部署移動と言っても職場が変わるので、転職以外で今までそんな思いをしたことがないため、今は軽い鬱状態。
今回は生存報告がてら、色々拾いたい小さな話を少々。
〇とあるゾンダー被害者のその後。
───アースガルズ邸宅外 訓練場
アースガルズ家の者達が普段から切磋琢磨する訓練場。
特に誰とは言わない、むしろ誰もが自分の力を、技を研くため、日夜誰かと誰かが切磋琢磨し、競い合っている。
ここには鉄鋼桜華騎士団も試験団の頃から間借りしている。
当然ながらアースガルズ公爵令嬢こと、カルディナもまた然り。幼少の頃から武芸を研くのに余念がないのはご存じかと。
そんな訓練場の一角にて、かつてゾンダーメタルに寄生され、ゾンダーロボとなった騎士の一人、シルフィーネ・V・ブリュンヒルドは只々驚愕していたのだった。
嫉妬心からゾンダーの素体にされ、初のガオガイガー戦でカルディナを追い詰めたゾンダーロボとなった人物。
浄解された後はカルディナに対する嫉妬心はなくなったものの所属していた騎士団からは一連の事案のため解雇された。そんな時、事情を知ったレクシーズやクリストファーがシルフィーネをオルガ率いる『鉄鋼桜華試験団』……現在は『鉄鋼桜華騎士団』に引き入れたのだった。
スープの味覚試験を3週間でクリア出来た彼女に待っていたのは、鉄華団の仕事……という試験評価漬けの毎日であった。
とにかく仕事。試験評価は当たり前で感覚を鋭敏にしなければ見極めが難しいものばかりである。
更に雑用から担当区域の見回り、たまに魔獣討伐が加わるが、鉄鋼桜華騎士団の持つ機動兵器……MSの圧倒的な性能の前に度肝を抜かれた感覚は今でも鮮烈に残っている。
そんな彼女は、アトラやクーデリアを除いた鉄華団の(常在)女性団員なので、常に他の団員から好意的な目で見られるという。
前の騎士団ではむしろやっかみや嫉妬が多かった。
なので、余計に自由気ままでありながら驚異的な力を持つカルディナに嫉妬し、憎みもした。
そんな彼女に転機が。
それはカルディナとの模擬戦である。
再び手合わせをする約束はカルディナよりされていたが、やはりカルディナの暇はなかった。
だがようやく手が空いた頃に、カルディナから手合わせに招かれたシルフィーネは、日頃の訓練の成果を示すチャンスと思った。
そしてゾンダーとなった原因であり、浄解された後もまた残った強い希望である『カルディナとの手合わせ』が、この日行われていたのだが、その内容は同じ得物を用いたものでありながら、シルフィーネの防戦一方であった。
端から見れば剣閃が銃撃戦と変わらない光景である。
至近距離から撃ち合うのであれば、それは何て『ガンカタ』なのだろう。
その剣閃を繰り出しているのがカルディナであり、シルフィーネにとっては暴風雨の如き剣閃の嵐が目の前から繰り出されている。
しかも只振るわれるだけではない、確実にこちらを捉え、上下左右全ての死角を常に狙って次々に放たれる剣閃をシルフィーネは自身の持つ細剣の技量で防ぐのに精いっぱいであった。
しかもその剣閃からは一切殺気どころか敵意すらない。ただ淡々と、淡々と作業のように放たれる異質な剣閃に対峙するのに、シルフィーネは今までの経験が一切役に立たない事を思い知った。
元々緻密で繊細な攻撃は彼女の得意とする分野。
だがそれを大きく上回る速さと正確さには圧倒されていたのだった。
「ほらほら、早く捌いて反撃いたしませんと、防戦一方ですわよ?」
(そ、そんな事言われても、反撃の糸口が……!)
「さて、どちらに致しましょうか?」
(え、何が……!?)
「では───フンッ!!」
───ズンッ!!
