地球における労働の魔の手から逃れ、左団扇な生活を目指す話   作:やがみ0821

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意思表示をする話

「マジで無茶苦茶キツイけど、ステータスの伸びが異常で私は嬉しい」

「僕もしんどいけど律歌と一緒だから嬉しい」

 

 2人は律歌の部屋で互いのステータスプレートを見せ合っていた。

 恵理は律歌の魔力をはじめとしたステータスの伸びに素直にスゴイと思えてしまう。

 

「律歌は頑張ってるから……スゴイなぁ」

「恵理だって、魔力の伸びがスゴイじゃない」

 

 2人に対する訓練は体と精神に大きな負荷を掛けるというのがコンセプトであり、とにかく理不尽だ。

 クラスメイト達に知られると面倒くさそうなので、みんながいる訓練施設とは別の場所でやってもらっている。

 しかも訓練は早朝から夜の帳が下りる頃まで続く。

 休憩が合間にあるものの、それでもほとんど訓練漬けの日々だ。

 訓練の時間も密度も他のクラスメイト達よりも長く、また濃密だ。

 

「もう少ししたらオルクス大迷宮っていうところだけど……どうしよっか?」

 

 律歌の問いかけに恵理は首を傾げる。

 

「2つの選択肢があると思うのよ。魔人族との戦争で体よく使われる為に訓練をつけてもらうっていうのと、ここらで頂くものを頂いて離脱するっていうパターン。どっちもメリット・デメリットがあるわ」

「律歌はどうしたいの?」

「恵理ってばすぐ私の意見に従おうとする……そういうところ、好き」

「えへへ……だって、律歌がしたいようにしてほしいもん」

 

 はにかんだ笑みを浮かべる恵理の頭を撫でながら、さてどうしたものかと律歌は考える。

 

 現状維持をした場合のメリットは国が後ろ盾についており、力や知識を得るには環境も良い。

 デメリットとしては国によって首輪をつけられている状態であり、あんまり自由にはできない。

 もしも何かがきっかけで、自分達に対する方針が変わったら大変なことになる。

 何よりも魔人族との戦争に勝利したとしても、その後は飼い殺しにされるか、あるいは権力闘争の道具にされるか、もしくは邪魔になったから始末する、という可能性もゼロではない。

 また帰還手段に関しても、教会の言っていることが本当なら神頼みでしかなく、それは非常に不確実なものだ。

 何よりも強大な戦力である自分達をそんな簡単に手放すだろうか、という疑問がある。

 

 

 一方、ここで逃げるというメリットは国に縛られないということだ。

 資金調達やら何やら全て自前でやらなければならないが、まさに自由だ。

 戦争そっちのけで修行に没頭することだってできるし、亜人族や魔人族と交流を深めることだってできるかもしれない。

 その分、自分でやらかしたことは全部自分で後始末をせねばならない。

 デメリットは危険視されて国や教会から追手が掛かるかもしれないこと。

 

 何ならクラスメイトに始末させようとするかもしれない。

 クラスメイトには過激すぎる正義の味方が1人いる為だ。

 

 あれこれ考えて、律歌の口から欲望が零れ出た。

 

 

「でも、正直、魔人族を見てみたいのよね……」

「見たいの?」

 

 律歌の呟きに恵理は問いかける。

 

「うん。他にも亜人族も見てみたいし……ぶっちゃけさ、人間なんて地球でもありふれているから、それ以外の種族と仲良くなりたい。これ、普通の感情よね?」

「普通だと思う」

 

 恵理の肯定に律歌はウンウンと頷きつつ、怪しい笑みを浮かべて告げる。

 

「正直、獣耳とか尻尾をもふもふしたい」

「……そう言われると僕も触りたい……もふもふしたい」

「じゃあ離脱ルートでいい?」

「うん、いいよ。どういう感じにやるの?」

「一抜けた、と言っても抜けさせてくれそうにないから、死んだことにするのが一番手っ取り早いかしら。落ちたら死ぬみたいなところでいい感じにやれば……」

「じゃあ、そうしようか……ねぇ、律歌。もしかして、これって駆け落ち?」

「逃げる相手は親じゃないけど似たようなものかもしれない。恵理と2人で誰も知らないところで生活するから……」

 

