いつも通り、ではない時間に目を覚ました。そう、何を隠そう今日は休日だ。待ちに待った安息に日。好きなだけ寝てしまってもいいという、完全に堕落を誘っている最上の日だ。いつもの退屈しない日々も悪くはない。決して悪くはないのだが、やっぱり休息は必要なわけで。何時もなら準備を始める時間帯に、寝間着姿のままリビングまで歩いてきた。取りあえず冷蔵庫から眠気覚ましの清涼飲料を持ってきて、それを片手にテレビを点ける。この時間帯にやっているとすれば朝のニュース番組だろう。近状を知っておくのは悪くはないことだ。
「レユニオンがまた暴動?ひぇ~...物騒だね~...。」
最近はこの話題で持ちきりだ。世界のあっちこっちでこの過激組織のレユニオンムーブメントが都市を襲ったりしている。あのチェルノボーグ事変を皮切りに何かが変わってしまったのだろう。
私もあの時、あの
...ついつい思考が仕事の方面に逸れてしまった。これもきっと職業病なのだろう。そうに違いない。
「こう、もっと面白いニュースとか流れないのかなぁ。シエスタのお祭りもそろそろだし?ボスの関係者ってことでタダで入りたいし!」
そう、そろそろ夏なのだ。パーティーの季節なのだ。爆音と極彩に溺れて踊り狂う祭典が近づいているのだ。あの夜は本当に忘れられないもので、今でも目を閉じれば眩い光と内臓を揺らす曲を思い出す。
関係者としてお弁当を貰いたいというわけではない。仕方なく受け取るのであって、欲しいのではない。美味しいから仕方なくだ。
そう言えば今年はD.D.D.さんやら、結構なメンツが揃うらしい。退屈しない日々が確約されてるようなもので自然と胸が高鳴る。
__こう言うお祭りごと、きっと好きだろうになぁ。なんて思いながら飾ってある写真へと視線を向ける。そこに映っている白髪の同族の男性を見て、きゅうと胸が苦しくなった。
"一緒に参加したかった"と喉まで登ってきた言葉を取りあえず飲み込んで、写真から目を背けた。こうして過去を振り返ってもあまりいいことはない、寧ろ苦しいのに何故思い出してしまうのだろうか。記憶に蓋が出来るのなら是非ともしたいものだ。
そうして悶えているうちに番組の内容が変わった。どうやら占い関係を紹介しているようだ。
「...おまじない特集?んー、オカルティックなのは信じてないしいっか。」
番組を変えようとしたその時、とある言葉が鼓膜を震わせた。
[好きな人のものでお守りを作ってみよう!]
その後に続く言葉によれば、どうやら想い人の持ち物でお守りを作ればその相手の健康やらを願えたりするというものらしい。何時もなら普通に聞き流していたであろう文字列だが、今回はそうもいかなかった。
そう、先日きっと彼の持ち物だと思われる弾丸を拾ったのだ。
「これをアクセサリーに?...首飾りあたりがいいかなぁ。」
きっとこれは気の迷いなのだろう。でも、その迷いを盲目的に信じてしまったんだ。
# # #
「ええと、こっちだったっけ。」
龍門の街をのんびりと、気ままに進んでいく。すれ違う人々は何時も通り喜怒哀楽に満ちていて、自然と安心感を得られる。何か異変があれば、その感情が一つに収束する。レユニオンが来ていれば恐怖一色だろう。祭りがあれば皆テンションが高くなるだろう。だから、今が一番平和だ。
今回の外出には大きな意味がある。そう、さっきの番組でやっていたまじないの件だ。詳しい話は省くが、想い人や大切な人のものをアクセサリとして身に着けるといいらしい。そのアクセサリを作るためにそういう店に出向いているのだ。
__いや、想い人ではない。断じて想ってない!雑念を振り払うためにも以前教えてもらったサンドイッチ屋の味を反芻させていく。そうだ、次はカツサンドを食べよう。チーズカツサンドを絶対に食べよう。カロリー何て気にするものか。
ごちゃついた思考に溺れながら、やっとその店に着いた。外装はごくごく一般的な見た目の煩くないものだ。ファンシーな見た目よりも入りやすくて精神衛生上大変宜しい。
「よし、お邪魔しまーす。」
「サンクタの子か。ここに何用だ?」
中には椅子に腰かけたリーベリの男性がいて、此方の姿を確認してから立ち上がった。年を重ねているせいか腰はそう良いようには見えず、何とも歩きづらそうだった。
「私から行くから大丈夫ですって!」
「そうか?悪いねな。それで、どんなことを求めて来たんだ。何を何にしてほしい?」
「ええとね、これをネックレスにしてほしいんだ。」
ポケットに仕舞っていた一発の弾丸を取り出し、リーベリの男性に見せた。弾丸をアクセサリにするなんて、後先数えて私一人だろう。きっと。
「ふむ、これを加工するんだね?そう時間はかからないだろうから、此処でゆっくりしているといい。飲み物は何が好きかね?」
「私は珈琲でいいよ。温かいやつだと嬉しいな。」
「今持ってくるから待っててくれ。雑誌とかは読んでいてくれても構わないよ。」
そういうと弾丸を手に店の奥の方へと姿を晦ませた。彼が言っていたように待とうと椅子に腰かけた。
腰かけたが...