「な───」
カルディナの強い、地面をも揺らす踏み込みがシルフィーネのバランスを崩した。
と、同時に得物のレイピアの柄を掴まれ、自身の首元に刃が届いたのはその直後だった。
「それまで!」
「ま……参りました。」
「ありがとうございました。」
圧倒的な力量の前に、シルフィーネは為す術もなく敗れたのだった……
「……圧倒的、でした。」
「だろうな。」
「あ、あうぅぅ……」
模擬戦を経て、カルディナとの力量をはっきりと自覚したシルフィーネは、オルガから飲み物を受け取った後、ポツリと洩らした。
だが、その顔は憑き物が取れたというような、どこかスッキリした顔をしていたシルフィーネ。
そして何か自覚したようで、落ち込んでしまう。
オルガは、その様子をただありのままに受け止めた。
「私が学んだ全てが通用しませんでした。カルディナ嬢を憎んでいたあの頃では足元にも及ばず、ゾンダーというものに取り憑かれた後もお赦しを頂き、こちらで研鑽を積む機会を与えられ、あの頃よりも強くなったと自負出来ます……ですが、カルディナ嬢はその遥か先を往く強さでした。」
「だろうな。お嬢は俺等、鉄華団全員で立ち向かっても未だに勝てねぇ。聞いた話じゃ近衛騎士団も一人でボコボコにした事もあるし、ウチの公爵様もお嬢相手に、辛うじて剣で勝てるってぐらいで、真正面からじゃまず負けるってボヤいてたな。その位は強い。しかも今日の模擬戦は強化魔法とか付与系は一切なし、純粋な身体技能だけってルールだっけか。」
「……ただ公爵令嬢だから優遇されていたと思っていた自分が、恥ずかしいです。」
「ハハハ、潜った修羅場が違う。ただ才能があるとかじゃねぇえ、メイド一人連れて外国に武者修行に行った猛者だ。最低でも旅団級魔獣とかゴーレムを生身で
「あああ〜……有頂天になっていた自分が馬鹿らしく思えます。『殲滅公』の異名を持つクリストファー様に対峙するとか、剣を持つ者なら絶望感しかないです!」
「じゃあ、あれを見てどう思う?」
「あれ……??」
オルガの指し示す先、そこには大型メイスを模した木棒を持つ三日月と、ハルバードを模した木の槍を持つ明宏が、反りのある木刀を持つクリストファーと対峙していた。
「公爵様、お相手お願いします!」
「お願いします。」
「来いっ!」
メイスを振り下ろす三日月に、ハルバードを薙ぐ明宏。
その合間を縫うように避け、斬り掛かるクリストファー。
明宏がハルバードを盾として受けるも、その一撃は重く巨漢の明宏を軽々と吹き飛ばす。
しかし動揺せず着地した明宏の後ろから飛び出す三日月。
メイスの一撃が届く前に、鋭い刺突がクリストファーを襲う。
3つの衝撃が地面を揺らすが、それ以上の鋭い動きでクリストファーは後退する。
「……それがバルバトスに装備されている兵装の兵士版とやらか。」
「む、避けられた。」
三日月の腰から2本のうねるワイヤーが、その先に大振りのナイフを模した木の板があった。
ガンダムバルバトスルプスレクスのワイヤーブレードを参考にした『ワイヤー・テンタクル』である。
悪魔バルバトスと天使ハシュマルが憑依、操作するそれらはワイヤーブレード同様に異常な反応速度を誇る。
本来はブレードを装備しているが、今回は訓練仕様。
しかし……
《速い。》
《む〜、どんな機動性なんですかぁ!?》
悪魔、天使が思わず愚痴る程にクリストファーは速かった。
身のこなし、足捌きは霞を通り越して霧を相手にしている……まるでカルディナを相手にしているかのよう。
「意表を突くとしては及第点、だがもっと視覚の外からの急襲でなければ、狙う場所が丸分かりだ、攻撃が素直過ぎるぞ。」
「確かに。」
「お前達二人の攻撃は一撃必殺が主体だろう。私のような相手にはどちらかが布石を打ち、その後本命を叩き込むのが筋だ。」
「随分詳しいんですね、公爵!」
「バランドに嫌という程やられたからな。」
「して、その効果は?」
