公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい。   作:和鷹聖

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アシュレー君をお褒めいただきありがとうございます。
オリキャラでここまで受け入れてくれるのはうれしいです。

では、この話は鉄華団のターニングポイントとなる話です。




………かなりの鬱話になります。腹に気合を込めて呼んでください。ご容赦を。


Number.19 ~滅びた世界~

~アルドレイア王国 アスガルド城 王室~

 

 

《先日、そっちの若い衆……いや、()うちの若い衆でもあった鉄華団が持ってきた『R・フレーム』の設計図と実機(ランドマン・ロディ)、確かに受け取った。》

「という事は……」

《ああ、製造支援の件はそちらの条件の通り受ける事にした。》

「ありがとうございます。」

 

通信機を通して、レクシーズは『テイワズ』の王、マクマード・バリストンと対談していた。

対談内容はもちろんRフレームであった。

 

《礼を言うのはこちらだ。まさかあんな強力なモノを頂いたんだ。今、うちの腕利きの奴で慣熟訓練ってやつをしている。》

 

そのメンバーは『テイワズ』の下部組織『タービンズ』の人間───主にアミダ、ラフタ、アジーが務めていた。

この世界ではフリーの魔法使い(ゴーレムライダー)であり、『タービンズ』の護衛主力である彼女らが、カルディナのガイガー(変化前仕様)と同じく『IDメイル』を用いた神経伝達システム搭載のランドマン・ロディを駆ればどうなるか……

 

「アハハ! コイツは傑作だねぇ! デカいのに私の挙動に完璧に付いて来れるなんて!」(ご満悦なアミダ談)

「スッゴい! ビュンビュン速ーい!! ほらほら昭弘、もうワンセット行くよー!!」(模擬戦でハイテンションなラフタ談)

「ッシァッ!! 最高だな!ああ最高だな!!」(ハイテンション過ぎてキャラがビルドの王子様風に変わっちゃったアジー談)

 

前世、モビルスーツの凄腕パイロット達だった彼女らは、今世でゴーレムライダーであっても、その技量は変わりない。そんな彼女らが今回の搭乗により阿頼耶識システムと同義の能力を得た事になる。

 

《結果は上々……いや、それ以上といったところだ。》

「それを聞いて安心しました。」

《しかも解析すりゃ、すぐ応用出来る機体構造じゃねぇか、至れり尽くせりだな……だから、一つ聞きてぇ。》

「何でしょうか?」

《どうして急にあんなモンを創れた??》

 

嬉々としていたところから一転、画面越しににらみを利かせるマクマード。

『オーヴィニエ十字山脈』から『北』の地域は昔より金属素材の産出が『南』より少ないため、即戦力のゴーレムライダー信仰が強く『南』より幻晶騎士(シルエットナイト)の有難味が薄い……というより容易に製造が出来ず、時代の経過と共に『南』より錬金術と精密な鍛冶技術のレベルが低くなってしまった。

そしてどちらも明かす事はないが、どちらの国も密偵を放って探らせて、触り程度の内情は把握している。

『テイワズ』はようやく幻晶騎士(シルエットナイト)の試作機が完成して、現在量産機がある程度揃ってきたところで、『アルドレイア王国』は幻晶騎士(シルエットナイト)の試作機が先日出来上がったばかりだ。

そんなところに()()すら超えた制式機を持って来て今回の話。

そして先日の『ギャラルホルン教皇国』とのドンパチと、謎の怪物という情報。

それらを圧倒した『存在』が創れる程の、常軌を逸した技術スルーが起きた……マクマードはそう睨んでいた。

現に一緒に送られて来たこの通信機もそうだが、本来の過程を通り過ぎた技術スルー、それが技術が劣っていたと思っていた他国から起きたのだ。

そしてマクマードの質問に、レクシーズはある程度の沈黙を待ってから意を決して答えた。

 

「……『願い』だからですね。」

《願い?どういうことだ?》

「恥ずかしい話、私達とて藁をも掴む程に、余裕はないのです。今回の事で他国から攻め入られた事によって我が国の防衛の脆弱さが露呈したのは恥ずべきところ。ですが、そちらも例外ではないはずです。」

《む……》

「突飛した技術力を狙って、かの国は進軍する兆しがある……故により強力であり、操作技術で即応用が効くゴーレムライダーに幻晶騎士(シルエットナイト)で迎撃の用意をする。数に対して質の向上です。ですが、ランドマン・ロディ(あれ)を渡して量産化、また発展した機体が出来るなら、そちらの戦力向上も叶う上に、我が国も戦力の不足分を補える……そう言う事です。」

《それだけじゃあ、こんな事をする理由には足りんよ。》

「ええ、それと『未曾有の危機』に自前で備えて貰いたい、というのもあります。」

《未曾有の……危機??もしやもう一つのやつに書いてあった……眉唾物と思っていたが本当だっとは……ったく誰だ、こんな味な真似をさせたのは?》

「あの娘……カルディナ・ヴァン・アースガルズ公爵令嬢です。」

 

カルディナの名前を聞いたマクマードは、何か思い当たる事があったようで、その事を思い出した後、大笑いして納得した。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

~地下、某所~

 

 

「──はい、出来たわよ。」

 

紫に輝く木目が拡がる地下空間。

その一区画に実験室(ラボラトリー)と思わしき機材が多々ある中、赤い魔女風の機界四天王の一人であるプレザーブと、鳥人間風の機界四天王のピッツォ・ケリー、重厚な全身鎧の機界四天王のポレントスがいた。

プレザーブの手には鳴動するゾンダーメタルがあり、ピッツォ・ケリーに手渡す。

 

「ようやく出来たのですな、新たな改良型ゾンダーメタルが。」

「しかし、一つ加工するのに随分時間が掛かったな。」

「ごめんなさい。でもこれでも前よりは時間短縮したのよ。」

「業腹だな、一つあれば容易く機界昇華が出来るゾンダーメタルが、わざわざ手を加えねば機能しないとは。」

「ゾンダーロボには変化出来るのにねぇ……素粒子Z0を散布するとなるまでに成長しないなんて、『魔力(マナ)の呪縛』は私達の枷ね。」

「しかしそのお陰でゾンダーメタルは嫌という程あります。普通の星であれば、1日待たず機界昇華可能な程は。ようやくこれで、使えないというレッテルを剝がす事が出来ます。」

「改良は進めるわ。私も早く機界昇華が描く世界を見たいもの。」

「その前に……我等の障害となる者共を排除するのが先か。」

「では行って参ります。」

「いってらっしゃい。」

 

その身を翻し、実験室(ラボラトリー)を後にするピッツォ・ケリーとポレントスに、ひらひらと手を振って見送るプレザーブ。

 

「さて……どんな景色を見せてくれるのかしら??」

 

その後ろ姿を赤い魔女は、傍らのゾンダーメタルを片手に眺め、不敵に笑うのだった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

~ギャラルホルン教皇国 某所~

 

 

「──貴殿方に、『聖女』の()()をしてもらいたいのです。」

「し、しかし、それは……!!」

「……やれやれ、いけませんねぇ。コーラル()()()()、貴殿らの失態を返上する良い機会と思いましたが……他の部隊に頼みま──」

「わ、わかりました!ぜひやらせて頂きます!」

「フフそうですか、それは重畳。何、心配ありません。秘策はちゃんと用意してあります。フフフ……」

 

そしてギャラルホルンも、汚名を返上をすべく、暗躍を始めるのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

オルガ達、鉄華団がテイワズより帰って来た。

そしてカルディナに用事があると『お嬢様の工房(アトリエ)』に足を運んだのだが……

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァーーー!!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァーーー!!!」

「ドラララララララララララララララララララララララララァァァーーー!!!」

「──WAAAAAAAANNABEEEEEEEEEE!!!」

 

「……何の騒ぎだ??」

「あら、お帰り。」

「お帰りなさいませ、オルガ様。」

 

騒ぎはいつもの事、と思っていたオルガだが、ジョ◯ョのキャラが介入してきたと思わしき掛け声が響き、「テメェは俺を怒らせた」まがいの事が起きていたのには驚く。

 

特に「無駄無駄ぁ!」の声がアニメ版(CV:子◯)ではなく、OVA版(CV:田中◯夫)の声なあたり、ロードローラーではなく、タンクローリーを堕としそうな勢いだが、開かれたESウインドウの彼方で「タンクローリーだッ!!」と爆発が起きたあたりで察して欲しい。

よく見ると、その全員が作業員として働く天使、悪魔達(全員人間形態)であり、怒りの形相で拳を振るう全員が、とある人物を取り囲み、一糸乱れない連携で代わる代わるその人物をボコボコにしているあたり、殺意が半端ない。

