公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい。   作:和鷹聖

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ご感想くださった方々、どうもありがとうございます。
ペシャン公の評価が非常に斜め下で何よりです。

さて獅子王一家の登場ですが、原作キャラをこちらペースで動かす事の、何て申し訳なさよ。
でもお嬢様に巻き込まれたら、みんなこうなるという非常に恐ろしい例を取り入れた、今までのストーリー振り返り回です。


また、後半の話はほとんど原作の文章を参考にしています。
丸写しではないですが、内容は原作順守です。


Number.14 ~開闢と終焉の狭間で~(1)

(……おお、茶がうまいのぉ。)

(ええ、久々に飲んだ気がします。)

「いや、母さんは言葉通りなんじゃないか?父さんも……そうだよな。しかし牛丼、旨いな~。しかも手作りで、何だろう……この安心するいつもの感は……あ、味が吉◯家に近いせいか。」

「ありがとうございます!よくお分かりで。作った甲斐がありますわ。」

《あ、ご夫妻。お茶菓子はいかがですか?和洋どちらとも取り揃えています。》

(あら、それでは洋菓子を頂こうかしら。)

(ワシは和菓子を。)

「……で、互いに食べさせ合うのか、2人とも。」

((そうだけど(じゃが)、なにか??))

「……いや、何でもない。」

「うっ、尊い……!」

《……尊いですね、録画しましょう。》

「……なんでもアリだな、君ら。」

 

 

衝撃の出会いから一転、何故かお茶を楽しむ獅子王夫妻に、牛丼を味わう獅子王凱。

調理・提供者はカルディナ。

そして無限情報サーキットを自称する紫の発光体『V・C』がホスト役。原理は不明だが、茶器を浮かせて器用にお茶まで淹れていたりもする。

 

何故こうなったかというと、盛大に気が抜けた先程の場面の後、凱が腹の虫を鳴らしたからであった。

エヴォリューダーとてある程度の生理現象は制御出来るらしいが(本人談)、流石に気が抜けて空腹だったらしい。

 

という訳で、本題に入る前に腹ごしらえ、となった。

ちなみに、精神体である獅子王夫妻がお茶や菓子を嗜めているのはカルディナ曰く「仏壇やお墓にお供えするものの応用です」と、牛丼の具をくつくつ煮ている時に凱は聞いた。

現に、淹れたお茶を手に取った麗雄博士の手には、お茶の情報エネルギー体があり、それを吸収する事で、「お茶を飲む」事が出来ていた。

そしてぼんやり「……お供え物って、大事なんだな」と思った。

ただ、現在霊魂(エネルギー体)であるカルディナが実体(牛丼やお茶、菓子など)を出せるのはどうしてか、オカルトにくわしくない凱の頭では解らなかったし、当のカルディナも「あれ?そういえば私、死んでいるはずなんですが、どうしてでしょうか??」と、よく解っていないようだ。

ちなみにサインは3人より貰った。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

(───さて一息吐けたところで、そろそろ情報交換と行かんか。)

 

 

片付けも済んだところで麗雄博士の言葉で、身を正す一同。

そして誰から話すかを迷っていたところ、立候補したのはカルディナで、一番はカルディナとなった。

 

 

「……では私から申しますが、私は皆さま──獅子王ご一家に起きた経緯、そしてGGGに関する事をよく知る立場である事を先に明言します。」

「俺達をよく知る……だって?」

(君は……GGGのスタッフではなさそうじゃな。)

「ああ。ほとんどのスタッフの顔は覚えているけど、俺は君を知らない。」

「当然の疑問ですわ。私の名はカルディナ・ヴァン・アースガルズ。皆様が住んでいた地球を含む宇宙の次元とはまた別の住人、端的に言えば異世界人です。」

 

 

そんな切り出しでカルディナの説明は始まった。

 

自身は地球より劣った文明レベル──中世ヨーロッパ程度の世で暮らす公爵令嬢である。

その世界は魔法技術が主流で、科学はさほど発展はない世界。

王制が主流の世で、その中のアースガルズ公爵の元で産まれた自分は、特異な能力を持つ。

その能力の1つが『元始情報集積体(アカシックレコード)』、それに付随した脳内書庫(Bライブラリ)である。

その集積情報の中1つにあったのが、TVアニメーション番組で放映されていた『勇者シリーズ』の最後の番組『勇者王ガオガイガー』である。

 

 

(勇者王……ガオガイガー、じゃと?)

「TVアニメーションで??」

(まあ。)

 

 

何を疑問とするかは察するに易い。

故にカルディナは、凱達が創作の存在ではない事を伝える。

そもそもが『元始情報集積体(アカシックレコード)』にある情報は全て『事後』であるため、アニメーションそのものは『観測者』が記した記録、ないしは記録内容を他次元のクリエイターにインスパイアさせた結果だろうと推論を出す。

あらゆる次元には姿なき『観測者』がいる。

それが創造神かはたまた他の存在かは不明だが超常原理での観測である以上、どんな話さえも推論の域を出ない。

……というかそう考えなければ、アニメ視聴者のカルディナでさえも創作の1つと定義されてしまうので、この話は今更と言えるが、カルディナはあえてその点には触れなかった。

 

 

「ご納得出来ないでしょうが、その様な超常の観測者がいるという事はご理解下さい。」

(……まあ、そう思うしかないの。科学の粋を集めようとも、証明出来ん事もある訳じゃし。)

「そうだな、父さん。そういう話は究極に突き詰めるとみんな同じ、と言えるって言うし。」

(そもそも、私や麗雄さんの今の存在も半ばオカルトじみてますしね。)

《奥様、笑顔でそれを言ったらおしまいですよ。》

(たしかに、うふふ。)

「いや、母さん。笑えないんだけど……」

 

