公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい。   作:和鷹聖

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『お嬢様と往く、スーパーロボット大戦31』を見て頂きありがとうございます。
ですがこちらも進めねば……こちらもありきなので。




閑話 カルディナが寝込む間に……

カルディナが寝込む間も、世界は動いている。

それはカルディナが知っていても知らずとも……

 

 

 

 

───アルドレイア王国 グラン・アルド城

 

カルディナが機界新種との死闘を繰り広げ、フミタンもとい、ヴィータの告白による事態の鎮静化が終わり、一週間後、何とか落ち着きを取り戻した一同だが、混乱がなくなった訳ではない。

誰一人勝者無き戦いの後、国の重鎮──国王(レクシーズ)とクリストファーやバランドを含めた四公爵、そして長官(ティ・ガー)は面と向かい、会議を重ねていた。

 

「……遂に、というより予想の何倍も早く機界新種が現れた、か。」

「はい。まさか娘があの者(ヴィータ)を……機界新種を秘匿していたとは思いもせず、何と申したら良いやら……」

「──いや、この件は不問とする。」

「陛下!?」

「しかしアースガルズ卿の犯した事──娘のカルディナ嬢のしでかした事は国家に反逆する事では!?」

 

レクシーズの回答に反論するのは、四公爵の残り二人──シュネッツィア・H・ゲイルドリヴルと、ラグレット・C・ゴンドゥール。

どちらとも官僚であり、立派な髭を蓄えた壮年の貴族達である。

だがその二人に呆れるような様子でレクシーズは語る。

 

「何が国家反逆だ。被害は自身の領土が()()()()()()()()、人的被害も一部の家臣のみ。ついでに言えば事前に報告もあり、タイミングが悪かったが、備えは万全で臨み、核の回収前に宿主に戻ったが……結果的には被害は皆無と言える。何より危険因子を目に見えるところで常に監視していたのだ。監視方法こそ誉められたものではないが、前例がある。どうしようもない。機動部隊隊長(カルディナ)自身も多少の怪我で済んだのだ。特に責める必要もない。何よりも、此度の事は『妄想が当たった』という事態だ。責任の所在など、ない。」

「しかし……ゾンダーなるものを討伐出来なかった責はどうするのですか?」

「魔獣と奴らを一緒に考えるな。魔獣なら我等()()でどうにか対処出来よう、だが奴らは我等の想像をはるかに超える。ただ剣を振り回せば勝てる相手と思わぬ事だ。そして大した被害が出ていない以上、いちいち責任を取らせる意味はない。何より今回の事案は異常事態だ。責任を課すならそれで尚、己が失態と思えば、だ。」

 

起きた事の割には、実被害は少ない。しかも事前報告済みで機動部隊隊長(カルディナ)が自己責任で行った事なので、責任も負わせ辛い。それでも贔屓と言われるかもしれないが、

「陛下、次こそは万全を期して臨みます。」

「頼むぞ、アースガルズ卿。お前の娘の存在こそが勝利の鍵だ。ただ今回のような事は二度とないようにな。」

「はッ!」

 

クリストファーに体面上の念押しをして、カルディナとヴィータの件は多々問題を残すものの、不問とした。

だが、その2人の話はまだ終わらない。

 

「ならば、その諸悪の根源たるヴィータという娘を処刑すればよい話では?」

「おお、それは名案だ。その者さえ死ねば万事解決するのでは……」

「……その場合、カルディナが黙ってはおらんぞ。そして確実に手を出した者、その総てを断罪するだろう。」

「そうなった場合、私やアースガルズ卿、陛下やティ・ガー殿は庇いませんぞ、ゲイルドリヴル卿、ゴンドゥール卿?」

「な!?ランドグリーズ卿、何を言うのだ!?」

「四公爵に手を出せば極刑ではないか!」

「逆にヴィータという娘に手を出せば、カルディナ嬢にはそれだけで口実になりますな。それ以前に騎士を差し向けたところで、カルディナ嬢やヴィータ嬢に……今の我々が勝てるとでも??」

「もしや勝てないとでも……?ランドグリーズ卿らしくありませんな。」

「馬鹿な事を申すな───勝てやせんよ、この場にいる誰もがな。」

「我が娘に、確実に『光』にされるぞ。」

「んな?!」

「先の王都襲撃事件を忘れたとは言わせんぞ、全兵力を以て我々は破れた。今回の案件はそれ以上の厄災だ。その中でカルディナは我々にとって最大の戦力で一番の頭脳だ。先程の映像を見ても、ただ騎士達を投入すれば勝てると思ったか?お二人は認識が甘過ぎる。」

「うう……」

「何より、ヴィータを含めたゾンダーに寄生された者達……皆全て()()()だという事を忘れるな。諸悪の根源なのは、ゾンダーなのだ。」

 

レクシーズがはっきりと断言し、ゲイルドリヴル卿、ゴンドゥール卿は波打たない水面のように黙る。

そして観念したようにため息を吐く。

 

「……陛下、その御慧眼お見事です。そして私達2人の無知をお許しください。」

「事態は我々の思う以上のところまで動いていた……その認識が甘過ぎました。」

「解れば良い。」

 

このシュネッツィア・H・ゲイルドリヴルと、ラグレット・C・ゴンドゥール。先代の(愚)国王より公爵の地位にいた者達だが、その中で真っ当な文官であり、レクシーズによる変革のギリギリまで国の財政を傾けまいと邁進していた影の立役者でもある。

その2人が敢えて無礼ながらも煽るように言葉を囃し立てていたのは……

 

「……二人の発言、侯爵以下の貴族達の反発であろう。」

「カルディナ嬢の発明、提案したものはどれも魅力的。貴族、平民問わずその恩恵を受けています。ですが……」

「それを気に食わぬ者達もいます。特に『武闘派』の、若い貴族達には、特に……」

「……すまんな。それは言い訳のしようもない。」

「せめてランドグリーズ卿が上手く諫められれば良いものだが……」

「貴奴らは祖父の代から吹き込まれた妄言に取り付かれている。あの年代の者達はそれが上手い。自分達こそが最強であると疑いもせん。」

「厄介ですな。」

「しかし先程ランドグリーズ卿も言っていたであろう、『勝てやせんよ』と。事実、カルディナは強い……いや、文武共に()()()()。あ奴の持つ知識、技術は我々の何代も先の先を行く。加えてその素質、そして執念……天は二物を与えずどろこか、三物も四物も与えている。今まで野心に走らなかったと褒めたいところだ。」

「だが、我が娘にも限界がある事がこの度判ってしまったのも事実……1人で背負い過ぎた結果だ。とはいえ、当人が配慮していたにも関わらず、状況がそれを許さなかった経緯もあった故ですが。」

「鉄鋼桜華試験団がその配慮にだろうが、今回は時期が悪過ぎた。故に我々も次の段階に入ろうと思う。それがこれだ。」

 

