それでは、どうぞ!
――――ドワーフ。
身体は小さいながらも、筋肉質で、鍛冶を得意とし、酒が大好きで顔に立派な顎髭を蓄える、あのドワーフである。
作品によっては、女性も含め全員がひげを生やしている事が特徴である。他種族に対して頑固。
ホビットはまだマシだが、エルフに対しては昔から特に仲が悪い。
ちなみに、この世界での女性ドワーフは、ロリ顔で、髭はない。安心したまへ!(誰に対し?)
そんなドワーフだ。
そしてドワーフ2人が往来の真ん中、正確には店の前で口論をしていた。
ちなみに、一人は典型的なドワーフ。昨年までは鍛冶屋の親方だったが、筋を痛めてしまったためか、今年引退したところを、カルディナが鍛治物を扱う販売業を勧め、現在店先に立つ、ドワーフの親方だった。
しかし、もう一人は少し風貌が違った。
髪はドレッドヘアーで、ガラスレンズを使用したゴーグルを頭に、顎髭は無精髭程度の長さしかない。
まずドワーフがしない風貌であり、そのドワーフにカルディナに心当たりはなかった。
(アースガルズ公爵領の外から来た方かしら?)
そう思うも、心当たりの無いものは仕方ない。
それに、時間の経過と共に、二人の口喧嘩は次第に苛烈になりつつあった。
周りは萎縮し、止める者も現れず、これ以上は殴り合いになりそうな空気に、やれやれといった面倒くささを抱きつつ、カルディナは二人の間に仲裁に入った。
「―――往来の真ん中で、何をしてますの!!!」
「何だと!?部外者は黙ってろッ!!!」
と、ドレッドヘアのドワーフ。
しかし、カルディナは
「部外者に非ずッ!!! 店の元締めですわッ!!!」
キッパリ言い切った。
その言葉に二人共押し黙る結果に。
それもそうだろう。今のカルディナは、非常に機嫌が悪い。
疲れている事に加え、やっと休憩出来る環境の最中に喧嘩の仲裁だ。
更に、魔法が堪能なカルディナは、
そんなカルディナを前にするとどうだろうか?
目の前に超大型の猛獣が、凶悪な眼光を光らせ「黙る?死ぬ?」の二択を迫るような状況に。
ちなみに、ここで暴れたら「ダァ――クネスッ!!!」な指がアイアンクロウしてきて、地面に何度も叩き付けた挙句「爆発ッ!!」と殺し文句(文字通り)を残して無残に相手は死ぬ。
あえて「ゴ――ッドッ!!!」でないのが、カルディナ・セレクト。
……まあ、例えではあるが。
さすがに、そんなカルディナを前に恐れをなしたか、ドワーフの2人は……
「「……すいませんでした。」」
頭を下げた。
特に親方の方は自身の雇い主だという事に、威圧段階から気付いたので、非常に萎縮している。
もう一人も、逆らったらヤヴァい、とビクビク。
落ち着いたのでカルディナも威圧を止める。
「……で?いったい何が原因ですの?」
と言って、まずは親方を見る。
事件が起きたら、まず被害者から、である。
「……と言ってもなあ、俺も正直よく解らねえんだ。その男がいきなり「これを買い取ってくれッ!!!」って息巻いて来やがって。ここじゃ買い取りは出来ねえ、って何度も言ったのに、全然聞いちゃくれない。んで、口論に……」
しかし、親方もどこか釈然としない様子で事のあらましを話し始めた。
そしてドレッドヘアのドワーフは……
「そうだよ、俺は買い取ってくれって頼んでるだけなのによ、全然聞いちゃくれねえ。ここの……アースガルズ商会は買い取りもしてくれるって聞いて来たのによ。」
との事。
要約すると、買い取りで揉めていた内容だった。
「なるほど……話は解りました。まあ、どちらが悪いかと言われましたら……ドレッドヘアの貴方、ですわねぇ……」
「何ィ!?どういう事だ!?」
「理由はこちらの店主の仰る通り、この店では買い取り業務を『していない』のです。」
「……は?」
「先月まで、アースガルズ商会では同じ種類の物は買い取りを受け付けてましたが、件数が膨大になり、ここの様な規模の店舗では対応が困難になったので、新たに買い取り専門の部門を創設しまして……今月からですが。」
「マジかよ……」
「ですので、今後買い取りについては、そちらにして頂きたいのです。ちなみに、買い取りの店舗はあちらの通りにありますわ。」
「何だと!?通り過ぎてた!!」
「そして、貴方はこの領の者ではないでしょう?」
「あ、ああ、そうだが……」