 

それはさておき。

現に会合している現状、『超常の観測者』論は一応正しいとして話を進める事に。

カルディナはここで『勇者王ガオガイガー』のストーリーをベースにアニメ見つつ、凱達に『ストーリーと史実が合っているか』を質問した。

結論としては、ほぼ合っている。

火麻参謀が通信機を事ある事に握り潰していたり、原種に宇宙開発公団のビルが破壊され、GGGスタッフがヘキサゴンで脱出したり、カーペンターズの修復能力が言葉通りであったり……

ただ違うのは主に次の事項。

 

○年数

(ゾンダーが現れたのは、2012年ではなく、2032年頃じゃな。)

「製作当時の時代背景でしょうね。」

 

○GGGポケベルがない。

「護には、GGG-バッジっていう小型でサテライトリンク経由で通信、音声会話、チャットも出来るものを渡してた。ポケベル……は流石ないな。すでに廃れていたし、番号の解読って小学生には難しくてな。緊急時の連絡には不向きだろう。それに回線も廃止されていた記憶が……」

「製作側の1997年頃は、ポケベルが主流でしたわ。携帯電話はその後ですし。」

(ワシらの世界も似たような歴史じゃな。)

 

○損傷具合、失敗はアニメ以上

(……ファイナル・フュージョンで接続箇所が潰れるのもそうじゃが、合体事故もけっこうあったのぉ。)

「……ああ、ドリルガオーとの接触事故は序の口、ライナーガオーとの接触はギャレオンが逃げたし、ステルスガオーとの事故は墜落寸前、ファイナル・フュージョンでの事故はゾンダーからの妨害も含めて一通りやったなぁ。」

(その度にプログラムの改良……何度朝日を拝んだ事か。)

《博士さんも凱さんが遠い目をしてます。現実とは奇なり、ですね。》

「解ります、ファイナル・フュージョンは過酷ですわ。」

 

 

他にも凱の私服が史実である等、あまり差違はなかったりする点を踏まえ、カルディナの話は続く。

カルディナ自身、幼き頃よりガオガイガーを夢想し、ついにはテストベットとしてガオガイガーを模した鎧を開発。

また、小飼の少年団(鉄鋼桜華試験団)に天海護と戒道幾巳に似た人物──クスト、ムルがGストーンとJジュエルの浄解能力を持つことが判明し、彼等と共にゾンダーを打ち倒した。

その後、2人の情報より故郷に三重連太陽系の緑の星の盟主・カインの生存、同時に赤の星の盟主・アベルが生存している事が判明。

毒が蔓延する故郷にて主を守護するジェイダーを退き、毒の浄化を行い、集落を開放するも、既に2人は絶命し、魂だけとなった両者に鋼の身体を与え復活を果たさせる。

カイン、アベルの協力もあり、Gストーンの生成を成し遂げ、魔法技術(8割)と三重連太陽系の科学力(2割)を結集したガオガイガーを開発した。

 

 

(……アニメーションの情報と鍛治、魔法技術でガオガイガーを創るとはのぉ。しかも三重連太陽系の技術は後付けで出来るとは……恐ろしいのぉ)

「初期の基礎設計で腕の良い仲間がいますので、助力して貰いました。私独りでは到底……」

「………」

(凱……)

 

 

麗雄博士が大いに関心するその隣で、凱は目を瞑ったままだった。

特にアベルの事が話に出る表情は険しくなるが、自らを冷静に律していた。

きっとソール11遊星主の事で、アベルに思う事はあるだろうが、この様子ではカルディナの説明の続く中では問わないだろう。

そして話は続く。

 

完成した魔法製ガオガイガーの実地テストを行おうした矢先、再びゾンダーが出現。

しかも2体。

独断先行するカルディナはぶっつけ本番でファイナル・フュージョンを成功させ、ガオガイガーを降臨させ、ゾンダーロボを撃破。

しかし、試験中にも確認され、戦闘中にも発生した過剰なエネルギーの影響で一時瀕死となるが、謎の復活を果たす。

応急措置を施したギャレオン、ガオーマシンと共に王都に出現したゾンダーロボと交戦。郊外への引き剥がしを成功させた矢先、隣国の一個師団からの無差別法撃を、更には何者かの干渉を受け、その隙を突かれた形でガオーマシンがやられ、カルディナ自身もゾンダーロボの凶刃に倒れてしまった……

 

 

「……という経緯なのです。」

(それで、気付けばここにいた、と。)

「……はい。」

(何なんじゃ、そのいきなり現れた一個師団の目的は……)

「判りません。『隣国』は強大な国ですが、宣戦布告なしに攻めいる馬鹿はいないと思うのですが……」

《きっといたのでしょうね、その馬鹿が。》

 

 

その通りであった。

そんな中、沈黙を保っていた凱が口を開く。

 

 

「……カルディナ、君にはアベルはどんな人物に映った?」

「……良くも悪くも科学者であり、それ以上に星を第一に想う指導者、と感じました。それに移民(捨てる)宇宙の再生(残すか)を問われたら、確実に残す方なのでしょう。ただ……ソール11遊星主については、母星を復活させるためとはいえ本当に申し訳ない、と。」

「……そうか。だが俺は仮に今、会えたとしてもアベルを許す気はない、それはきっとGGGのみんなも一緒だろう。それが君達に協力的で改心したとあっても、この状況の一端を担っている以上は……」

「それで良いと思います。アベル様も、自ら咎を背負い、贖罪の道を模索しているのでしょう。ですが他者から許される気はない心積もりです。」

「……わかった。だがそう思っている事を頭に入れて俺達の話を聞いてくれ。」

「……はい。」

 

 