 

ただしESウインドウから帰って来た人物が焦げ付きアフロ済んだ程度で、ニヤリと笑ったので遠慮なく再開される。

 

そんな混迷にカオス染みた場にいたカルディナとフミタンが傍観に徹しているあたり、込み入った状況らしいが……

 

「テイワズまでご苦労様、オルガ。」

「どうって事ねぇよ。今回はロディと装甲牽引車(ギャリッジ)使えたからいつもより早いぐらいだからいいとして……何だよこの状況。」

「ああ……あれね。実は()()が原因なのよ。」

「あれって……何だ、ありゃ

 

カルディナの視線の先にあるハンガーに鎮座しているのは、1体のGフレーム───ガンダム・バルバトス、しかも面構えは一番記憶に新しいバルバトス『ルプスレクス』──

 

──ただし、顔から下は違った。

 

白を基調とし、オレンジをワンポイントとする、横に長く、強力なスラスターを兼ねたアーマーが両肩に装備されており、その下に下がる両腕は、本来のバルバトスルプスレクスの腕と、巨大で強靭な鳥足を模倣したような一対の腕。

背部にはビームキャノンを兼ね備えた頭部(?)の基部には大型の『エイハブ・リアクター』をバックパック兼サブ動力にしたものが備わっており、その両側にはバルバトスルプスレクスの『テイルブレード』と、凶悪な刃のデザインの『ワイヤーブレード』が対の羽のように広がっている。

 

……ここまで言えばお解り頂けるだろう。

 

「……俺の目に狂いがなければ、あのMA(ハシュマル)がサイズダウンして、バルバトスと合体事故を起こしたようなモノになってんだが……」

「大丈夫よ、私にもそう見えてるから。」

「……どんな悪い夢だ。」

 

残念ながら現実であった。

基礎(バルバトス)には大きく手は加えられていないが、天使(ハシュマル)合体事故(どうしてこうなった的な)モノに仕上がっている。

 

「誰が設計しやがった??こんなのはっきり言わなくても、重そうだしバランスが悪すぎる。ミカが好んで使う仕様じゃねぇ。これは……」

「背部のブレード2基はいい及第点ですが、ビームキャノンは重そうだし、こんな複腕は落第ですわ。補助腕(サブアーム)で充分。これは……」

 

「「──チェンジで。」」

「酷ッ!!せっかく開発したのni,a,yame,time──!!」

 

お嬢様とオルガのチェンジ申告に、ボコられている人物はツッコんで来た。

余程余裕があるといえる。

 

 

「……って言うか、何でこうなってんだ!?」

「それがねぇ……」

 

事はゾンダー襲撃後、直後に遡る。

元々バルバトスは製造計画にあり、Gフレームの第1号機として開発される予定で、その頃にはフレームは既に出来上がっているものを流用、残りは外装フレームを残すのみだった。

その頃、とある設計技師(天使)が『とある設計図』を提出していたのだった。

ただし、それを受理するカルディナは床に臥せており、一昨日までは何のアクションもなく、その頃には他の技師達により、魔術仕様の『ガンダム・バルバトスルプスレクス』は完成した。

そして昨日。

カインとアベルが工期短縮のために開発した『物質瞬間創造高速移送艦サクヤ』が完成、試運転の為に何かと思慮していた時、その設計技師が立候補。

しかもカルディナに許可は貰っている、という(てい)を取って。

その事もあり、多量の資材を元に量子創造により、それ──サイズダウンされたモビルアーマー・ハシュマルは完成。

支援・合体メカとして。

ついでにプルーマも2機、サイズダウンとデフォルメした姿でちゃっかりいる。

 

そして今日、出来上がったハシュマルをバルバトスルプスレクスに組み込んだ設計技師(天使)は、他の作業員にその意図を見抜かれ、ギルティ判定。集団リンチを受ける(見事ボコられる)結果となり……

 

「……今に至るって訳。ちなみにその設計技師(天使)が言うには……」

 

『バルバトスルプスが開発されるなら、ハシュマルも開発されるべき……ううん、合体は運命よーー!!』

『フザケルナ!!ソンナ横暴ガアッテタマルカ!!』

『俺モ我慢シテイタンダゾ!!ソレヲ貴様ァァァーー!!』

『そうです!そんな方法があるなら私も──!!』

 

「──なるほど、全く理解出来ん。」

「随分血迷っていますね。」

 

その設計技師(天使)の気持ちも、他の作業員の気持ちも。

サイズダウンしたハシュマルなら、支援メカぐらいにはなる……という妄想をした御仁はいるだろうが、ガチにやらかしたのが、今回の顛末である。

 

ちなみに、試作を許可したアベルさんにはサイズダウンした反中間子砲とメーザー砲の設計、カインさんには同じくサイズダウンしたゴルディオンネイルの設計を進行中の作業と同時並行の刑に処した。

 

そんな時、後ろの扉から三日月がやって来た。更にその両隣には三日月にベタベタなアトラと、クーデリアの姿もあった。

 

アトラはアースガルズ商会が経営する食堂の1つから引き抜いており、カルディナの教育の下、現在は食品開発主任兼鉄鋼桜華試験団の炊事係をしている。

 

また、クーデリアは幼少にアースガルズ公爵家に養女として引き取られ、現在は『クーデリア・A・アースガルズ』を名乗っている、カルディナの()である。昨日魔法学園から戻ってきたばかりで、姉のカルディナには号泣してその身を案じていた。

ちなみに養女といえど、家族や周りの者達からは溺愛されている。

 

尚、2人は記憶を取り戻していないが、前世以上にベタベタな経緯は各々省略する。

端的に三日月がよくあるテンプレ展開でそれぞれ2人を危機から助けたから、と言っておく。

また、周りから嫉妬の念はなく、むしろ「ようやくくっついたか」「末永く爆発しろ」「あの二人の無茶振りから解放された」「さすミカ」等の言葉が送られ、皆から祝福され、カルディナパパ(クリストファー)からは「うちの娘に手を出すたァ、覚悟しているだろうな……」的オーラを出され、オルガからは「……この件は俺が手伝っちゃダメな奴」と投げられて、お嬢様からは女心をレクチャーされフォローを受けつつ、四苦八苦中。

逃げ場はない。

 

そんなラブ全開な2人に戸惑いながらも、今日も黙々とナツメヤシを食べる三日月だが、合体事故バルバトスを目にした瞬間、持っていたナツメヤシを落としてしまう程に思考が停止。

 

「──チェンジ」

「No!!」

 

正規パイロットにもチェンジ申告される始末。

 

「ちょ……『マル』ちゃん!?どうしたの!」

 

そんな中、アトラがボコられていた設計技師(天使)に駆け寄るが途中で作業員(悪魔)達に行く手を止められた。

 

「ひどい、どうしてこんな事を……え?『横領した資材でMA(あれ)を造った』?『お嬢様には無許可』?『本人はやり切ったって自慢』……『マル』ちゃん、本当に??」

「Yesッ!!」

「うん、アウト。」

 

次第に冷め往く瞳の満面の笑みで再開許可。たまに食堂を手伝ってくれる『マル』ちゃんとて、アトラさん的にも横領はアウトです。(お嬢様の教育の賜物)

「あ、やっぱり今の発言ナシで!」とか言いたそうだったが構わずに第三ラウンドの鐘が鳴る。

そして最後に、カルディナの横にいつの間にか一人の作業員(悪魔)が佇んでいた。

 

「……オ嬢様。」

「何かしら。」

「“くーりんぐ・おふ”ノ申請ヲ。」

「受理します。」

「いやァァァーー!!何DEおごごごごgogogo……!」

 

止めは何処で覚えたのか、クーリングオフ申請。ボコられている人物は再度ツッコんで来た。

随分、余裕がある。

 

《ミカヅキ……》

「あ……何?」

《済スマナカッタ。スグニ我ヲ、直ス。》

「あ、うん……」

 

その声は性別の判断出来ない、機械音声のような響きをしており、顔も仮面を被っているためよくわからないが、少し気を使うようにも感じた。

そしてバルバトス(機体)の元にその作業員(悪魔)歩いて行く。

 

「……あいつ、誰??」

「あら、気付かない?バルバトスよ。」

「……バルバトスだ??」

「バルバトス……ああ、そういえばそんな感じが……」

「気付いてあげなさいよ、気付かれなくって寂しがってたわよ。あ、そうだ三日月。せっかくだからあのハシュマル引っぺがす前に、稼働データ取っておいて。せっかくあるんだし。」

