…作戦は暗礁に乗り上げていた。
まさか、ここまで私が立てた作戦がことごとく失敗なんて……。
キャツナーレのシロちゃんの一室、壁にかけられたホワイトボードには『クール萌ギャップ作戦』『はわわ!えっちなハプニング作戦』『私が私を見つめてました!あなたが2人!?作戦』『泥沼!恋の三角関係作戦(希留耶さんが泥棒猫役)』『ふわふわ(意味深)おっとり年上先輩作戦』『危険なカンケイ…!恋の吊り橋効果大作戦(希留耶さんが悪役)』『曲がり角で食パン作戦』『いっぱい食べる君が好き大食い選手権作戦(希留耶さんがかませ犬役)』と様々な文字が書かれており、そのすべてに×印がつけられていた。
「真理花……あんた、恋愛マスターならなんとかしなさいよね〜…」
「そ、そうはいってもです…ね…」
へばりつくように机に倒れ込んだ希留耶さんが、疲労感をにじませた顔で私にぼやいてくる。
あれから、幾つもの作戦を立ててはそのすべてに失敗、何一つ進捗が得られていないのであった。
うっ…やっぱり、実際に恋愛なんかしたことない私では役に立つことはできないのだろうか…。シロちゃんに「ラブマスター」なんて言われて舞い上がっていた数日前の自分が恥ずかしい…。
「あっ…そ、その……!希留耶さ、んも…真理花…さん、も! たくさん私の、ため…に、協力、して…くれて……それだけで、すごく…うれ、しい……から!」
沈んだ表情を浮かべる私と希留耶さんを、シロちゃんは健気にも励ましてくれている。彼女だって、幾つもの作戦に失敗し、気を落としているだろうに……それでも私たちを気遣ってくれるなんて、なんと良い子なのだろう…。
……思わず涙が出てきてしまった。
「えと……ふたり、に、たくさん……助けてもらった、し、…これ以上、迷惑……かけられ…ない…から、……あと、は…私で、がんば、る…よ…!」
少し寂しそうな顔をしつつも、不器用にもなんとか笑顔を浮かべ、心配をかけまいとシロちゃんはそう切り出す。
……彼女は本気なのだ。なら……なら、もう自分の見栄を張るなんて無様なことをしている場合ではない。なりふり構わずしっかりと彼女の恋を成就させることこそが、『ラブマスター』として、正しい責務なのだろう。
そう決意し、私は先ほどまでのみっともない自分の頬を叩き、しっかりとシロちゃんを見据える。
「…うん、シロちゃん。ごめんね、今までラブマスターなんて言われて、自分にも経験ないのに調子に乗ってシロちゃんに大変な思いをさせちゃって…」
そう私が言うと、シロちゃんは顔を素早く私の方に向け、驚いた顔をして話し出す。
「そ、そんなこと…ない…! ますたーは…真理花、さん…は、私のために……必死、にいろんな、こと…考えてくれた…よ!」
はぁ…。どこまでこの子は優しいのだろうか。だが、彼女の優しい言葉に甘えては行けない。これは、私の責任だからだ。
「ありがとう、シロちゃん。…でも、私はシロちゃんのお友達として、ちゃんとシロちゃんの悩みを解決してあげたい。だから、最後までお手伝いさせて欲しい、な」
「で、でも……」
少し困ったように言葉を漏らすシロちゃんに、希留耶さんが口を開きます。
「はぁ〜、まぁ真理花の言う通りよ。あたしの休日を2日も使ってなんの成果も上げずに終わりました〜なんて、あたし嫌だから。……だから、あたしも最後まで付き合うわよ」
……! 希留耶さんまで最後まで付き合ってくれるとは…。元はといえば私が勝手に呼び出して、貴重な休日を使ってもらっていたのだが…。彼女はやっぱり根っこがコミュニティのリーダーなのだろう、困っている人を見放せない、優しい人なのだ。
希留耶さんには今度ちゃんとお礼をしようとは思ってたけど……それだけじゃなく、しばらくは『深夜のむにむに地獄』は勘弁してあげるべきだろう。
「そう言うことだよ、シロちゃん! だから、最後まで…私たちも頑張らせて欲しいな?」
そこまで言うと、シロちゃんは感極まってしまったのか瞳に涙を浮かばせながら、笑顔を浮かべ言葉を紡ぐ。
「はいっ……!! さいご、までっ…よろしく、おねがい…しま、す!」
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「で、とは言ってもどーすんのよ、真理花」
先ほどまでのぐでっとしていた希留耶さんは、ソファーに腰掛け直し、私に問いかけてくる。
ふっふっふ、私を見くびってもらっては困りますね…!
「ちっちっち、希留耶さん。やはり素人考えでは恋愛なんて攻略は不可能。つまり、どう考えても経験者から学ぶしかないのですよ」
「…あ、あんた…開き直りがすごいわね…。というか初めからそうしなさいよ……。まったく真理花はダメねぇ~。でもまぁ、確かに成功例から学ぶのは定石なのはそう思うけど」
「おぉ…!さす、がです…!」
「で、結局その経験者にアテはあんの? あんた」
……やっぱり『むにむに地獄』免除はやめておこうかな。
「もちろんですよ! 希留耶さんだってその人は知っているはずです」
「え? そんな恋愛に長けた経験者なんて知り合いにいたかしら…?」
「では、シロちゃん、希留耶さん!いきますよ!」
私はそう言い、未だピンときていなさそうな希留耶さんと、相変わらずキラキラと目を輝かせ私をみるシロちゃんを連れて、『あの人』の元に向かうのだった。
次回が最終回と言ったな。あれは嘘だ。
(次こそ最終回です)