地球における労働の魔の手から逃れ、左団扇な生活を目指す話   作:やがみ0821

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落差が酷い話

 

 

 北条律歌と中村恵理が65階層にてベヒモスと共に落下し、生存は絶望的―― 

 

 

 その事実はクラスメイト達の心に重く伸し掛かった。

 律歌と恵理が基本的に2人だけで行動し、他のクラスメイト達とは少しばかり距離を置いていたものの、かといって孤立しているというわけでもない。

 グループワークや班分けなどでは他のクラスメイトからは誘われる存在だ。

 

 この一件を利用して、畑山愛子は生徒達にどういう状況であるのかを伝えねばならない。

 彼女は生徒達を全員――発端となった檜山も含めて――集めた。

 

 

 

 

「先生から皆さんにお話があります」

 

 暗い顔をしている生徒達に畑山はそう切り出し、結論から告げた。

 

「困っている人を救うというのは素晴らしいことですが、それにも限度というものがあります。誰も彼も救えるというのは、それこそ全知全能の神様くらいなもので、あなた達はそうではありません」

 

 そこで畑山は言葉を切り、ゆっくりと告げる。

 

「滅亡の危機にあるこの世界の人達を救う……私達にはその力があるとのことでしたが、現実はどうでしょうか? 今回だけでなく、今後魔人族との戦いに本格的に参加すれば、取り返しのつかない怪我を負い、最悪死んでしまうかもしれません……仲間達を失ってもなお、この世界の人々の為に戦えますか?」

 

 畑山は生徒達を見回しながら、この世界における魔人族と人間族の戦争について述べる。

 

「長年争っている魔人族と人間族は、どちらかの勝利が確定的となった場合、話し合いによって講和ができるでしょうか? 積み重なった憎悪がちょっとやそっとでは無くならないことは、地球の歴史でも明らかです。どちらかがどちらかを完全に滅ぼす……絶滅させるまで戦いは果てしなく続くかもしれません」

 

 そこで一度言葉を切り、畑山は少しの間を置いて告げる。

 

「この世界の状況を召喚当初よりも詳しく知った今、先生は改めて戦争への参加は反対です。これは武力によって解決する問題ではなく、種族間対立やそれに伴う歴史的背景、宗教までも複雑に絡み合った問題です。これらは、この世界の人々が時間を掛けて解決しなければならない問題であり、部外者の私達が安易に手を出して良いものではありません」

 

 畑山はそこで生徒達の様子を見ながら、締めに入る。

 

「私達は高校の教師と生徒でしかなく、このような複雑で根深い問題を解決する方法は持っていません。もしも、解決方法を皆さんの中の誰かが持っていたならば、アフリカや中東の問題を解決できます。そうなればノーベル平和賞は確実で、地球の歴史に残る英雄になるでしょう」

 

 そして、彼女は口を閉じた。

 今の彼女には普段の愛くるしい姿はどこにもない。

 

 生徒達は誰もが押し黙ったままであり、それは最初に魔人族との戦争参加を表明した天乃河光輝も例外ではない。

 また檜山大介は自分の行動が結果として2人を死に追いやった、という事実がある為、今にも自殺しそうな程に顔色が良くない。

 

 彼らも含めて生徒達に対して畑山は罪悪感を覚えてしまう。

 2人が偽装死であることを彼女は知っていた為だ。

 

「各自、よく考えてみてください。それでもなお戦争に参加するというならば先生は止めません。ですが、それは自分自身の命を参加料金にしているのだと思ってください」

 

 そう言いながら、死んだことになっている2人について思いを馳せる。

 

 今頃オルクス大迷宮を探索でもしているんだろうか――?

 

 畑山はそんなことを考えつつも、檜山大介と天之河光輝の両名についてはきめ細かなケアが必要だと確信する。

 彼らと仲の良い生徒達に協力してもらおう、と彼女は考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、律歌と恵里はというと畑山の考えた通りにオルクス大迷宮の奈落の底とでも言うべき場所を探索していた。

 

 檜山が発動させてしまい、全員が巻き込まれた転移トラップ。

 転移先となった65階層の橋の上にて、2人は他の誰よりも早くベヒモスの足止め役を買って出た。

 そして、うまく橋を破壊してベヒモスごと落ちた――というのが真相である。

 

 この時、律歌は恵理を抱きかかえて、魔力を放出して――足とかお腹とかは勿論、尻からも出たのはご愛嬌――推進力とすることで落下速度を減じていた。

 魔力操作及びその制御ができる律歌だからこその芸当であり、また彼女がこれまで空を飛ぼうとして睡眠時間を削って練習をしていたのも幸いした。

 空を飛ぶ練習をしていたのは、飛行ができれば便利であることは勿論、密かな野望への第一歩であり、その野望は魔法を極めるという目標にも通じている。

 

 高高度を超音速で飛びながら核攻撃を乱発――

 

 その野望を諦めていなかったが、無音とはいえ尻からも魔力が出たことは早急に改善が必要だと律歌は確信していた。

 

 

 

 

「はい、ご苦労さん」

 

 唸り声を上げてモンスター達が襲ってくるものの、律歌によって一撃で処理される。

 人差し指を相手に向けて、そこから圧縮した魔力の弾丸を高速で撃ち出す。

 敵がたくさんいるなら10本の指からマシンガンの如く撃ち放つことも可能だ。

 

 律歌が私の両手はマシンガンと言ったならば、恵理が指先を切り落としてないじゃん、とツッコミを入れるなど非常に和やかな雰囲気であった。

 

「しかし、地下水脈があるせいか、湿気がスゴイわね。持ってきたのがランタンじゃなかったら大変だったわ……値段は松明よりも高かったけど」

「うん。でも、いかにもって感じだよね。絶対お宝がたくさんあるよ」

 

