〇大吟醸『勇者王』
〇超竜神(氷竜・炎竜 合体セット)
〇ガオガイガー 乾杯杯
ほしいなぁ……
ちなみに、今回のタイトルは正式には~『○○○勇者王』を創る決意~です。
何が入るでしょうか?
予想しながら読んでみてください。
正解は(2)辺りで。
「―――遅いですわッ!!」
「……すいません。」
「全く……大失敗ですわッ!」
アースガルズ領の中心に位置する、アースガルズ家の門前にて、お嬢様こと、カルディナ・ヴァン・アースガルズは腕を組んでご立腹だった。
そして開口一番に、ダーヴィズ・ダンプソンに怒りを露にしていた。
……何で、怒られにゃならんのだ。
やって来たダーヴィズは、あまりの迫力に、訳の解らない不条理を感じつつ、つい謝ってしまった。
しかし、誤解しないで頂きたい。
ダーヴィズ今回、
実は、彼は3日前……
門番には多少怪しまれた経緯はあったものの、カルディナ本人が納品に立ち会い、量・品質にもご満悦、残りの金額も当初の3倍の金額で受け取っている。
お互い納得し、ウハウハだったにも関わらず、昨日
そして、翌日やって来たら、カルディナが何故か怒り心頭のご様子。
……何があった?
全くもって、さっぱり解らない。
心当たりの無いダーヴィズは、混乱の真っ最中であり、伺うや否や最初の冒頭の会話となる。
しかし、ここで助け船もあった。
まずは、カルディナの傍らにいる
「……お嬢様、それは誤解です。正確には『大失敗』ではなく『大失態』の間違いではありませんか? しかもお嬢様ご自身の。待ちきれなかったのは判りますが、八つ当たりはどうかと……」
「う……ッ!」
鋭い指摘に、カルディナお嬢様、ダメージ10。
そしてもう1人、反対にいる人物……カルディナよりも長身で、耳の長い男性……エルフである。
エルフ。
ゲルマン神話に起源を持つ、北ヨーロッパの民間伝承に登場する種族。日本語では妖精あるいは小妖精と訳されることも多い。北欧神話における彼らは本来、自然と豊かさを司る小神族であった。エルフはしばしば、とても美しく若々しい外見を持ち、森や泉、井戸や地下などに住むとされる。また彼らは不死あるいは長命であり、魔法の力を持っている。
特徴の1つである、長い耳はトールキン作『指輪物語』より生まれたイメージが定着したもの。
(Wikipediaより抜粋)
この世界においても、森に住まうのがポピュラーな人種であり、人間種よりも長寿で、耳が長く、どの種族よりも
ちなみに、癖が強い食べ物は苦手であるが、
ちなみに、やはりと言うか、美意識が高く、プライドも高く、背も高い。嫌味でよく『
尚、上記の理由から、剛胆さを求めるドワーフとは違い、エルフは繊細さを求めるが故、一般的に仲が悪かったりする。
そんな、
「その通りです。『あれ』は確かに、お嬢様御自身の失態です。貴方がダーヴィズ・ダンプソンさん、ですね。私は、フェルネス・オルト・フェーダー。アースガルズ家の顧問魔法使いとして、雇われている者です。貴方の仕事は見事なものでした。」
「ああ、どうも。」
「しかし『その先』は明らかにお嬢様が原因、と結論付けたはずです。それを
「う……ッ!」
