公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい。   作:和鷹聖

54 / 69
ようやく病気から復帰!
皆さん、お待たせしました!

とりあえずヘルパンギーナ→ヘルパンギーナ→コロナ(完治!)という事がありましたが、復活しました。
だいぶ間が開いてしまったのですが、どうぞよろしくお願いいたします。

今回の話で今までモヤモヤの1つである『フミタン』の事情についてが解ると思います。
それではどうぞ!





Number.23 ~取り替えっこ(チェンジリング)の果てに~(1)

 

 

これまでの下準備は特に問題もなく行い、今回の騒動を完全な決着で迎えるべく明日を待っていたその前日の昼、鉄華団は不思議な体験をした。

経済封鎖が完了し、じわじわと工作を行い、ようやく効力が出てきて、あと翌日に行う仕上げを準備していた頃……それは起きた。

 

パワードスーツに用いられているクストのGストーンから、ルムのJジュエルから、そして他の団員達にもGストーンを通して強烈なイメージが送り込まれて来た。

それは強大な力を振り絞って尚、必死に立ち向かう一人の戦士(カルディナ)の姿。

しかし、ピンチである事も。

 

出立前の前日に突如して知らされた、予期せぬ敵──機界新種(ゾヌーダ)

 

当然耳を疑ったが、結果は()()()()

物質昇華という抵抗を許されない攻撃に対し、イメージの中では決死の特攻による攻撃で一人、また一人仲間を喪う事で、力を削られていく……そんな光景を見せられでもすれば、すぐにでも助けたい。

だが行ったとしても足手まといになるのは必定。

そして物理的距離がそれを許さない。

 

ではどうすべきか??

 

クスト、ルムはオルガを中心にすぐに皆を呼び、その場にいたサクヤシリーズ3体を中心に全員で手を繋ぎ───祈った。

おぼろげながらに思い出したのは、後にカルディナに見せて貰った『Final』のGストーンのリンクの(くだり)の事だ。

せめて、俺達の勇気だけでも届けられたら違うのでは?

 

「内蔵Gストーン、Jジュエル──DSライド、感情パルスに同調開始。」

「量子ネットワーク、Gストーンリンクに同調。」

「各Gストーン、Jジュエルにる増幅を確認………パルス、送信開始。」

 

「──頑張って!」 

「──負けんなよ!」 

「──生きて帰って来て……!」 

「──絶対勝てよ、お嬢!!」

 

そうして鉄華団全員の祈りが、その勇気が、クスト、ルム、サクヤシリーズによって増幅され、サクヤシリーズのネットワークを通してカルディナに届けられた。

だが、その瞬間オーバーロードを起こし、機能停止する3体のサクヤシリーズ。

だが、Gストーンを通して最後に感じたのは強大な敵(ゾヌーダ)に打ち勝ち、そしてそれでも後一歩届かず、()()()()を救えなかった無念のイメージ。

 

試合には勝ったが、勝負には負けた……そんな戦いであった。

 

「……終わった、みてぇだな。」

「送られて来たイメージの様子だと……お嬢とあの人、生きてるっぽい。」

「それだけが救いだよ……」

「祈りが通じたってヤツか……ってもよ、滅茶苦茶ギリギリだな。」

「浄解は……間に合わなかったみてぇだな。」

「……お嬢、あれでも最速だと思う。」

「マジか。」

「ああ。あんな急速に変化されたんじゃ、僕やクストでも間に合わない、異常だよ。」

「あの機界新種ってヤツ……俺らが知っている以上にえげつないな。」

「まあ、終わった以上、もうどうする事も出来ないから、お嬢様の事は向こうにいる人達に任せよう……僕らは僕らの仕事をしなきゃ。」

「ああ、ビスケットの言う通りだ……が、1つ大きな問題が起きやがった。」

 

あえて全員に聞こえるように声を出すオルガ。

その後ろから駆け足でやって来たのはヤマギ、ダンテであった。

ただしその表情は暗い。

 

「団長……まずいぞ。」

「サクヤのみんな、それに『コスモス』も……やっぱり完全に機能停止してるよ、どうしよう??」

「………ヤベェな。」

 

V.C.に連なる『サクヤシリーズ』及びV.C同調端末『コスモス』の全てが機能停止した事態が発生する。

こればかりはどうしようもなく、一同は頭を抱えるしかなかった。

 

「今回の作戦の一番の要───サクヤシリーズ、コスモスの量子ネットワークを使った、最後の仕上げが出来ねぇ……!」

「どうしよう……これじゃ今までやってきた事が、ただの嫌がらせで終わっちゃうよ。」

「くっそ!アーブラヴで市街にモビルスーツが突っ込んできて、リアクターからの通信障害を受けた気分だ。」

「実際は大元が潰されたようなものだからね、あと残った回線って言っても───ん?」

 

────こ……ら、GGG。鉄華団、応答して!

 

「これ……魔力(マナ)通信??」

 

インカムより聞こえる声───

それはV.C.の登場により、現在ではすっかり旧回線となった魔力(マナ)による通信。

ただし非常回線として残されていたものに、声が灯る。

直ぐ様、応答するオルガ。

そして互いの現状報告がなされ、今後の方針が決まった───

 

「──みんな、聞いてくれ。まず、お嬢だが……意識不明で疲労困憊だが、無事だ。特に後遺症もないってよ。」

 

その言葉に一同ホッとする。

 

「だが、V.C.は物質昇華の影響をモロに受けて機能停止……カインさん達が言うには、俺達を含めた祈りのフィードバックの処理と同時にV.C.が物質昇華の影響を受けたために、ネットワークで繋がっているサクヤシリーズも少なくない同様の被害を受けてしまったのだ、って話だ。」

「通信環境が直列みたいなものって聞いたことがある……その影響かな?」

「さあな。詳しい事はまだ向こうも解ってないらしい……が、こっからが本題だ───()()()()()()()()()、との事だ。」

 

その言葉に、今度は一同言葉を疑う。

 

