なんかネットでドアパンニキと呼ばれるようになりました   作:先詠む人

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第2章:RESTART
18話:Re:Start(再始動)


すぅすぅと寝息を立てている横でスマホは唐突に着信音を鳴らす。

 

<~~♪>

 

昔、音大を舞台に天才指揮者と天災ピアニストの2人が織りなすラブコメディの漫画原作のドラマにて天災がピアニカを吹き、天才が指揮したオーケストラを代表する曲の1つが流れ出す。

 

「ん……」

 

バン!バン!!とうつぶせのままベッドサイドに置いたテーブルの上から流れる音を止めようと叩き付けられる掌はどうにか音を鳴らすスマートフォンをつかみ取った。

 

「うっせぇ……」

 

弦楽器が奏でるそのドラマのOPにも使われていたせいで有名なメインメロディが流れている中、顔をしかめながら画面を見る。時間は夕方に近づきつつある14時ごろ。朝帰りしてそのまま布団に突っ込んでから7時間近くぐっすり寝ていたようだ。

 

「てか、ハルがなんでこの時間にかけてくるんだよ……」

 

しかめっ面を写す画面に映し出されている名前は「ハル」。そしてこの着メロに設定しているクラシック(というか、ジャズ?)の曲は本人たっての希望に仕方なく合わせたものだ。ホントは「ALMIGHTY~仮面の約束 feat.川上洋平」にしようかと思って実際に設定していたのだが、こないだたまたまバレて滅茶苦茶強い意志で変更させられた。

 

「あんだよ。」

 

寝起きの不機嫌声を画そうともせずに電話に出つつカーテンを開ける。カーテンを開けたせいで夏至を超えたことで短くなってきつつある傾てきた夏の日差しが俺の目を刺す。

傾きつつある日の色は白というよりも少しばかり赤に近く、それはあの日俺が見た黒と交わっていく流れ出る血の色(あか)を連想させた。

 

『お兄ちゃん、できればでいいんだけどこの後事務所の方に来てもらうことってできる?』

 

電話越しに聞こえるハルの声は微妙に硬い印象を感じさせる。その原因はわからないが、事務所に来いということは恐らく昨日のあの一軒のことが原因なのかと予想させるには十二分だった。

 

「正直嫌だが昨日の一件のことでってことなら構わんよ。」

 

俺がそう答えると

 

『ならすぐに来て。その声ってことはどうせ朝帰りで今の今までずっと寝てたんでしょ?』

 

そう言ってハルはこっちの返事も聞かずに電話を切った。

 

「…………ぁんだよ。」

 

ツーと切れた電話の音を奏でるスマホから耳を離し、もう一件見覚えのある名前から通知が来ていることに気付く。

 

「……パウさん?」

 

TwitterのDMに俺がイリアスとして活動してた時にソロでそれなりにコラボしたりしていたTOP4の内の一角、パウチさんからの連絡が着ていた。

 

「えっと…………明後日666(デビナン)やろって言うてあのゲーム権利関係でサービス停止してなかったっけ?」

 

パウチさんからの連絡の内容は簡単に言うとゲーム実況の撮影のお誘い。要は俺がクロノスとして参加させていただいた結果俺を含めてTOPSTAR(ごぼうせい)として非公式で扱われるようになった原因のゲーム実況またやんない?って内容だった。

 

「『参加するのは問題ないのですが、あのゲーム元ネタの映画の版権元と揉めて今完全クローズなってませんでしたっけ?』……っと。」

 

そうとだけメッセージに書き込んでから送信し、寝汗を書いてしまった部屋着を脱ぎ捨てて一旦放り投げる。クローゼットからスーツを取り出し、Yシャツを着てから上着をたたんで鞄に突っ込み、着替える。

 

「ちょっと呼び出されたから街ん方行ってくるわ」

 

テレビの前で俺がドアパンしたあの日、帰っていた実家で叔母から焼いてもらったとか言うなんとか四神記?とか言うタイトルの韓流の架空歴史もの見てるおかんにそう声をかけて家を出る。

 