ソール11遊星主の所業。

それは凱達の住む宇宙消滅を招きかねただけではなく、別の意味も含まれている。

予測はしていたが、業は深い……

カルディナは気を引き締めて3人の話を傾注する。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

獅子王一家3人が語ったのは、GGGがソール11遊星主を倒し、閉塞する宇宙の中で天海護と戒道幾巳の両名を、唯一の脱出手段であるJアークのESミサイルで木星のザ・パワーを用いて脱出させた、その後の事であった。

 

2人を見送ったGGG。

しかし彼等がいるソール11遊星主が創った三重連太陽系の宇宙は消滅を迎えていた……

艦内酸素も10時間程度。生存できる確率は()()0%であった。

だが、そんな事を理由に生きる事を諦めるGGGではない。彼等は生きる道を模索していた。

そこで凱がエヴォリュダーの能力で見つけたのが、ジェネシック・ガオガイガーに搭載されていたガジェットツール『ギャレオリア・ロード』。

次元を超える能力を持つ『ギャレオリア・ロード』は消滅を迎える宇宙より脱出するにはうってつけのモノであり、これにより、GGGは脱出計画を発動。

勇者ロボ達のGSライドを繋ぎ、GGG隊員達の勇気で補われたジェネシック・ガオガイガーのギャレオリア・ロードは、Jアークと脱出艇クシナダを滅び行く宇宙からの脱出させたのであった───

 

───しかし、ギャレオリア・ロードが拓いた路は彼等が帰る宇宙ではなく、一面オレンジ色の空間であった。

 

彼らが本来帰るべき処は、150億年の彼方──ひとつの宇宙が終焉を迎え、新たな宇宙が誕生した、そのさらに遠未来に存在する太陽系であり、極めて困難な挑戦である事は疑いようもない。

しかし、三重連太陽系の技術はかつて、ギャレオリア彗星というゲートで2つの宇宙を結ぶことに成功していた。

困難ではあっても、不可能ではない───GGGはその確信があって次元跳躍を行った。

だがGGGを取り囲んでいる空間は、明らかに見慣れた太陽系宇宙のそれではない。

暁の空にも似た、黄昏の光に満ちた空間へと辿りついてしまった。

 

ではここは何処か?

その問答に答えが出る前に、その変化は起きた。

 

 

「───トモロ、状況を報告しろ!!」

《現状は不明……だが、類推は可能……ウウウ、この現象は……》

 

 

クシナダ艦橋内に傷付いた身体で、共に戦ったルネ・カーディフ・獅子王と共に座り込む、Jアークの艦長であり赤の星の戦士であるソルダートJは、生体コンピューター・トモロ0117に問い掛けるが、その問いに苦しみ呻き声にも似た音声を返した。

何故ならJアークは今、艦内外がコンピューターですら苦痛(負荷)を伴う程の速さで急速に再生されていた。

元々、光子エネルギー変換翼による再生が出来るJアークであるが、それ以上の速さである。

そしてその変化はソルダートJ自身にも。サイボーグの身体に力が漲り、耐え難い苦痛を伴う程の再生が成されていた。

そして変化はJだけではない、艦艇外にいた勇者王にも及んでいた。

 

 

「くっ、どうなってるんだ!?ジェネシックの全身が!」

「ガオオオオオオオオッ!!」

 

 

ジェネシック・ガオガイガーにファイナルフュージョンしたまま、半死半生ともいえる状態だった獅子王凱は、己が肉体と融合している勇者王が光とともに、身体の隅々まで修復されていくのを感じとっていた。

更にはジェネシックの胸のギャレオンが大きく咆哮する。自身の復活を伝えるように。

そして、この現象は無機物のみに発生している訳ではなく、凱自身のエヴォリュダーとしての肉体をも再生させていた。

 

そしてその耳には、聞きなれた声も飛び込んでくる。

 

 

『凱……』

(みこと)!?大丈夫なのか?!」

『うん。』

 

 

加療機器(マジーニマシン)の通信機より凱の元へ、重篤だった凱の恋人である卯都木命の声が。

ソール11遊星主との戦いで、ジェネシックマシンを蘇らせるため、真空空間に身を曝した事による損傷は致命的なものだった。

その状態から、言葉を発せられる程に回復したという事実は、奇跡と言っていい。

 

 

『大丈夫、身体の感覚が全部が元に戻ってる……』

「よかった、命……本当に良かった!」

『うん、心配かけて、ごめんね。』

 

 

何処とも知れぬ空間に辿りつき、原因不明の現象が起きているにも関わらず、命同様に凱の声にも涙の色が混ざった。

この奇跡を起こしたのが例え神であろうと、悪魔であろうと、今は感謝せずにはいられない。

だがそれだけではない。

ジェネシックだけではなく、他の勇者ロボ達もまた復活を遂げている。

氷竜、炎竜は捨て身のスーパーノヴァの影響もない、その姿のまま。

撃龍神は全身もさる事ながら、自爆ユニットまで。

マイクサウンダース13世はギラギラーンVVを掲げ喜び、ボルフォッグは自身と一部しか回収出来なかったガンマシンが2機とも完全再生。

光竜、闇竜の(ボディ)もスベスベである。

 

 

「……ディビジョン艦まで再生はされなかったのはいいとして……俺のは退化じゃねえか?」

 

 

ゴルディマーグは、3機のディビジョン艦で構成される『ゴルディオンクラッシャー』の制御AIとして組み込まれていた筈だが、現在の姿は四肢のある元のゴルディマーグのボディであったため、当人が退化と称しても仕方ないところはある。

しかしそれが単なる再生現象ではない事を物語る1つとなった。

まるで再生というより、元ある姿に戻したかのように、それは福音というよりも不吉な事象の始まりとも受け取れる。

では今起きている現象の元は何か。

それは氷竜、炎竜が感じ取った。

 

 

