間話です。
今回の中心は、男達のお話です。
振り替えると、色々振り回されて、貧乏くじを引いているんだなと思います。
◇ ◇ ◇ ◇
いつからだろうか?
あの公爵令嬢を意識し始めたのは。
そうだ、この国が改めて立ち直る時の頃からだ。
それはレクシーズ・G・アルドレイアがその時を迎えた時の話から遡る。
◇ ◇ ◇ ◇ ───10年前
「──くそ!どうすればいい……!」
レクシーズ、23歳。
愚王であった父親、ガドシエルを討って自身が国王となった後、国を編成し直そうと奮起していた矢先、アルドレイア王国は飢饉に遭った。
その年は天候が悪い中で愚王が重税を課した影響で食料の供給が途絶えかけていた。
また、内戦の影響で物価も上がり、隣国から買い付ける事が困難になりつつあった。
更に革命中に、手薄になった国境の警備体制に大規模な魔獣の進行があり、田園地帯を蹂躙されてしまった影響で、供給が途絶えた。
仕方なく他国に食料援助を申し出たが、隣国も似たような状況であり、余裕がなかった。
その中で唯一、食料援助を進言してきた国があった。
それが、ギャラルホルン教皇国であったが、それと引き換えにとても呑めない要求をしてきたのだった。
「食料援助する代わりに……カイエル教を我が国の『国教』としろ、だと!?ふざけるな!!」
この要求はどうしても呑めない。
何故なら、宗教を尊ぶ国では発祥国の影響が強いとされている。
そして、発祥国のギャラルホルン教皇国より『教国』とする案を受けると、立場上その国は『属国』に成り下がってしまい、その教えこそがその国の『法』になってしまう。
それは魔獣を狩る門番の国としてのプライドが無くなる事を意味する。
また、そんな事もあり、アルドレイア王国には宗教を広める場はあれども、国教はない。
そして討ち取った先代の王も、あろうことか、カイエル教に鞍替えし、属国になろうと画策、そして門番の国の武力をそのまま他国侵攻に使うつもりだったようだ。
───だから討った。
元々愚かな王だと思っていたが、王自身が売国奴であれば容赦する理由がない。
己が欲望で民を苦しめるなら、王族として生かす意味はない。
……そしてその
とはいえ、今回の飢饉は重篤だ。
そしてこの飢饉は少しの期間ではなく、かなりの期間を必要とすると予想され、どうすれば良いか良案が思い浮かばない。
……そんな時である。
「───あ~あ、この
「……お嬢様、声が大きいです。」
「あら、しつれい。ですが
声が少し離れたバルコニーから聞こえた。
その声の主は子供で、肩まで伸ばした透き通るような白い髪に、青のドレス纏う女児……
そして傍らに同年代と思われる、使用人と思われる赤い髪の女児が。
(あの娘は、確かクリストファーの……)
「ぎゃらるほるんのカイエルきょう、でしたっけ?あれにとりこまれる事になれば、ロクな事にはならないでしょうね。」
「たしかに。」
「けれど、このくにはごはんがない、それがもんだいです。ではこういう時はどうしたらいいでしょうか、フミタン!」
「……え?お菓子を食べる──」
「チェスト────!!!」
失言をしてしまったであろう使用人の女児は、有無も言わさずに青ドレスの女児が振るう、厚紙の細い束で頭を叩かれた。
「……ごはんがないのに、おかしをたべろとか、どこのアントワネットさんですの。むしろアントワネットさんに失礼です、
「うう、ひどい……昨日食べたカカオクッキーのほうじゅんなかおりと味を忘れそうです。あ、もう一度作っていただけたらおもいだすかも……」
「しっかり、おぼえてますでしょう。」
「てへぺろ」
それにその言葉の起源は、マリーアントワネット自身の言葉ではなく、フランスの哲学者、ジャン・ジャック・ルソーの自伝『告白』であるという説もある。
───
「せいかいは『価値のないものをあるようにせよ』ですね、おじょうさま」
「いえ~す。ちなみにこのばあいは何ですか?」
「こころ当たりがあるなら……『対・魔獣用の砦の荒れ地』ですか。」
……砦の、荒れ地??
