本日再度の落下、再度の埋まり。今回は前みたいにべたつく何かに落ちたわけではないが、今回はそこそこに痛い。何か固いものの集合してる場所に落ちたらしい。
周囲を、この船の上を確認する。周りには一般的なビニールに包まれた飴玉が文字通り海のように広がっていた。道理で落下した時に居たいわけだ。
然し、何故だろうか。態々飴玉を晒したまま船で運搬するのだろうか。もっと有効的な運搬方法は此処龍門にはあるはずだ。もっとこう、車両の方が小回りも高速道路も使えていいはずだ。
こう言う発想が出るあたり、運輸会社の社長の息子なのだろうと感じる。実際そうだし、何より優れたトランスポーターを目指しているわけなのだから。
結果的にあのマフィアから逃れることは出来た。その事実にそっと胸を撫でおろす。
「どうにか振り切りましたね、モスティマさ___」
__一緒に居たあの人の姿がどこにも見当たらない。海に落ちたなら姿が見えないのは仕方ないが、あの人がそんな失態をおかすとは到底考えにくい。
"調べもの"をするにしても、どうやってこの船から離脱したのか。本当に何もかも分からない人だった。
「何か物音が___って、どっから入り込んだ小僧!」
キャンディの山に埋もれたままでいると、この船の主らしき人が操縦室から姿を現した。中年のペッローの男性が怒号を上げながら歩いてきた。
状況も状況だ。泥棒に間違われても仕方ないだろう。
「あっと...今さっきあの橋から落ちてきてしまって!」
「橋から落ちただァ?コソ泥はそうやって言い訳を__」
「本当なんです、信じてください!」
「...そうかい。コソ泥なら、もっときたねぇ服装だろうしな。如何にも都市に生きてる服の小僧が盗む理由もないか。」
どうやら信じてくれたらしい。
この人の言うコソ泥は、きっと裏路地に住む人々のことだろう。その日暮らしで必死な人々が盗みに来るのだろうか。
この人も苦労はしているようだ。
「取りあえず降りてこい。売モンの上に乗ってるんじゃねぇよ。」
「あ、すみません。失念していました」
飴玉の山から下りて、取りあえず一息。この船の主が心優しい人でとても助かった。
こうなったのもあのモスティマさんのせいだ。否、現に助かってるのもあっておかげなのかもしれない。
本人が此処に居ない以上はどうしようもない。
荷物を降ろし、人口運河の上から龍門の街を眺めた。相も変わらず煌びやかだ。街中を歩いていてもそれを感じるが、もっと外側から見ると更に壮大だった。
炎国と言う巨大な国家の心臓部であるのが頷けた。
これだけ繁栄しているからこそ、マフィアも入り込んでしまうのだろう。明日を食つなぐためにも。
そのマフィアのせいで今回は迷惑しているのだが。
と、考え事を巡らせているうちに岸についたらしい。
「もう二度と船に飛び乗るんじゃねぇぞ!」
__此方こそごめんだ。
「これには深い理由がありまして...。そう言えば、今サンクタの人を見ませんでしたか?」
「いや、見てないが。本当に勘弁してくれよ。配達に間に合わなかったら...ん?」
船長の視線が陸の上の方に吸われていく。
「さ、サンクタ...」
その言葉を聞いて、急いでその方向を向いた。彼女がいることを期待して、信じて。
「__!モスティマさ__」
「モスティマ?君、モスティマを知っているの?」
其処には金髪の女性が一人。生憎あの深いにもほどがある蒼い髪は無かった。
