今現在、人類が経験している世界とは別の歴史や文明を歩んだ、異なる時空。
それらは無数に存在し、個々の宇宙によって生命の姿形でさえも全く違うものになり得る。一本の大樹を軸として、そこから枝分かれして増え続けている、と言えば理解し易いだろうか。
ただしこういった数々の宇宙やそこに生きる者たちは、永遠に維持し続けられるとは限らない。些細な綻びから、生命の根絶や宇宙の消滅といった危険の発生が常に付き纏う。
そしてもう一つ。外的要因によっても、滅亡が起こる可能性はある。意図して宇宙の破滅を齎す悪意が、確かに存在するのだ。
その名は
各宇宙の主要な知的生命体の棲む惑星、主に人間とカテゴライズされるモノに寄生、あるいはそれらを洗脳し、コミュニティに紛れ込む泥状の生物である。
この生命体は、知識を与えるという形で移動先の宇宙へと特定の変革を加速度的に促す。それは文明の発展や種としての進化であったり、形としては様々だ。
だが当然、その目的は決して人類に対する貢献ではない。
刈人の最終目的、それは――成熟した宇宙を『収穫』することだ。
「収穫……!?」
「それに、別の宇宙から来ただと!?」
目の前の男、エフェサレフと名乗った人物の話を聞いて、アズールたちは愕然とする。
確かにその人物は、昆虫のような赤い眼球や光を吸収し尽くさんばかりの異常な黒い肌など、おおよそ人間とは思えない要素を持っている。
しかし、あまりにも荒唐無稽な内容なので、一同は困惑するばかりだった。
「ああ、そうだ。もう50年以上も前から、私は君ら人間に干渉し続けて来たのだよ」
アズールが息を飲む。
無数の宇宙や地球外生命体が存在すること、だけではない。
宇宙そのものを消滅させようとする邪悪な生物が、こんなに身近にいるなどという事実が、恐ろしかったのだ。
「……進化を促す、ってどういう意味?」
今度はピクシーが恐る恐る尋ねた。するとエフェサレフは先程と同じ調子で、淡々と答える。
「先程も言った通り、君たちの生きる時空を含めて遥かな多元宇宙は巨木から分かたれた枝のようなもの。その宇宙に存在する力を、私の場合は科学技術を育むのだ。そうして育て上げた力の、進化の果てに行き着いたものが『果実』となる」
エフェサレフは唇を歪な形に曲げながら、今度はリボルブ、静間 鷹弘に視線を移した。
「その進化のために静間 鷲我に与えたのだよ。私がベースを作った、サイバー・ラインを」
「……な……!?」
仮面の奥で鷹弘が目を見開く。地べたを這うように倒れ込んでいる久峰 業も、困惑していた。
その反応を面白がっているかのように、エフェサレフの瞼が細められる。
「あんなモノが最初からこの世界に存在するはずがないのは、君たちも分かっていたはずだろう? その時代の宇宙内の人類にはまだ到達できない『情報生命体の創造』の基礎となる世界を作り上げた私は、そこから先を鷲我に委ねたのだ。人の手が加わってどこまでの進化に至るのか、元々芳醇な科学技術を持つ人間たちに任せればどれ程の力を示すのか」
ぺろり、とエフェサレフは舌舐めずりし微笑む。
「結果は想像以上だった。私の想定よりも遥かに速くサイバー・ラインは発展し、高い知性と自己学習・自己進化能力を持つ命が……君たちがアクイラと呼ぶモノが生まれたのだ。そのまま人類が彼を利用してくれていれば、この宇宙の技術水準はあと30年ほど進歩していたのだが」
現実には、そうはならなかった。
鷲我はアクイラの知性と貪欲なまでの探究心、そして人間の支配という目的を知って危険と判断し、消去に踏み切ったのだ。
そんな動向でさえも、エフェサレフは知っている。
「趨勢はそこで変わってしまった。もはや私がどう干渉しようと、人間とアクイラは敵対を避けられない。残念な事に、技術の発達はそこで一時的にストップしてしまったよ」
「ケッ、そうそう何もかもテメェの思い通りにはならねぇって事だろうが!」
「その通りだ。だが、戦いを長引かせればどうなるかな?」
リボルブの苛立ち混じりの言葉に対し、そう返す。
アズールたちはその発言の意図を一瞬理解できなかったが、戦いを長引かせるその方法を考えると、やがてある可能性に思い至った。
戦いを長期化するには、アクイラが倒されず逃げ延びる必要がある。実際に一度破壊されてしまった後、復活したのだ。