レクシーズは耳を疑う言葉を聞いたが、その後に続く内容が気になり、身を潜めたまま耳を傾けた。
「今年の春、かくちのとりでへ見学にいった時、まほーのくんれんとかウソぶいて、地面をたがやしたアレですか。たがやしすぎてめいいっぱい怒られた
「むふふふ……おいしいお芋さんが手にはいったのです、増やさない
「たねいもと、芋のくきをいっぱいいっぱい、蒔き撒きまき……ひそかに兵士さんにしゅうかくをたのんでおいてよかったですね。私も隙をみてお豆さんを蒔きましたが……」
「あれはびっくりしましたわ。お芋さんをまいたと思ったら、実は手に豆が握られていたとか……」
「甘い豆が好きなもので。それに、ちゃんと植え分けするのたいへんだったのですよ?しかしすごいですね、ふまれてもつぶされても、わさわさ……はんしょくりょくがすごい。」
「今ごろ、とりでのみなさんはお芋、お豆パーリィですわ。とりでのまえの土がみんなお芋ばたけですわ。」
「それに先ほどききましたが、食べきれないから、こちらにもってくるとか」
「まあ!あぶらをよういしておむかえしないと!ポティト~は正義です!」
「また、りょうしゅさまにおこられますよ?しおふって、芋の食べすぎだ~!って。ちなみに私は揚げ芋は正義です。」
「しってます。そしてお芋はべつばらです。なんならでんぷんをかもしてお酒にしてもいいですし。」
「おじょうさま、のみませんよね?」
「もちろん。今、酒しょくにんさんにたのんで『かもすぞ~』してますわ。蒸気ももくもく……もうそろそろ出来るかと。バイ菌ころすマンがたくさんですわ~。」
「え、そっち?」
そして2人は騒ぐだけ騒いで、すたすたと向こうへと姿を消した。
その途中、後ろを──レクシーズの方を振り向き、お茶目な顔で唇に指を当てて、し~……と。
───気付いていた!?
そして去り行く青ドレスの女児───カルディナ・ヴァン・アースガルズ。
後に、防衛砦から王都を中心とした各地に、ジャガイモやサツマイモ、豆、非常用の油や岩塩地帯から削ってきた塩が次々と運び込まれた。
ジャガイモ、サツマイモ、塩はいくつかの調理法と共に配布された。
サツマイモの葉ですら食用となり、密かに作られた酒───アルコールは飲用だけでなく、高濃度に蒸留され消毒用アルコールにすら使われる。
多少の不足はあれど、飢饉は回避出来、レクシーズはギャラルホルンからの食料援助を断る事が出来た。
また、いつの間にかそれがレクシーズの手腕とされ、革命後の政権体制を磐石にした一因でもあるという───
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「───だが忘れてはいない。
「……何か、娘がスマン。そして程々にしておけよ、レクス。」
「心配要らん、まだ樽1つも空けていない。」
それ、心配ない範疇じゃない、と心の中でツッコミをいれるクリストファーに、傍らにあるワイン樽のコックより直にワインを注ぐレクシーズ。
カルディナとアシュレーが去った後、この場にはレクシーズとクリストファーの2人だけがいた。
やっている事は飲み会である。
レクシーズが呑み、愚痴をクリストファーが聞く……
とてもではないが、他人には見聞きさせられない、密かであり、ストレス発散のためのいつもの光景だ。
そして自ら注いだ1杯を煽るように飲み干すと、レクシーズは大きな溜め息を吐いた。
その顔には若干の酔いが回っているが、正気は失っていないようだ。
「……判っているさ、だがあの娘は私が出来なかった事を成した。『民を守る』、
全てはこの言葉に尽きた。
魔獣からの驚異も、飢えからも、民を守る事が王の役目と自負するレクシーズ。
それが出鼻を挫くように、
が行ってしまったのだから、どうしようもない。
それからしばらく表舞台から姿を消した。
姿を現したかと思えば、今度は武勇が度々轟く活躍をし、この頃から大人顔負けの発明をするに至っている。
12を過ぎた頃には留学前に山脈をぶち抜いて、不可能と言われた
留学先から帰ったと思えば、商会を始め、遂には国一番の商会へと育て上げた。
そして尚続く発明の数々……
大まかな経緯を知る筈の
そして現在は巨大魔導機甲兵器の開発である。
経緯、手段は解る。
だがレクシーズには根本的にカルディナの目的が解らない事が歯痒い。
「……何故、ゴーレム以上の力を求める??今ですら充分隔絶した実力を持つというのに。」
「全くだ。うちの娘は何を目指しているのだと、常々思うぞ。そして解らないといって首輪代わりに、自分の息子と婚約させるとは……」
