可愛いですよね。
ぶろろ、とエンジンを吹かせる音が聞こえる。地面に爪を立てて走るタイヤの音が聞こえる。だが、今は少し音が少ない気がする。何を隠そう、今は交通量の少ない時間帯だ。だからと言って安全なわけがない。走る鉄の馬に跳ね飛ばされてしまえばすべておじゃんだ。
__然し、然しだ。
「なんで私は此処でお散歩してるんだろうなぁ。」
こんな道路の上で歩いているのだろうか。此れもボスの命令なのだが、何故ここなのだろう。
ボス曰く、「客人を回収しろ」。その客人の概要は教えてもらったが、走り去る車の中を確認できるだろうか。タイヤをパンクさせれば何とかなるかもしれないと思考が巡ったが、そういうのは良くない。一応。
そう心の中で愚痴をこぼしていたその時、目線の先でそれなりの大きさの爆発が起こった。
ボスが依頼するということは、つまりはそういうことなんだろう。
「これはお迎えタイム到来かな?今迎えに行くからね~!」
煙の立ち上った方へと駆けていく。近づいて行くに連れて、だんだんと状況を把握してきた。煙の中には車が一つ取り残されていた。この爆発に巻き込まれたか、あるいはそう言う筋書きなのか。凡そ後者であることを想定しつつ、その車両に駆け寄った。
車の中に一人、外に放り出されたのが一人。取りあえず、車の中に居た彼へと声をかけた。
「盛大に歓迎されちゃってるみたいだけど、大丈夫?」
「はは、私めは大丈夫でございます。...坊ちゃまの事、お願いしても宜しいでしょうか。」
「...そういう事。了解!っと、その前に避難しておいてね?」
「それは勿論。では、此れにて失礼。」
執事風なのか、本当に執事なのかわからない彼は平気そうに車から離脱し、そのまま煙をうまく使い道路の端の方へと逃げていった。身のこなしからして、きっと只者ではないのだろう。
漫画で読んだことがある。こういうのは"お決まり"らしい。
次は地に伏せている少年だ。丈夫そうな盾を握って、地面と熱い口付けを交わしていた。だが、周りを見ようとしている辺りまだ平気そうだ。
__煙の外から何やら声が聞こえる。彼に手を差し伸べる前に、少しばかり黙らせるべきだと判断し、腰に準備しておいた特製銃を手にした。
大体の声の位置を把握し、引き金を引く。中身は勿論実弾だ。
「あぐッ!?」
見事命中したようだ。自分の銃の腕前には改めて感心してしまうが、今はそんな状況ではない。
「安っぽい反応をすることは好きじゃないんだが。なァ、ペンギン急便。」
煙が晴れていく。視線の先には狼頭に帽子を被った連中がわんさかと群れを成していた。よく飽きもせず集まるなと思い、ついついため息が漏れた。
銃を構えるのはやめておいて、話し相手を見据える。会話するにしても武器は必要ない。その気になれば、いつでも撃ち抜けるのだから。
「良く知ってるね!今回のコレ、ちょっと古典的すぎないかな?何年前の流行?」
「爆破は個人的な趣味だ。」
「うわ、古臭い。」
「言ってろ。__周りをよく見てみろ。仕事はそんな単純なものじゃねえぞ。」
周りは既に帽子の連中だらけ。相手の話を盗み聞きした限りだと、さらに待ち伏せもあるようだ。
今回の仕事はかなりハードなものになりそう、だと直感がそう騒いでいる。ハードな分、楽しめるというわけだが、疲れすぎるとそれはそれで頂けない。
地に伏せていた彼もゆっくりと立ち上がった。ふらついてはいるようだが、その二本足でちゃんと地面を踏みしめれているようだ。
「はは、中々徹底的にやるね。っと、大丈夫?まだまだいける?」
「はい、なんとか。...あなたは、エクシアさんですか?」
「そう、大正解!君の名前は...バ、バ...なんだっけ。」
「...バイソンです。」
「そうそう、バイソン君!」
確かこの子は何処かのトランスポーターの息子さんらしい。ボスも詳しいことをしゃべっていたが、もう遠の昔に忘れている。名前の頭文字を思い出しただけでも褒めて欲しいくらいだ。