更なる鋭い指摘に、カルディナお嬢様、ダメージ15。
ちなみに残りのHPは1万越え。性悪貴族の世界で揉まれた精神力を甘く見るなかれ。
しかし、今回はカルディナが悪いため、カルディナは素直に謝った。
「……ごめんなしゃい。」
「いや、まあ、それはもういいんだが……結局、俺は何で呼ばれたんだ?」
「そうですわ! 本題を早く! こちらですわ!」
そうしてカルディナに手を引かれ、何処へと連れて行かれたダーヴィズ。
フミタンとフェルネスはやれやれといった表情で後を追う。
立派な建築用式で立てられた、見事な造りのアースガルズ家の本邸……を横切り、少し歩いた林の奥にある建物に着いた。
造りは堅牢、2階から3階程の大きさの高さで、奥行きを含め、大きな屋敷と言って謙遜ない大きさの四角張った無機質な建物だった。
本邸との造りの質は見事に違い、こちらは工房だった。
「我々は『御嬢様のアトリエ』と呼んでいます。此処では『アースガルズ商会』で扱う商品の半数……特に重要度の高い商品を主に生産する場所です。また、カルディナお嬢様の
「ほぉ……『アースガルズ商会』の商品といったら、貴賓問わず、名品・良品ばかりと有名だからな。それがここでとは……」
『アースガルズ商会』の商品には、他領に住んでいるとはいえ、行商の都度お世話になっているので、ある程度は知っていたダーヴィズは、関心していた。
本当は、表向きは、と付くが、説明したフェルネスはあえて
ただ、その微妙な空気を感じ取ったダーヴィズは、目線だけを
やはり、
その辺りの空気はお互い、読める。
しかし、そんな事はお構い無しに、早く早くと皆を促し、工房の中に招くカルディナ。
「さあ、此方です。」
そして通されたのは、中央に大人が1人寝れる程の大きな作業台がある部屋だった。
布を織るためか、機織り機があり、マネキンと思われる人形もあった。棚には各種様々な布の反物がいくつもあった。
また、その傍らには作業用エプロンを纏い、長いであろう金髪を後ろで留めた、1人の
「初めまして、シレーナ・オルト・フェーダーです。どうぞ、宜しくお願いします。」
「ど、どうも。ダーヴィズ・ダンプソンだ。」
エルフとはいえ、美人であるシレーナ。
その彼女が嬉々とした表情で、しかも喰い気味で来たのは、ダーヴィズにとっては初めての経験だったので、少々驚いてしまった。
しかも初対面であるが故に、身に覚えがない。
「シレーナさんは、フェルネスさんの奥様です。今回、ダーヴィズさんが此方に来られるのを、私の次に待ち望んでいましたの。」
「はい!それはもう!」
「な、何でだ?」
「あの『軟鉄の糸』です。」
ダーヴィズの疑問に答えたのは、意外にも夫であるフェルネスだった。
ただ、表情を特に変えること無く、淡々と続ける。
「貴方がお嬢様にお売りした『軟鉄の糸』を
「誰よりも糸の特質を熟知しておりまして。糸から布を織り上げて、貴族が好む上質のドレスから、摩擦に強く、汚れにも強い作業着まで何でもこなす、正に衣服のプロですの。そのシレーナさんが『軟鉄の糸』に一目惚れしまして……」
「―――そうですッ!!! 今まで見た事のない美しい糸の光沢ッ!
