公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい。   作:和鷹聖

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前回の予告どおり、間話です。



間話 ~G・フレーム組み立て秘話~

そこは職人達の誰しもが知らない場所だった。

 

 

「……おい、ここ何処だ?フェルネス、解るか?」

「解りませんね。今までこのような場所は開示された事はないので……」

「私もです。イザリアさんは?」

「私もよ。フェルネスとシレーネが知らないなら、本当に誰も知らない場所ね、ここは。」

 

 

そこは地下空間、というにあまりにも大きい。

10メートルのゴーレムが軽く入るどころではない。それ以上の存在が立ち上がっても走り回っても何ともない程に大きい地下空間である。

古株のフェルネスとシレーネの夫婦が知らないとなると、もはや誰も知らない場所である。

 

魔力(マナ)を用いた大型白光灯(ライト)に照らされた壁や床は全て精密にカットされた石畳や石壁で覆われている。

また、天井と地面を支える柱も同じく精密にカットした石の柱が広い間隔でそびえ立つ。

だが、石だけで構成されているようではなく、中身は別の骨組みがあるようで、耐震性や強度にも優れる構造になっているのを職人達は見逃さなかった。

 

そして何よりも職人達の目を釘付けにしたのが、その石の柱の間にある、何かの装置。

立てられた長細い箱の骨組みのような、そして周囲には上下左右に可動出来るの足場が。

これは果たして何か……

そして、ここにいる職人達にそれを察知する人物は、ごく僅かだがいたりする。

その内の一人、エルフで無表情が特徴のフェルネスは、判る人物の1人だった。

 

 

「整備用の……ハンガー、というものですか。」

「ハンガー?」

「お嬢様が言うにはロボット……まあ、我々で言えば巨大なゴーレムに使える、整備備品です。全身くまなく足場を稼動、設置出来るので、スムーズな整備が可能なのです。」

「ほぉ、詳しいな。」

「時間が空いた時に、お嬢様にお願いをしまして、一部の作品を見させて頂きました。それがその中に……形状は多少の誤差はあれど、使用用途が似ていますので、何となくですが判ります。」

 

 

ちなみに、一通り見たのは宇宙世紀系。

アフターコロニー、それ以外はこれからである。

 

 

「成る程ねぇ……って事は、ちゃっかり奥にある魔力転換炉(エーテルリアクタ)が、天井の明かりとそのハンガーとかいう足場を動かすための動力、って事でいいのかしら?」

 

 

イザリアが地下空間の奥に視線を向ける。

そこには回路が光輝く、稼働中の魔力転換炉(エーテルリアクタ)が3機、壁に埋め込まれていた。

 

 

「……間違いないですね。型は見たことない物ですが、おそらくお嬢様の創作品でしょう。」

「ちなみに、魔力転換炉(エーテルリアクタ)って、個人単位で自作出来んのか?」

「無理よ。並のエルフですら製作不能の逸品で、普通に創れるのはアルヴの民ぐらいだけど、お嬢は完全に例外。素材の精霊銀(ミスリル)を加工出来る人外よ。あと、あれが無人稼動してんのも無視しなよ。」

「……おう。」

 

 

イザリアの忠告に心底同意するダーヴィズ。

本来なら騎操士(ナイトランナー)、ないし操作する存在がいないと動くはずのない魔力転換炉(エーテルリアクタ)

どうして無人稼動してるかは、職人達には解らないが、きっとタネはあるのだろうが、心の衛生上、聞かないほうが懸命である。

 

……それと、その近くに大きな布が被せられた2メートルと15メートル級の()()があったが、それに突っ込みを入れる勇気はなかった。

 

 

「もう、何でもアリだな。」

「まあ、それよりも私らがここに呼ばれた理由が問題よ。目の前に散り散りに置かれた部品達をどうするって云うのは解るけど……」

「如何なものでしょう。それより私は……時折来る視線が気になるのですが……」

「視線?気のせいじゃねぇか?」

「……だと良いのですが。」

 

