帝都の鬼姉妹。 ふぉっくすらいふ!外伝   作:百合道いおりん

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7話 八咫烏

 

「動くな!」

私こと花鈴と、姉のすーちゃんが立っている和室にいきなり銃を構えた…男?女?わかんないけど黒スーツが突入してくるなりそうえらそうに言いやがった。

人の家に土足で踏み込んでるくせにむかつくなぁ、そう思いながら私はすーちゃんを庇うことを意識しながら立ち位置を変える。

黒スーツは鬼の死体が転がったこの光景を見て、なんだこりゃって感じに眼を見開くとこっちに聞いてきた。

「君たちが、この鬼を?」

「あのさー人の家に土足で入っといてエラそうにしてんじゃねえよ。」

「え、ああ…それは…すまない。」

私が思ったままのことを言うとあろうことか相手は謝ってきた。

こいつ馬鹿だ。

私はそれを察した。

さすがにこの馬鹿の言葉が見過ごせなかったのか、姿を見せていなかった他の二つあった気配もするーっとこの部屋に入りこんできた。

一体は馬鹿と同じ黒いスーツ姿の…猫耳はやしたちっせえ女。

もう一体は同じ黒…なんなのこいつらは黒スーツの会なの?しかも最後に入ってきた女、この夜中にグラサンかけてるのなんでだよ。

あれか?ちょっと触れにくい事情か!?ならごめんな!!

心の中で私が謝ってる内に三体は私とすーちゃんを取り囲むみたいにして様子を伺っている。

「リーダー、馬鹿みたいなこと言ってないでこの状況どうにかしてよ。」

猫耳女が言った。

実際に馬鹿なのではという私のツッコミは面倒なことになりそうなので胸にしまっておく。

なんて優しいんだろう。

グラサン女も何かツッコめよ…いや喋れよ!

あーめんどくせえ!

