ARMORED CORE -Resume “N”- 作:アカ狐
「グリッドツー沈黙!勝者、グリッドワン、シュペルマリーネ!!圧勝です!シュペルマリーネのスピットファイアが、またしてもデーモンの駆るマンティコアを返り討ち!立ちはだかる壁の険しさを思い知らせました!!」
ジョンはガレージの大型モニターでアリーナの公式戦の様子を眺めていた。
その横では彼の愛機“ディンゴキラー”が武装を取り付けている最中であった。
肩にはレーダーとロケット。
両手には同じ種類のライフルが握られていた。
さらにバックブースターと呼ばれる緊急回避装置を取り付けていた。
「はぁ」
ジョンは不安そうな声を漏らす。
彼は今日、アリーナの公式戦に出場する。
そのデビュー戦を出来ることなら白星で飾りたいと考えていた。
そんな彼の後ろに、誰かがそろりそろりと近づいて、やがて彼の真後ろに立つと、いきなり両手で肩を掴む。
「わっ」
「うおっ」
突然後ろから肩を掴まれて、体がビクッと動いた。
ジョンが振り返ると、イオがしてやったという顔をしていた。
「にひひ、隙だらけだぞ~。」
「なんだそりゃ。ずいぶん機嫌がいいな?」
「ふふん、昨日またランク一個あげたからね~。」
ジョンの問いかけにイオは胸を張る。
彼女はまたしても公式戦で白星を上げたのだ。つまり二連勝ということになる。
彼女とランクに差が開くのは自身との実力差も広がるということだ。
彼自身、AC同士での戦闘経験は全く無い。今日がその初めてとなる。
「そうか、じゃあ追いつかないとな」
ジョンが言いきる前に南側のゲートが開く音が聞こえたのでそちらへ目をやると、先程、返り討ちにされた機体が運ばれてきた。
何百発と撃たれ、ブレードでの斬り合いも行ったらしく、まさに満身創痍の状態だった。
機体に撃ち込まれた弾痕が生々しく、可動部はオイルが焼き付いて黒く焦げ、何とも言えない臭いを漂わせている。
右腕と、頭部は完全に破壊されてなくなっていて、未だに機体のあちこちからは火花がバチバチと音を立てている。
「あの人が戦ってた人って...。」
イオはポツリとつぶやいた。
ジョンは答えない。彼自身もあそこまで徹底的に破壊されるほどの強敵と遭遇していないからだ。
「いずれ相手になるヤツなのは間違いないな。」
ジョンはそう言って立ち上がると、愛機に向かって歩き出した。
「俺は今からデビュー戦だ。勝てるといいんだがな」
「そっか。頑張ってね!」
ジョンの背中に向かってイオは手を振って見送った。
ジョンは機体に乗り込んで、機体のチェックを済ませると、すぐに機体を前進させた。
目の前のゲートが開いて、そこから差し込む光の向こうへ、ジョンは機体を歩かせる。
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アリーナは地下に建設されており、専用のエレベーターを使って降り、
エレベーターのゲートが開いてアリーナの中へ入る。
ジョンはアリーナの中を見て唖然とした。
アリーナの天井に大きなモニターが四方に向かって吊り下げられており、
その向こうで歓声が湧き上がっていたからだ。
流れ弾のリスクを考えれば当然といえば当然なのだが、観客が間近で見るボクシングやレスリングみたいなものだと思っていた彼には、少し異様に見えた。
彼の目の前数百メートル先には一気の銀色のACが立っていた。
ジョンが試験のときに乗ったACの外観、装備そのままで、肩に搭載されていたはずのレーダーとミサイルが搭載されていなかった。
ジョンはガレージに向かう前にブリードと話したことを思い出す。
「ランクNo.49ボトムライン、機体名デフォルト。その名の通り、初期装備の機体を駆るレイヴンだ。だがコイツのライフルの狙いは悪くない。おまけにライフルは連射性能を限界まで高めてる。あと積極的に接近戦を仕掛けてくるから注意しろよ。」
“キィーーーーン!”