「え、ヤダ。」

「お嬢様命令よ……オルガ。」

「はぁ……ミカ、やってやれ。すぐ終わる……と思う。」

「……わかった。」

 

オルガの命令なら仕方ない、という態度で三日月はパイロットスーツを着に来た路を戻る事に。

また、その命令を耳にした作業員(バルバトス)は驚愕し落胆、他の作業員達もショックを受け、当の設計技師(天使)は『ヨッシャァァァーー!!』と歓喜の咆哮をあげた。

 

「あとで解体処理するにしても、せっかく実機があるなら動かさないと勿体無いわ。そうね……登録名称は『ガンダム・バルバトスルプス Ver.H(仮称)』で。」

「『ルプスレクス』じゃねえんだな。」

「本来はそうだけど……この国じゃ『レクス』の名称はレクシーズ陛下に名前が掛かるからダメなのよ。それに、一度ケチが付いた機体名称じゃ、ゲンが悪いじゃない。」

「ああ、確かに。」

 

前世、ギャラルホルンに負けた時の名称『ルプスレクス(狼の王)』は北欧神話ではフェンリルを意味する。

ギャラルホルンの笛が告げるラグナロクの最後に、フェンリルはオーディーンの息子、ヴィーザルに討伐されている。

これからギャラルホルンを相手取ると予想される現状、流石に少々縁起が悪く、今後運用するにしてもゲン担ぎには良くない。

それらの事を思い出したオルガはその提案に異議はなかった。

 

ちなみに『Ver.H』は『(アッシュ)』の略である。

ハシュマルであってほしいと願うのはごく一部だが、その願いは無意味だ。

 

「……はあ、またやる事案が増えましたわ。」

 

そんな精神的疲労が溜まるカルディナに、クーデリアは心配そうに声を掛ける。

 

「……お姉さま、一段落ついたと伺っていましたが、またお忙しそうですね。」

「仕方ないわ。ゾンダーの出現が予想を遥かに超えて早かったんですもの。急ピッチでいろんな作業が同時進行よ。」

 

カルディナの言葉は誇張ではない。

現在、ギャレオンの2号機、3号機と、GフレームとRフレームが全て同時進行で組み上げられている。

特に即応体制が充実しているRフレームに関しては外装(アウタースキン)作成にAZ-Mコピーされた『サクヤ』が増殖してがフル稼働中で、《付与魔法》作業も人手不足になっている。

また、現行配備されているランドマン・ロディには、ゾンダー対策として動力炉としている魔力転換炉(エーテルリアクタ)には後付けで装着出来るGストーンが装備されており、Gドライブ機構と合わせて順調に量産されている。正式名称『GSライド式魔力転換炉(エーテルリアクタ)』──略称『GS転換炉(リアクター)』。魔力(マナ)とGストーンの相互作用を元に開発された動力炉である。

ただ、『GS転換炉(リアクター)』の最終調整は、現在カルディナしか出来ないので、カルディナ自身も非常に多忙を極める。

今後はV・Cやカイン、アベルあたりに調整出来るよう移行予定でもある。

 

そして商会や学園通い等、普段のサイクルもあるので、カルディナのスケジュールは真っ黒だ。

 

「バルバトス用のGSツイン・リアクターも専用調整して稼働出来るように設置出来たけど、Gストーンとの調整が難航してて、これからバルバトス用のGストーンの調整をしに行ってくるけど……」

《──大変だよ、お嬢!!》

「どうしたの、ヴィトー!?」

《銀鳳騎士団のエルネスティさんが、イカルガの魔力転換炉(エーテルリアクタ)にGストーンの装着作業をもう始めちゃって……!!》

「あんのガキァァァーー!!不容易に付けたら銀線繊維(シルバーナーヴ)が焼き切れるって説明してた矢先に!!」

 

ちなみにカルディナがここにいるのは、先の騒動の報告を受けて来たのであって、元々はツイン・リアクターの調整をイカルガの魔力転換炉(エーテルリアクタ)で実験していた。

ただし発案、立候補はエルネスティ。

一旦ストップをかけていたが待ちきれなかったようだ。

独断専行するエルネスティを止めに走るカルディナであったが、一歩も二歩も遅く、僅かな吸気圧縮で魔力(マナ)とGストーンの相互作用によりエネルギー過多になった銀線繊維(シルバーナーヴ)が焼き切れ、ついでにイカルガの魔力転換炉(エーテルリアクタ)もショートを起こして機能不全という惨事を起こしたのであった。

ちなみに本来は中型炉(クイーンズ・コロネット)のみの予定だったものを大型炉(ベヘモス・ハート)にまで付けてしまったという、エルネスティの自業自得なのを記載しておく。

 

そんな状況すら苦笑いで済ませられる現状に、オルガは呆れつつも合体事故バルバトスのデータ取りの準備をする。

その時、ふと思った。

 

(まあ、何もなきゃクーデリアもアトラも三日月にくっ付いていた可能性は充分にあったしな……でもやっぱ前世の事があるから、あのクーデリアの『お姉様』呼びが違和感あんな。そういや、あの悪魔(バルバトス)……ミカを知っているような……いや、ただ知ってるって訳じゃなく、気にかけているような……もっと前から知ってるような……まさか、前世のバルバトスのシステムとかが、もしくはバルバトスというモビルスーツがあの悪魔、とか云うんじゃないだろうし……他の悪魔もそうじゃないのか?グシオンとかフラウロスとか……あの設計技師(天使)も『ハシュマル』って天使名だし、他にも同じような名前の奴とかいるし……前世の奴らがそのまま来たとか、まさか、な……)

 

前世の世界と今の世界の共通点。

ある意味、天使や悪魔の名が共通して存在する──『共通概念』があるのはある意味お約束とカルディナから学び、資料も色々目を通した。

故に、色々勘ぐるように思うのは自身の思考がお嬢(カルディナ)に似て来た、と思うオルガ。

 

「───ん?、そうだけど……」

 

そんな疑問を粉砕されたのは、応急処置にAZ-Mと精霊銀(ミスリル)血液晶(エリキシル)をイカルガに大量投入して火消しをした後、術式処理限界(オーバーワーク)で倒れたエルネスティを介抱して疲れた、心労絶えないカルディナの何気無い返事であった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

~『お嬢様の工房(アトリエ)』 第一医務室~

 

 

「───で、お嬢が言うにはよ……」

 

『私だって、元から確信あって狙って集めた訳じゃないのよ。偶然よ偶然。ただヘルアンドヘブンの再現に天使と悪魔が必要なだけで、当初はサタンとラファエルの2人しかいなかったし。そこから学園生活中にあれやこれやと集まって……その中に貴方達も知っている悪魔達も来たって訳。その悪魔達の有志から、Gフレームの建造計画を持ち込まれて、私は了承したの。時期的には商会を経営し始めて1年後……ガオガイガーの設計図がもう少しで完成、ってところで、貴方達の記憶が戻る前の事ね。ただ、理由に関しては語ってくれなかったわ。話せる時が来るまで待ってほしいって……もしかして聞いてない??』

 

「……だとよ。」

「マジか。」

「マジだ。」

「んで、その事情を説明する悪魔ってのは何処よ?」

「後で来るってよ。」

 

その日の正午過ぎ。

グレーどころか真っ黒な回答に頭を悩ませる鉄華団一同……といっても参加出来たのはオルガ、ビスケット、ユージン、昭弘、シノ、タカキ、ヤマギ、チャド、ダンテ、それと偶然居合わせたムルである。

ちなみに三日月はこの場にはいない。昨日の起動実験の後で起きた体調不良をカルディナに相談していたのだが……

 

「……何か違和感がある。両手がふわふわ?モヤモヤ?ぐるぐる??」

「その症状だと、天使と悪魔と一緒に……よく無事だったわね。」

 

と三日月の両手を触った瞬間、ビクッと身体が跳ね上がり、そして気絶したのだ。

幸い意識こそあるが、倦怠感が酷いらしい。

お陰でエルネスティと隣のベッドに寝ている。

 

「起動実験前にあの設計技師(天使)が無理矢理乗り込んで来たの見たぜ。作業員(バルバトス)も一緒に乗り込んでたからか?」

「らしい。問題ないって判断したのが不味かったな。それでアレの解体作業は明日するってよ。」

「てんやわんやだったね。試験起動中は三日月も『重い、動かない、だるい』って言ってたし。」

「どうやってあのゴッツイ複腕を……まあ、ブンブン動かしていたけどよ」

「テイルブレードとワイヤーブレードの組み合わせ……あの斬撃に対峙しろとか無理。」

「スラスター任せのマニューバ軌道……あれのどこが重いってんだ。空飛んだ挙げ句にすげえジグザク軌道だぞ?」

「ビーム兵器………じゃなく荷電粒子砲か?ナノラミネートアーマー製のシールドがメチャメチャ削れてた。『エイハブ粒子砲』とか、どんな冗談だ。」

「つーか、プルーマ……だったか?起動実験中『うぇ~い!』ってしてたけど、何だありゃ?」

 

