公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい。   作:和鷹聖

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だいぶ遅れて申し訳ありません。
世間は大雨だ、コロナがぶり返しただの、不安な事が多々ありますが、お嬢様はいつも通りです。

後半を読んで、まったり出来る材料になればと思います。(確実に無理)


※4/28 文章中の「ホビット」の表記について、アドバイスがありましたので「ハーフリング」に変更しています。


Number.04 ~『勇者王』を創る決意~(2)

 荒れ地の試験場より工房に戻ったカルディナ達は、工房の中心へと向かっていた。

 ちなみに、カルディナは着替えはしていないが、膝まであるマントで体を隠していた。

 流石にそのままでは羞恥プレイでしかない。

 その途中、一仕事終えて安堵していた人物が、カルディナを見つけ、声を掛けてきた。

 

 

「あ、お嬢~。丁度よかった。」

 

「あら、ヴィトー。どうしましたの?」

 

「ん?ビト坊か?」

 

「あれ?ダーヴィズのおっちゃん!どうしてここに?」

 

 

 どうやら、ヴィトーとダーヴィズは顔見知りの様だった。

 ちなみに、ヴィトー……ヴィトー・バギンズは『ハーフリング』である。

 

 ハーフリング。

 身長60~121cmで、わずかに尖った耳をもつ。足裏の皮が厚く、毛に覆われているので、靴をはくことはない。彼らは、冒険的でない牧歌的な暮らし、すなわち農耕・食事・社会生活を好む。ハーフリングは人間より若干長い寿命を持ち、しばしば120歳まで生きた(平均寿命100歳)。33歳で成人し、50歳で中年となる。また、酒場でエールを飲むことを好む。

 平和と食事を何よりも愛し、たいてい太っている。贈り物をするのもされるのも喜び、食べ物を例えに出すことを好む。しかしいざとなると驚くべき芯の強さを見せる。目が良いので石投げと弓矢の扱いが上手い。髭を生やしているものは一部の氏族を除いて殆どいない。

(Wikipedia参照)

 

 この世界でのハーフリングは、人間の背の低いバージョンの様な外見で多少小太り。エルフよりは短いが、多少尖った耳を持ち、そしてやたら手先が器用だ。

 金属細工師と呼ばれる職業があるが、その三分の二以上は彼らで、その技術はどの種族をしても彼らには敵わない程、卓越している。

 ちなみに、成人年齢は33歳であり、法が許しても、ハーフリングの種族間の決まりで飲酒も禁止されている。

 

 そんなハーフリングの一人である赤髪の少年、ヴィトー(25歳)は、ダーヴィズに歩み寄り、そして互いに握手する。

 

 

「それは俺も言いてえよ。お前、確か『向こう』に居たろう?最近見ないと思ったら、何でここにいる?」

 

「そりゃ、引き抜かれたからね。『向こう』で散々酷い目に遭ったのは知ってるでしょ?先月こっちに半ば避難がてら作品持って、アースガルズ領に来たんだけど、その先でお嬢に会って……」

 

「……まさか、作品見せたのか? あのやたら細かいのを。」

 

「偶然ね。そしたら『是非!ウチの工房にいらっしゃいな!』的にスカウトされたんだ。」

 

「……まぢ、か。」

 

「でも、今は楽しいよ。ある意味、畑違いの仕事もさせられるけど、それが、自分の『お得意』と合致した時は、すっげぇ快感でさぁー! 世界広がったよ~。」

 

「何?それってどういう……」

 

「――あの、宜しいかしら?」

 

「あ、ごめんお嬢。つい話し込んで……」

 

「それはいいですの。それより、2人は知り合い、という事で間違いないかしら?」

 

「うん、『向こう』で一緒に働いてた事があってさ。おっちゃんには良くしてもらってたよ。」

 

「……『あちらの工房』、随分業が深いですわね。ヴィトーといい、ダーヴィズさんといい……ちなみに、ヴィトーから見て、ダーヴィズさんの鍛冶師としての腕はどうですか?」

 

「?? 凄いよ。超に近いぐらい。精密で、スキがないって感じ。ただね、デザインの方向性でさ、『カクカク』とか『バリッ』したのが大好きで、よく工房長とか依頼主とトラブってた。」

 

「こら、ヴィト坊!」

 

「有名な話だよ。」

 

 