 

そして本題。

石畳に置かれた幾多の部品、パーツ、その他エトセトラ……

大小様々な部品達がそこにあった。

しかもそれらは、ある一定の決まりによって置かれている。

ただ、一つ気掛かりがあった。

それは……

 

 

「───ああ、皆さん。お揃いですね。」

 

 

そんな時、軽快な声が響く。

それは職人達をここに呼んだ張本人で職人達の雇い主、カルディナである。

カルディナは集まった職人達の顔を一通り確認すると、すぐに本題に入った。

 

 

「今日はですね、ご覧の通り様々な部品、備品、環境が御座いますが、お察しの通りこれらの組み立て作業をして頂きたいのです。」

 

 

───やはりか。

 

 

「作業にあたり、組み立ての()()()はここにありますので、作業総括をフェルネスさんとし、皆さんで組み立て作業をお願いします。質問はありますか?」

「はいよ。」

「イザリアさん。」

「まず結論を聞きたいんだけどさ、これは最終的に何になるの?」

「……判りやすく言えば、幻晶騎士(シルエットナイト)と似て非なる、20メートルクラスの機体の()()が出来ます。」

「……それを今の時期に組み立てる理由は?」

「それはですね、私が商会の仕事を溜め込んでしまったからです。」

「……それは答え?」

「それはですね……」

 

 

カルディナの言い分としては、商会の仕事を先日まで溜め込んでしまったため、どうしても赴かなければいけない、また要対応の事案が数件あり、どうしても他の人物には投げれないようで……

 

 

「という訳で、一週間丸々空いてしまう訳です。とはいえ、私抜きでGGGのコア──ギャレオンを創って頂こうと思いもしましたが……」

「ああ、前に聞かれて却下したもんね。作業の途中からお嬢が抜けるのは解るけど『最初からは出来るか』って。それに立案者(言い出しっぺ)以外に陣頭指揮取れる奴が、お嬢以外にいない訳だし……」

「はい。という訳で、空いてしまった一週間を別の作業に当ててしまおうという訳で。」

「それで、コレね。」

「はい。ついでに20メートル級を組み上げる感覚も養って貰いましょう、という狙いもあります。あ、勿論意味はありますよ?もう一機あれば、作業効率も上がるかと思いまして。」

「「「「 ……もう一機?」」」」

「あれですわ。フミタン、降ろして頂戴。」

「畏まりました。」

 

 

と言ってカルディナが指した先にあったのは、魔力転換炉(エーテルリアクタ)の隣にある布を被せられた15メートル級の何か。

そしていつの間にかいたフミタンが、壁に備えていたレバーを倒すと、その布が引っ張られた。

そして姿を現したのが、白とオレンジ色を基調とした、ぐんずりと丸いシルエットの駆体。

 

 

「『ロディ・フレーム』という金属骨格を流用しました。名を『ランドマン・ロディ Type-C』と言います。」

 

 

──ランドマン・ロディ。

 

『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』にて、第一期の宇宙海賊ブルワーズ戦で、阿頼耶識システムを搭載したモビルスーツである。

特徴はぐんずりとした丸い駆体にして堅牢な装甲を持ち、量産型とは言えない優れたパワーを持つ事である。

上位機体的存在といえるグシオンと機体形状は似ており、劇中ではその装甲を生かした戦法を取って戦っていた。

そしてランドマン・ロディは地上での活動に対応すべく改良された、マン・ロディである。

また、随所にあるバーニアは本家に劣るものの、加速には充分な魔導噴流推進器(マギジェットスラスタ)が。

また、両足は劇中のままではなく、三角を特徴とした足の代わりに、三角のキャタピラを装備している。

 

 

「これは……」

「何と云うか……」

 

「「「「──凄いしっくり来る。」」」」

 

「あ、やはりですか?」

 

 

職人達全員が納得している。

それもそうだろう。

王国で運用されているゴーレムのデザインが、だいたいグシオンないし、マン・ロディのようなぐんずりした駆体なのだ。

その理由が……

 