 その言葉に恵理は満面の笑みを浮かべ、律歌の胸に顔を埋めた。

 思いっきり深呼吸を始める彼女の背中を優しく撫でつつ、律歌は呟く。

 

「水とか食料とか色々欲しいわね……あとオルクス大迷宮っていう大層な名前なんだから、お宝の一つや二つはある筈だし……やばいわ、楽しみ」

 

 モンスターは物凄く強いと思うので、とにかくギリギリまで訓練を頑張ろう――

 

 律歌はそう確信しつつ、仕込みと意思表示は必要だと考えたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふぇ?」

 

 畑山愛子は訪ねてきた生徒2人が発した言葉に、そんな間の抜けた声を出してしまった。

 その生徒達――北条律歌と中村恵理の顔は真剣なものだ。

 

「えっと、どうしてですか? 帰らないって……」

 

 畑山にとって、この2人はどちらも成績優秀であると認識している。

 ただ、他のクラスメイトと打ち解けているようには見えず、学校行事などを除けばいつも2人だけで行動していると担任から聞いていた。

 かといってクラスメイトと問題を起こすこともない。

 

 教師側からすれば成績優秀で、問題行動も起こさず、クラスメイトと衝突するということもない為、非常に有り難い存在だ。

 

 しかし、畑山も含め学校の教師達は知っている。

 

 律歌の両親から担任が聞いた話によれば、彼女は幼い頃から同世代の子供と比べて並外れた思考力を持っていた、と。

 

 例えば彼女は小学校入学前に自分専用のパソコンを自作している。

 自作は簡単だと当時、律歌は言ったとのことだが、学生や大人が言うならばともかく、幼稚園児がそう言うのは異常だ。

 そしてインターネットへアクセスできるようになった彼女は、家が近かった恵理と一緒に遊びながら、自分が興味を持ったことを調べたり何だりしていたらしい。

 両親も制限するよりは好きにやらせてみよう、という方針であったのも幸いしたのだろう。

 

 そして、極めつけは小学校在学中に受験資格が不要な士業資格を取得したことだ。

 当時の新聞に載ったりテレビに出たこともあり、畑山も見た覚えがある。

 本人曰く小学生は時間がいっぱいあるから、とのことらしいが、畑山からすれば時間がいっぱいあってもやろうとは思わない。

 

 こういった経緯から北条律歌はギフテッドだと判断されていたのだが――そんな彼女が地球に帰らないという選択肢を選んだのは畑山としては不思議だった。

 進学も就職も、どちらも選り取りなのにと。

 

 その疑問に対する律歌の答えは単純だった。

 

「将来的には働いて収入を得なければなりません。その場合、人間関係などがストレスだからです。先生だって、仕事上のストレスはあるでしょ? 研修に行きたくないとか残業したくないとか……仕事だけど朝起きたくない、休みたいとか」

「……あ、えっと……」

 

 畑山は理解してしまった。

 彼女も人間である以上、そういうことがあるのは否定できない。

 言葉に詰まる畑山に対し、律歌は告げる。

 

「私はそういうストレスがイヤです」

「あ、そ、その、あなたならきっとそういうOLみたいなことはしなくても……社長とか……?」

「世界中どんな仕事をしていても、人間と接することを避けれられない以上、理不尽なことに遭遇します。まあ、私が大魔王にでもなって部下をこき使えるような立場になれば、地球に帰ってもいいかもしれないですけど」

 

 ノストラダムスの予言に出てくる魔王かな、と畑山は現実逃避しそうになったが、どうにか踏ん張る。

 

「ご、ご両親とかは……?」

「帰還したい人達に手紙でも持っていってもらいます。といっても現状ではそもそも帰還する術がありませんし、可能性があるのは神頼みという不確かなものなので帰れない前提で行動するのがみんなにとっても良いのではないかと私は思います。あと恵理の親については知っていると思いますけども……?」

 

 律歌の答えに畑山は焦るが、恵理は平然としている。

 

 中村恵理の事情は入学の際に教師達全員に共有されている。

 面談など保護者が必要である場合、未成年後見人である律歌の両親に頼んでいた。

 