レクシーズが広げた計画書を全員が注視する。

 

『各領地へのGSライド搭載型機甲騎士(仮称)の貸与について』

 

「いよいよガオガイガー2号機『シューティング』の完成がまもなく、と報告を受けた。故に我々が出来る事は次の段階へと円滑に作業を移行する先導だ。この計画はいつ、どこで出現するか解らないゾンダーへの対抗策の一つだ。特に『ゾンダー出現時に対し、ガオガイガー到着まで、積極的防衛を行う』というのが主たる任である。」

「積極的防衛……討伐ではないと?」

「ああ。ゾンダー化した者が、誰かわからない以上は、な。それとも自身の後継者、妻などが、反旗を翻した訳でもないのに、大切な者を討てると?」

「その前に、ゾンダーの特性を考えると剣で討てるか問いたいところですな。」

「不可能だろう。良くても相打ちがいいところだ。それに、核を浄解する事が出来ねば振り出しに戻るだけでは意味がない。」

 

核を抉り出した瞬間に爆発する以上、自滅覚悟は当たり前で、上手く摘出出来たとしても浄解前提である以上、カルディナ、クスト、ムルのいずれかが来なければ話にならない。

ゾンダー戦は倒せばいい、と思うスパロボ脳では駄目なのだ。

 

何より運用コストが掛かり過ぎる。

 

現実問題、ガオガイガーが一度出撃するだけで、相当なお金が掛かるのだ。(主に修理費)

マギウス・ガオガイガーの場合、カルディナが形成したアースガルズ経済圏は経済崩壊を防ぐためにあり、これがないとカルディナとはいえ、すぐさまアースガルズ家は破産する。

かと言ってゴーレムではあまりにも弱過ぎるため、現状はモビルスーツを主とした防衛を主軸とするしかない。

サテライトリンク可能な衛星があれば万全な監視網を構築出来るが、現状全世界を監視するレベルの衛星など即座に用意する事は難しく、素粒子Z0を感知するZ0センサーを各地に秘密裏に設置し続けているのが現状だ。

後はV.C.ネットワークを用いて迅速に移動するようにして対応を整えているが、それでも即対応は難しい。

ましてや現段階でゾンダーロボ3体同時発生などというインフレすら起きている。

予算が尽きるか、防衛体制が崩壊するか、どちらが先になるだろう。

 

ちなみに21世紀の世ならともかく、この世界で衛星を打ち上げるという事を行えば、独占的に全世界を監視出来るという特権が手に入る。

軍事的にも美味しい試みであるが、この星を取り囲む魔力(マナ)層の影響を考慮しないと大気圏外へはいけないため、保留としている。

 

閑話休題。

 

「故に各領地に機甲騎士……『モビルスーツ』を一機ずつ、主要な機体として貸与する事とする。」

 

授ける訳ではない、あくまで貸与なのだ。

量産型ならいざ知らず、貸与するものは全て特注品。製造は王国ではなく、全てアースガルズ家が行っている。それをタダで与ろうものなら、アースガルズ公爵家より授ける(てい)となされ、それはアースガルズ公爵家に下った、と見なされる。

そうなれば一部からは絶対に反発が起きる、それは御免被りたいところだ。

クリストファー(カルディナ父)もそんな面倒事はしたくない、故の処置だ。

 

「それにこれらの力は折り紙付きだ。核摘出こそ出来ぬだろうが、防衛戦はこなせるだろう。」

「それに貸与が嫌なら買い取ればいい……か。折衷案としては悪くありませんな。」

「しかし値段が各領の数年分の資金が必要、という話では……貸与も買取も相応の値段。」

「国家存亡の前に、金、金、金、か。実に世知辛い。」

「しかし対策があるのでしょう?」」

「ああ。こちらもカルディナが既に対策を立てている……これだ。」

「これは……」

 

次いでレクシーズが見せる紙束。

それには『全領経済活性化計画』なる計画書。

その内容を見た者達は、目を丸くし、そして頭を抑えてため息を吐く。

 

「……こんな馬鹿げた計画をしていたとは。」

「ですが身に覚えが御座います。」

「ええ、最近領地の活性が顕著でした。もしやこれが……」

「道理で我が娘から煩い程に要望される訳だ。」

「さすがカルディナ。我等より手回しが早い。」

「ああ。これは各領の経済基盤を盤石にするものだ。そしてそれは既に行われているところは貴殿らが一番知っておろう。此度での勝利の鍵は……貴殿ら、そして各領の令息、令嬢達、そして全ての民──全員である。」

 

あまりにも飛び抜けた発言をするレクシーズであったが、それらは既に水面下で効果をもたらしていた事に、四公達は改めて実感したのだった。

さてそれらは如何に……

 

「──失礼致します。」

 

そこに扉の外にいる兵士の声が割って聞こえた。

 

「予定の時刻となり、オルガ・イツカ以下団員達が到着しています。現在控え室で待たせていますが、如何致しましょう?」

「ああ、もうそんな時間か。いよいよだな……」

「わかった、謁見の間に通せ。私達も行く。」

「御意に。」

「さて、後は事前に通達してある通りだ。各々、上手くやってほしい。」

「「「「はっ!」」」」

「……では皆の者、行くぞ。新たなる騎士達の誕生を祝いに。」

 

そしてレクシーズ以下、四公達は謁見の間へと向かうのであった。

新たなる騎士達の誕生を祝いに。

 

 

 

───その夜。

 

「今……帰ったぞ。」

「あ、団長!お帰り。」

「どうだった!?」

 

ふらふらになるほど疲労しながらも、近場のソファーに倒れ込むように座る鉄鋼桜華試験団団長オルガ・イツカ。

しかしその『肩書』は、今日から過去のものとなった。

 

「ああ……陛下に正式に任命されて、貴族になった。」

「おお!」

「すげぇ!ん?そういやこの国の爵位って確か……」

「下から順に『騎士爵』『男爵』『子爵』『伯爵』『侯爵』『公爵』だね。」

「おお、そうか……って、おい、ビスケット。後ろの2人は?」

 

シノが指さすのは、オルガ以上にグロッキーになったミカヅキと明弘。

オルガに負けじとこの上なく疲労していた。

 

「慣れないどころか、本来縁のないような式典だったからね、オルガに負けじと緊張でガチガチだったよ。2人共、しばらくそこで休んでていいよ。」

「あ、ああ……」

「そう、する……」

「……お疲れ様。」

「んで、結局どうなったんだ?」

「俺と、ミカヅキ、明弘は『騎士爵』、オルガに限っては三階級上がって『子爵』になったよ。そして俺達、『鉄鋼桜華試験団』は『鉄鋼桜華騎士団』となって、正式に王国の騎士団の一員になった訳さ。」

「すげぇ、俺達大出世じゃん!」

「あはは……そうだね。」

 

だが、話したはずのビスケットの表情は暗い。

 