きょとんと疑問符が頭の上に浮かんでいるような表情を浮かべ、彼女はこちらに視線を向けいている。
__なんだかどこかで見た気がする。
「...すみません、人違いでした」
空気が冷える。何とも言えない雰囲気がこの場を立ち込め支配した。
純粋に気まずい。
「とにかく、今後はこんな危ないことするんじゃねぇぞ!いいな?」
「ご、ごめんなさい。本当にお騒がせしました」
それを言い残して、船主は操縦席の方へと戻っていった。これで金髪のこの人と自分が取り残されたわけだ。
__良く思考を巡らせる。モスティマさんのことを知っているのなら、きっと関係者なのだろう。
あの人の顔の広さは知らないが、可能性は高い。
聞き出すなら早く__
「フォルテの子供、フォルテの子供...何かを忘れてるような...あっ!」
「わぁっ!?」
考え込んでいる最中に、煌びやかな髪に爛々と輝く瞳が視界を占領した。ふわりと香水の香りが鼻孔を擽り、何だかむず痒い感覚にも陥る。
嫌、そんなことを考えている暇は無いはずだ。惑わされっぱなしの心を何とか落ち着けなければ駄目そうだ。
「な、何するんですか!?」
「君の角にキャンディが引っかかってるよ!」
手を自分の角に這わせた。確かにキャンディが一つ、見事に引っかかっていた。
今日は角にいろいろなものがつく日なのだろうか。否、そもそも落下することが多すぎる。
そんなシチュエーション、これからは余りないだろう。
片手でキャンディを取り除き、取りあえず握っておく。
「戻って返した方がいい、ですよね...これ...」
「それと、この角...思い出した!あのフェンツのロゴと同じだね!つまり、君はフェンツ運輸の若旦那くん、そうでしょ?」
「わ、若旦那くん...」
間違ってもいないのが、何ともむず痒い。
# # #
あの水辺から離れ、また巣区域か裏路地か曖昧な道を進んでいく。このグレーゾーンな場所は恐らく二つの区間を繋げる窓口のような空間なのだろう。小奇麗にしたスーツを身にまとった男性が通ったと思えばどこで拾ったか分からないような服を身にまとった子供。
今、この世界が抱えている格差を見せつけられている気分になる。
何故この道を歩いているかと言うと、ペンギン急便の先輩方であるソラさんに道案内をお願いしたからだ。あの時、自分の立場を看破出来たのは皇帝さんが色々話していたかららしい。
直感的なのか計画的なのか、分からない人たちだ。
「ところでソラ先輩、この道で本当にテキサスさん達と合流できるのですか?」
「安心して、テキサスさんの考えることは手に取るように分かるんだから!」
「はぁ、そうなんですね」
会話を交わしつつの中立区域は、そこそこ危険じゃないのかと勘ぐってしまう。
だが、此処は龍門だ。名のあるフィクサー等が此処を活動拠点としている話はよく聞く。裏路地区域でないのなら、そう大きなことは実行できないだろう。
__何より今気になるのは、このソラ先輩の声だ。どこかで聞いた覚えがずっと付きまとっている。
記憶をたどっても、今は答えが出そうにない。
「にしても、"先輩"かぁ~...えへへ、後輩が出来るなんて思ってもなかったな~!ね、皆のことはどう思う?」
「皆さんにお会いした感想ですか?」
取りあえず、今まで過ごしてきた時間を振り返っていく。
高速道路で彼らに回収され、拠点では騒がしく話しながら方針を決めて、爆発に巻き込まれ__思うに、テレビで放映されるドラマも驚きの時間を過ごしながらペンギン急便の皆と過ごしてきた。