「……あ~、俺もお前らと同じ気持ちだ。けどなもうすぐネットワークが復活するらしい。」

「え??V.C.復活したの??」

「いや、違う。復活したのはサクヤシリーズの別の個体だ。そいつが今、ネットワークの復旧を進めてるって話だ。」

「マジか。まあ、ネットワークが使えるなら問題ないか……」

「そういうこった。つー訳で、俺らは予定通りに動く、特に変更はねぇ。質問あるヤツはいるか?」

 

オルガの問いにおずおずと手を上げたのはクスト。

 

「ネットワークが復活するって事は、サクヤシリーズもみんな、問題なく起きるんですよね?」

「ああ。向こう(GGG)の話だともうそろそろ起動するとか───」

 

『──Boot complete,SAKUYA-05.Individual new system, convert.』

『Boot complete,SAKUYA-06.Individual new system, convert.』

『Boot complete,SAKUYA-07.Individual new system, convert.』

 

「あ、起きた。」

 

AZ-M製のアンドロイドとはいえ、女性型であるサクヤシリーズ3体は簡易ベッドに寝かせられていた。

その3体が起動アナウンスを響かせながら布団をどかして起き上がる。

待ちに待ったその様子を団員全員が見ていたが……

 

「あ……あの、そんなに皆さんに見つめられたら……恥ずかしいでしゅ───ああっ!?……かんじゃった、恥ずかしいですぅ

「おいてめぇら!!05の事をそんないやらしい目で見んじゃねぇ!!」

「そうよ、05はとっても繊細。そんな視線で見つめたら……その頭に電波をねじ込むわ。」

「「「 ………… 」」」

 

サクヤシリーズの3体が、純情っ子(05)とヤンキー(06)と毒電波(07)になっていた。

そんな急展開に、追い付けない一同であった。

 

 

 

今回の経緯と作戦は以下の通りである。

 

ドルトという領地があった。

その領地で、領主が息子へと急に代替わりした後、村の外へ輸出されたはずの商品の代金が正常に職人達に還元されていないところから、この問題は始まった。

製造、出荷しても払われる代金の遅延が一つ、また一つ多くなる度に領主に募ってゆく。

しかしそれに反比例して要求される商品の製造が増し、遂には材料の入手すら困難となった。

直談判するも、門前払い。そして高圧的な要求。

そして領主と職人達の対立が一層深刻なものに醸造してしまう。

このドルトの住人達はそのほとんどが職人であり、代金の遅延による生活の困窮は深刻なものである。

このままでは両者の衝突が必定のモノとなる。

だが、この水面下の異常に一早く気付いた人物がいた。

 

カルディナである。

 

商会の物流で、ドルト集落(コロニー)から送られてくる筈の国内に向けての集荷物が年々少なくなっている事に、彼女は気付いた。

そこで徹底的に裏を洗ったカルディナは一つの事実にたどり着いた。

ギャラルホルン側の工作である。現領主に密かに近づき、裏金と共に商品を横流しさせたのだ。

ただし金は領主が懐に着服、領民には増産のみを命じたのみ。

その行為により、職人達への金銭的、生活被害が発生。

これが全容である。恐らくギャラルホルン側は段階的に横流しする量を増やし、住民の不安をあおり、最終的に暴徒と化した住民を鎮圧する事で恩を売ろうとし、自らの支配下に置くつもりなのだろう。

同時に、横流しした商品は自らの国に転売……

前領主が急死していたのは知っていたが、無能なボンクラ息子が有能な(口うるさい)家臣を廃し、現状の状況までに陥らせた事が判明したのは、『ゾンダー王都襲撃事件』の後。王都に馳せ参じた顔ぶれを見せて貰い裏取りを行った後であった。

 

だが、一つ重要な事がある。

 

ドルト集落(コロニー)は、アルドレイア王国の領土の1つで、寄り親がアースガルズ領、という事だ。

故に容赦はない。

 

カルディナは今回の作戦に際し、父親(クリストファー)陛下(レクシーズ)に打診。住人の悪状況の改善、物流の正常化、そして証拠が見つかり次第、騒動の鎮圧と現領主の解任を目的とした作戦を考案する。

そして承認された作戦は後日、実行……だったのだが、先の『機界新種事変』にてカルディナは不参加となる。

そのため、元々はカルディナを中核に鉄鋼桜華試験団を中心とした実行部隊であったが、今回は全面的な対応をオルガが行う次第となった。

 

そして今回の事にあたり、五つ行う事がある。

 

一つ目は住民、職人達の支援。

内政を蔑ろにする領主に代わって(領主に無断で)金銭、物資、医療の支援する。

 

二つ目は物流の正常化。

職人達に物資、資材を与え、本来生産されるべきものを生産してもらい、(領主に許可無く)輸送、販売する。搬送は鉄華団で、アースガルズ商会が売り捌く。

 

三つ目は、正当な賃金の支払い。

(無断で)出荷した商品を売り、得たお金を正当に分配し、職人達に還元する。

(ただし、税金はアースガルズ領に)

 

四つ目は、護衛。

商品を扱う以上、不届き者がいない訳がなく、終始護衛任務をする。

(除外対象はドルトの役人も含まれる)

 

「……つー訳だ。これまでは順調と言える。」

「あ……ああ、確かに。」

 

オルガの言葉に戸惑いながらも不安げに同意するのは、ドルトの役人の『住民側』の人物、ビスケットの兄、サヴァランである。

突如やって来た(ビスケット)と、オルガに、秘密裏に計画していた住民総出での決起を指摘、待ったをかけられた1人である。

 

「んな事は止めてくれ。どっかで漏れてるぞ、決起した瞬間に捕縛、まとめて討伐されるのがオチだ。んな事より、もっと確実な方法がある───」

 

どこから計画が漏れたかは解らないが、こうなっては不本意ではあるが乗るしかなかったサラヴァン。

しかし乗っかってみると今までと同じ、それ以上の効率で労働が、販売が、経済が(領主抜きで)廻っていたのだった。

これにはサヴァラン達も納得せざるを得なかった。

しかし、不安もある。

 

「この事が領主に知れ渡ったら……」

「こんな回りくどい事をするなら直訴した方が……」

「──もうしてますよ、直訴。」

「「「え──??」」」

「今回の作戦の主眼は『現領主の無能さを露呈させる事』ですから。」

 