そのためにアクイラが取った方法は――
「まさか、テメェ……!!」
「そうだとも。アクイラがスペルビアを作るよう誘導したのも、私なのだよ」
リボルブの問いにエフェサレフは事も無げに答え。
ドクンッ、と話を聞いていたアズールの心臓が跳ね上がる。
目の前の怪物は、それを察知したのか、柔らかく笑みを見せた。
「君たちの情動を感じる、とても心地が良い」
「ふざけるな!! お前が……お前がスペルビアを作らせたせいで、どれだけの人がヤツに唆されて、何人Cytuberの犠牲になったと思ってるんだ!?」
「ハハハ! アズール、私がそんな事に頓着するように見えるのかね?」
「こいつ……!」
「話を戻そうか。アクイラは狙い通りにバックアップを作ってくれたが、また君たちのような人間に見つかって倒される危険もあった。故に、私は久峰 遼をスペルビアの牽制役に立てたのだ。元々、久峰の一族は50年前から私の手足であるしね」
その言葉に、業は悔しそうに項垂れ嗚咽を漏らす。
ただ利用されるだけの存在だったのだと、明確に本人の口から事実を突きつけられ、打ちひしがれているのだ。
もはや欠片も興味がないのか、エフェサレフは視線さえ送らずに話を続ける。
「人とアクイラの対立構造。二つの組織はどんどん技術を進化させ、さらにアクイラ自身も究極のテクノロジーに至った。人類全ての支配、もとい救済のシステムを完成させた。全ての人類が幸福となる科学技術の完成形、最高の収穫期……しかし、計算外の事態が起きてしまった」
「……僕たちがアクイラを止めた事か?」
「その通りだ。ヤツの勝利の後、私はその美しく芳醇な宇宙を刈るはずだった。だが君たちが邪魔をしたせいで、一番の旬を逃したんだ」
忌々しい、とばかりに肩を竦めるエフェサレフ。
そんな彼に対し、またアズールが問いかける。
「もうひとつ聞かせろ。収穫された宇宙は、そこにいる生命は、どうなる?」
質問を聞いて、エフェサレフは笑うでも苛立つでもなく、ただ目を丸くした。
「目の前の果実を食わずにおいて、腐らせる動物がいると思うか? 刈り取った宇宙は『虚無』に捧げられ、咀嚼の後に消滅する。例外なく全ての生命は死に絶え、そこで渦巻く感情の奔流が『虚無』の飽くなき空腹を満たし、また枝葉の先から新たな宇宙が構築されるのだよ」
その答えを聞いた瞬間。
仮面ライダーたち全員が、一斉に戦闘態勢に移った。
「……ほう」
「そんな事は絶対に許さない!! 僕らがお前を止めてやる!!」
「やはり抵抗するか。面白い」
アズールとキアノスは剣の先を突きつけ、リボルブとネイヴィは銃口を向け、ピクシー三姉妹もレイピアを手に睨みつけている。
まさに四面楚歌と言った状況だが、エフェサレフはくつくつと笑いながら余裕を見せ、開いた両腕を真っ直ぐ前に掲げた。
すると、業が使っていた破損状態のアプリドライバーとマテリアプレートが消え、一瞬の内に彼の手に握られる。
「なっ!?」
「だが、そんなものでどうするつもりだ……?」
驚くアズールと、困惑するキアノス。
エフェサレフは不敵な笑いを浮かべたまま、ドライバーを握っている右掌に力を込める。
直後、周囲の黒い泥水がそれらを包み込んだかと思うと、壊れていたはずのベルトが完全に修復されていた。
「直した!?」
「私は自ら観測したテクノロジーを再生・具現化できる……さらに」
再び黒い泥水が波紋を作って動き出し、触手のように動いてアプリドライバーとホルダーに収まったマテリアフォンを包み込む。
そうして出来上がったものを見て、アズールたちがまたも驚く事になる。
何故ならば、それはかつてアクイラが変身に使っていた支配者の証、カーネルドライバーだったからだ。
「これとエンピレオユニットこそがこの宇宙で最高の技術。だが、まだだ。私の知識と、奈落の彼方に消えた他の時空の技術が加われば……」
またも泥水が蠢き、今度は左手のマテリアプレートを頭上に放り投げた。
今回は先程までとは様子が違い、泥の触手が無数に伸び、地下世界全体が震えている音が響いている。
このまま天井が崩落して、生き埋めになりかねない程の勢いだ。
「な、何が起きてるの!?」
《アーマゲドンドライバー……!!》
ピクシーが狼狽していると、そのような電子音声が鳴り響き、全員の視界が白い閃光によって覆われた。
