貴方を探して、逢いたくて。   作:語鴉

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お待たせしました。多分年内最終投稿になるとは思います。

ストーリー補完のためのバイソン編??まぁいいでしょ。(???)


6th Bullet "寄り道は別腹。"

 __視界がぼやけている。曖昧な視覚情報から察するに、ここは橋の上じゃない。確か僕はペンギン急便の皆と一緒に橋の上を車で走っていて、マフィアに追いついて、そのまま爆発に巻き込まれた。

 導かれる答えは純粋なことだ。あの橋から落ちたんだ。

 

 手首に身に付けていた時計に目線を遣る。指し示すのは午後の七時半前、あれから言うほど時間は経ってないらしい。

 

 なら、ペンギン急便の皆と合流するためにも行動を起こすしかない。そう思い足に力を入れ、立ち上がろうとした。

 

「こんな所で油を売っている暇は...あぁっ!?」

 

 が、ぬるりとしたものに足を取られて立ち上がれなかった。周りには様々な色をしたキャンドルが集められており、其れの中に落っこちていたらしい。

 蝋燭特有の匂いが鼻孔に染みついていて離れてくれない。単体だとリラックスできるが、此処まで多いと不愉快さが勝ってしまう。

 

 これは当分キャンドルを使えそうになさそうだ。

 

「そこの君、角にもキャンドルが引っかかってるよ。」

 

 自分の背後の方から、落ち着いているような、気力がないような女性の声が聞こえた。言われたとおりに角に触れれば、案の定キャンドルが刺さっていた。キャンドル立てかと思うくらいに綺麗な収まり方だった。

 何とも言えない羞恥心をかき消すためにもしっかりと握り、引き抜こうとしたがぬるぬるして中々取れない。本当に勘弁してほしい気持ちで胸が満たされていった。

 

 振り返ればそこには、闇夜に溶け入りそうな深い蒼髪の女性がいた。

 

「ああっ、手が滑って抜けない...この...っ。」

 

「其処の蝋燭君、まずはじっとしてて。静かに、この箱の後ろに隠れて。」

 

「え...?」

 

 最初、彼女の言った言葉を理解できなかった。急に箱の後ろに隠れろと言うのだ、困惑してしまったのは悪くないだろう。

 

 __遠くから足音が聞こえる。急いでいる人間の足音だ。これで彼女の言いたいことを十分ではないが理解出来た。

 すぐさま立ち上がり、言われたとおりに箱の後ろへと向かった。途中また滑りそうになったが、さっきみたいに視界が不明瞭じゃないおかげで堪えることが出来た。

 

「よし、いい子だ。そのまま静かにしておくんだよ。」

 

 妙に優しい声が頭に響いた。小さく頷いて、近づいてくる足音達が去っていくのを待った。

 こういう時は時間が長く感じられると聞いたことがある。どうやらその話は事実のようだ。

 相手も急いでいるはずなのに、只管に流れる時間が遅かった。長かった。

 

「フロンゾとの通信が途絶えた。多分近くには居るはずだ。」

 

「後はペンギン急便の奴らもいるはずだ。ターゲットを見つけたらボスと"本部"に報告しろ!」

 

 焦るような声、慌ただしい足音が過ぎ去っていく。このままいなくなってしまえばいいのに、とただ願ってしまうのは致し方のないことだとは思う。

 本当に面倒な相手に目を付けられてしまった。

 

「もう出てきていいよ、蝋燭君。」

 

 小気味いい声が鼓膜を震わせた。

 

「あ、はい...。助けてくださって有難うございます。ですが、貴方を巻き込むわけにはいきません。なるべく早く離れてください。」

 

「私もそうしたいんだけどね。でも依頼とかあるからさ、そういうわけにも行かないんだよね。」

 

「依頼、ですか。」

 

「そ、依頼。そこそこ割の良い奴が舞い込んできてね。」

 

「成程...。」

 

 依頼と言うからには、フィクサーかトランスポーターか...その類の何かだということになる。服装からして、何処かの運送会社か協会の人ではなさそうだ。

 

 __気になったのが黒い輪に角。フィクサーであるなら、性別は違うが"煙管の煙"の関係者なのだろうか。

 そんな詮索ばかり頭に思い浮かんだ。

 

「然し、本当に服がボロボロだね。ペンギン急便との付き合い、中々に大変でしょ?」

 

 前言撤回。巻き込むかどうかの次元の話では無さそうだ。

 