「おかん見てたのあれ昔宝塚でやってたいうて騒いでた奴のオリジナル版やっけ?」

 

何となく、うろ覚えでしかないのだが一時期小学生の時分に親父の仕事の都合で大阪に住んでいた頃、そうやって近所のおばちゃんと一緒におかんが騒いでいた覚えがある。そんで後日、俺が学校行ってる間に宝塚行ったそうでほくほく顔になっていた。

 

「韓流とかその辺よ―わかんねーわ。」

 

そう言いつつ駅まで向かっていると昔、おかんからしたら俺がはまっているゲームとか仮面ライダーはよくわからないといわれたことを思い出した。

そう考えると当人以外からしたら正直、何がいいのかよくわかんないことに嵌まるのは嗚呼悲しきかな遺伝なのかと思ってしまう。

 

「そう考えると俺が仮面ライダーとかに嵌まってるのはおかんからしたらよくわかんないし、おかんが嵌まっているのは俺からしたらよくわからんもの。ってこたぁやっぱ性格は俺おかん似なんだな。」

 

自分がよくわからないものに嵌まってしまう。そしてそれに相互理解しようとすり寄ろうとしない、する気すらない。そんな性格を考えるとよく似てるわと思ってしまう。

 

色々と考えながら歩いていたら駅までの時間はすぐに過ぎ去る。駅に着いたタイミングで丁度良く到着した快速に乗り込み、俺は妹がまっているであろう事務所へと足を向けた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「え、嫌です。」

 

寝てたところを無理やり起こされ、そうやって呼び出されたのでしぶしぶ家を出てから1時間半後。それが妹を横にして事務所で妹のマネージャーに向けて俺が言った言葉だ。

 

「そこを何とかお願いできないかな。君のせいで妹さん結構今大変な状態なのは理解できると思うんだけれども。」

 

妹のマネージャーと名乗った男はそう言って俺に再度要望に従ってくれないかと要請してくる。

 

「お兄ちゃんのせいで燃えてるんだから鎮火を手伝ってくれてもいいじゃん。」

 

そう言ってハルも俺に言ってくるが、俺からしたら今回ハルが燃えてるのは勝手に自分で焚火に突っ込んだようなもんとしか思えない。それに俺からしたら「なんで俺が鎮火せんといけんの」としか思えないのだ。そして俺はその要望の内容を告げた。

 

「というよりも俺があなた方の要望通りに謝罪配信に出たとしてもっと燃える未来しか見えないんですけども……。ただでさえ、ハルは女性ライバーとして活動してるのだから男の俺が出るのはかなり危険のはずです。顔出ししてない女性の実況者の生配信に男性の声が入るだけですら悪意のあるやつらとかのせいで枯れ木に火を放ったように激しく燃えるのにそれに近い状況になるとしか思えないんですが。」

 

そこまで行ってから一息つき、俺はそれにと続ける。

 

「それに、今ハルを自分の代わりに燃やそうとしているVがいるらしいですけどアイツの正体が自分が知っている奴なら恐らく完全に自分の火がハルに全て移りきるまでハルを叩き続けるはずです。むしろその謝罪配信は悪影響にしかならないです。」

 

実は事務所につくまでの電車の中で暇だったので色々と調べていたのだが、その中に掲示板にて”クソ神”と呼ばれていたVのこともあった。

 

物申す系拡散Vtuber風神疾風(ふうじんはやて)。それがハルを燃やそうとしているVの名前なのだがそのチャンネル名に俺は覚えがあった。昔、イリアスが活動したての頃に初めてコラボしたりした恩のある実況者さんが特に大したことじゃないしょうもない理由で引退するまで悪意ある人たちに燃やしつくされたことがあった。その人が組んでいたグループのメンバーの一人がとんちんかん過ぎる物申す系の動画を出したりするなどして態と炎上して視聴数を稼ぐ炎上商法の管理を大失敗してとんでもないことになった。そしてその責任を俺たちが世話になった実況者さんに全部転嫁して自分だけ逃げきったことがあったのだ。