 どうやら、腕はいいのに一癖あって、注文にはそぐわないタイプの職人らしい。

 

 

「まあ。ですが腕は一流、ですのね。」

 

「それは間違いないよ。」

 

「それは重畳。ならば、尚更『アレ』を見せる必要が出来ましたわ。もしかすると趣味が合うかも。」

 

「『アレ』? もしかしてお嬢が来たのって、試験するため!?」

 

「ええ。出来たからには是非に。ダーヴィズさんも一緒ですわよ。」

 

「じゃあ、俺も一緒に行く! って事はダーヴィズのおっちゃんがここいるのは、引き抜き?」

 

「ええ、『糸』作成の張本人で、是非にと思ったら、フラれてしまって……」

 

「マジで!?あれ作ったの、おっちゃんだったんだ!でも納得。あの仕事は金属細工師にも厳しいしなぁ……なら、おっちゃんにはいいかも。」

 

「何がだ?」

 

「『アレ』のデザイン、おっちゃんなら、凄い喜びそうだし。」

 

「……ヴィト坊。そら、どう云う事だ?」

 

「「見れば判る」のですわ。」

 

 

 カルディナとヴィトーのハモりに、首を傾げるダーヴィズだが、それは工房の大広間に着いた時、明らかになった。

 

 

 

 


 

 

 

「皆さ~ん!ご機嫌よう、ですわ。」

 

「お、お嬢じゃねえか! 待ってたぜ!」

 

「お嬢、おはようございます!」

 

 

 意気揚々と大広間の扉(重量級の重いタイプ)を開け放ったカルディナは、中にいた職人達に挨拶した。

 その後に続くヴィトー、フミタン、フェルネス、そしてダーヴィズ。

 だが、ダーヴィズはまず、その中の光景に驚いた。

 

 

「な、何だ、ここは……」

 

 

 まず、目に飛び込んできたのは、ドワーフの男性が鎚を振るう傍らで、エルフの女性が鎚を打った鉄に魔法を掛けている光景。

 次に、ハーフリングの女性が小さい金槌とタガネで金属に細かい溝を彫っている真正面に、ドワーフの女性が彫り終わった金属盤を丹念に目の細かいヤスリで、バリを落とす作業をしている光景。

 更に奥には、人間の鍛冶職人と思われる男が、狼系の獣人と一緒に、妖精が付与魔法(エンチャント)を掛け続けているハンマーで、長い鉄骨を交互に叩き上げていた。

 他には、エルフの男性の前で、一回り大きい『鋼鉄の手』が台座の上で、右回り左回りを繰り返しながら回転し、止まったかと思えば、滑らかに動く。

 また他には鋼鉄で出来た帯が、一抱えもある円柱より伸びた棒につけられた車輪、それが二つに張られ、淀みなく無限の軌道を綴って(回り続けて)いた。

 一番目を引いたのは、同じく円柱から伸びた棒に付けられた円錐形の物体が、高速回転していたもの。

 

 どれも、今まで見た事のない、技法、そして技術で造られたものばかりだ。

 驚くダーヴィズを見て、カルディナはニンマリと笑い、説明し始めた。

 

 

「ここは工房の重要区画です。見ての通り、世間には卸していない技術、創作物ばかりありますわ。まあ、『国』には報告してますが……」

 

「何か独りでに動いている物もあるんだが……」

 

「正確には魔力(マナ)で動いておりますわ。目の前の職人(エルフの方)が持っている『集束縄(ケーブル)』で操作してますわ。貴方より買いました『軟鉄の糸』を用いて造りましてよ。円柱型の名称は『魔導回転発動機(マナ・モーター)』、これも内部に『軟鉄の糸』を仕込んでおります。」

 

「『魔導回転発動機(マナ・モーター)』……これにも『軟鉄』が……」

 

「他にも小型の『魔導回転発動機(マナ・モーター)』を多用して、手の形に造り上げた『鋼の手(マニュピレータ)』や、車輪と覆帯、『魔導回転発動機(マナ・モーター)』を用いた『無限軌道(キャタピラ)』、『魔導回転発動機(マナ・モーター)』を応用して造った『回転衝角(ドリル)』……どれも『糸』無くしては出来なかったものです。」

 

「凄ぇな。しかし、これが見せたかったものか?何だか想像していたのとは違うんだが……」

 

「いいえ、これらではありません。ですが、ここにあるのは間違いなくダーヴィズさんがいなければ造れなかった物ばかりです。」

 

