地球における労働の魔の手から逃れ、左団扇な生活を目指す話   作:やがみ0821

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かめはめ波が撃てるかもしれないので、頑張ってみようと決意する話

 

 律歌は自室で気色悪い笑みを浮かべていた。

 まさか本当に異世界召喚されるとは思ってもみなかったが、予想外の幸運である。

 

 召喚背景もありきたりな感じで、魔人族との戦争で最近、人間族が押されているので神に頼んで召喚したとかいうものだ。

 だが、絶対に何か裏があると律歌は予想している。

 その理由としては、神という存在は碌でもないものばかりという考えによるものだ。

 

 エヒトとかいう神様がよっぽど良い神なら話は別だが、ギリシャ系のノリであったならば目も当てられない。

 とはいえ、何かご利益をくれるなら信仰してやってもいいくらいには律歌は思っていた。

 

 そんなことは横において、律歌は自分のステータスプレートを見る。

 胸の高鳴りを抑えきれない。

 

 彼女の天職は魔導師である。

 

「これでふたなりになれる……恵理とあんなことやこんなことができる……!」

 

 今日の昼間、ステータスプレートを渡され、血を垂らして出てきたこの天職とステータス。

 その後に訓練と座学が開始されたが、律歌はその最中も頬の緩みを抑えることができなかった。

 恵理は律歌が上機嫌であったことにつられて、彼女も上機嫌であった。

 

 クラスメイト達は律歌と恵理が親友であると考えていたが、実際にはどういう背景でどんな関係に至っているのかは知らない。

 気軽に話せるものでもない為、律歌も恵理も誰にも教えていなかった。

 

 

「何が都合が良いかって、魔法なら何でもできる。たぶん」

 

 色々と手順が必要らしいが、律歌のステータスプレートの技能欄には魔力操作とか魔力制御とかいう項目が幾つもの技能の中に紛れていたので、騎士団長のメルドにそれとなく尋ねてみたところ、彼は口外しないほうが良いと助言をしてくれた。

 

 どうやら、とんでもないモノを引いてしまったようだ。

 

 技能は先天的なもので、派生を除けば増えることはないというが、こんなにも自分の欲望を達成する為に都合が良い天職とステータスであるのはなぜか――?

 

 そこで、律歌はやっぱり自分は転生者というカテゴリーなのだと考える。

 転生すると力が増すというのはありがちなパワーアップ方法で、MMOとかでもよくお世話になる。

 前世の意識はどうなったのか疑問だが、融合でもしたんだろうと彼女は思う。

 ともあれ、現実においても転生したらパワーアップするのか甚だ疑問だが、あいにくと律歌は他の転生者を見たことも聞いたこともない。

 かといって、超越的な存在に連絡が取れるというわけでもなく、律歌としては何だか知らんけど都合良くパワーアップした、ラッキーと思うしかないのである。 

 エヒトとやらに聞けば教えてくれるかもしれないが、あんまり気乗りしない。

 

 悪魔なら契約だけは守るからその範囲内では信用してもいいが、神というのは根本的に信用できない、神話的に――

 

 そういう考えが律歌にあった為だ。

 

 

 

 そして、魔力というのは何なんだろう、と律歌は己に問いかける。

 

「体内の魔力を使うとのことだけど……それはどの時点からあったのか?」

 

 地球の頃からあったのならば、地球における健康診断で何かしらの異常が見つかっても良い筈だ。

 あるいは地球における科学的な検査では発見できない、未知のエネルギーかもしれない。

 もしくは地球人類にも既に存在しているが、未だそれを発見できる技術レベルに達していないという場合も考えられる。

 トータスではエヒトなる神によって、魔力が日常的なものになっているのかもしれない。

 魔力が無い亜人は神に見放された存在として迫害されていることから、神が何かやっているんじゃないかと律歌は思うが、所詮は彼女の脳内妄想に過ぎない。

 

「まあ、そんなことはどうでもいいんだけど、魔力が何かっていうのが問題なのよね」

 

 体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、陣に組み込まれた式によって魔法が発動するというプロセスがこの世界の魔法には必要だ。

 この式も基本的なものに加えて、発展的なものを付け加えていくと陣もその分、大きくなる。

 

「魔力とは様々な物質に作用することができる粒子と仮定しておくのが、妥当なところかしら……」

 

 物理法則がどうなっているかは分からないが、少なくともこの世界――トータスでも重力は存在する。

 それもおそらく地球と同じ程度で、また大気組成に関してもそうだろう。

 

 たとえば、もしも大気組成に差異があるのならば、技能の中に言語理解だけでなく毒無効化とかそういうものまで出てくるのではないか、と律歌は考える。

 

 あるいは転移の際に、体ごとトータスに適応できるように作り変えられたという可能性は無きにしもあらずだが、それならば言語理解という技能が出てくるのもおかしな話だ。

 

 エヒトとやらがどこまでできる神かは分からないが、実際には体を作り変えているが、あえて転移しただけと思わせる為に言語面に関しては弄らなかったのかもしれない。

 そんなことをする理由は皆目検討つかないが、超常存在の精神や思考は人類と異なるだろうからして、深い理由があるのかもしれない。

 

「思わず陰謀論に思考がいってしまうけど、楽しいから仕方ないわね……それよりも、魔力は使える。便利だわ」

 

 エネルギー保存の法則がこの世界でも適用されるか分からないが、十分に使いこなす為には勉強と鍛錬を頑張るしかない。

 