「その通知は、関所の看板の広告にもしていたのですが、通る人には必ず見るようにと促していましたが……」
「……あ~、うん。確かに書いてあったな。地図もあった。」
「……お解り、頂けました?」
「……はい」
……何と言うか、非常に誤解と確認不足が重なった出来事だった。
説明をしていたカルディナも、途中でこのドレッドヘアのドワーフが可哀そうに見えたが、とりあえず最後まで説明する事に。
最後は素直に納得した後、ドレッドヘアのドワーフは店主の親方に素直に謝ったので、とりあえず二人の件は解決したといえよう。
ただ、もう一つ問題がある。
「では……店主、貴方はもう宜しいですわ。この方はこちらで預かります。」
「え?いいのか?」
「ええ。むしろ私が預かる案件のようですから。」
と、言って、ドレッドヘアのドワーフを見る。
「さて、貴方は買い取りの品があるのですわね?」
「え?ああ、そうだが……」
「私は、アースガルズ公爵家の娘、カルディナ・ヴァン・アースガルズ。ですが、今は『アースガルズ商会』の長としてお相手致します。貴方のお名前は?」
「……ダーヴィズ・ダンプソンだ。」
「ダーヴィズさん、商品を見ましょう。少なくとも、私が気に入れば、その品は買い取りを認めます。」
「本当か!?」
「ええ、二言はありません。ただし、こちらの要望にも一つ、お応えしていただければ、ですが。」
「お、おう……」
「では、こちらに。」
まさかのカルディナからの要望に、少したじろぐダーヴィズだったが、自身の生活が懸かっている以上、引くに引けず、カルディナの招くまま付いて行くのだった。
ただ、平静を装いはしていたが、カルディナは正直、疲れていたが……
「お待たせしました~! 本日の新作はケーキ三種セットが二種類です。」
「待ちかねましたわ。」
「では、いただきましょう。」
「……」
目の前に置かれた、新作のケーキ。
一皿目はスポンジ系のケーキが二種類。シンプルなプレーン生地にあっさりとした甘さの生クリームを添えたシフォンケーキと、甘酸っぱい味わいのベリージャムを加えた生クリームを巻いた、ロールケーキである。
もう一皿は、チーズケーキ三種。ご存じ、レアチーズ、ベイクドチーズ、スフレチーズの日本ではよく目にする、『現代』では、ありふれたケーキだった。
これらのレパートリーの提案者は当然、カルディナだ。
『
ただし、再現までに努力し過ぎて、血が滲んだのは、いい思い出である。
ちなみに、カルディナ達が生きる現状の世界においても、甘味・砂糖は非常に貴重であり、また贅沢品である。貴族間ではようやく手に入り始めた品でもある。
特に、砂糖の原料であるサトウキビは土地柄、生育には不向き。
養蜂はされておらず、また養蜂におけるメカニズムが解明されていない現状では蜂を駆除し、蜂の巣を壊して蜂蜜を入手するという手段を取っている。
参考までに、お菓子というと甘いものを指すが、中世ヨーロッパでは甘いとは限らず、小麦粉などの粉で作ったものを指す事が多い。
小麦粉をベースにして、卵や牛乳、蜂蜜等を加える事もあり、生地の材料は同じだが、火の通し方に違いがあり、窯で焼いたり、茹でたり、油で揚げたりと様々な方法がある。
一つ例を挙げるなら、ワッフルであろうか。作りだされた頃より、ほとんど形が変わっていないお菓子である。
この世界であれば、一般的に甘いパンがケーキの始まりだとされ、ドライフルーツを生地に練り込んだり、蜂蜜をかけたりとバリエーションを増やしていった経緯がある。
とにかく、甘いものは非常に貴重だといえる。
そこで、カルディナは麦に目を付けた。
といっても、パンの原料である小麦ではなく、実際に使用したのは当時、馬の餌の一部や、オートミールで使われていた大麦である。そして、大麦から麦芽糖、つまり水飴を作り出したのだ。
小麦を使用しても水飴は作れるが、その性質上、出来る量は少なく、量を確保出来ない。故に水飴を作るのには適さず、大麦を使う事に。
(これによって、とある農家が大歓喜したが、それは別の話。)
そして苦労して作った水飴を使い、今回ケーキを作ったのだ。(ただし、生クリームを作る上で、非常に絶望したのは、別の話。そしてレアチーズに使うクリームチーズを作り出すのに死にそうになったのも別の話。そして菓子職人は吐血した。)
ゲンダイギジュツハ、ゴウガフカイ……
じゃあ、辛いのに何で作ったの?