「……そうか。」

 

「それに、本命はあちらですわ。」

 

 

 そして更に歩みを進める一同。

 作業区画を抜け、その先に人だかりがある以外はポツンと、拓けた場所に着いた。

 

 

「整備長、来ましたわ。」

 

「おお、お嬢。待ってたぜ。『コイツ』が遂に完成したんだ……ん?そこにいるのは、ダーヴィズか?」

 

「お……おう。」

 

 

 髭面のドワーフ(整備長)を始め、何人かの職人達が出迎えてきた。

 その中にはダーヴィズを知る者がちらほらいた。

 

 

 しかし、ダーヴィズには、今はどうでも良かった。

 その人だかりの『中心に立つ存在』が、猛烈な存在感を以って、視界に飛び込んで来たからだ。

 驚くダーヴィズの横に、カルディナはゆっくりと立ち、同じくその『存在』を目にしていた。

 

 

 その『存在』は一見、堅剛な鎧にも見えたが、そうではない。

 これはただの鎧ではない、断じて違う。

 

 

 

 全長 約2.3メートル、重量 約0.9トンの巨体。

 

 両脚は黒をベースに赤の塗装が混じり、ガッシリと、かつカクカクと角張った装甲に、膝にあたる部分には先程見た『回転衝角(ドリル)』。

 両腕も黒をベースに赤の塗装を交えた、円柱型に近い、剛胆な造りの左右非対称の手甲。

 特徴的な両肩の鎧は、この世界には存在しいない、500系新幹線をモデルにした肩当て。

 兜は黒をベースに、金の2本角の真ん中に翡翠にも似た宝石をはめ込んだもので、面当ては白い(オーガ)にも似た牙をあしらった、迫力を放つデザイン。

 背中には赤いラインが入った、背面全てを覆う程大きい黒い翼。

 そして、胸には赤い(たてがみ)を生やした、金色のライオン(ギャレオン)の顔が、その存在感を大いに示していた。

 

 

 これは、いったい何か?

 

 

 

 

 

 

 ……いや、最早語るまい。

 

 両脚には『ドリルガオー』。

 両肩には『ライナーガオー』。

 背面には『ステルスガオー』。

 そして姿は見えずとも、中心となるのは『ガイガー』。

 

 姿形は小さくとも、これは間違いなく『勇者王』。

 

 間違いなく『ガオガイガー』。

 

 カルディナは、いつの間にか『ガオガイガー』を建造していたのだった。

 

 

「こ、こいつは……! 何ていい面構えしてやがるッ! それにこの形状(デザイン)、何て理想的だ!」

 

「あら、お気に召しましたか?」

 

「気に入るも何も……あんた、判って見せてんな?」

 

「あら、何の事でしょう? 私はただ、自身の傑作をお見せしているだけですが?」

 

 

 戦慄を覚える位の武者震いをしながらも、ニヤリと嗤うダーヴィズに、あくまでもお嬢様スマイルを崩さないカルディナ。

 

 

「しかし、こいつはいったい……」

 

「この工房で創ったものです。職人の皆にはコードネームとして『GGG』と呼んで頂いていますわ。」

 

「……『GGG』。」

 

 

 名称の由来については、いまいちピンと来ないが、その勇姿と存在感は、まさに『英雄』と言っても過言ではない。

 いや、英雄……『勇者(ブレイヴ)』と言い換えても差し支えない。

 そう自然と思えたダーヴィズは、歓喜に震えたのだった。

 その嬉しそうな表情を横目で見て、カルディナは内心「やりましたわ!」と喜ぶ。

 しかし、まだ説明が終わって無いため、タイミングを見計らい、話を続けた。

 

 

「話を続けますが……一応、こちらは鎧であり……ついでに『ゴーレム』でもありますわ。」

 

「ゴ、ゴーレム!?一大戦力じゃねぇか!?」

 

「ええ。ただ、ご存じの通り世間一般(この世界)のゴーレムは、魔法で岩や土を用いて生成される、高さ3~4メートル程の、即事創作型(その場で造るもの)ですわ。ですがこれは、一から鋼を用いて建造した(みっちり造った)ものです。」

 

 

 ここで補足をいれるが、この世界において、魔法により創られた存在であるゴーレムは、一大戦力である。

 