ビスケットのその言葉で、目が点になるドルトの一同。

ドルト集落(コロニー)───正確には『ドルト工芸製作集落(クラフト・コロニー)』という。物作りに特化した職人達の工芸集落の集まりがドルトという街である。

そしてその集落が出来た経緯は、国王レクシーズの収集した肝入りの技術再現によって一般再現されたの環境であるその統括していたのはアースガルズ家であり、ここはその一部。

現在の経済活動を支援、指揮しているのはアースガルズ家であり、ドルトはその寄子である。

それを代替わりした瞬間におじゃんにしたのが現領主。

しかも懐に入れただけでは飽き足らず、品物を他国(ギャラルホルン)に横流し。

 

「つまり『お前のやっている事は全てバレていて、こっちが指揮した方が効率がいい』ってあえて見せつけてやってるんです。そうする事で、現領主の無能さを露呈させて、観念して謝罪すれば情状酌量あり。なければ国王とアースガルズ公爵の名の元に遠慮なく断罪出来るって流れです。」

「は??この一連の流れを…………国王も知っていると??」

「全貌を掴んだのは僕達も含め、最近でしたけど。後は……行う事の五つ目、証拠を見つけ出して、裏にいる奴らも含め炙り出し、断罪する、って事なのですが……」

「………そう、なんだよな。」

 

言葉を詰まらせたオルガとビスケットの視線の先には、部屋の隅で意気消沈して三角座りをしている、今回の作戦の肝たる人物、クーデリアの姿だった。

 

「………あの、“聖女様”は大丈夫なのでしょうか??」

「まあ、多分な。義姉が倒れた事を聞いて不安になったんだろう。決起までには気持ちも戻ると思うが。あと、クーデリアは聖女じゃねぇよ。」

「いや、しかし……民衆にはそう支持されているのだが……現に回復魔法や浄化魔法で助けられた人々は数知れずなのだ。」

「……あんたらまでカイエル教(やつら)みたいな事を言うんだな。んなもん、珍しくもないっての。なあ、ビスケット。」

「ん?ああ、回復魔法も浄化魔法も使い手は選ぶけど、ありふれてるものだしね。あれ、オルガ。頬が摩れてるよ。」

「ああ、さっきの荷運びで擦ったか?」

「気を付けてよ~、はい『回復』。」

「「「───!?!?」」」

 

ごく自然に行われた回復魔法を奇跡を目の当たりにしたように驚くサヴァラン達だが、感覚が違う方向で麻痺している(調教されきっている)オルガ達にはその影響がどう出るかは判っており、そしてどうでも良かったりする。

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

問題はクーデリアである。

彼女は今回、カルディナの代役としてアースガルズ家の監査役を担っている。

そのため、現領主に対して寄り親代行として『ビシッっと(実刑宣告を)』言って貰わねばならないのだ。

何せ、この騒動の中にはアースガルズ家と商会を貶めようとする動きがあったからだ。

将来の商会長である彼女(クーデリア)にはやって貰わねば、アースガルズ家、ひいては王国の沽券に関わる。

 

……が、今のクーデリアにはとある不安に支配されていた。

前世のドルト・コロニーで凶弾に倒れた、フミタン・アドモスの存在である。

カルディナ凶報を知らされた彼女には真っ先にフミタンの事を思い出した。

確かにフミタンの死はあの時の自分が乗り越えた。

だが、今回もそうであれば、誰かが自分を庇って死ぬだろう。それでなくとも自分に関わった者が斃れるとも……

前世と同じような要素が絡み合うなら、間違いなくそうなる。

今のクーデリアはそれが一番怖い。

せっかくフミタンに「私は大丈夫です!」というところを見せたいのだが……

そして困った事に、クーデリアの抱く不安を払拭出来る人物が────誰1人としていない。

 

「オルガー、応援の人達が駆けつけてくれた……って、どうしたの?」

「ああ、ミカか。いや、クーデリアがな……お前も声かけてくれよ。」

「おれもさっき励ましたけど駄目だった。アトラもね。」

「駄目か……せめてお嬢の声を聞かせられる状態ならな。」

 

四方八方塞がりである。

そんな時、オルガのインカムから着信音が。

 

「はい、こちらオルガ──」

《──お困りの様ですね、団長。》

「……V.C.みたいな声だが、もしかして0()9()か?」

《はい。状況はおおよそ理解しています。そんなお困りの皆様に逆転の一手(勝利の鍵)をお届けいたします。》

「……まだ短い間のやり取りしかねぇが、随分気回し早くねぇ??いや、早過ぎやしねぇか??」

患者(クランケ)の要望には堅実速攻でお応えするのが私の務めなので。》

「速攻……って、いやいい。んで、お前の言う逆転の一手(勝利の鍵)ってのは何だよ?」

《この後30秒程で到着します。ある意味劇薬なので驚き過ぎにはご注意を。》

「早いな!しかも劇薬かよ!?」

「オルガ、誰と話してんの??」

「……サクヤシリーズの09だ。あと30秒程で逆転の一手(勝利の鍵)が来るってよ。」

「サクヤの09……手筈早過ぎない?」

 

サクヤシリーズ09。

V.C.が機能不全になった後、一番最初に起動し、残りのサクヤシリーズ、コスモスを統括ネットワークを一手に引き受ける個体である。

V.C.が元々医療対応のコミュニケーションAIであるためか、対応する人物を患者(クランケ)と呼び、まだ音声のみでのコンタクトしか取っていないが、その対応は手術のように的確な対応をする、現在のサクヤシリーズの中核である。

呆れる程に手筈が堅実速攻である存在だ。

そんな存在が『あと30秒程』と言えば、何かが起こる──

 

「──失礼します。」

 

ノックの後、数人の男女が部屋に入って来た。

地味な外陰にアースガルズ家の家紋の刺繡──カルディナの『影』である。

こいつらが逆転の一手(勝利の鍵)なのか?とオルガが思うのも束の間、『影』の内の1人が落ち込むクーデリアの下に歩み寄り、そして顔を覗き込むようにしゃがみ込む。

 

