地球における労働の魔の手から逃れ、左団扇な生活を目指す話 作:やがみ0821
「じゃ、お互いに何も見なかったということで」
「ああ、よろしく頼む」
律歌の言葉に帝国軍部隊の隊長が頷いた。
そして、律歌達はハウリア族を引き連れてその場から離れるが、帝国側は見逃した。
実力差が圧倒的であったとはいえ、小娘1人に負けたという事実が表に出てしまうと彼らは末端とはいえ、軍内での立場がよろしくないことになる。
化け物みたいに強かったといくら口で主張しようが、それを証明できるものがどこにもない為だ。
このことを律歌がさり気なく問いかけて彼らに気づかせた後、彼女はハウリア族の通過を見逃してもらうが、帝国軍部隊と戦って勝利したということに関してはなかったことにする旨を提案した。
これを帝国側が受け入れた形だ。
といってもハウリア族だけを彼らの目的地である北の山脈地帯へ向かわせると、途中でモンスターやらに襲われてあっさり全滅しそうであった為、律歌達はそこまで護衛することになった。
しかし、このままライセン大迷宮を諦めるのは嫌だった律歌はハウリア族の護衛にルナを残して恵里とシアを引き連れてライセン大峡谷へ舞い戻った。
帝国部隊は数時間で戻ってきた3人を目撃したが、見なかったことにしたのは言うまでもない。
「ところでシア、私の仲間にならない?」
「ふぇ?」
襲いかかってくるモンスター達を片手間で蹴散らしながら、律歌が問いかけた。
見た目が人間にしか見えないルナとは違って、シアは明らかに地球にはいない種族である。
そういう種族と交流したいとかつて畑山に語った律歌だが、それは嘘でも何でもなく本心だ。
恵里にもシアのことに関しては既に話はつけてある為、何も言わない。
といっても、シアの場合はそれだけではない。
彼女の未来視は――制限があるとはいえ――間違いなく色んなところから狙われる能力だ。
よそに取られるよりは自分の手元において、有効活用したいというのが律歌の考えだ。
彼女はシアの言葉を待たず更に言葉を続ける。
「ただし、ハウリア族を山脈地帯へ送り届ける報酬とかそういうのではないから。あくまで、あなた個人への勧誘よ……たぶんこれからもその能力がある限り、面倒事が起こるわよ?」
問いにシアはすぐには答えない。
一族を救ってもらったこと、そして未来視は厄介事を招くのも確かだ。
また何よりも律歌達3人は全員が普通とは到底言い難い能力や技能を保有しており、シアと同じか、もしかしたらそれ以上に異質な存在だ。
未来視が使えれば未来を見てみるのだが、あいにくと律歌達と出会う為に使った以上、今現在は使えない。
もうすぐ使える筈である為、シアは判断を保留にしようと考えた。
「ちょっと考えさせてもらってもいいですか?」
「構わないわ。断ったとしても、あなたの能力の情報を売ったりとかはしないから。どうせ未来を視て判断するんでしょ?」
「……バレてました?」
「私だったらそうすると思うので……やっぱり、なるべく良い未来を選びたいのが人情ってものよ。ライセン大迷宮の攻略が終わってからでいいわよ?」
律歌はそう言いながら、手をひらひらさせた。
「それじゃ、そうさせてもらいます。ちなみに律歌さんは未来視が使えたなら、何に使います?」
「……宝くじの当選番号を視るかな」
律歌の答えにシアは宝くじが何なのか分からず首を傾げるが、恵里はうんうんと頷いたのだった。
そして、探し始めて4日目に律歌達はライセン大迷宮への入口と思われる場所を発見する。
ただこの迷宮、どうにも想像していたのとは毛色が違った。
そう確信した理由は看板である。
律歌は思わず問いかけてしまう。
「……ミレディ・ライセンってギャルっぽい感じがする」
「ギャルって何ですか?」
「定義は様々で諸説あるわね。ちなみに私はガングロになりたかったけど、恵里に全力で止められた」
「当たり前だよぉ。律歌が金髪に染めて、肌を焼くなんて……」
「でもちょっと見てみたくない?」
「だーめ」
そう言って頬を膨らませる恵里に律歌は思わず彼女を抱きしめてしまう。