「シレーナ、そこまでです。お嬢様が本題に入れません。」
「……す、すみません。つい……でも貴方だって、楽しみだったのでしょう!?」
「私は糸の評価もそうですが、『軟鉄』の特性の再発見……そちらを評価しています。貴女ほどでは……」
「『
「シレーナ……」
おっとり系かと思いきや、別のベクトルで職人気質の方だったシレーナに、実は表情筋が弱くて表情が乏しいだけのフェルネス。
(何か、凄い所に来ちまったなぁ……)
カルディナお嬢様関連の関係者は全員
「お二方。本題が進みませんから、お静かにお願いします。」
「「……はい。」」
フミタンに注意され、しょんぼりするフェーダー夫婦。
「……では、お嬢様。」
「そうですわね。ではダーヴィズさん、本題に入ります。どうぞこちらに……」
やっとか、と思いつつ案内されたのは作業台。
実は、この部屋に案内された時からダーヴィズの関心は作業台に向けられていた。
何故なら、自身に馴染みのある『軟鉄』で出来た作品と思わしき物が拡げられていた。
見間違えではない。その光沢は製糸作業中に何度となく見てきたものだから。
ただし、形状が違う。
それは『糸』でなく『布状』であり、しかも何かしら『服』に仕立てたようだが、所々激しく破けていた。場所によっては細切れに近いまでに散り散りに破けていた。
「……ひでぇ損傷だ。普通の服ですらここまでにゃならんぞ。」
「ええ、恥ずかしい話ですが、その通りです。」
「いったい何をしでかしたやら……」
職人として、自分の商品が、しかも未知の使い道を示した
ただ、ダーヴィズには『この状態の軟鉄』に見覚えがあった。
1枚の布片をよく見ると、格子状に編まれている筈の繊維の一本一本が幾つか、くっついていた。
ひどい物だと編まれている筈の糸が、最初から『編み目のない、紙のようなもの』になっているものすらある。
例えるなら、煮立ってないお湯に乾麺を放った後、そのまま放置し、麺同士がグルテンの糊で互いにくっついた様な……それを均一に潰して、火の通った麺の生地にした……
それが破けていた服には、ほぼ全て同じ『現象』が起きていた。
(……そもそも『コレ』は自然になるようなもんじゃねぇ。しかしなぁ……)
自身ですら多少はあった『現象』が、こうも出ているとは……
そして、一番気になったのは『元の服の形状』について。
これは明らかに……
(もはや、突っ込みどころが満載過ぎて、何をどうしたら……)
そしてしばし熟考し、半ば諦めた様に一息吐いたダーヴィズは、改めてカルディナに尋ねる事にした。
「……あんたらが何で俺を呼んだかは、多少読めたが……その前に聞かせてくれ。そもそもこれは何だ?それが解らねえと、何を言えばいいか困る。」
「そうですわね……」
カルディナは悩んだ。
これが何?でなく、どう言えば伝わるかを。
この『服』の概念はこの世界には無いのだ。
そして、とある言葉を出した。
「これは……『着れば、物凄い力を発揮する服』、と言えば解りますでしょうか。」
それは遡る事、一週間前より始まった……
「これは……!」
「どうです?良いと思いません?」
「まあ……!」
ダーヴィズより『軟鉄の糸』を買った後、帰路に就いたカルディナとフミタンが、まず向かったのはフェルネスの所だった。
丁度、妻のシレーナと一緒だったので、カルディナは2人に『糸』の演舞を見せた。
初めこそ乗り気でなかったフェルネスは、『糸』の動く様を目の当たりにした瞬間、食い付く様に見ていた。
何せ、部屋中にドラムロール並みの糸駒に巻かれた大量の『糸』が、部屋中を規則正しく動き回っていたのだ。
カルディナの力量をよく知っているが故に、
シレーナは、動く様にも驚いていたが、何より『糸』そのものに注目していた。
使用しているのは、白糸。シレーナにとっては金属光沢を放つ白糸は、今まで見た事もない魅力的な素材に見える。
そして、糸駒に綺麗に巻き付けるまでを見せた後、冒頭のやり取りとなった。
「素晴らしいです。『
「そうですわね。私も初めは何かと思いましたが、衝動買いで少し高く付きましたが、行商に来たダーヴィズさんには感謝ですわ。」
「……凄いです。
「
「それだけではなくてよ。