「三男坊だからまだいい。それに好き勝手されるリスクを考慮すれば、
実力、資力共に他と逸脱するレベルである以上、未成年とはいえ、カルディナはもはや無視どころか蔑ろにする事が出来ない。
国を代表するとはいえ、親達は大変である。
───
「さて話を戻すが、どう見るレクス?いよいよカルディナが手の内を見せてくれるというが……」
クリストファーが先程の話を振った。
カルディナが自身の目的を明かすと明言した事についてだ。
だがレクシーズは意外にも難色を示す。
「……果たしてどこまで判明するか、だな。私の事を常日頃怖がっている娘だ、どこまで手の内を見せてくれるか……」
「……それはないだろう。あれでもお前の事は敬っているんだ。納得出来る分の説明はしてくれる筈だ。」
「解っている、だが
「まぁな。造ろうとしているモノがモノだ。それに親としても言うが、あの子はあらゆる意味で達観、そして私達以上に極めている。」
例えば、抱える問題に対してカルディナは完璧な答えを持ち、しかも自慢する訳でもなく、さりげなく持ちかけてくる。
少なくとも2人にとってはそんな存在なのだ。
「そんな子だ、誇らしくはあるがそれ以上に畏怖の対象とも思える。」
「それでも可愛いと思えるのは、その能力以上にある『人を想う心』があるから、だな?」
「判っているなら解るだろう??それが十全に出来る優しさがあるからこそ、私にとっては自慢の娘だ。しかし、あの子の知り得る全てが明かされた時、私達はどうなるか……」
「ああ。この世界の成り立ちすら知っていても可笑しくはない。」
「あり得そうだ。」
そう思うと、溜め息しか出ない。
「そう言えば……幼い時にもこの様に想った事があったな。摩訶不思議極まりなく、そして圧倒的な存在を目にした、あの日だ。」
「ああ、忘れるものか。ティ・ガー将軍と私達が迷った、あの日の事は……」
───それは、もう20年前にもなる。
10歳を越え、本格的にアルドレイア王国の王族、貴族の役割を学ぶため、騎士団の遠征の任に同行した先の事だった。
突然の魔獣の大群に襲われ、自身のゴーレムに搭乗するも、その驚異に足がすくんだレクシーズとクリストファーは当時騎士団長だったティ・ガーに助けられた……が、その勢いで崖から転落。
その後も魔獣の驚異から逃れるべく討伐続けるも、驚異が途切れた頃には遭難してしまった。
サバイバルの知識があるとはいえ、深い森の中で成人していない少年2人には極度の緊張を強いる環境であり、フォローに回るティ・ガーにも疲労の色が募り、日に日に移動が困難に。
4日を過ぎた頃には限界が訪れ、まずクリストファーが倒れ、次いでレクシーズが膝を付く。
そんな時にも魔獣は牙を剥いてきた。
───その時であった。
3人の意識の外から、高速で接近して来た存在が飛来し、彼等の前に降り立った。
白い外陰を纏いながらも緑の光を全身から放ち、妖精のような羽を拡げ、不思議な詠唱を唱えつつ併せた拳を、その人物は魔獣に向ける。
ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……
「──ウィーーータァッ!!!」
そして最後の詠唱を叫ぶと、光の奔流が併せた拳から放たれ、魔獣を有無も言わさず消滅させた。
まるで英雄の放つ一撃と思える程であった。
それから魔獣が消し飛んだのを確認した目の前の男は、拳をほどき、緑の光が鎮まる。そしてフードを取ると3人に振り向き、尋ねた
「怪我は無いかい?」
茶髪の髪と短い顎髭を貯えたその男は、僧侶のような優しく、慈愛に満ちた笑顔であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その男は自らをカイン、と名乗った。
氏はない、と言われた。
カインに連れられ、3人が案内されたのは山岳を背に林が生い茂る集落だった。
と言うのも疲労困憊に、負傷した3人は既に限界。そのため、休ませるため男に案内されたのが、ここだった。
正確には集落の周りに木々が生い茂っている、世俗からは隔離されたような場所だった。
集落の人間もさほどいなかった。
だが、そこは3人が見た事もないもので溢れていた。
家屋は箱形であるが、大型であり素材が解らない。
後に聞くと「
簡易的に出来るらしい。
うん、わからん。
畑と思われる場所には人間もそうだが、六角柱のブロック状の
後に聞くと「作業用デバイス」であるとか。
よく働きます。
使い魔の一種かな?