 

「細身では、魔獣相手では太刀打ち出来ませんしね。」

 

 

との事。

 

 

「しかし、いつの間にこの様なモノを……」

「私の習作ですわ。フレメヴィーラ王国の留学から戻ってきてから創りました。」

「って事は、これは幻晶騎士(シルエットナイト)か?」

「近くも遠からず……色んな要素を詰め込んだので、基本は幻晶騎士(シルエットナイト)ですが、大分欠け離れてしまってます。技術も科学ではなく魔法……何かと言われると、幻晶騎士(シルエットナイト)の様な、モビルスーツ(何か)……でしょうか?」

「……何とも説明し難いモンだな。」

「はい、その通りで。ただ……最近改修しまして、結晶筋肉(クリスタルティシュー)代わりに軟鉄を使ってますので、動力炉込みでフレメヴィーラ製のモノより出力・パワー共にこちらが上になりましたが……」

 

 

素知らぬ顔で、何か物騒な事を言うお嬢様。

実験機だろうが、何をしていやがる。

職人達は、そう警戒した。

 

 

「ともあれ、私個人で造れた代物です、私がいない間に、軽く立体パズルを組み立てる感覚でやってみてください。あ、慎重に使うのであれば、ランドマン・ロディも操縦しても構いませんわ。」

「「「 ───!? 」」」

「慣れれば、組み立て作業に使っても宜しいですし。操作はゴーレムと同じ感覚で出来ますわ。」

「「「 ……… 」」」

 

 

そうして、カルディナはフミタンと一緒に地下空間より去った。

そして残された職人達はというと……

 

 

「……仕方ない、やるしかないわね。」

「……ですね。」

「……だな。」

 

 

とりあえず言われた通り、組み立て作業を行い始めた。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

作業は戸惑いや時間が掛かる事こそあったが、至って順調に進んだ。

設計図があるためか、部品の1つ1つを繋げるのは簡単で、手順を守ればトラブルは起きなかった。

 

そして心に余裕が出来た職人達は、次第に自分達が組み上げている物の凄さを実感し始めた。

 

基礎フレームの剛胆な固さ。

簡素な造りでありながらエネルギーの導線、出力がどの様に発現しているか。

そして今後出来る、応用の多様性……

 

 

「それらを全部可能にしてるのが、この魔力転換炉(エーテルリアクタ)って事だな。」

「これも壁にあるものと同一なのでしょう、無人稼動しています。」

「逆流もそうだけど、ショートしないよう気を付けないと。発生している魔力(マナ)が膨大よ。何せ2機連結したモノ。しかも通常の型より出力が段違い。魔力(マナ)の流れが悪けりゃ、そこでボンッ!よ、何この動力炉?」

(……っていう割にはイザリアの姉御、顔が笑ってんだけど。)

 

 

金属細工師であるはずなのに、エネルギー系の回路や動力炉を多く弄る機会が多いためか、最近動力炉に目がないイザリアの姉御。

未知の技術に出会い、余裕こそあるが気は緩めない。しかしウキウキとした心情。

職人全員がそんな状態だ。

だが、受け入れ難い事もある。

 

 

「姉御~。」

「何さ?」

「動力炉と腰部の組み立て、これで本当にいいのー?」

「とりあえず言われた通りにしなー。不安なのは皆一緒だけどねー。」

「……わかった~。」

「ったく、再三言ってるのに、また文句か。」

「仕方ありません。動力炉が胸部にあって、それを支える腰部は細い支軸と2本のシャフトしかないのです。」

「頑丈なのは判るけど、何でこういう設計なのかしらねぇ?」

 

 

腰のフレーム部は、この時既に職人達の間ではディスる案件と化していた。

そしてある程度組み上がり、組み立てが必要になった頃、どうしてもハンガーの環境だけでは組むのが難しくなる。

宙吊りに出来るクレーンも複数あったが、この時、扱いに慣れていないものを使うのは、どうにも気が引ける。

そこで活躍したのが、ランドマン・ロディ Type-C。

 