「綺麗で均一という事は、糸の太さも一定……という事は良い服が作れますね。ドレスが良いでしょうか、シャツも良いですね。ですが、まずは小物から……」
「細い糸状でありながら、姿勢保持が出来るところも素晴らしいです。一見弱々しく見えますが、物を持ち上げる力もありそうですね。となると、応用可能なものが幾つか……」
「形状記憶にも優れておりますわ。くしゃくしゃにしても折り目一つ付かず、きゅっと縮んでもまた元に戻ります。きっと糸の形を保ちながらも収縮時には……」
「
……と、話はエキサイトしていた。
ちなみに、これで三人とも、話がしっかり通じているという、いつもの光景。
場合によっては、フミタンも参加する事もあったり。
今回は傍観に徹していた。
そして話はまとまりを見せてきたところで……
「……その様な訳で、今回は『特性』を活かして、『軟鉄』を使った新作第1号には『服』を作りたいと思いますわ。シレーナさん、お願いします。」
「お嬢様ッ!ありがとうございますッ!!」
「ただ……ゴニョゴニョ……、そして……ゴニョゴニョ……」
「……えぇ?!その様なもので宜しいのですか?それでは……」
「「??」」
「ええ、むしろそうでなくては、実験になりません。その様にお願いします。」
「……判りました。」
カルディナの耳打ちに、驚きと動揺が隠せないシレーナ。最後は承諾したが、どうも腑に落ちない、といった様子だ。
しかし、
ましてや、気になる素材を使えるとあっては、しない訳がない。
とりあえずカルディナより、糸駒2個を受け取り、自身の仕事場へ向かう。
その際に……
「糸、余ったらドレス作っていいですか?」
「……常識の
「はいッ!」
真顔で迫るシレーナに、つい答えるカルディナ。
そんな
「……申し訳ありません、お嬢様。」
「いいですわ。新素材に浮かれているのは私達も同じ。『
「ありがとうございます。」
その4日後、目に隈を作りつつも、カルディナの希望したものを完成させたシレーナは、彼女にその服を手渡す事が出来た。
「……大丈夫、ですの?」
「……少々あの糸を侮っていました。繊維の一本一本が細く、繊細なのは良いのですが、髪の毛よりも細い為に、布にするのに時間が掛かってしまって。」
「お陰で「あともう少し……」と寝るのを先延ばしするシレーナを睡眠魔法で無理矢理寝かせる羽目に……しかも次の日には、時限発動式の
「アナタが私の作業時間を削るからです!それに徹夜は、まだ2日(初日眠らされたから)ですッ!!」
「それ、徹夜の理由になりません。あと、高等魔法の無駄遣いしない。」
『お嬢様のアトリエ』はブラック企業ではありません。
しかし月の内、職人の数人は必ず、二徹、三徹をやらかすという不思議。
やらかす職人は誰もが「最新技術は悪魔的だぜ~!」とか訳の解らない事をいう始末。
工房主としてどうしようか、と考え込んでしまうカルディナだが、
お陰で違法スレスレの睡眠魔法が、やたら上達する始末……
「お嬢様、ご指示通りの形状に仕上げました。あと、後で指示がありました『追加』も付けてあります。」
「ありがとうございます。では、試着と致しましょう。」
そして、試着に移る訳だが……
「お、お嬢様、やっぱり止めた方がいいのでは……」
「仕様上、仕方ありませんわ。多少恥を忍んでも纏うしかありません……と。では『起動』させますわ。」
試着するのは当然ながら、カルディナお嬢様、ご本人。
現在纏っているのは『軟鉄』で出来た服……とは言えない、首から下全てがサイズが大きい、全くピッタリとしていない『全身タイツ』である。
そして左腕に付けた腕輪『
……本来であれば『
それを『
「んん!成功ですわ。フィット感も文句無し。適度な締め付けもあり。これは期待出来そうですわね。」
「そ……そうですね。ですがやはり……」
想像して欲しい。
適度に締め付けられた豊満な肢体。
乳白色に輝く白い肌。
カルディナは試着の為に、
極限までに薄い、白い『軟鉄』の
そして15歳とは思えない、約3歳先取りしたメリハリのある女性特有の肢体……
……ご馳走様です。
「……予想の範囲内ですわ。実用化の際には、鎧やオプションパーツで隠せば、問題ありません。」
羞恥心で身悶えしそうなのを我慢して、あくまで
ちなみにその光景を無言+傍らで傍観していたフミタンは……