 恵理自身が律歌の両親を自らの後見人として候補してもらい、家庭裁判所の審判を経て、正式に後見人となっている。

 

「律歌、そろそろカミングアウトしよう」

 

 恵理の言葉に畑山はまだ何かあるのか、と身構える。

 そして、2人は告げる。

 

「私は同性しか愛せません」

「僕も同性しか愛せません。僕と律歌は付き合っています」

「……ごめんなさい、ちょっと深呼吸をさせてください」

 

 畑山がそう言ったのも無理はない。

 地球に帰らないというのもそうであるが、ここでそのカミングアウトは予想外であった。

 

「先生、別に無理して何か言おうとしなくてもいいんですけど……」

「そ、そんな無理なんてしてないですよ?」

 

 目が泳いでいる畑山に律歌は肩を竦めつつ、言葉を紡ぐ。

 

「それと先生、実はまだあるんですけど」

「今度は何ですか? 先生、もう驚きませんよ」

「イジメの告発です。南雲ハジメ君は檜山大介を含む4人にイジメを受けています。4人組の方は悪ふざけの範疇だと言うこともありますが、明らかに度を越しています」

 

 予想外の告発に畑山はいよいよ困ってしまう。

 

「どうして今、言うんですか? こっちに来る前に言ってくれれば……」

「日本ではイジメの加害者に制裁を加えるのは難しいのでは?」

 

 そう言われると畑山も反論できない。

 被害者が周りに助けを求めていたとしても、教師が気づかなかったり、気づいていない振りをしたりという事例が多い。

 なぁなぁで済せてしまう事例もある。

 

 律歌は更に言葉を続ける。

 

「私が帰らないという判断をしたのは、そこにもあります。別に私や恵理がイジメを受けていたということじゃないんですけど……台風とか地震とかの自然による理不尽なら、諦めもつきます」

 

 そこで言葉を切り、一拍の間をおいて彼女は言葉を紡ぐ。

 

「しかし、他者から与えられる理不尽に関しては我慢できるか怪しいです……また同時に自分が他者に理不尽なことをしてしまうのを、私は許せてしまうでしょう。幼稚な独裁者の思考そのまんまですが、私の本質ってそういうものなんだと思います。自分のことは棚に上げるというやつです」

 

 そこまで自己分析できちゃっているのかぁ、と畑山は遠い目になってしまう。

 しかし、大人として言わねばならない。

 彼女は律歌の瞳をまっすぐに見据えて告げる。

 

「我慢しろ、とは言えません。先生だってそういう経験は色々あります。そういうことは、うまく受け流しましょう。自分の好きなことをやったり、美味しいものを食べたりとかすれば気が晴れますよ」

「……そういうものなんですよね、やはり」

 

 律歌の言葉に畑山は頷きつつ、言葉を紡ぐ。

 

「理不尽を我慢できないから、と力に訴えるのは駄目です」

 

 畑山の言葉に律歌は伏し目がちとなって沈黙する。

 その様子を畑山と恵理は静かに見守る。

 

 やがて律歌は小さく呟く。

 

「……多少の理不尽に関しては、受け流す努力をします」

「ええ、あなたならできます」

 

 そう言って微笑む畑山に、律歌はもう一つの要因を述べる。

 

「色々と言いましたけど、こっちに来て強い力を得たということも大きな要因です。個人の意思一つでこの力は行使できて、制限するのは個人の倫理観や思考・精神状態のみです。外部からの抑止が働かない力ほど恐ろしいものはありません」

 

 そこで言葉を切り、律歌は間をおいて更に続ける。

 

「地球に戻ったところでこの力が無くなるとは限らないですし、それなら故郷で迷惑を掛けるよりは、勝手に召喚したこっちの世界で色々やった方が意趣返しにもなりますので」

 

 律歌の意思は変わらなかった。

 畑山には彼女を説得する言葉が出てこない。

 だが、これだけは聞いておかねばならなかった。

 

「何をしますか?」

「魔法を極めたいです。でもって、就職しなくてもいいこの世界で、恵理と左団扇な生活を送りたいです」

 

 意外と俗っぽい目標に、畑山は思わず笑ってしまう。

 そして、彼女は問いかける。

 

