私らがお酒を飲めないって分かってたっぽいじゃない、同じだよ。」
「…見た目がお若そうでしたので…つい…お気を悪くしたなら申し訳ございません。」
「いんやー、別に気にしてないから大丈夫だよ。」
何か含みを籠めて話しているような花鈴の言葉に、鈴音はヒナが微かに顔を青くしているように見えた。
もしかして花鈴とこのヒナというキャストの女性は知り合いなのだろうか。
少なくとも鈴音には見覚えがないように感じられたが。
「じゃあ…手ごろなドリンクを頼んでもらって結構ですよ…ヒナさん。」
「ありがとうございます…ではフルーツジュースをいただかせてもらいます。」
鈴音の言葉にヒナがそう答え、ボーイに注文する。
そしてボーイが席の横から去ったところで、花鈴が不意に口を開いた。
「で、すーちゃんは気づいた?」
「え…?」
鈴音は突如として花鈴から発された疑問に首をかしげる。
「ああ…もしかしてヒナさんと花鈴は知り合いなのかとは…。」
「まーね、そうでしょ、先輩?」
花鈴がヒナのことを”先輩”と、そう呼んだ。
するとヒナの顔が化粧越しに分かるほど一気に真っ青に染まる。
「彼女、うちの学校の一つ上だから。」
「…は?」
鈴音は目を丸くした。
鈴音と花鈴は高校生の十六歳。
まだ誕生日を迎えていない高校二年生。
つまり彼女は、まだ高校生三年生ということになる。
花鈴は少し気を利かせて学校の一つ上という表現をしたのはそれが原因だろう。
高校三年生なら年齢としては十八歳でもおかしくないが、学生の身でこういう仕事に身を置くのはどうなのだろうか。
「…お願い、誰にも…その。」
ヒナは周りの声にかき消されそうな程小さな声で、鈴音と花鈴にそう訴えかけてくる。
その態度からしてバレたら不味いということは明らかだ。
そもそも仮に問題がなかったとしてもキャバクラで働いているということ自体、よく思わない人間も多いだろう。
「どうもしませんよ…別に。」
ただ鈴音は特にどうとも思わなかった。
そもそも鈴音は同じ学校の先輩らしき彼女のことを何も知らない。
何かしら彼女にも事情はあるのだろうが、他所の事情に興味もなかった。
「私は貴女のこと知りませんし、普段会っても気づきませんよ多分。」
「そ、そう…なのね。」
知らないと鈴音が言うと、なぜか少し落ち込んだようにヒナが肩を落とす。
知られてない方が都合が良いのではないか?と鈴音が不思議そうに眉をひそめると、花鈴がまたそっと肩を叩いて耳打ちしてきた。
「すーちゃん…その人、うちの生徒会長…!」
「え…!?」
花鈴の言葉に鈴音が小さく驚きの声を上げ、改めてヒナに向き直る。
そして鈴音は再度じっくりとヒナの顔を見るが──言われて初めておぼろげながら見覚えはあるような気はした。
しかし生徒会長となれば鈴音にとってはただの先輩ではない。
生徒会と言えば花鈴が所属しているのだ。
きっと花鈴が世話になっているはずだと鈴音は意識を改め、慌てて小さくお辞儀をする。
「そ…その…失礼しました…花鈴がお世話になってます。」
「い、いえいえそんな!花鈴さんにはこちらがお世話になってるくらいで…いつも資料の作成とか頑張ってくださってるんです。」
「し、資料の作成…ですか。」
ヒナの言葉に鈴音は思わず顔を引きつらせる。
花鈴が生徒会に提出した資料はほとんど鈴音が作ったものであり、最終的に花鈴が少し手直ししたものであるからだ。
元は日常全てを仮面優等生として過ごしていた花鈴が少しでも自由な時間を作れるよう、鈴音がやっていた作業である。
鈴音のリアクションを見て花鈴は後ろで必死に笑いをこらえていた。
「その…さっきも言いましたけど、私はどうもしませんから。」
「ほ、本当ですか…貴女あの鈴音さんですよね…!?」
「…え?」
何か含みを持たせる言い方をしたヒナに鈴音が反応すると、ヒナは慌てて口を塞ぐ。
花鈴は校内で人気が高く、皆から慕われている有名人だ。
だが鈴音は特に自分が有名人になるような存在ではないと思っている。
成績は下から数えた方が当然早く、友人もいなければ部活にも入っていない。
生徒会長だから生徒のことに詳しいのだろうか。
すると花鈴が二人のやりとりを聞いて笑いをこらえてつつ、ヒナに目を向けた。