女の子だもん、甘いものは食べたいじゃない!!
に、尽きる。
それに、甘いものは貴族のステータスをも表す。
希少材料を手に入れられる財力、人脈はもちろん、例え財がなくても、調理に工夫を凝らせれば、それだけ将来性も見込める力がある。
美味しければ有力な商品にも、交渉材料にも使える。
「……で、何で俺があんたらと一緒にケーキを食う流れに?」
そんな苦労と血の滲む努力の結晶たるケーキが、そのような経緯で作られた事を知らず、ダーヴィズは疑問を投げ掛ける。
というより、先程の条件がコレ、とはいささか待遇が良すぎでは?と思う。
「冷静に味を判断できる方が1人でも欲しいからです。私とフミタンは元から疲れていますから、もしかすると、美味しいだけの評価で終わるかも知れませんし。まあ、難しい感想は要りませんが、美味しい、不味いの評価ぐらいはして下さいませ。それとも、甘いものはお嫌いで?」
「いや、好物だ。ただ、こんな待遇を受けて困惑してるのは確かでな……」
職業柄、消耗する体力を補うため、何かしらよく食べる必要がある。
特に酒以外では、甘いものは好物であるダーヴィズには、目の前にある、見た事もない菓子達を見て、心が躍らない訳がないが、自身の立場を考え、とりあえず騒ぎ立てるのは我慢しているだけなのだ。
それに、普段のカルディナやフミタンなら、ケーキの品評に赤の他人は介入させない。
扱う商品を見定める時、自身の決定に、他人の
なので、今回は異例中の異例と言える。
それが「まあ、いいですわ。」と思う程、カルディナは疲れていた。
「まあ、これは商品を見る条件でもありますから、あまり固く考えないでください。」
「お、おう。そういう事なら……いただくとするか。」
「そうですね、いただきましょう。」
そして三人はケーキを食べ始める。
初めは黙々と食べていたが、二口、三口進めるにつれ、段々と表情が和らいでいった。
「……これは、何と表現したらいいか。」
目を大きく見開き、喜々と驚くフミタン。
「んん~!これは成功ですわね。」
口に含んだケーキの味を堪能し、身悶えするカルディナ。
「これは組み合わせがいいな。シフォンってやつは、さっぱりとした甘さのフワフワ生地に、クリームで甘さを加減出来るのがたまらねえ。逆にロールケーキってのは、生地こそ似てるが、クリームに入っているジャムの甘酸っぱさで、いくらでも食える。それに更に驚くのがこのチーズを使ったケーキ……スフレチーズはフワフワ加減に嫌みのない適度なチーズの味と風味がいい。レアチーズはさっぱり甘酸っぱい、チーズとは思えない味にびっくりだ。しかも冷たく、あっさりと食えて、添えられたベリーソースが、またいい。そしてベイクドチーズはどっしりとした甘みと、適度な塩加減で満足度が半端ない。女子供もそうだが、大の大人が食べても満足出来るな。」
ケーキ全てに的確で饒舌な評価を下すダーヴィズ。
「「…………」」
「ん?どした?」
「……評価が的確過ぎて、びっくりですわ。」
「確かに私も、同じような評価を感じましたが、ダーヴィズさん。初めて食べたにしては饒舌ですね。」
「そうか?」
「「そうです(わ)。」」
そしてそれに驚くカルディナとフミタンだった。
評価能力、半端ない。
何このドワーフ。
「ちなみにどれが一番良かったですの?」
「ん?そうだな……俺はベイクドチーズ、だな。まあ、一番満足出来たのが理由だな。」
「私はシフォンケーキか、レアチーズですね。あっさりした味わいはお茶とも合うと思います。お嬢様は?」
「私もベイクドチーズを推したいところですが……今回はお茶会に出すケーキの選定ですから、やはりフミタンの意見に同調しますわ。ただ、ロールケーキの味も捨てがたいのですが……」
「確かに……甘さ、酸味でいえばロールケーキもありでしょう。お茶にもよく合うかと。」