 

「──では、起動します。」

 

 

テストパイロットの1人目として、エルフのフェルネス。

ゴーレムの扱いに長ける彼は、不慣れなコックピットの中でも冷静に起動シークエンスをクリアし、ランドマン・ロディを動かした。

その秘密がカルディナの持つIDメイルと同じ性質を持つ『IDメイル』である。

こちらは男性型で、伸縮性があるIDメイルであるが、妻のシレーネが夫の体型に合わせてコーディネート、簡略化したものだ。

当然、神経接続コネクタを実装するIDメイルは阿頼耶識システムとの相性は非常に良い。

尚、デザインは鉄華団の使用したパイロットスーツを模したものに、手甲や具足を着けたもの。

 

 

「アナタ~、どうでしょうか~?」

《ええ、非常に良いです。違和感がまるでない。ゴーレムと同じように操作が出来ます……成る程、これならばお嬢様が拘るのも頷けますね。良い仕事ですよ、シレーネ。》

 

 

モニター越しに見る景色に感心しつつ、神経伝達コネクタから受けるフィードバックを感じとるフェルネスは拡声器(マイク)越しに妻のシレーネを褒めた。

異世界の技術と阿頼耶識システムのハイブリッドが確立した瞬間であった。

 

 

「きゃ!褒められちゃいました。」

「はいはい、お熱いこって。」

「じゃあフェルネスー、そのまま宜しくー。」

《判りました。では……》

 

 

そして最初に行った事は……

 

 

「お~!もう少し右ー!オッケー!」

「じゃあ次、肩パーツね~!クレーンまで運んでー!慎重にねー!」

《……まるで人形を組んでいる気分です。》

「仕方ありませんわ~。」

 

 

妻に同意されつつ、慎重に運ぶ。

主に手動でクレーンまで運んで吊るす、という作業だった。

 

 

次いでランドマン・ロディを乗りこなしていたのが、ダークエルフのイザリア。

そしてもう1人が、意外にもドワーフのダーヴィズである。

 

 

《おお、意外に動くな。》

「随分細かやかに動くわね。組み立て作業が捗る捗る。」

「やはり、というか私より精密に動いている気がします。おお、そんなところまで……」

《なんつーか、軟鉄を操作するような……そんな感覚だな。それを全身ですると……普段より楽だな、こりゃ。》

「やはり『魔力操作』ですか。ダーヴィズさんはその能力は非常に高いですからね。」

魔力(マナ)の保有量に関係ないってなら、こりゃ慣れりゃドワーフにでも動かせるわな。》

「なぬ!本当か!?」

「って事はワシらにも!?」

 

 

ゴーレムを創造出来ない種族関係なく動かせる。

ダーヴィズによってその可能性が出てきた。

となると……

 

 

《……じゃあ、出来るかもな。》

「何がだい?」

《コイツ用サイズの鍛造ハンマーがありゃ、特大の剣も打てる、ってな。そうなりゃ俺の夢(英雄の剣の創造)も叶う可能性も……》

「……申請してみては?お嬢様なら、即決で了承してくれるでしょう。」

《……いけるか?》

「得物造りも、私ら職人の範疇じゃない?魔術回路ぐらい入れるのは手伝うから、やってみなよ。」

《おう!》

 

 

新たな可能性が出つつ、組み立て作業は続く。

しかし1つだけ例外があった。

 

 

「……どうして、オイラだけ。」

「どうしてって言われてもなぁ……」

「……すみません、かける言葉が見つかりません。」

「あ~、気に病むんじゃないよ、ヴィトー。これはどうしようもない。」

 

 

『orz』と、とてつもなく落ち込むのは、ハーフリングのヴィトー。立候補した中で彼だけ……いや、他のハーフリング達もランドマン・ロディに乗れなかったのだった。

その理由は……

 

 