 

「しかし、あれね。帰りたいとか言っている人もいたけど……そんなに帰りたい?」

 

 確かに地球では色々と見て回っていないところが多い。

 恵理と一緒に海外旅行とか行きたいが、しかし待ち受けているのは就職である。

 

 働きたくないでござる――

 この魔導師の力を使ってトータスで一攫千金、金持ちになってウハウハしたいでござる――

 

 それが律歌の本音である。

 心残りは両親のことくらいだが、もしも帰還できるとなったならば、そのときに手紙でも持っていってもらえばいいだろう。

 だが、現状では帰還手段が無い上、教会の言っていることが本当ならば神頼みが唯一の手段だという。

 そんな不確実なものをアテにするならば、帰れないという前提で行動した方が良いと彼女は思う。

 というか、そもそも魔法を極めれば世界間の移動ができるようになるかもしれない。

 

「ふたなりになって、色んな魔法を扱えるようになる……! 目的は決まった。あとは行動するだけだ」

 

 そのとき、律歌は自分の部屋に近づいてくる気配を感知する。

 誰だかすぐに分かった。

 

 程なく扉が叩かれる。

 

「恵理、いるよ。来て」

 

 そう律歌が呼びかけると、扉が開く。

 そこにいたのは彼女が言い当てた通りに恵理が立っていた。

 

 彼女はすぐに扉を閉めて、鍵を掛ける。

 そして、恵理は椅子に座っていた律歌へ抱きついた。

 

「ねぇ、律歌……僕の天職、降霊術師って昼間に言ったよね? どう思った?」

「便利そうって思った。死体をたくさん……100万とかそこらの数を操れば大抵のやつには勝てると思う」

「さすがは律歌だね。ねぇ、律歌。人を殺すかもしれないけど、みんな分かっているのかな? 何かノリが軽いんだけど」

「いいんじゃないの? 殺す覚悟云々ってよく漫画とかだと出てくるけど、殺すのにいちいち覚悟が必要だったら、世の中の殺人事件はもうちょっと減っていると思う」

「だよね。僕としては律歌以外はどうでもいいから。死のうが生きようが、ね……」

 

 うんうんと頷きながら、律歌は問いかける。

 

「ところで恵理は私が人を殺したらイヤかしら?」

 

 問いに恵理は笑みを浮かべて、首を左右に振る。

 

「ううん。だって、律歌だもん」

 

 恵理の言葉に律歌は満面の笑みを浮かべて、小柄な彼女の背中へ両手を回す。

 そして、彼女の耳元で律歌は囁く。

 

「私、恵理のそういうところ大好き。あなたは私にとって特別よ。だから、私はあなたには全部伝えてあるのよ」

 

 律歌の言葉に恵理は微笑み、答える。

 

「転生って本当にあるんだね……」

「天文学的な確率の宝くじに当たったようなものだと思う……前世の記憶にある限りでは、マトモな性格をしていたんだけど、何だか気づいたら……こんな性格になっていたのよ」

「それは簡単だよぉ。律歌の話だと幼稚園のときに、前世の記憶が頭に出てきたんだよね?」

「うん」

 

 律歌が頷くと恵理はにっこりと微笑む。

 

「そんな子供のときに、大人だった前世の律歌の記憶が一気に流れ込んだなら、性格が変わらないほうがおかしいんじゃない?」

「それもそうね……」

 

 なるほど、と律歌は頷いてみせつつ、自分の性格について思いを馳せる。

 そして、ポツリと呟く。

 

「私の性格って何だろう……」

「良く言えば破天荒、悪く言えば非常識かなぁ……普通ならやらないことをやっちゃいそう」

「まだ何にもやってないわよ……」

 

 ジト目の律歌に恵理はくすくすと笑う。

 

「まだってことは何かやる予定があるんでしょ?」

「まぁね。ぶっちゃけさ、地球で就職して会社勤めするよりも、こっちにいる方が気楽で良さそうだわ。それに能力を鍛えれば色々とできそうだし……帰る必要なくない?」

「うん、僕もそう思う。律歌が帰らないなら僕も帰らないよ」

「恵理ならそう言ってくれるって思ってた。で、私はふたなりになって、魔法を極めようと思っているんだけど……」

 

 律歌の言葉に恵理は怪しげな笑みを浮かべる。

 彼女にとって大事なのは最初の単語である。

 

「律歌のえっち」

「嫌かしら?」

「ううん。でも、子供ができるようになったとしても、子供はいらない。あの女も僕のことはいらなかったみたいだし……」

 

 あの女と言われて律歌がピンとくるのは恵理の母親である。

 母親にとって、夫と娘を天秤に乗せたところで、それは常に夫の側に傾くものでしかなかったようだ。

 

 慰めの言葉とかそういうものを律歌は掛けたりしない。

 

「私も子供はいいかな。恵理を独占したいから」

 

 その言葉に恵理は満面の笑みを浮かべて、律歌を強く抱きしめる。

 

「僕も律歌の為に強くなるよ」

「じゃあ1000万ね。そんくらい操って」

「……が、頑張るよ……」

「声が震えているけど、大丈夫?」

「だ、大丈夫……」

 

 小動物みたいでかわいい、と律歌は恵理の頭を撫でつつ思う。

 

 

 

 やはり、漫画とかアニメとかの魔法や技の再現を試みるべきね――

 

 

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