と、無駄に誇っている状況じゃない。未だ膠着状態だが、このまま続くという保証は無い。何か手を打っていくべきだと理解しているが、どうしたものかと攻めあぐねているのだ。
「エクシアさん、僕たちは此処を離れないと...。」
「そんな表情を硬くしないの。大丈夫、執事さんの無事は確認してるから!」
「そうなんですか!?よかったぁ...。」
「案外平気そうだったけどね、あの人。」
さっきの執事さんはきっと大切な人の一人なのだろう、と察しがついた。確かに無事を知れるというのは、心の重みを良く取り除いてくれる。
つい最近までの私がそうであったのと同じように。
__空を裂く音が聞こえた。とっさに身をよじれば、自分の体の合ったところを矢がすり抜けていった。
「まだお話してるんだけど。空気とか読めないの?」
「知ったことか。ペンギン急便のエクシア、そしてそこの小さなお坊ちゃま。今すぐこの場で降伏しろ。俺たちと一緒に来い。」
「そういうの、女の子にはモテないと思うなぁ。って、今回は知らない顔が多いね?みんな地元からの出稼ぎさん?」
「お前には関係ねえ。今回は徹底的にお前達を潰す。」
今回もどうやら本気らしい。何回も聞いているセリフだからか緊張感は薄いが、殺気は本物であった。
それを向けられたところで、あまり怖くもないのだが。
"今回は"ではなく、"今回こそ"のほうがよほど似合う、なんて考えが浮かんだ。
「龍門には長くいるけど、貴方達の縄張り争いって単純で幼稚だよね。シラクーザのマフィアってさ、やられ役以外も務まるんだ?」
「はは...シチリアンを馬鹿にしたことをあの世で後悔するが良い、*龍門スラング*。やれ!」
眼前のマフィアがボウガンを構え、引き金に指を添えた。狙いは勿論此方であり、今度は外す気はないようだ。
ひゅん、という音と共に鋭利なそれが射出された。目掛けるは恐らく体の中心だ。よほど先ほどの言葉が頭に来たのだろう。
今回は避ける必要がない。そろそろ約束の時間だからだ。
__がきん。鉄と鉄がぶつかり合う音が響いた。射出された矢は天使へ届かず、堅牢な盾に遮られた。
「ふ~...何とか間に合ったわ。」
「約束通りでばっちしだよ、クロワッサン!」
ペンギン急便の守銭奴が、見事その矢を弾いたのだ。
新たな客人にマフィアは若干のうろたえを見せるが、攻勢を崩す気はないらしく、ボウガンを構えたままだ。相も変わらず矛先は此方に向けており、何時噛みつくか伺っているらしい。
「あいつら手を下げるつもりは無いみたいやで。これからどうするんや?」
「それはもう、クロワッサンが道を開けて、私が殿を務める。降りたボーナスは折半でどう?」
「中々ええやん?それじゃあ、遠慮なく行くでぇぇぇえッ!」
彼女の握っているハンマーは特別製だ。構成素材の内、何割かが源石になっている。破壊力はすさまじく、これで傷を与えようものならそのまま感染させてしまう凶悪っぷりだ。
それを道路に振り下ろせば、結末は想像に容易い。道路は大きく揺れ、マフィアたちの戦線は崩れていく。それと一緒に道路に亀裂すら走った。
爆発で道路が傷ついているのだ。これくらい誤差に違いない。
「よぉし、一気に駆け抜けるよ!」
「え、あ...はいッ!」
強引に切り開かれた道を三人で一気に駆けていく。
マフィアたちの声が遠くなっていくように、迅速に。
# # #
「ねぇ、クロワッサン。」
「ん、どしたん?」
「これで何回目の行き止まり?」
「大体八回目くらいとちゃう?」
マフィアから逃げた後、絶賛龍門の裏路地で迷っていた。今日は運よく掃除屋達と出くわしていないためかなり楽だが、何度も行き止まりに当たると疲れてくる。
龍門の裏路地は他の都市の裏路地に比べて物凄く入り組んでいる。古くからある建物のせいで半ば迷宮として知られている。
「どうせ周りは何百年も無人の建物なんやから、壁に直接穴を開けてもええんとちゃうんか?」
「近衛局が景観ガーとか言い始めるからダメ。そうなったら面倒くさいでしょ。」
「あ、それもそうやな!」
「ま...待って下さい!何処に行くつもりなのですか?」