「とはいえ、俺達が任命されたのは、あくまでこれからの戦いで『他の貴族達に舐められないように』っていう陛下達からの気遣いみたいなものだから。いきなり成り上がったっていう負い目はある。特にその風評を受けるオルガは今以上に厳しい立場になるだろうね。」

「……楽観視は出来ねぇって訳か。」

「うん。しかも俺達はこれから各領に貸与されるモビルスーツの運用指導を任される。」

「……ああ、思い出すなぁ。アーブラウでのあの事件。」

 

そのタカキの発言に一同苦い表情をする。

 

アーブラウ……それは鉄華団が前世、クーデリアが火星ハーフメタル資源の規制解放に関して交渉を進めていた元アーブラウの代表、蒔苗 東護ノ介がいた国で、そして当の蒔苗より軍事顧問を任された後、ギャラルホルンの裏工作により隣国SUAとの武力衝突に巻き込まれた事件の事を指す。

贈収賄疑惑をかけられ、代表へ返り咲くためエドモントンでの代表選挙の場にてクーデリアに世論へその意志を広めさせた一方、その道中でビスケットが死んでいる。

そして蒔苗護送のその報酬として得たアーブラウ軍事顧問の座は、受講者達との諍いと衝突で暗雲が目立ち、後のSUA衝突による団員の数多の犠牲と、歳星からの補充団員の裏切りによる損害で手放す事に。

 

一言で言うと『ロクな事がなかった』。

そして嬉楽はあれども、苦い思い出満載で、あの時から鉄華団転落の日々は始まったとも言える。

そんな記憶が残る彼らに年上、上位者に対しての指導など、誰もやりたくはないのが実情だ。

 

「けど、貴族として陛下から命令されればどうしてもやらざる得ない。テイワズのオヤジさんより強制力は強いかも。さすがに必死になって目的地に行くような事はないけど、舐められ、侮られは必死かな?」

「あの当時とは違って、俺達まだガキだもんな。」

「更に今は身分差もある、流石に諸手を上げて喜ばれる話にはならないよね。だから最低限舐められないように、主要人物のオルガと俺、ミカヅキと明弘に授爵された訳さ。」

「鉄華団の要だからな。」

「……とは言っても、でけぇ話だ。受けねぇ訳にはいかねぇ。」

「あ、オルガ。起きた?」

 

ようやく緊張から解放されたオルガはよたよたとしながら起き上がった。

団員の居る手前、いつまでも無様な姿は見せられない。

そんな場に、見慣れない人物がおり、一歩前に力強く踏み出してきた。

 

「ん?あんたは……」

「オルガ・イツカ卿、お初にお目にかかります。本日付で王国第三師団から転属となりました、シルフィーネ・ヴォル・ブリュンヒルドと申します。」

「シルフィーネ……ああ、あんた、いや貴女が話にあった……」

「はい、他の団員の方々にも既にご挨拶を済ませております、本日よりよろしくお願います。」

「ああ、よろしくお願いします、シルフィーネ殿。」

「いえ、卿の方が爵位が上なのです、どうぞ呼び捨てで構いません。」

「は、はあ……ソウデスカ。」

 

今まで鉄華団……鉄鋼桜華試験団にはいなかった人物の、凛々しい女騎士であった。

戦える女性、と言えば『タービンズ』でアミダやラフタ、アジーがいたが、明らかに上流階級の貴族の女騎士というのは、カルディナ以外は見た事がない。

いわゆる『男に負けないプライド高い系』であり、鉄華団の皆はさわり失礼のないように対応する術こそ持つが、実際はどう接していいか解らなかったりする。

 

例としてクーデリア(清楚系お嬢様)だったり、フミタン(クールなメイド)であったり、アトラさん(ほんわか人妻)であったり、カルディナ(自信満々系お嬢様)であったり、ヴィータ(ヤンデレ系)であったり、イザリアさん(ガテン系人妻)だったり……あ、意外と多かった。

 

そして近衛騎士でもあった彼女が何故、成り上がったばかりの鉄鋼桜華騎士団に配属されたか……

 

それは『持て余していた』からである。

 

得体の知れない存在に、ストレスも発散され、正気となったとはいえ、憑かれていた事もあり、持て余していた上司が、元々プライドが高く、ヒステリー気味な彼女が扱い辛い事は前々からあったという。

性格に難あり、境遇に難あり、ただし腕は確か、故に扱い辛い。

だが、この女騎士を注視する上で気にするべきはそこではない。

 

この女騎士は、カルディナの初陣(第二戦目)でガイガーに致命傷を与えた、王国を襲ったゾンダーロボの核にされていた人物なのだ。

 

そして先日の王都襲撃事件を理由に、レクシーズ自ら異動を認めた経緯がある。

ゾンダー化でのストレス発散で、元々の扱い辛さは改善されたものの、風評被害で厄介者とされてしまった以上、元々の持て余すレベルを超えてしまったのだ。そしてタイミングよく(?)、カルディナ配下の人物が授爵したので、()()()()()()()()()()()()()()、今回の異動と相成った。

 

(体よく厄介祓いの受け皿になった訳だが、それ以上の意味もある訳だが……)

 

それで『子爵』になった訳なので、幸か不幸か分からない。

そしてシルフィーネがオルガの下に異動になったのは厄介払いの他に、別の理由もあるが……まだ確定事項ではないので省略させていただく。

その事を改めて反芻し、オルガは全員を見回した。

 

「みんな、聞いてくれ。今回陞爵したのはビスケットが言った通りだ。結果的に成り上がった訳だが、当然ながらお嬢のオマケってところもある。だが、コイツはチャンスで『新人への洗礼』って奴だ。お嬢のオマケで孤児上がりの俺達が乗り切れば周りも見直す切っ掛けにもなる。お前ら、力を貸してくれ!今まで以上に気合入れていくぞ!!」

「「おおう!!」」

 

オルガの決意表明に、団員全員に気合がみなぎる。

 

「……そしてシルフィーネの事だが。」

「は、はい。」

「あんたはまだ入ったばかりの新人だ。だが、新人には新人の通過儀礼って奴がある。あんたにも受けてもらうぞ。」

「……わかりました。受けさせて頂きます。」

「よし……お前ら、テーブル用意!」

「了解!」

「タカキ、アトラから『アレ』分けて貰ってこい!」

「わかった!」

「それと水……ピッチャーで、っと。」

「?、???、??」

 

鬼気迫る気迫を感じたシルフィーネであったが、テーブルに座らされ、用意された品々を見て唖然とする。

 