「隊長殿。この現象に私はハッキリと記憶があります。」

「ああ、僕も覚えている。この現象は……ザ・パワー!」

「という事は、この空間にあるのは……ザ・パワーなのか?!」

 

 

───ザ・パワー。

木星に存在する未知のエネルギーで、ほんの僅かであっても強大なエネルギーを持つ。

その力はかつて原種との戦いで、超竜神が頭脳原種の隕石攻撃を身を挺してESウインドウに押し返した際、その先の木星で宿した。そしてザ・パワーの反作用で1万2千年前の白亜期に跳ばされて尚、超AIを守り続けられる程の力を持ち、化石と成り果てた超竜神を完全復活させたエネルギーである。

だがそれは人類には過ぎた力であり、ソルダートJや戒道幾巳には『滅びの力』とも称され、木星に結集した原種が、Zマスターになるきっかけにもなった。

強大で未だ謎なエネルギー───それがザ・パワーである。

 

そして問題は勇者ロボ達より観測されたエネルギーの数値にもあった。

 

オペレーターの猿頭寺が言葉を失い、牛山一男がアシスタントの手を借りても解析作業が追い付かず、ホワイト・スワンがその内容に驚愕する。

 

 

「各機体の修復速度から推定されるエネルギーレベルは……ザ・パワーの数千倍にも達しマス!」

「な、何だとぉぉ!?あの超エネルギーの数千倍等と……そんな事があり得るのか!?」

 

 

その報告に獅子王雷牙博士は頭を抱えるが、そんな博士の驚愕に呼応するように、目の前のモニターに突如として複雑な模式図が次々に表示されてゆく。

それは他の隊員達のモニターにも表れていたが、その膨大で複雑な情報を読み解けるのは雷牙博士しかいなかった。

そこには膨大なインフレーション理論の最適解が記されているが、今まで見た事もない式である、しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

スワンの兄スタリオンも、博士の助手を務めてきたが、雷牙博士が感動に打ち震え、号泣ともとれる心躍らせた表情を見せるのは初めてだった。そんな表情で、博士は知りえた情報を語り始めた。

 

 

「諸君、我々がいる空間の正体が判明したぞ……ここは『オレンジサイト』だ!」

「オレンジサイト……まさか『宇宙の卵』デスカ!?」

 

 

───オレンジサイト。

ビックバンによって誕生した宇宙が膨張と収縮の果てに、ビッククランチによって終焉を迎える、その終焉を超えた先にあるのが、次なる宇宙の卵(オレンジサイト)である。

宇宙の屍であり、次へ生まれ行く宇宙の源である、純粋なエネルギーが満ちた空間──厳密には空間ですらないが、雷牙博士は判りやすく感覚的な説明をする。

 

 

「つまり、ここは三重連太陽系の宇宙が終焉を迎えた後、僕ちゃんたちの宇宙が誕生する前の卵な訳だ。そして、ここには後に全宇宙を形づくる材料が、純粋なエネルギーとして存在する。そのエネルギーが次元の裂け目から遥か未来の宇宙空間に漏れ出たものが、ザ・パワーなのだ。」

「おい、オヤジ……じゃあ今、満ちあふれているこのエネルギーは、ザ・パワーの原液ってことなのか?」

 

 

ソルダートJの傍らに立つルネが、そうつぶやいた。

彼女のサイボーグのボディも大きなダメージを負っていたはずだが、いつの間にか回復していた。

 

 

「ルネ……ああ、そういう事だ。ザ・パワーと同じ効果を発揮しながら、数千倍ものエネルギーレベルである事も納得出来る……いや、クシナダから観測できる分だけで数千倍というだけで実際は───!?」

 

 

ルネの超回復ですら、どんな奇妙な真実でも、実感として受け入れる博士だが、思わず自身の口にした内容に絶句した。

 

たった今獲得したであろう知識は間違いなく真実であろうと雷牙博士は確信しているが、データを送ってきた存在は、既にこの事を知っているのだ。

それはJアーク、クシナダに存在する知的生命体には、この真実を持ち合わせていない事を意味する。

 

では誰が送ってきたのか……?

 

 

(──()()のプレゼント、気に入ってくれたかい、兄ちゃん。)

「そ、その声は……麗雄!?麗雄か!!」

(──ああ。)

「僕達……という事は、母さんも一緒なのか!?」

(ええ、私もいますよ。このオレンジサイトに。)

 

 

その正体は、獅子王麗雄博士と、凱の母で麗雄の妻である獅子王絆であった。

獅子王麗雄はかつて木星を舞台とした原種との戦いで命を落とした。

獅子王絆は宇宙飛行士で有人木星探査船(ジュピロス・ファイヴ)の乗員だったが、木星圏での遭難事故によって死亡した。

だが、その意識はザ・パワーによって、夫婦共々肉体に依存せずに存在出来るようになったのだ。

その2人の声が、音声ともリミピッドチャンネルとも違う、脳内に直接響く声で伝わったのだった。

 

 

(みんなと再び会えたのは嬉しい……だが、凱、そして兄ちゃん。今この瞬間にみんながここにやって来たという宿命を、僕は悲しく思う──)

「父さん、どういう事なんだ!?宿命って何を意味しているんだ?!」

(凱、そしてGGGのみんな──たった今、僕達の宇宙は危機に瀕しているのだ。)

(まもなくこのオレンジサイトから、終焉を超えた誓い(オウス・オーバー・オメガ)が未来に向かって噴出(バースト)しようとしているのです。)

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……終焉を超えた誓い(オウス・オーバー・オメガ)、それはいったい……」

 

 

その言葉にカルディナの胸はズキリと痛んだ。

何か不安でたまらない気持ちになるが、なんとか平静を保つように振る舞う。

 

 