「くくくッ…先輩、あの鈴音さんってどういう意味ですか?」
「それは…あ、あの…。」
「あの…?」
「学校の番長だって…。」
「は?」
ヒナの言葉に鈴音が目を見開く。
「私が…番長…?」
「う、噂でその…そう聞いてて、私!違うならごめんなさい!」
「違いますよ…!」
「でも不良の人たちとつるんでるって聞いたけど…。」
「あれはあっちから勝手に絡んできたから相手してたんです…私は番長でも不良でもないですよ…!」
「こんな場所にも来てるのに…!?」
「貴女がここにいるみたいに私にも事情があるんです…!」
あらぬ誤解に鈴音はこそこそと話しながらも思わず語気を大きくして否定し、ヒナの言葉に眉間に手を当てて肩を落とす。
「…それで、私が不良だから脅しでもすると思ったんですか?」
「そ、その…。」
「…思ったんですよね?」
「…はい。」
言い淀むヒナに対し、鈴音は二度問いを繰り返して正直に話させた。
「私だって同じ場所にいるわけですし…言いふらすわけないじゃないですか。」
「まぁ不良と生徒会長のどっちがキャバクラにいそうかというと、不良だもんね。」
「そうそう…って花鈴…!?」
「だーかーら、私とすーちゃんが言いふらす訳ないってことだよ、ね?」
「そもそも私は不良じゃない…。」
「ごめんごめんすーちゃん!分かってるからごめんって!」
やはり心外だと鈴音が顔をしかめ、むすっと口をへの字に曲げる。
その様子を見て花鈴はそこまで気にしているのかと慌てて謝りながら鈴音の顔を覗き込む。
「許してよすーちゃん!」
「別に怒ってない…。」
「ほんと?」
「本当だよ…。」
「すーちゃん不良じゃないもんね。」
「当然だ。」
「授業ちゃんとでてるもんね。」
「サボったこともない。」
「不良と仲良くもないし。」
「仲良くない。」
「煙草も吸わないしお酒も飲まない。」
「その通りだ。」
「喧嘩もしないよね!」
「ああ、喧嘩もしな──」
そこで鈴音は言い淀んでしまった。
花鈴はしてやったりとばかりに笑顔を浮かべている。
「け、喧嘩もしない…!」
「えぇ~本当にすーちゃん?私の記憶では一週間くらい前に思い切り暴れた気がするんだけど?」
花鈴の言う通りであった。
一週間前、海水浴に出かけたあの日。
花鈴と鈴音はその筋の人間に食事を邪魔され、キレた二人は大立ち回りを繰り広げた。
結局は相手が相手だったこともあり、周囲の証言もあって正当防衛で片が付いて狂骨の様に拘束はされなかったが、それでも喧嘩は喧嘩であった。
「あれは正当防衛だ…それに花鈴も一緒に暴れただろう…!?」
「あの時のすーちゃん怖かったなぁ~、これは海鮮丼の分!これは味噌汁の分!これは焼き魚の分!って…。」
「そんなことは言ってない…はずだ!」
たしかに鈴音はあの時食事を台無しにされ怒り心頭であったが、さすがにそんなことを言った覚えはなかった。
そんな風に会話を繰り広げていると、鈴音の隣からくすくすと笑い声が聞こえる。
声のする方を見てみれば、ヒナが必死に声を抑えながらも笑っていた。
「ご、ごめんなさい…つい。」
「いいですよ…でも私、本当に不良じゃないですから…。」
「…はい、今の会話を聞いて悪い人じゃないって分かりました、誤解してて申し訳なかったです。」
申し訳なさそうに頭を下げるヒナを見て、鈴音もようやくホッと一息つく。
すると誤解が解けたところを見計らってひょいと花鈴が鈴音の隣から身を乗り出し、ヒナに顔を向けた。
「で、先輩はわざわざなんでここでバイトしてんの?」
「花鈴…あまり詮索しない方が…。」
「ええー、気になるじゃん、それにそういうの隠してると息が詰まるし。」
「…いいですよ、ここに働いているの知られた時点でもう隠すようなこともないですし。」
「いいんですか、ヒナさん?」
「はい、鈴音さん…貴女を誤解していたお詫びもかねて話します。」
ヒナはそういうと少し胸に手を当て、ゆっくりと深呼吸してから話し始めた。
「簡単な理由です、まず父の経営していた会社が倒産して…お金に余裕がなくなりました…それだけならまだよかったのですが。」
話しながらヒナは大きく肩を落とし、少し俯いて言葉を続ける。