 そんな2人の後ろをぞろぞろと付き従うモンスターの群れ。

 それらは既に死んでおり、恵理の魔法によって操られている状態だ。

 これに加えて、恵理が実験している魂を縛るオリジナル魔法を使えば、かなり悪いことができるんじゃないかと律歌は思っている。

 

「……恵理の魔法を使えば世界征服も可能じゃない? 表に出ず、権力者達をあなたが操るって感じで」

「律歌がそうしたいなら、僕はそうするよ。あ、サプライズってことでこの世界を君にあげてもいいかも」

「世界をプレゼントしてくれるとか、ちっこいのにスケールがでかい」

 

 頭一つ分くらい、恵理の方が律歌よりも身長が低い。

 むーっと恵理は頬を膨らませ、律歌へ飛びついてポカポカと殴る。

 

「ちっこくないもん!」

「同志ちっこいの」

「律歌がでっかいだけなの!」

「かわいい」

 

 ランタンをそこらに置いて、恵理を抱きしめる律歌。

 抱きしめられると満足して、恵理は機嫌を直す。

 そんなことをしながら、2人は歩みを再開する。

 

 程なくして、律歌が鼻歌を口ずさみ始める。

 その曲名を恵理は知っていた。

 恋人の趣味や嗜好を完璧に把握するのは彼女にとって当然なことであり、それが愛の深さに繋がると考えていた。

 

「インターナショナル?」

「インターナショナル。私達って状況的には王や宗教に背を向けるっていう、この世界の人からすると不届きなことをしているので、ピッタリなんじゃないかな……」

「この共産趣味者め」

「もしかしたら、この世界なら永続革命ができるかも……? トータスのトロツキーに、私はなるっ!」

「死因がピッケルになりそうだから駄目」

「ですよねー……ただ、革命の可能性はある。対外戦争をしている最中って、税金やら何やらが国民に対して重くのしかかってくるから……帝政ロシアでもそうだったけど、この国ではそこまで不満が溜まっているようにも見えないので、何とも言えない。やるなら仕込みが必要だわ」

「どうして僕の恋人は革命家になろうしているのかな?」

 

 恵理は背伸びして律歌の頬をぐにぐにと引っ張る。

 愉快な顔になる彼女を恵理はけらけら笑って頬から手を離す。

 

「まあ、革命に関しては国と教会がちょっかい掛けてきたらにするわ。やられたらやり返すくらいならセーフ」

「うん、そうしなよ。僕もその頃にはもっともっと強くなっているからさ」

 

 そんなやり取りをしながら、2人はマッピングしつつ下を目指して歩いていると魔力感知に引っかかるものがあった。

 モンスターの魔力よりも反応が非常に大きい。

 

 何なんだろう、と2人は疑問に思うも、そこに辿り着くには幾つもの岩を除去しなければ無理そうだ。

 とはいえ、岩の隙間から漏れ出てくる水のような液体は魔力を帯びていることが魔力感知によって分かる。

 

「恵理、任せた」

「うん、任せて」

 

 恵理はモンスター達を動かして、岩の除去を始める。

 バケツリレーの要領でどんどん岩を運んでいく。

 途中、岩が崩れてモンスターが何匹か下敷きになっても、既に死んでいるので大丈夫だ。

 見た目がグロテスクなことになったが、作業に支障はなかった。

 

 短時間で作業が完了し、2人が見つけたものは――青白く、神秘的な輝きを放つ鉱石であり、石からは液体が流れ出している。

 液体が魔力を帯びているのは、その水源である鉱石が莫大な魔力を内包している為のようだ。

 

「恵理……」

「律歌……」

 

 互いに名前を呼び合い、ハイタッチ。

 遂に見つけたお宝だ。

 

 喜びつつも律歌と恵理は鉱石から流れ出る液体を観察する。

 魔力を含んでいること以外は普通の水のような感じだ。

 

「モンスターに飲ませて毒味役をさせるってどう?」

「判別法としては信頼できないかな。せめて普通の動物が欲しい」

 

 問いに恵理は答えると、律歌は腕を組んで悩み――やがて意を決して告げる。

 

「ちょっと触ってみる」

「危険じゃないかな?」

「触った瞬間死ぬような危険なものなら、私達はもう死んでいるわ。水滴が付着しているし」

 

 律歌はそう言いながら、指先で液体に僅かに触れて、すぐに指を離した。

 刺激や痛みなどは感じない。

 

 指先に僅かについている液体を舌で舐め、ゆっくりと嚥下する。

 その瞬間、律歌は感じた。

 力が漲ってくるのを。

 

「……ねぇ、恵理。これってあれだわ、ゲーム的に言うならば回復ポイントだわ。それも魔力も含めて回復するやつ」

「マジ?」

「マジ。飲んでみて」

 

 律歌に促され、恵理もまた液体を指先につけてそれを舐めて、ゆっくりと飲み込んだ。

 そして、律歌の言葉が本当であることを体感する。

 

「……律歌、どうする?」

「勿論、決まっているわ……レベリングしよう。もしかしたら、これの回復効果次第ではモンスターの肉を食べても大丈夫かも……」

「さすがにゲテモノ過ぎない? あとモンスターを食べると身体がボロボロになって死ぬみたいだし」

「もしかしたら、それもパワーアップ手段ではあるかもしれない……とりあえず、レベリングをやろう。ある程度のところで切り上げる必要があるけども」

「さすがに食料になりそうなものって、こんなところにはないからね」

「ええ。念の為にこの水がどこまで回復するか、できる範囲で検証してみましょうか」

 

 律歌の提案に恵理は頷いた。

 そんなこんなで、2人はレベリングを始めるのだった。

 

 

 

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