なんかネットでドアパンニキと呼ばれるようになりました 作:先詠む人
2nd Generation所属、2期生の
妹は配信状態ではないPCの画面に映る己の現身的存在のことをそう呼んだ。
画面に映っている少女は妹がこちらを向いているせいでカメラに背を向けている関係上今は表情の同期と外れているためか、目を瞑り、首を傾げた変な角度で固まっている。しかし、その姿は世間一般の路面とか市街地で見ることは難しい、というか某聖地でしか見ることはそうそうないネコミミをつけた烏の濡羽のようなまっくろな髪の美少女というものだった。
「……いつの間にライバーデビューしてたんだ?」
先ほど怒鳴り込んでから慌てて配信を止めた妹のこっちを睨みつけるかのような視線から目をそらしつつ、俺は正座でそう聞いた。その問いに対して妹は
「お兄ちゃんが事故で意識不明になってからお母さんも体調崩しちゃって。ちょうどその頃募集があったし興味もあったから現実逃避したかったのもあって申し込んで合格して今。」
声色的にもやはり仕事を邪魔されたってことで結構怒っているのだろうか。若干の怒気をはらんだ声でそう答えたが、顔色はあの時のことを思い出したのか不安そうだ。しかし、妹はそこで突然何かに気付いたかのように顔色を変えて
「それにしても意外だったなぁ~。」
と告げた。
「意外?何がだ?」
唐突に告げられた意外という言葉に反応してつい首をかしげる。俺自身としてはどうして意外何て言われるのかがわからなかった。
「だってお兄ちゃん配信なんて興味なさそうだったもん。ましてやVtuberなんて尚更。私が慌てて配信止めている間に配信中だってことすぐに気づいてたみたいだし、何か触れたりしたことあったの?」
言われてみれば俺も俺で家でそう言った話を一切したことはない。実際は、配信自体は興味があるではなく当事者だったし、Vtuberと聞いて嫌な記憶しかないのだが。
「……まぁ、そう……だけどな。」
そう答えている途中であの記憶を思い出して無意識のうちに顔が歪んでいるのを壁に掛かっている姿見で確認してしまい、俺は未だに前に進めていないのだなと実感してしまう。
「…?」
そんな俺の表情を妹は何か不思議なものを見たかのように見つつ、直後に来た着信で慌ててスマホをいじり出した。
「はいイヅナです。………はい。……はい。わかってます。今兄とOHANASHIしてるところです。」
掛かってきた電話に対してイヅナと名乗ったということはどうやらかけてきたのは同業者かマネージャーさんか何かだろうか。時間がかかりそうかなと少しばかり痺れてきた足を崩し、胡坐に変える。ドアパンした手は未だにじくじくと痛む。骨折はしてないだろうが、あの時ふざけるなと壁を殴ったときと同じぐらいの痛みが残っていた。
「……」
今俺がするべきことは何だろうか。無言で天井を見ながら俺はそう考え、そして行動に移した。
「……ハル。それ、マネージャーさんからの電話か?」
妹と相手先との会話が一旦途切れたところで妹に声をかける。それに対して妹はキッとこちらを一睨みしつつも、
「そうだけど何?」
と答えた。それを聞いて俺は足のしびれを気にせずゆっくりと立ちあがり、
「ごめんけどちょっと代わってくれないか?俺もちと話したいことがある。別に変な意味じゃなくて、これからのことで。」
覚悟を決めて、そう答えた。
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薄暗くなってきた帰り道。自転車に乗っていたところを横から蹴り飛ばされて、蹴り飛ばされた先にあった階段の高いところから自転車とともに激しく音を立てながら回転しつつ勢いよく転げ落ちたせいで鈍痛が体中を奔る。
『イツツ…』
数秒ほど意識が痛みで明滅し、ようやく立ち上がれるぐらいまで回復してから蹴り落とされた方を見る。
『……あンの野郎…』
転げ落ちる寸前で目視した蹴り飛ばした下手人には覚えがある。というか、ついさっき学校で大喧嘩して胸倉掴んだ掴まれたの関係性だ。
『明日学校で覚えとけよ…』
そう言いつつ、転げ落ちたせいで少し破れたりぼろぼろになった学生服を確認する。膝とかを強く打ちつけながらも反射的に受け身を取っていたせいかそこまでひどいことにはなってなさそうだ。しかし、結構長い距離を転げ落ちたせいでフレームが少しばかり歪んでしまい、傷だらけになった通学に使っている自転車は俺の身体と違ってそうではなく。ハンドルが結構歪んでしまい、掴むのも一苦労な状態になっているのをどうにか起こそうとしていた俺の視界一杯に人工色の白い光があふれて…
一瞬で体が宙を舞っていると理解すると同時に俺は銀色のフレームに勢いよくたたきつけられ、再度回転すると同時に目の前に迫る真っ黒なアスファルト。
再度頭に走った衝撃とともに視界は黒からそれを覆いかぶさる朱へ。
すごい勢いで走ってきた車に撥ねられた。そうやっと理解すると同時に赤いテールランプがすさまじい勢いでその場から急いで逃げ出すかのように離れていく。
『……ふ……ざけん……な』
体の末端からどんどん寒気が迫ってくる中でそう呟くのがやっとだった。
『おい大丈夫か!?』
もうほとんど感覚がなくなってきた状態で、近くに停まった車から降りてきたこちらを心配するかのような男の声を聴きながらも俺の視界は霞んで消えていった。
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若干闇深系のバックボーンを抱えている主人公ですが、そこまであとを引かせる気はないのでそれは安心してください。(察しのいい方のために先行して言っておくと彼がVtuber嫌いなのは事故が原因っていうわけではないです)