ガンダムビルドダイバーズ 青い髪のアリス   作:秋草

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1-6 雌伏の幕間、至福の開幕

 

 GBNからログアウトした亜里珠は、筐体に設置したガンプラとダイバーギアを取り外した。

 柔らかい布を敷き詰めたケースにガンプラを大切にしまい、ギアと一緒に鞄に収めて、ゲームルームを後にする。

 夕日の差し込むガンダムベースは休日ということもあり、未だ人の絶える様子はなく。家族連れや学生、老若男女様々な人間が出入りしているなかを歩いていく。それを横目に、亜里珠は受付カウンターでゲームルーム使用の料金を支払った。

「ありがとうございました」

「ありがとうございます。お疲れ様でした」

 受付カウンターの男性ーー眼鏡をかけた店員のお兄さんが、柔らかい笑顔で伝票を受け取り、亜里珠を労った。物腰の穏やかな人で、子供達にガンプラの作り方を教えていたりするのをよく見かける人だ。

 ふと思い立って、亜里珠は周りを確認する。カウンターの周りに他の客は少なく、今なら大丈夫かもしれない、と思い切って声をかけた。

「あの…すみません」

「はい?どうかしましたか?」

 小首を傾げる店員に、亜里珠は鞄からガンプラの入ったケースを取り出し、開けて見せる。

「この子が出てるお話って、どれですか?」

「これは…」

 亜里珠が取り出したガンプラを前にして、店員の目が変わる。掛け直した眼鏡が照明を反射してキラリと光った。

「スペリオルガンダム…マスターグレードベースかな。全体のシルエットはそのままだけど、だいぶ改造してあるね。ビームスマートガンと大腿部ビームキャノンは併用できないはずだけど…よく見てみてもいいかい?」

「アッハイ」

「腰の後ろに折り畳みアームを追加しているのか。この取り付きだとEXーS<イクスェス>にした時どうなるんだろう。そもそもコアブロックに干渉…」

「あの」

「いや、コアブロックシステム自体をオミットしているのか!これなら剛性もかなり上がる。可変は…なるほどあくまでEXーSパーツに換装してGクルーザーになることを見越しているんだ。Sガンダム形態での分離変形は完全に切り捨てて、最終的な完成度を意識しているんだな…」

「その」

「分離は戦術上面白い機能ではあるけど、それを捨ててでも得られるメリットってなんだ?Sガンダム、EXーSの共通点…そうか、設定上ALICEは分離していると機能しないんだ。常にALICEが働く事を優先した…」

「あの!」

 恐ろしく早口で分析する店員に一度は圧倒されたものの、亜里珠は彼にもう一度声をかける。ハッと我に帰った店員は、亜里珠に向き直る。眼鏡の奥に優しい光が戻っていた。

「ごめんね…かなりの完成度だったからつい。シャフリさんの事を笑えないな」

「いえ…私この子のこと全然知らなくて。ガンプラに詳しいんですね」

「上には上がいるけどね…」

 店員の謙遜には、実感と真実味がこもっていた。ガンプラって奥が深いんだなぁ、なんて呑気な事を考える亜里珠。

「その様子だとビルダーはキミじゃないんだね。でもとても大切にされていることがわかるよ。手入れの方法、教えようか?」

「あ、それはとても知りたいです。迷惑でなければ…」

 亜里珠の言葉に、彼は笑った。

「迷惑なんかじゃ無いさ。ガンプラを好きな子、好きになってくれそうな子のためならね。今日はフォースメンバーとの約束も無いし」

 

 結論から言って、亜里珠のガンプラが主役の映像作品は無い、と店員は教えてくれた。

 J.J.も似たような事を言っていた気がするので、亜里珠にもさほど落胆はない。…少し残念ではあるけれど。

「客演でチラッと出ていたり…趣味の人が作った自作ムービーとかはあるけれど。あとはゲーム作品なんかには時々出ているかな」

 手元でガンプラの部品を整備しながら、彼はいくつかの動画を見せてくれる。画面の中で、デフォルメされたSガンダムが動きまわっていた。

「ゲームは、GBNでいっぱいいっぱいです…」

「そんな感じだよねぇ」

 …ゲームにもガンダムにも不慣れであることは、言うまでもなく伝わっているようだった。

 ならばもういっその事、と気まずさをーかなりの努力の末にーかなぐり捨てて、亜里珠は店員に質問を続ける。

「あの、それじゃあ『コウ・ウラキ』って人が出ているものは、どれですか?」

「0083?いや、あるにはあるけど…」

「それを、教えてください。あと、彼のガンダムのガンプラも」

 ガンプラを一度は作ってみるべきだ、という気持ちがあった。Sガンダムをもうひとつ作ってみることも考えたけれど、それはなんだか憚られた。

 それに、GBNのミッション中に見かけた自分の未熟に歯軋りする青年が、亜里珠には印象深かった。彼にまつわるお話とガンプラが、自分から興味を持って触れる、『はじめて』に相応しいのではないかと、なんとなく感じていた。

「うーん、0083はガンダム初心者には…あぁでも興味を持ったものを否定するのは絶対にしたくないし…」

「大丈夫です。難しかったら、別のものを探してみます。ガンダムはたくさんあると、聞いていますから」

「…こういう『好き』も、あるか」

 亜里珠の言葉に店員はそこまで言うなら、と席を立ち、一つのガンプラの箱といくつかの工具を手に戻る。

「『ガンダム試作1号機 GP01フルバーニアン』。コウ・ウラキの特徴的なガンダムは僕が思うに2つあるけれど、もう一つの方はちょっと『大きい』からね。多分コレが良いと思う」