「雑誌って言っても、歴史の本ばかりじゃん。」
中々勉強になる待機時間になりそうだ。
# # #
渡された珈琲片手に雑誌を読んで時間潰しを始めて、そこそこの時間が過ぎた。そろそろ分針が一周するころだろう。ウルサスの歴史や周りの国の関係など、所謂学園で習うことばかりのことを復習したことになる。
"知識は財産で力だ。勉強しておいて損はないぞ、エクシア。"
「...分かってるよ。」
頭の中で、今でも残っている言葉に返事を零した。傍から見ればきっと危ない人に見られてしまうだろう。今、あの人が帰ってくるのならそれでも構わないと思った。
帰ってくるなら、の話だが。
「待たせたな。ほれ、こんな感じでどうだ?」
本を読み切ったタイミングで、アクセサリを片手に店の人が姿を見せた。細いチェーンの輪に、金属の型に嵌められている銃弾があった。此処に来る途中に思い浮かべていた見た目そのもので、もしや心が読めるのではとちょっと考えすぎてしまう。
そんなことより、試着だ。重さとかを見なければ戦闘中に持てるかどうかが変わってくる。きっと大丈夫だと思うが。
「もう身に着けて大丈夫?熱かったりしない?」
「熱ければ持ててないだろう。」
「それもそっか。それじゃあ早速。ほうほう...成程ね。」
チェーンを摘まみ、頭を通していく。少しだけ重みを首に感じるが、それはそれでいい。
少し重たいくらいが、何だかあの人に見守られている気がして安心できる。彼に見守られるのなら、いつも以上に私の銃が火を噴くだろう。
「とてもいい感じ!想像通りだし!」
「そりゃよかった。お代は大体これくらいだ。」
渡された紙には一般的には安いとは言えない金額が記されていた。かなりの贅沢品だが、望んだものが手に入るとすればとても安いものだ。
上機嫌にポーチから財布を取り出し、料金とプラスアルファを手渡した。いい仕事には金を払えという社訓は守らなければならないだろう。
「毎度あり。然し、この金払い...角持ちのサンクタに似てるな。」
「...角持ちのサンクタ!?ねぇ、それいつのこと!?」
__引っかかる言葉が頭の中に届いてきた。ひょっとしたら彼女がここに訪れた可能性が出てきたのだ。
「この一か月以内だな。それがどうしたんだ?」
「どうしたも何も、その人を探しているんだ。...どんな人だった?」
「客の情報は話せんな。だが、男ってだけは伝えておこうか。」
「...へ?男?」
口にした言葉は、自分の期待を思いっきり裏切った。女と言われれば期待は出来たが、男と言われるとその希望すら粉々に砕かれてしまう。
案外、咎を背負った同族はいるのかもしれない。同士討ちの大罪を何故背負うのだろうか。
「と、兎に角。アクセサリ有難う!仕事仲間にもお勧めしとくよ!」
「嗚呼、よろしく頼む。これからもどうぞごひいきに。」
弾丸を服の内側に隠してから、いざ家へと駆けだした。
近いうちにいいことがあるような、そんな気がした。
"まじない"と取るか"のろい"と取るか。
それは彼女次第でしょう。