「えっと……試験管?ですか?その中にスープ?の他の試験管には何かを溶かしたような……液体?」

「ああ。右から砂糖、塩、レモン水、海藻の出汁、野菜の絞り汁、水飴その他様々……これらの味を見て、今日の夕飯のスープの味付けの組み合わせを全部当てるってものだ。」

「ナンデスカソレ!?」

「ちなみに出来なきゃ毎食付くスープのものを当てる方にシフトする。」

「え、ええ……??これって騎士団の仕事、なのですか??」

「ああそうだ。陛下にも公爵様にも言われたが、俺達の所属が変わろうとも、これからもやる事に変わりはない。たとえ『試験団』が『騎士団』に変わろうが、今の俺達の仕事は評価試験なのは変わりねぇってよ。そして───こいつはその評価試験の必須スキルの一つ。味の見極めはここじゃ最低限の()()()()だぞ。」

「そ、そんな……」

 

試験団は数多の食品、工芸品、工具、武具等々、様々なものを試験評価し、ふるいに掛ける。

それも真っ当な評価を常に下せないといけない。

それはあらゆる分野でも役立ち、王室に献上するものを担当した事もある。

今日に至るまで研ぎに研ぎ澄まされている鉄華団の感性は、彼等にとって大いなる武器と化しているのだ。

 

「ちなみにここに所属するガキ共でも、一週間で出来た。」

「んな!?」

「何より、試験団を設立したウチのお嬢様(カルディナお嬢)はこれを何よりも重視している。そのお陰で、()()()()()()()()()()()()()()()()()───この意味、わかるだろう?」

「───!!わかりました、やらせてください!」

 

つまり極めればカルディナの域に達する事が出来る───かつてカルディナの強さに嫉妬し、固執したシルフィーネには、憎しみこそないものの、今でもその強さへの渇望がある。

どうすれば届くのか、その道標を示し、そして如何に研鑽をすれば良いか……未だ悩む彼女にその後押しをするのが必要、とオルガは感じ取っていた。

 

(ま、これで少しは何かを感じ取ってくれりゃいいんだがな……)

 

ふと、いつの間にかそんな事が言えるようになったのだなとオルガは思う。

指導者として、団を率いる者として、少しは見る目が育ったのかな、と。

 

そしてその観点から、シルフィーネは顔の作りはいいのに、どこか残念な感じがある───

 

(この国の女って、みんな癖強いよなぁ……)

 

良い女であるのは間違いないが、どこか不器用なところがある。

特にどこぞのお嬢様に感化された者であれば尚更。護衛で同行した際には、そんな人物達を見た事がある。

どこぞのお嬢様は実にトラブルメーカーだと、オルガは思い浮かべる。

ちなみにシルフィーネはその日お腹を水いっぱいにさせ、結局当て終えたのは2週間後である。

 

「ん?そういえば、明日また評価試験だったな。」

「うん。新型モビルワーカーだね。お嬢設計のおやっさん開発の新型。折り畳み式の両腕を備えた奴。」

 

危うく忘れそうだった、明日は起動試験である。

対象はカルディナが思うモビルワーカーの問題点――汎用性が皆無という意見を改善したモビルワーカーである。

具体的な改善点として、

 

・センサー類・モニターの強化、コックピット周辺の装甲強化、三連ターレット装備

・装着用重火器を廃し『竜型ビークルロボ』腕部を参考にした、簡易腕部装備

・タイヤ三脚から無限軌道四脚へ変更(状況に応じて四脚を合わせ、二脚へ変更可能)

 

という要望と共に設計書を雪之丞に渡した。

おやっさんは「こいつぁ、もうモビルワーカーじゃねぇよ……」とため息を吐いていた。

ちなみに変形機構まで兼ね備えており、一部の者から「……オラタコ?」と言わしめたとか。

深緑カラーで塗られたそれは、基本はモビルワーカーなので、鉄華団からは『モビルワーカー(仮)』と呼ばれる。

その形状からして、もはやこれを可変型のロボットと言うか?というのは誰もが突っ込み待ちでは?と思う程。

ただし肩は赤く塗っていないが、色んな意味でむせる。

 

「……最近こんなんばっかだな、俺ら。」

「きっとお嬢と関わり続ける以上、騎士団になってからもこれは変わらないんだろうね。」

「だな。」

 

明日は起動試験を込みで、早朝から指定された国境周辺を見回りとなる。

何事もない事を祈るオルガだが、自身もまた既にカルディナ同様にトラブルに愛された存在だという事にはまだ気付いておらず、その祈りは色々無駄になる。

 

 

 

───数日前、ギャラルホルン中枢『ヴィーンゴールヴ神殿』 医務室

 

 

「聖女マリエ・キザキ!お前との婚約を解消する事とした!!」

「……はい?」

「我が第4妃ルーミナ・フォン・クラーツ子爵令嬢に対し度重なる非礼な働き、この第一皇子セデク・オーツ・クジャンの目は誤魔化せぬぞ!」

「聖女マリエ!貴女の悪行を全てお認め下さい!そうすれば皇子はお許しになるとの事です!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい、いったい何の事──」

「ええ、今更言い訳か!ヴィーンゴールヴに広がる湖より広い我が心も、お前の様な卑劣な者は許してはおけぬ!聖女として扱ってやった恩を仇で返すとは……衛兵よ、この者をひっ捕らえ、牢に入れよ!」

「ちょっと待って下さい!私を捕まえたら、今進めている患者達への治療は誰がするのですか!?」

「それはもう止めにした。」

「はあ!?」

「お前のような時代遅れの『医療』とやらよりも、我が妃の『光魔法』による治療の方が遥かに優れている。それは回復の過程を見れば一目瞭然!既に怪我の癒えている者を過度に看る必要はない!」

「その『光魔法』で治療され、また悪化した患者を見ているのは私なんだけど―――」

「それは私の患者に貴女が悪さをしたからではなくて!?でなければ今頃は皆元気になっています!」

「……看護師とは思えない発言ね、山本さん。」

「う、うるさい!私は『聖女ルーミナ』!山本輝美(てるみ)じゃない!貴女のような偽物とは違うわ!私は回復魔法が使える本物の聖女よ!」

「その通りだ、早く連れて行け!」

「この………後悔しても知らないわよ!」

 

 

マリエ・キザキ───木崎麻里絵は『転移者』である。

とある医療機関の病院の勤務医であり、夜勤明けの休日でショッピングモールを散歩していると、この世界に『異世界転移』させられた経緯があり、同時に周囲にいた学生達、同じ職場の看護師(准看)、山本輝美と共にこの世界に喚ばれたのだった。

そして召喚された先──『ヴィーンゴールヴ神殿』にて6人は召喚時に付与された『スキル』から『勇者』と認定、山本輝美は『聖女』とされた。

だがただ一人、麻里絵は何のスキルも持たずにいた。

だが、医者としての技術、能力は本物であり、国内の患者を片っ端から看て、治療していった功績から、彼女もまた『聖女』と呼ばれるようになった。

 

ちなみにその過程で、知らぬ間に第一皇子(セデク)と婚約させられていたというのは、勝手に周囲が行った擬装工作でしかなく、昨日知った麻里絵当人にとってはいい迷惑でしかない。

 

だが今日、聖女となった山本輝美──ルーミナが彼女の不正(実際は完全な虚偽)を訴え、捕らえられ、処刑となった。

処刑方法は追放刑。魔獣蔓延る国境付近に移送され、両脚のアキレス腱を切られ、そのまま置き去りとなった。

笑いながら撤収する兵士達に憎悪と、アキレス腱を切られた痛みで思考がぐちゃぐちゃになった麻里絵は、血の臭いを隠し持っていた医薬品で消し、傷の手当てを行った後、魔獣から必死に身を隠しながら、数日逃げ回っていた。

 

 

……しかし、医者である以外は普通の女性である麻里絵には何の特殊能力もなく、体力が消耗し、根気も尽きかけた今、どうする事も出来なかった。

 

(……このまま私、死ぬの?いきなり拉致同然に連れて来られ、頑張った筈なのに聖女じゃないって理由でこんな目に…

…!)