終焉を超えた誓い(オウス・オーバー・オメガ)、それは宇宙そのものとなるエネルギーだ。後にビッグバンを経て、一つの宇宙を構成することになるエネルギーが凝縮されたものと言って良い。云うなれば、宇宙の卵(オレンジサイト)の中身、といっていいじゃろう。)

(時に、そのごく一部分とでも言うべきわずかな破片が時空を越えて、『次元の裂け目』から未来の宇宙に漏れ出す事があります。)

「……つまり、それがザ・パワーだったのですね。」

(うむ。)

 

 

麗雄と絆の説明にカルディナは納得する。

1つの宇宙そのものとも言えるエネルギー総量であれば、計測されたエネルギーがザ・パワーと比べて桁違いだというのも納得出来た。

 

 

(想像してみてくれ。小さい破れ目から漏れ出た終焉を超えた誓い(オウス・オーバー・オメガ)のほんの一部の特性しか持たない欠片でさえ、ザ・パワーいう超エネルギーとして認識されたんだ。次元の破れ目が拡大して一気にそれが噴出したとしたら……)

「そんな!時間と次元が超圧縮、濃縮化したような超エネルギーが大量に顕現してしまえば、それこそ空間自体が侵されてしまい、宇宙はビッククランチへの歴史を一瞬で辿る事に───まさかそれが起きると??」

(察しが良い子じゃな……その通りだ。)

「そしてその次元の切れ目を拡大させた張本人がソール11遊星主だ。)

「──うぼぁっ!?!?」

 

 

かつて緑の星の指導者カインは、滅び行く宇宙から新たな宇宙へ移民するために、次元の裂け目を利用して、ギャレオリア・ロードによる次元ゲートを開く技術を確立した。

だが、赤の星の指導者の複製であるパルス・アベルはその技術を発展させ、膨大な暗黒物資(ダークマター)を採取する通路として利用した。

その過程で、次元の裂け目が拡大していったのだが……

 

 

「……なんか、そノ……スミマセンデシタ

「あ、いや。君が謝る事じゃないんだが……」

「直接は関係ないですが、今は身内ようなものである以上、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいで……」

(律儀じゃのぅ。)

(嫌いじゃないですよ、そういうところ。凱、言い方に気を付けなさい。)

「あ、ああ。」

「あうぅぅ……」

 

 

カルディナの申し訳なさはさておき、オウス・オーバー・オメガの性質は、まさに『終焉』の名に相応しい。

だが、それで絶望する者はGGGにはいなかった。

そしてGGGがギャレオリア・ロードでオレンジサイトに辿り着いたのは偶然ではなく、回帰途中の必然である以上、彼等はそれを自身に課せられた宿命と断じた。

 

 

「───現時刻よりOath Over Omega(オウス・オーバー・オメガ)を『トリプルゼロ』と認定呼称するッ!!GGG全隊員ッ!!『トリプルゼロ』バースト阻止を目的とした、ゼロ作戦を開始せよ!!」

「了解!!」

 

 

大河長官の指示に、クシナダ艇内にいるGGG隊員、勇者ロボ達が唱和する。

思念するだけで全隊員に伝わるオレンジサイト内では、艦内放送を用いらずとも伝播した。

そして連戦というには急転直下な事態であるが、それでへこたれるGGGではない。

トリプルゼロの副産物となるザ・パワーによって、肉体的な傷や機械的な損傷が修復されたということも一因だが、それだけではなかった。

自分達がこの場で何もしなければ、宇宙は終焉を迎えてしまう──その認識が、彼らに勇気を与えていた。

元々、ここにいるGGG隊員たちはみな、宇宙存亡の危機を前にして、叛逆者の汚名を着せられる事すら厭わずに立ち上がったのだ。自分たちに訪れた宿命を、喜びこそすれ、怯みはしない。

 

 

「スワン君、バースト現象のリミットは!?」

「あと700秒デス!」

「全GSライド、及びジュエルジェネレーターのリンケージ完了まで590秒──間に合います!」

 

 

スワンのカウントダウンにかぶせるように、牛山一男が報告する。

精神生命体として人知を越えた情報にアクセス出来るようになった麗雄と絆が提示した作戦は、わずかな準備で可能なものだった。

全てのGストーンとJジュエルをリンクさせ、そこから発生するエネルギーで噴出しようとするトリプルゼロを押し返す──ギャレオリア・ロードを使用するためのセッティングを、そのまま使用することが可能な作戦であった。

 

だが、不安もある。

 

 

『猿頭寺隊員……ビッグバンにも匹敵するエネルギーを押し返すことなど、我々だけで可能なのでしょうか?』

 

 

手元の端末に表示されたボルフォッグからの通信コードを見て、猿頭寺は微笑んだ。

互いの意思疎通が全員に伝わってしまう事が判明している空間で、だからこそ作戦への疑義ともなりかねない言葉を、あえて文字で送信したのだ。超AIが見せた細やかな配慮を好ましく思いながら、猿頭寺はあえて返答を口にした。

 

 

「大丈夫だ、ボルフォッグ。GストーンとJジュエルは、みんなの勇気をエネルギーに変換する。」

「そうだ!俺達の勇気が砕けない限り、そこから発せられるエネルギーも尽きはしない! 俺達の勇気は絶対に負けない!」

 

 

猿頭寺の言葉を受けて、凱が力強く肯定する。

そして猿頭寺と凱の言葉に、ボルフォッグは確信の声を発した。

 

 

「その言葉を待っていました」

 

 

そして、他の勇者ロボたちも口々に賛同する。

 

 

「我らの思いは一つ!」

「僕たち全員、勇気ある者だ!」

 

氷竜がうなずき、炎竜が拳を握る。

 

「GGG、バンザイ!」

 

 撃龍神が両手をかかげる。

 

