なんかネットでドアパンニキと呼ばれるようになりました 作:先詠む人
ニャルラトホテプ
あいつニュートラルだった?変にテンション高くなかったか?
ニャルラトホテプ
あーそれありそう。
ニャルラトホテプ
アイツただでさえゲーム長時間やってたらテンションたまにバグるからな。お守りマラソンとか
ニャルラトホテプ
まぁ、元気そうだったんならよかった。
ニャルラトホテプ
前みたいな感じで俺ら3人だけでも集まれればいいけどな
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そう打つだけ打って恐らく断られるだろうなとスマホを机に放り投げ、背もたれに体を預ける。
「高校んときみたいに集まってなんかしたいけど……裕也も俺も浩太も多分前みたいにわちゃわちゃするのは無理だろうな…」
大学に入学する少し前に過去と決別したくて染めて以降、何となく続けてしまっている金髪に染めた髪の毛をいじりながら呟く。今日久しぶりに会った裕也は少しげっそりとしていたが、あれだけ後遺症とか二度と目を覚まさない植物状態を危険視されていたとは思えないほど元気ではいた。だが、あの時の会話でアイツが零した言葉が少し気になった。
『お前のおばちゃんから聞いてた話と違って元気そうでよかったよ。』
そう言いながら持っている荷物を地面に置いて、しまっているシャッターに身を預けて鞄から出したペットボトルを煽る。
『まぁ、
『一応?どっかやっぱ後遺症残ったのか?』
俺がそう尋ね返すとアイツはどこか黄昏るかのような顔をして
『なんか頭縫う手術してしばらくの間死ぬほど血圧とかいろんな数値が上がってて、その中に眼圧があったらしくてさ。そのせいで眼圧とか目周りのその辺の圧力上がりすぎてデメキンみたいになって目が飛びだしかけてたらしい。』
『そのせいで失明しないように処置してくれたらしいんだけど、その対処のせいで俺意識戻ってからしばらく目を開けられないようにされててさ。その処置のお陰で失明しなかった代わりに視力が少し落ちてそれを代用するために体が聴力を強引に引き上げていたのが治んなくってよく聞こえすぎるようになった。』
『そのせいで長時間大きい音とか聞いてたら頭揺さぶられるような感じになって気持ち悪くなりすぎてぶっ倒れそうになるし、小さい音も大きく聞こえるしろくなことねーよ。』
死んだような瞳でそう吐き捨てたアイツは地獄を見ているかのような顔をしていた。
『なら……なんでここに?ゲーセンとかおっきい音の集まる場所の代名詞だろうに。』
ふと疑問に思った俺がそう尋ねると
『ちょっと諸事情で久しぶりにこの辺来たらさ、なんか懐かしくなってさ…。ほら、大地と初めて出会ったのこのゲーセンのガンスリンガ〇ストラトス2の筐体だったじゃん。』
『そう……だったな。そう言えば裕也の戦場を俯瞰して管理する能力知ったのここでランダムチームマッチオフライン大会だったもんな。』
そう言いながら、全員初めて出会ったにもかかわらず癖の強い2人の得意分野とかその辺を短い時間で把握して少しだけでも選べる手段を全部選んで全てを俯瞰したかの様子で指示を出して準優勝に俺たち寄せ集めのチームを導いたアイツの異常性を思い出した。
『今はあん時みたいに頭使うと多分ぶっ倒れるから無理だけど、それでもなんか懐かしくなってさ。』
『頭使うとぶっ倒れるっていうんならお前の代名詞も封印か?』
『俺に対抗したけりゃ10秒先を生きてから来い!!か?あれはさすがに恥ずかしすぎてよほどテンション高くなんねー限り言わねーよもう。』
『普通の奴が言うならただの煽りだけど、裕也の場合ガチで10秒先を読んでたとしか思えないゲーム運びするから煽りってレベルじゃねーんだよ。』
照れ笑いをするかのようにしながら裕也は頭の後ろに手を当ててがりがりと掻いているのを見て俺はつっこんだ。実際、裕也があの時あの名前を名乗っていたのは裕也自身が仮面ライダーが好きって言うのもあるが俺が裕也のあの異常としか言いようがない能力をなぞらえてあの名前を推したからって言うのも強い。その代わり俺も俺で特撮つながりでウルトラマンの名前なんか名乗ってたわけだが……。その結果、俺たち全員がギリシャ神話つながりの名前を名乗って実況者グループ組むことになるなんてあの出会いの時は想像もしてなかったな。
『そう言えばさ。裕也お前あの日、なんでいつも通る道の一つ下の道路通ってたんだ?あそこ通ってなかったらお前事故に遭わなかっただろうに。』