 

無念、無念でさもありなん。

けれども為せる事など、もうない。

魔獣に相対している今、逃げ道はない。

今、まさに牙を立てられ、爪を届かんとする間合い。

 

(……こんな事なら高校の時、告白していれば良かったな。)

 

陥れられ、ここまで連れて来られ、死にかけようとする瞬間、今の感情を支配するのは後悔。

あの時抱いた切ない気持ちを伝える事……

 

(シュウ───)

 

 

 

 

───ゴンっ!!

 

「……え??」

《よし、ぶっ飛ばした。》

《あー、団長!あんま戦わないでくれよ!守れなくなるだろ!》

《いや、俺だって試験評価の対象者なんだからよ──》

 

───ダン、ダン!!

 

《……やらにゃ、お嬢に嫌みを言われるぞ。》

 

三連ターレットを持つ3~4メートル程のロボットが、鋼鉄の腕で魔獣を殴り飛ばし、その腕に備え付けられた『機関砲』が魔獣を穿ち、魔獣は爆散した。

実に無駄のない動きである。

 

《そうだぜ。団長も少しは腕を上げてもらわなきゃ、弱い騎士団長って格好付かねぇだろ?》

《確かに。》

《うるせぇ、どうせ俺はミカや明弘よりは弱ぇよ……ん?》

 

そして三連ターレットと目が合う。

どうして魔法の世界にこんな機械文明のロボットがいるのだろう……

そんな事を呆然と思いながら麻里絵は、そのロボットを見ていた。

 

《……どうも。》

「……あ、ご丁寧にどうも。」

 

そして搭乗しているであろう人物がその無言の視線に耐えきれなかったようで、挨拶をして来たので、同じように返す。

すると安心し、緊張の糸が緩んだ瞬間、麻理恵は気を失ったのだった。

 

《……あ~、すまん。手ェ空いてる奴いたら来てくれ、要救助者だ。》

《はぁ!?》

 

そしてそのモビルワーカー(仮)に搭乗するオルガは、まさかの出来事に仲間達に応援を頼むのであった。

 

 

 

───その翌朝。

 

 

「───戻ったぞ。」

 

アルド・レイア王国のとある領地のとある宿屋。

その一室に黒髪の男がパンやハム等の食料が入った籠を持ってきた。

そして迎い入れたのは彼より少し幼い、黒髪の少年。

 

「ああ、ありがとうございます!お腹ペコペコだったんです……ああ、でもコーンスープはなかったですよね?飲みたかったなぁ……」

「……あったぞ、粉末のものが。少し高くついたが。」

「本当ですか?!」

「しかも味は遜色ない。」

「おお……!」

 

感動する少年に、男は寡黙に食料を分け、飢えを満たすため食べ始める。

 

「「いただきます。」」

「うお!?このパン、柔らかい……日本のと遜色ない!そしてコーンスープは……う、うまいぃぃ……!」

 

少年はあまりの美味しさに感動し、涙すら滲ませていた。

特にコーンスープは、本格的な手作りの品──ではなく、店でよく売っている粉末タイプのものだ。

コップに入れてお湯に溶かせば、あとはご想像通りのものが出来上がる。

むしろその味こそが感動を誘う。

そんな少年の様子をちら見しつつ、男もホットドッグ風のパンにかぶりつく。

一本目を食し、二本目をやたら眺め、気にして、それから一口食べた。

 

「む、このソーセージ、やはりヴァイスブルストか。」

「ヴァイス……何ですか?」

「……ヴァイスブルスト。ドイツのミュンヘン地方にある白いソーセージだ。ふんわりとした食感で、他のソーセージとは比較にならない程に非常に軽いのが特徴だ。それにソーセージは羊の腸を使うのが一般的だが、ヴァイスブルストは豚の腸を使っていて出来上がりが白く、太い。ボイルしたソーセージの皮を縦に切り、むいて食べるのが一般的だ。それに「ソーセージが教会の正午の鐘を聞くことを許されない」ということわざがある程に、朝早くから昼前には消費され……」

「………」

「……何だ。」

「いや……予想以上に饒舌だなって。」

「うるさい。だがホットドッグ風にして食わせるとは……予想外だが案外食べやすい。それ故に妙だ……」

「何がです?」

「食料を調達する時にこの近辺を怪しまれない程度に探索したが、文化自体は然程発展していない。中世ヨーロッパと言っても通じる。だが、ヴァイスブルストの発祥は……確か1857年。ローマ帝国の滅亡をもって古代が終わったとする中世の初めはおよそ西暦400年、それから14世紀の末まで丁度1000年間が中世なんだが……コレが出来るにはあまりにも早過ぎる。」

「地球規模で考えても、文明発展に対し、合ってないない……って事ですか?」

「ああ。だが巧妙に擬装していようだが、知っている側からすると不自然にしか見えん。調味料すら洗練さてたものばかり……どう考えても他から持ってきた自然発生していないアイディアをぶち込んだように見える。他にも現代的なものが再現可能な範囲で点在し、生活の中に巧妙に紛れていたしな。何よりこの街は、衛生面が良過ぎる。」

「衛生面が?いい事じゃないですか。」

「馬鹿を言うな。中世ヨーロッパ程度の文明では人間の糞尿は家から外に捨てられているのが普通だ。『教皇国』でも最近になって()()()が整備されたばかりだ。それまでは糞尿で路上が臭いのが当たり前だった───が、この地域では十数年前には整備されたと住民が自慢していたのを聞いた。」

「じゃあ……」

「いるのだろう、この地にも『転生者』か『転移者』が。しかも報告にあったものが本当なら……そいつは国家間に強力な影響力を持つ。」

「……異世界転生モノで定番の強権者に転生、そして内政無双……か。『転移者』の僕からしたら、実際にやられるとキッツイなぁ。しかも僕の授かった『スキル』は『工作具現』……モノ作りが少し上手くなるぐらいのもの。他のクラスメイトの『スキル』に比べられたら、戦闘スキルじゃないし……」