そして逃げ切ったそいつが新たなチャンネルとして作ったチャンネル名がこの風神疾風だった。

サイトの仕様上同じ名前でアカウントを作ることはできないはずなので恐らくこの風神疾風はあの実況者がそのままV化した可能性が高い。だとしたら世話になったあの人の言葉を借りて俺はこういうしかない。

 

「下手に動くと逆に潰しに遭うので此処は暫く様子を見るしかないです。多分、今回の件は俺が何もしない方がうまく回ると思います。」

 

身代わりの生贄として潰されたあの人みたいになりたくなければと心の中で付け加える。

 

「というよりも俺が出るともっと燃えるでしょうし、俺は嫌われてると思いますので俺は出ない方が絶対いいです。」

 

そう言って俺は言葉を終えた。

 

 


 

結局、俺は出ないでいいということで話はまとまった。

 

ただ、マネージャーさんはやはりまだ何か言いたげにしていたが何も言わなかったので俺はそのまま部屋を退出した。

 

これが正しいのかなんてわかんないし、ただ俺が出ると燃えるだろうという予想ができる分謝罪配信をするにしろしないにしろ俺はいない方がいいと思う。

本来実況者界隈として見れば死人が蘇ったようなものなのだ。利用してしまった俺が言えた義理は本当にないのだがこれ以上俺が表舞台に顔を出すなんてことはやめた方がいいに決まっている。

 

 

 

「……そう、思ってたんだけどなぁ……」

 

「どうしたのクロくん。小便でも行きたいの?」

 

「あ、いや。というかカヤさん本当に俺が上げる用のマッチの撮影に参加していいんですか?実質死人みたいなもんなのに。」

 

「君だからいいんだよ。これがゼウス君なら私は参加すること自体を断っていたしね。」

 

「といってもグッチさん。流石に死人は墓の下で寝てないとまずいと個人的には思うんですけど……」

 

「いや、クロくん死んでないじゃん。こないだのVのマッチに混ざってたの見たよ。相変わらずオチまで含めてすごかったね。」

 

「パウさんそう言うことじゃなくてクロくんが言いたいのは実況者として本来引退してるはずだからいていいのかってことでしょ。別に俺は引退してようといいと思うよ。本来ゲーム実況ってのは俺たちがゲームして楽しんでるのを見てもらって、見てくれた人も楽しんでもらうのが一番なんだから。」

 

「……そう言われると俺も何とも言えなくなるじゃないですか(とん)さん……」

 

あの会議室での会話から数日後、俺はTOP4の4人が一堂に会する中に交じって666のマッチに参加していた。

 

YourTubeでゲーム実況者が今みたいに活動してない頃、別の動画投稿サイトであるニヤニヤ動画をメインに大活躍しており知名度がとんでもないレベルである4人のレジェンド実況者たち。

カヤ、グッチマン、パウチ、豚川(とんかわ)の4名が666というアメリカで制作されたホラー映画をもとにしたホラゲの動画にて冗談半分で名乗ったTOP4という名はある意味伝説の幕開けとなった。

 

そしてそのグループ名も個人としても彼らの認知度はニヤニヤ動画からYourTubeに本腰を移した今でも果てしなく高い。つまり、彼らの動画に出るということは俺の健在を示すことに繋がってしまう。そう考えると、やはり俺はいない方がよかったのではとどうしても考えてしまう。

そんな俺の様子がおかしいと通話越しに気付いたのかカヤさんが声をかけてきたのだった。

 

「それじゃ撮影はじめるぞぉ!!」

 

そう言ってカヤさんはマッチ待機画面へと画面を遷移させた。




因みに前に書き忘れてたカラオケ回の選曲の理由なんですけど
大地:ウルトラマン
浩司:異色音楽家たちがカバーした曲
でした。
異色音楽家たちの演奏は笑えるのとすげーって関心するので一度見てみた方が人生が豊かになります。(それが+か-になるかは個人によって変わると思いますが)

因みにハルの着メロはガーシュウィンのラプソディー・イン・ブルー(のだめver)です。


まぁ、確かなろうの評価システムの位置もこんな感じだったはずだし。
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