「ああ、そうだな。このベイクドチーズは塩気が強い。どっちかというと男向けって言えるかもな。酒に合いそうなぐらいだから、お茶に合わせるのは、ちぃとキツいかも。」
「そうですわね。ではシフォンケーキとレアチーズ、それとロールケーキの三種を選びましょう。」
と、言うことで決定した。
しかし……
「ダーヴィズさん、貴方本当にドワーフですか?」
「鍛冶師、でしょう? 辞めて料理人か菓子職人目指しません?」
「どうしてそうなる……」
二人の評価に頭を抱えるダーヴィズさん。
いや、そりゃそうでしょう。
ちなみに本人曰く
「こちとら貧乏で、日頃から薄味のものばっか食べてたからな。味の分析ってのは、日頃からやってるのよ。」
との事。
それはさておき。
「え~、こほん。多大なご協力、どうもありがとうございます。お陰で無事、品評を終えることが出来ました。」
「って事は、ようやく買い取りをしてくれるってか。」
「正確には品定め、ですが。もちろん査定いたします。品物をお願い出来ますか?」
「何かここまで来るのに、やたら遠回りだった気が……まあいい。それじゃあ、宜しく頼むぜ。」
それは誰に対しての嫌味か(超絶ブーメラン)。
それはさておき、ようやく本来の目的を果たせる事にダーヴィズは気合いを入れ直す。(気力+10)
そして持っていた皮の鞄から、『それ』を取り出す。
「俺が売りてえモノは……これだ!」
片付けられたテーブルの上に、遂に置かれる『それ』。
そして『それ』目にしたカルディナとフミタンは、驚愕するも、更に観察せんと声を押し殺し、目を凝らす。
何故ならそれは……
「あの、これは……『糸』、ですか?」
「そうだ、『糸』だ。」
「……『意図』が解りませんわ。『糸』だけに。」
取り出したのは、光沢がある『白い糸』を大きめの糸駒(糸を巻き付ける軸のようなもの)に巻き付けたもの。
ダーヴィズの売りたい物とは、糸だった。ドラムケーブル程の糸駒に、髪の毛程の太さの白い糸が、目一杯巻き付けてあった。
しかも、その糸がまた問題だった。
カルディナはその糸駒の糸をじっと見て、一つの疑問を感じたのだった。
それは……
「この糸、植物性でも動物性でもありませんわね。これは……白いので解りにくいですが、この白さは金属の光沢、ですか?」
「お、気付いたか。この糸はな、実は『軟鉄』で出来てんだ。」
「『軟鉄』……ですか。」
『軟鉄』。
字の如く、軟らかい鉄である。
色は基本的に白い。
採掘所によってはグレーがかっていたり、青みがかっていたりする等、暗色系の色が目立つが、基本的には白く、どれも独特の金属光沢を放つ。
ただ、その軟らかさは青銅や、銅、果ては純金よりも軟らかく、スライムよりも硬いが、ポヨンっと弾力があり、非常に軟らかい鉄……のような物体だ。
何を言っている、とな?
そう、その通りだ。
厳密に言うなら、これは金属に属さない。つまり鉄に分類されていない、訳の解らない物体だ。
炉に焼き入れしても、熱を持つが溶けず、冷やしても固まらず、型に入れても形は定まらない、ハンマーで叩こうものなら、四方八方に飛び散る、鍛治師泣かせの物体。
また、過去に魔力を流しても何の反応も示さず、攻撃魔法にも何の反応を示さず、分析には魔法使いも匙を投げた。
ただ、金属の光沢がある以上、鉄に分類されるのでは? と結論(妥協ともいう)が出されたため、一応『鉄』に分類した、と言うのが実状。
基本的に白いので、存在を知らない者だと、まず金属とは思わない。よく『鉄』に分類したものだ。
上記の特性(?)を持つが故に、大多数の職人からは見向きもされない、不遇の物質だ。
ちなみに、アルド・レイア王国の全土の地中には、集中的に分布し、希少金属が採れる箇所では、同じ位の量が採れる、採掘師泣かせの『お邪魔虫』と認識されている。