極めつけは集落の奥にある、城……らしきもの。
石垣ではなく、白い鋼鉄で出来た土台の上には、幾つもの砲台がある黒い台座。
その上の城の天辺は王冠を模したような窓がズラリとあり、その両端には黒い出っ張り。
(サイズが)デカい!
(砲身が)太い!
(全部)大きい!
見るもの全てが摩訶不思議であった。
だが、先導する男は特に驚きもせず、気にする事もなかった。
これがここの普通のようだ。
時折、集落の人間から挨拶され、優しく笑っては声を掛けていた。
どうやら、集落の中心的な人物らしい。
そして、ある所に4人は来た。
とある家の前、そこの庭で、ゆらゆら揺れる安楽椅子に座って茶を嗜む、男と同じく白い外陰を纏う、目付きの鋭い赤紫の髪を伸ばした少女がいた。
その少女は横目で一瞥した後に、ぶっきらぼうに言い放った。
「……誰です、その山猿達は?」
「山猿はないだろう。近くで負傷していたからね、連れて来たのさ。」
「ふん。貴方はいつも唐突に……で?しばらく看るつもりですか?」
「ああ。そのつもりだ。」
「……勝手にして下さい。」
「ああ、そうするよ。」
それから一週間程、滞在する事となった。
怪我は静養する事で治癒出来た他、目付きの鋭い少女に似ているが、物腰柔らかで少々弱気な女性が、治癒魔法とは違った術で傷を癒してくれた。
その時は男とは違い赤く光り、孔雀のような羽を拡げていた。
その女性曰く、
「あの方の指示です。」
「……ふん。」
あの少女の指示のようだ。見た目以上に優しいところがあるようだ。
ちなみに貧相な身体つきとは裏腹だな、と思ったレクシーズとクリストファーの2人が不可視の力でボコボコにされたのはご愛嬌。
ちなみに密かに名前を女性から教えて貰った。
その少女はアベル、という。
氏は、ない。
そしてカインとも併せて、この集落の中心的な存在である。
また女性の方は自己紹介はなかったがアベルは、彼女を……何と言っていたかは忘れた。
ただ、その名前は女性の名前ではないので、本名でないだろう、きっと。
それから一週間の間、静養だけでなくカインが3人の稽古を付けてくれた。
アベル曰く「腹立たしいが、おそらく最強の戦士」という事で手合わせをした3人だが、カイン相手には殆ど歯が立たない結果に終わった。
対人戦もそうだが、魔獣を狩る手腕も凄まじい。ゴーレムを使っても赤子の手を捻るより軽く、いなされる始末。
風貌に違わず一流の戦士であり、動きに一切の無駄がない。
唯一、ティ・ガーだけは『良い勝負』が出来らしい。
「まあ、鍛練あるのみ……かな?」
そう言われても、どうにも実感が湧かない。
また、アベルは気紛れ、暇潰しと称して多種多用な知識を教えてくれた。
見た目以上に知識人で、あらゆる自然・物理現象の起こる仕組みを教えてくれた。
だが、言っている事はネイティブ語を知らない異国人の如く意味が解らない。
もしくは話の知能指数が高過ぎて理解に苦しむのだ。
辛うじてレクシーズだけは理解を示した。
「子供にしては上出来です……山猿は訂正してさしあげましょう。」
……お前も子供だろ?と思い、何かイラッと来た。
───とぼそりと呟いた瞬間、炭素繊維複合体の壁に顔からめり込まされたのは、何度あっただろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「────っと、寝てしまっていたか。」
馬車に揺られながらの王都への長旅の道中、クリストファーはついうたた寝してしまった。
あれから幾月、幾年が経ち、少年達は大人になった。
あの時学んだものは全て、十二分に今の立場になる際の糧になった。その影響で2人は誰よりも抜き出た存在となり、現・王国の体制を盤石にしたとも言える。