「じぃぴぃ?」

「ガンダム開発計画って意味なんだけど。設定ではガンダム開発計画には女性技師が多く携わっていたから、コレには花の名前が付いていてね。ニックネームは『ゼフィランサス』というんだ」

 作製に困ったらまた助けるよと彼は言い、亜里珠にガンプラを渡す。パッケージに描かれた、宇宙<ソラ>を駆けるガンダムの姿。

「ゼフィランサス…」

 記されたその名を指先でそっとなぞり、亜里珠はその名前を繰り返した。

 

ーーー

 

 宇宙を駆ける、抜刀したモンテーロ。

 振りかぶったジャベリンはしかし相手に届くことなく、より早く振り抜かれたビームサーベルによって腕ごと断ち切られた。

 動きがまるで変わったSガンダムはモンテーロを切り刻み行動不能にする。左のビームサーベルを逆手に構えた二刀流は、ガンダムSEED最強のMSとして名高い『フリーダム』を思わせる姿だ。

 モンテーロの爆散を見届けたSガンダムはその双眸で戦場を見据え、飛翔。全身の火器とビームサーベルによる同時攻撃で、立て続けに何機ものガンプラを撃破していく。

 ーー何度目かになるその記録映像を見返して、『エイト』は深く椅子にもたれかかった。

「…ALICE、か」

 自分が敗北した理由には、おおよそ見当がついた。機動の急激な変容、赤く輝くカメラアイ。一瞬だがノイズと共に画面に現れた文字は、ゲーム的な演出だろうか。

「初心者狩りが初見殺しに狩られるなんて、ホント笑えるよ」

 ーーわだかまりはそれほど無かった。狩場の崩壊を何故かエイトのせいと言ってきた有象無象の相手をするのはそれなりに楽しかったし、これくらいスリリングな方が遊びがいがある。

 ただ、自分が『彼女』にとって「他の有象無象」と一緒くたに扱われるのは嫌だと思っている。あんな連中と同じにされるのは我慢ならない。

 自分は、奴らとは違う。

 それを証明するためには。

「『ALICEに頼っても勝てない』、そう見せつければお姉さんも、僕を見くびらないでしょ」

 ALICEは決して無敵では無い。それまでに与えた損傷が回復したわけでも無いし、発動中も残った兵装を効率的に使っただけだ。反応速度と状況処理能力が飛び抜けて高い『だけ』。

 とはいえ強力なガンプラだ。予備機として育成中だった半端な機体では、拮抗するのは難しいだろう。

 エイトは棚に並べられたいくつかのガンプラに手を伸ばす。前に使ったノーマルのモンテーロではなく、エイトにとっての『とっておき』。その中でも、エイトのイメージするALICE対策に最も合致した1つ。

「…あとは」

 ガンプラの整備を進めながら、エイトはある宛先にメッセージを送る。

 エイトの調べでは、今アリスは二人のダイバーと行動を共にしている。当然、彼が勝負を持ち込んだところで邪魔が入るに決まってる。

 ならば。

 こちらも二人、用意すればいいだけのこと。

 幸いにしてアテがあり、それに伴う出費は、この『楽しみ』のためならば痛くも痒くも無い。

「待っててね、お姉さん」

 計画を練り、戦術を考え、準備を進める。その目は、新しいゲームを見つけ攻略を考える、至極ありきたりな、誰もが持ち得る『愉悦』に満ちていた。

 

ーーー

 

 深夜。

 オンラインゲームであるGBNは24時間稼働しているが、それでも人の減る時間帯というのは存在する。

 そんな時刻。人気の少ないロビーに。

 ーー1匹の白ウサギが姿を現した。

 服を着て、後ろ足2本で直立するウサギのアバター。動きを妨げない拳法着にカンフーシューズ。短い手足で器用に跳ね歩く小柄な姿。

 ダイバー名を『カンフーウサギ』という。

 …カンフーラビットでも、功夫兎でもなく『カンフーウサギ』だ。

 ウサギにとって、それは久々のログインだった。並ぶ沢山の未読メッセージ。それを特に感慨を抱くでもなく片付けていく。

 ーーウサギは、ここにはもう来ないつもりだった。ウサギにとっての憩いは既にGBNにはなく、楽しい遊び場だった思い出は、今は辛い記憶と結びついてしまう。

 そうして足が遠のいたまま長い時間が過ぎてしまった。アカウントも何もかも中途半端なまま放置してしまった。

 だからこれはウサギにとっての精算であり、禊ぎだ。ちゃんとアカウントを整理して、片付けと挨拶が済んだらGBNから去ろう。そう思って、今晩ここにやってきたのだ。

 

 ーーだが、そんなウサギの前足が。

 ーーある記録で立ち止まる。

 

 『招待フレンド【アリス】がログインしました』

 

 表情の読みにくいウサギの顔が、明らかに変わる。あわてた様子でログを漁り、ウィンドウをひっくり返すかのような勢いでその名前を探す。

 登録の扱いはあくまで『仮』。通常のフレンドと違ってその後のログイン、ログアウトの記録は通知されていない。それでも『カンフーウサギ』とウサギの『フォース』には、その縁を探る術があり。

 

 ーーしばらくして。

 ーーウサギは。

 

 

「お、珍しいアバター発見」

「アレはウサギかな。こんな時間なのに、どうしたんだろうね。一人でぴょんぴょん跳ね回って」

「さぁ?なんかイイコトでもあったんじゃねーの」

 

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