基本的に彼女がどんな表情を出そうとも可愛いと思えてしまう律歌である。
彼女は抱きしめながら恵里に問いかける。
「変身魔法とか、そういう系統の魔法を使えるようになって、2人でやるってのは?」
「……それならまだ……でも、僕と2人きりのときだけだよ」
「うん、そうしましょう」
そんな2人の会話を聞いてシアは思ったことをそのまま告げる。
「ギャルって何だか奥深いんですね……よく分からないですけど」
「口で説明するのはとっても難しいので、私が変身魔法を習得したら見せてあげる」
「ちょっと楽しみですね。ところで流れ的に私も迷宮に行く感じですか?」
「流れ的に行く感じね。あなたを1人で待たせたらモンスターに食われそうだし、かといっていちいち戻ったところで、ルナとあなたを入れ替えたらハウリア族の護衛がいなくなるし……攻略後、ルナと私がペアでもう一回攻略するわ。このことはルナにも伝えてあるから」
律歌の言葉にシアは引き攣った笑みを浮かべた。
命の危険を彼女は感じていたが、律歌の言うとおりに1人で残されても危険なのでついていくしかなかった。
そして彼女達は迷宮への入口を探し始め、やがて律歌が窪みの奥の壁が回転扉となっていることを発見する。
律歌は興奮気味に叫ぶ。
「すごい! 見てこれ! 欲しい!」
行ったり来たりして、回転扉をこれでもかとアピールする律歌。
彼女の手には、入った時には持っていなかった黒い金属製の矢があった。
それは恵里達がいる外へ戻ってくるごとに増えているのは気のせいではない。
回転扉を潜った先にはトラップがあることが一目瞭然だ。
「緊張感が台無しですねぇ」
「それが律歌の良いところだよ。僕もすっごく助けてもらった」
シアは恵里の言葉を聞いて、色々と複雑な事情があるらしいと予想しつつ、提案する。
「とりあえず、止めませんか? 扉が壊れちゃいそうです」
「そうだね。律歌、扉を壊したら入れなくなっちゃうよ?」
「じゃあ、やめる。あ、入ったら矢がいっぱい飛んでくるから気をつけてね」
戻ってきた律歌はそう言って両手いっぱいに持っている矢を掲げてみせる。
「その矢はどうするんですか?」
「持って帰る」
即答した律歌に、シアは彼女が非常に図太い性格であることを悟った。
ともあれ、彼女達はライセン大迷宮攻略に取り掛かるのだが――
「ああもう何なんですか、この人達!」
頭を抱えてシアが叫ぶのも無理はなかったが、律歌はドヤ顔で告げる。
「我が肉体こそ、世界最強の武器であり、防具である……!」
ちょうどそのタイミングで彼女の頭目掛けて上から降ってきた金ダライが直撃して、シアは思わず笑ってしまう。
魔力による身体強化をよく鍛えてあり、更には再生能力までも持っている律歌と恵里にとっては、トラップがトラップとなっていない。
大岩が転がってくれば仁王立ちしてそれを受け止め、投げ返す。
ギロチンのような刃が降ってくれば、真正面から魔力でもって強化した拳で弾き返すなどなど、全体的に非常識であった。
中には溶解液を撒き散らして転がってくる大玉などの危険なものもあったが、攻略を断念するほどではない。
そんな具合に、愉快なライセン大迷宮を何だかんだで律歌達は進んでいき、甲冑姿のゴーレム達が待ち構えた大広間らしきところで戦闘とパズルの解読を同時に楽しみつつ、更に奥へ。
そして、到着した奥の部屋では部屋自体が大きく移動し始め、いよいよ最深部かと期待に胸を膨らませた彼女達が辿り着いたのは――スタート地点だった。
さすがの律歌もこれにはキレた為、これまでは敢えてやらなかった手段に出た。
迷宮が変化する云々とミレディによるものと思われる文章には書かれていたが、そんなものを無視できるやり方がある。
それは徹底的な破壊だ。
律歌と恵里は互いに協力して、左右の壁と床を殴りつけて破壊しながら進む。
その後ろをシアがおっかなびっくりついていく。
この破壊活動が功を奏しているのか、トラップの発動数は初回と比べると激減している。
前から転がってくる大玉や岩、あるいは天井から降ってくるタイプのトラップはどうしても防げないが、そこは仕方がない。