レクシーズは優れた統治の術を。
ティ・ガーはより良い戦術を。
クリストファーは豊かな土地作りと防衛の術を。
胸を張って良い大人になったとは言えないが、せいぜい守れるモノは守れる程度には成長したと言える。
とはいえ、困難はある。
「カルディナの件はどうしたものか……」
今一度省みた自領の防衛計画を見て貰うため、王都にいるティ・ガー元将軍の元を訪ねる次第だったが、もう1つの案件が非常に頭の痛かったりする。
凡そ、今日あたりにカルディナが国王陛下に資料を提出すると予想し、出発を今日にしたのだ。
その理由が……
「……レクス、すまん。家臣である前に、俺は親なのだ。今さら遅いが、娘が何をしているか詳細に確かめねば。」
一重にカルディナが有能過ぎて、今まで裏でやっている事が怖くて確かめられなかった。
なので、一先ずこの機会にて確かめる事に。
「……だがやる事は献上物の盗み見、だがな。許せ、レクス。」
映像関連の物は梱包を広げるには手間……なので、最も簡易的と思われる書物をチョイス。
膝の上に乗せた『勇者王ガオガイガー・コンプリートブック(自作)』を見つつ、その場にいない友に懺悔するクリストファーは己の今までの勇気の無さを呪いつつ、辞書並みに厚い本を躊躇しながら開いた。
そしてそこに有った
それはまだいい。
(……こんな奴らが、カルディナはいると言うのか!?)
存在自体が災厄そのものだ。
現存の戦力では到底敵いそうもないし、こちらの武力は一切通用しないのは容易に想像出来た。
そして所々にある本の栞に書かれた注釈には、こちらが衝動的に知りたい情報がしれっと書かれており、ゾンダーに至っては『幻獣辞典に記載あり』とまで書かれている。
頭が痛かった。
娘の空想と思わしき内容が、実は絶妙に現実にリンクしている。
過去にカルディナがこの世界を『胡蝶の夢』と称した事があったが、クリストファーもそんな心持ちになりそうである。
現に栞の一端には生々しいカルディナの本音の吐露が書かれている。
『ゾンダーの事は現実でなければ良いのに、5歳のあの日に出会ってしまった。ゾンダーが本格的に活動を開始してしまえば、止める術は一切ない。私の持つこの情報は、趣味で納めたいがそれは赦されないでしょう。だからといって嘘か真か確かめる術はこれ以上ない。この世界で誰かに打ち明けたとしても、信じられる確証もないし、中途半端に信じられても力の無い協力では意味がない。』
『今の、何も出来ない状況が怖い。立ち向かう勇気が欲しい。』
『なら、私が隔絶した力を付けた上で、信頼できる術を身に付けたなら、どんなに後ろ指を指されようとも問題はないはず。だから私は創る、ガオガイガーを──私だけの
6歳の頃の記述だ。
今更ながら、カルディナが悩み抜き、そして人知れず努力し、積み重ね、有事に備えている事を思い知るクリストファー。
「だが、この内容が事実であっても、私達に何が出来るか……」
無力である事を独白しながら、頁をめくる。
そして内容が登場人物の項目に移った、その最後辺りのある人物を見た時、クリストファーの心境は一変した。
そして御者に出来るだけ早く、速くするよう厳命するのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少年達と若者は尋ねた。
何故、そんなに強いのか。
強い人が、どうしてこんな辺境にいるのか?
「強い、か……いいや、私は積み重ねたものを受け取り、研鑽したに過ぎない。そして強くはない。私は敗けて、ここに流れ着いただけさ。」
優しく笑って答えるカインだが、その笑顔は寂しげで、哀しく見えた。
少年達と若者は尋ねた。
どうしてそんなに優れているのか。
優れた人が、この地に留まっているのか?