静寂の後にやがて視力が回復すると、そこにはもう泥水は存在せず、いつの間にか一行は地上に出ている事に気付く。
しかも途中で別れていたはずの雅龍とザギークも傍におり、業もまた地に倒れたままアズールの眼前にいる。
「一体どうなっている!? 敵はどこだ!?」
「ウチら、ワープしちゃったってことぉ!?」
混乱が波及する中、アズールはエフェサレフの行方を目で追っていた。
彼の姿はすぐに見つかった。空に浮遊し、既にドライバーを装着していたのだ。
取り付けられた
「さぁ、始めようか」
そう言ってエフェサレフは、右手に握ったマテリアプレートを起動する。
これもまたダークネス・キングダムXRのプレートとは形状が変わり、通常のものと厚さは同じ。
しかしプレート自体は真っ黒で金で縁取られている他、昆虫めいた機械的な翅のグリップが装飾されている。
《ネバー・エンディング・ネザー!!》
グリップ上部のスイッチを起動すると、クリアパーツ内の翅の筋に見えるコードの部分が、まるで血管が浮き出るように紅く輝きを帯びる。
満足そうに音を聞きながら、エフェサレフはそれから手を放す。
すると禍々しい輝きを放ってプレートが浮遊し、まるで吸い込まれるようにアーマゲドンドライバーへと自動で装填されて行った。
カーネルドライバーの時の福音のような音声と違い、このベルトから流れる音は無機質で、それでいて恐怖を煽るような虫の羽音がノイズのように響いて来る。
「全てを滅する、虚無の力を見せてやろう……」
《クリエイション・オブ・ディストピア!! クリエイション・オブ・ディストピア!!》
「変身」
《
プレートの時と同様にデジタルフォンがひとりでに動き出し、表面にタッチされる。
すると黒い泥水が形成されてエフェサレフの全身を覆い、粘ついた液体がアンダースーツを形成していく。
同時に、エフェサレフの眼前に巨大な黒いバッタが出現すると、羽音を立てながら大きくアゴを開いた。
《ネザー・アプリ!!》
「ムゥン!」
そのバッタに向かって拳を突き出すと、肉体がバラバラに分解されて漆黒の装甲に転じ、エフェサレフのボディに合着する。
《CalL oF
ノイズの混じった耳障りな音と、極端な高低の入り混じった不愉快な声。
肩からは曲がりくねった大きな棘が伸び出し、身体の各部に昆虫を彷彿とさせる禍々しくも堅牢な金縁の装甲が形成。
さらに背中にはバッタの翅が生え、頭部は同じくバッタを思わせる鋭いクラッシャーや触覚がついたものに変わる。
そして左眼が睨みつけるような吊り上がった形の金色であるのに対し、右眼は虚無を映し出すかのような黒い
《奈落ヨり這イ出ズる
双角錐の奥底から赤黒い光が明滅し、烈風と共にエネルギーを全身から放出して、その仮面の悪魔は完成する。
「その姿は……!?」
「仮面ライダーデマイズ、それが私の名だ」
名乗りを上げて地上に降り立つと、デマイズは両手を拡げてゆらりとアズールたちに向かって近付いていく。
一見無防備だが、そう感じさせない程に鋭く凄まじい殺気を放っており、一行は息を呑んだ。
「節操なく生命を育んだ宇宙よ、愚かにも真実に近付く罪深き者たちよ……心するが良い。無に還る時が来たのだ」
《ホロウブリンガー……!》
無慈悲に告げ、右手を前に掲げる事により、武器が生み出された。
真っ白く長いランスに見えるが、黒色の柄は両手で収まる程度に短く、穂先の下辺りまでクリアレッドの刀身が付いており片刃剣のようにも見える。槍の下端から中央にかけてスリットとスライド式のレバーが、鍔に当たる部分には金色の歯車が、そしてグリップエンドには白いリングがそれぞれ付いているようだ。
何よりもプレート装填用のスロットも見当たらず、明らかにアズールたちの持つ武器とは雰囲気が違う。
刺すにも斬るにも強力そうなその武器の切っ先を突きつけ、デマイズは余裕そうにくつくつと笑った。
「進化の果てに無に消える事こそが全宇宙の秩序……それを認められぬのなら、掛かって来い……愚者ども」
九人は呼吸を合わせ、武器を手に一斉に飛び出した。
「オォォォラァッ!」
「行くぞォォォッ!」
「ホォアタァーッ!」
最初に仕掛けて行ったのは、リボルブとキアノス、そして雅龍。
《フレイミングフィニッシュコード!