「そうやって、何時までいじけているつもりですか?私に、いいところを見せると、息巻いていたと伺っていますが。」

「!?」

 

静かに響いたのは()()()()()()──

けれども、今誰よりもクーデリアに希望を与えられる声が───

 

「あ、貴女は……!」

「私はちゃんと此処にいます。ですがお嬢様、貴女の今すべき事は……何ですか?」

「私の……すべき事は……」

 

その人物の言葉に、出会った感動を端に置き、今一度想いを返すクーデリア。

今すべき事、託された事、それは───

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

帰って来た現領主とその取り巻きが、集落の活気に何だ何だと異変を感じ取り、既に出来上がった品物を無断で接収しようとした直後、待ち構えていた鉄鋼桜華試験団により1人残らず捕縛され、黒い大きな板を掲げた集落の広場に放り出された。

そして集落の住人達と試験団に取り囲まれる中で、豚のように肥えた現領主が叫んだ。

 

 

「無礼者共が!!俺の慈悲を忘れやがって、全員死刑にしてや───!」

「──そのような謂れ、貴方に言う資格はありません!」

「───!?」

 

豚の喧騒を雷鳴の如き一喝で黙らせたのは、クーデリアであった。

 

「どうも皆様、私はクーデリア・A・アースガルズです。」

 

自信に満ち足り、普段は怒らない慈愛に満ちたと評判の彼女が180度変わって、絶対零度の怒りで一行を睨み付けいる事に、誰しもが驚いていた。

何故なら今回の一件で、一番業腹なのは集落住民を除くと、クーデリアであった。

記憶を取り戻す前でもクーデリアは慈善事業や福祉活動に率先して取り組んでいた。

時折、義姉(カルディナ)に『安易なお情けは人を堕落させる。厳しくともやるなら独り立ちするまで』と助言を貰い、アースガルズ領内の失業率低下、復業率上昇、更には商会を通じてライフラインの着工、働き先の斡旋までと、カルディナに隠れてこそいるが、充分な采配を発揮しており、魔法の素養や、素行も相まってカルディナと同様に『聖女』と呼ばれるようにまでなった。

ただ、当人はその点はどうでも良いと思っている。

 

「領主殿。貴方には税金横領、着服、及び納入品横領の罪が問われています、ご同行を。」

「ふざけるな!横領?着服?誰がそんな事を!此処は俺の治める土地だ、その采配は俺に一任されている!余計な口出しは無礼であるぞ!」

「その通りですよ、聖女クーデリア。」

「……貴方は、私をしつこく勧誘してきた、カイエル教の司祭ですか。」

「しつこく勧誘とは心外ですぞ。私は神の御言葉に添ったまで。そしてこのドルトの領主の行いも神の采配───つまり世の真理です。」

「……その割にはドルトの民達が大勢嘆いておられます。その方達に救いの手を差し伸べないのですか?」

「もちろん差し伸べますよ───御布施を頂ければ、ですが。」

「……」

「救いの手は無数にありますが、どこにでも、という訳には参りません。引く手数多なのですから順番に、なのです。ただ御布施を頂けるなら、その順番は……早める事が出来ます。」

「その通りだ!私はその救いの手を早く差し伸べて貰えるように、我が身を切って御布施を貯めているのだ!それを貴様らは妨害していると報告を受け、俺はここに急ぎ参った!それを貴様らは───!」

「──もう結構。」

 

公明正大のような言葉を吐き出す2人の発言をピシャリとクーデリアは止める。

同時に、シノと昭弘が刺叉で強制的に地に伏させ、発言を許さない。

 

「……つまり、民に払う報酬すら削り、多大な御布施をカイエル教に払うため、アルドレイア王国には払うべき税金を滞らせた、そう言う事ですね。」

「そ……その通り、だ。だがそれはやむ無く……」

「───貴方の主はいつからギャラルホルンの《飼い犬》》になりました?

「!!」

「そもそも、何故私がここにいるかお分かりですか?我が義姉、カルディナの名代という理由もありますが、その実は我が義父クリストファー・S・アースガルズ公爵の名代です。故に……今の我が存在、我が言葉はアースガルズ公爵の言葉と知りなさい。」

 

纏うケープを翻し、刺繍されたアースガルズ家の家紋を見せ付けるクーデリア。

その見せ付けられた家紋で、事の重大さがようやく理解出来た現領主と狼狽する司祭。

だがもう遅い。

今回行われた事は、紛れもない背国行為。

ドルトで生産されている品々は、陛下(レクシーズ)直々に企画され、家臣達にその生産地域を調整、配分されたもの。全て決まった場所に納めるモノであり、決して横流しして許されるモノではない。

それに関わらず現領主は前領主が退役(死亡)した後、最寄に報告、葬式も内密にしか挙げず、埋葬したのみ。

そしてロクに引き継ぎも現状把握もせず、領地を自己判断で我が物とした。

当然寄り親(アースガルズ家)にも国にも報告せず、ただ利益を貪り、当人とその取り巻きは豪遊の限りをしていた。

それらの原因は現領主の人間性と、カイエル教の唆し、この2点に他ならない。

 

「調べは既についています。貴方達が商品の搬送にゴルドン商会を使っていた事も明白です。そしてこれらの書類がその動かぬ証拠。言い逃れは出来ません。そして……集落の管理についても、現当主には適正なしと下されています。なので、貴方のこのドルト集落の領主権限は剥奪されますので、この後退去のご準備をして下さい。」

「剝奪に退去だと!?このアマぁ!お前にそんな権限があると思っているのか?!」

「──あります。言いませんでしたか?今の私の存在、言葉は……」

 

《私の代わりであると──》

《──言っていたはずであろう。》

「「──!?」」

 

クーデリアの背後にあった黒い大きな板、それが突如、光を放ち、この国の最大級の権力を持つアルドレイア王国(レクシーズ)アースガルズ公爵(クリストファー)の姿を映し、2人の声も響かせる。

突如始まった光景に住人や職人達は一瞬戸惑うが、事前に知らされていた事を思い出し、すぐにひれ伏した。

由緒、それは巨大なモニターで、王都の王城からドルトまで量子ネットワークによるリアルタイム通信であった。

つまり目の前の2人は本物なのだ。

 