「みんなカッコイイ!」

「みんな素敵です!」

 

光竜が闇竜の手を取り、闇竜もその手をしっかりと掴みかえす。

 

「勇気は最強だっぜッッ!!」

 

 マイクがサムアップ。

 

「よっしゃ!おっぱじめようぜぇ!」

 

 

 ゴルディーマーグがずっしりと身構える。

 

 

「ジェイアーク!未来に向けて、発進!!」

《了解!》

「ふ……熱くなってきたね。」

 

 

ソルダートJが右腕を大きく振りかざし、トモロ0117がジュエルジェネレーターの出力を上げ、ルネが熱いまなざしを向ける。

 

 

「よォしッ!!いくぞぉっ!!みんなッ!!」

 

 

 凱が叫び、ジェネシック・ガオガイガーが雄々しくたてがみを揺らす。

 彼らは微塵も疑う事なく信じていた。

自分達がこの戦いに()勝利する事を。

 

だが、彼等はまた知っていた。

勝利を信じられなくなった時、敗北の刻が訪れる事を───

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

ビッグバンの前兆となるトリプルゼロ膨張の圧力が、開放を求めて次元の破れ目に集中する次元の切れ目に到達したGGG。

メガ・フュージョンを果たしたキングジェイダーと勇者ロボ軍団は自らを楯として、その破れ目を背負い、立ちはだかった。

だがそれだけでは次元の切れ目よりトリプルゼロのバーストを止める事は出来ない。

エネルギーの拮抗が出来ている内はまだいい。しかしこの状況を未来永劫、継続出来る訳がない。

ただ、凱はそれを打開する手段がある事を知っていたが、手段故に躊躇していた。

 

 

《──いいのよ、凱。ためらわなくて。みんなも、凱と気持ちは同じなんだから。》

「命………」

 

 

 マニージマシンから離れて、クシナダの艦橋でオペレーター席についていた命が通信を送ってきた。

そして命の言葉に、大河が続く。

 

 

《その通りだ、凱!今この瞬間、我らがこの場に居合わせた宿命を無駄にしてはならない!》

 

 

大河の言葉に続いて、クシナダに収容されているGGG隊員たちも口々に同意し、勇者ロボたちも即座にうなずく。

そんな彼らの言葉に背を押され、凱は決断した。

 

 

「わかった……みんな!ギャレオリア・ロードをプライヤーズのように使って、次元の破れ目を塞ぐ!!ガジェットツールッ!!ギャレオリアローーードッ!!」

 

 

ジェネシック・ガオガイガーは、尾部のパーツを両腕に変型合体させたツールをフル稼働へ導く。

凱に浮かんだ考え、それはギャレオリア・ロードを使い、逆に次元の破れ目を閉じてしまおうというのだ。

理論上は可能だが、それを実行するには覚悟しなければならないことがある。

次元の切れ目を塞ぐ際、オレンジサイトより脱出し、切れ目の外側で閉じてしまうとトリプルゼロが僅かでもバーストしてしまう。そのため切れ目の内側からでないとこの作戦は完遂出来ないところにある。

 

……それは地球へ帰還する望みを、永久に捨てる事を意味する。

 

 

「本来なら、僕ちゃんたちが次元の歪みを抜けて太陽系に戻った後、木星側から塞ぎたいところなんだが……」

「それじゃダメだ!それだとトリプルゼロも一緒に通過してしまう!俺達がオレンジサイト側から塞がないと!」

 

 

雷牙の言葉を凱は断じた。

命の後押しに勇気をもらったその声には、もはや一片の迷いもない。

かつて次元の歪みから漏れ出たトリプルゼロのわずかな欠片(ザ・パワー)でさえ、超エネルギーとして原種大戦に大きな影響を及ぼしたのだ。その事態を遥かに上回るであろう災厄を、地球にもたらす訳にはいかない。

 

 

(凱、雷牙兄ちゃん、大河長官……こんな事態になって、みんな、すまない。)

「こりゃ麗雄!お前の詫びは聞き飽きた!それにお前のせいでもない!僕ちゃんたちの勇気、お前と絆ちゃんにはそこで見届けてもらうぞい!」

 

 

麗雄の謝罪を雷牙は断じ、殊更陽気な口調で笑い飛ばしたが、他の皆には説明していない事情も存在する。

 

 

(このオレンジサイトは、宇宙が開闢する前の世界。不安定な時空の歪みが、何年後の宇宙につながっているかは、僅かな歪曲率の変化でどんどんズレていく──)

 

 

地球人類が最初にザ・パワーを確認したのは、1990年代に無人探査船(ジュピロス・ワン)が持ち帰ったエネルギー物質としてである。つまり、歪みはそれ以前の時代に繋がっていたのだ。

だが、先刻から溢れ出るわずかなトリプルゼロを、増大したGストーンやJジュエルのエネルギーにより抑え続けた事で、刻一刻と歪曲率が変化している。

それは、繋がった先の時間がズレる事を意味していた。

彼らGGGが旅立った時代より過去になったのか、未来になったのか、測定する術は存在しない以上、元の時代に辿り着ける可能性は極めて少ない。

 

 

(だが地球に残してきた27人の子供達のためにも、父親として僕ちゃんに出来る事を頑張っちゃうぞ。申し訳ないとは思うけど、一人だけ付き合ってくれるから寂しくないしな~)

 

 

もっとも、その絶望感がオレンジサイトに留まる作戦を雷牙に選ばせた訳ではない。

その想いが当人──ルネに伝わってしまわないよう、口に出すことは我慢した。

 

 

(この先に木星が……俺たちの太陽系が──)

 

 

一瞬、狂おしい程の懐かしさが凱の胸の内にあふれた。

目の前に見える歪曲空間。このまま真っ直ぐ突っ込めば、太陽系に帰還することが叶う筈である。

だが、その感情に身を委ねるつもりは微塵もない。

 

 

(護たちを……地球を……全ての宇宙を救うために!)