《フィニッシュコード!
《マスタリーパニッシュメントコマンド!
ヴォルテクス・リローダーによる銃撃、鞭のようにしなるキアノスサーベルの斬撃、問答無用で凍りつかせる雅龍転醒の打撃。
どれも必殺の一撃だ。通常のデジブレインなら言わずもがな、これまでに敵対してきたサイバーノーツのような相手であっても、命中すればひとたまりもないダメージを負うだろう。
《
しかし三人が攻撃を繰り出した瞬間に別の電子音声が流れると、その全てを防がれた上で、デマイズの頭上を木の葉のように舞っていた。
『ぐあっ!?』
「……え!?」
誰にも何も見えなかった。何が起きてしまったのか、何をされたのか。
アズール一人以外は。
「今、のは……!!」
デマイズの初動は、ただユニット上部にあるスイッチを押し込んだだけ。それによって、全身から漆黒の波動を放っていた。
だがそのたった一瞬で、波動に触れた三人の必殺技を全て無力化したのだ。
全てが見えていたアズールであるが、しかしその力の正体までは見抜けていない。ただその恐るべき光景に圧倒され、息を呑む。
ネイヴィはその様子から悟って、アズールに尋ねる。
「翔! お前は敵の攻撃の正体が見えるのか!?」
「全貌までは分からない……ただ、何か黒いエネルギーを生み出して、それがみんなの攻撃の威力を殺したように見えた! その後あの剣で叩き伏せられたんだ!」
その言葉を聞いてデマイズが笑い、剣先をアズールへ突きつけて進撃を続ける。
直後、ネイヴィが立ち塞がってアズールとザギークをチラリと振り返った。
ザギークは頷き、マテリアパッドを手に取る。ダメ元のようだが、戦いを記録して正体を見極めるつもりだ。
「俺が仕掛ける、もう一度ヤツの攻撃をじっくり見るんだ!」
「父さん!?」
「頼んだぞ翔! 悪いがこの戦い、ヤツの技を見切れるお前に賭ける以外にないようだからな!」
《
左腕のアタッチメントをチェーンアームに切り替え、鎖を振り回し錨をぶつけようとする。
それに続いて、倒れていたキアノスも復帰。キアノスサーベルを振り上げ、再び必殺技を発動した。
《フィニッシュコード!
「喰らえ!」
「行けぇぇぇ!」
《サイクロン・マテリアルエンド!》
《ニュート・マテリアルスライサー!》
炎を纏って燃え上がる剣と、藍色の輝きを帯びるアンカー。
武装へのカタルシスエナジーの集約により破壊的な威力を感じさせるが、それを見てもデマイズに動揺は見られない。
むしろ、愉快そうに笑っていた。
「くくくく」
《
「残念だったな」
先程と同じように、スイッチを押し込んで眼前の二人に波動を発するデマイズ。
続いてやはり瞬きする間もなく、鎖を破壊してキアノスとネイヴィを斬って捨てた。
「がぁぁぁっ!?」
「は、や……い!!」
あっという間に響・肇の変身は解除され、凶悪な武器を携えた悪魔はトドメを刺すべく歩み出す。
そこに、アズールが颯爽と立ち塞がる。
「しょ、翔……見えたか!?」
「敵の攻撃の正体は、分かったのか!?」
息を切らせ、上体を起こしてアズールに尋ねる二人。しかし、当の本人は首を左右に振った。
「父さん、兄さん……ごめん。まだ完全には分かってない。だけどなんとなく何をしたのかは理解できた気がする」
アズールの、翔の表情に諦めは見えない。
心配そうにピクシーたちがその背中を見守る中、アズールは頭だけ僅かに振り向き、声をかけた。
「アシュリィちゃん、ツキミちゃん、フィオレちゃん……浅黄さんと一緒に現実世界に戻ってみんなの手当てをお願い。こいつは……僕じゃないと倒せない!」
そう言った後、アズールは解析を続けていたザギークにも視線を送る。
彼女は焦った様子であったが、すぐに頷いてゲートを開き、久峰 業を含む全員で去って行く。
アズールはそれを確認し、すぐにデマイズを睨む。当の悪魔は両腕を拡げて天を仰ぎ、嗤っていた。
「それは違う、仮面ライダーアズール。正確ではないな。君でも私は倒せない」
「やってみなきゃ分からないさ」