起こった出来事もそうだが、彼らそのものもとてつもなく刺激的だった。
ここまで個性的な組織もかなり珍しい方だろう。
「...とても刺激と言うか。そんな感じです」
「あはは...どんな状況だったか、大体わかっちゃうな...でも退屈しなくていいでしょ?」
「それもそうですけれど...」
もう少しでこの道も抜けるだろう、控えめな雑多が聞こえ始めた頃、前から何かがぶつかるような音がソラさんのほうからした。
「わぁっ!?」
「きゃあっ!?」
いや、実際にぶつかった。約二名分の悲鳴が鼓膜を震わせた。
「あっ、ご...ごめんね...!」
「ちゃんと前向いて歩いてよ!こっちは急いでるんだから!」
目の前には__金髪のヴァルポの少女だろうか。なんとも熱そうなパーカーに特徴的なバットを背負った女性が尻餅をついている。
視線は鋭く、ぶつかってしまった此方を目の敵にしているように見える。
「これでマフィアの手掛かりとか、依頼達成できなかったらそっちの責任だから!」
__マフィア?依頼?
今の状況からして、無関係とは思えないような言葉の羅列が耳に届いた。
「その、マフィアとか依頼とか、どういうことですか...?」
「なんで言わなきゃいけないのさ。依頼内容の開示って信用問題に直結するから言いたくないんだけど。」
「別に仕事を取りたいとかそういうわけではなく...!僕達、現在マフィアに追われていて...それと関係があるかどうか確認したかっただけで」
「...もしかして、ちょっと前にあった、マフィアが絡んでるって言われてる道路付近の騒ぎって?」
「はい、関係者です。思いっきり」
事情を打ち明け、此方の立ち位置がどうなっているかを伝えた。
伝えたのはいいが、何とも同情されている視線が目の前の彼女から向けられている。
どのような顔を見せたらいいのか、今の自分には判断できないようだ。
変な空気で見つめ合う事数秒、彼方から口を開いた。
「...決めた。あんたたちと居たら依頼も片付きそうだし、ちょっと一緒に行動させてよ」
「え...えぇっ!?」
「私達、今ぶつかったばかりなのに...?」
「そんなの、お仕事の前じゃ関係ないでしょ!あ、言い忘れてたね...私は"街灯事務所"所属のルル!今すぐメンバー呼ぶからちょっと待ってて!」
状況が加速度的に混沌に向かっているのが、乱れた思考でもある程度察せた。察せてしまった。
# # #
薄暗い通りを抜けて、比較的巣の区間に近しい場所に出た。すぐ目の前には自然豊かな公園が広がっており、目に優しい緑が自分たちを迎えてくれた。
右側にはソラ先輩、左側には龍門でフィクサーをしていると言うヴァルポのルルさん。そしてこの後合流する予定だという街灯事務所の皆さん。
ペンギン急便の皆さんに合流するまでにとてつもなく大所帯になってしまった。
何故ルルさんの所属する事務所がマフィアを追っているのか、詳しくは聞き出せなかったが調査するだけで初歩的な都市伝説程度のお金が発生する依頼が入ったらしい。
街灯事務所の所属している組織の人間からの直接の依頼らしく、信頼性はそれなりにあるようで。
こんなにうまい話があるのか、と心の中では疑ったが協会が出したのなら恐らく問題はないのだろう。最近は全協会の動きが慎重になりつつあり、下手な動きが出来なくなって都合がいいと父の零し話が頭の隅の方に残っている。
詳しい話は良く知らない。
「...それで、ソラ先輩。この公園にいるんですか?」
「うん、あそこを見て?やっぱりあそこに居たよ」
皆で指差した方向に視線を向ける。そこには見間違うはずのない赤髪のサンクタや静かそうなループス、自分と同じフォルテ...正しくペンギン急便の皆が勢ぞろいしていた。
そして追加で一人、見慣れない人影がある。服装からしてマフィアの人間だろう。
マフィアを捕まえて遊んでいるのだろうか?
「って、バイソンってペンギン急便だったんだね。私、ほんと当たり引いたかも。ほら、ペンギン急便っていつもドンパチしてるって有名だし」
「そう言えば言ってませんでしたね。ペンギン急便と言っても、今日入ったばかりですけれど」
「へぇ~」
お互いの立ち位置を掴むためにも、此れと言った意味のない会話を交わしつつ歩いて行った。
まだあの人たちはマフィアで遊んでいるのか、普通に尋問しているのかわからない。遠目から見てるただわちゃわちゃと楽しんでいるようにしか見えない。