「えぇ、まぁ...。中々に刺激的ですね。」

 

「でしょ?退屈しなくていいんだよね。」

 

「...ところであなたは?ぼくがペンギン急便と関わってるのを知っているあたり、通りすがりでは無さそうですね...。」

 

「そうなに警戒しなくても大丈夫だよ。君の敵じゃ__おっと、また奴らが来たみたいだ。また隠れて。」

 

「えっ、あっ、またですか___!?」

 

 押し込まれるがままにまた木箱の後ろに隠れた。相手側もかなりしつこく見て回っているようだ。

 マフィアとかはしつこいと聞いたことがある。一度噛みついたら決して離さない様にするらしい。今こそそれを痛感してる瞬間だった。

 

「クソッ、フロンゾは奴らに捕まったらしい。なぁ、俺達はどうする?」

 

「どうするも何も、何もやらなきゃあいつらの機嫌を損ねることになるぜ?折角部分義体にしてもらったんだ、その分は返さないと駄目だろ?」

 

「だからそれでどうすんだよって聞いてんだ。」

 

「嗚呼、わりい。ならバイソンとか言うフォルテの坊主を回収しよう。あいつは奴らからはぐれたらしい。」

 

 ぼくがペンギン急便の皆とはぐれているのは確実に彼方側に伝わっているらしい。お互いの手札(情報)からして、こっちが明らかに不利だ。

 

「でもここは市街地だ。俺らで出来るのか?やり切れるのか?」

 

「カポネさんと出資者様にはお見通しだ。目立たない様にこっそりやればいい。龍門の連中も、ここまで手が回る訳もないだろう。態々生ゴミ臭い裏路地に構う奴なんて...。」

 

「分かった。なら俺達はあいつを救出に行って、お前らは捜索だ。面倒な事になる前に片付けるぞ。」

 

 今回も上手くやり過ごせたのか、ぼくに気付かずに二手に分かれて走っていった。その走り方からして必死さが伺えた。まるで何か恐れている事でもあるのだろうか。そうでもなければ心配事はぼくが捕まらないことくらいだろう。それか、ペンギン急便の皆に正面から当たることか。

 だが彼らはそれよりも恐れているものがあるらしい。

 

 会話に出てきていた"出資者"、"あいつら"。きっとそれが__

 

「蝋燭君、考え込むのもいいけど今はそんな時じゃないよ。早く此処を離れないと面倒な事になるからね。」

 

「はっ...そうです、ね。」

 

 声を掛けられ、今置かれている状況を思い出した。

 ぼくは追われている。此処に居続けたら捕まってしまうことを。考え耽るのも控えたほうがいいのかもしれない。

 

 __臨機応変に対応するペンギン急便が何故やっていけてるか、少しわかった気がした。

 

「ほら、立ち上がって。ええと...どれどれ...嗚呼、あそこか。取りあえずあっちに手を振っておいて。」

 

「あっち、ですか?一体何のために...。」

 

「いいからいいから。取りあえず、ね。」

 

「はぁ...。」

 

 曰く、少し遠くにある公園へ向かって手を振れ。

 

 これを実行する理由は語られなかった。ただ実行すればいいと。

 この人の言う事が全て不思議だ。雰囲気のせいで不思議になっているのか、はたまた別の何かがあるかは見当もつかない。

 取りあえず言われたとおりに指の差された方へと手を振った。

 

「これでいいんですか?」

 

「うん、それでいいよ。...お、さっきのがもうあっちまで行ってる。今回はどんな面倒事に巻き込まれたのかな。」

 

 目の上に手を添え、遠くを眺めるそぶりを見せる彼女を見て、同じ方向を向いてみたが特に何も見えはしなかった。かろうじて人がいるのは確認できるが、それ以上のことは分からなかった。

 

 見えないことよりも、追及すべき問題が一つあった。

 

「それよりも、貴女は一体?」

 

「嗚呼、まだだったね。私はモスティマ、ペンギン急便のトランスポーターさ。君の同業者ってことだね。基本は単独行動なんだけど。」

 

 トランスポーター、モスティマ。その単語を聞いてパズルのピースが嵌った感覚がした。

 黒い角を持ったサンクタ。背負う仕事は気分。他にも聞いた噂事はあるが上げ始めたらきりがない。

 

 __様々な場所で、組織を締め上げていることを言うのは、あまりよくないだろうか。

 