「結果の見えている勝負というものもある。尤も、私がこれまでに消して来た数多の宇宙に住む人間たちは、誰一人それを理解できなかったし……できないからこそ、滅んだがね」
「……僕らが同じになるとは限らない」
「分からないか? 君たちも同じ、抵抗して消し滅ぼされる愚者のひとつに加えてやろうというのだよ」
挑発的な言葉を繰り返すデマイズ。直後に、アズールは武装をブレイクセイヴァーに切り替え、飛びかかった。
冷静さを欠き、怒りのまま攻撃に向かったワケではない。敵の攻撃の正体を見極めるべく、破壊力の最も高い武装で挑んだのだ。
上段から放つ大剣の一振りは、しかしデマイズのホロウブリンガーを砕くには能わず。
渾身の一撃を止められ、嘲笑う声が目の前の刈人から聞こえる。
「残念だが……このホロウブリンガーは君たちの星の技術では砕けない。刈人に与えられる専用の特別な装備でね、死神の鎌のようなものさ」
「くぅっ!?」
「尤も。これで刈るのは君たちの首なのだ、が!!」
ヒュンッ、と剣を振るデマイズ。しかしその一撃も、ブレイクセイヴァーの盾部分で弾かれてしまう。
「案外頑丈なようだ。興が乗るな」
「そんな事を言われても少しも嬉しくないね」
「つれないじゃないか」
軽口を叩きつつ、デマイズは続いて槍の部分で力強く突く。だがこれも、身を反らしたアズールに回避された。
この一瞬を隙と見て、今度はアズールが動く。ドライバーのサークルに手を伸ばし、それを回す。
すると、胸の惑星記号が月に変化した。
《スワイプ!!》
「ハイパーリンクチェンジ!」
《ルクシオンムーン、ハイパーリンク!!》
アズールが選んだ形態はルクシオンムーン。時流操作を行う、トリッキーな戦闘スタイルだ。
「行くぞ!」
早速、全身に力を込めてカタルシスエナジーを漲らせ、時の流れを操ろうとするアズール。スターリットフォトンも散布し、武器を形成しようとしている。
その時を狙って、デマイズも動いた。
「やらせんよ」
《
先程使ったものと同じ黒い波動。
それに飲まれた瞬間、全身から力が抜けていく。しかも、武装を作ろうとしていた粒子も消え去ってしまった。
目の前からはホロウブリンガーを片手にデマイズが迫って来る。このままでは、響たちの二の舞だ。
しかしアズールはまるで慌てる事なく、ブレイクセイヴァーで攻撃を受け止めた。
「む」
「もう分かったぞ……お前のその攻撃の正体! やっぱりそういう事か!」
言って、デマイズの胸に前蹴りを食らわせ距離を取る。
そして彼に指を差し、能力の詳細を言い当てた。
「その黒い波動には、触れたもののカタルシスエナジーを消滅させる力があるんだ! だからみんなの必殺技も中断されて、お前は近付くだけでも凍結するはずのサスペンドブラッドを食らっても凍り付かなかった!」
「正解……しかしそれを知ったところで、何も変わらない。君が絶望の淵に立たされている事を自覚するだけだ」
グッ、とアズールは一瞬言葉を詰まらせる。
実際にあの悪魔の言う通り、作り出したエナジーやそれを利用した力を完全に無力化されてはどうしようもない。どんな対策を打とうと、それがカタルシスエナジーを由来としている以上、事前に防がれてしまうのだから。
ならば。デマイズが防げない絶好のタイミングで、必殺技を叩き込むしかないだろう。
だがそう簡単に隙を見せるはずもない。
「フン!」
「くぅぅぅ!?」
斬撃と刺突を織り交ぜる高速のコンビネーション攻撃によって、アズールの体勢を崩そうとするデマイズ。
盾で連撃を凌ぐにも限界があり、最初は防ぐ事ができていた一閃や突きが、次第に装甲を傷つけ始めた。
そして攻撃を回避する足が止まった瞬間、デマイズはスリットをなぞるようにホロウブリンガーのレバーを指で押し上げ、そしてトリガーを引く。
直後、刃へと赤い光が集中。巨大なエネルギーブレードが形成された。
《
「君の身体はどれほど私の攻撃に耐えられるかな?」
頭上から振り下ろされる、死神の一刀。よろめきながらも、アズールは大きなサイドステップで回避を試みる。
結果として斬撃は回避する事はできたものの、サイバー・ラインの地には決して消えない大きな爪痕が残ってしまう。