《一部始終、全て見させて貰ったよ、現ドルト領主。素晴らしい働きぶりだ。素晴らし過ぎて……この地を任せるには惜しい。寄り親としては実に口惜しい所業の数々だ。》

《私も国王として、公爵の意見に賛同する。故にアルドレイア王国国王として、貴殿に沙汰を言い渡す───今を以て、ドルト領主の座を解任、爵位を剥奪。そして一族郎党、今回の件で中核となった人物、商人らは、国家反逆罪に処す。》

「な……!?」

《言い訳は無用……今までの行いを知らぬ我々ではない。そして、今回の件……他領の領主達も知見している。今までの行い、全てを現在進行形で、だ。》

「なぁ……!?」

 

つまり、アルドレイア王国の全ての領主達も量子通信によるライブ映像を見ている事に他ならない。

これは完全なる公開処刑である。

今頃、事前に送り付けられたモニター画面をコスモスの花と一緒に驚愕の表情で見ている事だろう。

そして画面に映るレクシーズが、カイエル教の司祭を睨みつける。

 

《……そしてそこのカイエル教の司祭、貴殿も同様だ。陰ながら他国の者が我が国の(まつり)に口を出すなど、無礼千万。》

「お待ちくだされ!私を拘束する事は、カイエル教に……神に逆らうという事!それがどういうことか……!!」

《関係ないな。貴殿はギャラルホルンの住人だろう。国の法に当て嵌めれば罪人である事は違いない。そして知らぬ存ぜぬと言うだろうが……我が国は政教分離の方策を取っている。》

「政教……分離!?」

《我が国は誰がどんな宗教を信仰しようが構わぬ。しかし宗教の教えを政治に持ち込み、適応を強要する事は一切許していない。宗教(お前達)の考えと(我等)の方針は違う。》

「な、何とも、愚かな……」

《『(超常の存在)』の名前さえ存在すればどうにかなると思うな。私には()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()が神を名乗る等と愚かしく烏滸がましい。そしてお前自身、奉る神の姿はどんなものか、実際に見た事があるまい。》

「え、えとそ……それ…は……」

「───陛下、これ以上の問答は時間を取るだけで無用かと。司祭クラスは所詮、自分達の神の姿を見た事のない者ばかりです。」

「な───何故それを……あ。」

《……であろう。己が奉るものの実態を知らぬのは愚かな事だ。連れて行け。》

 

全てを見抜かれて愕然とする司祭を含め、引っ捕らえられ、連行される一同。

彼等には厳しい沙汰が下されるのは間違いない。

 

───が、完全には終わってはなかった。

 

「皆さん、本件に主体となって携わった商人、ノブリス・ゴルドンの捕縛が()だです。引き続き、草の根を分けてでも捜索、捕縛を。」

 

カイエル教と共に横流しに携わっていたゴルドン商会の中核、ノブリスがまだであった。

どうやら自前の情報網で今回の企てを寸前で察知したようで、事が起きる前に適当な理由を付けて場を逃れたらしい。

 

「──ま、それすらも計算の内ってヤツだ。もうそろそろ連絡が───っと了解だ、今向かう!おい、おめーら!ライドから、ノブリスの野郎を見付けたってよ!行くぞ!!」

 

オルガの号令で直ぐ様、発見地に向かう鉄華団達。

事態は佳境に差し掛かっていくのであった。

 

「……」

「ん?どうした、ミカ。」

「いや、さっきのクーデリアの()()なんだけど……お嬢みたいだった。」

「あ~、確かにね。」

「あのメンチの切り方とか、マジでお嬢が憑依したみたいだったな。クーデリアがお嬢化、か……」

「そう考えたら……す ご い か な し く な っ て き た 」

「大丈夫だ!多分!そんな事考えんな!」

「大丈夫だよ!きっと!そんな事考えんなくていいよ!」

 

アースガルズ商会を率い、魑魅魍魎の貴族社会を生き抜くなら、カルディナのような苛烈な面も秘めねばならないのはある意味必定なのだろう。

が、それと三日月の夫婦生活に影響が出るのは別。

オルガ、ビスケットの渾身の励ましに、不安募る三日月の心配はあるだろうが、それはさておき。

事態は佳境に差し掛かっていくのであったら、差し掛かるのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

森の開けた窪地の中央で、ノブリス・ゴルドンは四方を大楯を持った用心棒に囲まれながら怯えに怯えていた。

 

この世界のノブリス・ゴルドンは前世と同様に商才に恵まれていた。同時に欲深く、他者を出し抜く事に躊躇がなかった。

損得に敏感で、やる時は徹底的に、そして退く時は一目散に。強者に媚びへつらってでも利益を追及した。

自分以外を「物」として数え、金にものを言わせて自分の手を汚さずに、他者に陰で非道を数えるのが馬鹿馬鹿しくなるくらい行為を強要させてきた。

故に齢60を過ぎても商会は栄え、今ではギャラルホルン教皇国の勢力圏内の商いを牛耳る事が出来、カイエル教お抱えの商会と成り上がった。

 

……それ故、彼の過ちは「世の中、金でどうにかなる事」のみが信条である事。

そして老いる以前から「手を出してはいけない、圧倒的存在を察知出来なかった事」。

 

それを今、身をもって、飛び交う未知なる静かな発破(サイレンサー)音と共に体感していた。

 

「──ギャアッ!?」

「痛てぇ!!」

「い、いったいどうなってやがる!?何とかし───うぎゃあーーー!!」

「し、知りませんぜ!見えない攻撃が───ァ……」

 

目の前に人らしい人影はいない。

なのに言いかけた後、目の前で力無く倒れる用心棒の死に様を見て恐怖する。

容赦ない連射にて、用心棒の頭から血を流して倒れ、気付けばあっという間に死ぬ様は、あまりにもあっけない。

 

「───覚悟、しなッ!!」

「あぎゃあ!?」

 