ただ、軟らかい癖に、不思議と未発掘地域での土砂の滑落等は報告されていないが……
一部のマニアが存在するものの、市場では取引対象とされる事はないため、無くても良い存在である。
それ故に、いても、いなくても問題ない者、役に立たない者に対し『軟鉄野郎』と揶揄する言葉もある程だ。
そんな『軟鉄』を『糸』に加工して持ってきたダーヴィズ。
過去にも『軟鉄』を加工して売りに来た職人は、ある程度いたが、どれも商品価値はない。需要がないのだ。
しかし、『糸』に加工して来た実例はない。形を変えてある、珍しい品といえようか。
おそらくダーヴィズ自身が加工したに違いないだろう。
丹念に見て、触って、切って、カルディナは品定めをする。
どんなものであれ、どんな物も正当に評価する、それがカルディナ・ジャッジ。
しかし、カルディナが下した評価は、良いものではなかった。
「……加工品としては、珍しい物ですわね。糸に加工出来ているのも評価出来ましょう。ですが、それ以上の商品価値がある、とは言えませんわ。」
「……どうしてだ?」
「残念ながら、需要が思い当たりませんの。『軟鉄』を使って、この様な加工をされるのは良いのですが、問題は、これが何に使えるのか、ですわ。ただの糸扱いでしたら、既に市場に需要・供給は満たされています。ちなみに、どの様な使用想定を?」
「いや、それは……縫物に使ってもらえれば、とか。」
「……でしたら、無理ですわね。まあ、言った手前、買取は約束しますわ。ただ『軟鉄』の市場で一応設定されている価格が、キロ単位で銅貨5枚(約500円)程度ですから、この糸駒の量でしたら、銅貨5~6枚、でしょうか?」
「ま、待った!技術料も込みで、銀貨5枚(約5000円)!」
「ずいぶん、ボッたくりますわね。ケーキの評価に対するお礼として、銀貨3枚。」
「よ……4枚、で……」
「……判りましたわ。銀貨4枚で交渉成立ですの。」
「……ちなみに、あと2つあるの、ですが。」
「……はぁ。そちらもお出しなさい。」
「恩に着ます!!」
立ち上がって直角になるぐらいに頭を下げるダーヴィズ。最後には敬語になっていた程だ。余程お金に困っていたのか。金貨1枚と銀貨2枚。
それに対し、やれやれと思いつつ、フミタンにお金の用意を促すカルディナは、感涙を流すダーヴィズを横目に、有効利用出来るか解らない、『軟鉄の糸』を指でつまんで、ぷらぷらと遊ばせていた。
「しかし、糸の強度も他の糸とさほど変わりなし。これが鉄の様に丈夫で、かつ、しなやかであれば、まだ使用範囲が広がりますのに……」
つい口にしたのは、ワイヤーの事だ。
単純に言うと鉄を細長く加工し、糸状にする。
ただ、加工するにあたり、現状の技術で鉄は細く加工出来るが、使用する薬品、研磨技術等が未熟で『現代』の様な物は作れない。
ましてや、ワイヤーカッターみたいな物は望めない。
工業用の編み上げたワイヤーも、いつ出来るか……
「何?それでいいのか?それなら出来んぞ。」
「……え??」
カルディナの呟きに対し、出来ると返したダーヴィズは、彼女が遊んでいた『軟鉄の糸』を失礼、と一言断り、左手の指で糸をつまんで垂らし、念じるように右手の指先でつまみ、ゆっくりと下に指を滑らす。
その際に指先から
それの行為が何をもたらすのか……
「……
「染み込ませてるって感じかな? 塊だと『軟鉄』の芯っつーか、中心まで
そして軽い調子で手の平に置かれた『糸』。
それを恐る恐るながら引っ張って見た。
……全く、切れない。
普通の『糸』であれば、難なく引きちぎる事は、カルディナでも容易だ。先程も出来たのだ、間違いない。
しかし『身体強化』の魔法も使って、同じく引っ張ったが、ダーヴィズが手掛けたばかりの、この『糸』は全く切れる気配は、ない。
……ナニ、コレ ?