「なんて破壊力だ……!?」
「呆けている暇はないぞ」
冷酷に告げ、デマイズは続けて歯車を掌で回転させる。
五度ほどそれを回したところで、武器全体が赤い輝きを帯びた。
《
音声と共に赤い光の柱が伸び、今度は叩きつけるような形で横薙ぎに振り回す。
対するアズールは咄嗟にブレイクセイヴァーで受け止めるが、防ぎ切れずに吹き飛んでしまい、彼自身も地面に背中を打ち付けた。
すぐに立ち上がるが、追撃のため既にデマイズが跳躍し頭上を取っている。
「終わりにしてやろう」
滞空したままグリップエンドのリングを引っ張り、そして引き金を弾く。
《
ドリルのように高速回転する巨大な光の奔流が穂先から飛び、腕を交差させて防護姿勢を取るアズールに直撃。
身を守っているとはいえ必殺の一撃を全身で受けてしまい、装甲が徐々に溶解し、煙を吹き始めた。
「ぐ、う……!?」
呻き声を上げ、ついに膝をついてしまう。その様子を見下ろしながら、デマイズは悠然と目の前から歩んで来る。
「君を殺せば後は取るに足らない連中が残るだけだ。安心したまえ、すぐに彼らに後を追わせてやろう」
掌でパシパシとホロウブリンガーを撫でながら、刈人が囁く。
そして剣を振り下ろそうとした、その寸前。
アズールは、自らの腕を前に掲げた。まるで静止をかけるかのように。
「遺言でもあるのか?」
一言程度ならば聞いてやろう、と剣を振り上げたままデマイズが耳を済ませる。
続いて出て来たアズールの言葉は。
「……お前の負けだ、デマイズ」
《グランドクロスフィニッシュコード!!
突如、彼の背後から、上空から響いた音声。
振り返って見上げれば、そこには空中を漂うブレイクセイヴァーがあり、その刃は光を帯びてデマイズの方に向いていた。
その瞬間、デマイズは理解した。アズールは剣を落としてしまったのではなく、あえて放り投げたのだと。
ルクシオンムーンに切り替えていたのも、空中で時間を引き伸ばすことで発動を遅らせ、確実に命中させるためだったのだ。
「くっ!?」
全てを悟ったデマイズはドライバーの操作でカタルシスエナジーを消失させようとするが、時既に遅し。
アズールは自らの手にアメイジングアローを作って矢を放ち、その行動を阻止。ブレイクセイヴァーからは巨大な光の刃が解き放たれた。
《アカシック・ブレイクスルー・ブレイク!!》
デマイズの脳天に突き刺さる極光。
先頃のホロウブリンガーから放たれたエネルギーにも迫る威力で、その体を真っ二つに両断する。
「やった……か!」
ボロボロになりながらも、アズールは勝利を確認して深く息を吐く。
脳天から左右に切り開かれたのだ。もう二度と、立ち上がる事はないだろう。
そう思って変身を解除しようとした、その時。
「今のは良い一撃だった」
「え……?」
背後から声が聞こえると同時に、アズールは背中と胸に激痛が走り、口から血が逆流してマスクから噴き出るのを感じた。
見下ろせば、胸からはホロウブリンガーの穂先が生えている。
否、背中から胸まで一気に突き刺されてしまったのだ。デマイズによって。
「あ、ガッ……!?」
「忘れたかね? 泥土で生まれたバイパリウム・デジブレインは、不死身だったろう?」
声の聞こえる方を見てみれば、そこにデマイズの死体はなく、武器を握ってアズールの背を貫く右腕だけが浮いていた。
そしてさらに目を凝らしてみると、無数の黒いバッタが羽音を立てながらその腕に群がっているのが見える。
最初からデマイズにダメージなどなく、肉体を無数の虫の姿へと転じ、瞬時に再生しているのだ。
「宇宙を滅ぼす刈人が、人間の力程度で死ぬはずがあるまい」
嘲笑と共に一気に剣を引き抜き、変身の解けた翔を地面に蹴倒す。
彼の口と胸からは、止まる事なく血が溢れていた。
「さて。これでもう邪魔者もいなくなった、そろそろ収穫するとしようか」
そう言って、デマイズはゲートを開き現実世界へと向かう。
翔には、それを止める術などない。立ち上がる事さえもできない。
「みん……な……」
息を切らした彼の瞳から光が失われ、次第に呼吸の音も止まる――。