明日、また彼女にフラれる。   作:杜甫kuresu

5 / 5
10点評価が来たので無駄にも出来まいと書きました。最低ですよね、こういう作者です。
という訳でどうぞ。


Day2 14:22『Distance between you and me』

「此処は美術と歴史の都市、らしくてね。世界の名画を取り揃えた展覧会も開くらしいよ、見てみるかい?」

「まあ、芸術は世界の歴史と密接に関わってる。見てみれば、新しいことが分かるかもしれないな」

 

 良い目の付け所だね、と。気づけばモスティマの顔がすぐ横にあった。思わず飛び跳ねてはしまったが、それが何の意味もないことは学習した。軽く息を整えてまた歩き出す。

 

 雨が続いていた。通りすがる住人達もまいったような、気持ち暗いような表情で傘を刺して歩いている。文化水準と言うか、当たり障りなく言えば文化基準? が違うのか、服装はジェントルマン風味から現代人そのものまで、結構居た。

 

 俺が物珍しそうな視線を送っていたのがあっさりバレてしまったようだ。

 

「此処は観光客も少なくないんだろう、私の働くペンギン急便の本拠地――――――というかアジトかな。そっちは摩天楼が広がってるんだ、摩天楼は知ってる?」

 

 摩天楼。東京とかを想像すれば良いのか?

 それならまあ分かるな。

 

「たっかいビルとか?」

「そうそう。いっつも騒がしくてね、光もチカチカするから目が冴えるよ。レンにはまだ、ちょっと刺激強いかもね」

 

 馬鹿にしすぎだ。ガキにしても俺は別に赤ん坊とかじゃねえんだぞ。

 

「ごめんってば。別に子供扱いしてるわけじゃないよ、ただ――――――君は、自分が思ってるより綺麗だから」

「…………!?」

 

 思わず顔に熱がたまる。

 勿論分かってはいる、それは言葉通りの単純な褒め言葉に決まってるし、決して難しい恣意を含んだ口説き文句とかでは決して無いだろう。

 

 にしたって、その顔はずるいと思う。

 初めて自分の子供でも見たような、柔らかな笑顔。本人はどうせ自覚がないのなんか分かっちゃいるが、が…………思ってしまうだろう。

 

「何で俺なんか見て、そんな幸せそうな顔するんだよ。卑怯だろ」

 

 無論、分かっちゃいないようだった。知ってる。

 無意識でバランスでも取ってるんだか、そんな風にさえ思ってしまう。俺の懸念をただあっさりと弾くために、そういうスキを見せてさながら普通に生きてるみたいな。

 

 そんなまやかしを見せようとしてるんじゃないかと、逆に不安になる。

 キョトンとして、また戻る。抗い難く、視線が吸い寄せられてしまった。

 

「卑怯かい? 君は嫌じゃなさそうだけど」

「そういう事じゃないんだわ…………」

「えー。私は嫌か嫌じゃないかで問題ないと思ってたなー……」

 

 気のせいだろうが、何だか上機嫌に見える。年下をからかう趣味にも限度は有るんじゃないか。

 傘をぶんどってからフリーだったモスティマは、俺の周りをくるくるして顔色を伺おうとしてくる。やめろ、筒抜けでも見られたいものと見られたくないものは俺だって有るに決まってるだろ。

 

「…………要するに。あんた綺麗過ぎるんだよ、加減してくれ。頼む」

「ふーん。何かそう言われると何処まで詰めれるのか…………ちょっと気になっちゃうよね」

 

 言葉より身体が早かった。

 するりと服の上から指が這う、焦らすような嫌な力加減で肘から手首に向かった指先が、傘を握る左手を抱きしめるように包み上げる。

 

 顎が肩に乗ってきた。寒色の蒼い髪からは想像のつかない、女性特有の甘い匂い。香水でも付けてるのかと思ってしまうが、この短い付き合いでだってそんなことはないのだろうと分かる。

 