とはいえ、さすがのミレディも殴って破壊しながら挑戦者が進むというのは想定外であったのか、あるいは壁や床が破壊されることで構造変化機能に障害でも生じたのか、スタート地点に戻されることなく律歌達は再度、ゴーレムが大量にいた大広間へ到着した。
だが、今度は以前には封印されていた扉が最初から開いており、そこは通路となっていた。
更には不思議とゴーレム達も襲ってこなかったが、律歌は念の為に大広間の壁も恵里と協力して破壊した。
壁際に大人しく並んでいたゴーレム達も壁の崩落によって埋まってしまうが、律歌も恵里も知ったことではない。
そして、3人は通路の先へ進んだのだが――そこは不思議な空間であった。
様々な大きさ・形のブロックが浮遊しており、さらに不規則に移動している。
先程の大広間にいたものと同タイプと思われるゴーレム達もまた浮かび、動いていた。
律歌は呟く。
「ここと似たようなのをとある天空の城で見た」
「見たことあるんですか!?」
ツッコミを入れるシアであったが、そのとき3人が乗っているブロックの目の前に、下からせり上がってくるモノがあった。
それは巨大な甲冑姿のゴーレムだ。
いかにも最後の試練といった感じの存在であったが、そのゴーレムは律歌達を見つめて――
「君達! 修繕する私の身にもなってよ!」
泣きそうな声で叫んできたゴーレムに律歌は告げる。
「さてはあなたがミレディ・ライセンね? スタート地点に戻されたときはめちゃくちゃムカついたけど、迷宮を破壊しているうちにスッキリしたから許してあげる」
「ねぇ、君って本当に性格が悪いというか、思考がおかしいというか、そういう子だよね? 絶対そうだよね?」
「私の性格を論じる前に、まずは自分の性格を見つめ直してはどう? どんなトラップを仕掛けてもいいけど、スタート地点に戻すのだけはやっちゃいけないと個人的に思う」
「そんなことないし! 君の性格が悪すぎるのが原因! 慌てて構造変化とかトラップとか止めたけど……それでも直すのにどれだけ時間が掛かるか……本当に最悪!」
「ところで私には律歌って名前があるから、しっかり覚えてね?」
「律歌ね……絶対に忘れない。私の憂さ晴らしも兼ねて、ここでブチのめしてやるんだから!」
そう告げるミレディに律歌はこれみよがしに溜息を吐いて、やれやれと首を左右に振ってみせる。
「あまり強い言葉を使うな、解放者。弱く見えるぞ?」
「ぶっ殺してやるぅ!」
怒りに我を忘れたミレディはその巨体を活かして拳でもって殴りつけようとするが、そんな単調な攻撃は律歌にも恵里にも通用しない。
しかし、ここで律歌は恵里に告げる。
「恵里、シアは任せた。こいつは私がしばき倒すから」
「うん、分かったよぉ。僕の分も殴っといて」
「私の分もお願いします!」
2人はそう答えつつ、恵里はシアを背負って退避していく。
その最中にもミレディの攻撃は止むことはない。
ブロックからブロックへ、軽業師のように飛び移りながら律歌はゴーレムを観察する。
ゴーレムの弱点は核だが、どこにあるか分からない上、その身に纏う甲冑はただの鉄でできているようには見えない。
ここまで散々人をおちょくってきたミレディが用意した最後の試練と思われるゴーレム。
それが脆いわけがない。
「あれ? あれれー? もしかしてぇ、手も足も出ないのかなぁ?」
余裕を取り戻したのか、ミレディは攻撃しつつもそんな言葉を掛けてきた。
しかし、律歌は動じない。
「いえ、すぐに倒しちゃったら情報が得られないかもって思ったのよ」
「情報? 私を倒したら得られるかもねー」
「それじゃ、そうさせてもらうわ」
ゴーレムの核がどこにあるか分からないが、ミレディの魔力によって動かされているのは間違いない。
要は地球の電化製品と同じで、外部から大電流を流してやれば壊れる筈――
律歌はそのように予想し、行動する。
駆け出した彼女であったが、ミレディは何かをやってきそうな予感がした為、上から大量のブロックを降らせる。
降り注ぐブロックは1つ1つが巨大であり、かつ大重量だ。