 平均3~4メートル、熟練者であれば、10メートルにも及ぶ高さの無機物(岩、土、鉄等)を媒体に生成される巨体を持つ。

 ただしユダヤ教に記されている様な、『真理(emeth)』の魔術符(アルカナ)を使うことはなく、あくまで魔力(マナ)と媒体を用いた動く塊と覚えていて欲しい。

 基本的な形は二足歩行型、四足歩行型、変わり種には多足型等、術者の用途や好みによって様々である。

 術者はゴーレムの背面に台座を造り、そこから多大な魔力(マナ)を送り込みながら戦う。

 

 そしてゴーレムに用いられる『強化魔法(ブースト・エンチャント)』や『障壁魔法(マナ・バリア)』は、その魔力(マナ)故に、一般の魔法使いが使うそれとは違い、隔絶とした出力、強度を誇る。

 更に、ゴーレムを操る術者が放つ魔法も、また強力。

 

 堅牢で鉄壁の『障壁魔法(マナ・バリア)』という『盾』を持ち、その巨体と質量を伴った近接攻撃()や強大な魔法という『矛』を振るうが故に、ゴーレムは人馬もものともしない、一大戦力の位置付けをされているのだ。

 当然、それだけの魔法使いであるため、その実力は半端なものではない。

 

 また、ゴーレムの現状のほぼ全てが『即事創作型(クリエイション・モデル)』と呼ばれる仕様だ。

 この仕様は、有事に即対応出来る戦力を用意出来、媒体さえあれば魔力(マナ)が続く限り再生可能であるのが利点を持つ。

 

 当然、我等がカルディナお嬢様も、その利点は充分に理解している、のだが……

 

 

「だがよ、ゴーレムを建造して何の意味があるんだ?現状ある『即事創作型(クリエイション・モデル)』でもいいと思うんだが……」

 

「……」

 

「??」

 

「その疑問には私からお答えします。」

 

 

 その質問に対し、顔を背ける……というより、珍しく答えたくない、という態度をとるカルディナ。

 疑問に思うダーヴィズの横に、さりげなく陣取ってフォローしたのはフェルネスだった。

 

 

「実は2年ほど前、『王城』の訓練場にて、近衛騎士団の団長をお嬢様が倒した、という出来事が御座いまして……」

 

「す、凄ぇ……とは思うが、何の関係が……?」

 

「実はその後に、王国直属の魔法師団ともやり合ったのです……その、ゴーレム戦で。」

 

「何ッ!? つー事は、このお嬢様もゴーレムを創れるって事に……!?」

 

「はい。その戦闘で、カルディナお嬢様は勝ちました。ですが、その……『勝ち方』に問題がありまして、それに絶望しました。」

 

「勝ったのに、絶望……?」

 

「……相手の『障壁魔法(マナ・バリア)』の完全展開と『強化魔法(ブースト・エンチャント)』の完成を待った後、万を持したお嬢様はご自身のゴーレムの拳を相手のゴーレムに叩き込み……『一撃で葬りました』。」

 

「はぁ!? ちょ……待った……いや、成る程、な。」

 

 

 ダーヴィズは理解した。

 

 相手を一撃で葬った。

 相手を屠る言葉の表現としては、この上無い最上の言葉だ。

 しかし、カルディナの立場としては、どうか?

 

 カルディナは『ガオガイガー』を創りたいのだ。

 当然、強いに超した事はない。

 しかしダーヴィズは、『目の前のゴーレム(ガオガイガー)』の事は知らないが、カルディナの事だ、昨日今日、考えたモノではないのは明白。

 

 なら、2年よりずっと前からでも不思議ではない。

 

 『目の前のゴーレム(ガオガイガー)』を創るため、国直属の魔法師団に対し『分析』と『力試し』を試みたとしても不思議ではない。

 

 その結果が、自身の圧勝。

 

 ……カルディナは思っただろう。『弱い』と。

 

 王国直属の近衛騎士もそうだが、魔法師団に成人にもなっていない13歳の子供が圧勝してしまったのだ。

 

