帝都の鬼姉妹。 ふぉっくすらいふ!外伝   作:百合道いおりん

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42話 追走

 

 

 

「このおおおおお!!!待ちなさいイタチ野郎おおおおおお!!!」

『うっるさいなぁ、待っていいなら逃げないっての!!』

 

商店街の物陰の隙間を縫うように駆け抜けるカマイタチを西野が全力で追いかける。

平日の夕方の商店街はそこそこの人通りがあり、少なくとも全力疾走していい場所ではない。

鈴音はこのままだと西野のドジ気質も相まって大変なことになると思い、懸命にその後を追う。

そして案の定、商店街を見渡せばいくつか嫌な予感がする人影がいくつか見えた。

 

「ふふん、どうよ留美子!まだ10月なのに原稿の下描き半分も終わらせたわ!」

「油断大敵、ここでトラブルに巻き込まれるのがあまてるちゃんだから。」

「そんな漫画の主人公じゃないんだから~。」

 

あれは…なにか紙の束を大事そうに抱えている女子大生!

その向こうには──

 

「ったく…商店街の爺さん共、暇だと思ってコーヒー出前しろなんて言いやがって…まぁ暇だけどよ。」

 

お盆にステンレスらしきポットとカップを乗せて歩く黒猫のマスター!

そしてさらに──

 

「ねぇねぇお母さん!抹茶味一口ちょーだい!」

「ふふ、いいわよ、その代わり秋子のバニラも一口ちょうだいね。」

 

仲睦まじくソフトクリームを食べ歩く母娘がいる!

西野がぶつかりでもしたら大惨事になりそうな人々だ。

嫌な予感がする、そう思った鈴音の勘は的中した。

 

「ッ!あまてるちゃん危ない。」

「ちょ、なにすんの留美子!?」

「待てええええええええええええ!!!」

 

まず怒りで周りが見えていない西野が紙を抱えた女子大生に危うくぶつかりそうになる。

後ろにいた友人が咄嗟に肩を引いて避けたが、大事そうに抱えていた紙が宙に舞い──

 

「おお…水色…ってああ!?私の原稿がぁ!!!」

「くぅッ、間に合え…!」

 

どうにか原稿が宙に舞っている間に駆け付けた鈴音が、地面に滑りこみながら原稿が落ちて汚れる前に全てキャッチする。

そして呆気にとられたように目を丸くしている女子大生にキャッチした原稿の束を渡す。

 

「すみません…お怪我は?」

「う、うん、私は大丈夫だけど…。」

「良かった…では失礼します。」

 

鈴音は女子大生の答えに安心すると、間が開いてしまった西野の後を再び追いかけるために駆け出した。

 

「…ねぇ留美子、メイドと女子高生のドタバタコメディネタが思い浮かんだんだけど。」

「あまてるちゃん…だめ、絶対やめた方がいい、締め切りは待ってくれない。」

「コピー本にすれば間に合うわきっと!さっそくかえってネームしなきゃ!!」

 

なにやら背後で威勢の良い声が聞こえるが、鈴音はもうそんなものに構っていられなかった。

何故なら西野が黒猫のマスターの近くまでもう迫っていたからだ。

しかも運悪くカマイタチがゆっくり歩くマスターの足元をするすると潜り抜けていく。

 

「おぉッ?なんだ今のちっこい生きもんは。」

「このおおおお!!いい加減観念しなさいいいい!!!!!!!!」

「えッ──うわぁ!!?」

 

急に現れた謎のメイドに驚きながらも、マスターはその場から飛び退いて西野を避ける。

しかしその手にあったお盆からはポットとカップが大きく飛び出して宙を舞った。

 

「あ~、やっちまッ…って!?えっ、君!?たしか鈴音ちゃん!?」

「…どうも、マスターさん。」

 

鈴音はカップとポットを先ほどの紙と同じようにキャッチした。

しかしポットは空中を舞う中で蓋が外れ、中身を盛大にぶちまけていた──キャッチした鈴音に向って頭から。

 

「すみません、こぼしたコーヒー代と説教は今度お店に行ったときにお願いします。」

「いやそれよりも鈴音ちゃん、君は大丈夫なのか!?」

「鍛えてますから、失礼します。」

 

