明日、また彼女にフラれる。   作:杜甫kuresu

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透明日刊3位でした、ボーボボの人気投票みたいなノリで喜んでます。ありがとう。
モスティマが好きなので皆がモスティマとか、アークナイツの地理風土とか、そこで生きてる人について思いを馳せてくれればそれで十分です。


Day1 18:21『今日、彼女にフラれた。』

「あんた、風呂は入ったほうがいいんじゃないか?」

「臭い程度に頓着するやつはフィールドワークが向いてないだけだ、私がおかしいんじゃない。本来こうせざるを得ない職なんだよ、考古学者とかっていうのは」

「おい、何か濃いやつが来たぞモスティマ」

「来たのはお前だクソガキ」

 

 モスティマも流石に苦笑いしていた。俺は苦笑いで済ませにくいね、不潔は人間が最初に克服した生命の危機だと認識してるんで。

 長い髪を乱暴にポニーテール風にまとめ、白衣は砂利やらなんやらで小汚い。幸いにも臭いはしなかったけど、まさか女だとは。狐耳が生えてなくても不審な輩だ。

 

 しかも女が風呂に入らないとは。驚きだ、俺の視野は狭すぎたらしい。

 埒が明かないと見たのか、珍しく俺が言い返そうとするのにモスティマが割って入った。

 

「君、開幕から凄い会話をしてるね。ところで貴方がエンフィールドさん、でいいかな」

「あーそうだ。私がエンフィールド、この遺跡調査では最高責任者ってやつだとでも思えばいい」

「あのヒラガって人も大変だな…………」

 

 印象で取り敢えず悪く言ってるのも否定し難いにしても、この少ない口数で分かる偏屈さ。研究者としては合格でも統率者としては落第どころかドベに近いだろう。

 崩落跡のようなありさまの続きのない第三層。代わりに、俺達が居る水源らしき場所は異様だった。

 

 水が浮き上がってる。中央の穴から柱みたいに浮き上がってきているかと思えば、分かれた水路に綺麗に水が流れていっている。それはまるで導線から電気が流れるくらい、当たり前みたいに。

 手すりもない穴の底を覗き込む。薄青の光に包まれた奥底は整然とした円柱状の穴で、きっとどこを触っても綺麗な円を描いた精巧な作りなのが分かった。

 

「…………おいクソガキ。遺跡ってのは、馬鹿も、賢者も、平等に過去の人間から学ばせてもらえる尊い場所だ。だから聞いてやろう、”底を覗いてどう思った”?」

 

 なかなか面白い事を言う女性だと思った。彼女はモスティマも俺も、多分現在の人間全部を等価値に見ているんだろうか、その価値観は過去にも変わらないようだ。

 それが尊いという言葉の意味だ。等価値の筈なのに届かない人の言葉を、此処でなら聞ける。

 

 直感的な推測だったが、俺はこの人の態度は正直苦手だ。それで好意的な解釈が出てきたんだから、多分合っている。素直に答えることにした。

 

「深いと思ったな。俺には何もかも分からないよ、分からないことが分かった。そして、こういう場所を探したくなるあんたみたいな偏屈な人間の気持ちもちょっとだけ分かった」

「ふん、学のないやつめ。ただ…………分からないことを分かっているなら、見込みは有る」

 

 エンフィールドは組んでいた片腕を水柱に向かって伸ばす。

 

「これはな、アーツに似た原理で流動制御がなされていることが分かってきた。横の地下峡谷、あそこの水源をこの水柱は引っ張ってきて作ってるんだ」

「ごめんアーツってなんだモスティマ」

 

 仕方なく耳打ちさせてもらった、髪からシャンプーじゃないらしきいい匂いがして気が気じゃない。

 モスティマは俺の善処虚しく、普通に声を出しやがった。

 

「申し訳ないけど、この子は記憶喪失なんだ。アーツを知らない」

「何故…………殺生な……」

「重症だな、どう説明すればいいんだこんなもん…………オリジニウムって鉱石を使って、火をつけたり風を起こしたり、物を変形することだ」

 

 要するに魔法か、この世界では妙な石を使うんだな。

 

「まあそれに似た原理が使われているらしい、クソガキ。遺跡に入った辺りから、妙な風が吹いてきてるとは思わなかったか?」

「それは思ったけど。アレだろ、地下峡谷とか水源からの気圧差で吹いてるやつ」

 

 ふーん、と流し目で俺を見る。

 何だよ。それくらいの事が推察できちゃ悪いかね、ちょうど上でも似たような話したところでな。

 

 と言う訳にも行かず。

 

「…………私もそう思ったんだ。だがここの建材は…………実はアーツに反応する」

「え?」

「おいトランスポーター、それはアーツユニットだな? ちょっと使ってみろ」

 

 ぴしゃりとエンフィールドが指差した。モスティマがバレたか、とでも言わんばかりに肩をすくめて腰の杖に手を掛けた。

 モスティマの手袋は変わっていて、右が白く左が黒い。ちょうど黒いアーツユニットに、彼女の左手が伸びていった。

 