 きっとカルディナは「手加減は一切無しッ!!全力でお願い致しますッ!!」と懇願したに違いない。

 そして、言う通り『全力を以て相手をした』師団長は一撃で仕留めてしまった後も、再勝負を何度も申し入れられ、それでも尚、一撃で沈められてしまうのだ。

 挙げ句に他の師団員も複数同時に相手にし始めたのだろう。

 だが勝ってしまう現実は非情だ。

 誰も相手にならないのだ。

 一切手加減をしていない筈なのに、師団員は逆に軽くあしらわれ、「どうしてそんなに弱いのですか!?もしかしてこの期に及んで手加減ですか!? ちゃんと全力でお相手して下さァーーいッ!!!」とカルディナより、とばっちりの様な泣き言を聞かされ、涙を流されたに違いない。

 

 最後には『orz』と師団員達より絶望しただろう。

 

 敗者の山の上に立つ、絶望する勝者(お嬢様)……

 何とも嫌な光景だ。

 

 その時、思ったのだろう。

 

 

 ゴーレムの『即事創作型(クリエイション・モデル)』の仕様が悪いのですわッ!!

 こんな事なら、最初から建造してしまえばいいのですわッ!!!

 

 

 ……そして、無敵のゴーレムを創るために、最高の素材を求めてエトセトラ……な時期が続き、ダーヴィズ()に偶然出会った、のだろう。

ダーヴィズはそんな想像していた。

 

 そして、大方合っている。

 

 違うのは、「近衛に続いて魔法師団すら温いとは片腹痛いですわッ!!動きが鈍い、魔力(マナ)も練れてない、師団の連携も疎かッ!!聞いてますか師団長ッ!!! 操作だけでなく、もっと質を上げて……!!」等、泣き言を言うのではなく、完全にお説教モードになっていたぐらいか。

 

 元々、現行の『即事創作型(クリエイション・モデル)』の弱点は判りきっていた。

 媒体の質によっては『障壁魔法(マナ・バリア)』があっても弱い事。

 ゴーレム構成後の魔力(マナ)維持と操作等、同時行程が多過ぎて、長期運用には適さない。

 または短期であっても技量によっては、意識が操作に行き過ぎて、連携が疎かになる。

 

 ならば全ての負担を軽減出来るよう『元から創ればいい』と結論に達した。

 

 だが、元より建造しない一番の理由は『ゴーレムを建造して維持する技術』が無い事だ。

 

 

「……ならば自身で証明するしかない。そういう訳で、お嬢様は元より造られたゴーレム、『建造型(ビルドタイプ)』を造ることしたのです。」

 

「……説明の代行、感謝しますわ、フェルネスさん。」

 

「……凄ぇ納得した。つまり、アンタはこの『建造型(ビルドタイプ)』を造りたい訳だ。」

 

「半分はそうですわ。」

 

「半分?」

 

「私の目的の一つに、この『GGG』を元の形に再現する事にあります。」

 

「……元の形?」

 

「この『GGG』は本来もっと大きいのです」

 

「大きい??」

 

「……って事は、お嬢。本気でやるんだな?」

 

 

 2人の会話に割り込んで来たのは髭面のドワーフ(整備長)だった。

 自慢の髭を手櫛でわしゃわしゃとしながら、ニヤリと笑っている。

 

 

「前に言ってたよな?『GGGは本来、23メートルを経て、31メートルもの巨大なゴーレムになる』って。それを本気で造る、と。」

 

「ええ、その通りです。」

 

 

 そして、カルディナは自信を以て、ニヤリと笑う。

 

 

「23メートルを……31メートルって、どう云うことだ?」

 

「そうですね、見て頂いた方が判りやすいですので、お見せしましょうか。すみません、『GGG』の『集束縄』(ケーブル)を私に。」

 

「こちらです。」

 

 

 そして『GGG』……ガオガイガーの背中より延びている集束縄(ケーブル)を職人より受け取るカルディナは、周りの職人達が周りから離れたのを確認した後、少々苦笑いを浮かべつつ、集束縄(ケーブル)魔力(マナ)を込めた。

 

 

「……最初にする動作が『これ』なのは少々アレですが、行きますわ。『フュージョン・アウト』ッ!」

 

 

 フュージョン・アウト。

 ガオガイガーが、ファイナル・フュージョンを解く際の行程である。

 アニメでは、第2話にてその様子が放映されていた。

 ベイタワー基地に接続されているエリアIV 『水陸両用整備装甲車』内部にて、ガオガイガーから各ガオーマシンを専用施設で『分離』させ、ガイガーに戻り、最後にはギャレオンに戻るのだ。

 合体を解く行程がよく判るシーンで、一見の価値はある。

 