たぶん両方の意味合いがあの行動にはあるんだろう。
走っているような足音が背後の方から聞こえてきて、それが大きくなってきた。
音のするほうを振り返れば、フェリーンとペッローの男性二人組が走ってきているのがわかった。こっちを向いているあたり、標的は完全に僕達だろう。
「...あ!マス~!サン先輩~!」
「あの人たちがルルさんの事務所の方々ですか?」
「そっ。事務所長のサン先輩と、同期のマス。結構お世話になってるんだ」
自分より少し年上であろう男性が二人、自分達の団体に見事合流した。
だんだんと身動きするには目立つような大所帯になりつつあるが、それでも対応できることははるかに多くなっている気がする。
ペンギン急便の皆と、一事務所のフィクサー。マフィアにも引けを劣らないはずだ。
「お待たせ、ルル。っと、そこの人たちが連絡にあった...」
「マフィアに追われてるって言うペンギン急便の人達。へへ、私ってば運にも恵まれてるんですねぇ~、マス~?」
「そうだな。その代わり悪運にも恵まれているだろう」
「またそんなこと言って!!!」
目の前でバラエティー番組のような展開を見せられ、なんだか置いて行かれた気がしている。
ソラ先輩もそれを見てちょっと笑っている始末だ。ソラ先輩も、あのペンギン急便らしい一員なのだと理解できてしまった。
「嗚呼、自己紹介が遅れてしまったな...。俺は街灯事務所のサン、一応事務所長をやってるよ」
「俺はマス、この事務所で世話になっている」
「僕はバイソンです、もうご存じかもしれませんが...今はペンギン急便に所属しています」
「よろしく頼むよ、バイソン君。是非とも俺のことも頼ってくれ」
「勿論ですよ。ルルさんに色々と聞いていますから」
移動中に聞いた話ではあるが、この街灯事務所の所長に該当するサンと言うフェリーンはそこそこの腕を持っているらしい。
この前六級のフィクサーに昇格したばかりではあり、自分達に比べれば相当戦える方だ。きっと。
_そうは言うものの。実際問題、フィクサーと言う職業の階級についてあまり知識は持ってなかった。
気軽に頼める九級から莫大な金を取っていく一級、そして憧れや畏怖の象徴である"赤い霧"などの特色。
こう言う茫然としたイメージしかないのが現実だ。
父親はただ「協会に頼れば間違いない」と言っていただけだ。
こんな状況になるならもっと深く聞くべきだった、と今さら後悔の溜息を零した。
ふとペンギン急便の皆さんに視線を遣った。今も絶賛お楽しみ中らしく、口に張られていたガムテープを勢いよく剥がしている所だった。
見ているだけで痛々しい気持ちになり、見ているこっちが口を押さえそうになった。
あの人には人の心が無いのだろうか、とすら思えてしまう。
流石にこれ以上眺めたままでは事態は進展しない。可哀そうなあのマフィアの為にも、一歩一歩あの急便の皆さんの方へと足を進めていく。
「お~い、テキサスさ~ん!みんな~!」
「おっ、ソラ!って...なんか人増えてない?どういう状態?」
それはそうだ。離れていたメンバーが合流しただけで三名ほど人が増えたのだ。
流石のエクシアさんでも首を傾げていた。
「これにはとても深い事情が...」
「バイソン君が連れてきたもんね、街灯事務所の人達」
「連れてきたというか、目的が似てたというか」
「私達もマフィアを追っかけてるわけ。ソイツの用事終わったら回収してって良い?」
「別に好きにしてもいいけど、口割らない限りは駄目かな~」
嗚呼、またこの喧騒に戻ってきてしまった。この空気感に若干の安堵を感じてしまうあたり、自分もここの色を覚え始めたのを理解させられる。街灯事務所の三人とエクシアさんはマフィアを囲んでいるし、ソラさん達はそれを眺めていた。
僕はそれに参加せずに居る。否、参加できるものか。
ふと周りを見渡せば、ペンギン急便社長の影が見当たらない。視線を落としたとしてもこの近辺には居ないようだ。
「あの、エンペラーさんはどちらへ?」
「ボスは確認したいことがあるってどこか行っちゃった。行先も聞いてないし、見当もつかないや」
「あんまり遠くまで行ってないといいんですけど」
あの人のことだ、この場の誰も行先を予測することは出来ないだろう。
少なくとも静かな場所にはいってはいないはずだ。あの人がいるだけで騒がしくなってしまうのだから。
