私は真理花さんの口から放たれた予想と全く異なる言葉を聞き、固まってしまいました。こ、『こい』? こいというのは…もしかして私が知らないだけでそういう侮蔑の言葉があるのでしょうか…? 私は彼女が怒っているのでないかと怯える気持ちをできるだけ隠し、平静を装って真理花さんに尋ねました。
「こ、こ、こ、こい…っていい、いう…のは!え、えっとえと…ど、どういう…い、いみななな、なんで…しゅうか…!」
「ええと、シロちゃん落ち着いて…?あとどうしてそんな顔を真っ青にしてるの…?」
「え、えっ、とえと、そ、それはその━━」
私は覚悟を決めて、真理花さんに失望されるのではないかと思っていたということを伝えると、真理花さんは一瞬ひどく驚いた表情をするとすぐにいつもの人懐っこい笑顔を私に向け「ちがう、ちがうよ、シロちゃん」と言葉を続けるのでした。
「ううん、えっとね、シロちゃん。それは別に恥ずかしいこととかダメなことじゃなくて、シロちゃんが神我さんに『恋してる』からなんだよ」
な、なんと…『こい』とは侮蔑の言葉ではなかったみたいです!そ、そういえば確か以前クロスギアの方に貸していただいた本の中に、『こい』なる言葉が書かれているのを思い出しました…!ええと、でも確かその本には…『異性同士が相手のことを特別なものとして大切にし、一緒にいたいと思う気持ち』と書かれていたような気がします。
……? ですが、確かかりんさんは女の子で、わたしもミュータントとの混ざりものではありますが元々女の子であるのですが、どういうことなのでしょうか? 確かにミュータントの姿にはなれなくなりましたが、今でも外見を変えることはできるみたいなので、男の子に外見を変えることもできはしますが……。
「え、えと…その……『こい』って、男の人……と女の人、が大切…に思う……気持ち…って…。でも、わたし━━」
「それは違うよシロちゃん!!!」
そう私が恐る恐る真理花さんに話し始めると、真理花さんがより一層私へとぐいっと顔を近づけて、私の言葉を遮り、息も荒げに話し始めました。
「『恋』っていうのは、『相手のことを好きだ、大切だ、ずっと一緒にいたいー!』っていう気持ちがあれば男女でなくてもいいんだよ…!!そう、女の子同士でも、もちろん、男の子同士でも!男の子同士でも!」
「あ、あのっ…どうして男の子同士って2回も━━」
「だから、シロちゃんが神我さんに恋しちゃってるのは、全くおかしくないし、普通のことなんだよ!」
「そ、その、わたしのはなし━━」
「そっかぁ、シロちゃんやっぱり神我さんに恋しちゃってたのかぁ。うんうん、キャツナーレの人に色々話を聞いて回ってる時も、なんとなく2人を見てたらそうなのかなっておもってたけど、本当にそうだとは」
「あ、あのっ…!!そのっ…!!」
「えっ?あ、うん、シロちゃんどうしたの…?私の話でわからないところあった…?」
なにやら白熱して喋り出した真理花さんは私の言葉に気付いていなかったみたいです。ここ数日彼女と話していましたが、こんなに興奮した、そして楽しそうな姿は初めて見ました。……ちょ、ちょっと怖かったです。
「あ、あぅ…。こ、こい…恋しちゃう、と……どうなる…の?」
やけにテンションの高い真理花さんにすこし怯えつつ聞くと、彼女はいつものような優しい笑顔で答えてくれました。
「それはね…相手の人をぎゅーっと抱きしめたいって思ったり、もっと近くで一緒にいたいって思ったり、キスしたいって思ったり。あと、自分以外の誰かと仲良くしてるのを見て焼きもちを焼いちゃったりする…とかかな?」
「き、キス? やきもち??」
なんだか真理花さんは『恋』についてすごく詳しいみたいです。彼女なら、きっとこの私の気持ちを読み解いてどうしたら良いかを教えてくださるかもしれません。私はそんな期待を抱きながら彼女の話を一言を聞き逃さまいと集中して彼女の言葉を待ちます。
「キスっていうのは、シロちゃんが叢雲ちゃんと明樽さんがしてるのを見た口をくっつけるっていうやつかな。正確にはキスにも種類があるけど…。とにかく、相手と自分が触れ合う、お互いに『恋しあってる』━━好きな人同士がする特別なものなんだよ」
ぎんがと叢雲さんはお互い『好き』同士ってかりんさんが教えてくれましたが、なるほどそういうことだったみたいです。
「え、えっと…でも…わた、しは…ぎんがと、叢雲さん、がキスしてるの、を見てどきって…した。あれは…どうして…なのかな…?」
「あー…それは多分だけど、キスって相手に触れる特別なもので、普通他の人に見られながらしたり〜とか、しないから…。そういうのをシロちゃんが何となく感じ取ってた…とか……そういうのがあるのかも…?」
「……?でも、ぎんがと…叢雲さん……たくさん人が、いるところ…でキス…してた…?」
「シロちゃん? その疑問はもっともだと私も思うし、普通人前ではしないけど……叢雲ちゃんにその件のことを聞いたらダメだよ?」
「え、あ…う、うん…」
なんだか、何か遠いところを見るような目をした真理花さんが念を押してきました。彼女の雰囲気に流されて思わずキスの事は叢雲さんには聞かないと答えてしまいましたが、もう既に彼女にはキスのことは聞いてしまっていました…。あとで、ぎんがとのキスのことを聞いてごめんなさいってちゃんと叢雲さんに謝りにいかないとです。
「それで、焼きもちっていうのは、自分が恋してる人が他の人と仲良くしてると、その人が他の人にとられちゃうんじゃないか〜って心配になっちゃうっていうものなの」
「べんきょう…に、なる…!真理花さん…すごい…!」
「だから、そうだなぁ~。シロちゃんの恋を成就させてあげればきっと、今ある悩みも消える、と思う」
真理花さんは本当に『恋』についていろいろ知っているみたいです。そんな彼女のことを真理花さんなどと呼んでしまって良いのでしょうか…ふとそんな考えが私の頭をよぎります。たしか、こういう恋に詳しい人をあの本の中では━━
「らぶ、ますたー……!わた、しに…こい…どうしたらいいか…おしえて……くだ、さい…!」
「…!?『ラブマスター』!? ラブ……マスター…」
私がそういうとなんだか真理花さんこと『らぶますたー』はまた何かを考え込むかのように黙ってしまいました。心配になった私が声をかけようとすると
「あ、うん!……じゃなくて、よいでしょう!シロくん!」
なんだかすこし改まった声を出して、ふふんと鼻を鳴らして笑みを浮かべたししょーは、先ほどより堂々とした口調で私に話し出しました。
「ふむふむ、ではこれから、シロくんの恋を成就させるために私、ラブマスターが可愛い弟子のために教えを授けようではないか〜!」
「は、はいっ…!ま、ますたー!なにとぞ…わた、しに、おしえ…を!」
こうして私の『恋』を成就させるための作戦が始まったのでした。
次は明後日更新予定
今後もヒロインズの会話主体で進んでいきます。PCも出てきますがたぶん直接の会話文としては出てこない予定。残り2人のPCヒロインズもそのうち。