「えっ、えと…その…わたし、にちかづ、くと……やけどじゃ…す、すまないぜっ…!」
ばちこーん☆
私はかりんさんに、この日のために用意したとっておきの『ういんく』を精一杯の笑顔と共に披露したのでした。
ますたーによる恋愛成就作戦が始まった翌日、私は壁内のジャーム掃討任務としてかりんさん、そしてキャツナーレの方と合計4人で近くの廃墟まで来ていました。そしてそこで出会ったジャームとの戦闘で、私は作戦に緊張してか、サラマンダーのシンドロームを操るジャームの炎の弾の攻撃をくらってしまいました。幸いにもとっさに防御をしたためほんのわずかにやけどを負ったくらいで済んだのは本当に運がよかったです。
ふふ…でもこれも想定通りなのです…!
私は、心配して駆け寄ってきてくださったかりんさんに、とっておきの『ひっさつのせりふ』を放ちました…!
ふっふっふ…!これできっとかりんさんもわたしに『いちころ』です…!さすが、らぶますたー…!
「あちゃ〜…シロちゃん、そこはそのセリフじゃないよ…」
あちゃ〜なんていう人生で初めて口にする言葉を漏らしながら、私━━三戸真理花は、シロちゃんのチームから少し離れたビルの影で頭を抱えていた。
シロちゃんのセリフを聞いて、神我さんが慌てて彼女がひどい火傷でもしたのかと必死に確認しているのを横目に、私はどうしてこんなことになっていたのかを思い出していた。
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「そ、それ、で…!どうした、ら…いいの、ますたー…?」
「ふむふむ…そうですね〜」
シロちゃんに『ラブマスター』なるものに認定されて、少し高揚した気分の私は早速シロちゃんの『恋愛成就作戦』の詳しい内容を決めるため話し合っていた。
正直『ラブマスター』というネーミングセンスはなんとも言えない感じではあるが、恋愛に詳しい先生として尊敬されるというのはなんだか悪くない。……まぁ私自身、姉の後ろに隠れながらここまで生活していたこともあり恋愛とは無縁の人生ではあるのだが。とはいえ、最近いろいろな人とちゃんと話せるようになっているのは自分でも驚いている。今はまだ思い出せないが、きっと神神子ちゃんと出会ったおかげなのだろう。あの子のためにも早く記憶を取り戻さないと…。あの子の悲しむ顔はもう…見たくないから。
閑話休題。とにもかくにも、私はひどく悩んでいるのであった。というのも、シロちゃんは恋をしているようではあるが、『大切』と『恋人的な好き』の感情の差がわからないようであったり、『恋』を意識してから、あまりうまく神我さんともお話できていないみたいなのだ。
う〜ん…。実際私に経験がないのに加え、ネットというものは失われて久しい今、気軽に調べることもできないし……。ど、どうしよう…。シロちゃんが期待の眼差しで私を見ているというのに…。やっぱり形から入るのがいいのかな…? でもどれをお手本にしたら…。
そ、そうだ! ジャンルは少し違うかもしれないけど、男の子同士のときめきラブストーリーを密かに愛読しているこの経験を生かさない手はないはず! 神我さん、割と中性的な感じだし、いける気がしてきた!