騒ぎが起きたらそこに行けば会えるのかもしれない。ただ、そこら中人がいるせいで何処もかしくも似たようなものだけれど。
「取りあえず、今の状況はくんから聞いたよ。これからどうするかは決まってる?」
「こいつらから聞けること全部聞き出して、あとは臨機応変って感じかな」
さっきもその言葉を聞いた気がする。丁度この人とを対を為すような蒼い髪のサンクタが同じようなことを口にしてたはずだ。
「あ、エクシアさん...さっきと言うか少し前なんですけど、モスティマと言う方に偶然出会ったんです。でも、いつの間にかいなくなってて...」
目線を目の前へと流す。
其処には見たことのないような表情で此方を見ているエクシアさんの姿があった。
怒りとか、そういうのではなく純粋に話を聞いてくれていると言った表情だ。きっと。
「えぇと、それで、僕たちはマフィアの包囲網を抜けて、それで___」
「...バイソン君、心配ないよ。こうやって急に居なくなるのはよくあることだから。何年も会えないことだってあるし」
「数、年間?」
語られた言葉は何とも信じがたいものだった。トランスポーターと言う職業は性質上様々な移動都市間を渡ることがある。
隣国のであったり、はたまた遠く離れた場所に位置する国だったり。
その依頼内容によってすべての流れが決まってくる。
でも、幾ら何でも数年も顔を合わせてないのは少々不自然だった。
行先で仕事を増やしているのか、はたまた何かを調べていたりするのか。
勿論あの人の考え何て分かるはずもなかった。
「ウチもこの会社に入ってからモスティマはんを片手で数えれる程度やわ」
「何というか、やっぱり常識が通用しないんですね」
「モスティマの、トランスポーターとしての在り方はかなり特殊だ。ボスと契約こそしているが、本職は___エクシア」
「んぇ?何?」
「マッチに火がついている。気を付け__」
「あっ」
真っ赤の炎を纏ったマッチがエクシアさんの手から滑り落ちて、見事マフィアに括り付けられていた花火の導火線に当たった。
火を消そうにもじりじりと導火線の上を火が着実に進んでいっている。
マフィアは何かもごもごと喋っているが、当然の如く分かるわけもない。
彼にとっては"積み"みたいだ。
「あっちゃ~、やらかしおったわ」
「...サン、どうする?」
「多分マフィアはまだ居るだろうし、次を探さないとな」
「そう言う思いきりの良い所は嫌いじゃない」
残り5cm、2...1...。
ひゅるるるるるる。
可哀そうな彼を抱えて花火は天高くまで飛んで行った。
「へぇ、ほんとに人を天まで飛ばしちゃうんだなぁ。やっぱし当たりじゃん」
のんきなことを言っている間に、何か団体様が近づいているような足音が幽かに聞こえてきた。
テキサスさんも感じたらしく、頭部の耳が微妙に揺れ動いた。
大方さっきの花火と、彼の悲痛な叫びのせいで集まってしまったんだろう。
「奴らが来た。二手に分かれ...いや、今日は三手に分かれれるな。行けるか、街灯事務所」
「もっちろん!アンタらの獲物も掻っ攫うから!」
# # #
龍門、静まった裏路地にて。妙に儀式的な礼装に纏った男が一人、連絡端末片手に練り歩いていた。
「あー、もしもしー。聞こえてるかクソペンギン」
『聞こえてるに決まってんだろ"龍門スラング"。で、ちゃんと来てるんだろうな?』
「当たり前だろ。依頼されたからには来る、フィクサーの常識だろ」
『フィクサーってより、お前は__』
「その話をすんな。あの埃臭い故郷を思い出すから。あの埃臭さは指令通達の時だけでいいっての」
『へいへい、お前がそういうならそういうことにしてやる』
「それよりも、だ。...彼奴は今龍門に居ないんだよな?」
『彼奴ぁ製薬会社のとこに応援に行ってんだ。心配なんざ要らねぇよ』
「了解。じゃ、後は報告でも待って祭りを楽しんでろ」
そう男は言葉を吐いて、通信終了のボタンを押した。それと共に煩いあの声も聞こえなくなり、周りにまた静寂が訪れた。
人は皆、この時間帯になると"掃除屋"を恐れて戸締りを始める。進行が開始されるには時間は早いが、それでも生存本能がそうさせるのだ。
それほどに裏路地の人間は弱い。だからこそろくでもない組織や人間が蔓延る。
男は手袋を引っ張り、しっかりと手に布を密着させた。仕事人が下準備をするように。
そして深いため息を一つ。
「お前には会いたくないんだよ、エクシア」