なんかネットでドアパンニキと呼ばれるようになりました 作:先詠む人
前回のあらすじ
ドアパンニキ出陣
2話:そのドアは叩いてはいけないドアだった
大学行って、バイト先で先輩から変な仕事押し付けられてその上でモンスター客まで押し付けられてその癖先輩はみんな裏でタバコ吸って仕事さぼってる分表に一人しかいない俺にツケが回ってきて売り場パンクして俺が悪いことにされて…ってサイクルで毎日が過ぎていく。本来大学生なら遅くても22時には退勤して家に帰さないといけないと本社から指示が出てるらしいのに、先輩がその辺ごまかしてるのか俺はいない体になっていて日が変わる直前まで残らされる。
そのせいで朝早くから学校で授業があると家に帰る時点で這う這うの体だ。半ば死人のように這いつくばりながら帰宅し、自室がある2階へと足を運び、崩れそうになる足を必死に動かしてベッドにダイブする。
「……あーしんど…いくら先生に勧められたとはいえバイト先ミスったかもしれん…」
後半はいろいろとニュアンスは違うがまぁまぁ同じことをそう呟いて気絶するように寝てると、大体朝6時ぐらいになってから怒りで角生えた母親にいつの間に帰ってきたんだと枕元でブチギレられて起きるんだが、その日はいつもと違っていた。
『……!!…!!』
どっかから何か継続的にデカい悲鳴みたいなのが聞こえてきて目を覚ました。
「あ゛~?」
気だるげにのっそりとベッドから起き上がり、枕元に放り投げていたスマホで現時刻を確認すると時刻は深夜の1時ちょい過ぎ。帰宅しベッドに風呂に入ることもなく身を投げ出したのが12時半ぐらいだったから30分ほどしか経っていないが、どうやら悲鳴のせいで目を覚ましてしまったらしい。
「っるせ~なぁ……」
継続的に聞こえてくる悲鳴のような声は女の声。外で誰か何かしてるのかと思って一旦窓を開けてみたが、そうでもない。
となると音の発生源は下か横かどちらかとなるが、俺は下の可能性をすぐに破棄した。下には親が寝てる寝室と、リビングダイニングとか水回りがあるぐらいのため親がなんか変な映画とか見てない限りそう言うのはありえない。それに仮にそうだったとしても今日…っていうか日またいでるから昨日か。昨日から明日にかけて親は3日間田舎のじいちゃんが風呂場でこけて肋骨折ったとかで二人ともそっちの方に行ってるからいない。
となると答えは必然的に一つに絞られる。だが、隣の部屋に居るのは一つ下の妹だ。とはいっても俺が高校入ったぐらいからあんまり話さなくなったから今何してるとか、どこの大学目指しているとかそんな話は一切聞いたことはない。
『あ~いっちゃう!!いっちゃう~!!』
時間とともに感覚も覚醒してきたのか、
「……」
体は疲労を訴えており今すぐにでも寝たいが、頭はこのうるさいのをどうにかしろと訴える。
「……うっせーんだよ何やってんだよ」
ぼそりと呟きつつ再度ベッドから起き上がり、自室を出る。廊下に出るとやはり隣の部屋から妹の嬌声のような声が漏れ出ていた。しかも俺が帰ったときは気づかなかったが、部屋の扉をきちんと閉め忘れているらしく扉がうっすらと開いている。
「………」
無言でそれを確認してから俺は扉をとりあえずノックした。
コンコン…
廊下に木の扉を叩く軽い音が反響するが、部屋の中からは反応はない。というか、嬌声が止まる気配がない。
「………はぁ」
もう一回してみるか。そう思って俺は再度ノックした。
コンコンコンコン…
今度は国際的なマナーとかで定められているらしい4回*1だ。
少し待つ。だが、先ほどと同じく反応はない。というかむしろ嬌声のような声がさらにうるさくなってきた。
「ええ加減にせぇよ……」
誰に聞かせるわけでもなくぽつりとつぶやき、俺は握りこぶしをゆっくりと力強く固めた。ぎちぎちと強く握りしめすぎて手汗のせいで聞こえてくる拳を一旦胸元まで引き寄せる。頭は怒りに支配されて、沸騰したマグマのようにどろどろとした暗い感情が頭を占めていた。
後々から思えば、その時の俺は正気じゃなかったんだろう。ストレスがたまりすぎて怒りの沸点がかなり低くなっていた上に、事故の後遺症のせいで感覚過敏になったのをうまくコントロールできずに感情のコントロールまで上手くできなくなりかけていた。
そして俺はその時の感情に任せて行動した。否、してしまった。
ドゴン!!
怒りとともに全力で振りかざした拳が裏拳で飛んできたものをはたく様に扉にぶつけられる。そのせいで扉はすごい音を立てながら部屋の中へと開いていく。開かれた扉の奥には勉強机に置かれたデスクトップPCの前でヘッドセットを首にずり降ろしてこっちを向いて固まる妹の姿。
それに対して俺は廊下から怒声を張り上げた。
「じゃかましぃ*2んじゃ!!お前ええ加減にしろや!!今何時だと思ってんねん!!時間帯と隣のこと考えないで嬌声張り上げてうッせーんだよこのあほたれがぁ!!」
声を久しぶりに激しく荒げたせいで荒く息遣いをしながら睨みつける。妹はそんな俺を化け物でも見るかのように見つつ、おびえた様子で
「お……お兄ちゃんいつの間に帰ってたの………」
と震えた声で呟いてからは!?と何かに気付いたかのように慌ててパソコンを操作し始めた。
その一瞬で体の隙間から見えたパソコンの画面に映っていたのはネコミミの少女がこちらを向くかのように固まっている画面と、そして俺が高校生の時に見慣れてしまった動画サイトの配信者側の画面だった。
「……あ」
それが見えた俺はとんでもないことをやらかしてしまったことを何となく察し、そしてサーっと顔から血の気が下がる音を何となく聞きながらゆっくりと土下座の体勢に移行した。
これが怒りのあまり隣の部屋にドアパンしてしまったアニキ、通称ドアパンニキの伝説の始まりです。
ここから始まる物語って多分あんまりないと思います。
因みに耳に手を当てたら音が聞こえなくなるってよく言われるんですけど、逆によく聞こえるようになる人ってマジでいるからそう言うのを見かけたときは変なことしてるって思わずに優しく接してあげてください。
あれふざけてるって思って怒られるとマジでつらい奴なんで。(経験談)