それ理由になんないから…とマスターは鈴音から空になったポットとカップを受け取りながら小さくツッコミを入れ、西野を追いかける鈴音を見送った。

鈴音は自分の身体から放たれる強烈なコーヒーの香りに顔をしかめながらも走る。

次はあの母娘だ。

よりにもよって母娘そろって美人なうえ、スカートを履いているせいでカマイタチが吸い込まれるように母娘二人に向っていく。

もちろん、カマイタチを追っている西野も二人に向って走っていた。

 

『うっひょお!あれはめくりたくなるスカートだぁ!!』

「させませええええん!!!!!」

『くそおお!しつけえなぁ!!』

 

西野が地面を走るカマイタチに霊剣を投げつけた。

ガキン!と地面に霊剣が突き刺さり、持ち主の手から離れたことによって宙へと消えていく。

カマイタチは流石のすばしっこさでそれを避けるものの、タガが外れているせいか本気で自分を殺しに来ている西野に肝を冷やして動きを止めてしまう。

 

『ひぃ!?まじで殺す気じゃねえかよう!!?』

「動くなああああああ!!!!」

 

動きを止めたカマイタチに西野が飛び掛かる。

しかしカマイタチは寸でのところで我に返り、西野の手に掴まる寸前にその場から飛び退き、逃げていく。

 

『あぶねえ!!』

「くぅ!まだまだ──あっ、とッ、トォっ!?」

 

すぐさま後を追おうとする西野だが、何かにつまずいたのか大きく体勢をくずしてしまう。

その足元には先ほど西野が霊剣を投げつけたせいで地面にできてしまった小さな隙間があった。

西野の靴のつま先は、綺麗にその隙間へと引っかかっていた。

 

「あわ、あわわわわわ!!むぎゃッ!!!」

 

どうにかしてバランスを取ろうとするものの、それも虚しく西野は地面へと倒れていく。

しかも勢いがついていたせいかそのまま地面を転がり、母娘の足元に転がり込むように倒れこんだ。

 

「お母さん!危ない!」

「おっとぉ!なにごとかしら。」

 

ぴょん、と母娘二人が道を開けるようにその場から退いたことで西野が二人を巻き込むことはなかったが、一歩間違えたら三人そろってもみくちゃになって倒れているところだ。

地面に転がる西野を娘が怒り心頭といった感じで覗き込み、母親は心配そうな目で眺めている。

 

「あんたねえ!いきなりどーしたのよ!危ないじゃない!」

「いたたたた…って…あぁ!?すすす、すみません!!ごめんなさい!!」

「まぁまぁ秋子、落ち着いて。あなたは大丈夫なのメイドさん?」

「は、はい、私は大丈夫です…本当にごめんなさいぃ…。」

 

盛大に転んだことで幾分か頭の冷えた西野が今の状況をようやく理解し、叱られた犬の様にうなだれながら必死に母娘二人に謝る。

 

「まったくもぉ、せっかくお母さんと二人でアイス食べてたの…に…あれ、私のバニラアイスがない!!?」

「あらら私の抹茶も、さっきこのメイドさんを避けたときに飛んでちゃったのかな。」

 

二人が手にしていたソフトクリームがカップの部分だけを残して綺麗になくなっていた。

どこにいったのか、と三人が思わず辺りを見回したとき、背後から声がかかった。

 

「すみません、お二人のアイスは弁償しますので…許していただけないでしょうか。」

「あっ鈴音さん!?着いてきてくれて…たん…で…すか…。」

 

その声の主は鈴音だ。

西野は聞き覚えのある声にサッと振り向いてその姿を見ると、一気に顔色が青白く変化して血の気が引いていく。

鈴音の頭部からはまるで鬼の角の様に突起が二本──カップから離れたソフトクリームが頭にのっていた。

しかもセーラー服はコーヒーにまみれて茶色く変色し、スカートは地面に滑り込んだせいで汚れ放題である。

これには西野だけでなく、母娘二人も何があったのかと目を丸くしていた。

 

「あ…あ…あの…鈴音さん…。」

「気にしてませんから、早く代わりのアイスを買ってきてください。」

「えっ…えっと…。」

「は や く 」

「はい!!行ってまいります!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、昨日は大変だった…。」

 