「身長が140センチ以下だと、操縦桿を握る事すらおろか、シートに身体を固定する事も出来ません。」

「仕方ないわよ、身長が140センチ以下(チビ)なんだから……」

「仕方ねぇよ、チビ(140センチ以下)なんだからよ」

「言い方ァァァーーー!!!」

 

 

安全上の身長制限、この一点である。

 

ちなみにフェルネスは180センチ。

イザリアは172センチ。

ダーヴィズはドワーフでは大柄の169センチ。

開発者のカルディナは171センチ。

 

そしてこの話を聞いた他のハーフリング、他の低身長者達は絶望した。

 

ん?どこかで聞いた事がある話だが……

 

 

 

──フレメヴィーラ王国 某所

 

 

「──へくしゅっ!!」

「ん?エル、風邪か?」

「大変~!私が温めてあげる!」

「いえ、この感じだと誰かが僕の事を揶揄しているのでは、と……」

「……どういう事だ?」

「何と云うか……そう、身長制限で幻晶騎士(シルエットナイト)に乗れないと言われた、あの日の事を言われた様な……」

「「あ~……」」

 

 

 

閑話休題(それはさておき)

その後、ヴィトーがカルディナから聞いたエルネスティの逸話を思い出し、自分も乗れるコックピットシートを作る事を決意し、他の賛同者も一致団結するのだった。

 

その事で、コックピットの換装システム開発が進んだのは、偶然が必然か……

 

 

そして5日が過ぎ、6日目……

 

 

「……出来ましたね。」

「ああ、出来たな。」

「完成したわね。予定してたより1日早かったけど。」

 

 

職人全員が見上げた。

そこには20メートルにもおよぶ、鋼で形造られた、鉄黒色の骸骨にも似た人形(ヒトガタ)があった。

 

 

「ちなみに今更だけど、コイツの名前とかあるの?開発コードとか。」

「正式には『ガンダム・フレーム』と言うようです。」

「ガンダム……ねぇ。」

「お嬢様が言うには『自由の象徴』、もしくは『反骨心の塊』だそうで……」

「自由は判るが、反骨心の塊って……」

「それはですね……」

 

 

ダーヴィズの疑問に、フェルネスは設計図をペラペラ捲り、後ろにある注意書を読み始めた。

 

 

「『ガンダム・フレームに拘わらず大概のガンダムと名の付く存在は、逆境の中にいるから』だそうで、そういう由来があるようです。」

「……何か怖いな。しかし、この細っこい外見何とか何ねぇか?せめて鎧でも着けてやりたいのがドワーフの心情ってモンだ。」

「何?鎧だと!?」

「造るのか!?打つのか!?」

「──あー……まあ、確かに、これはまだ素体……外装なしの状態で、本来はこれに装甲を付けるのですが……『今はしないで』とのお達しです。」

「「「 ───何ッ!? 」」」

「『特にドワーフの皆さん、付けたい気持ちは山々でしょうが、今付けると軽~く暴走するので絶対に止めましょう。』……だそうで、これ以上の作業は終了と致します。」

 

「「「 ……… 」」」

 

 

その言葉に一同絶句。

暴走?

誰も乗っていない機体が、暴走する?

 

 

「いや、確かにコイツの動力炉には『火』が入ってるよ。機体の各部にも魔力(マナ)伝達が始まって、構造保持位の術式(スクリプト)が発動してるし、ね。無人だけどさ、けどねぇ……」

「……まあ、私も色々伺いたい事はありますが、今は言う通りにしていれば害は無い筈です。何にせよ、後は起動と動作テストをするだけです。」

「そういやそうだな。一応ハンガー固定してるとは言え、気を付けろよ。なんせ脆そうだしよ……」

「はい。」

 

 

不安要素を抱えつつも、最後の起動及び動作テスト。

テストパイロットのフェルネスはIDメイルを纏い、コックピットに入る。

 

 

「───各数値、正常内。魔力(マナ)伝達圧、良好。ふむ、ここまでは問題なし。」

 

 

モニターに映し出される計器の数値を読み上げ、異常が無い事を設計図を見て確認するフェルネス。

 