 

 

 ジェネシックが両腕に装着したガジェットツールを発動させる。

 

 

「うおおォォォーーーッ!!ギャレオリア・ロードッ!!」

 

 

シリンダー状のツールが、前方の空間を湾曲させていく。三重連太陽系の宇宙で行ったように、次元ゲートを開く訳ではなく、強力なアレスティングフィールドによって、破れ目を綴じ合わせていく行為だ。

その様子が光学的に視覚に捉えられる訳ではないが、エヴォリュダーの超感覚は、ジェネシックのセンサーが捕捉した状況を把握する。擬似的な視界のなかで、次元の歪みはみるみるうちに閉塞されていった。

 

 

(もう少しで塞がる───!!)

 

 

しかし、その行為は思いもよらぬ妨害を受けることになる。

 

 

「──みんな!?何を──ぐあッ!?」

 

 

ジェネシックの四肢に、勇者ロボ軍団がしがみついていた。

氷竜と炎竜が、撃龍神が、ボルフォッグとガンマシンが、ゴルディーマーグとマイクが、光竜と闇竜が──ギャレオリア・ロードを使わせまいと、ジェネシックを拘束する。

彼らの全身は、暁にも似たオレンジ色の輝きに包まれていた。

ジェネシックの頭部にボルフォッグがしがみつく。振り払おうとするが、ゴルディーに背部から押さえつけられている。

 

 

「くっ、どうしたんだ、ボルフォッグ!ゴルディー!?」

 

 

そう叫んだ凱は、間近に見た。

ボルフォッグの両眼を模した光学センサーから、輝きが失われている。

それは他の勇者ロボたちも同様だ。

 

 

「クシナダ、聞こえるか!機動部隊の超AIはどうなっている!?解析出来るか!?」

「…………」

 

 

……その問いに、応じる者はいない。

先程まで、頻繁に飛び交っていた通信波がいまは完全に沈黙していた。

それが意味する事、それは……

 

 

(……凱、彼らは皆浸食されてしまったようだ、トリプルゼロに!)

 

 

絆と麗雄の意識が語りかけてくる。

 

 

「し、浸食!?操られてるって事なのか──」

(厳密な意味でいえば、そうではない……)

 

 

麗雄は、自分の思考を一気に送り込んできた。言葉という伝達手段に頼るよりも早く、凱は事態を理解する。

 

トリプルゼロは純粋なエネルギーであり、そこに意思は存在しない。

だが、エネルギーには力学が働く。

 

圧縮されたエネルギーが膨張する力学。

秩序から無秩序へと移行していく力学。

膨大な熱量も拡散され、冷え切っていく力学。

 

それらは総て、トリプルゼロというエネルギーによって宇宙が開闢し、また終焉を迎えていくサイクルを担っている。

宇宙の誕生と死は何者かの意思によるものではなく、ごくシンプルな力学がもたらす過程と結果に過ぎないのだ。

 だが、その摂理に逆らう存在がある。

 

 

「……それが俺達、知的生命体の活動と機械文明。」

(その通りだ、凱。そして、Zマスターもまた、トリプルゼロに少なからず影響を受けていたに違いない)

 

かつて、機界31原種はギャレオリア彗星と名づけられた次元ゲートによって、古き宇宙から新しい宇宙へやってきた。その過程で、やはりオレンジサイトを経由した可能性は否定出来ない。木星決戦で対峙した心臓原種の主張は、まさに凱が理解した宇宙の摂理を具現化したものに他ならなかった。

 

 

「破滅への導きが……宇宙の正しい法則ってことか?俺達の存在が間違ってるから……自然の力が滅びに向かうのか?」

 

 

凱の声は返答のない虚空に響く。

その答えはどこからも返ってこない。

 

 

「……みんな、思い出してくれ!!俺たちは木星でのあの時、Zマスターを否定した。そして勝利したはずだ!」

 

 

しかし凱の言葉に応える者は誰もいない。

麗雄と絆の意識のみが、オレンジサイトで繰り広げられる死闘を見守っている。

 

そして遂に、均衡は破れた。

 

(いのち)の結晶たるGストーンによりエネルギーへと変換した勇者たちの想い(Gパワー)だが、彼らが宇宙の摂理に浸食された今、それが彼等から生み出される事はなく、トリプルゼロの噴出バーストを阻むことは不可能だった。

ギャレオリア・ロードで閉塞に成功しかけていた次元の破れ目から、膨大なエネルギーが外の世界へと流出していく───

 

 

「──まだだ!命あるならば、まだあきらめるな!!」

 

 

それを、身をもって防がんとする者がいる。白銀に輝く巨体──キングジェイダーである。

 

 

「もがきなっ! 生きてるかぎり、気を抜くんじゃないよっ!」

「J! ルネ!」

 

 

しかし、その強靭なボディも、強烈なオレンジ色の濁流に揉まれ、かろうじて動いている状態だった。

 

 

「くぅっ、どうやらJジュエルとGストーンが相乗りしてるせいか、アタシたちは他の連中より耐性があったみたいだね。まあ、勇気の強さじゃ負ける気はしないけどね」

「凱、急げ!今のうちに次元の破れ目を塞ぐのだ!」

「ああッ!!」

 

 

凱は迷わなかった。

ジェネシックの全力をもって、四肢にしがみつく仲間たちを振りほどく。躊躇している余裕はない。眼前でトリプルゼロを阻み続けているキングジェイダーの全身も、オレンジ色の輝きに呑みこまれつつある今、時間はない。

 

全てが無に帰す前に、やりとげねばならない。

 