小柄な少年が突然現れたと思いきや、ノブリスの左右の僧帽筋、鎖骨が正確に撃たれ、激痛もそうだが腕が上がらない事に更なる恐怖を感じながらも、あっという間に壁としての用心棒は1人となってしまう。

そしてその少年は草陰の中に消えていった。

 

「おいてめぇ!絶対俺を守れよ!その分の金は払ってんだからな!」

「おいおい、これ以上は追加料金をもわらにゃ割に合わんぜ。どう生き残れってんだ?」

「それはお前が考えろ!どうにかしてここから逃れるようにしやがれ!」

「……ったっく、しゃあねぇな。だったら、とっておきの方法を披露してやるぜ。」

「そんなもん、あるならさっさとや───ゲホっ!?」

 

奇策があると身を翻した用心棒は、体重70Kg近くのノブリスを───蹴り上げた。

一瞬何が起きたか解らないノブリスであるが、苦しみ、這いながら辛うじて見上げた用心棒の顔を見て驚愕、更に混乱した。

 

強屈な男の用心棒と思っていた人物が、見る見るうちに姿を、声を変えていった。

白衣を纏った長身の金髪女に変化していた。しかもその顔は……まさかの仮面(無貌)

サクヤシリーズの1人、サクヤ-06が用心棒に擬態していたのである。

 

「ったく、()()()()()標的と居座んの、ホントにしんどいんだが。さっさと仕留めたかったぜ。」

「06、ご苦労様。高電圧電波、指向解放。」

「うぎゃ!?」

 

芝居はお終いと言わんばかりにいつの間にか寄って来た、もう一人の白衣を纏った黒髪の女が、ノブリスに強烈な電波が放たれ、全身の神経、運動機能が麻痺してしまう。

 

「06~、07~、おまたせしまし──きゃん!」

 

───ブスっ

 

「……05。何もないところで転ぶなよ。」

「しかも『首から下が一生弛緩剤』を一度にそんなにたくさん。」

「それ、0.1㎜でも注射量間違えると後遺症残す奴だろ。大雑把に入れんなよ~。」

「す、すみません……」

「まあでも大丈夫だ、間違いは誰にでもある。」

「そうね、誰にでもあるわ。()()間違えないようにすれば。」

「はい!」

 

『次は頑張ります』と3人で和気あいあいとしているも、手遅れなノブリスは放置であった。

実際、その()()ノブリスに来るとは永久に思えない。

そんな状況の中、鉄華団達が丁度よく到着した。既に事態が終わっている(ケース・クローズしている)事に驚いたが、これもシナリオの内である。警戒しながら、ノブリスを包囲する。

それを見計らって、06が誰もいない場所に声を発すると、その人物は違和感もなく風景の陰から突然現れた。

 

「さて、こっちの仕込みは終わったぜ、()()()。」

「ご苦労様です。」

「お……お前はヴィータ……ヴィータか!?」

「ご機嫌麗しゅう、ノブリス・ゴルドン。良い恰好ですね。」

 

絶望の淵に立たされているノブリスが確認したその人物は、ヴィータという。

ノブリスの部下であるのか、ノブリスは裏切りに対し激昂している。

そしてその風貌は鉄華団の誰もが知らない顔であり、その人物はノブリスを見下ろすのだった。

 

「ヴィータ、この裏切り者が!!こんな事になるなんて……何時から裏切ってやがってた!?」

「最初からです。常日頃から貴方に命令されるのが嫌で嫌で……」

「ちょっと待て、最初から……だと!?ガキの頃からじゃねぇか!」

「はい。貴方に拾われたガキの頃から実に11年、既に貴方を貶めるシナリオを考え、準備していました。そして貴方の商会の影響範囲が最高潮になった瞬間、それらを全て奪い去ろうと……」

「奪い去るだと?俺の築いてきた、商会の全てを?馬鹿馬鹿しい、てめぇみてぇな小娘に何が出来ると……」

()()()を見ても、そう言えますか??」

「そ……それは……!!」

「はい。教皇国との商いの許可状です。その他、貴方が懇意にして頂いているお偉方との書状、全て。」

「返せ!!それは俺が苦労に苦労を重ねて手に入れたモンだ!!」

「違うでしょう?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、でしょう?既に手に入れた者から奪い去り、競合する者を裏で蹴落とし、表に裏に現存する商会へ暗躍し、他の商会の評判を落としたり……そんな()()()()()()()()で手に入れた、汚い証。調べれば出るでしょう、あるはずのない、前任者の証が。誰もが納得する形で……」

「そんなモノ出ようが関係ねぇな!死人の証拠なんぞ意味なんてあるか!」

「……貴方なら、そう言うのは予測出来ていました。ですが、()()()()そんな事を言う資格はない───」

 

そう言って自らの顔をヴィータは掴む。

顔の皮──擬装は剥がれ、その下から()()()()が現、その顔にノブリスは驚愕する。

 

「その顔は……!」

「改めてどうも───フミタン・アドモスです。」

「そのニヤケッ面…もしかして、あの忌まわしいアドモス商会の青鬼才の頭目!?」

「覚えていて下さって光栄です。幼い時から私はよく父似と言われましたからね。」

 

ヴィータと呼ばれた人物の下から、鉄華団もよく知る人物───フミタン・アドモスである。

団員達には良く解らないが、フミタンの顔はどうやら父親似のようだ。

 

「アドモス商会は頭目を始めとして主要な奴らはあの時…………どうして、生きてやがる?」

「助けられたからに決まっています。12年前、ギャラルホルンであった大飢饉。当時小麦を多く抱えつつ、国が出さない救援物資を自腹で多方面に搬送に奔走していたアドモス商会にした仕打ち……それによって飛躍したドルトン商会。私は忘れていませんよ」

「……な、何のことだか。」

「シラを切りますか……まあ、当時関わった古参の方々からは証言は得ていますので結構です。」

「な、口を割りやがったのか、アノ野郎───あ。」

「自ら証言とはお優しい。一番欲しかった証言、頂きました。ですが、これ以上の証言は不要なので、その口は閉じててください。06さん、猿轡。」

「あいよ。」

「うぐッ……!?」

 

手慣れた所作で猿轡を噛ませ、制圧する06。

 