───閑話休題。

 

「でも団長も珍しい事言うね。」

「まあ俺も……らしくねぇ事を言ってんのは承知してるし、無理にとは言わねぇ……けど、同じ仲間が『仲間の事を知らねぇ』っていうのがどうも寂しくてよ……」

「……寂しい、か。確かにな。」

「済まないな、団長。俺達のために。」

「そう言うな。半ば俺の我が儘みたいなもんだ。」

 

そう言うのはチャドにダンテ。

現在、主要メンバーの中でこの2人が未だに記憶を取り戻していない。

前世の事を交えて会話をするとどうしても噛み合わなかったり、「え?そうなの?」と齟齬が生じる事があり、過去映像(アニメーション)を見せてもいまいち実感が湧かないらしい。

以前までは生きていれば、と思っていただけだったが、今の生活はそれなりに余裕がある。

余裕がある故に、それでも足りないものを補おうと『欲』をかいてしまう。

 

「あー……そういうのお嬢が言ってたな、『当然の反応でしょ。』って。」

「失ったものを取り戻す……いいじゃねぇか。戻りゃ儲けもんだし、失敗しても今より失うモノはないんだからよ。」

「……ありがとよ。」

 

他の団員達もオルガ同様に異存は無かった。

その事に心に温かいものを感じたオルガ。

 

(え~……でもそんな場に、僕は邪魔ものなんじゃ……)

 

あんまり関係なかったルムは出来れば遠慮したかったが、団長命令なら従うしかなかった。

 

「で、具体的にはどうするの?もう俺達だけじゃ八方塞がりだけど……」

「ああ、その通りだ。残念だが俺達じゃもう打つ手はねぇ……しかしだ。幸いにも俺達にゃ、非常に頼れる存在がいる。そんでお嬢の許可も間違いなく取った。」

「それじゃあ……」

「ああ、心置きなく頼めるって訳だ。」

 

「「「「──という訳で、V・C先生、お願いします!!」」」」

 

「…………」

 

しかし、肝心のV・C(サクヤ・白衣形態)はカルテとにらめっこしていて、彼らの声には一切反応しなかった。

新調した仮面(映像が流れる傑作)を着けており、ここに来る前には「おっまかせあれ♪」というノリであったのだが、その仮面は真っ黒で、何も映してはいない。

 

(……あれ? V・Cってこういう時はノリノリでのってくれるよね?)

(ああ、よいしょするつもりで話を進めたんだが……)

「──聞こえてますよ。」

「あ、ハイ。」

 

団員達の小声にも容赦なく反応するV・C。

AI特有の単調さも、普段のお調子者感も一切ない。

そして静寂の中のV・Cが口を開いた。

 

「……おかしいですね。」

「……何が??」

「チャドさんとダンテさんの脳内の特定の電気信号が記憶領域にある『海馬』ではなく、未使用の『サイレントエリア』にいくらか流れている傾向にあります。」

「……どういう事??」

「簡単に言うなら『頭の中の使われていないエリアに、使われている不自然なエリアが存在する』と言ったところですね。皆さんも普段使われていない作業区域があれば不審に思いますよね?」

「そうだな。」

「それと一緒です。三重連太陽系では人間の脳の使用領域というのはほぼ一緒、という結論が出ています。ですが、それとはまったく別の領域が使用されているのは不自然です。ちなみに、これと同じ症状の方は鉄鋼桜華試験団に後、数人います。」

「マジか。」

「はい。それ故、深い記憶読み取り(メモリーリーディング)を使用した場合……かなりの負荷がチャドさん、ダンテさんに掛かると予想されます。過去のデータからも、こんな状況はロクな事が起きない、と示唆されます。」

「……具体的には?」

「無処置なら、滅茶苦茶に苦しんだ挙句に絶命するかと。」

 

まさかの絶命宣告に絶句する一同。

しかしV・Cは一切冗談を挟んでいる様子はない。

 

「どうして……そんなに状態なってんだ?」

「過去に、極限までストレスが掛かる状態があったのでしょう。それはもう……死ぬより更に強い絶望が。それに対して脳が自己防衛の為に情報をシャットアウト───忘却状態にしているのです。」

「……何とか、なんねぇのか?」

()()()()()()をどうにかしないと無理です。しかし、誤魔化す程度なら鎮静剤使用と身体拘束を許可して頂けるなら……あと用心のために『パレッス粒子』を使用する準備をします。」

「パレッス粒子……」

「一番後腐れがない物質ですからね。」

 

パレッス粒子。

『Final』において、ソール11遊星主の1人、パルパレーパがGGGに使用した、極度のストレス緩和、リラックス状態に導く物質である。

ただし、後遺症も依存性もない。ストレス解消に関してはピッタリな粒子である。

 

「……わかった、V・C頼むよ。」

「俺もだ。」

「いいのか、2人とも? 言い出した俺が言うのも何だが、滅茶苦茶危険なんだが……」

「いいや。そんな状態だから、むしろ安心したよ。俺達は繋がってたって。」

「ああ。みんなと話をする度に、同じ団員なのに仲間外れになってるような気がしてな……」

「チャド、ダンテ……」

「それに一回我慢すりゃ思い出せるんだろ?」

「そうそう。まあ、もしかしたら情けない面になるかも知れねぇけど、その時は笑わないでくれよ?」

「……悪ィな、2人とも。」

 

2人の決意に嬉しくもあり、それ以上に申し訳ないとオルガや他の団員達も感じた。

 

それからチャドとダンテをベッドに、AZ-Mによる身体拘束の後、薬物による暗示状態を行ったV・C。

2人が身に付けたヘッドギアより伸びるケーブルをモニターに差し込んだ後、バイタルサインのモニターが作動。2人のバイタルが「ピッ、ピッ、ピッ──」と機械音が緩やかに鳴り始める。

全ての準備が出来た後、シノがV・Cに尋ねる。

 

「……んで、どうやって記憶を取り戻すんだ?」

「一番メジャーなのは『リフレイン療法』ですね。過去の映像を投影する事で、思い出させるのです。」

「なるほど。」

 

しかしそれはアニメーションを見せた時と似たような反応で、時折反応はするが、投影中はあまり目新しい反応はなかった。

 

「……駄目か。」

「仕方ありません、根気強く続けましょう。」

「………」

「……ん? どうした、ビスケット。」

「あ、ああ、ユージン。ちょっと考え事。何でチャドとダンテなんだろうって。」

「どういう事だ?」

「いや……俺は最初の方で死んだから仕方ないと思ったんだけど、チャドとダンテって、ギャラルホルンとの決戦後も生き延びてたんだよね?」

「ああ、確か保育士してたような……まあ、ぶっちゃけ死んじゃいねぇな。」

「あとライドとか、アトラ、クーデリアさんもそう───そのみんなの共通事項って『映像(アニメーション)』の中じゃ『死んでない』んだよね。」

「言われてみりゃ、確かに。」

「って事は、ギャラルホルンとやり合って、そのいくらか後にもの凄ぇ怖い『何か』が起きた……つー事か。」

「……V・C、そこの記憶を探れないか?」

「やってみましょう……ん、これは──」

「早ッ!? もう解ったのか!」

 

その時、チャドとダンテをモニターしていたバイタルサインが正常値から跳ね上がり、機械音が速く鳴る。

 

「な、何だ!?」

「2人が緊張状態になってるんだ。相当不味い記憶なのか?」

「……メモリージング、映像化終了。モニターに出しますが、相当ショッキングですよ。良いですか?」

「……頼む。」

 

冗談を言わないV・Cが告げた後、その映像がモニターに映る。

そこには───

 

 

「お、おいおい、嘘だろ……!?」

「そんな、こんなに……!?」

「……まさか、他にも生き残りがいやがったのか!!」

 

 

《な、何だありゃ!?》

《嘘だろ……モビルアーマーの、大群!?》

 

チャドとダンテが驚愕する声が響くモニターには、ハシュマルタイプのモビルアーマーが火星の空を埋め尽くしていた。

そしその中央には見た事もない大型モビルアーマーのような物体が多種多様に宙に浮かんでいる。

例えるならハシュマルが進化・発展したようなデザインであるが、もしこの場にカルディナがいたら、そのデザインラインがネオ・ジオン系列のα-アジールやβ-アジール、ϝ(ディガンマ)-アジールに類似している事に頭を抱えただろう。

