消えない楔   作:凧の糸

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 書きました。簡単に言うとヤンデレモノ読んで触発されました。


悪夢の様に美しい再会

 

 

「じゃあ、そこから飛び降りてくれよ」

 

 俺は未熟でどうしようもなく愚かだった。

 

 

____________

 

 夏のうだる様な暑さはとてもげんなりとさせられる。

 

 毎回この暑さがやって来るとあの夏のセミの鳴き声と彼女の血だらけの死体を思い出す。

 

「高瀬さん、高瀬さん?」

「あ、すいません。うっかりぼおっとしていました」

「最近は忙しいから何かと気をつけて下さいよ、あ、それよりも明日の見学の話なんですけれど……」

 

 見学。うちの会社では中・高生に社会見学の受け入れをしている。そこそこ有名なため、年に数十件程来るのだが、今回予定が空いている俺に案内しろと白羽の矢が立ったのだ。

 

「私立の学校で、幹部の子息だの令嬢だのが来るらしいんで結構マジで丁寧に頑張って下さいね!!」

 

「え……?」

 俺の呆然を物ともせず、上司は何処かへ去ってしまった。

 

 あの後、一応マニュアルはあるが大丈夫だろうかと対して読まなかった冊子を必死に読み込んだ。

 

 

 そして翌日。

 

 俺は夜中までマニュアルをぼろぼろにするまで読んだ結果、寝落ちしていた。かなり眠たい。が、欠伸を見せる醜態を見せれば最悪クビにでもなるかも知れない。そんなことを考えながらいそいそと出社した。

 

 

 

 

 

「おっ、きたきた」

 エントランスに中学生がぞろぞろと入ってきた。少しガヤガヤとしている中、「まあ、なんとかなるから」という同僚の言葉は俺の緊張をちっとも消し去りやしない。

 

 全員が入った様で、挨拶が始まった。

 

「今日は見学させて頂きありがとうございます。〜〜〜〜〜」

 

 目の前の代表の女の子を見て、俺の顔は真っ青になった。言っている事が何一つ分からず、頭でその声を拒否しているようだ。こんなクーラーの効いた所でぼたぼたと汗が染み出してくる。起きているのに悪夢を見ている気分だった。いや、悪夢は現実でなく、起きればもうそれで終わりになるだけマシなのかもしれないとさえ思った。

 

 目の前で挨拶をしている彼女はあの屋上に居た、"彼女"の様で、あの目で、あの吸い込まれそうな大きな瞳で俺の目を獲物を見つけたかの様に覗き、怪しげな口の歪みは"彼女"と同じ三日月そのものだった。

 

「おい、高瀬くん、そろそろ移動だよ」

「は、はい、わかりました」

 

 その後、何事もなく見学は終わった。本当にいつもの通りで何もなかった。だが、一つだけ。帰り際に

 

「見つけたよ、高瀬くん」

 近くを通る時にささやくように聴こえたあの声は確かに"彼女"だった。

 

「何か言った?玲子」

「いいや、何も」

「じゃあ、いいや!それでね、最近見たテレビでさ……」

 

 何気ない会話とともにそのままバスに乗車していったが、徐々に記憶から蘇った恐怖。同じ名前に同じ声の少女。これも全て俺への罰なのだろうか。

 

 

 

 

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 過去の俺ははっきり言っていやな奴だった。裏では優れている他人を妬み、劣っている者を小馬鹿にする。そんな奴。

 表面的には隠していたから友達もそこそこ居たし、教師からの評価だってそこそこなものだった。両親はそこそこ顔が良かったので息子である俺も自分で言うのはなんだが女子にもそこそこモテた。

 しかし、誰とも長続きなんてせず、こちらが振るか、振られるかの違いしかなかった。

 

 そんな俺も中学三年生へと進級した。勿論、高校進学を考えなければならないのでクラスはわいわいとしていたが、それ以上に話題になっている事があった。

 

 "彼女"大原玲子が転校してきた。

 

 都会からやってきた彼女はとびきり美少女だった。おまけに勉強も、運動も出来る完璧超人。嘘だろと思うかもしれないが、本当にいたのだ、そんな奴が。学校の人気者になるのに時間はかからなかった。

 当時の俺はそれが何故かとても気に障り、内心嫌っていた。でも嫌いなんて言ったら他の皆からハブられる事は間違いなく、鬱屈とした日々を送った。

 ちょうど今の様なセミが煩くなる時期、俺は"彼女"にこっそりと屋上へと呼び出された。

 

 今時の、しかも都会から来た中学生が机の中に手紙を入れておくなんてなんとも古臭くて変な事だと思ったが、特にする事もないのでとりあえず行ってみることにした。

 

 よっこいしょと屋上へ出ると"彼女"は今か今かとうずうずして待っていた。本当に何のようがあるのかますます訳がわからない。

 

「あ、高瀬くん!」

「何か、用でもあるのか」ぶっきらぼうにそう尋ねると

「あのね、私と付き合って欲しいの」

 この女ふざけているんじゃないか、そうとさえ思えた。だって、殆ど関わりのない、クラスの一男子に急に付き合ってくださいと言うのだ。

これをふざけていないと言ってどういうのだ。

 

「君の事がずっとずうっと好き。君の目の色から君の声やその指も好き、何から何まで好き!!なんでもいうことだって聞くし、あなた好みの女の子にだってなる、だから、どうか付き合ってください!」

 頭がおかしいを通り越してなんだか怖くなってきた。

 俺のためなら自分を変えるし、なんでも聞くとか、おかしいに決まってる。今ならそう言えるが、「なんでもいうことを聞く」その発言に気を取られ、当時の俺は凄くバカな事を考えた。

 

 

 

 「なんでも聞くなら、じゃあ、そこから飛び降りてくれよ」

 

 冗談だった。大袈裟な事を言うからからかってやろうとそう言った。

 

「うーん…… うん、わかった!」

 

 彼女はそう言うとひょいと柵を越えて飛び降りた。

 

「へ?」

 思わず声が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 いやな音がなった。

 

 俺が地面を見ると地面は彼女の血で真っ赤に染められていた。

 

「う、う、あ、嘘だ、嘘、うわあああァァァァァァァァ」

 

 ひたすら逃げて、逃げて、走り続けた。

 

 家に帰った後、ひたすらに部屋にこもった。親が心配してもこもった。

 

 

 

 そして、翌日。

 

 少し落ち着いて、俺は学校へ行こうとしたが、親から学校は休校だと聞いた。

 

 一週間ほど経って、学校へ行くと話は"彼女"の自殺で大騒ぎ。てんやわんやだった。そこら辺からの事を俺はよく覚えていない。きっと、耐えきれないから記憶に蓋をしたのだ。

 

 

 

 

 

 ちらほらと聞こえる噂の中に、地面に叩きつけられて、血だらけの"彼女"はにっこりと嬉しそうに笑っていたと言う。

 

 

 "彼女"は決して消えない楔を俺に打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 
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