地球における労働の魔の手から逃れ、左団扇な生活を目指す話 作:やがみ0821
北条律歌は前世の記憶というものを持っている。
といっても、彼女は転生者というカテゴリーに自分を加えていいかどうかはちょっと分からなかった。
転生というのは記憶だけでなく意識も連続している存在ではないか、と彼女は考えている為だ。
「記憶はあるけど、意識がそうなのかと言われると……でも大きく影響を受けているし……やっぱり分からない」
色々と調べてみたものの、宗教とか哲学とかそういう深い沼に嵌っていきそうな気がしたので、律歌は考えることをやめている。
さて、前世の記憶といっても、それは多岐に渡る。
それこそ前世の自分の好きな食べ物といった役に立たないものから、人生において役に立つようなことであったりと様々だ。
特に役に立ったのは勉強に関する考え方だ。
勉強をするということは人生の選択肢を増やすということに繋がる――
この為、彼女は小学校在学中に受験資格が不要な士業の資格取得に動き、見事に最年少合格を果たしている。
新聞やテレビで当時は話題になったのだが、律歌からすれば自分のような状態になれば将来のことを考えて動くのは誰だって同じだろうと思っている。
といっても、前世の記憶によれば就職すると人間関係で理不尽なことも多い為、就職せずに油田でも掘り当てて左団扇で生活したいというのが偽らざる本音であった。
なお前世の記憶があるということはプラスな部分だけでなく、マイナスな部分もある。
その最たるものは前世の性別が男であった為か、それに引きずられて、恋愛及び性的な対象は女の子であること。
昨今、認知されてきたとはいえ世間的にはまだまだ同性愛に関しては色々と偏見もある。
しかし、それに関してはあんまり気にしていなかった。
なぜならば、律歌には既に同性の恋人がいるからだ。
彼女とは家が近く、昔から仲が良かった。
彼女の父親の死をきっかけにゴタゴタがあったものの、律歌が自分の両親に相談して色んなところに助けを求めたことで、無事に解決している。
その頃から、彼女――中村恵理に過剰なスキンシップをされるようになり、中学2年の時に告白された、という具合である。
そんな律歌であったが、油田を掘り当てる以外にも身体に関わる欲望というものはある。
それこそまさに全人類の夢と言っても過言ではないもので――律歌は個人的にそう思っている――両性具有になることだ。
二次元の世界ならそういうのも自由自在であるのだが、残念ながら律歌は三次元世界の住民である。
どうにかして画面の中に入ろうと前世でもやっていたようだが、それが無理であるのは今世でも変わらない。
前世の記憶を覚えている自分ならワンチャンあるのではないか、とか何とか妄想しながら、恋人とイチャつきつつ高校生活を送っているのが律歌だ。
そのとき、スマートフォンが鳴動する。
手にとって画面を見れば恋人からだ。
明日は月曜日ということもあって、今日はお泊りはなしである。
『寂しいよぉ……』
電話に出ると恵理の切ない声が聞こえてきた。
依存性な彼女であるが、律歌も負けてはいないのでちょうど良かった。
そして月曜日。
憂鬱な朝も律歌は恵理と一緒に登校することで吹き飛ばしてもらい、学校に到着しさえすれば既に8割のスケジュールが終わったようなものである。
あとの2割のうち、1割は授業を受けることで、もう1割は帰宅することである。
学校が終わった後のことを考えながら、律歌は昼休みを迎えていた。
彼女はいつも通りに恵理と一緒に教室で昼食を食べながら、雑談していた。
「やっぱり私も異世界にでも召喚されて、スゴイ魔法でドッタンバッタンやりたい」
「かっこいいなぁ……」
律歌の話は基本的に全肯定してくれる恵理である。
そして、律歌は基本的にボケまくる為、ツッコミ役が不在であるとどこまでも果てしなく話は広がっていく。
「いつ異世界に召喚されても良いように、スマホ用ソーラーチャージャーと必要そうな情報が書かれたホームページはオフラインで閲覧できるようにダウンロード保存してあるのよ」
ドヤ顔で豊満な胸を張る律歌に恵理は目を輝かせた。
そういうところまで気を配っているなんて、さすがは律歌だ、と彼女は思ってしまうのである。
「ねぇねぇ、律歌はどんな魔法が使いたいの? 空を飛ぶとか?」
「定番ね。それもそうだけど……でもやっぱり核かな。とりあえず核をぶつけとけば大抵のものには勝てるから……高高度を超音速で飛びながら核攻撃連発したい。汎用人型決戦兵器になる……!」
予想の斜め上の答えであるが、恵理からすれば愛する人がそこまで考えているなんて、と感心してしまう。
2人の会話を何気なく聞いてしまった寝起きの南雲ハジメは心の中でツッコミを入れる。
いやいやそれ、異世界が壊れちゃうだろ――
そんなことを思っていると、彼のところへ白崎香織がやってくるのが目に見えた。
ハジメにとってはまたクラスメイト達から面倒な視線を向けられるのかと憂鬱に思い――そのとき、床全体に幾何学模様が現れた。
彼は思わず目を見開いて、何も動けなくなってしまったが――嬉々としてガッツポーズをする女子生徒がいた。
容姿も頭も良いが、性格だけが残念というのがクラスにおける北条律歌の評価である。
性格が残念という評価はハジメからしても正しいと思う。
「召喚魔法!? メシ食ってる場合じゃない! 異世界でドッタンバッタン大騒ぎするわよ、恵理!」
「うん! 律歌とならどこでも行くよ!」
「ポジティブ過ぎんだろお前ら!?」
思わずツッコミを入れてしまったハジメ。
そんなこんなで、彼らは異世界へと召喚されるのだった。