 身体が少しずつ、着実に重ねられる。不味いことに俺は薄着で、モスティマはシャツ一枚。想像するにはちょっぴり危なすぎる、柔らかい感触が背中を貪ってくる。

 耳元、あの声がくぐもって耳の中を蹂躙してくる。

 

「こういうのは駄目?」

 

 理性を明らかに食い潰された。誤解なきように言うと、勿論厄介な行動に手を出しかけたという事ではなく、ただただ疲労に頭がくらくらした。

 

 この手の大人はさっさと振り払うに限る。

 出来るだけ力を抑えながら押し退けて、そのまま走り出す。つまり、モスティマを置き去りにした。

 

「調子に乗るなよ。あんたマジで将来が心配だね…………」

「うわっ。ちょっと、ごめんって。ずぶ濡れは嫌だよ」

 

 後ろから走ってくるモスティマを無視して全力疾走。振り向いてみろ、また俺のなけなしの純情がガリガリに削られる。見え透いた罠に突っ込む馬鹿じゃないぞ。

 

「言葉通り頭冷やせ」

 

 

 

 

 

「ちょっとからかっただけなのに、酷いなぁ」

「いや。全面的にモスティマが悪いな、これは」

 

 ベッドで布団をひっかぶる、宿の中だった。木の匂いがほのかに漂ってくる、淡い蝋燭で光度を保つ幻想世界。此処に来てからは、それこそ旅ならではの目眩がする変化ばかりだが、ある意味あの遺跡より浮世離れした生活感がこの宿には横たわっている。

 

 モスティマは俺に置いてけぼりにされたので、当然のごとくずぶ濡れだった。ちらりと見た時に透けるシャツがあまりにあんまりだったので、布団をひっかぶって逃げ込んでいる。

 タオルで丁寧に髪の水分を拭き取っているのが、ベッドの揺れで分かる。ちょっと想像してしまって、何か自分が嫌いになる。

 

 しかし。

 

「何でシングルベッドなんだ」

「だって、本当に予算に入れてなかったんだもん」

 

 恐ろしいことに、俺達はシングルで寝るらしい。そんな馬鹿な話があるか、今後の生活を思うと頭と胃が擦り切れてしまいそうな気持ちになる。

 

 話を逸らそう。今は神経過敏だ。

 

「なあ、此処はなんて都市なんだ」

「えーっとね…………カジミエーシュの都市の一つだって。幸い中心都市ではないね」

 

 幸い。モスティマはそういった。

 

「何で幸いなんだ」

「じゃあクイズのお時間だ。カジミエーシュ、騎士の残る内政国家。さてさて、ではこういった既得権益の強い国家といえば、何だと思う?」

 

 何を想像すれば良いんだ。俺の中での学問ってやつを引っ張り出してみることにした。

 まず思いつくのは、中世ヨーロッパの騎士。封建制ってやつだったか。王は諸侯に土地を与え、諸侯たちは回り回って騎士に土地を与え、忠誠を誓わせる。

 

 こうやって見ると、ヨーロッパの文化ってのは随分ドライなギブアンドテイクだな。日本みたいに元寇とか来てたら、利益確保が出来ないせいで揉めたりしてそうだ。

――――揉めるのは。

 

「騎士の権力が崩せない。体制の硬直から発生する、政治的腐敗。最悪共食い――――――蠱毒とも言うか」

「正解。つまるところ、騎士のせいで制約が増えちゃうんだよね」

「そりゃ幸いだな、俺も堅苦しいのは好きじゃないよ」

 

 だろうねぇ、とベッドに倒れ込む音がした。駄目だなこれ、見えないほうが想像して健康によろしくない。

 

 仕方なく目視する。いつもよりシャツが肌に吸い付いてて、ちょっと透けてて――――――辞めとこう。失礼だな。

 

「まあ、それはそういうものだから仕方ない。ただ、ゆっくりしたいのにそんな環境だとレンも大変でしょ?」

「お気遣いどうも。その調子で青少年の教育に悪くない振る舞いも覚えてくださると俺はとてーも助かりますね」

「ごめんってば。もうしないから」

 