 

黒髪の少年、獅童充(シドウミツル)はオタクっ気のある高校生である。

彼は普段通りの日常を送っていたが、朝の登校時に突如近くにいたクラスメイトと二人の大人と共に『召喚』に巻き込まれた。

そして召喚された先───ウィーンゴールヴ神殿でそれが『勇者召喚』だと知る。

そして召喚された充達はカイエル教より『勇者』と認定され、『魔王』討伐の任を任されたのだった……が、この世界は魔獣の脅威が殊更に強く、魔王がいる気配などないにも等しい。教会の人間達は「それこそが魔王の脅威!」と弁明していたが、どこまで正しいか不明だが、充には持ち前の異世界知識で怪しい話だと察していた。

 

そしてそれとは別に、ゴーレムという対抗手段がこの世界にはあるが、今では『勇者』の内の一人がモビルスーツという破格の兵器を開発、量産しているため、教皇国は絶大な力を得た。

周辺諸国には異教徒殲滅の大義を掲げ、進行しているが、一番の目標である『アルド・レイア王国』には悉くその目論見を塵に変えられている。

そして痺れを切らせた教会は、強行偵察を決行。

犠牲を払いつつ、王国に二人のスパイを潜入させる事が出来……たが、その実態は教会の情報と真逆のものである事に充は頭を抱えた。

今回任務として潜入した国は、人間同士で争う事を嫌い、魔獣の脅威を他国に広げないよう尽力する紳士な国である(充評価)

 

(やっぱり、教会を始めとした教皇国はただの侵略国家って訳か。)

 

そんな充の心情を知ってか知らずか、男は充に声を掛ける。

「……案外、お前のスキルの方が役に立ったりしてな。」

「冗談。だって僕は落ちこぼれ……なんですから。今回の任務だって僕が選ばれたのは口減らし。先輩がいてくれなきゃ死んでしまうところでしたから。かばって頂いた事は感謝しています。」

「お前が撃墜されてしまえば、任務に支障が出るからな……というか、先輩と言うのは止めろと言ったはずだが。」

「いいえ!先輩じゃないですか。同じカモメ高校の出身なんです。それに先輩は有名なんですよ、カモメ高校のナンバー2───」

 

───ドスっ!

 

「やめろ。」

「は……はい。失礼しました、シュウさん。」

「ふん。」

 

 

黒髪の男───鰐淵シュウは、充にそれ以上言わないよう、ナイフの投擲で警告するのであった。

 

 

 

───その夕方。

 

「……よし、出来たっと。」

「ふん、ようやく出来たか。」

 

どこかにあるゾンダリアンの地下潜伏場所。

そこに妖しく光るゾンダーメタルプラントが一本、絶え間なくゾンダーメタルを生産しようとしている。

しかし、その動きはどうしたものか、鈍いの一言だ。

そしてその中に不自然にあるのがゾンダーメタルの加工場(プロセッシングプラント)───通称『魔女の工房』があり、鳥人間型のゾンダリアンのピッツォ・ケリーと、『紅い魔女』ことプレザーブがいた。

 

「時間が掛かったのは仕方ないじゃない。ただでさえプラントの成長が遅くて、ゾンダーメタルの生育に時間かかるんですから。更に……」

「──そのまま使えず、加工しないといけないのが一番の難点……耳にタコが出来る程に聞いたぞ。その触媒結晶とやらの加工など、我らゾンダリアンには出来んからな。」

「わかってるなら宜しい。」

 

そしてその加工が唯一出来るのがプレザーブのみという状況故に、更に歯痒い状況となっている。

しかしその事にピッツオ・ケリーは、ふと疑問が浮かぶ。

 

「……そういえば、何故お前はそんな事が出来るのだ?以前までは小手先の児戯と思っていたが、よくよく考えれば完全と思われていたゾンダーメタルに手を加えている。機械文明の粋を集めたものだが、ゾンダリアンやパスダー様にも手出しは出来ないものを……どうやって?」

「ああ、昔取った杵柄ってやつよ。精密な物体、現象に手を加えるのは十八番なのよ。環境対応はお手の物よ。とはいえ、一個適応させるのに2週間はかかるのは屈辱だけど……手足同然の魔法技術が機械文明に劣っていない、いい証明にはなるしねぇ。」

「手足同然??いつ覚えたのだ?」

「……あれ、アナタ知らなかったっけ?」

「何がだ?」

「私……四天王の『前任者』を倒して四天王(ゾンダリアン)になったのよ。」

「な……な……なな、何ィ!?!?」

 

まさかのカミングアウトに、機械体であるはずのピッツオ・ケリーの情報処理能力が追い付かない程に動揺する。

その様子を可愛い珍獣でも眺めるように、ケラケラ笑うプレザーブ。

 

プレザーブによると、次の通りである。

およそ100年前、とある森の深くでばったり出会った機界四天王前任者『プリマヴェーラ』に、当時不調をきたしていたゾンダーメタルの実験材料にされそうになり、抗ったという。

戦いは昼夜を問わず続き、その戦いは地形すら変える程の激戦であった。

徹底的に部位破壊を試みていた当時のプレザーブ。しかし無限に再生するプリマヴェーラに何度も隙を突かれては負傷させられ、戦いは五分。

しかし、最終的に勝ったのはプレザーブ。エネルギー不足による再生不能状態に持ち込んだまでは良かったのだが、その頃にはプレザーブも死に体状態であり、息絶える寸前であった。

 

「その時、パスダー様とポレントスがやって来て、私をゾンダリアンにして頂いたのよ。その時の媒介が前任者(プリマヴェーラ)で、私は機械文明の知識と技術、そして魔法の知識と技術を持ったゾンダリアン『プレザーブとして再誕した』のよ。」

 

ちなみに『プリマヴェーラ』とは、三重連太陽系『赤の星』の最終決戦時、腕原種の傍らにいた『プリマーダ』の片割れである。

その話を聞いたピッツォ・ケリーは、今まで感じた事のない悪寒を感じた。

……いや、恐怖というべきか、生きている人間に死にかけのゾンダリアンを与えて再誕などと、ゾンダー側からしても怖いと感じる。

当時、その場にいたパスダーやポレントスは何を思ってそんな事をしたのだろうか?

 

「ちなみに、今のお前は『プリマヴェーラ』なのか?」

「アナタにしては愚問ね。色々混じって、今ではどちらかなんてないわ。『完全に一体化』したし、今の私はゾンダリアンの『プレザーブ』よ。」

「…………」

 

この話は藪蛇だったか……

ピッツオ・ケリーは、生まれてから初めて後悔した。

同時に、ゾンダリアンであってゾンダリアンらしからぬプレザーブというゾンダリアンの、元々感じていた異様さにもある程度納得がいった。

 

(……ならば、元々の人間はどのようなものだったのか───うぉっ!?)