自身の目の前で、何が起きたか解らず……いや、解っているが、信じられず、混乱するカルディナ。
だが、そこにダーヴィズが(本人は何も考えていない)追い討ちを掛けてきた。
「後なぁ、
そう言って糸駒からある程度『糸』を引っ張り出したダーヴィズは、『糸』を30センチ程垂らして、残りの糸をギュッと握った。
そして先程と同じ様に、念じるように
一般的に『
ただ、別に魔法使いでもなくても、
ちなみに、ダーヴィズは魔法使いではない。せいぜい一般人より僅かに『出来る』ぐらいだ。
カルディナも商談中に、その辺りは感じ取ってはいたが、大抵の人と同じ様な
しかし……
……むくり、くい、くいっ あ、どうもこんにちは
くにゃ、くにゃくにゃ、くにゃり
ぐる、ぐるぐるぐる、あらよっと
くたぁ……
「………」
「……っと、まあ、こんな感じだ。当初はガキの玩具にでもしようかと思ったんだが、
『糸』の先が、動いて一芸までした。
時間こそ短いが、確かに『動いた』のだ。
「ーーー貸しなさいッ!!!!」
今まで固まっていたカルディナが、吼えた。
店内どころか、その吼えた声は、店外にすら響き、周辺の喧騒が一喝された子供の様に、一斉に静めさせた。
同時に、ダーヴィズの持っていた『糸』を、略奪の言葉が似合うぐらいの勢いで奪い取るカルディナ。
真正面にいたダーヴィズは、何が起きたか全く解らず、ようやく糸が奪い取られた、と把握した瞬間……
「(こ……こ、こ怖ェ……ッ!!!)」
「………、…………、………、……、…………、…、……」
ただ一点、奪い取った『糸』を、眼を見開いて凝視するカルディナを見て、恐怖した。
しかもブツブツ、何かを呟く……
……否、超・高速の魔術詠唱並みに何かを話す、そんなカルディナを真正面から見たのだ。
……想像して欲しい。
感情が欠落しながらも、眼だけは見開き、何を喋っているか解らない美女が、いきなり間近にフェードインして来たシーンを……
大の大人でも大概は怖がるだろう。
今のカルディナはそんな
ここが個室で良かった。
間違っても外で見せていけない
「………伝導……、……金銀より……、…………収縮性………、…………率……………、未だ……、………なら………検証………、……証明………、……………いる…、全交換………、魔導……術式………、………実証………、………して………」
そして何を喋っているかが未だに解らない。
途切れ途切れ辛うじて解る単語があるが、超・高速詠唱並みの独唱(?)は未だに治まらない。
それどころか、今度はカルディナが持っている『糸』の元……糸駒に巻かれた大量の『糸』が、独りでに動き始め、カルディナの周りを囲い始めた。
ドラムロール並みの大きさの糸駒だ、その糸の量と長さは想像を絶し……
「お嬢様、いったい何事……ッ!?!?」
異変を感じ取り、急いで戻って来たフミタンは、個室にたどり着いた時、その光景に驚愕する。
「な……何事ですか!? ダーヴィズさん!?」
「……し、しし、知らねえよ!!!」
ドラムロールいっぱいの大量の白い『糸』が、サナギの繭の如くカルディナに巻き付く光景が突如出現ッ!
しかも表面は絶えず『糸』が蠢き続ける、凄まじい光景だ。
例えるなら、『風の谷のナウシカ』で物語の中盤にアシベルの襲撃で腐海に落ちた後、ナウシカが王蟲の触手に絡められるシーン、あれを想像して欲しい。
アシベルの襲撃で腐海に落ちた後、ナウシカが王蟲の触手に絡められるシーン、あれを想像して欲しい。
……本当に何が起きたか、さっぱり解らない。
2人が困惑するのも無理はない。
しかしフミタンは立ち尽くす訳にもいかず、懐からナイフを抜き、構える。
「お嬢様は……まさか、この中ですか!?」
「あ、ああ。何かブツブツ言い始めたと思ったら、『糸』がいきなり嬢ちゃんを覆い始めて……!」
「――――疾ィッッ!!!」
――――――キィィンッ!!!
ダーヴィズが言いきる前に、ナイフを白い繭に向け、いきなりノーモーションで振り抜くフミタン。
しかし、まさかの金属音を立てて、弾かれてしまい、素早く後退する。
しかも、フミタンのナイフの刃が欠けたオマケ付き。
まさかの事態に、普段はクールなフミタンも、怒りの感情を滲ませ、ダーヴィズを睨む。
「……お嬢様に万が一があれば、絶対に赦しませんよ、ダーヴィズさん。」
「うぐ……」
さすがにダーヴィズには何も言い返せない。
どうしてこんな事態になった、と。
自分はいったい何を作ったのか、と。
目の前に現れた、自分の作った『糸』の集合体である、白い繭を恨めしげに睨むダーヴィズだった。
……しかし、それは盛大に裏切られた。
―――シュルルルルル……
「「 え? 」」
2人の警戒を他所に、蠢く白い繭が、みるみる収縮……『糸』が自ら解かれていった。
しかも『糸』は行儀良く、元あった糸駒に綺麗に巻き戻って行く。
その中心には、全く何事もなく、佇むカルディナの姿があった。先程の怖い表情なんて無かったように、目を瞑り、まるで祈る聖女の様に、その手には『糸』を持って。
いきなりの事態の推移に、全く付いて行けない2人は、糸駒に全ての『糸』が納まるまで、傍観するしか出来なかった。
そして、全ての『糸』が納まった後……
……ッフフフフ、ウフフフフ……
フフフフ、フハハハハハ……!!