 ここではそんな専用施設はないが、専用の移動可能な収納整備枠(ハンガー)が存在する(当然、職人達が造りました。)。それが『フュージョン・アウト』専用機である。

 そして、カルディナの魔力(マナ)に呼応し、収納整備枠(ハンガー)のギミックは、直立状態の『GGG』をアームで固定し、空中で水平に寝かせ、次々にガオーマシンを外して行く。

 その動きは収納整備枠(ハンガー)のレールに沿ってアームが精密機械さながらの動きで稼働し、カルディナが操作しているとはいえ『この世界』のレベルとしては隔絶していた。

 そして最後には、額に緑の宝石を付け、胸に金のライオンの顔を携えた白い鋼の躯体『ガイガー』が、そこに残った。

 

 

「……まずは、この形態が本来、23.5メートルの巨神の素体……名を『ガイガー』と申します。よし、『フュージョン・アウト』成功ですわ。」

 

「「やったァァァ――――!!!」」

 

 

 その瞬間、何人かの職人かが、歓喜の声を挙げ、喜んでいた。

 所々に「あのアーム、苦労したんだよな。」とか「ここまで動くのに何百回修正したか……」等、余程きつかったのだろう。涙ぐむ者もいた。

 しかし、見せ場はこれからである。

 

 

「そして4つの鎧たる『ガオーマシン』を身に纏った形態が、先程見ました状態です……行きますわ『ファイナル・フュージョン』ッ!!」

 

 

 そして今度は先程の逆再生とも言える動きで、『ガイガー』に『ガオーマシン』4機が『ファイナル・フュージョン』を果たす。

 ドリルガオーが両脚、ライナーガオーが両肩にそれぞれ収まる。

 そしてステルスガオーが背中に装着され、ギャレオンの顔に赤い(たてがみ)が装着され、眼が光る。

 左腕にプロテクトアーム、右腕にブロウクンアームが金属摩擦の唸りを挙げて連結し、鋼鉄の掌が回転して現れる。

 更にガイガーの頭部の後ろ、ステルスガオーのフィルターシャッターが解放、赤いアームに固定された黒いヘルメットが、ガイガーの頭に被さり、牙を模した面当てが装着、金色の角飾りの窪みから翡翠に似た宝石が迫り出る。

 

 『ファイナル・フュージョン』……それは、白き戦士(ガイガー)勇者(ガオガイガー)へと至らせる為の行程であり、その行為自体が至高の儀式である。

 

 

 そしてこの瞬間、遂に『鉄の勇者王』が、異世界に降臨した。

 

 

「これこそが本来、全長31.5メートルを誇る、鉄の巨神『GGG』こと、その名を『ガオガイガー』と申します。」

 

「……ガオガイガー。」

 

 

 

 

 ブロウクンアームの放熱器より蒸気が迸る。

 無限軌道(キャタピラ)が廻る。

 プロテクトアームのフィールド発生器が光る。

 金色のドリルが回転し、唸る。

 

 

 

 これこそ、我等が待ち望んでいた勇者王。

 

 

 

 その名は勇者王・ガオ ガイ ガーッ!!

 

 

 

 そしてカルディナの意識の元、ガオガイガーはその重厚な躯体に魔力(マナ)を漲らせ、その双眼に光を点し……

 

 一歩、そしてまた一歩、足を踏み出した。

 

 重厚な足取りを二歩、三歩と繰り返した後、身を屈め、拳を突き出し、構える。

 所謂ファイティング・ポーズである。

 傍らのカルディナも同じ構えをしているところから、これは、お嬢様のデモンストレーションである。

 

 

「ハァアァァ―――ッ!!」

 

 

 気合が充分に乗ったお嬢様の声と共に、始めに正拳、低姿勢からの足払い、そして下段から突き上げ、槍の如く鋭い蹴り上げを繰り出す。

 そして間を空けずに身を半身にして防御力姿勢、からの後方への鋭い裏拳、転進して『ドリルニー』を使った膝蹴り、そして正拳突き……を終えた後、これでもかと、ゆっくりと身を屈め、低姿勢の構えをした。

 

 

 そして、カルディナも同じ動きを……全く同じ動きをしている。

 

 

 そんな光景に、職人達は驚いていた。

 ガオガイガーの一連の動きは、謙遜なく鋭く、そして正確で一切の重さを感じさせない、カルディナの動きだった。

 

 それはどう云うことか?