(……最高です、お嬢様。)
……訂正。やっぱり
なお、今回記録係のフェルネスは試着部屋の外で、常識的待機。
奥様以外の裸にはあまり興味がないご様子で、後に
「被膜のように薄く仕上がったようですね。」
と、感想を述べるだけだった。
それから
出来上がった試作品を試すための空き地で、周りより荒れて、一部は土が見えている箇所もあったり。
何があったかは秘密。
「さて、ここからが本番ですわ。フェルネスさん、
「畏まりました。」
「……では、参ります。」
自身に告げるように呟いた言葉の後、カルディナは目を瞑り、ゆっくりと息を吸い、そしてゆっくりと吐き出す。
それから両手を伸ばしながら脚を肩幅に開く。そして舞うのではなく、それより緩やかに動く。
手先から指先までが一定の緩やかさで動く。
それは中国拳法の一つ、太極拳にも似た、柔らかい動きだった。
己が師である者から教わった、体術の一つで、体の重心、動作一つであり、師曰く「その気になれば何の力も入れず相手を吹っ飛ばせる」との事。今行っているのは、型の一つ。
事実、15歳のカルディナが今まであったであろう荒事に、積極的に介入出来た理由が、これにある。
片腕一本で、大の大人を軽々鎮圧。誘拐現場にて無双したのは数知れず……
噂は多々あるが、被害者が一同にして「二度と関わりたくない」と言わせる程だ。
……公爵令嬢の嗜み、と本人は言っていたが、過去に大規模な山賊を1時間足らずで殲滅したのを嗜み言っていいのだろうか。
ただ体術の型を行うだけでなく、カルディナは同時に『
内包する膨大な
同時に『軟鉄』の繊維に沿って
そして
それがカルディナが『軟鉄』の特性の一つより見出した『
その光景を観察していたフェルネスの頬に汗が一滴垂れていた。
「……相乗効果、と言えば宜しいのでしょうか。流れる
「そうですの?普段と同じように型をしながら『
「そうですか。見ているこちらは、何の大規模魔法を展開しているのかと錯覚します。」
「そうですね。事情を知らない者が見たら、逃げ出しますよ。」
「あわわ……見ていて恐ろしいです。」
「……せいぜい、1割も出してませんわよ? これが想定している使い方ですのに。」
「ちなみに、この状態で石を握り潰したら……」
――ゴシャッ!!
「まあ!普段の半分以下の力で砕けましたわ。」
「普段も砕いているのですね。」
「ええ、お嬢様ですので。」
「次に大岩を持ったらどうでしょう?」
――ヒョイ
「……お嬢様の倍近い大きさの岩が軽々と。」
「凄いですわ!半分どころか、大した力も掛けずに持ち上がりましたわ。普段はもっと力を込めてますのに……」
「普段も持ち上げているのですね……」
「ええ、お嬢様ですので。」
「『彼』が知ったら悔しがる結果ですわ。まあ、それはさておき……次は少し走って来ますわ!」
と、言って風の如く走り去るカルディナだった。
その走り去る姿は、文字通りその場から『消え去る』と言えるレベルだった。
「……ふむ。何という加速度。お嬢様の話では『
「あら、何だか楽しそうですね、アナタ。」
「……そうか?」
「そ・う・で・す。」
「私がいるのをお忘れなく。」
「「――――――!?」」
お嬢様の目が無くなったのを良い事に、いちゃつくフェーダー夫婦だが、フミタンが間髪入れず突っ込みを入れる程度には順調な試験経過だった。
――――――しかし、問題はここからだった。
林の中を軽々と、かつハイペースで走るカルディナ。
人型の生物が地を走るより、更に速く駆けていたカルディナは、非常に現状を愉しんでいた。
身体が軽くて軽くて、力を入れずとも高く跳ぶ事が出来、枝木を掴んで廻っても手が痛くない。
何より走り込んでも、『軟鉄』の特性によるアシストで疲れる事を知らない。
気分は正に、ガオガイガーのOPにある、獅子王凱がライナーガオーと並走している時の光景のよう、とカルディナは錯覚出来る程だった。
気分は正に有頂天。
ただ、行っているのが試験である事を忘れかけていたカルディナ。
この時のカルディナは、自身の纏うスーツの異常に気付いていなかった。
「フフフッ!!何て素晴らしいのかしら!! これならもっと
今までは『一割未満』の
そこに落とし穴があった。
「―――行きますわよ!!」
――――――パァンッ!!