更に地を這うように進軍するのはシャンブロにした大型クローを持つモビルアーマーの大群……それが壁を作るように横に拡がり迫り来る。

 

だがそれはまだ序の口。

 

本命はその最奥に浮揚する、それすら越えた()大型モビルアーマー。

こちらは全くの未確認物体だが例えるなら巨大ながらも『植物の種』と思わしきもの。不格好な『首無しアプサラス』といったところだ。

そこから砂粒のように排出される従属機(プルーマ)が、次々に地上に降り立つ。

あまりにも不気味な機械の大群体。

 

そしてそれらが備えるモノアイが、不気味な光を放った時、眩い光と共に始まったモビルアーマー全機によるビーム兵器の一斉掃射。

次々に放たれる強力なビーム兵器が火星の街を、人を、土地を、空を瞬く間に焼いていく。

 

モビルアーマーの大群体を目にしていたチャド達は、逃げようとした瞬間に爆発の余波に巻き込まれ、画面はその視点を大きく乱しながら、止まる。恐らく身体がどこかで止まったのだろう。

聞こえるうめき声からかなりのダメージを受けたはず。

 

《───……アトラ、……は?………キは?》

《……? ……ツキ…? お願い、返事して……!》

《……やべぇ。今日は…アトラとクーデリアが、来てるんだった…。ダンテ……動けるか?》

《悪ィ……脚がやられて、簡単にゃ動けねぇ……》

 

だが、攻撃の手は休まっていない。

 

視界に映るモビルアーマーの攻撃は特に人口密集地を執拗にターゲットにし、隠れていようが感知し、建物ごと焼かれる。ビーム兵器による熱波は建物や少ない自然を焼き、生存圏を根絶していく。

圧倒的な力に蹂躙され、まったく抵抗出来ない人類。

蹂躙劇が始まった30分後、ギャラルホルン火星支部『アーレス』よりモビルスーツ部隊が降下してきた。

しかし、彼らは火星の地を踏む前に迎撃される。

1つはハシュマル・タイプのワイヤーブレードで切り刻まれ、1つは多方向からのビーム兵器の直撃にパイロットが蒸し焼きにされ、また1つは降下直前にϝ(ディガンマ)-アジールのファンネル・ハンド(巨大な掌)で握り潰れる。残り僅かな腕利きでさえもプルーマの奇襲に堕ちた。

地上からモビルワーカーで迎撃する勢力もあったが、ビーム兵器の前には藻屑に消え、運悪く射線上にあった『アーレス』も幾重のビームに撃ち抜かれ、大気圏に突入した後、地上に堕ちて重大な被害を火星に与えた。

今いる場所に攻撃が来ないだけが幸運だった。

 

その時であった。

 

別方向からやって来た幾つかのハシュマルと、ガンダムフレームと思わしきモビルスーツ数機が大気圏突入し共撃、大軍を攻撃し始めたのだ。

オルガ達も知らない、未知のガンダムフレームは敵対する大多数のハシュマルを葬り、アジール系のモビルアーマーを砕く。共戦するハシュマルはそれを援護するように立ち回る。

それが何を意味するかは解らない。

だが、確実に圧しているのは間違いない。

 

だが、それまでだった。

 

皮切りは『種』の躯体が突如として四方に割れた時だった。

躯体の最奥にあった妖しく輝くクリスタル体、そこから突如紫の木肌をした触手が伸び、周りのハシュマル・タイプを貫き、取り込んでいった。更にクリスタル体は光を増し、四方に割れた隙間から無秩序に触手が伸び、瞬く間に鉄で出来た巨大な樹木と変化していく。

更に驚くべきはその樹木に次々とプルーマが取り付き吸収され、放電現象が発生。急激に()()()()()()()()()()()()が生え、樹木の全周囲に展開、撃ち出される。

緊急回避したガンダムフレーム、ハシュマルであったが、内ガンダムフレーム一機に被弾。

苦しみながら倒れる……と思いきや、楔は一瞬にして無くなり、今度は仲間のガンダムフレームに襲い掛かった。

明らかに動揺するガンダムフレームだが、コックピットに一撃を入れ、倒───した筈だった。

 

《───ゾンダー!!!》

《!?》

 

間違いなくそう叫んだガンダムフレームは()()()()()()()を備える化け物じみた顔に変貌、一撃を入れたガンダムフレームに抱きかかり、侵食を始めた。

そればかりではなく、巨大な楔が刺さった個所から同様の現象が広がり、近くにあったモビルアーマーの残骸を取り込んでは変貌を遂げ、襲い掛かっている。

また、残存するモビルアーマーも胴体、頭部それぞれにゾンダーメタルを備え、ゾンダーロボとなり果てた。

そこから戦線が瓦解。介入してきたガンダムフレームとハシュマルは全滅、ゾンダーに変わり果てた大群に取り込まれ、人類に味方するモノは遂にいなくなった。

 

そこからは格段に早かった。

巨大な楔(ゾンダー胞子)が侵食した場所は無機物、有機物問わず朽ちた鋼のようになり変わり、ゾンダー化した存在は鉄の樹木(ゾンダープラント)に変貌、取り込んだエイハブ・リアクターのエネルギーを使い、ゾンダー胞子を精製、発射。それの繰り返しであった。その間に巻き込まれた人々は全てゾンダー人間と化し、不気味な声を上げては機械に寄生、破壊活動を繰り返し、またゾンダー人間が増えて行く。

着実に創り替えられていく火星の大地。確実に『機界昇華』が進む、その一部始終をまじまじとただ黙って見せつけられているチャド、ダンテの2人。

横目には映っていたが、そこにある見たくない(アトラ、クーデリア、……が息絶えた)光景が……

 

《……なんだよ、これ。この世の終わりか……》

《ふざけんな……最後に見る光景が……こんなんだなんて……団長に……合わせる顔が、ねぇ……》

《けどよ……お前らの事は……覚えた。次遭う時は、必ず───!》

 

瀕死の中、怒りを力に変えるように絞り出した言葉。しかし、その言葉を遮るように、ゾンダー胞子がその場に突き刺さり、以降の映像は乱れた───

 

「───うぐぉおおおぉぉぉぉーーー!?!?」

「あぐぐぐぐぅぅぅぅーーー!?!?」

 

拘束されたチャド、ダンテが急に苦しみだし、バイタルサインも異常な数値に跳ね上がり、完全な異常を見せる。

 

「お、おい!チャド、ダンテ!?」

「V・C!早く鎮静剤を………!!」

「やっています!! でもドーパミンの異常分泌……『サイレントエリア』が異常活性!? パレッス粒子も効かないなんて……!!」

「何だよ、それ!?」

 

非常手段のパレッス粒子すら効かない状態になってしまった。

これではV・Cが当初述べていた状況に陥る───誰もがそう思った、その時だった。

 

「───テンペルム」

 

「!?」

「!!」

 

「ムンドゥース インンフィニ トゥーム レディーレ !!」

 

ムルが『浄解モード』を発動、チャド、ダンテに『浄解』を行う。

『浄解』の赤い光が2人を包むと、徐々に表情と、バイタルサインが和らいでいく。

そして安らかに気を失った2人を確認するムルは『浄解モード』を解く。

 

「……バイタルサイン、サイレントエリア、活性正常内に安定。」

「……ふぅ。どうやら直感が当たったみたいだ。」

「直感?」

「2人が苦しみだした時、何故かゾンダーの気配がして……その後は身体が動いていた。」

「ゾンダー!? まさか、これは……脳波がゾンダー化する状態と一致しています。推測するなら死して尚、ゾンダー化して浄解を受けられなかった者は、サイレントエリアにその後遺症を持たされている……!? 電界情報が、書き換えられたのですね……だからッ……! ストレス発散用のデバイスが、聞いて呆れる……」

「お、おい、V・C?」

「すみません、取り乱しました。ですが心配する状況はムルさんのお陰で脱しました。ありがとうございます。」

「あ、ああ。でも……」

 

これで万事解決、とはいかない空気に、ムルは戸惑う。

恐る恐るオルガや他の団員を見ると、鬼気迫るという言葉が当てはまる形相をしていた。

怒り、悔しさ、憎しみ……すべてがぐるぐると周り、歯を食いしばり、それでもやりきれない。

そしてぐちゃぐちゃになった感情を吐き出すように、オルガは叫んだ。

 