オーーーッホッホッホッホッホッ!!!
聖女の優しい笑い→某ギアスのシスコン王子のドスの効いた笑い→悪役令嬢の勝利の高飛車笑い、という、謎の三段活用が発動し、カルディナ・ヴァン・アースガルズは何事もない様子で、高々と笑っていた。
そして、気が済んだと思われた後、フミタンの存在に気付いたカルディナは……
「あら、フミタン。お金、持って来てくれましたか?」
「は、はい。しかし、お嬢様……何とも無いのですか?」
「?? ああ、ご免なさい。ちょ~っと、興奮して、はしゃいでしまったみたいね。」
「は、はあ……」
全く何でもないカルディナの様子に、安堵こそするも、「あれがちょっと……?」といまいち釈然としないフミタン。
まあ、仕方ないと思うしかないが、非常にニコニコと不自然な程の笑顔なカルディナに不信感が否めない。
そんなフミタンをさておき、お金の入った袋を受け取り、再びテーブルを挟んで、「これ以上何があるってんだよ~!」と心労困憊となっているダーヴィズの前に立った。
そして、袋から金貨1枚と銀貨2枚を取り出し、更にその隣に自身の懐から金貨5枚を取り出し、ダーヴィズの前に積み上げた。
その行動にダーヴィズ、そしてフミタンも再び驚く。
これは何を意味しているのか……
驚く2人を余所に、カルディナは意気揚々とダーヴィズに対し、話し始めた。
「この度は、大変良いものをご紹介して頂き、
「お、おう……」
「そして、ダーヴィズ・ダンプソンさんにご依頼致します。一週間以内に軟鉄の糸を木箱一杯……最低でもこの糸駒10個分を私にお売り下さい。」
「な……! 本当かよ?! しかも、10個以上って……」
「ただ、現時点でこの『糸』は未知数です。ですので、『私達』の検証が終わり、その能力の評価次第で値段を付けさせて頂くので、残りはその後に。納入は早くても問題ありません。お支払は……最低でも前金の2倍以上のお値段は約束させて頂きます。」
最低でも金貨10枚以上の仕事である。
今回ダーヴィズが売った分よりも高額だ。
どう考えても破格である。
「よし!まかせろ!一週間と言わず、数日で持っていってやるぜ!」
「では、契約成立ですわね。」
そして、紙に注文の品、納入場所を明記した依頼書にサインをするカルディナとダーヴィズ。
しかし、こうなった以上気になる事もまたあり……
「だがよ……前金貰って注文を受けた手前、こう言うのも何だが……」
「何ですか?」
「こいつを何に使う気だ? さっき『とんでもねえもの』を見たし、俺が『糸』にやった事……製作者の俺が言うのも何だか、あんたが考えてる、その使い道がさっぱり解からん。」
ダーヴィズの疑問は最もだ。
そもそもダーヴィズは『糸』をその希少性と量で多少でも高く買い取って貰いたかっただけだった。
しかし、カルディナと出会ったがために、自分でも予想を遥かに超えた事態になっていた。
おそらくカルディナと出会わず、指定された窓口に行って買い取りをしてもらっても、こんな事にはならなかった筈……いや、なる訳がない。
きっと、『軟鉄』の市場価格程度の値を付けられるだけで、悔しい思いをして、それで終わりなんだろう。
しかし、今は悔しいどころか、嬉しいを超えて、自分でも予想だにしない事が起きている。
そして、
「……それは、お答え出来ません。」
「……そうか。」
「まずは色々試さねばなりません。なんせ、十や二十ではきかない程、応用案がありますし、具体的にどう使う、とはこの場で正確に明言出来ませんわ。」
「……は?!」
明言こそないものの、今までに見た事もない程、嬉々として答えるカルディナに、更に驚くダーヴィズ。
何を考えているか解らないが、既にそこまで考えを巡らせているとは……
「う~ん!もういてもたってもいられません!私は早速家に帰らせて色々試してきます! 納入の日、楽しみにしてますわ。では、ダーヴィズさん、御機嫌よう。」
糸駒の入った袋を両手に、カルディナは意気揚々と店を出ていく。