「で、黒スーツの会の皆さんは何用で?」

「あ、ああ…鬼の妖力を察知して派遣されてきた八咫烏の者だ。」

「やたがらす?」

聞いたことある?とすーちゃんの方を向くけどすーちゃんは首を振った。

私の知らない有名な会社とかそんなんではないらしい、てか待てよ、鬼の力を感知して派遣されてきた──

「…まさか、人ならざるモノと戦う組織とでも?」

「え?それならさっき私が言った勘が当たったってことじゃん!」

流石は私、名探偵。

「でさー、その八咫烏さんは私たちをどうしたいわけ?」

「君たちが被害者なら保護する気だが…。」

「じゃ、そうじゃなかったとしたらぁ?」

私はいやらし~笑みを浮かべながら言うと、すーちゃんが顔をしかめる。

「花鈴…控えろ。」

「はいはい、まぁ大した連中じゃなさそうだし、適当に従ってもいいんじゃない?」

ちょっとばかし遊んでやろうかと思ったけど、すーちゃんの言葉に仕方なく従うことにする。

でもその言葉に猫耳女はカチンと来たらしい。

あからさまにイライラした表情で私のことを睨んでくる。

「大した事ないぃ…?」

お、釣れた。

そうだよね、私からいかなくても相手からこさせればちょっとくらい遊んでもいいよね。

「身の程、身体で教えてやろうか?」

「花鈴!!」

猫耳を挑発する私にすーちゃんの檄が飛んだけどもう遅い、猫耳はやる気みたいだし。

猫耳はぐにゃりぐにゃりと肩を、いや肩というより肩甲骨を動かしながら胸の辺りまで腕を上げて構える。

「リーダー、こいつは私が無理やり取り押さえさせてもらうわね…。」

「止めろ化け猫!」

「ついでにちょっとくらい痛い目にも──」

するっ、と。

化け猫と呼ばれた猫耳女が物音も立てずに私に向かって飛びかかってきた。

なーるほど、こりゃネズミを食われるわと納得する速度と気配を感じさせない動き。

普通の人間ならなんにも反応できないだろう。

「あってもらう!」

私の腹に向かって化け猫の拳が放たれた。

波の様に肩甲骨を動かし鞭のように腕をしならせた右の拳は、当たれば波の様に腹の中に衝撃が伝わる威力を秘めている。

まぁ当たったらの話だけど。

私は拳が当たる寸前に半身をきって、背後に受け流すみたいにその拳を避けた。

そのついでに──

「ほい」

私は半身をきりながら左手でとん、と軽く、化け猫の右腕を叩いた。

ほんの軽い力でたたいただけだが、思い切り前に向かって勢いをつけていた化け猫の拳はそのほんの小さな力でさらに前へと受け流され、微かに姿勢を崩させた。

そして崩れた姿勢の化け猫に向かって、私は喉を掴むように右手を突き出した。

「にゃ!?」

化け猫が声をあげる。

勢いがついてかつ崩れた姿勢のまま、首に思い切りブレーキがかかったように衝撃がかかると慣性で身体だけが前に動き、投げ出される。

このまま地面に叩きつけてやろう。

喉にかけた腕を更に前に突き出し、化け猫の身体が前に投げ出される勢いのままに地面に叩き落とそうとした。

「にゃん…とぉ!」

化け猫はとっさに崩れた体勢のまま地面を蹴り、跳んだ。

ろくに力が入る体勢ではなかったはずだがなんとその場で後方へ宙返りを敢行し、その場で回転。

喉から私の右手を外しつつ地面に叩きつけられることを回避した。

「おおー!」

曲芸じみた人ならざる動きに私は思わず声を出す。

流石は猫、動きが軽やかだ。

一瞬互いに背を向けあう状態になり、さっとお互い距離をとってから向き直る。

「言うだけあるじゃにゃいか…。」

「おーい、にゃーにゃー猫言葉出てんぞ猫ちゃん」

「くっ、うるさい!!」

またしても化け猫は肩甲骨をくねらせながら波を作り、拳を振るってきた。

ボクシングのワンツースリーのように左の順突き、右の逆突き、左のフックが顔面に飛ぶ。

私は防御はせずにそれをすべて体捌きで避けた。

首を捻って順突きを、身体を捻って逆突きを、首を反らせてフックを避ける。

さらに化け猫はそこから四つめ、フォーとして右のアッパーを顎に向かって放ってきた。

それを半身をきって避けようとしたんだけど──

「ひゅー!」

下から突き上げられるアッパーの軌道が不意に横から顎を狙うフックへと変化した。

ボクシングの可変するパンチとは質が違うパンチだった。

危うく騙されて顎を射貫かれるところだったけど、私は左腕で顎をカバーしてそれを防いでいた。

ガツン、と目の前の猫耳チビが放ったとは思えない、ガード越しでもクラっとくるような衝撃が左腕を痺れさせた。

流石は人外、まともに喰らってたら意識はなくなってたなこりゃ。

さっと距離をとって私は笑う。

「やるじゃん。」

「当たってれば今頃楽に眠れてたのに、可愛そうにね。」

「ついでにしばらく飯が食えなくなってたとこだったっての。」

存外できる。

私は単純に妖力から大したことはないと判断していたけど、なかなか適当に遊んでいられる相手でもないようだ。

さっきは喉を掴むようにしてやったが、もし次同じことができる機会になれば、掴まずに指をめり込ませてやる。

そんなことを考えながら私は化け猫と向き合った。