「……どうして、だ。どうして奴ら(ゾンダー)が火星にいる!? しかも俺達が住んでいたあの火星に、だ!? 関係ないだろ!! 世界も、次元って奴も、なのにどうして存在していやがる!? しかも、俺達が死んでまで守った奴らが、ああも簡単に……みんな生きてたんだぞ……火星だってこれから発展していくってのに、みんな……生きてんのに、人として死ねねぇモンになっちまって……どうしてだァァァーー!!!」

 

その叫びは他の団員の心情を全て物語っていた。それでも、叫ぶ程虚しくなる。

乱れた息を整え、冷静さを取り戻したオルガは、誰もいない壁に向かって叫ぶ。

 

「おい、悪魔! いるんだろう、出てこい!!」

 

その声に応じて出てきたのは黒いもやを纏う漆黒の面の存在だが、オルガには雰囲気で誰かと判った。

 

「……んで()()()()()、これが俺達に見せたかった事か?」

《肯定。我等ガ居タ、カツテノ世界ノ顛末ヲ伝エタカッタ……中途半端ナ説明デハ誤解ヲ生ムト判断シタ。》

「ああそうかい……。色々言いたいことはあるが、まず一番聞きたいのは……お前らは火星にいた奴らと同一かって事だ。」

《肯定。》

「……やっぱりか。薄々感づいてはいたけどよ、本当に当たるたぁな……」

 

当ってほしくない予想が当たった事に、頭を悩ますオルガ。他の団員もその告白を聞かされ、動揺する。

 

「んで、何であの世界にゾンダーがいやがんだ?」

《詳細ハ我等ニモ不明。ぞんだーハ高度ナ機械文明ヲ探索シナガラ、機界昇華ヲ行ウ。オソラク一番ノ因子タルハ『エイハブ・リアクター』ダロウ。アノ粒子ハ次元ノ壁ヲ否応ナシニ叩ク。ソノタメニ次元転移スラ行ッタ、ト推測スル。ソレガ、アノ顛末ダ。》

「エイハブ・リアクターにそんな機能…いや性質かな? そんなのがあったなんて……」

「それだけじゃあ納得いかねぇ……と言いたいが、敵さんの意向なんざ知ったこっちゃねぇ。現に、火星は襲われた、それが事実って事か。」

《ダガ、次元転移シタ過程、経路ハ、アル程度推測出来ル。》

「何……??」

《ソシテ間接的ニダガ、ソノ原因ヲ作ッタノハ……我々、ダ。》

「何だと!?どういうことだ!?」

《ソレハ我々……》

 

───ガタッ

 

その時、ドアの隙間から倒れ込むような物音がした。

バルバトスの言葉は非常に気になるところだが、思わず注視した先には、アトラとクーデリアが酷く怯えた状態でいた。

 

「アトラ!? クーデリアも……いったいどうし───まさか、2人とも記憶が!?」

 

うそ……噓よ、あかつき、アカツキ、暁ィ……!

 明日、お母さんと一緒だって……言ってたのに

 駄目だよ、そんな赤いシミつくっちゃ……ひろげたら……!!

 ヤダ! 死なないでぇぇぇーーー!!!

 

お願い、暁……目を開けて……じゃないと私、わたし……!

 ごめんなさい、三日月……私守るって約束したのに……それなのに……

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!

 

「……ふ、2人とも……。」

「当時の記憶が急激にフラッシュバックしたのでしょう……状況からして御二人には耐えられないものだったはず。」

「くッ……見てらんねぇぜ! V・C、どうにかしてくれ!」

「……わかりました、今処置を───」

 

───カタン

 

「……暁……???そこにいるの??」

 

「え??アト───」

「───暁ッ!!!」

「あ、おい!アトラ、何処に行……って、ヤバいな。」

 

誰の声も届かないアトラは微かな物音に反応し、何処かへと走って行ってしまう。

 

「今すぐ追いかけるぞ! タカキ、三日月とお嬢にこの事知らせてくれ! V・Cはクーデリアを!」

「わ、わかったよ!」

「わかりました。」

 

そして散り散りに行動する団員達、その後に残ったのはオルガと悪魔(バルバトス)だけだった。

オルガもこれ以上知る者が狂う姿を見たくはなかったが、その前にその原因を無理にでも聞きたかった。

 

「……で、さっきの続きだが聞かせろ。何でお前らが原因なんだ?」

《ソレハ、我々悪魔ガ天使ヲ追イカケタ道筋ヲ、ぞんだーガ辿ッタカラダ。》

「何?」

《アノ世界……遠キ時代ヨリ我々ハ次元転移ヲ行イ現レ、存在シタ。ぞんだーハソノ『次元ノ痕跡』ヲ探リ、ヤッテキタ。『エイハブ・リアクター』はソノ『痕跡』ヲ暴イタ。」

「エイハブ・リアクターを……使っただけで!?」

「否。ソレダケガ原因デハナイ。直ノ原因ハ、オ前人間ガ『厄祭戦』ト呼ブ戦イ、ソノモノダ。》

「厄祭……戦、が!?」

「……アレハ天使ガ、人間ノ救済ヲ理由ニ、一部ノ人間ニ天使ヤ悪魔ノ知恵ヲ与エタ技術ヲ()()()()()()()()『モビルアーマー』ガ暴走シタ結果ダ。ソレニ我等悪魔ガ対抗スルタメニ起キタ戦イガ『厄祭戦』。ソノ依代トシテ我等ガ用イタノガ、がんだむふれーむ。》

「ちょ、ちょっと待て。スケールがデカ過ぎて何が何だか……いや、お前の言葉通りなら……!」

《もびるすーつニハ悪魔、もびるあーまーニハ天使()()()()()()()()()()()()。ソレガアノ戦イダ。》

「マジもんの天使と悪魔の戦い……それが厄祭戦の真実か。いつから俺らはファンタジー世界の住人になったんだ……」

《我々ハ科学的ニ例エルナラ高位電位体。電界ヲ映セヌ存在ニハ認識出来ヌ。人間ニハ起動ぷろぐらむトシテ映ッテイタダロウガ、アレハ我々ノ意志デアリ過剰ナ干渉ヲ防グ装置。阿頼耶識しすてむハ我等ノ力ヲ合一スル装置。ソシテ『エイハブ・リアクター』ニコソ我々ガ憑依シテイタ。アレハ我等ノ『核』ヲ模シタモノデ、顕現ノ器。ソノ影響ハ強弱二関ワラズ、空間ニ干渉スル。》

「エイハブ・リアクターは『相転移炉』っつう永久機関、だったな。そして阿頼耶識は悪魔と直接つながるシステム……なんつーところから技術提供を受けたもんだ。だが、何で人間と共に戦う仕様にした? モビルアーマーは無人だろうが。」

《我々ダケデハ対消滅ガ限界。天使ヲ超エル必要ガアリ、ソノタメニ人間ノ力ガ必要ダッタ。ソノ真意ヲ理解シテイタノハ、当時ノ一部ノ技術者達ト、ばえるの乗リ手グライダ。故ニ『悪魔』ヲ連想サセルもびるすーつガ開発サレタ。ダガ『エイハブ・リアクター』同士ヲ干渉サセ過ギテ、浮キ上ガッタ『痕跡』ヲ探ラレヤッテ来タノガぞんだーダ。》

「その割には時間が空いていないか? 300年だぞ?」

《ソノ時ハ生キ残ッタ駆体ガ秘密裏二封ジタ。以降ハ『ギャラルホルン』ノ役割ナノダガ……300年モ過ギレバ役目モ忘レルヨウダ、恒星付近ニアッタ『痕跡』ニ綻ビガ出来テイタ。『エイハブ・リアクター』ノ生産地ハ監視ノ地デモアルノダガナ……》

「マジか!? ギャラルホルンにそんな役目があったとはな。」

《ダガ我ト、アノ天使(ハシュマル)ノ戦イガ、『痕跡』ヲ刺激シテシマッタノガ致命傷ダッタ。》

「……それが事実としても不可抗力だぞ、あの戦いは。」

《同意スル。オ前ニ不備ハナク、我モ異論ハナイ。アレハ本来回避デキタハズ。》

 

うつけ野郎が介入したせいで大事になったのは不可避。

しかし、それが文字通り次元を揺るがす事案だったとは、誰も思わなかった。

 

《ソシテ、次元転移ヲシテ来タぞんだーハ、もびるあーまーノ指揮系統中枢ゆにっと『エクス・マキナ』ニ取リ付キ、全テノもびるあーまーヲ掌握シ、機界昇華ヲ行ッタ……コレガ全テノ経緯ダ。》