「モスティマ、さん。父の所ではお名前を噂を聞いたことがあります。」

 

「へぇ、知っていたんだね。どんな噂かは別に気にしないからいいけど。」

 

「本当に不思議なものばかりで、真実か分からないですよ。...その、すみません。助けてくれたのに、ぼくは貴女をいろいろ疑ってしまってました。」

 

「それはそれで正しいよ。其れくらいの警戒心なら都市でも生きていけるよ。嗚呼、でももうかしこまらなくてもいいよ。私が困るから。」

 

「ありがとうございます。では、まずは情報の共有でしょうか...。ぼくも全貌は分からないのですが、ペンギン急便とシラクーザのマフィアとの間にいざこざが起こってます。」

 

「うん、そうみたいだね。」

 

 深刻な状況だというのに、簡単な返事が返ってきた。表情を見ても特に驚いている様子もなく、ただ事実を受け入れてるようだった。

 今までもいざこざがあったのを知っているのだろうか。もしそうなら、ペンギン急便は思っている以上に不可解な組織なのかもしれない。

 

「心配してもどうにもならないさ。したいことをやるって、皇帝も言ってただろう?所謂そういうことだよ。」

 

「つまりは、思考放棄ということですか...?」

 

「本能的とも言えるね。常識に囚われてたら疲れちゃうと思うよ。」

 

「それはもう痛感してます。」

 

「ふふ、だろうね。__立ち話も此処で切り上げよう。付いてきて。」

 

「あ、はい...!」

 

 やっと離れ始めたキャンドルの香りを置いてけぼりに、見知らぬ龍門の土地を進み始めた。

 

 

# # #

 

 

「今の所は上手く行ってますね。」

 

「相手が間抜けで助かったよ。今のうちにテキサスたちと落ち合う方法を考えておこうか。」

 

「はい。」

 

 移動してからと言うものの、所々にマフィア達が駆け回っていた。其の度に建物の影に隠れたりと、まるで犯罪者のように目をかいくぐりながら歩いて行った。

 なんだか悪いことをしている気分に心が苛まれていく。確実に悪いのは彼方側...とは言い切れないが。

 

 被害を被っているのは確実に此方側だ。

 

 この龍門の土地に足を踏み入れてから心労が増えた気がする。勉強に追われる日々はかなり重苦しいが、誰かに追われるのは体も心も疲れる。正直勘弁してほしい。

 

 さっきのようにマフィアに会うこともなく、繁華街に入った。繁華街と言ってもほぼ裏路地だろう。此処の裏路地はどうやらまだマシらしい。

 噂に聞くカズデル裏路地に比べたら、本当に平和そのものだ。

 

 裏路地を歩き始めて数分、モスティマさんが急に立ち止まった。顎に指を添えて。

 

「ど、どうかしました?」

 

「この方向、正面のはまさか...。」

 

「や、奴らのテリトリーに入ったんですか!?」

 

「ここだったのか。名前とか変わっちゃうとわかんないものだね。バイソン君、何か食べたいものとかある?」

 

「へ...?」

 

 

# # #

 

 

「さっきのアイス屋、お勧めの五つ星なんだよ。美味しいから溶ける前に食べてね。」

 

「は、はい...。」

 

 結局、指差す先にはアイス屋があっただけだった。過剰に警戒した分力の抜け方が凄かった。

 命の危険すらある場所だ。そうなっても仕方がなかった。

 

 たぶん、その時の顔はお笑いものだったと思う。

 

「いつまでもピリピリしたままだと疲れちゃうからね。今のうちに休憩さ。」

 

「そんなに焦っている、でしょうか。」

 

「私にはそう見えるね。いや、それくらい緊張する方が普通のトランスポーターなのかな。」

 

「普通が何か、分からなくなりつつありますが...。」

 

「はは、君もそこに到達しちゃったか。」

 

 そう会話を交わし、手にしたアイスを舐めとりながら歩いていく。少しずつ思考が冷えていくのが自覚出来る。抹茶の苦みが冷静さをさらに強めてくれている。

 

 案外あの店に立ち寄ったのは正解だったのかもしれない。真意はモスティマさんの心の中だが。

 

「...嗚呼、見えてきた。バイソン君、あそこの飴屋さんが見える?」

 

 また突拍子のない話が始まった。指差す先には何やら古びた屋台がある。曰く、そこは飴屋らしい。

 さっきの店のように何か評判のいい店なのだろうか、この人が言葉にして言うのだから何かあるのだろう。

 