 

僅かに思考の海に入った直後、プレザーブがピッツォ・ケリーを眼前でじっと見つめていた事に驚く。

 

「……ピッツォ、オンナの秘密を詮索しようとか、そんな失礼な事を考えていないわよね?」

「い、いや、思ってないぞ、ああ。」

「……フフ、その方がいいわ。()()()()()()なのだし。」

「??何の事を言っている。」

「自覚なし?まあいいわ。」

 

何を考えているのか……あまりにも解らない。ピッツォ・ケリーの苦手意識は更に加速する。

そんな時にポレントスとペスカポートがやって来た。

 

「改良型のゾンダーメタル、もうそろそろ出来たと思いましたので、やってきたのですが……おや?」

「ウィルル?何かあったのか、二人共。」

「ああ、丁度良かったわ。出来たから二人に届けに行こうと思っていたところよ。はい、どうぞ。」

「これはどうも……ふむ、2つですか。」

「ごめんなさい、これが今の限界なの。後は無加工のゾンダーメタルはいっぱいあるんだけど。」

「いえ、構いません。むしろ予想より早いくらいです。」

「ウィルルルル、次こそは奴らを倒してくれる。」

「ペスカポート、我らの目的はあくまで機界昇華。いちいち相手にしては───」

「だが最大の障害であるのも事実。今のうちに奴に連なる人間達を倒さねば───」

「……両方やったら?今回は貴方達2人で。」

「む。」

「ウィルル?」

「そうだな……どちらかが人間達を引き付け、もう一人が人知れずな場所でゾンダーメタルプラントを成長させる、同時進行であればいいかもしれん。」

「ほう……それは名案ですな。」

「ウィルルル、では私が人間達の相手をしよう。」

「では私はプラントの成長を促す役を、ですね。」

 

プレザーブの一言から、担当までを決めたポレントスとペスカポート。

次回の戦いは相当な激戦の予感がする。

 

「さて……それじゃあ私とピッツォ・ケリーは別行動を取らせて貰うわ。行きましょう。」

「ふむ、以前言っていました作戦ですか。」

「ええ。丁度良い『お祭り』があるので、それを利用しようかと思って。」

「ウィルル。だが私達の作戦が成功したら──」

「その時はその時よ。機界昇華が成功したという事で。喜ばしい事よ。でも手数は多い方が良いでしょう?」

「……ふむ、いいでしょう。ピッツォ・ケリーもいるのです、そこまで仰るなら二手に別れ、行動しましょう。」

「ウィルル、吉報を待つがいい。」

 

そうして機界四天王は二手に分かれ、行動する事に。

ただピッツォの目には、ポレントスがプレザーブを睨んでいたような気がした。

……先程の話を聞いたせいだろうか?

ポレントスとペスカポートが去って行くのを見送り、プレザーブとピッツォ・ケリーも目的地へと赴く────前に……

 

「……ちょっと待て、どうしてこんな姿で行かねばならんのだ。」

「あのねぇ……これから行く所は完全に人間の生活圏内なのよ?普段のアナタの姿だとバレバレなのよ、我慢して……というかアナタ、潜入とか苦手でしょ?」

「クッ……!」

 

どうやら変装して行くようだ。

バリバリの鳥人間(ゾンダリアン)姿で行こうとするピッツォ・ケリーだったので、流石に辞めさせたのだが……

 

「──待ちなさい。どうしてそんな姿が良いと思うのかしら?」

「戦士であれば動き易さを優先するのは当然だろう。無駄な装いはしない主義──」

「──だからって下着も穿かない馬鹿がどこにいるのよ、この露出狂!!」

「グホァアッ!!」

 

衣装を用意した衣装を着たまでは良かったが、まさか下半身丸出しで行こうとしたのは、プレザーブも予想外であった。

とりあえずシメて、強制的に穿かせた。

 

そして……

 

「着いたわ。ここよ。」

 

プレザーブの目的地……そこはとある領地であった。

自然豊かな田舎の風景であるが、そこそこ栄えている土地である。

そしてプレザーブは旅の貴婦人、ピッツォ・ケリーはその護衛という風貌でここまで来ており、妙に慣れているプレザーブとは違い、ピッツォ・ケリーはこの上なく疲労感を漂わせいた。

 

「……道中、まさか人間を助ける事になるとは思わなかったぞ。」

「ご苦労様。道中、野盗に魔獣……剣一本で倒すのは負担だったかしら?」

「別にあんな雑魚共など大した相手ではない。だが庇う人間を『殺さないように』しないといけない事に、無駄に疲労感が増したがな。」

「そうしないと怪しまれるから、少し我慢して。」

「ふん。それで、ここがお前の使っている人間がいるところなのか?」

「ええ、そうよ。正確にはその一部だけど……あ、そこの貴方。」

「ん、何でしょ───夫人!!

「夫人……夫人?」

 

門番の男に声を掛けたプレザーブであったが、顔見知りのようで、返って来たのがまさかの『夫人』。

プレザーブが夫人と呼ばれた事に、ピッツォ・ケリーも驚く。

そして門番の男がプレザーブに嬉しそうに駆け寄る。

 

「夫人、お帰りなさいませ。今ご到着でしょうか?」

「ええ。目処が立って、ようやく戻れたわ。」

「それは領主様もお喜びになるでしょう。」

「あ~……それがね、急に帰れるようになったから、手紙出してないのよ。」

「そうでしたか。ちなみにそちらの御仁は?」

「道中で雇った護衛よ。めっぽう腕が立つけど、無愛想で礼儀知らずなのは目を瞑ってあげて。」

「そうですか。」

「……」

「では使いを走らせますので……」

「いいわよ、コレの方が速いから──」

 

そう言って地面に魔方陣を描くプレザーブ。その魔方陣から土とはいえ、精緻な姿の鷹のようなゴーレムが形作られ、血が通うような猛禽類の動きで飛んでいった。

 

「さすが夫人。」

「これで帰りが伝わるでしょう。さて、他の様子も見たいし、ゆっくり帰るわ。」

「お気をつけて下さい。」

 

門番に別れを告げ、その後も道行く人々に歓迎されるプレザーブ。

その光景にピッツォ・ケリーの違和感は麻痺し始める。

ゾンダーの先兵、ゾンダリアンは人間の天敵。無論、人間を恐れる事はないが、機界昇華の素材としての対象にある人間に積極的に関わろうとする者はゾンダリアンにはいない。

 

だが、プレザーブは違う。

 

元からの下地はあるだろうが、慕われる程の人望があるというのは違和感を超えて、おかしいの一言に尽きる。

しかもこの土地の住人と思わしき人物達にアドバイスすらしている。そして的確なのだろう、驚き、感謝し駆け足で帰っていく。

ピッツォ・ケリーにも目の前の光景が一朝一夕の関係ではない事は嫌でもわかる。

人だかりを越え奥地にある大きな屋敷が見える所に差し掛かったところでピッツォ・ケリーはプレザーブに疑念をぶつける事に。

 