「知識は積み重ねと研鑽です。そして常に思考は止めない事です。ですが……私は優れていないです。敗けているのです。であれば、ここにはいませんよ。」
安楽椅子に寄り掛かるアベルは目を閉じ、それ以上語ろうとはしなかった。
そこには普段見せない後悔にも似た感情が見えた。
そして3人は幼く、未熟ながらもその哀しみを払拭出来ないか考えた。
そして……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「───陛下、宜しいでしょうか?」
「ああ、申せ。」
「はい。アースガルズ公爵様が、例の荷を持参されてお越しに……それと、
「何??」
予定にはない2人の名前に驚くレクシーズ。
今日あたりカルディナより、
だが、
カルディナ本人が来ると予想していたが……
「それで、件の荷物の事でどうしても伝えたい事がある、と……」
「……ふむ、判った。私の部屋に通し、待たせてくれ。件の荷もそこに運ぶように。」
「畏まりました。」
只ならぬ事情があると察したレクシーズは、隠蔽の効く自室に招く事に。
それから少ししてレクシーズは自室の扉を叩いた。
事前の通知通り、自室のソファーにはクリストファーともう一人、筋骨粒々のカイゼル髭がよく似合う御仁がいた。
名をティオレンス・ガルン・ガーベルト。
アルドレイア王国、先代将軍である。
通称、ティ・ガー。
武道、魔術共に優れた人物で、レクシーズとクリストファーにとって師匠たる存在。他にも教え子は多々いる。
先の軍事行動の折、不意打ちで脚を負傷し、現在は杖を突いての隠居生活であるが、軍事的な才能は衰える事はなく、軍事アドバイザー的な役回りを果たしている。
また、カイゼル髭がよく似合うためもあり、見た目だけは王様、ともよく言われ、アルドレイアの王族の血を引いているが、本人は国王みたいな役職は面倒、という理由で将軍に留まっていたとか。
そして容姿こそ違うが、声や喋り方、頼れる雰囲気があの大河長官にそっくりなのだ。
また逞しい程に男らしい。その点が、カルディナにとってはツボであり、大いに憧れる人物の1人。
そういう意味では
そんなティ・ガー、そしてクリストファーはレクシーズの顔を見るや、礼儀に則り一礼。
誇り高き貴族は親しき仲であれ、絶対の礼儀を重んじるのだ。
それが終わると、一同はある程度砕けた口調で話し始める。
「ティ・ガーさん……お久しゅう御座います。」
「レクシーズ、息災だな。今日は急で申し訳ない。」
「それは良いのですが……クリスト、いったい何があった?お前と、ティ・ガーさんが来るとは思わなかったが……」
「ああ。どうしても私とティ・ガーさんから伝えねばならんと思ってな……これを見てくれ。」
「……これは??」
クリストファーは1冊の分厚い本───コンプリートブックをレクシーズに渡し、ここに来るまでの経緯を説明する。
「……盗み見たのは申し訳ないが、先に確認できて正解だった。」
「ああ、クリストから聞いた時は驚いたが……カルディナのお嬢ちゃんが
「ええ、勿論です。それが、何か……」
「ここを見てくれ。」
頁を開き、クリストファーが指差した箇所に、レクシーズは戸惑い、そして驚愕した。
そこには、かつての恩師の姿──を写した精巧な絵があった。
「────カイン、さん……だと?!」
「ああ。載っている絵こそ少ないが、間違いないだろう?」
「……ああ、そうだ、そうだとも。この優しい顔……見間違いはしない。あの時、あの場所、あの人達こそ、私達の恩師の……カインさん。」
「やはり、レクスもそう見るか。3人の意見が合うなら大方間違いないだろう。」
間違いなかった。
そこに記載されていたのは、カインだった。
「……緑の星の、指導者?」
「統治や政治にも長けている訳だ。国、ではなく『星』という、もっと広大な集まりの指導者だったようだ。そしてアベルさんもな。」
「まあ、アベルさんの絵は無いようだが……代わりにこの様な人物がいるようだ……ほら、ここだ。」
「……パルス・アベル??」
「
「訳が解らんぞ。」
「だろうな、レクス。私も解らん。」
「私もだ。」
「ティ・ガーさんまで……」