 重量約0.9トンという質量は、とてもマトモに動けるモノではない。

 そんな重量を纏えば、まず姿勢が崩れる。軽快な動き等、望める訳がない。

 それはゴーレムも一緒だ。

 中心となるガイガーは細身だ。使った金属の固さと耐久性は自分達が一番よく知っている。

 稼働範囲や関節の癖の一つ一つに至るまで。

 完成させた、と言っても技術不足故に、そして初めての試み故に、至らない箇所は多々ある。

 

 

 なのに、それら不安要素を一切感じさせない、キレのある挙動は、職人達の不安を払拭するに値するものだった。

 

 

 ……そして、ガオガイガーが、カルディナが構えを解き、直立姿勢に戻った。

 魔力(マナ)の輝きが消え失せ、その双眼の光が消失した後、静寂が一拍―――

 

 

「……皆さん。有難う御座います。遂に、第一目標の『GGG建造』は、完了ですわッ!!」

 

「「「「やったぜェェェ——!!!」」」」

 

 

 そして巻き起こる喝采の嵐。

 職員達は互いに、互いを誉め合っていた。

 普段であれば、厳しいだけの職人も、今に限っては涙を流す者もいた。

 時代背景を省みれば、在り得る訳のない、ブラックボックスの様な存在を、先導者(カルディナ)がいるとは言え、見事造り上げたのだ。

 その功績は歴史に名を残すだろう。

 

 そして、その光景をダーヴィズは見ていた。

 何かを考え、何かを想い、皆が喜ぶ輪の中を避けつつ、そして意を決してカルディナに声を掛けた。

 

 

「本当に凄ェな、お嬢さんよ。ちなみに、こいつは『何と』戦う想定してんだ?」

 

「そうですわね……今のところ(・・・・・)は『隣国』でしょうか。現状、仮想敵国扱いであり、この国よりゴーレムの配備数が非常に多い国ですからね。ゴーレムの発展は日進月歩。であれば、こちらがアドバンテージを取るのには突飛した存在が必要かと……」

 

「……今のところは、か。」

 

 

 『隣国』のゴーレム事情は、ダーヴィズも知っている。宗教国家であり、魔法に秀でている『隣国』は、この近辺では最大の権力、そして魔法使い=ゴーレムの配備数が抜きん出ている。

 そんな『隣国』に対し、全長約32.1メートルのガオガイガーが現れ、今見た通りの性能を発揮したらどうなるか……

 軍事バランスが引っくり返るのは明白。

 

 しかし、ダーヴィズは感じた。

 目の前にいるお嬢様(カルディナ)は、隣国とのパワーバランス(判りきった建前)等、判りきった上で、遥か先を見据えている事を。

 

 いったい、何を見据えているのか?

 本当の目的とは……

 

 

「……なあ、カルディナお嬢様よ。本当に、俺の力が必要とされるのか? 本当に、俺の鍛冶師のしての腕が必要なのか?」

 

「勿論です。」

 

 

 カルディナは真摯な顔で、不安な気持ちに揺れるダーヴィズの問いに答える。

 

 

「今、ご覧になった通り、今ここには世間では有り得ない存在が誕生しました。しかし、ここからは完全に未知数です。全長31.5メートルの人造の(・・・)巨神を創るのですから。故に、私はその要となる『軟鉄の糸』を貴方に求めています。ですが、私は貴方に『鍛冶師としての全て』を求めますわ。」

 

「鍛冶師としての、全て?」

 

「ええ。鋼を鍛え上げる槌を振るう腕も、『糸』を紡ぎ出す技量も、デザインセンスも……何もかもを出し切って頂きます。完全燃焼?自身の持てる技術の粋? その程度では、全然足りませんわ。燃えるモノ等無くても燃え滾り、その身が朽ち果てようとも、全力を超えた『ありったけ』を込めた、一世一代、渾身の、足りなければ勇気で補ってでも全力全開で、自分に誇れる力を振り絞る『力』……そんなモノを貴方は創りたいのではなくて?」

 

 

 拳を強く握り締め、熱を込めてカルディナは語る。

 そうだ、言葉こそ無茶苦茶乱暴な表現ではある、確かにそんな武器を作品を造り出したい。

 ダーヴィズの心は昔から、そして今も変わらない。

 

 