 

「神経伝達コネクタ、電位情報リンク開始……各部コンデンサーへの魔力(マナ)充填、到達を確認……ん?これはフィードバック、でしょうか?フレームから送られてくる操作関係、機器の情報……成る程、ここまで()()()()()()出来るとは。」

 

 

ガンダム・フレームから送られてくる機体の情報に驚くも、ゴーレムでもこの様な体験(フィードバック)の感覚はある。

しかしまだ予想内の出来事であり、ここまで異常はない。

全てマニュアル通りだ。

 

 

《……では、起動します。》

 

 

───碧の双眼が光った。

 

魔力転換炉(エーテルリアクタ)の吸気音と共に機体が微かに動き、各部のコンデンサーや駆動駆関に負荷が掛かり、全身にパワーが漲るようだ。

そして歩く分には問題ないまでに出力が安定した時だった。

 

 

《各部、問題なし。歩行試験に移行します。ダーヴィズさん、ハンガーの拘束解除を。》

「よし、任せておけ!」

《後は拘束解除後に歩行試験を実し……

「……え?アナタ??」

「ん、シレーネ?どうしたの?!」

「イザリアさん、主人の声が……!」

《───?、───?、─────》

「フェルネス?どうしたの?声が聞こえ──」

 

 

───ブツッ

 

 

「え??切れ、た?」

 

 

突如、通信が切れるという事態が発生した。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……駄目ですね。通信が通じない。」

 

 

コックピット内部にいるフェルネス側も、通信が切れるというアクシデントが起きていた。

それ以前にモニターも計器も映らず……所謂『モニターが死んだ』という状態。

全ての出力が落ち、操縦桿や神経伝達コネクタからの反応すら、一切が鎮静化する状態と化した。

 

 

「困りましたね、コクピットのハッチも開かない……まあ、周りには他の職人達もいるのです、待っていれば異常を察知して、何とかするでしょうが、いったい何が……」

 

 

特に慌てる事もなく、落ち着いた様子のフェルネス。

 

 

……そんな時だった。

 

 

「……あ、モニターが復活しましたか。これで外の状況を───」

 

 

 

────汝 何モノ

 

 

 

「────!?!?」

 

 

───()()()()、そう呼べる存在がモニターにへばり付くように、紅く光る双眼をこちらに向け、覗いてきた。

そして尋ねてきた。

尋常ではない、寒気すらもたらす威圧感(プレッシャー)を放ちながら。

 

 

────再 問ウ 汝 何モノ

 

「わ……私、は……」

 

 

───コの駆タイは 何 ゾ? コれは 何ゾ??

 

 

殺意はない。

しかし、潜在的にこの存在は危険と本能が告げる。

ここで下手な答えを返すと、一気に精神を真っ黒に塗り潰されてしまう危険性がある。

それ程の危険性を持つ存在だ。

 

 

(……こんな存在が現れるなんて想定外です。何故?どうやって?いえ、そんな事ではなく、この存在がどんな存在かはある程度想像がつく。問題は、この存在が納得してくれる返答をどうするか、どのような返答を……あ。)

 

 

だが、予見はされていた。

設計図の注意書に。

 

 

「……私は、フェルネスと申します。『現在、このG・フレームの試運転を行っています。』」

 

 

───G フレー ム ??

 

 

「はい、『現在、貴方が望めるような状態ではありません。故に、今は()()()()()()()()()()()()()()()。しばしお待ちを。』」

 

 

─── ………理カイ。

 

 

「……ご理解頂けましたか。」

 

 

───しヶァシ 不完ゼンなれば 我ガ助力が不可ケツ。コの駆タイは 我が管リすル。

 

 

「……それは『叱られますよ?』」

 

 

───!? 理カイ不可ァァァーーー!!!