「何処って...何処行ってるんだっけ?」
「そんなぁ...!」
次はどこをどう向かおうか、なんて思考を巡らせているその時、少し遠くから物音と先程の連中の声が聞こえてきた。
「やつらはここにいるはずだ!行き止まりに潜り込んで死を待っているだけの奴らを包囲しろ!」
奴らも脳がないわけではない。統制の行き渡った行動に、それなりの直感、それと鍛えられた肉体がある。一般人ではなく、あくまでマフィアなのだ。
もう既に道を塞ぐように人影がうっすらと見えた。あの妙に洒落た帽子を被った人影だ。
「そうだッ!」
「何かいい手立てがあるんですか!?」
「そういえばさ~...ちゃんと挨拶してないね、私たち。」
「え...えぇッ!?」
向こう側に見える人影が構え、先ほどぶりの矢を飛ばしてくる。それが肌に届くことはなく、槌を握った彼女に弾かれた。
お互いに視界は決して良くない、寧ろ悪い方だ。光のあまり届かないこんな時間だ、致し方ないことだ。こういうときの私の光輪は唯の的になってしまう。
一層の事、周りを強く照らせばいいのだが。
「それって今言うべきことじゃないですよね!?大事なことですか!?」
少年の叫びはこの裏路地で小さく木霊した。悲痛で、困惑に満ちた声だった。
それも空気を切り裂き此方に飛んでくる矢の音でかき消されるわけだが。
__ぺたり、ぺたり。何かが歩く音が鼓膜を幽かに震わせた。何か湿った靴でも履いているのかというような音だ。
「挨拶はな、それはそれは重要だ。とても重要だ。素晴らしく重要だ。」
その声の主は暗がりに隠れ、未だ見えない。
今わかることと言えば、それは並みの人間じゃないということだ。声による威圧感が違うのだ。
「俺達は企業文化を形作ることを非常に重視している。今日のホットワードは"お決まり事"だ。」
声の主はもうこの渦中のど真ん中に居るらしい。が、正面を向いていても見えない。
だが、声は正面から聞こえるのだ。
ならば、マフィアたちは見下ろすしかない。そして、そこに居る存在を知覚することになる。
「まぁ、さっき決めたことなんだがな。」
黒と黄色、そして白の艶やかな肉体。何とも愛らしいサイズ感。そしてその愛玩動物的雰囲気をブチ壊すサングラスと帽子。
彼こそが皇帝。ペンギン急便社長にして人気コンポーザー。癖の強さは気にしてはならない。
「あ、あいつは皇帝!早くリーダーに知らせろ!」
皇帝とは、所謂危険人物の一人だ。気にいらないことは全て捻りつぶすのが常の気分屋だ。
マフィアが慌て始めるのも無理はない。一歩、また一歩とゆっくり後ずさりを始めていた。
「いや、待て!こっちにもう一人__ぐわぁッ!」
一つの影が吹き飛んだ。また一つ、おまけに二つと次々飛んでいく。まるで何かが道を作っていくように。
人の壁が見事まっすぐに開通し、一人のループスが姿を現した。この量のマフィアが片手間程度であるのか、口にはチョコ菓子が咥えられていた。
「"餌"が空になったぞ、エクシア。」
ペンギン急便の一員、ループスのテキサスだった。彼女の強さは無類のものであり、並であればまず歯が立たない。
シラクーザの人間ならまず手を出さない相手だが、きっと眼前のマフィア達はそこら辺のことは教えられてないようだ。
私たちに喧嘩を売るのだ。教えない方が怖気つかなくて勝手がいいのだろう。
「シラクーザの奴らも馬鹿ばかりじゃないってことだよ。どうせまた機会があるだろうからさ、気にしないで?」
役者は凡そ揃った。ボスも含めて配置について、いつでも開戦可能となった。
だが、その前に。
「それじゃあ紹介するね。こちらが私達ペンギン急便の緊急社員になった、バイソン!」
「え、本当にやっちゃうんですか!?」
「やるに決まってるでしょ。ほら、入社式って大切でしょ?」
取りあえず、この場の皆に紹介。種族からして少し細身の彼だ、よく覚えられるはずだ。
この華奢な子が成人すればたくましい体を手に入れると考えると少し吹き出しそうになる。顔と体が釣り合ってないのだ、誰だって吹き出す。
