消えない楔   作:凧の糸

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投稿です。


かさぶた

 

 

 休憩時間。

 

 学生の時であろうと、会社で働いていようとそれは変わらないひとときのやすらぎ。

 

「先輩、何見てるんですか?」

「ああ、高瀬くんか、おすすめに出てきたんだけどね、これすごいよ、岩が割れてんの」

「まあ、見ればわかりますけど……」

有名な動画投稿サイトで先輩はパッカリと割れている岩を見ていた。

「わかってないなあ、これ、斧とか使ってる訳じゃあないんだぜ」

「……? どう言う事ですか?」

 

 動画内では近くに人が立っているので、その岩が2メートルほどの大きさである事は分かる。一体斧なんかを使わずにどうやって岩を割ったと言うのか。

 

「教えて下さいよ、先輩」

「えー、缶コーヒーが飲みたいなあー持ってきてくれたら教えたくなるなー」

「分かりましたよ、いつもので良いですよね?」

「頼んだ!」

 100円の缶コーヒーを二つ、買ってくると先輩は丸椅子の上でくるくる回っていた。

 

「おっ、きたきた」

「はい、じゃあ教えて下さいよ」

「? 何を?」

「だから、岩が割れた理由ですよ」

 前から先輩は休憩時間になると途端にポンコツになる。仕事の時はあんなにキャリアウーマン然としているのにだ。そういうところが皆から好かれているのだろう。

「あー、そうだった、すまない、すまない。あれはね、楔を岩の割れ目に何個も差し込んで水かけてほっといただけなんだよ、不思議だろ?」

「確かに不思議ですね……」

「楔って木で出来てるだろ? 水をかけてやって放置しとくと膨張して岩だって割ってしまうんだと」

「へーそうなんですねえ」

「なんか釈然としない顔だが?」

「いや、思ってたよりも意外と地味なもので」

「そんなもん、そんなもん! 仕事だって私生活だって時間をかけて成るモノなんだから、ほら、もう休憩終わり!ほらほら、仕事仕事」

「分かりましたー」

 

 さっさと動く。 それにしても時間か……

 

 先日の悪夢の様な再会から何もなかったとは言え、何度も夢に

"彼女"が現れた。内容はいつも違うが、決まって何かしらの形で死を遂げる。飛び降りて死に、車に轢かれて死に、死んで、死んで、死んだ。正直、まいってしまいそうだ。

 

「〜〜くん」

 

 もう、勘弁してほしいよ。

 

「高瀬君!!!」

 

「うわっ!」肩を強く揺すられて、ようやく気づいた。

 

「す、すみません!」

 上司は俺になんとも言えない目を向けていた。

「最近、ぼーっとしてるけど大丈夫か? 呼び出しくらってるから、社長室に行くように」

「分かりました」

 俺は何かをやらかしたのだろうか? 前の見学の時に何かやらかしてしまったのだろうか?

 

 向かっている中で、周りの社員から哀れみの目で見られた。

 

 

 不安の中、社長室に着いた。

 

 コンコンコン

 

「高瀬です」

「入ってくれ」

 ガチャリとドアを開けると社長が座っていた。

「しゃ、社長」

「まあ、座ってくれ」

 

 促されたが、もう何が何が分からず恐ろしい。

 

 すると「少し電話をかけるがいいかね?」と断ってこられたので「はい」と答えるしかなかった。

 電話の内容から察するに親しい人物との会話のようだが、何故このタイミングで? 疑問はますます深まる。

 

 電話を終えると「すまないね、少し話をしようか」業務がどうとか、環境は良いかを尋ねられたり、たわいない日常の話をした。

 

 

 

「成る程、社長には娘さんがおられるんですね」

 

「中学三年生でね、どう接すればいいか……ははっ」

 

 苦笑しているが娘の事を大事に思っているのだろう。

 

 社長が時計を見た。「もうそろそろか」

「社長、何か……?」

 不意に立ち上がると「じゃあ、私は少しこの部屋から出るから、しばらく待っていてくれないか」

「え? 社長!」

 バタンと音が立ち、俺は呆然とする。

 

「……???」しょうがないので椅子で待っているとドアがゆっくりと開いた。

 

「え……」

 入ってきたのは随分と小柄な少女。

 

「久しぶりね、高瀬くん?」

 

「な……なんで、君が……」

 

「なんでって……あの時付き合ってくれるって約束したよね」

 彼女はあの綺麗な瞳で僕を覗き込んだ。

 

「君は、あの時に、死んだはずじゃ……」

 やはりあの日の"彼女"は幻覚なんかではなかった。

「ああ、そっか、急に私が現れたから混乱してるのね、説明してあげる。たった一人の愛する高瀬くんのためにね!」

 

 目の前な彼女は荒唐無稽な話をし出した。

 

"彼女"があの日死んだ後、真っ白い空間にいて、俺を探していたという。

 そうすると白い布(トーガというそうだ)を身に纏った神様を名乗る存在が接触してきたという。

 その神様とやらにお願いをすると『転生』という形で俺と再び会えるようにしてくれて、おまけで見た目なども前世と同じにしてくれたのだそうだ。

 

「嘘だろ?」思わず声に出てしまった。

 