「全て迎撃、翻してやってたさ!」
「実に為にならないアドバイス、ありがとうございます!」
「うん、本当に為にならない。」
「ハハハ!褒めるな、照れるだろう!」
「「褒めてない!」」
クリストファーが木刀を構えたその直後、剣閃が2人を襲う。
広範囲からの攻撃ではなく、ピンポイントでありながら恐ろしく密度の高い剣閃。
得物で攻撃を捌くので精いっぱいな2人だが、今度はクリストファーの抜刀の構えが視界に入った。
その姿を見た瞬間、血の気が引き、すぐさま後退する。
その瞬間、雷が直撃したような雷鳴が響き、三日月達が先程いた場所にとてつもない衝撃とクレーターが出来上がる。
クリストファーの振り下ろした太刀筋、その一刀である。
たかが一刀、されど一刀。その一刀はあらゆる相手を瞬間的に滅ぼしてきた、重い重い一刀の業。
故にクリストファーはこの圧倒的な機動性と重い剣閃にて付いた渾名が『殲滅公』。
「あ、あぶねぇ……!」
「……ギリ回避成功。」
寸前のところで回避出来ていた2人はため息を吐く。
その光景に目を丸くするシルフィーネ。
「な、何という攻撃……それ以上に、彼らは『殲滅公』相手に何故対処出来るのですか……??」
「もう何度も訓練の相手になって貰ってるから、ある程度の動きは判るからな。後は『勇気』を胸にどれだけ気落とせずに行けるか、だな。」
「ゆ、勇気ですか??」
「つっても、蛮勇じゃねぇぞ。そんなん抱いて突っ込んだら公爵様から指導の蹴りが入るからな。」
的確に尻に入る蹴りは、非常に痛いので有名だ。
しかも男女平等に蹴られる。
「この場合は『気配察知』……いや『制空圏』って奴か。怖いと思いながらもギリギリまで観察してどこまで紙一重で避けられるか……とにかく恐怖を飼い慣らし、肝っ玉が据わってないと出来ねぇ、つまり『勇気』がないと出来ない訳だ。」
「なるほど。」
「お嬢がよく俺らに言うのが『ビビってる時ほど相手をよく見て動け』って。その『勇気』が動き自体を鋭くしてくれる、これはそれに慣れる為の訓練でもある。魔法も碌に使えねぇ俺達の武器はなけなしの勇気だからな、手前ェの勇気を飼い慣らさないと、これからの戦いは生き残れない。だから公爵様相手に怖気付く訳にはいかねぇんだ。」
「ですが、それとこれとは別です。実際に対峙するには……」
「ん〜……なら、公爵様に相手して貰えばいいなじゃねぇか?」
「え。」
「すみませーん!シルフィーネが公爵様に稽古つけて貰いたいそうです!」
「なッ!?」
「何、そうなのか?」
オルガの声で稽古が止まる。
三日月も明宏も息が絶え絶えであり、丁度助け舟を出した結果となった。
本人は拒否したいが、
「よし、ならばこちらに来い。稽古をつけてやる。特訓の成果を見せて貰おう。三日月、明宏。2人はこれで終わりだ、しばし休憩に入れ。」
「は、はい……!」
「助かった。」
「オ、オルガ団長??私は……」
「せっかくだ、相手して貰え。死なない程度には相手してくれるからな。」
「そ、そんな……!?」
「そうだ、折角だから久々にオルガも一緒にどうだ?」
「え!?いや俺は……」
「私は一向にかまわんぞ?」
にこりと素敵に笑うクリストファーを前に、今更止めるだなんて言えない。
この瞬間、2人は一蓮托生のパートナーとなった。
「う、うううう……!」
「ったくよ、こうなったら死ぬ気でやらねぇとな。」
「よし……来い!」
オルガは盾と木の棒、シルフィーネはレイピアを構え、勇気を振り絞って叫びながら突撃するのであった。
ちなみにこの場にいる者は皆、IDメイルを装備している。
振り絞る勇気は、纏うIDメイルに力を与え、潜在能力以上の力を授ける。
それに慣れるための訓練である。
……ちなみに結果は語るまでもないが、カップラーメンが出来る程度には粘れたようだ。
そんな頑張ったシルフィーネに、カルディナの舞踏会の護衛の任が下されるのは、この後の話である。
〇……大丈夫??