スピーカーから鳴り響くハウリングの耳障りな音でジョンはハッとする。
「グリットワン!やはり最下位に転落してしまうのか!?ボトムライン!...そして彼に挑むのはグリットツー!機体の新人!白星なるか!?ハウンド!!さぁ、両者出揃いました!制限時間内に残りAPの多い方が勝利となります!試合開始5秒前!」
レバーを握るジョンの手に力が入る。
「4...3...2...1...開始!」
開始の合図と同時に二機のACが機体をブーストさせ、相手に接近する。
制限時間は二分。
先に仕掛けたのはボトムラインだった。
何発も飛んでくるライフルの弾をジョンは無視して両手のライフルを撃ち込んだ。
互いに被弾しながらの削りあいとなるが、あまり大きなダメージには至らない。
それどころかボトムラインは前進あるのみと言わんばかりに斬りかかってくる。
“バシュッ!”
デフォルトのブレードは空を裂き、機体ギリギリをかすめた。
ジョンがバックブースターを作動させ機体を一気に後退させたのだ。
これにはボトムラインも驚きを隠せず、一瞬反応が遅れた。
「おぉ!ハウンド!バックブースターでブレードを回避しました!」
「なかなかやりますね。」
ボトムラインはつぶやく。
その声にはまだ余裕があった。
ジョンは急速後退の衝撃か、緊張からくるものなのかコクピットの中で少し息を上げていた。
「ですが、まだこれからですよ。」
ボトムラインはそう言うと機体をブーストさせ、もう一度ブレードで斬りかかる。
ジョンは機体を横方向にブーストさせ、距離を取りつつライフルで応戦した。
「距離を取ろうとしても無駄です!」
ボトムラインはディンゴキラーの足に目掛けてライフルを撃った。
ジョンはバックブースターを使い被弾は免れたかに見えた。
だが、弾は左足首に当たって機体はバランスを崩す。
一体何が起きたのか、ジョンはすぐには理解できなかった。
実況の男は彼の戦いを何度も見てきた経験からか、すぐにその答えを導きだした。
「で、出た!ボトムラインの早撃ちです!目にも止まらぬ二連射!まさに神業!!」
そう、彼は二発撃っていたのだ。
彼の装備しているライフルは確かに初期装備品のものだが、徹底的に連射性能をあげている為、もはや別物と呼べる代物になっている。
彼はジョンがバックブースターを作動させると読んでわざと二発目の照準をずらして撃ったのだ。
ジョンは更にブリードから言われたことを反芻する。
「奴はここ数年ずっと最下位で戦っていて、実力はハッキリ言って低い。だが、そんなヤツでも何年か分の進化はするもんだ。」
ジョンが機体の立て直しを図る隙をついて、デフォルトは一気に接近し、ブレードを振りかざした。
再びバックブースターを作動させ、間一髪致命傷は避けた。だが、機体の左手首が切り落とされ、ライフルが轟音を立てて地面に落下した。
「ハウンド!残りAPが逆転してしまいました!」
「さて、あと20秒でどこまでやれますかね。」
ボトムラインのその言葉に、ジョンの目付きが変わった。
「俺は、ここで負けるわけにはいかねんだ!」
ジョンは右手のライフルを撃ちながら彼に一気に近づいた。
「自分から斬られに来るとは!」
ボトムラインはその変化に気づきながらも、デフォルトのブレードを展開させる。
ジョンは敵との距離が50mのところで右手のライフルをパージした次の瞬間、ディンゴキラーの頭が切断された。
そして、デフォルトの左腕を右手で掴み、肩に装備されたロケットを展開させた。
「なん…!?」
残り7秒。
驚愕するボトムライン目掛け、ジョンはロケットを叩き込む。
何発ものロケットを至近距離から撃ち込み、その爆発と煙で二機の姿が見えなくなる。
そのまま終了の合図が鳴り響いた。
「...勝者!グリッドツー!ハウンド!」