「うん、嘘っぽいけど本当なの。でも信じてくれるよね?」

 ゾクリ、とした。信じないと言ってしまえば、取り返しのつかない事になりそうな気さえした。あの深淵の様な目はマズイ、何がマズイか分からないが「信じる」というしかないだろう。

 

「分かった、信じるよ」

 恐る恐る言うと、彼女は年相応の笑みを見せて「やっぱり! 大好き!」

彼女はギュッと俺に抱きついた。思わず中学生相手にドキリとさせられる。

「お、おい、やめろよ」

「や〜だっ!」

「やめろって」

「私に抱きつかれてドキドキしてるくせに〜」

「……っ!」

 彼女は中学生だが、起伏のある身体をしていて、前世と同じ様に顔は相変わらず美しかった。

「あっ!」

「今度は何?」

「高瀬くん、先輩と仲がいいんだってね」

「まあ、そうだけど」

 何も考えずに言ってしまった。あの暗い彼女の目を緊張ですっかりと忘れていたのだ。

「許せない、私だけの高瀬くんに馴れ馴れしくッ……」

 静かな怒りが溢れ出した。

「なあ……どうした?」

「まさかとは思うけど、あの女と付き合っているなんてことないよね?」

「ま、まさかそんな訳あるはずが…」

「ちゃんと答えて」

 氷の様な冷たさで俺を問い詰める。

「付き合ってないし、好きではないよ、頼れる先輩にくらいしか思ってないから」

 

「本当?」

「本当だよ」

「嘘だったら絶対許さないから」

 

 本気としか思えない発言の後、一転、ニッコリ笑って「じゃあ、待ってるから」

 そう言って社長室を後にする彼女。

 

 代わって社長が入ってきた。

「娘が君とどうしても話したいって聞かなくてね、本当に悪かった」

「いえいえ、そんなことはありませんよ、それでは私はこれで」

 さっさと一礼して部屋から出て、自分のデスクに戻る。

 

「おい、なんかやらかしちまったか?」

 同期の小林だ。

「なんでもない、そこまで大したことでもなかった」

「ほんとかよ〜社長直々に呼び出しくらったってちょっとした噂だぜお前」

 

すっかり俺が話題になっているらしかったが、本当に大したことではないのに。

 

「そういえば、今度の合コンお前参加してくんねえか?お前がいると居ないとだと結構参加率違うんだぜ、色男?」

 茶化すように言う小林。同期のよしみもあるし、コイツにはまあまあ世話になってるからな。

「分かった、参加する、いつだ?」

「来週の金曜、ちゃんと空けとけよ!」

 言うだけ言って帰ってしまった。

 

 

 

 

 

 仕事が終わり、俺も帰宅する。

 

 鍵を開けると知らない靴。

「!」声を出しかけた。変な奴がいるぞ、そう思っていた矢先、とたとたと彼女がやってきた。

 

「お帰りなさい、高瀬くん」

 

「なんで家にいるんだ?」

 

 驚いている。ただ、昼間に色々とありすぎて、驚く元気はない。

「合鍵持ってるの」

「え?」

「だって、私たち長い付き合いでしょ? 合鍵くらい持ってて当然よ」 

 

 突拍子もない事を言い出した。だが、俺はもう一つある事に気づく。

 

「なあ、なんか匂うんだが……」

「晩ご飯出来てるの、それかお風呂にする? それとも私?」

 

 まさかその言葉を聞くとは思っていなかった。ここでなんだかんだしても進まない。

「ご飯にするよ」

 

 

 

 彼女が作ったのは魚料理だった。煮付けを作ったらしく、とても美味しそうだ。

 

「昨日は肉料理だったから、今日はカレイの煮付けにしてみたの」

 他にはご飯に味噌汁と野菜の和え物、そして、卵焼きがあった。実に健康的な夕食だ。

 

 

「「いただきます」」

 まずはカレイに手を伸ばしてみた。

「美味しい……」

 身がほろほろしていて、汁気もちょうどいい。

「料理は昔から得意でね、君のためなら頑張れたんだよ」

 にっこり笑う彼女は誇らしげだった。

「あっ、手怪我したのか?」

 今まで気がつかなかったが、白い手に絆創膏が貼ってあった。

「ちょっとうっかりしちゃってね、大丈夫だけどズキズキしてるの、ちゅーしてくれたら痛いの消えるかも?」

 

「はいはい、後でしてあげるから」

「やった!」

 こうして見るとただの中学生。中身は立派な大人である事をついわすれてしまう。

 

 

「「ご馳走様でした」」

「いやー、ほんと美味しかった。ん、ふぁあちょっと眠いな……」

なんだか、ねむたくなって、き、た。

 

 

 

 ぐぅぐぅ……zzz

 

 

 

 

 

「やっと……寝てくれたね」

 

 彼女はテキパキと指示をした。

 

「それじゃあ、手筈通りにお願いします」

 

 扉から黒服の男たちが現れて、あっと言う間にアパート前の車に連れ込んだ。

 

「丁重にお願いしますね?」

 念を押された黒服たちは頷くと車に乗って何処かへ行ってしまった。

 

「ようやく、ようやくずっと一緒にいられる……うふふふふ、ふふ」

 

 嬉しさで身を震わせると、彼女は台所の片付けをした。

 

「これでよし、と」

 ドアにカチャリと鍵をかけるとそのまま彼女も自分の家へ帰っていった。

 

 

 

 

信じなかった時のバッドエンドいる?

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