__話が逸れた。目の前のマフィア達に集中しなければならない。
「あいつらの逃げ道を塞いだ。も、もうやるしか__」
「そこで寝ていると良い。まだ死ぬ番ではないだろう。」
どすり、と鈍い音と共に構成員の一人が倒れた。テキサスが剣の塚が彼の首筋に炸裂したのだ。あれを食らって立てられるのは余程体を鍛えている人くらいだ。
片手間に掃除された彼がなんだか可哀そうになってくる。でも弱いのがいけない。この世界では淘汰されてしまう側なんだろう。
せっかく切り開いた人の壁も修復されつつある。どれだけ群がってきているのだろうかと気が遠くなる。
「___セット。」
暗闇に声が響く。あの皇帝の声だ。
「はい、点灯ッ!」
次に言い放たれた言葉と共に、辺りが強い光で照らされた。勿論それを直視しているのがあっち側で、こっち側は光を背にしているスター気分だ。
こういうのはヒーロー物のお約束のシーンだ。悪者をやっつける前のルーティーンの一つだろう。
「ようこそ、ペンギン急便へ。*ヴィクトリア裏路地でのスラング*。」
「お前たちは既に私の視線の中におり、私の視線の中にはペンギン帝国の国土がある。」
「お前たちはもう入国済みなわけなんだが、ペンギン帝国に入るためのビザはお持ちで?」
「え、ないの?ないのか、そうか。」
「ならみっちり、取り締まらないといけないな。実家のママにでも泣きついていろ。」
楽しい楽しいパーティーの始まりだ。
# # #
「ここがペンギン急便の拠点ですか...。」
「私達の拠点は一つだけだ、あまり上手く片付けられなくてな。自由に座ってくれ。」
楽しいガンパーティーも終わり、自分たちの本社に踏み込んだ。少し掃除を怠っただけでこうも汚れてしまうのだ、裏路地の埃とかは洒落にならない。
かといって"鼠"が住んでるようなボロ屋敷じゃない。問題なく過ごせる拠点だ、ただ風情が強いだけで。
「あ、ありがとうございます...まだきちんとお礼を言っていませんでしたね、ペンギン急便のみなさん。」
「私たちは今日の仕事を終わらせただけだ。まずは自己紹介をしてくれ。」
「あ、はい!――トランスポーター、コードネームはバイソン。フェンツ運輸から来ました。父の指導を受けて、貴社を見学しに来た次第です。よろしくお願いいたします。」
真面目さが滲み出る挨拶が皆の耳に届いた。きっと親御さんも真面目で、この子のように顔立ちもいいのだろう。このまま逞しい体を取って付けたような想像が頭の中を過り、また吹きそうになってしまった。
__フェンツ運輸。かなりの大手企業だという記憶はある。ラテラーノの方でも、同級生が目指していたりしたような気がする。気がするだけで真偽はもう思い出すこともできないが。
「君の逞しいお父さんからこの...いや、どういうことだ。何故こう育てたんだ...。」
ボスの一言で耐え切れなくなった。一応彼には背を向けてはいるが、笑い声が届いているかもしれない。
「...ボス。」
「嗚呼、すまない。続けてくれ。」
「ええっと、先程の襲撃は疑いもなくペンギン急便とフェンツ運輸に対する挑発かと思います。このことは決して軽視してはいけないでしょう。必要があれば父と近衛局、そしてツヴァイ協会のほうに報告します。このことは悪質な攻撃とみなすべきかと___」
聞いているだけでIQが上がってしまいそうな口調だ。ツヴァイの連中も、近衛局もこんな人ばかりだった。
運輸よりも正義側に立った方がいい志だと思った。受かるかどうかは別として。
いつまでも背を向けるわけにも行かず、深呼吸を一つしてから向き直した。
「なぁ、テキサス。晩御飯は何にする?」
「私は何でもいい。」
「今日は歓迎パーティをしよう!あー...でも、ソラを呼び戻してからだね。」
「テキサスはんが連絡すればすぐに帰って来るやろ。...あ、続けて?」
「...それで、僕たちを襲ってくる敵やペンギン急便を調べている人たちに関する何か手がかりは?」
「手掛かりねぇ。此れっていつもの業務紛争じゃないの?」