「あろうことか父が失踪してしまったんです…。」
「それは…気の毒に…。」
「家も差し押さえられて…親戚を回ったんですが誰も受け入れてくれなくて…。」
「ひっでぇ話だけどさ、生活するだけなら別にこんなとこで仕事しなくていいだろうし…ってことはまさか借金とか?」
「いえ、借金は私たち家族が返済する必要はないので大丈夫でした…ただ、大学に行くためのお金が必要で。」
「そういうことでしたか…。」
ヒナの言葉に鈴音と花鈴が納得したように頷く。
「私、どうしても大学に行きたくて…それまではここで頑張ろうと思ってます。」
「応援しますよ、頑張ってください…なにか相談があるなら話くらいは聞けますから。」
「そ、そんな…それに鹿角さんたちの家も…その…大変なんじゃ…。」
鈴音と花鈴がヒナの言葉にふと思い出したように顔を上げ、互いに顔を見合わせる。
考えてみれば鈴音と花鈴もほんの数か月前に両親を失い、今までの生活が一転する目に遭ったのだ。
もうそれも遠い昔の記憶の様に感じられてしまっていた。
花鈴は思わず苦笑を漏らし、鈴音は何か感慨深く目を伏せ、そしてヒナの方を向いた。
「私たちは大丈夫ですよヒナさん。」
「今はまぁ、あいつらが代わりって感じだから。」
花鈴が親指を立て、ある方向を指さす。
その先では──
「にゃははは!王様ゲエエエエエム!!4番は王様におっぱい揉ませろぉ!!」
「化け猫ぉ~!4番はこの狂骨さんなんですけどぉ!?」
「にゃあああ!なにもねえ!ぺったんこおおお!!!」
「化け猫ぉ…面白くない番号言ってんじゃないってぇぇ…!」
「にゃあん?にゃらユリカが4番引いてりゃよかったんじゃにゃいのかにゃあああ!?」
「この出前の巻き寿司…美味しい…!!」
今、鈴音にとっては家族同然の四人がとても、それはもうとても楽しそうに騒ぎまくっていた。
鈴音は思わずその光景を見て小さく笑みをこぼした。
花鈴が鈴音の笑みを見て、驚き目を丸くする。
花鈴でも滅多に見ることのできない鈴音の笑みだった。
「とても…楽しいですから、今の生活。」
「強い妖気を感じで来てはみましたが…逃げられましたか…。」
繁華街の人通りが少ない小路の一角。
その場に巫女服を着た少女と黒いスーツ姿の少女がしゃがみこみ、周囲を調べていた。
巫女服の少女の頭にはイタチの様な耳が、黒いスーツの少女の頭には犬の様な耳が生えている。
濃い妖気こそ残っているが、不思議なことに被害者の痕跡はない。
妖気がその場に残る場合は人を襲い、食事をした場合のことが多いため不安であったが幸いにもそれは杞憂であった。
「しかし、何故…わざわざ痕跡を残すなど、意味が分かりませんよ巫女。」
「そうですが、痕跡は妖力以外何もありません…今の私たちにはもう少し周囲を調べることくらいしかできませんね、雷獣。」
二人は八咫烏の構成員である雷獣と巫女であった。
巡回中に濃い妖力を感じ、現場を見つけたのだが残念なことに妖怪の姿を見つけることはできなかった。
しかし犠牲者が出なかったことに二人はホッと一息ついている。
今感じられるのは現場に残る濃い妖力の残滓のみ。
他に妖力は感じられない。
「まだ夏休み中ですし、今夜はしばらく巡回を続けましょうか…いいですね雷獣。」
「そうですね、朝が苦手な巫女を起こす必要もないですし、付き合いますよ。」
「ら、雷獣…言う様になりましたね…。」
苦い顔をしながら巫女が肩を落とす。
そのまま幾度か言葉を交わし、彼女たちはビルの壁面を飛び、街灯の頭を越えて夜の闇に紛れ空へと消えていった。
その場に音もなくソレはいた。
物音を経てずに地面を這い、小さな物陰に潜り込むように隠れつつ動く。
その身体には妖力を秘めていた。
しかしその妖力はあまりにも小さかった。
強い力を持つ妖怪の残滓にさえかき消されるように小さく、儚い。
それでもそれは確かに生きて、動いていた。
蜘蛛だ。
それは蜘蛛であった。
人の掌より大きく、分厚い身体の蜘蛛。
帝都の中でも秋奈町ではまず見かけない大きさをしている。
それでも夜の街角に身を隠すことは容易な大きさだ。
蜘蛛は雷獣と巫女の二人が去ったことを本能的に察知するとやがて物陰から抜け出て、地を這いながら街の暗闇へ消えていった。