「何年も前、龍門に来た時にもあってね。その時はお金が無かったんだけど...自然と吸い寄せられちゃってね。そんな不思議なところさ。」

 

 __不思議と貴女が言うのか。と言う言葉は飲んだ。

 

「長旅の最中で、トラブルもあったっけ。トランスポーターの仕事なんてそんなものだけどね。よし、寄っていこうか。」

 

「...はい。」

 

 自分に決定権が存在しないのはもう嫌と言うほどに理解している。街灯の光でかろうじて見える屋台へとゆったりと進んだ。

 

 其処には老いた人に、暗闇でもはっきり赤だとわかる髪の__サルカズだろうか。特徴的な黒い角がかろうじて見える。

 言ってはいけないが、奇妙な組み合わせがそこにはあった。

 

 __近寄ろうと思ったが、何故か足が前に出なかった。体が前に進むことを拒んでいるかのようだった。

 

「元気だったか、爺さん。」

 

「ほっほ、それは御前さんにも言えることだよ。」

 

「そう返せるならまだ大丈夫そうか。それならいい。」

 

「折角の安魂祭だ、飴は持っていきなさい。」

 

「いや、私は別にいい。...この後はあの婆さんの所なんだ、急いでいるんだ。」

 

「イオリも息災か、そうかそうか。また龍門に来ておくれよ。」

 

「嗚呼、勿論。じゃあまた、爺さん。」

 

 話も終わったのか、赤髪のサルカズが何処かへと歩いて行った。其れと一緒に重圧から解放された。

 肺の中の空気を一気に入れ替え、足の調子を確かめた。今は問題ないようだ。

 

「...とっくに死んでると思ったけど、上手く隠せているわけか。あれが...。」

 

「モスティマ、さん?」

 

「嗚呼、独り言だから気にしないで。其れよりも飴屋さんだ。」

 

 何だかはぐらかされた気がする。が、問い詰めてもきっと答えてくれないと思うと追及する気も無くなってきた。

 

 屋台にたどり着けば、ふわりと甘い香りが鼻孔を擽った。果物の香りに、蝋燭...蝋燭。

 あまり見たくはなかった。

 

「いらっしゃい、君達。何か欲しいものはあるかね?ヴィクトリアから取り寄せたフルーツグミがオススメだよ。安魂祭の蝋燭もつけてあげよう。」

 

「いえ、蝋燭は...。」

 

「うーん...私はまだいいかな。長くて深い夜は始まったばかりでしょ?お爺さん。」

 

「おお、そうだとも。君たちのような若者は繁華街の方に騒ぎに行くんだろう?」

 

 ぼくを差し置いて勝手に話が進んでいく。この方が誰なのかもわからないまま、何もわからないまま。

 仕方なく一歩下がり、眺めることにした。

 

「お爺さんも今日のイベントに参加するの?」

 

「まさか。わしはもう骨と皮ばかりの老いぼれだ。代わりにフルーツキャンディー達が参加してくれるだろう。」

 

「今年の祭典は特別かな?外国からのお客さんも沢山いるみたいだ。」

 

「錆びれた通りには、たまには騒ぎが必要だろうて。多くの人が騒ぎ、色々起こしてくれた方が面白いじゃろう?」

 

「それもそうだね。」

 

「そもそも安魂祭は死者と弔う行事だ。生者が楽しむことが何よりも供養になる。」

 

 今日が安魂祭と言う祭りがあるのは初耳だった。聞く限りは一般的な供養祭と何ら変わりないように思える。

 そんな夜にマフィアが騒いでいるのは、何かの偶然なのか。それとも騒ぎに埋もれて事を済ませるのか。人混みに入っても油断はできそうにない。

 

「ところで、本当に何もいらないのかね?昔の君は食い入るようにショーケースを見ていたのだが。」

 

「覚えていてくれてたんだ。少し恥ずかしいな。」

 

「忘れるはずもなかろう。あの頃は必死に生きておったからの。」

 

「ははは...。でも、今は本当に大丈夫だよ。仕事前におやつを食べすぎるのは良くないからね。」

 

「そうかい...なら達者でな。若人らよ。暇になったらまたおいで。」

 

「うん、きっとね。」

 

 疎外感を感じたまま、会話が終わってしまった。アイスも食べきってしまった。

 

 