「……フフフ。随分お似合いよ、ケリー。」
「……お前こそ、その様は何だ。」
ピッツォ・ケリーとプレザーブ、ゾンダリアン2名がラーズグリーズ邸にて翻弄された翌朝。
2人は
「よく似合ってるじゃない、流石は私の見込んだ
一晩掛けて
当然ながら当のケリーサンは終始顔が引き攣っている、よく我慢したものだ。
「今回の作戦は重要なものだ、準備は万全にしなければな。それが例えニンゲンに扮しなければならなければいけなくともな……だが、お前は何だ?」
それに対し、プレザーブは「バッチリ愛し合ってきました♡」みたいな下着姿だった。
随分お盛んだったようで、
「あらら、ごめんなさい。伯爵ったら、事ある毎に情熱的なのよ。こんなにも愛されるなんて……私ったら罪なオ・ン・ナ。」
「……キサマ!」
「別に怒らないで。私の服はもう用意してるんだし、伯爵から
「何をだ?」
「警備態勢とその中身よ。」
「ニンゲンの警備態勢など大した事もなかろう……あの『
「残念ながらそれに近い感じのものが出てくるみたいね。」
「何??」
「
「……それは些か警戒が必要だな。作戦実行までは大きく動かない予定だが。」
「当日お披露目に伴って発表されるモノも気になるところだけど、そちらは伯爵も知らされていないようで、どこにも情報は出回ってなかったわ。ま、警備態勢を聞き出しただけでも今回の作戦は充分よ。おそらく『
「ポレントスとペスカポートの策を打ち破った『カインの遺産』か……あんなものがまだあったとは。」
「けれども、それ故なら封じる策はあるわ。」
「そうだな、我々は今回『王』を取る……それが今回の作戦の肝だ。」
「フフフ、そうね。楽しみだわ……」
暗躍をするゾンダリアン2人。
……だが、片方は良いとして、もう片方はその恰好ではどうも締まらない。
〇技師達の残業
鐘が鳴る。
これは終業の鐘。
アースガルズ領最大の機密工房、通称『お嬢様の
そして帰り支度をして各々帰り路に就く……
ここで働く者ならありふれた光景だ。
「っしゃ!これでいいだろう。」
「ふ〜……何とか間に合ったわね。」
「ええ。この仕上がりなら舞踏会のお披露目には充分でしょう。」
そんな中、イザリア、ダーヴィズ、フェルネスの3人が行なっていたのは『セカンド』ことギャレオン2号機『シューティング』の最終チェックと磨きである。
先日の戦いで奮戦したシューティング・ガオガイガー。
だが出来立て新品の機体など、戦闘で破損するのは最早恒例行事で、それをブツクサ言いながら修繕するのが日常茶飯事な工房の皆様。
V.C.の補助ありきだが、自分達がオーパーツ製造機になっちまった、という事を過去の自分達にぶん投げながら行う作業は中毒性を孕んでいたりするので、もう細かい事を考えないようにしている。
特に不動の地位と化したこの3人は『三主任』と呼ばれ、工房内では隔絶とした製造技術を持っている。
大概の事は出来るようになったのだが、それでもこの三人の貪欲さは底無しである。
分野こそ違えど、三重連太陽系の技術を日に日に吸収し、魔法でどう再現、互換性を持たせるか───つまりはカルディナと同じような領域に立っているのが、この三人なのだ。
さて、そんなお嬢様のような変態技術の担い手達が就業時間を過ぎた後、揃って出口とは逆方向に向かう。
「やべ、弁当忘れた。」
「またですか。」
「しょうがないわね、
「すまねぇな。」
「何でしたらシレーネもいろいろ用意してくれていますから、そちらもお分けしますよ。」
「あ~、助かるぜ。しかし……さすが既婚者達、用意周到だな。」
「内助の功、って奴よ。アンタも早く見つけたら?」