 

 

「───(っ! 咆哮1つで精神攻撃ですか、流石に響きますね。)」

 

 

フェルネスの言葉(?)に怒りを露にする、黒い存在。

響く咆哮は生ける者の精神力を奪っていくが、フェルネスはそれを持ち前の気力で耐える。

 

そして大方叫び終えると、フェルネスを睨み付け、その真っ黒な靄を纏う腕を伸ばしてきた。

しかもそれは、モニターから直に出てきており、指先数本がモニターから生えていた。

 

 

 

───『叱られますよ?』否イナ否イナ否イナ否ァァァーーー!!! 脆ジャクなる汝 拒否無シ 故 我ノ管リが……が!?

 

 

だが、その怒りもそこまでだった。

黒い存在は急に黙り込み、手を引っ込めた。

しかも挙動不審に何かに怯え始め、その身体が見て判る程に震え出す。

 

 

そして次の瞬間、突然現れた第三者の放ったゲシュペンスト・キックを受けて、黒い何かはモニターの外から問答無用で吹っ飛ぶのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

コックピットの外、ハンガーのより少し離れた場所で更に異変が起きており、職人達は呆気にとられていた。

何故かというと、黒い何かは突然現れた第三者のゲシュペンスト・キックを受けた後、地面に叩き付けられ、今度は更に現れた第四者よりマウントポジションからの、メイスで滅多打ちにされていたからだ。

その第四者は全身を外陰で身を包んでおり、姿は解らない。しかし、滅多打ちにまるで容赦が無い。両手にメイスとは確実に止めを刺すつもりらしい。

そしてゲシュペンスト・キックを極めた第三者も外陰で姿が解らないが、いつの間にか片手に巨大な万力のような道具を持っており、もう片方に更に大型メイス(先端にバンカー付き)を持っており、その光景だけでも殺意が酷い。

そして第四者が第三者より大型メイスを受け取った後、迷うこと無くバンカーを頭に突き刺して、撃ち込む。

しかし、黒い何かは堪らず起き上がって、理解し難い未知の言葉を大声で発する。

雰囲気としては……

 

 

───痛ェじゃねぇか、コノやろーーー!!

 

 

というところ。

だが、すぐに第三者が万力で頭をがっちりホールド。

それから第四者がゆっくり近付き、耳元で何かを囁くと、黒い何かは涙目になり、その姿をゆっくり白く……否、青白くさせていた。

命を脅かしそうな威圧感など何処へやら、何か重大な事に気付かされたようだ。

 

それから、黒かった何かは万力から解放され、職人達に向かって何度もペコペコ謝り始め、その後から残りの2者も職人達に向け、深く頭を下げる。

 

そして最後に第四者の外陰から太いワイヤーような物が出て来て、黒かった何かを絡み取り、壁際にあった2メートル程の何かに叩き付けた。

黒かった、青白い何かは消え失せ、一瞬被せた中身がビクンっと跳ねるが、直ぐ様ワイヤーで拘束、そのまま引き摺られて壁にあった隠し扉の中に消えて行ったという……

 

そして、残された職人達は、只只唖然とするしかなかった。

 

 

───ヴゥン

 

 

《ふう……ようやく再起動出来ましたか。あ、申し訳ないのですが、現状どうなっているのでしょうか?》

 

 

再起動を果たしたG()()()()()()

しかし再起動までの十数秒間、どうなっていたかは解らないフェルネスはハンガー前にいた職人達に尋ねるが、当の職人達も何が起きたかは解らない事態だった事は間違いない。

その後の稼動テストよりも、聞き取りに結構な時間を要したのがその左証であろう。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「───という事がありまして……」

「……そうですか、やはり現れましたか。」

 

 

その日の夕刻。

商会の仕事をやり終えたカルディナは、フレーム見て、あと幾つか湧いて出てきそう、と言った後、報告の代表として来たフェルネス、イザリアから起きた経緯の報告を受け、そして呆れてため息を一つ。

可動テストは無事成功。その後の機体コンディションも問題ない。

後は外装を付けるのみであるが……

 

 