そんな他愛のない会話の途中で俺がずっと疑問に思っていたことを尋ねた瞬間、裕也の雰囲気がまるであの日修哉の胸倉をつかんだ時のように唐突に変わった。言うなればさっきまでその辺で拾った棒でチャンバラ遊びして一緒に楽しく遊んでいたやつがいきなり日本刀を持ち出してきたような感じだ。
『……そう言えば、あのクソ今度会ったらぶちのめさねぇといけねぇな……』
『お…おい?裕也?』
『………あいつのせいで俺は死に掛けたんだ……なら…あいつだけがいい目見てるのは……おかしいよなァ?』
ゾワリと寒気を催すような感じでそう言い残すと裕也はゆらりと体を揺らしながら駅の方へ歩き出した。
『裕也…?』
その唐突な雰囲気の変化に怖気づいてしまった俺はその場から手を伸ばすだけで動くことはできなかった。
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「ただいまっと。」
家に帰り、靴を脱いだらきちんと揃えて上がる。大地と久しぶりに話していたのは楽しかったが、最後にあのクソのことを思い出したせいでイライラが止まらない。
「ローファーはあれど他の靴はなし。ってことは春香は今上か。」
玄関の状況を靴をそろえるついでにサッと確認し、妹が今上の自室にいることを何となく察する。
「時間は……飯にはまだ早いしおかんもまだパートだし親父は今日から出張で明後日まで帰って来んから……勝手に飯食ったら怒られるな……寝よ。」
イライラは止まらない。自転車ごと下の道路へつながる階段へと蹴り落とされたときに見たあのクソのご満悦な面が頭をよぎり殺意が湧いてくる。
「……マジかよ配信してんのか。」
階段を登ってすぐに見える春香の部屋のドアには《配信中》と簡潔に書かれたホワイトボードがドアにかけられていた。
「……しゃぁない。下で寝るか。」
ストレスがたまったときにしてしまうある意味悪癖とでもいえる首の後ろの方をガシガシと力強く掻きながら階段を降りようとしていた時ある意味聞きなれてしまった声が聞こえた。
<な゛ん゛で゛ぞんなごど言゛う゛の゛ぉ゛!!>
そんな絶叫とともに聞こえる泣き声。
「配信してんじゃねーのかよ……」
家の中なのでWi-Fiが無事繋がっているのを確認してからYouTubeアプリを起動、妹のアカウントである飯綱イヅナのチャンネルから現在配信中の動画を確認する。
「これは……Identity〇?」
スマホの小さい画面で映し出されたのはPC版のUIではあるが、俺が昔やりこんでいたゲームのキャラクターを画面下部中心に既に開かれたゲート前で救助キャラであり、キャラクター特性として攻撃を受けても十数秒は活動ができるキャラクターが煽るかのように屈伸運動をしている様子だった。
「………煽り屈伸とか人間性クソかよ。」
そう呟きながら音量バーを操作する。すると
『お前みたいなごみみたいなキャラクターを使う初心者ゴミはこうやって煽られて俺のおもちゃになってればいいんだよ!!』
と言いながら屈伸していたキャラクターが怒った妹の操作するキャラクターがゲートの方へ突っ込んだのを尻目に出ていく様子が映し出された。
「……」
無言でチャット欄を開き、打ち込む。これが俗にいうプロレスとかだったらいいなとその時は内心思っていた。
〇時空神:今北産業
俺が打った時もそれ以降も流れるコメント。それらが示しているのはこれがプロレスとかそう言うのでも何でもなく、純粋に相手先のライバーを非難する声。そして俺の求めていた答えが数秒後チャット欄を流れた。
〇:万葉がイヅナちゃんをめちゃくちゃにバカにし、イヅナちゃんキレる。万葉初心者であるイヅナちゃんに弱キャラである鹿を使うよう言っておきながら強キャラを使う。ゲート前で人格否定レベルの罵詈雑言言いまくった挙句逃亡
「弱キャラ……ねェ。」
〇時空神:サンガツ
そうチャット欄に書き残し、俺は妹の自室に入る。PCの前では妹が涙を流しながら机のデスクに突っ伏していた。
「は……じゃねぇな、イヅナ。」
「っ!?」
一瞬本名を呼びかけたが、ギリギリで言うのをやめてライバーとしての名前で呼ぶ。そして右手の指を銃のように構え人差し指を少し曲げながら手首をくるっと回して俺は
「
単にそれだけ言った。 二重三重の意味でただただカチンときていた。あの事故で半年間の時間を失って以来、初めて自分からゲームに触れようとしていた。
それでも無意識のうちに指はゆっくりと開いたり閉じたり動いていた。まるで錆びついた刀を鋭く研ぎなおし、狩る相手を求めるかのように。
次回、ドアパンニキ狩ります。
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それだけでも俺は頑張れます。