「ちなみに、地球や太陽系はどうなった? まさかとは思うが……」

《想像ノ通リダ。全テ機界昇華サレ、Zますたーノ消滅ト共ニ砕ケ散ッタ。完全ニ機界昇華シタ存在ハ消滅スルノガ定メ、ラシイ……ダガ。》

「ゾンダーはまだいる……か。」

《火星ヤ地球ヲ含メタ太陽系ハ消滅シテモ、コノ地ニぞんだーガイタ。ソノ理由ハ解ラヌ。》

「ちなみに……俺達がこの世界にいるのは、お前らが原因か?」

《肯定。贖罪……デハナイガ、可能ナ限リアノ星系ニイタ者達ノ魂ヲ連レ出シタ。我等ニ適合シタ魂ハ他者ト違イ、変異スル。ソノ因子ヲ持ツ者ヲ捨テ置ク事ハ出来ナカッタ。結果コノ世界ニ着イテ(電界情報)ガ自動的ニ世界ニ組ミ込マレタ。俗ニイウ『転生』ダ。タダ、電界情報ニ不備ガアルマデハ気ガ廻ラナカッタ。》

「……なるほどな、じゃあ最後に聞く。お前らの敵に未だに天使と、ゾンダーは含まれてるか?」

《天使ハ否。一部ヲ除イテ大半ハ解放サレテイル。マタ、我等の今ノ主はカルディナ・ヴァン・アースガルズ。カノ御仁の命ガナイ限リ敵ニ非ズ。ソシテぞんだーハ確実に是、ダ。オ前達ノ意志ガソレヲ願ウナラ、喜ンデ力ヲ貸ス所存。ソレ以外ハ今マデト変ワリナイ関係ヲ希望スル。》

「……わかった。じゃあ、この話はこれで終わりだ。」

 

これでオルガとバルバトスの話は終わった。

今までのわだかまりを解消したのは良かった。

しかし自分達の世界が、知らないところで絶妙にシンクロしていたことに、これ以上にない心労を覚えるオルガ。

 

その時だった。

 

《……ン?》

「どうした??」

《コノ感覚……エイハブ・リアクター、ダ》

「何だと!?」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「『厄祭戦』は名前の通り、人類を巻き込んだ天使と悪魔の戦いだった……。しかも世界の終末を飾ったのは彼らとは関係のない機界昇華…。そう言う事は初めから初めから言いなさいっての!」

「カルナも知らされてなかったのですね。実に興味深い話でしたが……後味も悪いですね。機界昇華の顛末はアニメーション(本編)では特に描かれていませんでしたから、ある意味資料としては有意義なモノです。反吐は出ますが……」

 

そしてその様子を医務室で中継された映像で一部始終を知ったカルディナ、エルネスティ。

隠れた真実こそ知れたが、後味は非常に悪く、カルディナは憤慨し、エルネスティは珍しく嫌悪していた。

これを喜んでいられる者がいたら、その者の神経を疑いたい。

 

「三日月はどう思うかしら?」

「………別に。」

 

未だ気だるそうにベッドに臥せる三日月に話を振るカルディナ。

しかし普段と変わりなく、視聴中も一瞬嫌悪感はあったが世界の終わりにはさして興味がない様子。むしろ、天井を見ながら別の事を考えている様子であった。

 

「お嬢。」

「何かしら?」

「あのアトラに似た大人の女、誰かな??」

「……成長したアトラね、きっと。数年経てばああなるんじゃないかしら、綺麗じゃない。クーデリアは判った?」

「解る。じゃあ………アトラとクーデリアの間にいた子供、あいつは誰なんだろう。」

「………アトラと、アンタの子供よ。名前は暁。」

「アトラと、俺の………子供?」

 

はて?と何を言っているか解らない、と言った様子。

その時、三日月の瞳が、一滴の涙で濡れた。

 

「あれ、何で………」

 

出た涙の理由が解らず戸惑う様子の三日月を見て、安心するカルディナ。

あとは、フラッシュバックで混乱している義妹(クーデリア)と、アトラを慰めに行こうと───

 

 

───ゴゴゴゴゴゴゴッ……!!

 

 

「──地揺れ!? この感覚は工房からじゃない……地上!?」

《───お嬢ッ、った、たたた大変だ!!!》

「ライド……!? 何をそんなに慌てて───」

 

いきなりの通信に驚くカルディナ。

しかし、それ以上に怯え、驚いて動揺しているのが通信越しに判るライドの様子だった。

 

「落ち着きなさい、いったい何が……」

《アトラを探してたら……北の森にあいつらが……ギャラルホルンの……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が来たんだよォォォーーー!!!

「はぁぁぁああああああぁぁぁーーー!!!!????」

 

その報告は、全員を驚愕させ、非常警報の鐘が工房内に響き渡った。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「何でグレイズが……ギャラルホルンのモビルスーツがこの世界にあるんだよ!?」

「知るかそんな事!!」

「お嬢の許可は取った、待機中のロディ3機回せるぞ!」

「マギウスはどうなんだ!?」

「今、最終調整中です!!」

「あと15分で終わる、すまないが時間を稼いでくれ!!」

「しゃーねぇ!! 昭弘、シノ行くぞ!!」

「ユージンも一緒か!」

 

「ええ!? 私達出れないの!?」

「すみませんアーキッドさん、アデルトルートさん。ですが相手はギャラルホルンらしく、お二人に行かれると国際問題になりかねない可能性が……」

「うう、そう言われると今は我慢すっきゃねぇ……。でも、いざとなった時にいつでも出れるよう鐙で待機してるぞ。」

「うん。エル君が出れない今、私達がフォローしなきゃ!」

 

「アトラ、まだ見つからねぇか!?」

「うん……最後に見たのが、グレイズがいるあたりなんだ。」

「ヤベェ、早く見つけねぇと……!」

 

グレイズ発見に、てんやわんやの工房(アトリエ)

ランドマン・ロディが発進する最中、アトラは独り森を彷徨っていた……

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……暁、暁? どこ…? お母さんだよ? もう暗くなって遅いから、はやく帰ろう? ねぇ、暁ぃ…どこぉ…?」

 

受け止めきれない現実から背けるアトラは、何処と何処と認識しないまま虚ろな目で彷徨う。

失ったものが大き過ぎて、その様子は哀れとしか言いようがない。

その姿を、木の上から眺める2人の陰があった。

 

「……気が乗らないな。」

「おや、どうしました? 大変素晴らしいストレス(マイナスエネルギー)──非常に深い悲しみを漂わせる、可愛いお嬢さんではありませんか。」

「私が求めるのは怒り狂う戦士の憤怒、またはその憎しみだ。あのような脆弱な人間のストレス等には食指が動かん。」

「ふぅむ、やはり四天王それぞれ好むストレス(マイナスエネルギー)が違いますなぁ。」

「好みの問題だ。そこは議論し尽くし、全員平行線となったろう……ん? これは丁度良い。()()()()()()()。私はあちらをやる。改良型はお前に任せる。」

「わかりました、では……」

 

何かを察知したピッツォ・ケリー。それを皮切りに、行動を開始する四天王の2人。

まず、ピッツォ・ケリーが向かった先には進軍するグレイズが5機。

 

「フッ……この世界で、機械と呼べる実に良い材料だ、使わせてもらう──『起きろ』」

 

グレイズの頭上より遥か高く飛ぶピッツォ・ケリーは腕を広げ、軽快に指を鳴らす──

 

 

 

《──我々の目的は判っているな、クランク!》

《はっ! 『聖女』の奪還です、コーラル聖騎士長。》

《宜しい! 我等に特別に与えられた、この『グレイズ』であれば異教徒相手に聖女の奪還は容易い! 私に続けぇッ!!》

 

スラスターを吹かせ、進軍するグレイズ達。その先陣を切るのは指揮官機操るコーラル・コンラッドという男。

その走力、その姿、そして能力は期待を裏切る事なく()()()()である。

その後ろを追従するのはクランク・ゼント、そして……

 

《アイン、付いて来れているか?》

《はい、問題ありません、クランク()()!》

 

アイン・ダルトンという青年である。

 

《こちらも問題ありません!》

《私も行けます!》

《イレイド、ムスファ、無理はするなよ!》

《うむ!では、このまま進軍す──》

 

「ゾンダァァァーーー!!」

 

《──ゴフぁっ!?!?》

《イレイド!?》

 

突然の闖入者(ゾンダー)の介入に、度肝を抜かれる3機。

足元から突然現れた、同サイズのゴーレム型のゾンダーにグレイズの一機(イレイド機)が殴り倒され、横転する。

更にもう一撃、脚を止めてしまったもう一機(ムスファ機)のコックピットを───

 