盛大な破裂音が辺りに響いた。
と、同時にカルディナの纏っていた衣服『全て』が弾け飛んだのだ。
「……はい?」
呆けるカルディナであったが、身に起こった自身の現状を着地して、一拍置いた後、瞬時に理解した。
見事に一糸纏わぬ姿になっていたのだった。
「い……いゃああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーー!!!!!」
いくら敏腕商会主であろうが、無敵の女傑であろうが、年頃の女の子である。
流石に全裸はないだろう。
お陰で、悲鳴を聞いて駆け付けたフミタン達には羽織る物を持って来てもらうまでは、その場に伏しているばかりのカルディナだった。
「……という事がありましたの。」
身に起きた出来事を一部省略し、ダーヴィズに堂々と語ったカルディナだった。
そして、そのダーヴィズは頭を抑えて何とも言い難い表情をしていた。
「……まあ、何をしてたのかは判ったが、何とも信じがたい……もとい滅茶苦茶な話だな。」
「で、今の話を聞いて、何か判りましたか?」
「まあ、予想してたけどよ、
「やはり、ですか。ちなみに対策はありますか?」
「安直だが、繊維を太くするってのが手っ取り早いな。今回納品しちまったのは裁縫用の細いものばかりだ。束ねるって手もあるが、こんな使い方をするなら、太くする方がいい。太くすれば、繊維がくっついても過負荷にも耐えれる体積は確保出来、強い繊維が出来る……それが俺の見解だが。」
ちなみに、糸を編み込む方法もあるが、裁縫用の糸を使った
「ちなみに、どれ位の太さまで可能で?」
「ご注文とあらば、どのようにも出来るぜ。」
「実に頼もしい。でしたら直径2ミリで注文したいですわ。感触からして、それぐらいでしたら問題ありませんので。」
「おう。じゃあ早速帰って……」
「ああ、もし宜しければ、場所と機材をお貸ししますので、
「……良いのか?」
「それとも、特別な物が必要で?」
「いや、俺自身と糸巻き機、デカい糸駒、あと充分な『軟鉄』がありゃ出来るが……」
「良かったです。宜しくお願い致しますわ。」
それからダーヴィズは用意された部屋で、『糸』作りに取り掛かった。
一言で言うなら、『
途中でカルディナやフェルネスが見よう見まねでチャレンジしてみたが、見事玉砕。
均一に伸ばし続ける、という行程が難し過ぎるとの事だった。
ダーヴィズ曰く「勘で」との事だが、明らかに職人芸だ。
充分な量が出来上がったのが暮れだったため、ダーヴィズには寝床と食事が用意され、その日はアースガルズ家の客間に泊まった。
そして『糸』を受け取ったシレーナと、今日こそはと息巻くフェルネスの睡眠魔法とカウンターの応酬が続く、仁義無き戦いが夜通し続いたのは、言うまでもなかった。
ちなみに、勝者は
……そして翌日。
「ウフフッ!!!凄いッ!!凄いですわッ!!」
「やりきりました~」と貫徹で眠たい顔をしたシレーナから受け取った『
自身に流れる
纏う
放つ魔法も、スーツの影響なのか、普段以上の威力を誇り、側溝を築くのも一瞬だ。
カルディナ自身の予想を遥かに超えた、素晴らしい出来なのだ。
その光景を呆然として、ダーヴィズはフェルネス、フミタンと共に見ていた。
「……す、凄ェ。」
「素晴らしいです。現状の性能で既存の騎士達では、相手にならないレベルです。後は鎧やオプションを付加をして……」
「まあ、お嬢様ですから。おや、此方にお戻りになられるようです。」