「まあ、その辺りを念頭に見てみるしかないな。」
「……この上、何をだ??」
「映像、というものをだ。そもそも見るために持ってこさせたのだろう?カルディナの秘密───『勇者王ガオガイガー』を。」
「あ。」
かつての恩師の情報ですら驚愕ものなのに、これが
───そして3人は目撃した。
三重連太陽系から始まる、
三重連太陽系を滅ぼしたゾンダーの驚異を。
その驚異に立ち向かう鋼の巨人の姿を。
圧倒的な科学、現象、そこに注ぎ込まれる
彼等の持つ、勇気の可能性を。
勇者達の軌跡を────
TV版第1話から『Final』まで、視聴を完徹2日、そして3日目の朝を迎えた頃、全て見終えた……
「……これが、全てか。」
「成る程、カルディナ嬢が影響を受ける訳だ。」
「全く、カルディナ。お前という娘は……」
映し出されていたのは、彼等の想像を全て超えている事ばかりである。
思考を反芻すれば、今でも尚驚く事ばかりだ。
しかしカインとアベルを直に知り、教えを受けた彼等の理解は早く、大まかには理解出来ていた。
例え、今まで知らなかった『天体』の概念すら、コンプリートブックの注釈を読む事で受け入れる事が出来ている。
またそれよって、彼等にはまた別の受け取り方が、そして当然の疑問が示された。
「……では、カインさんやアベルさんは何故生きているのだ?三重連太陽系の住人はあの2人を残して機界昇華された筈だが……」
「そうだな……明確な『死』が描かれていなかった。であれば誰かに助けられたとか?」
「集落にあった、あの巨大な城……あれはもしかしたら、キングジェイダーかもしれんな。」
「あの超弩級戦艦が!?であれば───」
であったり。
「……そうなるとゾンダーは何故我々の住む、この星にいるのだ?」
「ガオガイガーの話を用いるなら、外界──宇宙から飛来したのだろう?」
「しかし中心的な存在、Zマスターは浄解されたのだろう。生き残る可能性など……」
「───『機界新種』、とか?」
「───!?あり得そうだ!」
「……それ、カルディナの考察にもありましたよ?」
「む、バレたか。だがあり得そうじゃないか?だが、この星での活動が不活性なのは───」
大い盛り上がった。
そして話が一段落着いたらところで、レクシーズが話を纏めた。
「───では、今後の方針は以上でいいか?」
「……ああ。だが、今更だが遅いかもしれんが……22年か。」
「長いな……」
ティ・ガーが難色を示し、クリストファーも同意する。
それ程の時間が既に経過しているのだ。
最早状況は手遅れかもしれない。
「我々があの集落を経った後、あの地域は未だ原因不明の瘴気汚染で封鎖さている。時折偵察を出しているが、その都度行方不明者も出て、未だに入れるような状況ではないようだ。」
「ちなみにカルディナ嬢はこの事を……」
「知ってはいるだろうが、そこに何があるまでは知るまい。」
「───解った。なら、私は一度戻り、カルディナに詳細を伝えよう。」
「済まないな、クリストファー。貧乏くじを引かせるようで……」
「内々の収拾は私の領分さ、今に始まった事じゃない。それに領主として、父親として、そしてあの日助けて頂いた者の責務だ。喜んで挑ませて貰う。」
「……頼む。私とティ・ガーさんは出来得る限りの情報の収集と準備をする。最早、事態を収拾出来るのはカルディナしかいない。」
「ああ。」
「うむ。」
そして3人は動く。
あの日少年、若者だった者達はあの日の誓いを果たさんとする為に。
彼等はあの日言った。
いつか、困った事が訪れた時、必ずここに来ると。
《……NEXT》
以上、男達の回想とお偉いさんが動く動機です。
需要があるか不明なので、あっさりで済ませている感じです。
時間がかかったのはスマヌ。
やっぱりというか、カインの人物像というのがいまいち想像しづらい。
私の中では普段は優しいおじさんで、困らされても笑って許し、キレたら笑って鉄拳制裁するようなイメージ。
アベルさんはソール11遊星主のパルス・アベルのままですね。
さて次は本編。
遂にカインとアベルがいると思われる集落に向かいます。
ネタとフラグをこれでもかと言う程入れたいですねぇ……
(*´・ω・`)b