地球における労働の魔の手から逃れ、左団扇な生活を目指す話 作:やがみ0821
※危険ですので絶対に真似しないでください。
モンスターを食べてパワーアップとかいう、斜め上の強化方法を得てしまった律歌と恵里。
これによって2人は自らの力を増強するというだけでなく、同時に食糧問題も解決してしまった。
そして、始まったのはモンスターの乱獲である。
もっとも、ただ肉を食べるというだけでは飽きてくる為、色んな部位を調理した。
ほどなく調味料が尽きたが、それでも空腹であればそれが最高の香辛料である。
なお、バジリスクの肉だけでなく目も食べたら石化耐性と共に石化の魔眼を得てしまったのは嬉しい誤算だ。
通常時は瞳の色は変わらず、石化能力を行使したときだけ瞳の色が金色となる為、律歌は悪さができると喜んだのは言うまでもない。
ともあれ2人はいちゃつきながら、鍛錬してモンスターを食べるという非常識な状態であったが、どちらも大満足であった。
もう一生ここで暮らしてもいいかもと思ってしまう程であったが、重大な欠点が存在している。
魔法に関する知識がまったく得られないことだ。
自己流で修行方法を考えてみたものの、偉大なる先人達が脈々と受け継ぎ発展させてきたものには到底及ばない。
故に、2人はこれまでに学んだ基礎的な訓練――特に魔力量を増大させる瞑想や、かつて律歌が失敗した指先に魔力を集めて逆立ちをするということも行っていた。
魔力量が多いだけではなく、それを十分に使いこなす為には精密な操作・制御が必要であるという律歌の考えによるものだ。
他にもこちらで覚えた魔法の訓練も行っている。
そんな風に過ごしていたのだが、律歌のとある欲求でこの生活は終わりを迎えた。
その欲求とは――食欲であった。
モンスター以外のものが食べたくなった律歌は恵里に提案したところ、彼女もその提案を快諾する。
しかし、せっかくこんな深いところにいるので、金目のものを探してみようという考えに至った。
単純に脱出するだけなら邪魔なものを魔法でぶっ壊して上へ向かうだけでいいが、改めて探索の為にここまで来るのも面倒くさい。
そんなこんなで2人は探索を開始し、下へ降りるところを見つけてはどんどんと下へ向かったのだが――かなり深く降りたところで人工的な扉を発見する。
意気揚々と扉を開けようとした律歌の前に現れて襲いかかる1つ目の巨人。
巨人は2体であったが、こんがり焼かれてその場で律歌と恵里に美味しく頂かれたのは言うまでもない。
そして、扉の先にいたのは――身体の半分程が石に埋まった少女であった。
少女は掠れた声で問いかける。
「誰かいるの……?」
律歌は状況を完全に理解し、うんうんと頷いて得意げな顔で問いかける。
「石の中にいるってやつね。宝箱に仕掛けられていた転移魔法にでも引っかかったの?」
「律歌、たぶんだけど違うと思う」
「え、違うの?」
律歌の問いかけに少女は困惑しながら否定する。
ならばと律歌は問いかける。
「封印を解いたら、お礼にお前達を食らってやろうとかそういうパターン?」
「違う……! 私は裏切られただけ……!」
少女の言葉に律歌は察する。
「権力闘争に敗れたパターンね。どうかしら? 私と一緒に革命を起こさない? 腐敗したブルジョワ達を一層し、新たな秩序を構築するっていうのは……」
「律歌、思考が革命家になっている。とりあえず、彼女の詳しい話を聞いてみようよ」
恵里の言葉に律歌は頷いて、口を閉じた。
それを見て、変な2人組だと少女は思いつつもゆっくりと自らの経歴や能力について語り出す。
それは簡潔なものであり数分と経たずに語り終えた少女は最後に告げた。
「お願い……ここから出して……何でもするから……」
「ん? 今、何でもするって……?」
律歌は目を輝かせて問いかけるが、少女はそれを肯定してしまう。
「あなた達の力になれると思うから……」
うんうんと律歌は頷いて叫ぶ。
「シンキングタイム!」
「え、あ、うん……?」