辛うじて見える山の峰より、人影……カルディナが文字通り、ひとっ飛びに越えて来て、目の前に着地する。
「はぁ~~……!、もう最高ッ!ですわ。見事な仕上がりです、ダーヴィズさん。」
「ま、まあ俺は『糸』作っただけだが……」
「充分です。これなら、やはり……ええ、決めましたわ。ダーヴィズ・ダンプソンさん。」
「何だ?改まって……」
「私に雇われて、この工房で働いて頂けませんか?」
それはスカウトである。
今回の結果がある程度達成された暁には、カルディナはダーヴィズを雇うと決めていた。
もちろん待遇は惜しまない。
必要があるものがあれば、金に糸目をつけず……
「……悪いが、そいつは断りてぇ。」
……断った。
公爵令嬢のスカウトを、だ。普通なら斬首ものである。
しかし、カルディナは感情を露にせず、表情を変えず、言葉を返した。
「……理由を、お聞かせ下さいませんか?」
「ここまでやってくれりゃ、アンタの目的は判る。俺の作る『糸』だ。それに価値を見出だしてくれたのは、ありがてぇ。だがな……俺は『それだけ』で終わりたくねぇ。俺はドワーフだ。鎚を持ち、鋼を鍛えたいのよ。」
「……」
「アンタに雇われたら、おそらく『糸』ばかり作らされて、それで終わりそうで怖ぇんだ。俺はな……昔から英雄が振るう『
「……それで?」
「そ、それでって……」
カルディナの返しに、ダーヴィズは言葉を詰まらせる。要は、自身の理想の為に、という事らしいが……
「そういうのは、自分でしっかり稼げるようになってから言える事ですわ。食い扶持すり減らして、夢など、
「うぐ……!」
「……それに、居もしない英雄の為に武具を造る等と、無駄ですわ。造るなら……
「――!?」
―――私の為に造りなさい。
かつて、そう言った者は居ただろうか?
否、そう言った者はいない。
しかし、
それが、ダーヴィズの胸に刺さった。
「英雄とは所詮『結果』でしかありません。英雄の武器は、それこそ木の棒でも良いのです。成せば、それがその時『英雄の武器』に成り得るからです。つまり英雄が持つ武器とは、何だってよい、という結論になります。」
「いや、そりゃ暴論だろうに……」
「ええ、その通りです。ですが、ある程度は合ってませんか?それに、英雄とて、いつ出てくるかなんて解りませんし、判りやすい看板など背負ってません。待ち続けるのはナンセンスですわ。それよりも望まれて造る武器こそ、鍛冶職人の誉れではありません?」
「それは……」
確かにそうだ。
本当なら英雄に望まれて武器を造りたい。
しかし、現実にそんな事は起こり得る可能性は限り無く低い。
本当にままならない。
であれば、本当に望まれる者に、渾身の武器を造った方が……
「俺は……」
「……とはいえ、これ以上言葉説得出来る舌は私にはありません。ですので……フェルネスさん。」
「はい、お嬢様。」
「『アレ』は出来てます?」
「はい、最終調整が昨日終わった、との事で。本日より『試験』可能です。」
「それは重畳。でしたら、御見せしましょう。私の『本気』、その一端を。」
「……本気?何なんだ?」
戸惑うダーヴィズを連れ、カルディナ達は、工房へと向かうのだった。
後半に続く!
話はポンポン浮かぶ反面、文章が膨らみ過ぎているのが悩み。
もう少ししましたら、文章の整理でもしてみようと思います。
というか、フェーダー夫婦は本来ここまで目立たせるつもりはなかったんだ……