「就職はしなくても、お金を得る為には働かなければならないですよ?」

「モンスターを討伐するとか大迷宮を探索するとか、地球ではできない仕事はやってみたいです。あと地球で人間はありふれていますが、この世界には人間以外の種族も多くいます。彼らと交流したいです」

 

 なるほど、と畑山は頷いた。

 確かに地球ではできないものばかりだ。

 

「ところで、先生。壁に耳あり障子に目ありという可能性は否定できないですね」

 

 律歌の唐突な発言に畑山はハッとする。

 

 もしかしたら誰かが聞いているかもしれない――

 

 彼女が社会科教師であったことも幸いしている。

 

 ここは現代の地球とは違う。

 地球の歴史区分に当てはめるならば、中世時代のヨーロッパに該当するだろう。

 

 王や宗教の権威・権力の強さは現代の地球における比ではなく、迂闊な発言はマズイことになる。

 魔人族についてどうするか、と畑山は尋ねようと思っていた為、危ないところであった。

 

 そして、律歌が告げた壁に耳あり障子に目ありということわざが、どのようにこの世界の人間に聞こえるかは不明であるが――意味不明なものに聞こえておいて欲しいと畑山は思う。

 

「それと天之河君は色々とアレです。ああいう性格の人はマルクスやレーニン、あるいはトロツキーの著書を読めばきっと大きな影響を受けるでしょう」

 

 この子はいったい、どこまで考えているんだと畑山は呆れてしまう。

 確かに、彼の性格的にそういう危険性はある。

 

 教師から見ても彼は優秀な生徒であるが、その一方で自分の正義を信じて疑わない節がある。

 彼を利用したい輩が自らを弱者だと偽れば簡単に彼は騙されるだろう。

 

「幸か不幸か、彼が主導したことで現状はこうなっています。故に、私と恵理はお暇します」

「……はい?」

 

 律歌の言葉に畑山は目を丸くする。

 お暇の意味は当然理解できるが、どうしてその結論になるんだろう、というのが彼女をそうさせたのだ。

 すかさず律歌は告げる。

 

「私達は彼の部下じゃないので」

 

 畑山は律歌の言わんとしていることに気がついた。

 ただお暇するというわけではないのだと。

 

 畑山は問いかける。

 

「出奔するということですか?」

「逐電とも言いますね」

 

 2人のやり取りを横で見ていた恵理は思う。

 

 日本語ってスゴイなぁ、と。

  

 出奔も逐電も行方をくらますという意味合いであるが、後者は素早く逃げ出すという意味を含んでいる。

 

 

 技能:言語理解がどこまで翻訳しているかは不明だが、日本特有の言い回しは有効な対策ではないかと恵理は思いつつ、2人を見守る。

 

「どのように?」

「分かりやすくいえば、ヒトラーが南米にいたというやつですね」

「ああ、そういうことですか……」

 

 ベルリンで死んだヒトラーは影武者で、本物は南米に逃れていた――死を偽装したというのはよくある陰謀説だ。

 畑山は2人が死を偽装するのだ、と確信する。

 

 こればかりは地球の歴史などを知っていなければ意味が分からないだろう。

 

「話が前後しますけど、南雲君はオルクス大迷宮に行かせない方がいいかもしれないです。そもそも彼は戦闘職ではなく生産職です。旧軍のようなことになっては駄目ですから」

 

 律歌の例えを理解し、畑山は頷き答える。

 

「彼に関しては他の錬成師の方々と交流したほうが良いかもしれません」

「そちらの方が明らかに良いです。それと先生、私達の件をうまく使ってください。警察案件ではなく自衛隊案件だとかそういう風に伝えれば……」

 

 律歌の言葉に畑山は大きく頷いた。

 

「うまく話を盛っておきますね。あ、それと手紙の件、よろしくお願いします。勿論、あなた達の気が変わったら……いつでも構いませんよ」

 

 畑山の言葉に律歌は頷いたのだった。

 

 

 

 




実は、ありふれた革命家で世界変革とかいう構想もあったけど、さすがにアレ過ぎたのでやめました(小声

そっちだと世界革命がいけるんじゃないかって実行しようとしてた。
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