律歌の叫びに少女は困惑しながら、とりあえず頷いた。
すると律歌は恵里を引っ張って、部屋の隅っこへ。
そういう対応をされると少女としても気になるので、全神経を耳に集中させる。
幸いにも彼女達の会話以外、音といえば呼吸音くらいなものなのでどうにか会話が聞こえてきた。
「どう?」
「同性愛はこの世界でも特殊みたいだけど、万が一ってこともあるから僕は反対」
「それはそうなんだけど、蓄えた知識とかありそうだし……仲間にしておいて損はなさそう」
「うーん……そう言われると……実利を取るか、感情を取るかなんだよね」
「普通に接していれば大丈夫じゃない?」
「そうだよねぇ……」
何だかよく分からないが、とりあえず助けてくれそうだと少女は安堵する。
そして、2人が隅っこから少女のところへ戻ってきた。
「助けてあげるから、何でもしてくれるのよね?」
「……私にできることなら」
「じゃあ、とりあえずあなたの肉を食べさせてよ。私達、ここまでモンスターを食べて、その技能を頂いてきたのよ。それに食べるとステータスの上がり幅もスゴイわ」
律歌の言葉に少女は目を数回、瞬きさせる。
「えっと……人間?」
「人間だったけどたぶんもう人外じゃないかな……よろしく、人外の先輩さん」
にっこり笑顔で律歌にそう言われて、とんでもない連中に助けを求めてしまったのではないか、と少女は思ってしまう。
とはいえ背に腹は代えられない。
「分かった。でもあんまり痛くしないでね……?」
「大丈夫、ちょびっとだけだから。とりあえずトラップを警戒しつつ、その石をぶっ壊しましょうか。魔法で構築されているっぽいから大量の魔力を流し込めば破壊できるはず……たぶん」
そこはかとなく不安しかなかったが、少女は2人に任せることにした。
そして、律歌の予想通り封印を破壊した直後――彼女と恵里の気配感知及び魔力感知に引っかかった。
律歌は叫ぶ。
「上から来るぞ! 気をつけろ!」
「人海戦術だよぉ」
恵里の声と共に、扉の前であらかじめ待機させていたモンスターの死体達が入ってきた。
突如として現れたモンスター達に少女は驚愕するが、そのモンスター達が死体であることで更に驚いた。
そんな少女に律歌は告げる。
「恵里の魔法よ。彼女は降霊術師なの」
「そうなんだ……」
上からやってきたサソリのようなモンスターに殺到するモンスターの死体達。
その数は多く、サソリが溶解液で溶かそうが、4本のハサミで薙ぎ払おうがどれほど攻撃を加えてもモンスター達が途切れることはない。
多数の死体を同時に操るのは生半可な腕ではなく、高位の降霊術師であると少女は予想する。
そこまでの時間を掛けることなく、サソリのようなモンスターは息絶えた。
「というわけで、3分クッキングのお時間です。今日の食材は恵里が仕留めたサソリですが……生き物は焼けば何とかなります。最悪の場合、エリクサーを小瓶に入れて持ってきているので大丈夫でしょう」
まるで少女への説明のような律歌の言葉。
そして、モンスター達を操ってサソリを解体し始める恵里。
言葉を聞き、行動を見て少女は顔が引きつった。
「食べるものじゃないと思う……」
そんな言葉が彼女の口から出るのも当然だが、律歌はドヤ顔で告げる。
「これも貴重なタンパク源です」
「限度があると思う……」
少女はそうツッコミながら、あることに気づいて問いかける。
「……もしかして、私も食べるの?」
「え? 食べないの? モンスターを食べるとパワーアップできるわよ? 最初は死ぬほど痛いけど、あなたなら自前の再生力で何とかなるんじゃない?」
「絶対に食べない……!」
少女は律歌に拒絶の言葉を告げる。
しかし、律歌は諦めない。
「色んなモンスターを食べ続けたおかげか、最近は私も恵里も食べても痛みが無くなったわ。さっきも言ったけど、このおかげでステータスも技能もすごいことになっているんだけど……? どう?」
「たとえ利益があるにしても……私は絶対に食べない!」
少女の意思は変わらないのだった。