「そうだよ、シロくん! 恋愛っていうものはね『小悪魔な女子』って言うのが、成就への近道なんだよっ!」
「こあ、くま…??」
「そうそう小悪魔! えっと、相手を手玉に取るようなちょっと大人で可愛い態度とセリフが相手の心をぎゅんぎゅんさせるんだよっ…! じゃなくて、させるのだよっ!」
「おぉ〜…!」
あっ、シロちゃんが私のことを尊敬の眼差しで…! うっ、シロちゃんはなんて純粋で可愛い女の子なんだろう。
「そ、それ、で…こあく、ま…は…どうすれば……いいの?」
「うーんと、そうだなぁ……シロくんはこういうのは慣れてないから、セリフから入るのがいいかな〜。あ、そういえば、明日神我さんと任務でお外に行くんだったよね?」
「う、うん…そう!」
「だったら、その時に使えそうな台詞をいくつかわた━━ラブマスターから授けましょう!それを覚えて使えば、きっと神我さんもシロちゃんにイチコロだよっ」
「…!! わ、わかった…! がんば、る!」
「よしっ! じゃあ早速レッスンを始めるよシロくん! まずは、明日役に立つ小悪魔なセリフ、そしてその次は2人でいる時に役に立つ小悪魔なセリフ…そしてその次は━━」
そう意気込むシロちゃんに、私はいろんな状況で役に立つ『小悪魔セリフ』のレッスンを日が暮れるまで続けたのであった。
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あぁ……やけどでもしたのかと顔に焦りを浮かべ、心配する神我さんにシロちゃんが慌てて大丈夫だって弁明してるなぁ……可愛いなぁシロちゃん……。
ちなみにそのセリフはカッコよく敵を倒した後のセリフだよシロちゃん…。
やや現実逃避しながら呟く私の隣で、白髪のおじいちゃんがため息を漏らす。彼は岡本さんで、キャツナーレに私が来てからお世話になっていた…(らしい)、そして現在進行形でお世話になっているハーフジャームの研究者だ。今回の作戦、さすがに私一人でジャームがいるところに行くわけにもいかなかったので、彼にお願いして一緒についてきてもらったのだ。
しかし彼は先程から「なにしとるんじゃおぬしらは…」と呆れたような目を私に向けている。
むぅ……確かにさっきは失敗してしまったが、まだ作戦は始まったばかりなのだ。シロちゃんも初めてで緊張してのミスだろう。だったらまだ取り返せるはず! それに仕込んできたセリフはもちろんこれだけでは無いのだ。
そんなふうに考えているうちに、シロちゃんの方では新たなジャームとの戦闘が始まったらしい。
やはりというか、神我さんとシロちゃんの動きは他の人に比べて洗練されていて無駄なく敵を倒していくのが素人目にもわかる。そういえば、シロちゃんは神我さんのために、クロスギアに来てからずっとお昼の間に訓練を続け、びっくりするくらい短期間で力をつけていったとあきらさんも驚いていたらしい。本当に神我さんのことが好きなんだなぁ…シロちゃん。なんとけなげな女の子なんだろうか。
私がそんなことを考えながらシロちゃんと神我さんを目線で追っていると、柱の陰にでも隠れていたのか、飛び出してきたジャームが神我さんに襲い掛かろうとしていた。不運にも丁度神我さんの死角になっているようで、振り下ろされたジャームの巨大な爪が神我さんを捕らえる…と思ったその時、前線の敵を倒し切ったシロちゃんがそれに気づいたのか、すぐさま炎球をかりんさんの背後に飛ばす。自分へ向けて炎を飛ばすシロちゃんに一瞬驚いた顔をした神我さんであったが、背後で炎に包まれ崩れ落ちるジャームを見ると、表情を緩めシロちゃんに駆け寄り、お礼の言葉を投げかける。
あっ、ここ! ここだよ、シロちゃん! さっきのセリフを言うのは!
すると、シロちゃんにも私の思いが伝わったのか、何かを思い出したかのような顔をして口を開く。
「あっ、いたたた…うぅ……け、けがしちゃっ、た……かりん、さん……治して…くれる…?」
唐突に地面に倒れ込み、シロちゃんは目をうるうるとさせて神我さんの方を見るのであった。
………。
……。
それ……怪我をした時のセリフ…だね、シロちゃん……。それじゃあまるで厨二病を患ってしまった思春期少女みたいになってるよ……。
先ほどと同じように心配してシロちゃんに駆け寄る神我さんを見ながら、ゆっくりと私は深く息をつくのであった。
いや諦めるのはまだ早い。まだ…まだセリフはあるから大丈夫……なはず…!
しかしそんな私の願い虚しく、その後シロちゃんはどうやら2度の失敗で頭が真っ白になってしまったのか、神我さんとまともに話すことはできなかった。
そして夜のとばりが降りた頃、任務であるジャームの討伐は終え、拠点の方に戻る段にまでなってしまったのであった。
やはり、いきなりたくさん小悪魔セリフを教えたのがまずかったのだろうか…。帰ったら少し教え方の反省しよう。
そう決意し、私たちも撤収しようと岡本さんに声をかけた時、2度めの失敗から口をつぐんでいたシロちゃんが突然ハッとしたかのように目を見開くと、目を再びうるうるとさせ神我さんに近づいていくのが目に入った。
あれ……? シロちゃんどうしたんだろう。この状況で、教えた中に使えるセリフはないはずだけど…。
そんな疑問を浮かべる私のことなぞ知る由もなく、シロちゃんは口を開くのであった。
「今夜、は…帰りたく…ない……な?」
……小悪魔作戦は完全に失敗みたいだった。
かりんちゃんのセリフを入れずに進行するの難しい…むずかしくない?
というわけで次回はあの人に助っ人になってもらいます。