「で、どうして私が呼ばれたわけ? 説明して欲しいんだけど」
昼下がりのキャツナーレ3階、私の部屋でどかっとソファーに座った希留耶さんが、私と真理花さんをじとっとした瞳を向け、尋ねてきました。
「それは、さっき説明したじゃないですか。シロちゃんの恋愛成就の練習台として、希留耶さんには神我さん役をやって欲しいって!」
そうなのです。先日らぶますたーに立てていただいた『小悪魔作戦』は、私が緊張のあまりうまく小悪魔を演じることができず失敗してしまったため、とりあえず緊張に慣れるためとかりんさんの代役を立てて練習しようという話になったのです。
そこで、協力者はどうしようか……となった所で真理花さんが「希留耶さんならきっと協力してくれるはず!」といって、私たちは希留耶さんをお呼び立てしたのです。
「いや、それは聞いたわよ! そうじゃなくて! どうして代役が私なのってこと! ……だいたい今私、UGNの準備で忙しいって言うのに」
「うーんと…それは、希留耶さんなら頼みやすいかなって思ってですね〜。それに、希留耶さん確か政府の連絡役が来る明後日までは『やることないわ〜』って言ってたじゃないですか」
『キシャー!』と言う効果音が似合うまるで猫さんのように、希留耶さんは真理花さんにまくしたてますが、真理花さんはそれに全く動じずに淡々と話し続けています。
…あのような希留耶さんと平然とお話しできるなんて、真理花さんはたいへん肝が座ってるみたいです。
「た、確かにやることはないとは言ったけど……貴重な私の休日なんですけど〜! それにだいたいいつもあんたが取り寄せてって言ってくる物資だって、私のお給金から出てるんだからね! 全くこれ以上あんたの勝手はさせないわ! 悪いけど、この話は━━」
そこまで言ったところで、真理花さんが何やら両手で何かをつまむかのようなジェスチャーを取り、笑顔で手をわきわきさせながら希留耶さんに近づいていきます。そして、その真理花さんを見た瞬間、希留耶さんは「ひっ…」と声を出したかと思うと、先ほどまでの気荒な猫さんのような態度とは一変して、顔を青ざめさせ、まるで飼い主に悪事を咎められた猫さんのように怯えた様子を見せます。
……な、なんでしょうかこれは…。どう言うわけか、この部屋の温度まで一気に下がったかのように感じてしまいます。
真理花さんはサラマンダーのシンドロームを操るハーフジャームさんだったのかもしれません…!
「あれ? どうしたんですか
「や、やるわ! もちろん喜んで協力するに決まってるじゃない! い、いやね〜真理花ったら! 私が真理花の頼みを断るなんてそんなひどいことするわけないじゃないの〜! あははは」
満面の笑みなのにどうしてかただならぬ圧を放っている真理花さんが話し終える前に、何故だか額から大量の汗を流しながら笑顔を浮かべ、希留耶さんが話し出します。
……なんだか、希留耶さんの顔が先ほどよりもっと青ざめているような気もしますが…。
「わぁ〜! 希留耶ちゃんありがとうっ! 貴重な休日を使ってもらって…ごめんね…? それにいつも…たくさん物資を取り寄せてくれて…迷惑…だったかな……?」
「そ、そんなことないわよっ! 休日なんてこれからいくらでも取れるし、1日くらいなんてことないわよ! それに私のお給金なんてどうせ使い道ないわ〜と思ってたところだし、それで真理花が喜んでくれるならこれ以上のことはないわよ!あ、あははっ…」
「希留耶ちゃんは優しいな〜…! と、言うわけでシロくん! 恋愛成就作戦第二弾早速開始だよっ!」
「は、はいっ…!し、ししょー…! あっ……き、希留耶、さん…も、ありが…とう…!」
先ほどから満面の笑みを浮かべたままの真理花さんに、私は慌てて返事をして、希留耶さんにもお礼の言葉を述べます。ですが、希留耶さんは私の言葉が聞こえていないのか、頭を抱えソファーの上で体育座りのまま身を縮こまらせて、何やら小声で独り言を言いつづけているみたいです。
「い、いや…も、もうおしおきは嫌ぁ…。そ、そんなとこ人体はつねっても良いようにできてないのよ…。ひっ…き、きこえる……かしゃんかしゃんって音が……。さ、咲音ぇ…たすけ……」
ええっと……。希留耶さんは大丈夫なのでしょうか? なんだか、真理花さんにひどく怯えているようですが……。
でも、真理花さんは人間で、希留耶さんはハーフジャーム…だったはずです。リーダーとして力を持っているのも希留耶さんのはずですし……一体お二人の関係はどのようなものなんでしょう?
そんなことを考えながら、私は机の上に置かれた、真理花さんが作ってきてくれた『くっきー』なるお菓子を食べてみます。
…!! これまで感じたことのないさくさくとした歯応えに、口の中に広がる風味がとても食欲をそそってきます……! 真理花さんは本当になんでもできてしまわれるみたいです!
そういえば、先ほど確か材料は希留耶さんが持ってきてくれたものと言っていました。ということは希留耶さんにも、真理花さんが私に作ってくれた『くっきー』をおすそ分けしましょう。
いまだぶつぶつと小声で呟き続ける希留耶さんに私は出来る限りの笑顔を浮かべ、話しかけます。
「希留耶…さん…! これ…真理花さんが、作ってくれ、た、くっきー…! きつね色で、まるくて、かわ、いく…て、おいしい…から…! どう、ぞ…!」
そういうとビクッと体を大きく震わせ、希留耶さんが私の方に向き直ります。
あれ…なんだか目が虚で、尋常ではないように見えますが大丈夫なのでしょうか……。
「真理花……つねり……かわいがり……ひっ、ち、近づいてこないでええええ…!! うわーん!!」
突如大きな声を上げて、部屋から出て行ってしまわれました。
えっ……わ、わたし、何か間違ったことをしてしまったのでしょうか!?
そう思って、真理花さんの方に尋ねようと顔を向けると、真理花さんは先ほどよりも何故か上機嫌なのか、鼻歌を歌いながら「作戦はどうしようかな〜♪」と何やら紙に色々書き込んでいるのでした。
何故だか理由はわかりませんが、今度から希留耶さんにはもっと優しく接してあげなければ……笑顔でペンを走らせる真理花さんをみながら、そう思うのでした。
キャ虐は基本。