 既に時間は傾いでいる。変に手に取るべきものでもない代物で、珍しく彼女は構える前からアーツの行使を始めていた。あまり多くの人間にその機能を晒したいと思っていないらしい。

 明らかに他の二人の動きが鈍くなる。いや、鈍くなると言うより、殆ど止まっているようだった。彼女は今だと言わんばかりに蒼い碧い穴の底を覗き込む。

 

 何を思ったのかクスリと笑うと右手の手袋を外し床に触れる。綺麗に整った床だ、穴の縁に触れてもそれは変わらない。遺跡と呼ばれるほどの昔に作られたとは思えない建造技術で、その色合いを彼女はあまり見かけた覚えもない。

 

「触ってるのを見られたら怒られちゃうんだよね。でもこういうの、触ってみたくならない?」

 

 ちらりと青年の方を見ながらちょっと申し訳無さそうな顔をした後、アーツユニットをくるりと一回しする。止まった世界に彼女だけが悠々と歩き、息をし、そして語りかける。それは同じ世界に立つ二人を隔絶する、まるで彼女だけの理想郷。

 

「遺跡が壊れちゃったら困るし、最低限にしとこうかな」

 

 呟くと、彼女は当然のように元立っていた場所に戻っていく。

 ただ、その理想郷に立った彼女の顔には特に感傷はない。虚しく嘆息したかと思うと、アーツを解除してしまった。

 

「はい、これでいい?」

 

 気づけば、モスティマが握った杖みたいな”アーツユニット”を直し始めている。

 いつ使った? 使ったのか? っていうか一瞬だったような、凄い速い動きで動かしてたような気もするけど…………。少なくとも俺の動体視力では分からない速度だった。

 

 でも、変化があった。凄く目に見えたものだ。

 

「…………今のでアーツを行使したって言うのか。トランスポーター、お前何者だ?」

「うーん。ペンギン急便の回し者?」

 

 部屋が柔らかな青い光で包まれている。それは穴の底に似た、もしくはモスティマの瞳に似た美しい光。湧き上がるように、まるで俺たちを出迎えるように光の粒子が舞っていく。壁一面、床一面、この世界がまるで星空の中みたいだ。

 

 でも、俺の記憶が間違いじゃないなら、その光に感じた感傷は蛍を見た時のそれに似ている。俺が一生懸命蛍を帽子で捕まえて、その光を捕らえようとしたことが有ったのは間違いない。

 

 ただ、それもこれと同じ。きっと触れてしまえば寂しいものだ。何でだろう、そんな気がする。

 この光を放つ”アーツ”というものが…………いや違う。

 それを使ったモスティマの何かが、蛍と同じくらい儚く感じられるものだったに違いない。

 

「綺麗だね…………これはアーツに反応してこうなるのかな」

「そうだ。面白いだろう、此処までの水路もよく見れば薄く光ってる、水がアーツの残滓をちょっとばかり吸ってるんだ」

 

 エンフィールドが俺に何か言いたげに様子をうかがってくる。

 俺はあまりいい顔ができなかった。

 

「何だろうな、綺麗だ。でも寂しいよ」

「寂しい?」

 

 尋ねてきたのはモスティマだった、少し意外だけどきっとこれは彼女に言うべきことだ。

 

「理由とか聞くなよ。でも俺はこの光が綺麗だと思うくらいずっと寂しいものだと思う――――意味、分かんないか」

「…………そうだね、私には分からない」

 

 きっぱりと言い捨てられてしまったのに少し悲しくはなったが、代わりに俺の方にしっかり向き直ると

 

「でも、多分間違ってないよ。意味、分かんないよね?」

 

 そんな事を言う。

 俺は分からないとはちょっと、言いにくかった。何となく分かってる気もしたからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、エンフィールドの手紙の相手。誰だったんだ?」

「私もそこまでは把握してないなぁ、見ようとしてなかったしね」

 

 それもそうか、わざわざ中身を覗くのも倫理的にアレだし。

 外に出る頃にはもう夜になっていて、今日は泊まっても良いとヒラガから許可が出た。

 

 モスティマも断る理由はなく、俺達は近場のテントで寝ることになったのである。恐ろしいことに一緒に寝ることになったが考えないことにしよう、この調子で一緒に寝ることばっかりだったら俺の心臓はこれから何回破裂するんだろうな。

 

「ちょっと驚いてたよな、娘さんとかかな」

「それはロマンチックだ」

 

 なんだかんだと色々有ったし、寝ない彼女を置いて俺はさっさと寝た。だけど、モスティマが夜中に…………いや夜明けかな。それくらいに揺すり起こしてきて。

 今、テントから出る途中に駄弁っていたという運び。

 