「私の求める英雄……いえ、『勇者王』にはそれだけの価値が有ると自負しています。そして、見たくありませんか?自身で造り出した『巨神』が、世の危機(・・・・)にその力を振るう光景を。迫り来る軍勢を鎧袖一触にて打ち砕く光景を。少なくとも、私は『私自身の為に』その力を求めています。」

 

 

 思い描くのは終焉かと、ダーヴィズは心の中で笑ってしまう。

 しかし、不謹慎ではあるが、それこそ、自分が望んだシチュエーション。

 英雄の……勇者の戦いだ。

 

 

「私は歓迎します。貴方に『勇気(己が力を示したい心)』があるなら、是非とも私の元で、貴方の持てる技術以上の力を振るって下さいませんか?」

 

 

 そう言って手を差し伸ばす。

 まるで「共に戦いましょう」と言わんばかりに。

 

 それに対する、ダーヴィズの返答は……もう既に決まっていた。

 

 

「……全くよぉ。こんだけお膳立てされて、断る職人はいないだろうに。勿論……いや、此方からも頼みたい。俺を……ダーヴィズ・ダンプソンをここで使ってくれ。期待以上の仕事をしようじゃねえか。」

 

 

 そして、カルディナの手を握り返す。

 

 

「宜しくお願い致しますわ。」

 

「おうッ!カルディナお嬢様!」

 

「ああ。公的な場でなければ、お嬢、で結構ですわ。職人の皆様にもそう言われてますので。」

 

 

 

 ニッコリと笑うカルディナ。

 そしてその一連のやり取りを見ていた職人達は、歓迎の意をダーヴィズに表した。

 元より顔馴染みも多いようで、特に人間関係にフォローを入れる事も無いだろう。

 

 

 こうして、カルディナはガオガイガー創造という難関に対し、ダーヴィズ・ダンプソンという心強い鍛冶職人を一人、得たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――パンッ、パンッ、パンッ

 

 

 

「さて、皆さん。程よく滾って来たようですので、私から一つ、お見せしたいものがあります。」

 

 

 突然、カルディナからの申し入れが出た。

 ダーヴィズは何か、と期待したが、ふと周りを見た瞬間、驚愕した。

 

 

「……おい、何でみんな警戒してるような面してんだよ?」

 

 

 正に、その通りだった。

 ダーヴィズ以外の職人連中は全員警戒、もしくは戦慄に晒されるような面持ちだった。

 

 

「……いや、だってよぅ。」

 

「お嬢がああ言う時は、大概衝撃的な事が起きんのよ。ここにいる全員、ある意味被害者。」

 

 

 隣にいた、黒い肌の軽装の職人……ダークエルフの女性は頬を引きつらせて語った。

 それに対してカルディナは反論した。

 

 

「失敬ですわ。実害はありませんわ。せいぜい破壊するのは『常識』と『価値観』ですわ。」

 

「毎回、やられて心臓に悪いから言ってんのよ!」

 

「な……何をする気だ??」

 

 

 職人達の不安など知ってか知らずか。

 または、わざとか。

 カルディナは、悪戯を企む小悪魔のように、笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

《…NEXT》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

君達に、最新情報を公開しよう!

 

遂に完成したガオガイガー(ミニ)。

 

新たなる職人、ダーヴィズを迎え入れる職人達。

 

しかし、カルディナの企みが更なるステージへと職人達を突き動かす。

 

いったい何を見せようというのか?

 

そしてカルディナが駆る、ガオガイガーの実力とは?

 

迫り来る魔獣の脅威に立ち向かい、独り佇むカルディナは何を視るのか?

 

それを知るのはカルディナ、ただ1人。

 

今、衝撃の事実が明かされる!

 

 

 

次回『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

Number.05『ガオガイガー、上演&実戦』

 

 

次回もこの物語に、ファイナル・フュージョン、承認ッ!!

 

 

 

これが勝利の鍵だ! 『魔術式投映機』

 

 

 




そういえば、執筆中に『勇者娘ガオガイガールズ』を発見しました。
遂に、ガオガイガーもここまでやってしまったんだな~と思う始末。
『破界王』では、シルバリオン◯◯◯◯ャーが……!
ああああーーー!!の瞬間、地球の御偉いさん方の臆病印の兵器が◯✕△■~!

次回が楽しみです。



当作品の感想、評価、ないしはガオガイガー漫談等、ある方は、どうぞよろしくお願い致します。

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