「まあ、どんな結果にせよ、私はこうして生き延び、貴方の懐に入り込み、暗躍し、貴方の商会の一つ一つを貴方が知らない間に解体し、本日を以って全て奪い去った運びとなりました。あ、ちゃんと正規の手続きは踏みましたよ?書面は代筆でナンバー2の方にお願いしていましたが……実に快諾して協力してくださいました。『直にこの商会は私のものに……』って笑っていたという、そんな些細な事はありましたが……っと、書面完了。ではサイン、頂きますよ───06さん。」

「あいよ~。」

「───!?、!?、!!!」

 

06がノブリスの右肩を掴む、すると薬で麻痺している筈の腕が動き出した。

ペンを握らせると自然につかみ、ノブリスが訳の解らないまま、フミタンが差し出した書類の末尾(サイン欄)にごく自然に自らの名前を書く。それも一枚……二枚と。

外部からの電極操作である。一定の電流、電圧を流す事により、人体の身体を外部から操作出来るのだ。

ただし、その際には尋常ならざる痛みを伴う。

 

「この光景、某事務所で優しく丁寧に書面を補佐してくれる強面のお兄さんね。」

「誰が兄さんだ、優しい受付のお姉さんだろうが。」

「終始間違いを見てくれるんですか?その方……お優しいですねぇ。私、こういうの苦手で……」

「そうそう……間違った箇所を丁寧に指摘してくれて──『あ~、ここの桁は2つゼロが増えるんだぜ』ってな。」

「そして利子は10日に1割。」

「難波弁の眼鏡をかけた、人情味あふれる人ですね。」

 

サクヤシリーズの会話のやり取りが具体的過ぎて怖かったが、あえてそこはスルー。

ごく一部が和気あいあいとする中、不気味なノブリスのサインは終わり、その書類一式を拾い上げるフミタン。

ちなみに、無理矢理身体を動かされた影響でノブリスは過呼吸寸前、身体が震えあがっていた。

 

「何を震えているのです?貴殿方が今までしていた常套手段でしょうに。さてこれで、貴方に無理矢理吸収合併されたアドモス商会を買い戻せました………長かったです。さて残りはこの男(ノブリス)の隠し資産の吸い出しですね。」

「!?」

「ここまで来て『そんな事までするか?』みたいな顔ですね。私達アースガルズ商会は貴方の商会からそれくらいの被害を被っています。手加減はしませんよ。『我ら、アースガルズの影役者』ですので。」

「!!!」

 

アースガルズ商会の名を、そしてもう一つのキーワードを聞き、錯乱するノブリス。

ようやく、誰に対し喧嘩を売ったのかを自覚したのだが、もう遅い。

 

「さて尋問、拷問しようにも、この金の亡者にどういたしましょうか。」

「サクヤシリーズの誰かに、思考読み取り(リーディング)をしてもらったらどうです?」

「そうしたいのですが、彼女らの機能はそこまで回復していないそうで──」

 

「──では、私がしましょう。」

 

「あ……貴女は、()()()()。」

 

()()()()()()()()()()()姿()で、その人物は何を隠す事もなく、その輪の中にいつの間にか降り立っていた。

 

───フミタン

 

フミタンがそう呼称する人物は、赤髪のメイド──()()()()であった。

そして赤髪のメイドは普段変わらず淡々とした所作で、拘束しているノブリスの頭部を鷲掴みにし、軽々と持ち上げる。

 

「フミタン、どうしてここに??貴女は、確か……」

「カルディナお嬢様、それと陛下達から、『加勢に加われ』との命よ……それとお嬢様が『もう取り替えっこ(チェンジリング)は終わりよ』と仰っていたわ。だからもう私達の()()()()()も終わり。()()()()()()()

「……そう。解ったわ、()()()()

 

フミタン。

ヴィータ。

 

これまで謎であった人物がここに揃った。

それは鉄華団も間違いなく記憶にある、間違いなく自分達の知る『フミタン』。

そして今世で『フミタン』と呼んでいた人物が『ヴィータ』。

 

「あと『副従侍長』へ辞令。『今作戦が終わった後、今後許可あるまでは荒事への参加は禁止お休み』とします。」

「……了解したわ、『従侍長』。」

 

そして今まで『フミタン』を名乗っていた『ヴィータ』はどうやら『フミタン』と通じていた様子。

その言葉に

その事に安堵するのも束の間、また別の勢力が周辺を取り囲んでいた。

 

「ここは我等が聖域とした。異教徒は我等が意に従え。さもなくば、死だ。」

「その黒装束で誤魔化しても無駄です……このジジイの私兵でしょう、貴殿方も飽きませんね。目的は()()ですか?」

「手荒な真似はよせ。その人物は多くの『徳』を積んだ崇高な人物、素直に渡さねば───」

「───いやいいですよ、こんなジジイ。お返しします、即日返品です。ただこのジジイが『徳』を積んだ崇高な人物とかどんな冗談(笑)。徳は徳でも『悪徳』でしょうに。実に草生えますね。ワロス」

「ぐぬッ!」

「ああ。そちらも動けばもれなくトマトジュース(団体客用)が(このジジイを即すり潰すぐらいは)出来ますよ、ご所望であれば即時お作りします(ミンチより酷いヤツにします)が……どういたします?」

「このアマ……!」

 

赤髪のメイド(ヴィータ)の動向は、事前にしっかり聞いていた……しかしこれはどうだろう。

これは普段と変わりない───いや、前以上の茶化しである。とっても酷い。

更に、顔に感情のブレが現れないため、メイドにありきな表情以上の顔をしないのだ。

先の戦いにて、『ヴィータ』という存在は意図せず機界新種(ゾヌーダ)となり、マギウス・ガオガイガーと死闘を繰り広げ、そしてゾンダーへの切り札の浄解に、急速に人間形態へと変化(シフト)して浄解を乗り切った、言わば『異常な存在』。

元より異常ではあるが……よくカルディナのメイドをやっていられる。

そんな中、

 