# # #

 

 

 裏路地同然のあの道を過ぎて、運河側に出てきた。都市の方は今も空を明るく照らしており、ずっと見ているのは目に悪そうだった。

 と、感心している暇は無い。今はどうやって皆に合流するかが重要だ。

 

 此処まで来てしまうと合流に時間がかかってしまうのは明白だった。最初に橋から落とされた場所はもっと別の場所だった筈。歩いた方向にしても離れていってる。

 いくらペンギン急便の皆でも、此処を一発で当ててくるのはきっと難しい。

 

 でも、これも何とかしてしまうのがペンギン急便___

 

「...バイソン君?」

 

「あ...すみません、考え事をしてました。」

 

「この状況だもんね。君が何を考えているのかもバレバレだよ。」

 

 歩きながらずっと考えていたらしい。良くこけなかったものだと自分で感心してしまった。

 

「バイソン君、考えることも確かに大切だ。無策で動くのは確かに危ないからね。でも、直感を信じるっていうのも悪くないんだよ。」

 

「モスティマさんみたいなトランスポーターでも、直感を信じることがあるのですか?」

 

「臨機応変、と言うものさ。例えば、今私たちは橋の上に居て、この後橋の下に貨物船が通る。まぁ、そんなに大きくない奴だね。」

 

「___はい?」

 

 また、この人の良く分からないことが始まった。

 本当に何を言っているのだろうか。

 

「そして前後三人ずつ、変装したマフィアがゆっくりと近付いて来ている。」

 

「ッ...!」

 

「カモフラージュするにはもう遅いよ。ずいぶん前からつけてるみたいだ。飴屋さんの辺りから、みたいだね。ご苦労なことだよ。」

 

 考えることに没頭しすぎたのか、周りの気配すら感じれなくなっていた。

 相手がプロのストーキング能力を持っていても、少しでも何かは感じるはずだ。

 

 これが考えすぎるのも良くない、と言う事なのだろうか。

 

「ぼく達、囲まれているんですか?」

 

「そうだね。でも戦おうなんて考えないことだ。観光客を巻き込むわけにはいかないだろう?」

 

 見回せばぱらぱらとある往来。各々が綿飴やプラスチックでできた仮面を付けて、この祭りの雰囲気を楽しんでいる。

 

 此処で戦闘を起こせば、悪い意味の大騒ぎになるのは確定だった。

 

「でも、あっちは配慮なんてしないみたいだね。...いや、マフィアだけじゃないな。」

 

「この状況、どうすれば?」

 

「簡単さ、飛ぶんだよ。」

 

「えっと...もう一度お願いしてもいいですか?」

 

「だから此処から飛ぶんだよ。さぁ今だ!」

 

「いや、ちょっと待ってください。また橋の上から...?」

 

「だから君は考えすぎだ。簡単なことさ、この柵を乗り越えて、全力で下に飛び降りるんだ。貨物船は待ってはくれないよ!」

 

 その言葉が聞こえた瞬間、ふわりと体が宙に浮いた。否、浮かされていた。

 モスティマさんと共に橋から身を投げ出したのだ。

 

 言ったとおりに貨物船が見えた。このまま落ちればきっと問題なく船に落下できるだろう。

 

 ぎゅっと目と閉じ、全て運命に身を任せた。

 

「調べ物が出来たから、またあとでね。」

 

 そう、鼓膜が震えた気がした。

 

 

# # #

 

 

「どうしてツヴァイ協会のフィクサーが同じ案件で動いてるって、どういうことだい?」

 

「いや、そうか。そういうことか。皇帝の言っていたことはこういう事だったのか。」

 

「協会が動いてるなら、彼が動かない理由もない。いや、皇帝が動かしてるのかな?」

 

「だから私も此処に呼ばれ、機会を与えられた。」

 

「なら機会を物にしないといけないね。エクシアも、何れは私の道に交わるかな。いや、無理やりにでも絡みついてくるか。」

 

「今度は逃がしたりしないよ、デュイス兄さん。」




入り乱れる喧騒に、解はいつか訪れる。

赤髪のサルカズ
飾り気のないコートに身を包んだ、仮面で顔を隠したサルカズ。
ごくごく一般的な見た目ではあるが、溢れ出る威圧は並の存在を寄せ付けないと言う。

かつて、素晴らしきフィクサーに赤髪のサルカズが登録されていた。
もう十年以上前のことだ。
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