地球における労働の魔の手から逃れ、左団扇な生活を目指す話   作:やがみ0821

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短め


思想の麻薬

「ところで律歌の共産趣味って、僕にも適用されるの? 降霊術って使役される側からしたら、僕は倒すべきブルジョワにあたるのかもしれない」

 

 下への通路を探して歩いていた時、何気なく恵里が律歌へ問いかけた。

 つい最近仲間になった封印されていた少女――ルナは聞き慣れない単語があったが、2人の会話に耳を傾ける。

 

「死体が意思を持って、労働者階級として自覚し出したらワンチャン……まあ、そんなの関係なしに恵里のことは私が守るけどね」

「えへへ」

 

 そのように言われて、はにかんだ笑みを浮かべる恵里の頭を撫でながら、律歌はルナへ問いかける。

 

「ただ、死体が自分の意思を持つってそれって吸血鬼への第一歩だと思うんだけど、そこんところどう?」

 

 その質問にルナは答える。

 

「そういう形で吸血鬼が誕生するっていうのは聞いたことがない……ただ、降霊術師の制御を外れて死体が暴れ出したり、制御を外れた死体が意思みたいなものを持ち始めてモンスター化するっていうのは聞いたことがある」

「さすがはルナね。博識だわ」

「うん。スゴイと思う」

 

 2人から褒められると、ルナとしても気分が良い。

 しかし、彼女にとって2人の間で行われる会話の意味を正確に理解することは、地球のことを詳しく知らない為いささか難しい。

 

 恵里が更に律歌へ問いかける。

 

「イデオロギーを曲げると批判されるっていう傾向が強いらしいけど……?」

「そもそも私は共産主義ガチ勢じゃないので、恵里と革命どっちか選べって言われたら、迷わず恵里を取るわよ」

 

 そこで律歌は言葉を切り、少しの間をおいて告げる。

 

「それに共産主義の伝家の宝刀、共産主義者がやることはどんなことでも人民にとって善であり、資本主義者がやることは人民にとって悪という素晴らしい論法がある。今回なら恵里は私にとって大事な同志であり、彼女は革命達成の為に必要不可欠とすればいいわ」

「……共産主義がどのような主義主張かは分からない。でも聞く限りだと、自分達にとって都合の良い理論を振り回しているだけに聞こえる」

 

 ルナの言葉に対して律歌は答える。

 

「まさしくその通りなのよ。この論法を使用すると、主義主張とは何も矛盾しないということになるわ。主義主張自体も耳聞こえの良い言葉を並べておけば批判もされにくいからね……この論法は都合が良いので、私も形を変えて使いたいと思う」

「地球って摩訶不思議。あと使わなくていい」

 

 そのやり取りを聞き、恵里は問いかける。

 

「改めて聞くけど……律歌、どうして共産趣味になったの?」

「独特の雰囲気と何とも言えぬ浪漫があるのよ。共産主義に限らないけど、やっぱり全体主義って一種の麻薬だわ」

「さすがの僕も理解が追いつかない……僕は律歌ガチ勢なのに、悔しい……!」

 

 悔しがる恵里をよしよし、と慰めながら律歌はあることを思い出す。

 

「そういえば、ルナの名前に関してなんだけど……やっぱりクラースナヤ・ズヴェズダーにすれば……」

「その単語にはどういう意味があるのかは分からないけど、今の名前に決まって良かったことだけは分かる」

「赤い星って意味よ」

「意外とマトモ」

「そうでしょ? 改名する?」

「言いにくいから、ルナでいい」

「それは残念だわ」

 

 そんなこんなで3人は迷宮を進んでいく。

 このとき、3人に出会ってしまった不幸なモンスターの中にはアルラウネっぽい他者を操る植物系モンスターがおり、久しぶりの野菜として律歌と恵里は喜んだ。

 ルナは幸いにも血を吸えば問題ない為、2人の血を定期的に吸っているが、どちらも味が大変素晴らしいことに驚いた。

 

 なお、約束のルナの肉に関して、彼女自身に持ってきていたナイフを渡して提供してもらい、それを律歌と恵里は食べている。

 これによって2人の技能欄には自動再生なるものが新たに現れており、試してみた結果からルナの再生能力だと予想され、律歌が狂喜乱舞したのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 そして、いよいよ3人は迷宮の最深部に到達する。

 明らかにこれまでとは異なる雰囲気に3人の緊張も高まる中、巨大な召喚魔法陣が床一面に浮かび上がった。

 

 魔法陣より現れたのは――六つの首を持つ、ヒュドラであった。

 

「これってヒュドラよね!? カッコいい! ペットにしたい!」

 

 本物のドラゴンにテンションが上がる律歌に、ルナは脱力し、恵里はほっこりとしてしまう。

 

「律歌、そんなことより戦う!」

 

 ルナの叱咤する間にも、既に恵里がモンスターの死体達を突撃させていた。

 ここに来るまでの間、かなりの数のモンスターを兵隊にしていたが、ヒュドラを相手にするには力不足であることが否めない。

 故に恵里はヒュドラの動きを阻害するように死体を動かしながらも、自らも魔法でもって攻撃する。

 

 強化された魔力や身体能力を駆使すれば近接戦闘も問題なくこなせるのだが、さすがに多数の死体を操りながらそれは困難だった。

 一方のルナと律歌はそれぞれ魔法でもって攻撃を開始するのだが――ルナは律歌の魔法らしきものに驚いた。

 

 なんだか光の線みたいなものが律歌の10本の指から出ており、ヒュドラの皮膚を焼いている。

 

「私の両手はレーザーよ!」

「本当に光の速度だったら最強だよねぇ」

「だよねぇ、私もそう思う」

 

 2人のやり取りに、ルナは何だかよく分からないがとりあえず自らも魔法を使う。

 ここに来るまでの間、2人の戦闘力に関しては中々のものであるとルナは知っていたが、レーザーなるものを律歌が使っているのを見たのは始めてだ。

 魔力を超圧縮して高速で発射するということは既にやっていたが。

 

「こいつで最後だと思うから一気にいくわよ! 火力で押しつぶす!」

 

 律歌の宣言にルナと恵里もまた頷くのだった。

 

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