翌日の放課後、生徒会室への道を歩きながら鈴音は溜息をついていた。

自分のアイデアがもととはいえまさか商店街でちょっとした妖怪騒ぎに出くわすとは思わなかった。

あの後は二人で母娘に謝り倒し、その後はお互い家に帰ることになった。

幸いにもあの母娘は鈴音の姿を見て、アイスはいいから早く帰ってシャワーを浴びた方がよいと優しく対応してくれた。

鈴音は昨日のことを思い出すだけでコーヒーと甘いアイスの匂いが混ざり合った独特の香りが漂ってくる気がする。

やや重い気分で歩いていると、不意に声をかけられた。

 

「あ、あの!鈴音さん!昨日はすみませんでした!」

「ん?ああ…西野さんですか…もういいですよ、発端は私の慣れろってアイデアが元でしたし。」

 

声の主は肩をすぼめて申し訳なさそうにしている西野だった。

 

「でも昨日のおかげで少しあのメイド服に慣れた気がします!」

「それなら私としても良かったですが…。」

「はい!だから今から生徒会に悩みは解決したとお伝えしに行くところだったんです!」

 

先ほどの表情から一転、朗らかな笑みを浮かべながら西野は言う。

鈴音としてもいつまでも暗い表情をされると気分が良くなかったので、この切り替わりの早い性格は不快ではなかった。

そのまま二人並んで生徒会室への道を進む。

鈴音は隣で歩く西野の頭をちらりと見て、そこに獣の耳のようなものがないかたしかめる。

今、そこに耳はない。

たしかに昨日は頭上に獣の耳があり、あろうことかこの西野という同級生は霊剣まで発現させて見せた。

そして妖怪カマイタチに対して異常といってよい程まで敵意をむき出しにし、昨日の騒動に繋がった。

はたして退魔師か、それとも妖怪か、念のため注意しておく必要がありそうだ。

 

「昨日家に帰ってメイド姿を見せたら同居してる子も可愛いって褒めてくれたんですよぉ~えへへぇ…。」

「そ、そうですか。」

 

だらしなく顔を緩ませる西野から目を逸らしながら鈴音が頷く。

その表情を見ると彼女を注意しておこうと思った自分が馬鹿らしく感じてしまった。

とにかく、悩みを一応は一つ解決したのだから気分を切り替えようと鈴音は思った。

まさかこのような特殊な悩み相談が次も来るはずはない、そう自分に言い聞かせながら生徒会室のある廊下までたどり着いた時だった。

 

「…誰だ、あれは?」

 

生徒会室に見慣れない人影が一つあり、鈴音はまずその人影を見て驚いた。

生徒である、それは間違いない。

セーラー服に身を包んだその姿でこの学校にいるならばこの学校の女生徒のはずだ、鈴音が驚いたのはその背丈だ。

190センチ、いや、200センチに近い長身であったからだ。

背丈というものは戦いにおいて重要な要素になり、その要素を喧嘩慣れしている鈴音が見誤ることはまずない。

その女生徒に後ろから近寄っていくとなにやら小声で何かを呟いていた。

 

 

「ぽ…ぽぽ…失礼しますバンチョーさ──鹿角鈴音さんはいらっしゃいますか…失礼します鹿角鈴音さんはいらっしゃいますか…。」

「はぁ…。」

 

鈴音は思わずため息をつく。

どうやらこの一目見ただけで普通ではない女生徒は鈴音のことがお目当てらしい。

つまり、おそらくは悩み相談の相手ということだ。

よほど緊張しているのかうわ言の様に生徒会室に入る言葉の練習をしている女生徒に、鈴音が声を掛けた。

 

「私に何か用ですか?」

「ひぃぃッ!?すすすすすみません覗き見とかする気はなかったんですううう!!」

「いや、その…落ち着いてくださ──」

「すみませんすみませんごめんなさいいいい!!!!」

 

生徒会室前で大声を上げる女生徒をどうにかなだめようと鈴音が取り付く島がない。

困ったように鈴音が腕を組むと、隣にいた西野が同じように腕を組んで言った。

 

「まったく、こんなに声を荒げて…平常心が足りませんね!」

「貴女がそれを言いますか…。」

 

絶叫しながら商店街を駆け抜けた西野の思わぬ言葉に、鈴音は眉間に手をやりながらツッコミを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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