「設計図の注意書に対応方法が克明に書かれていましたが、今回の件は予想はされていたのですか?」

「一応、ですが未遂とはいえ、魔王の刻印(サタン・シジル)に目が行かない馬鹿がいたとは。まあ、支配下に置こうとして直接触れて判ったようですが……しばらく陽の目は見ないでしょう。」

「……結局、今回組み上げたのは何だったのよ?」

「モビルスーツという機動兵器ですが、その前に器、ですわね。」

「器……ですか?悪魔の為の。」

「半分はそうです。」

「半分??」

「正確に言うとGGG制作のための神経伝達システムの参考になればと思いまして。その過程で『魔王』から悪魔と鉄鋼桜華試験団の為に、という理由で今回の件を受けましたの。地下空間の掘削、環境の整備、部品の製作は悪魔()がするという事で任せ、残りの調整を皆さんにお願いした次第です。まあ、怖がらせてしまったのは申し訳ないのですが、今後この程度の事はいくらでも起こりえるので、今の内に慣れて頂こうと思いまして。」

「出来れば、事前に通知して頂きたかったです。実際、被害は皆無でしたので構いませんが……」

「ごめんなさい、監視はしっかりさせていたものですが、ああ手が早い悪魔だと対処が難しくて……」

 

 

聞けば聞く程頭が痛くなるような事ばかりである。

特にあの地下空間(ドッグ)は、見えているだけではない筈。知らないところにもまだ広がっており、その掘削作業が日夜悪魔達の手で行われていると想像したら……

 

 

「ちなみに、伺ってもいいかしら?」

「何をです?」

「決まってるじゃない、あの地下に現在いる悪魔の数をよ。」

 

 

そうイザリアが尋ねると、カルディナは指折り数え始め、6回……

 

 

「……有名どころが60柱以上、といったところですわ。それ以下の下位(名無し)は、千は超えているかと。」

「……そう、ですか。」

「その折った指は、10って……それ以上いるんじゃない」

「それと天使の有名どころが、5柱と下位の天使(名無し)が500程度……ですわね。皆さん一緒に地下空間(ドッグ)の拡張に勤しんでますわ。」

 

 

カルディナの回答を聞いたフェルネスとイザリアの思考が音を立てた、と思える程に凍った。

巨大な地下空間にひしめく、天使や悪魔……

 

……何だその数は?

 

 

「……本当に何をなさる気ですか??」

「何も。初めの魔王と天使の契約を期に、悪魔と天使の配下が雪だるま式に増えるんですの。お互いいがみ合う事はあれど、協力し合って仕事をしてますわ。何をするか、と言われたら……地下空間の掘削、商会のお仕事エトセトラ、屋敷のメイドでしょう?そうそう、一番大切な事が……!」

「──いえ、もう結構です。」

「お嬢、久々にお説教。」

「え??いったい何がいけなかったと……あ、フェルネスさんたすけてぇぇ~~──……」

「……今回ばかりは、フォローしきれませんよ。」

 

 

知らない間に災害どころか、神話の戦争でも起こす気か!!と言わんばかりの数がいる事に頭を痛める2人。

あの地下空間にひしめくのが、誰もが崇め、恐れ、そして人智を超えた存在であった。

そしてそれが、1人の少女によって統括されているとは、何と恐ろしい事か……

 

 

地下空間の壁に設置されている改良型魔力転換炉(エイハブ・リアクター)といい……やはり、このお嬢様(カルディナ)はどこか思考回路がズレている。

 

 

 

《……NEXT??》




以上、G・フレームから始まる怖い話でした。

地下空間を覗いたら、某Gの如くワラワラと?
いえ、そんなみっちりと詰まってませんから。
皆さん大事な従業員です。(ソウジャナイ)

悪魔が鎚でパーツ作成している姿を想像すると、少し微笑ましく思えるのは私だけでしょうか?
それと地下空間の掘削はスコップ等ではなく、魔法で削り取っている、と想像してください。
ドリル掘削はしてないですよ。



本編では拾えないフラグが色々あるとはいえ、本編の裏は大概、大事になる……

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