「でも、もし彼女に家族が居るなら素敵なことだ。待つ人が居るから、遺跡とだって孤独に語り合えるのかも」

「モスティマこそロマンチストじゃないか。まあ、俺もそりゃ良いことだと思う…………けど……!?」

 

 俺は見上げて声も出せなくなった。モスティマの得意げな顔だって目じゃないくらい、その景色に心が吸い取られていく。

 

 満天の星空というやつだ。一等星、二等星、三等星だって絶対見えている。鮮やかで濃い青の中に、手の混んだ芸術品みたいに沢山の星が散りばめられていた。流れる雲が邪魔どころかアクセントで、圧倒的な自然ってやつがどう組み合わさっても芸術になることを俺は思い知った。

 流れ星が見えた。天の川だろうか、この俺の知らない世界にも天の川は有るのかな。でもきっと、それに近いものが見えた。

 

 空なんて腐る回数見てきたと思う。だって俺は子供だけど、歳は10は越えてるはずだから。星空だって見たこと有る、俺の故郷が田舎か都会かまでは覚えてないけれど、空に映った星を数えた覚えは有るんだ。

 でもそれはまるで敵わない。星空を神様が作ったって今日だけは信じても良い。

 

 圧倒的だった。

 

「綺麗だよね、ちょっと散歩しない? きっと損はさせないよ…………私も星空、結構好きだから」

「あぁ…………当たり前だ。断れるわけないよ、これは」

 

 彼女に手を引かれるままに立ち上がる。その手が透き通った肌色をしていることに気づいて、思わず手を突っ返す。

 

「うわ! びっくりした、手袋外したのか…………」

「ずっとつけてたら堅苦しいよ。別に隠してるつもりだってないし」

「そりゃそうか…………」

 

 じゃあ、行こっか。そんな彼女の声がまるで演奏会の幕開けの挨拶のようだった。もしかしたらこの星空を、俺は彼女と見ているから――――――思考を切って、小さな決意だけ固めておく。

 

 今回は丘をちゃんと一人で登ってやった。息切れしそうだったけど、そこそこ休ませてもらったし平気だ。

 そのまま言ったら

 

「そっか。頼ってもいいよ、私は嫌じゃないから」

 

 そうとだけ言われた。やっぱり、この人はズルいセリフばっかり言う。

 歩く草むらの感触までまる別世界のようだった。昼の空も流れる雲が美しかったけど、俺達がぶらぶらと歩く合間にも左手からは紅のグラデーションがかかり始めている。夜明けってやつだろうか、言葉は同じでも俺が知っているものとは別物みたい。

 

 モスティマは殆ど何も言わずに先導してくれて、それに俺は何も考えずについて行って。

 でも何だか、それじゃ駄目な気がした。急に立ち止まってしまう。

 

「ごめんごめん、またペースが速すぎたかな。一人旅ばっかりしてるとどうもね」

「…………違うよ。俺の名前、決めてなかっただろ」

 

 おっ、とモスティマが少し目を見開く。

 ちょうど今、俺の名前は決まった。

 

「2つ重大発表だ。1つ目から、俺の名前だな。レン、そう読んでくれ」

 

 恋と書いて、レン。ロマンチストどころか気持ち悪さすら有ったが、記憶の曖昧な俺の、はっきりした記憶の始まりは…………あぁ。これ以上は本当に恥ずかしいから辞めておく。

 

 でも、モスティマにははっきり言っておこう。

 結果は知ってる。意味もなさそう、いきなり過ぎるし、眼中にもないかもな。

 でも俺はやる、何故かと言うと…………まあ思い込みなら良いんだが。

 

 寂しそうだからだ。勘違いなら迷惑かもしれないけど、俺は意思表示だけははっきりすることにしてる。

 

「2つ目。いきなりで悪いがモスティマ、俺はあんたのことが好きらしい」

 

 さて。分かりきった失恋なんて、したこと有ったかな。

 無いなら今回が初めてだ。

 

「少なくとも――――――あんたの瞳に映る世界に、胸が苦しいくらいに恋してるみたいだ」




ちなみにモデルですが舞台はFF12のイメージを拝借しており、遺跡はガラムサイズ水路をイメージしています。

では改めてこの作品について説明しましょう。要するに、私は旅番組みたいなものを少しだけ情緒豊かに書きたいと思ってます。
モスティマとレンの物語も勿論楽しんでほしいけど、「テラ」で生きている人々や、その文化、痕跡について思いを馳せれる時間も持ってもらえれば嬉しく思います。
感想が有れば是非。貴方が見つけた景色を、私に教えて下さい。


偶にはただの限界オタクっぽい話題もあとがきに出すのですが、モスティマの第三スキルを龍門郊外で使うとスーパーボールすくい下手な人の周りみたいな絵面で面白いです、ばよんばよーん。
多分モスティマは1000円溶かしても一つもスーパーボールが取れない可哀想なお姉さん、きっとそう。

ちなみに今回の話には、少しだけギミックがありますよ。ヒントは「空白」です。
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