「───ぬぅんッ!!!」

《ゴベゥッ!!》

《ム、ムスファ!?》

 

超高度より飛来したピッツォ・ケリーが、コックピットを弾丸の如く蹴り砕き、ムスファのみを殺した。

 

「い……いったい何が……あ、ああ!?」

「──フン、所詮は弱きモノ、そのロボットも脆いな。だがその恐怖を糧にゾンダーとなるがいい。」

「あ、あああああァァァーーー!!!」

 

そして自身の真向いのモニターより突然、突き出て来たピッツォ・ケリーに恐怖し錯乱するイレイド。されるがままに、額にゾンダーメタルを埋め込まれ、グレイズはゾンダーロボとなり替わった。

 

 

「───くそッ! アトラはどこだ……ん、あれはアトラ!? おーい、アトラ……!?」

 

同時刻、入り組んだ森の中で必死の捜索でようやくアトラを見つけたライド。

だが、アトラの目の前にいる人物に、ライドは驚愕する。

重鎧の人物(ポレントス)がその手に持っていたもの……

 

「……暁ぃ、お願い、出てきて……」

「フフフ……貴女の願いを叶えて差し上げましょう。そうですね……草の根分けてでも捜せる術を貴女に授けましょう。」

「あ、ああ……」

「アトラ!? アトラァァァーー!!!」

 

ライドが目撃したのは、額に付けられた改良型ゾンダーメタルによって身体が創り替えられていく、アトラの姿。

 

「ゾンダァァァーーー!!」

 

そして、ゾンダーと成り果てたアトラは、コックピットを破壊されたグレイズに向かい、機界融合を行う。グレイズは大振りの大刀を手にしたゾンダーロボへとみるみる変貌していくのだった。

 

そしてその姿は、どことなくバルバトスと似ていた。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

アトラがゾンダーになった。

ライドからその一報が入ったのはそのすぐ後だった。

 

現場に駆けるオルガは走る間、今までの話を反芻していた。

 

自身の生まれから生きた軌跡───

CGSから鉄華団に変わっても、仲間達と生きる為にガムシャラに走って行った日々。

『仲間の死に場所は自分が決める』と指揮を取り、死んでいった仲間達に申し訳ないと思いつつもひたすら止まる事なく戦いの中に身を投じていった。

その度に後悔が押し寄せ、悩む日々が続く。

そして相棒の三日月の期待と「次は何をやればいい?」と脅迫じみた視線。

その目に格好悪いところを見せないようにしてきた。

 

三日月がバルバトスのリミッターを解除して右半身麻痺になってしまった時も、三日月は「謝ったら許さない」と言った。

己の命を自分(オルガ)のために使うと鉄華団に、オルガに身を捧げた三日月。「今までやってきた事を無駄にしてきたら許さない」と、そう聞こえた。

そうしないと戦えない、生きて行けなかった前世。

家族みんなの居場所を掴むため、『火星の王』という不相応な願いが最善だと思っていた前世。

そして道半ばにして倒れた。

 

(名瀬の兄貴の忠告、今ならしっかりわかるな……)

 

生き急いでいる。目指す所なんてどこでも関係ねぇ……。とっとと上がって()()()()()()

さっさと終わらせて、ミカの期待から…そして重圧から解放されたかった……。そう思う自分がいた。

結局……知らず知らずのうちに見栄を張っていたんだろう。

団員達に、ミカに、そして自分に……。

 

そして生まれ変わっても同じような境遇だった。無意識に絶望していた。

 

しかし…それを変えた人物が、破壊した人物がいた。

自分達に戦う事を教え、そしてそれ以外の道を示し続けていた。

日々闘争。されど冷静なりけるは太平の流れの如く。

無駄だろうと思う事には意味があると言い続け、何時までも見放す事をしなかった。

時折、格好悪いと思う事はあったが、それも『己』であると示してくれた。

無理はしなくていい。目的を達するなら、格好悪くても足掻いて見せろ、と。

むしろ、そこが勝負だと。

そして可能性を常に見せつけてくれた。

それは強力で強烈な人物。けれど自然体で、人間味があって、妙に説得力はあって、常に余裕があって……。

 

(そうだよな……ある意味、俺はお嬢みたいに、カルディナ・ヴァン・アースガルズみたいになりたかった。)

 

みんなに居場所を作る為に何が必要だったか、それを教えてくれた。

 

その為には色々な事を学ぶ必要があった。

もっと忍耐強くなる必要があった。

何が『強さ』なのか深く考える必要があった。

何よりも『強く』なる必要があった。

それをあのお嬢様は示してくれた。

 

『あの時』にはもう戻れない。

でも、『今』ならまだやり直せる。

 

悪魔と天使のイザコザに巻き込まれて転生してしまったが、それはチャンスだと割り切れば怖いものはない。

 

これは『やり直し』なのだ。

あの時、選択肢もなくただ死んでいった仲間たちの、苦悩して足掻いた自分に対する、たった一度のチャンス。

 

その時、通信が入る。

 

《オルガ。》

「ミカか。」

《アトラがゾンダーになったって。》

「ああ、知ってる。やべぇ状況だ。」

《オルガ。俺、どうしたらいい? 行った方がいい?》

「お前はどうしたい? お嬢にまかせりゃ万事治まるが……」

《……それはヤダ。》

「なんでだ?」

《アトラと俺に子供がいたんだって、暁って名前。前世、だけど。でも死んだって。そう聞いたとき、何か涙が出た。暁と一緒にアトラもクーデリアも死んだらって思ったら……》

「そうか。じゃあお前はどうしたい?」

《わかんない。でも気付いたらバルバトスのコックピットにいた。『俺の大事なモノを盗るな』って思った。そう言ったら、みんな『行って来い』って……》

「……そうか。なら、俺も一言言ってやる。『なんも気にせず行って来い。』キッチリとサポートしてやる。」

《わかった。》

 

そして通信は切れた。

その通信の会話で、オルガは笑った。

なんでか相棒(三日月)までもがいつの間にか変わっていた。

 

(そういう事も気にする事が出来るようになったんだな……すげぇ進歩だな。)

 

まだまだ俺達は変われる。そう思うと不謹慎ながらワクワクしてくる。

俺達はまだ終わっていない、むしろこれからだ。

 

「こんなところじゃ……こんなところじゃ終われねぇ……! むしろここから始まるんだ、そうだろ、ミカァァァーー!!!」

 

声の限り叫ぶオルガ。

その叫びに呼応するように大地が隆起し、爆発する中から『白い鬼神』が紅い眼光を以て現れ、グレイズを殴り飛ばす。

 

バルバトスルプス Ver,H ここに、見参。

 

 

《NEXT》

 

 


 

 

 

《次回予告。》

 

 

過去の因果を振り切り、遂に奮起したオルガ。そして身の内より出づる思いを胸にした三日月。

 

しかし状況は多勢に無勢。アトラを内包したゾンダーを目の前に戸惑う三日月。

 

されど、青と黒の鬼神が降り立つ時、その内の秘めた力を解き放つッ!!

 

願え、叫べ、二心合一の力、その掌の中に!!

 

『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

NEXT、Number.19『~目覚めし白・青・黒の鬼神~』

 

次回もこの物語にファイナル・フュージョン、承認ッ!!

 

 

 

これが勝利の鍵だ!!

 

『天使と悪魔』

 

 

 

 




ガオガイガーと言いつつ、オルフェンズ回。
しかもTV終了後という罠。
事象の観測後は何が起きてもおかしくはないのですが……

『鉄血のオルフェンズ 特別編』を見てプロットと本文が大暴走。
2万5千文字を超えた大新記録。後悔はない。
長いので前編、後編に分けようかと思いましたが……鬱話を分けるとか出来ない。

V・Cさんはシリアスだと仕事人。
チャド、ダンテは完全に被害者。スンマソン
というか、ハシュマルは完全にはっちゃけ過ぎ。ギルティ判定待ったなし。
天使と悪魔、関係なところで巻き込みすぎ。
たわけが太陽系消滅、機界昇華のキーマンとかありえん。どんだけ罪を重ねる気だ。
オルガと三日月の掛け合い、マジで泣けます。
でも決意と本音が噛み合ってない以上、『そうじゃないだろ!』っていうところが出た本文。本編に対するアフター、私なりの回答です。
オルガよ、よく耐えてたな。三日月の思いが重いっ!!

でも、これはガオガイガーです。

そして長文であっても脱線はありません。


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