その後を、フミタンは申し訳なさげに頭を下げ、主の後を追うのであった。
そして後に残されたダーヴィズは、力が抜けたのか、糸が切れた人形のように、ストンと椅子に座った。
「……何だったんだ、いったい。」
まるで嵐の様だ、とは思わない。嵐はあそこまで酷くない。
しかし、唖然としているような言葉とは裏腹に、ダーヴィズの口元は笑っていた。
自分は運がいい。
自分の作品をここまで評価してくれたのは他にいない。
しかも自分の想定を遥かに超えた使い方を考え、実践しようとしている。
まずは、自身に課せられた依頼をやってやろう、そう熱く胸に決めるダーヴィズだった。
……そうして、また自身の運命を悉く変えられた人物が、また一人増えた。
「……あの、お嬢様?」
「ん~、なにかしら~。」
揺れる馬車の帰路、フミタンの心配を余所に、空返事で答えるカルディナは買った『糸』で遊んでいた。
しかも不気味なぐらいに笑顔で。
うねうね、生き物の様に動き回る、大量の『糸』は揺れる馬車の中を半ば占拠しつつ、不気味に蠢いている。それら全てはカルディナの仕業だったりするが……
真正面から見ていたら、それは誰でも不気味がるのは明白だった。
しかもそれを「フミタンも試してみて~、楽しいわよ~。」と勧められたら、どうだろうか?
……クールフェイスも青冷めよう。
それでも尋ねなければならないと思うフミタンは、恐る恐る『糸』を手に取りつつ、カルディナに尋ねた。
「結局、この『糸』は何なのですか? 私には素材が『軟鉄』だという以外は、皆目見当がつかなくて……」
「私も知りませんわ。フミタンと同じく『軟鉄』で出来た『糸』ぐらいの認識ですわ。」
「……え?」
「ただ、この『糸』が今も、私の思い通りに動くのは見ての通り。それに伴って『特性』はある程度掴め始めていますわ。後は帰ってから残りの検証です。もし、私の予想通りの『特性』を持つのであれば……」
「あれば??」
「
(…………まさか、本当に悪魔でも憑いたのでは?)
そう思う程、カルディナ様は上機嫌で、美しく笑っていらっしゃっていました。
後にそう語るフミタンは、その笑みをこの上なく不気味がっていた。
同時に、フミタンはカルディナが初めて、自身の『夢の可能性』を語った事について、今日何度繰り返したかわからない驚きより、更に強い驚きを感じたのだった。
——―そう、遂にカルディナ・ヴァン・アースガルズの『夢』に必要な『後、一歩』、ガオガイガー創造への『夢のピース』が今、ここに揃ったのだった。
《NEXT》
《次回予告》
遂に、『後、一歩』である『軟鉄の糸』を手に入れたカルディナ。
そして始まる『勇者王』創造の刻。
失敗と創造の彼方に、カルディナはいったい何を創るのか?
新たなる瞬間の一ページを刻む時、カルディナは衝撃の告白を放つ!!
次回『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい。』
第4話『勇者王を創る決意。』
次回もこの物語に、ファイナル・フュージョン、承認ッ!!
これが勝利の鍵だ! 『ガオガイガー』
……はい。遅くなってすいません。
書き始めてようやく物語がスタートを切れました。今まではプロローグみたいなものです。(オイ)
というか、この話だけで14000文字弱……
一話創作における自己記録、余裕で突破しました。
しかも前の話と合わせると、2万文字越え……
話、脱線多すぎでは??
と書いている時、自己反省です。
だって、描写を書く時、納得出来ずに訂正してたら、予定していたのと、かなり違うものが出来たという罠(チガウ)
とりあえず、次回からようやくガオガイガー成分が出てきます。
今までを見て、タイトル詐欺と思った方、申し訳ありません。
だいたいこんなノリです。(コラ)
まあ、そのお陰で、勇者ロボあたりの設定が固まってきました。
何より……ガオガイガーの扱いをどうするかも、ね。(意味浅)
では、また。