「えっ、業務紛争...!?」
私の返した言葉に表情をころころと変える彼を見て、また面白おかしく笑いそうになったが堪えた。
そこまでカルチャーショックなのだろうか、なんて思いつつ話を続けようとした。
が、ボスの声に遮られた。
「テキサス!俺の引き出しの中にあった葉巻は!?」
「ソラが掃除して、それで捨てたんだろう。」
「ああ、そうか。全てわかったぞ。私はこのの夜に死ぬんだぁ。だめだ、もうだめだぁ...。__あ、続けて。気にしないで。」
「あ、はい。次はどう来るかを考えるためにも、まずは敵の目的をはっきりさせるべきかと――」
「ちょっと待ってくれ。レコード、俺のレコードは!一箱ここに置いておいたのは?」
「...。」
どんどん彼の表情が曇り、そして翳っていく。此処の空気がそんなにも合わなかっただろうか。確かに埃が少し舞っていて気分は悪くなる。
これからは掃除を定期的にする必要があるのかもしれない。当番制にされたらたまったものじゃないが。
「嗚呼、すまない。バイソン、続けて。」
「...僕はもう言いましたけれど...。」
「彼らの目的は。」
「そう!彼らの目的は僕です。貴社と我社の関係を挑発するためのものなのかもしれません。」
「なんだ、そんなことか。これぐらいのことで前のことの仇になるとは...。」
「えっと...何か心当たりがあるのですか?」
「――よしよし!テキサス!奴らを調べに行くぞ!」
「手当は三倍だ。」
「まあ、この程度の喧嘩なら月に17、8回はあるよ。トランスポーターってのは全員こんな感じでしょ?」
「...あの、トランスポーターっていうのはここまで秘密裏では無く、素早いもの...武力は別に...。」
「...それって本当?」
きっと今の私の顔はさっきの彼のようになっていることだろう。
だって、今までそうしてきたことを否定したのだ。有名人の隠密警護とか、今回の喧嘩とか。そういうの込みでトランスポーターだと思っていたからだ。
物凄いカルチャーショックだった。
「...私達は物流会社の筈なのに、どうしていつも派閥闘争に巻き込まれているのだろうな?」
「奴らは無知の度合いがヤバすぎて、自分の生まれてから人としての品位が低すぎるからだよ。」
「社長が私達に給料を払っているからやで。でもちゃんと法律を守って荷物は運んでるからな。まあ、大体は武装輸送になるんやけどな。」
「それって、何か問題でもあるの?」
これが私の経験したトランスポーターの仕事だ。頼まれた仕事がたまたまそういう事だっただけで、きちんとオーダー通りこなしている。
其処に何も問題はないはずだ。
「ええっと、それで本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃなかったらもうトランスポーターやってないよ。」
「う、それもそう...なのかな...?」
__かたん。乾いた音が近くで聞こえた。テキサスがお菓子の箱を持って、何か考えている様子だった。
いや、これはまずいかもしれない。此処に置いてあるお菓子を開けてろくなことはない。特にクッキーは湿っていたらもう終わりだ。
「え、開けるの?ここで開けるのは湿気もあるしまずいよ。」
「いや、此れはソラからの暗号だ。確かこれは..."不審者"だったか。」
「なんや?それ本気なんか?冗談やないやろな?」
「単にソラの言っていたことを覚えていただけだ。きっとソラは追いかけて出ていったんだろうな。」
此処の社員の一人であるソラは洒落た事とか、こういった暗号ごとをたまにやっている。そもそもそれを覚えている人はテキサスしかいないわけで、謎解きにすらならない。
テキサスにとっては楽しいのかもしれないが。傍から見ればやばい二人だ。
ぱんぱん、とボスの手をたたく音がした。いつもの退勤の合図だ。
「今日はもう退勤だ。残業もないし、資本主義の圧迫も無い。そうでなければ死人も安心できないだろう。で、俺と飲みに行く奴は?」