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深夜1時。
ガレージは消灯して天窓から月の光が差し込んでいる。
ガレージの数枚あるうちの、勝手口の一枚が開いていた。
扉を出てすぐ横の壁にジョンはよりかかって、ボンヤリと空を眺めていた。
外は月がガレージや建物を明るく照らしていて、ふわりと吹き抜けるそよ風が心地よい。
「あの...」
不意に声をかけられ、ジョンは声のした方へ顔を向ける。
ガレージへ繋がる扉から一人の少女が、体を半分ほどのぞかせていた。
「隣に座っても、いいでしょうか?」
ジョンは声の主の姿を見て、少しの間呆然とした。
その少女を見たことがなかったからだ。
「あ、あぁ...どうぞ。」
ジョンは思わず間の抜けた返事をする。
少女はジョンの隣に座って膝を抱えた。
座った姿は本当に小さい。
そしてその人形のような端正な顔立ちに、ジョンは少しみとれてしまった。
少女が視線に気付いて顔を向ける。
ジョンは思わず目を逸らして空をみた。
少女は首をかしげたが、また空を見上げて呟いた。
「眠れない日は、たまにここへ来て、こうして空を見るんです。」
「奇遇だな、オレもだ。今日の興奮がまだ冷めないんだ。」
ジョンはそう言って伸びをする。
「もしかして…今日の試合に出ていた方ですか?」
「あぁ、まぁ胸を張って言えるよう結果じゃなかったけど。」
少女の問いかけにジョンは笑って答えた。
少女の質問はまだ終わりそうもなかった。
「あの、名前を伺ってもよろしいですか…?」
「あぁ、ジョンだ、ジョン・ポーチャイルズ。」
「よろしくお願いします、ミア・デンヴァーです。」
「しっかりした子だなぁ。」
ジョンは何の気なしに発した言葉だったが、彼女の怒りを買ったらしくムッとした。
「こ、子供じゃありません!私はこれでも23です!」
「えぇ!?オレと同い年なの??」
「え!同い年なんですか!?」
まさかまさかの出来事に二人は驚いた。
そんなお互いの様子に二人で笑った。
その後も二人はお互いのことを話した。
ジョンは就職難で路頭に迷っていたところをブリードに誘われレイヴンになったこと。
始めのうちは操作もおぼつかなくて報酬が雀の涙同然になったこと。
今でも戦いには消極的で、コックピットは外して戦ってしまうことを、
ミアはイオのオペレーターをしていること、
自分が過去に一人、オペレーターを担当してたレイヴンが任務中に重傷を負い、
それで未だにオペレーターとしての仕事に自信を持てないことを話した。
そんなとき、微かに砲撃音が低く響いて、二人は思わず反応した。
かなり遠くの方で煙が上がっているのが見える。
「また今日も、どこかで誰かが戦ってる。」
「そうだな。あんなことしなくても済む世の中だったならいいのにな。」
二人はそう言って、煙を見ていた。
ジョンはそう言えばとミアに声をかけた。
ミアはジョンの方を向く。
「イオって、なんでレイヴンになったんだ?あんだけ綺麗なヤツなら他に行くとこあったろうに。」
ジョンの言葉にミアは少し寂しそうな顔をしたが、すぐに口を開いた。
「イオさんは、お父さんがレイヴンだったらしいんです。でもあるとき任務中に、雇ったレイヴンの人に裏切られて殺されてしまったそうなんです。それで...」
「父親の敵討ちの為に?」
ジョンの言葉にミアはうなずく。
「そうかぁ...、ありがとう、今のは聞かなかったことにするよ。悪かった。」
ジョンは頭を下げた。
「いえ、そんな謝らなくても...。」
「いや、いいんだ。それじゃまたな。」
ジョンはそう言って立ち上がってガレージの扉に手をかけた。
ミアは呼び止める。
「あの」
「うん?」
ジョンは振り返った。
「また、今日みたいな日は、ご一緒してもいいですか?」
「あぁ、いいよ。」
Act.2 END