「……嫁になってくれる相手が見つからねぇ。」
「脈ありな職人、意外と多くいますよ。」
「マジで?!」
「ああ~、熱烈って訳じゃないけど、熱い視線を送ってるコはいるわね。差し入れしたいな~ってのも、いくらか耳にしたわ。その内来るんじゃない?好物の噂でも流してあげようかしら?」
「いいって、そこまでしなくても……恥ずかしいっての。それよりも、昨日は四肢まで仕上げたんだったな。今日は胴体部分、行ってみるか?」
「そうね、いよいよ大詰めよ。」
「ですが流石に私達の手に余るところです。ブラックボックスと言えるところなので───」
「──ああ、来たね。」
彼らが赴いた先、そこにはカインがいた。
そしてその後ろにはギャレオン───0であり、1号機でもある『マギウス・ギャレオン』が。
その双眸には弱々しくも光が宿っている。
「どうもカインさん、それにV.C.。」
《ご来訪、ありがとうございます。》
「先んじて見させてもらったよ。これまでの修復個所には問題ない……あとは胴体だね。TGSライドには破損がないようだが、周辺のパーツの自己修復が追い付いていない……いや、
《申し訳ございません。》
先の内部解析でもマギウス・ギャレオンの内部は徹底的に解析したのだが、主動力たる『TGSライド』はブラックボックスだ。
更に言うなら、コックピット周辺もブラックボックスだ。
誕生経緯からして、破損個所のコックピット周辺はなまじAZ-Mで急激に構成したため、機械部品等と云うものがない。AZ-Mをぶち込んで満たした修復個所は電界回路を情報ネットワーク、及びG&Jファイバーの伝達プロトコル主点としていた。その構成形態はカルディナの脳内伝達神経に酷似している。
しかし、後の解析で判明した事なのだが、そのカルディナの伝達神経は特異点的に『アカシックレコード』に直結している。つまりマギウス・ギャレオン……ひいてはマギウス・ガオガイガーはアカシックレコード込みで稼働している。その繋がりが含まれているため、構成形態が非常に曖昧なのである。
それはV.C.ですら計測不能な領域であり、その領域の大きさは、推定『宇宙の端から端まで』。
何故ならこれは、アカシックレコードの使用領域に虚数限界乱数が掛かった状態で非常に曖昧かつ不安定な故に観測が不可能なのだ。加えてアカシックレコードの具体的な特異点が、覚醒前のカルディナのアカシックレコードの情報を管理していたV.C.自身だという。
これにはV.C.も、頭部(?)を抱えた。知らぬ間に自分が特異点と化しているからだが、情報伝達構成を省みると良く解る。
カルディナ ⇆ V.C. ⇆ アカシックレコード
ちなみに
これまでは別に良かったのだが、今回の戦闘で
同時に情報伝達が無限情報サーキットであるVクォーツ……V.C.を介さない状態となったっため、カルディナの余命が強制的に数年以内となった。
レヴォリュダーの能力であっても、それは不可避である。無限情報サーキットがないと、やはり詰む。
それでもカルディナは、
ちなみにその変調が、先の戦いでの『女の子の日』である。
本来であれば既に終わっていたのだが、周期が少しだけ早まり、普段よりも長引いた。
アカシックレコードの影響は僅かに、だが着実にカルディナの身体を蝕むのだが、それに待ったをかけたのが、V.C.である。
「……まったく。今更ですがV.C.の
「本当に……お嬢は自己犠牲の塊なのかしら?何で自分をもっと優先しないのかしら……」
「ま、気持ちは分からんでもねぇ……けどよ、知った以上は容赦はしねぇぜ、お嬢。」
《カイン様、現状は如何でしょうか?》