「プレザーブ、お前はいったい何者だ?ずいぶん慕われていた……いや、慕われ過ぎているようだが。」

「そう?私はゾンダリアン四天王の一人、プレザーブよ。でもここでの身分は……」

 

「───シエスティーナ!!帰って来たのか!」

「あ、旦那様!シエスティーナ、只今帰りましたわ!」

「───!?」

 

屋敷から走ってきたであろうその人物を、プレザーブは今まで見たこともない喜びに満ちた艶やかな笑顔で迎える。

しかも『旦那様』と。

故にその好青年である人物は───

 

「紹介するわ。私の『旦那様』であり、このラーズグリーズ領の領主、ヴェルドハン・L・ラーズグリーズ伯爵よ。」

「どうも、恥ずかしいところを見せてしまい申し訳ない。ラーズグリーズ領領主のヴェルドハンだ。」

「……?!……?」

 

ついにピッツォ・ケリーの処理能力がエラーをきたす。

 

どこの世界に人間と(つがい)を持つゾンダリアンがいる!?と。

いや、先程夫人と呼ばれていたから、間違いないではないが……いや、充分におかしい!

 

……等と考える事も出来ず、頭の中に宇宙と猫が「にゃ~ん」していた。

 

「何を想像しているのかしら。」

「シエスティーナ、こちらの()()()()は……」

「……誰がお嬢さんだ。私が小娘に見えるのか?」

 

ピッツォさん、現状復帰する。

お嬢さん(小娘)呼ばわりは癪に触ったようだ。

 

「ああ、ごめんなさい。道中で雇った私の護衛なの。こう見えて私と大して歳が変わらないのよ。三十路を越えてるし。」

「そうでしたか、すみません。」

「……」

 

随分と腰が低いな、それにピッツォ・ケリーの隠しきれない粗暴さにも寛容でもある、と思ったがピッツォ・ケリーにはどうでもいい話であった。

 

「ちなみに名前は───」

「……ケリー・レッドウイング、それが私の名だ。」

「あら。」

「ケリー、ですか。これまで妻を守って頂き、感謝します。」

「む……感謝の言葉、受け取ろう。」

 

赤髪の()剣士──ピッツォ・ケリーこと、ケリー・レッドウイングは三十路設定にしたはずだが、つい童顔の顔を素直に下げる。

 

「ちなみにこのケリーを、王城に招かれた際の護衛にしようと思ってるのだけど……」

「君の推薦なら喜んで。」

 

話が知らないうちに進み、釈然としない点もあるが、これで目的のための条件が一つ達成出来たゾンダリアン達。

窮地に追い込まれたゾンダリアン達は、今まで見せた事もない絡め手で人間達に牙を向こうとするのであった……

 

「それで旅はどうだったんだい?子供達も家で待って聞きたがっているよ。」

「も・ち・ろ・ん、いいわよぉ。」

 

だが、この夫婦(?)のイチャイチャ加減を見せられるのはどうにかしてほしい、とケリーはうんざりな気持ちであったりする。

 

 

《NEXT》

 

 


 

 

《現在公開出来る情報》

 

 

○オルガ・G・イツカ『子爵』

作戦上障害になるであろう身分差を暫定的に減らすための処置。

どちらにせよ、貴族となった。

オメデトー、地獄の巣穴、貴族社会にようこそ(笑)

ついでに、重要戦力の三日月と明弘は『男爵』。

いらっしゃいませ、地獄の一丁目へ。

 

……鉄華団にとっては嫌がらせ以上のナニモノでもない。

 

 

○木崎麻里絵

『転移者』その1。ブラックになりつつあった病院の医者。

脊髄損傷による障害を外科手術で治癒出来る腕を持つ外科医であり、神経の縫合を得意とする。また、

気さくな性格も合わさって高い人気を誇る。

勤めていた病院はGGG長官阿嘉松の娘、紗孔羅を診ていた医師がいるところで、麻里絵も多少なかがら関わっている。

『スキル』なし。

カモメ高校卒業生。

 

○山本輝美

『転移者』その2。麻里絵の勤める病院の准看護師。勤務態度はいい加減で、男受けする容姿が原因によるトラブルを多く抱えており、麻里絵の病院がブラックになる一因を担っていた。

医学の知識は人並み程度で、仕事は大して出来ないながら、謎の独自理論を発しては医療事故スレスレの事案を起こす常習犯。

しかしそれ以上に人の弱みを握る事に長けているが、同僚からゆすりの証拠を挙げられ、過去にあった大量離職の原因を作った証拠も挙げられ、解雇される。

多額の借金で首が回らないのをショッピングモールで悩んでいたところ『勇者召喚』の場に居合わせ、『回復魔法』を取得。教会で聖女の称号を授かる。

他人の不幸は蜜の味が信条。

 

○獅童充

『転移者』その3。カモメ高校2年生。

異世界ファンタジーを中心とした漫画オタク。

『勇者召喚』に巻き込まれた学生は、あと5人はいる。

『勇者召喚』で『工作具現』を取得。

実はとある人物と遠縁の関係者らしい……

 

○鰐淵シュウ

『カイエル教』のスパイ。

食べ物の事になると饒舌になる。

カモメ高校の卒業生で、実はと言わなくても『転生者』であり、元○○○○○○の○○○○。

どうやら未練あるようで……

 

○プリマヴェーラ

三重連太陽系『赤の星』の最終決戦時に腕原種の傍らにいたプリマーダのもう一人のゾンダリアン。

『公爵令嬢~』ではプレザーブ(人間時)に○され、プレザーブに吸収され、現在のプレザーブに統括されている。

プレザーブが魔法に精通し、ゾンダーメタルを改造出来るのはこのため。

 

○シエスティーナ・Z・ラーズグリーズ

ラーズグリーズ伯爵夫人で、プレザーブの人間の名前。

ヤリ手の夫人であるが、常日頃から旅に出ては領地に役立つ産物や情報を送っている。

民からは夫婦共々非常に慕われ、信頼は厚い。

 

○ケリー・レッドウイング(♀)

ピッツォ・ケリーの人間形態。(

赤髪の凄腕童顔美少女剣士(三十路越え)

『ケリー』は黄緑色の意味もあり、レッドウイングと合わせると、ゾンダリアン形態のボディーカラーとなる。

下着はズボンも含めて履きたくない派。

履かないとプレザーブサンからお仕置きされます。

大丈夫ですか、ケリーサン?

 






時々、話を整理したいがために、こんな話を出すのは楽しい。
という訳で色んなフラグをぶち込みつつ、今後をお楽しみに!

気になる話はどれでした?

  • モビルスーツの貸与話
  • オルガ達が貴族となった事
  • 転生者、転移者のお話
  • オラタコ……(フラグあり)
  • 情報量が多すぎるゾンダリアン達
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