「止めんか、小娘の挑発に何の意味がある。それにアースガルズの者共も主人が居ねば何も出来ぬ、小物の集まりに過ぎん。」

「………」

「例え、アースガルズの公爵令嬢であっても我等の敵ではない、我等の手に掛かればあの小娘とて───」

 

───ゴキンッ

 

恐らく敵の隊長各であろう、御満悦に語っていたのだが、その頭は突如消え失せた───否。

すぐ後ろの太い幹に肉塊が───ノブリス・ゴルドン()()()()()()と一緒に歪な肉塊となって飛び散っていた。

それを成した、とあるメイドは全力投球をやりきったポーズで静止。

そして静かに姿勢を正して、営業スマイル(いつもの笑み)で。

 

「これ以上意地悪言うのも可哀想なので、そちら(ノブリス)はお返しします。『04』も頭の中読み切ったというので、そんなもの、もう必要ありません。ああ、出来ませんか。失礼しました、これから超特急で黄泉路へと赴向かせられる皆様には───」

「───ウゲッ!?」

「ガハッ───!」

「───プフゥ」

「……必要ない問いでしたね。しかして我が主人(お嬢様)への無礼……生きて帰れると思わない事ですね。」

 

そしてそのメイドは、絶対領域(スカート)より取り出した消音器(サイレンサー)付き銃身39cmのオートマチック(グラサン吸血鬼御用達)の2丁銃をごく自然に振り回し、的確に撃ち抜く。

そして出来た、目にする唐突な阿鼻叫喚。

これ以上ないくらいのメイドの営業トーク(ありふれた宣戦布告)に黒装束の者達は畏怖も怒りも込み上げつつ、即反撃の体制を執──

 

───パシュ──パシュ──パシュッ!

──パシュ─パシュッ!

─パシュッ!──パシュッ!

───パシュ──パシュッ!

──パシュッ!──パシュッ!

──パシュ──パシュッ!──パシュッ!

──パシュッ!──パシュッ!

 

──れる訳がなかった。

 

「ちょ、おい!四方八方からいきなり、これ銃声だろ!?オルガ俺らどうしたら……」

「いや、どうするってもよ……これ、参戦していいのか?」

「──ダメっすよ、団長。今は手出し無用っス。」

「……え、ライド??」

 

林の陰から死角から、次々に放たれる小さな凶弾の雨に倒れた黒装束達は失念していた。

もちろん目の前のライド・マッスもオルガ達を制しつつ、見た事もないSFチックなハンドガンを連射している。

今の今まで開口一番、誰に一番擂り潰されてきたのか?

どうしてアルドレイアの国から自身の諜報達が残らず抹消されたのか?

最後の独りになるまで侮っていた。

 

「「「我等は、影。」」」

「アースガルズの影にして陰」

「その中央に立つ者の影」

「我等の力は、主の為に」

「我等の眼は、主の眼の代行」

「我等の手は、主の御手の代行」

 

貴奴等の先人達は伝えられなかった他ならない、この『影』の存在を。

『主』から与えられた恩を還すべく、何よりも『個』でなく『群』と成す存在。

 

「……そして、我等は共通の怨敵を討つ為の『力』である。この日の為に我等は存在する。故に……見逃すとお思いですか?」

お、ごご(や、やめ)……!」

 

──パシュッ!

 

「……我等は『影』。我等が主、カルディナ・ヴァン・アースガルズ公爵令嬢の『影』である。」

 

ヴィータが最後の1人を討った。

同時に周辺がオルガ達が不気味がる程に静まり返る。

同時に老若男女の嗚咽をこらえるような声がそこら中から聞こえた。

ちらほら見え隠れする外陰達からは哀愁か、安堵か、達成の念か。それは解らない……が、ヴィータが気持ちを切り替えるように合いの手を入れた。

 

「皆さん、これを以って状況を、目標を達成致しました……が、お嬢様も常日頃から仰っています──」

「「「──『片付けが終わるまでが仕事です。』」」」

「重畳。では──各自散開。」

「「「──かしこまりました。」」」

 

そうして見え隠れしていた人陰は霧散、その場に鉄華団の他、ヴィータとフミタンを残すのみとなった。

いきなりの空気に面食らうオルガ達であったが、そこはヴィータとフミタン。

 

「失礼を致しました。」

「……ところで、お前らは結局何なんだ?話の流れ」

「ああ、そういえば。私達の所属のご紹介をするのがまだでしたね。」

「そうですね。改めて……私達は旧名『CVA諜報部』。現在は『GGG諜報部』──通称『影』です。」

「詳しい話は……そうですね、長くなってしまうので場所を用意しています。そちらでお聞き下さい。」

「お、おう……」

 

普段のメイドの所作で彼らを案内するのであった。

 

 

《NEXT》

 

 

 


 

 

《 現在公開可能な情報 》

 

〇サクヤシリーズ05、06、07

V.C.機能不全後に再起動した後の個体。ネットワークの大本から画一インストールされた『Individual new system』を元に再構成されており、それに伴って外見、スペックも変化している。

05~看護時におけるストレス減少、コミュニケーション円滑化を目的とした人格。医療対応に特化している。黒髪の癖のないロング。時々ドジっ子。

06~トラブル発生時における強制鎮圧を目的とした人格。金髪ロングで姉御肌。

07~ネットワーク・ハブ円滑化を目的とした人格。電波、電気関係を担う。黒髪三つ編み。毒舌

※『Individual new system』で構成された人格は個体によって多種多様となっているため、同一の個体はいない。

 

〇ヴィータ・アドモス & フミタン・アドモス

《……coming soon》

 

 




……とは言っても、さっくり終わらせたい話だったのですが、だいぶ盛ってしまいまったので、ガオガイガー成分はほとんどなし。
むしろ通過点とはいえ、オルフェンズの消化話となりました。

今回の話では
・ドルトの不正にギャラルホルンあり。
   ↓
・爵位、地位を利用して権力と財力で殴り込んで断罪。
   ↓
・相手の商売の中核のノブリス・ゴルドン(陰険ジジイ)を商売でも追い込み、ついでに私兵も撃退(ミナゴロシ)

となっています。


次話は近日公開です。(いつとは言わない)
感想、誤字報告等宜しくお願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。