「……プロトコルの解析は出来た。アカシックレコードの接続に関してはV.C.の方が解るので良かろう、だが周辺環境は魔術的介入が必然的に必要になって来る。本当に奇跡のようなタイミングだ、私が魔法に触れたのが。カルディナの学び舎で嗜み程度に学んだ事が生きていて良かったよ。」
《はい。カイン様が魔法について学んで頂けなければ、今回の事態は回避出来なかったでしょう。》
「知らなかった量子エネルギーの運用方法……私もアベルもまだ高みに行ける。同時に恩人に恩返しが出来る機会を得た。これ程嬉しい事はない。そして君達がいる以上、技術的な不安もない。」
「そう言って頂けると嬉しいです、私達もお嬢の力になれると判って。とはいえ……」
「お嬢様は私達にとっては子供。その子供が大人以上に命を張っているのは遺憾でしかないのです。」
「全くだ。ガキはガキらしく無邪気にしていればいいものを……それが一番お似合いなんだ、無くしてたまるかってんだ。」
どんなに力を付けようとも、カルディナ・ヴァン・アースガルズはまだ未成年。
ここにいる者達にはカルディナは無邪気な子供にしか映らない。
そんな子供が自分達以上に命を張っている光景は、この上なく耐えがたいものなのだ。
だが状況がそれを許さない。そしてカルディナの性格を知る者にとっては余計な手出しは蛇足でしかない。
だからこそ、カルディナ・ヴァン・アースガルズが十全に戦える環境を整えるのが自分達の役目だと思う者達がいる。
しかも大勢。
「あ、主任~、先に頂いていま~す!」
「ご飯美味しいです。」
「先に頂いていま~す。」
マギウス・ギャレオンの前には帰ったはずの職人達が、輪を作って食事を和気あいあいとしていた。
全員がシャワーを浴びた後、我先にと来ていた。
「……おいおい、飯の心配した俺が馬鹿みたいじゃねぇか。」
「イザリア、来たぞ~。ほれ。」
「あ、ありがとう。」
「アナタ~、ご飯出来ましたよ~。」
「シレーネ。ありがとうございます。」
「いいえ。カルディナお嬢様が頑張っているんです、私が支えないといけませんからね~。」
「そうですね。」
「さ、食ったら残業始めんぞ~。残業代は出ねぇけど。」
「だよな~。今日で2週間連続か?」
「でも上等、上等。」
「むしろ望むところだ。」
誰も過酷と思える残業に対し、嫌な顔を見せず、むしろ平常心そのままであった。
何故なら三者三様、人それぞれカルディナに助けられ、スカウトされ、ここにいる。
恩義があり、誇りがあり、夢があり、その上で全力で求められた。
ここには
ここには
故にあの
腕もあり、人情もあり、実力もある人物の窮地に、立ち上がらない者などいない。
「むしろ、
「意気込み高ぇな。その通りだけど。」
「シューティングもいいけど、やっぱりマギウス・ガオガイガーの方がな、俺達には性にあっているというか……」
「おっかねぇ姿形だけどさ、見てるとどっか安心するっているか……勇気づけられるっていうか、うん、誇らしいっていうか。」
「誇り……ああ、そうだな。」
ここにいる者達にとってはマギウス・ガオガイガーは『誇り』である。
それがいつまでもコケにされているのは、許せないのだ。
「さあ、腹も満たされた事だし、……では皆、やろうか。頼むぞ。」
「「「「「おう!!」」」」」
職人達は夜が更ける最中、再び腕を振るう。
己が主人の為に、己が誇りの為に、自分達の魂の為に……
職人達の夜はこれからであった。
……そしてそれぞれの思惑が交差する舞踏会まで、あと2日。
《NEXT》
シフトの変化もあって、新しい環境に慣れるまでは非常に大変ですが、遅い筆の進みながら、これからも進めさせていただきます。