化け猫も空気が変わったことを察したのか少しばかり表情を硬くして構え、また肩甲骨をくねらせる。

おそらくさっきの可変パンチも肩甲骨を瞬間的に動かして放ったのだろう。

そう推理しながら私はどう料理してやろうかと考えてたんだけど──

「こら!」

いつの間にか私の背後に立っていたすーちゃんが私の頭をはたいていた。

むむむ、私の背後をとるなんて流石はすーちゃん、強い。

感覚的にはさっきの化け猫に殴られたよりもすーちゃんにはたかれた方が精神的に痛かった。

「あーん、いいとこなのに邪魔しないでよすーちゃん!」

「今のやりとりで敵意はないことは理解しました…非礼を詫びます。」

小さく目の前の化け猫に頭を下げてすーちゃんが言う。

化け猫はすーちゃんの姿勢に対して構えを解き、首を振った。

「あー、その…私もカッとなったし貴女が謝らなくていいのよ。」

「そーだそーだ、お前が謝れ!」

「にゃんだと貴様ぁ…!」

またしても猫語を混ぜながら化け猫が言った。

どうやら感情が昂ると猫語がでるっぽい、ウケる。

まぁたしかに敵意がないのは本当みたいだ、私は化け猫の懐の辺りに視線を向けながら頷く。

「ま、たしかに仕込んでる武器も使わなかったみたいだしー、一応殺す気じゃないことは分かった。」

「…お前、気づいてたのか?」

「見ればわかるっしょ、スーツの中にナイフかなんか隠してるってさ。」

化け猫の言葉に私はそう返す。

おそらくすーちゃんも気づいてた、殺す気なら変に私とじゃれあわずにさっきの可変パンチの要領で私を懐の何かでぶっ殺してるはずだ。

元から敵意の様なものは感じていなかったけど、私が妖力に慣れてないせいか嫌な感じはしたし、ちょっと試しがてら遊ばせてもらったのだ。

「で、保護するって言葉信じてもいいけどさ、八咫烏ってのはどういうとこ?」

「リーダー、頼むわね。」

「あ、ああ…。」

さっきからリーダーと言われている、男女区別がいまいちつかない黒スーツが銃を懐にしまいながら説明を引き受ける。

「単純に言えば妖の類から人々を守っている組織だ。」

「…で?」

「…それだけだ。」

「それだけかよ!」

私が思わずツッコむ、すーちゃんも少し呆れた様子で目を細めていた。

そこに突如聞いたことない声がぼそりと響く。

「一応…公的な組織…。」

さっきから一言も話さなかったグラサン女がようやく口を開いていた。

お前…喋れたのか。

その言葉にすーちゃんが反応する。

「公的…国の直属の組織ということですか?」

「そ、そうです、決して怪しい組織ではありません!」

「リーダー、そんなこと言うと怪しく感じるからやめなさいよ…。」

「あんたらさ…コントすんのやめてくんない?」

私が思わずそう言った。

「申し訳ない…とにかく貴方たちと家族の方は私たちが保護させて──」

「あー、大丈夫、もう私たちだけだから。」

「もう?」

「アレにさっき殺された。」

親指で真っ二つになった鬼を指さして私は言った。

「ここ入ってくるまでに死体見なかった?」

「そうでしたか…心中お察し──」

「あー、そういうのいいからさ、面倒だし、気にしてないし。」

私の言葉にリーダーが戸惑いの表情を見せた。

まぁそりゃ困惑するよねー、事情分かんなきゃ。

「とりあえずさー、立ち話もだるいし、その八咫烏とやらに保護がてら連れてってくんない?」

「花鈴…もう少し態度を…」

「いーじゃん、実際説明も面倒だし、コーヒーくらい出してもらわなきゃやってらんないよ。」

「すみませんお三方…少し、複雑でして…たしかに場所を変えた方が──」

すーちゃんが私の代わりにそう言ってくれる、そしてそれにと言葉をつづけた。

「先に母と父…それに、彼も弔いたいのです。」

「彼って、その鬼かにゃ!?」

「はい。」

思わず声を上げた化け猫に、表情を変えずにすーちゃんが答える、すーちゃんマジクール。

「武人でした、彼は。」

「…君、そっちの子と同じで実は結構やばい奴にゃの?」

親を殺したという鬼を称賛する様な言葉に、化け猫が失礼にも私を指差しながらすーちゃんに言う。

まぁすーちゃんの頭のねじがどっか飛んでるのは認めざるをえないけどさ。

その光景を見てリーダーがポンと手を叩き、口を開く。

「分かりました、彼らを弔う手配は私たちも手伝いますし、いったん場所を変えましょうか。」

「助かります。」

すーちゃんが小さく頭を下げる。

どうやらようやく立ち話から解放されるみたいだけど、はたしてこれからどうなることやら。

それにこの三体──

リーダー、化け猫、グラサン。

まぁまぁコント集団みたいで面白いけど、なんとなーく嫌な予感はまだ消えてなかった。

すーちゃんは気づいていない感じだし、妖力絡みでなにかあんのかなー。

そんなことを私が考えてるとリーダーが外に出るように私たちを促してくる。

どうやら車が用意してあるらしくて、そこに案内するみたいだ。

胸の中におさめられた姫斬り、その存在を確認するように私は胸に手を当て、促されるまま外へと向かった。

 

 

 

 

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