 どうせすると思う、あんたにそういう信用ないぞ。

 

 ごろごろとしているのかと思ったら、モスティマは意外とせっせこ動く。持ち歩いてる杖――――――水滴を帯びていつもより神秘さを増したそれを、ゆっくり、ゆっくり。味わうようにタオルを当てていく。

 モスティマが消えたのを良いことにベッドを専有してみたが、ほんのり残った体温が落ち着かない。シーツにただ温度が移っただけだ、分かってはいる。でも、今日此処で二人で寝ることを思うと落ち着けるわけがないだろう。

 

 つい想像ばっかり頭を駆けずって、ぼーっとしてしまって。

 気がついたのは、モスティマに肩を叩かれてから。

 

「レーン。レン、起きてる?」

「…………うおっ!?」

 

 顔が近い、すごい勢いで布団を巻き込んで転がってそのまま床に身体が叩きつけられた。痛い。

 

「大袈裟だなぁ」

「あんたは無遠慮だ!」

「そっかぁ…………ごめんね、治さないけど」

 

 治さねえのかよ、ついに認めたな。

 

 呆れた矢先。モスティマの口から「そんなことより」という衝撃的なセリフが発せられた。そんなこと、そんなことだって? 俺はキレて良いのか、ああいや待て。最大出力でキレることにしよう、まだ耐えるときだ。

 布団に満身創痍でよじ登った。

 

「さっきも言ったけど、此処は展覧会とかも盛んなんだって。観に行きたいって言ってたし、時間もあまりは有るから――――――一緒に見に行こうよ」

「…………ん。でもモスティマはちょっと休めば」

 

 俺の一言が意外だったのか、それとも不満だったのか。

 ちょっと寂しそうに笑う。

 

「別に良いけど、何で?」

「え。いや、長旅なのは間違いなくモスティマだし、ちょっとぐらい休んどけよ。俺の好奇心に付き合うことないからさ」

 

 うーん、何かズレを感じる。

 モスティマは俺を見ている。何かを見ているようだ、今のセリフで確かに何だかつまらないような、寂しいような。貼り付けたようでもあり、本音にも見えるような。何とも言えない寂しそうな笑顔が溢れてる。

 

 勿論、好きな人に興味関心を持ってもらえるのは嬉しいことだ。俺だって人間だから。

 でもなんだろうか。俺の予想しない所に、興味を持っている?

 

「私は平気だよ。慣れてるし」

「そうか、じゃあ別に来るのは助かるから良いけどさ。まあ、疲れたら適当に帰っといてくれ、道とかはちゃんと覚えとくから」

 

 元に戻った。何となく変な感じだ。

 俺に興味関心がないから、あんな杜撰な距離感を取っているのかと思ったが違うらしい。

 

 言うまでもなく俺はモスティマに興味津々だが、じゃあ彼女は俺の何に興味を持っているんだろう。

 さっさと立ち上がる彼女の後ろ姿を見ながら、そんな事を考えていた。




今回は恋愛要素が多めで、あんまり世界観の話はしていません。ごめんなさい。
カジミエーシュ、元ネタ的にはイギリスではないのですが(恐らくイギリスはヴィクトリア)敢えて日本的ヨーロッパ像に近い場所として描写しています。

というのも、ヨーロッパは文化保全に努めるからあの形を保っているわけですが、カジミエーシュに関しては元々騎士が廃れていない伝統に価値を向けた国柄ですので、一歩古い町並みながらもベーシックなもの。これが中心ではない移動都市の文化として近いかなー、等と考えていたためです。

次の更新はいつになるか…………ちょっとわかりません。これは一時間で書けたので、結構面白かったことを信じます。

この小説の魅力とは

  • 文の空気
  • 世界観交渉
  • 恋愛要素
  • モスティマそれ自体
  • アークナイツ二次創作であること
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