窓の外は、暗い、暗い闇の世界。
一面の星々は遥か彼方で、まとわりつく闇を払ってはくれない。
自分の吐息がいやに大きく耳に響く。システム音声や計器の音だってあるのに、それらはぼんやりと遠い。
冷たい汗が体温を奪う。緊張で指先が震える。
じっと、ただじっとしていれば、こんな時間は終わってくれるのではないか、と淡く期待して。
綺羅と。闇が瞬いた。
「ッ!」
それは戦闘の光だ。飛来するビームの光条。
見つかった?思わず操縦桿を倒して、瞬間後悔する。あんな外れたモノが当たるはずがない、きっと脅しだったんだ。
だが自分は動いてしまった。見つかった。今度は正確な狙いで数射、直撃コースのビームが迫り、通り抜ける。通り抜けていく。
ーー自分は避けていない。避けるような操作なんてできない。だがそれでも、『この機体は避けている』。
増速し、スラスターの向きを変えないまま、四肢の動きで機体を捻る。最小限の動きで光条を避ける。相対距離が縮まり、敵を示すアイコンが大きくなって、
『LockOn』
「ぅてっ?!」
窓の表示に言われるままに操縦桿の引き金を引く。引き金を攻撃の意思と受け取ったのだろう。『機体が攻撃を開始する』。
背部ビームキャノン2門、腰部ビームキャノン2門を進行方向に向け、タイミングをずらした偏差射撃。敵も足を止めてくれるわけはなく、反撃をしつつビームを避ける。きっと良い動きなのだろう。加速を殺さない動きで雨垂れのようなビームを避ける。
ーー良い動きだから、予測を越えることはない。
『4門のビームキャノンで追い立て』、相手が逃げる先に置くように『両手持ちのライフルで狙撃』。計算され尽くした戦術の型に嵌まった敵は、高出力のビームスマートガンに射抜かれ、爆散する。
「はっ…はっ…」
目まぐるしく変わる状況に、心が、息が乱れる。
自分はただ操縦桿を倒し、一度引き金を引いただけなのに。
何が起きているかを理解するのがやっとだが、それでも『彼女』は戦ってくれている。未熟な自分の代わりに、自分と、この大切な機体を守ってくれている。
…まだ、まだ終わりじゃない。始まったばかり。
こんなところで、蹲ってはいられないんだ。
「…ありがとう、『ALICE <アリス>』。もうしばらく、私に付き合ってね」
『自分と同じ名前の彼女』に声をかけて、決意と共に。
強く、操縦桿を押し込んだ。
月の裏側、暗黒の宙域を、闇を引き裂いて駆ける一筋の流れ星。
青を基調としたトリコロール。大型のスラスターを背負い、長大なビームスマートガンを手に、彼方へ、彼方へ駆けていく。
型式番号MSAー0011 『S<スペリオル>ガンダム』は。
少女、『青い髪のアリス』と共に。