「え、もしかしてボスの奢り?実はなぁ、前に値段の高い蔵酒を仕入れておいたんや~。極東のいいとこの奴でなぁ~。」
「全然良いよ。どうせ君たちの給料から差し引くだけだしな。」
「やってられへんわ!」
もう解散の時間だ。此処に長居していたら肺が埃でやられてしまう。それに、早く家に帰って首飾りの手入れをしたいのだ。
私たちの弾丸は錆びやすい。だからこそ手入れが大切だ。__彼が持ってたかもしれない弾丸は、ぴっかぴかにしてもっておきたいのだ。
背伸びをして早速帰ろうとしたとき、また彼の声がこの空間に広がった。
「待って下さい!その...なにか対策はあるのですか?」
「いらないよ。」
「...龍門近衛局と、ツヴァイ協会には介入させないのですか?」
「たぶんできないだろうね。あそこの仲滅茶苦茶に悪いし。」
「そうだったのですか...。父には、困ればその二つに頼めばいいとだけ教えられてたので...。」
「もう起こってしまったんだ、私たちで対処するしかない。これ以上の被害を出さないようにな。前回の公共物破損リストは長かったんだ。」
「...あの、いつもの仕事っていうのは?」
「配達を委託されて、喧嘩をする。喧嘩があるのなら喧嘩が優先。ちなみにどの依頼もボスの手からのもので、誰がやるのかというと、誰かが奪うまで誰のものでもないよ!」
「はぁ...。」
「ふむ、バイソンという子供を最近にお父さんから頼まれたが、たとえ一時的であろうとも君はペンギン急便の一員だ。分かるな?」
「――分かっています。...おそらく。」
「ペンギン急便物流スタッフの心得第一条である重要な規定は覚えておかないといけない。それは"細かいことにはこだわらない"ということだ。」
「昨日は"愉しみながら死んでいく"じゃなかったっけ?あれ、一昨日だっけ。」
「"一瞬を楽しめ"やなかったっけ?」
「誤差だろ、誤差。」
社訓というのは更新するものだ。少なくともペンギン急便では毎日更新という素晴らしい心意気だ。
意味合いはほぼ一緒だから、一つ覚えておけば何とかなる気がする。全部が全部覚える必要もない。
「君のようなお坊ちゃまを誘拐したいという犯罪者は少なくはない。良い感じの金になるからな。ただ、やられたらやり返す。それが俺達のやり方だ。」
と、それらしいことを言いながらボスはソファの方へと歩いて行った。
確かあれは偶然知り合った"仕立て屋"へのオーダーメイドで手に入れたものだ。座り心地が良く、一切合切の疲労感から解き放たれるというものだ。
実際あれに座っているときは数時間寝た気がする。ボスにたたき起こされて間違って殴ったのはいい思い出だ。
そこまで完成度のあるソファに座っているというのに、ボスは何か違和感を覚えているような表情を浮かべていた。
「――待ってくれ、ケツがおかしい。完璧な人体工学に基づいたソファーの下に何かあるんだが?」
「ちょっと待って、中確認してみる。」
ボスには一度退いてもらい、ソファのクッション部を引き剥がした。
中にはちょうどいい大きさの愛らしい入れ物があった。それを掴み、引き抜けばパステルカラーで彩られたお菓子箱が姿を現した。
「あ、かわいいキャンディーボックスだ。ボス、ソファの中にお菓子を盗んでおくなんて!」
「何をでたらめなことを、お菓子をこんなところに隠すなんて馬鹿なこと――は?キャンディーボックス?」
「キャンディーボックスの上に書いてあるよ「ヴィクトリアフルーツキャンディ」って。折角だし食べようよ!」
ヴィクトリアの果実はそれなりに美味しいという話をどこかで聞いた気がする。きっとこの箱の中で待ってくれている飴ちゃん達も極上の美味しさなんだと期待が募る。
蓋に手をかけて、少しずつ力を掛けていく。少し硬い気がするが、たぶん開くだろう。
「離れろエクシア。それはおそらく罠だ。開けるな――」
「へ?」
ぱかり。そんな間抜けな音が聞こえたと思えば、次の瞬間には視界いっぱいに光が溢れた。
アンケートありがとうございます。結果が割れててどちらも需要があるのだなと。
今回のは参考にします。えぇ、勿論。