当たるどころか掠っただけで致命傷になりかねないのだが――ミレディは困惑してしまう。
律歌はミレディへ向けて一直線に駆けてくる――邪魔なブロックをその拳で粉砕しながら。
巨大なブロックが彼女のパンチ一発で木っ端微塵に砕け散るのは、悪い夢でも見ているかのようだ。
莫大な魔力を身体強化に回せば理論的には可能であるが、あそこまで強化してくる輩は律歌が初めてだ。
どんだけバカ魔力を持っているんだとミレディは思いつつ、タイミングを見計らって赤熱化した右の拳を律歌目掛けて叩きつける。
だが、当たらない。
ここで重力魔法を使ったり何だりと色々と打つ手はあったが、ミレディは律歌が何をやってくるか興味があった。
単純に装甲を拳で殴ってきたところで、アザンチウム製は伊達ではない。
何よりも、ぶち抜いてきたとしても時間があれば壊れた箇所は修復できる。
迷宮をぶっ壊されて腹立たしいが、それとこれとは別の話だ。
そして、律歌は赤熱化していない部分に座り込み、装甲に手を触れた。
拳を叩き込んでくると予想していたミレディからすると拍子抜けしたが、すぐに何をやっているのかが分かった為、彼女は律歌に感心してしまった。
ゴーレムはミレディの魔力を核から隅々まで行き渡らせることで動いている。
そして、ミレディがゴーレムの甲冑に使っているアザンチウム鉱石は世界最硬の硬度を誇るが、魔力を弾いたりするような性質はない。
そんなゴーレムに外部から律歌の魔力を極めて短い時間で大量に送り込んだならば――内部の魔力がめちゃくちゃになってしまい、ゴーレムの制御ができなくなるのも当然であった。
制御不能に陥ったゴーレムはゆっくりと倒れ始めた為、律歌はすかさず退避する。
そして、完全に倒れたところでミレディが溜息混じりに告げた。
「まさかこんな攻略のされ方をするなんてなぁ……律歌って本当に色んな意味で予想外」
「それほどでもない。でも、ぶっちゃけまだ動けるんじゃない? 魔法行使とかもできそう」
「んー、そうだねぇ……君の魔力を全部外に放出して、ゴーレムの内部回路を再構成して再起動を掛ければ問題ないんだけど、その前に核を見つけられちゃうかな。魔力をそっちに割かないといけないから、大規模な魔法行使もできないし……だから君の勝ちだよ」
その言葉を聞いて、律歌は鷹揚に頷きつつ、ゴーレムの顔の前までやってきてそこに座った。
「……人の顔の目の前に座るって行儀が悪いよ?」
「ぶっ殺してやるとか言ってきた誰かさんよりは行儀が良いと思うわ」
「だってそれ、律歌がめちゃくちゃにしたからじゃない。直すの手伝ってよ」
「そういうことを想定していなかった方が悪い。迷宮全部をアザンチウムで作ればよかったのに」
「この甲冑を作るだけで、どれだけお金と時間が掛かったと思う?」
「じゃあ、諦めて」
涼しい顔でそう告げる律歌にミレディは深く、それはもう深く溜息を吐いた。
「君さ、性格悪いって言われない?」
「気のせい。で、ミレディ。ここで得られる魔法って何? この前、オスカー・オルクスのところで生成魔法を貰ったんだけど」
「え? オーちゃんのところを攻略したの? それなら最初に言って欲しかったんだけど……ともかく、ここは重力魔法だよ」
「重力魔法? 本当?」
「うん。このボディだとちょっとアレだから、別室に案内するよ。他の2人もクリアってことにしてあげる」
「あ、実はこの後、もう1回攻略しに来ようと思っているんだけど……別の子と私のペアで」
律歌の言葉にミレディは再度、溜息を吐いた。
「……君に暴れさせると私の迷宮がぶっ壊されかねないから……その子が私との面接に合格すればクリアにしてあげる」
「ちなみにその子、300年くらい前に滅んだ吸血鬼一族の元女王でオルクス大迷宮に封印されてた」
「君って本当に色んな意味で変わっているね……じゃ、案内するから……」
そう告げるミレディは精神的に疲れていたものの、同時に確信する。
この子なら、あのクソ野郎を――
その思いを胸に、彼女は奥の部屋へ律歌達を案内するべく、ブロックを1つ動かしてそれに乗るよう指示するのだった。