 

「──ハイパァァァモードッ!」

 

 

ジェネシックの機能の1つであり、サイボーグ凱にも技術転用された、エネルギーアキュメーター。

当時の凱の生命を繋ぎ止めたサイボーグ・ボディの構造は、ジェネシックのデータを元に設計されおり、髪の毛状のエネルギーアキュメーターを束ね、一気に直列パワーに移行する、瞬間最大出力を向上させるモードチェンジ『ハイパーモード』は、ジェネシックにおいても単独での実行が可能な機能を今、発動させていた。

金色の輝きに包まれたジェネシックが、()()次元の破れ目にガジェット・ツール、ギャレオリア・ロードをねじ込んだ。

 

 

「おおおォォォーーー!!!」

 

 

地球に帰れず、仲間達を失い、自分も浸食されるであろう──それらの想いの総てが、凱の脳裏から吹き飛んだ。

 

 

(……今はただ、力を振り絞る!ギャレオリア・ロードにすべてを込めて!!次元の裂け目が開き、全てが終わってしまう前にッ!!)

 

 

そして再び次元の切れ目が塞がれて行く……

その光景を目にして薄れ行く意識の中で、ジェネシック・ガオガイガーのパイロット、獅子王凱は感じていた。

 

己の肉体の延長であるジェネシックの全身に、浸食してくる異様な()()の感触を──

 

 

「────!」

 

 

その瞬間、凱はジェネシックのコクピットよりフュージョン・アウトされた。

それは一時の正気を取り戻したギャレオンの、その時出来た唯一の抵抗であった───

 

そして、走馬灯のように回想される、三重連太陽系に送られてきた謎の声――

 

 

(……エヴォリュダーよ……今こそ……命を超えるのだ………)

 

 

凱の記憶の奥底で、名も知らぬソムニウム(ラミア)が送ってきたその声が、木霊のように鳴り響いていた――

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……そうしてジェネシックから逃がされた俺は、父さんと母さんに保護された。」

 

 

カルディナ達がいる場所は、完全に次元の破れ目から脱したわけでもない狭間の世界。

存在と虚無のどちらともいえない場に漂っている。

 

 

「俺がこうしていられるのも、父さんと母さん、そして浸食される寸前に、ギャレオンが逃してくれたからなんだ。」

「そうだったのですね。では、ギャレオンは……」

「あの通りさ……」

 

 

長い間、共に戦い続けてきたパートナーでもある機械仕掛けの獅子、ギャレオン。

そして三重連太陽系の遺産、ジェネシック・ガオガイガー。

その姿は今、異様なものとなっていた。

 

猛獣の顔貌を胴体に、鋭い爪の四肢に、長い総髪をたたえた巨人の姿。

だが、オレンジ色のオーラに包まれたそれは、もはや凱やカルディナの知る勇者王(ジェネシック・ガオガイガー)ではなかった。

 

 

(ジェネシックオーラには、OOO(トリプルゼロ)を起源としたテクノロジーが使われていたのだろう。浸食されたジェネシックは、それが故に、最も効率良く、最も強大に、最も多くの能力を具現化する、OOO(トリプルゼロ)に最も適したインターフェースとなったのだ。他の追随を許さない最上位の存在。宇宙の摂理を体現するために行動する『覇界の眷族』──まさにその『王』として……)

「王……」

 

 

その言葉を口にしたとき、カルディナの全身に戦慄が走った。

あれこそ、次元空間を破壊する革命を起こす王──

あれこそ、命あるすべてのモノを光に変える王──

 

───覇界王ジェネシック・ガオガイガー

 

 

「覇界王ジェネシック・ガオガイガー……」

 

 

視界にそびえる巨大な覇界王は、カルディナや凱達の存在を気にもとめていないようにも見える。

次元の先に存在する大切な何かを、両の掌で護っているかのように、胸の前で合わせているようにも見える。

 

だが、今は……

 

 

「脅威、と言える程の力は感じられないのですが……」

(じゃろうな。今はこのジェネシックのみならず、オレンジサイト全域と思われる範囲で、エネルギーの停滞……いや停止が起きている。君に会う寸前まで、な……)

「あの……ちなみに他のGGGの方々は……」

(解らん。凱を保護した時にはジェネシック以外の姿は既にもうなかった。おそらく目視出来る範囲からは遠ざかってしまったんだろう。」

(そこで仮説なのですが……カルディナさん、貴女何かしましたか??)

「───ふえっ?!」

「まあ、驚くのは無理ないが、俺達としてはどう考えても君が現れたタイミングでこの停止現象が起きた以上、何かしたんじゃないか、と思うしかない。何か心当たりはないか?」

「……と、申されましても。」

 

 

全く心当たりのないカルディナ。

彼女自身、突然ここに来た当初から精神状態はぐちゃぐちゃで、まだ終わりたくないという気持ちでいっぱいであった。

 

 

《───では、その質問に私がお答えしましょう。》

「え……? V・C??」

(おぬし、V・Cと言ったな。解るのか?)

《はい───というより、おそらく皆様の疑問には凡そ答えられる所存です。》

 

 

ふよふよと揺蕩う紫の光源体『V・C』。

次なる答えは、この無限情報サーキットを名乗る存在が秘めていた。

 

 

 

《NEXT》

 

 




Web小説版を読んでいて、アベルさんの所業の罪深き事よ。
この作品はアベルさん生存ですが、本人の気付かないところで、アベルさんのヘイトが増える増える。
時系列で一億年以上前とはいえ、こうなるとは本人も思うまい……

さて、次回(2)では、今まで建てられた不穏なフラグの一部が公開となります。

カルディナさんがここにいる理由は偶然ではない!


という訳で、後半に続く!!


ジェネシック「しびびびびび……!」


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