エフェサレフは翔を、仮面ライダーアズールを打倒して現実世界に降り立っていた。
「虚無に捧ぐ、神聖なる収穫の時間だ。まずはこの宇宙の終わりを祝して、盛大にパレードを始めるとしようか」
くつくつと嘲笑しながら、異形の男は掌を前に掲げる。
すると、空間に穴が開き泥水が湧き上がって、そのドス黒い泥が七体の怪物の形を成した。
それはかつて人間たちをサイバー・ラインに拉致していた、サイバーノーツという怪人たちの巨大に変異した姿。即ち、ビーストモードやカオスモードという名の付けられていた形態に酷似していた。
違うのは、その全てが黒い体色と真っ赤な瞳に変化している点だ。
「これは前祝いだ! 手始めに人間たちを襲撃し、我らの愛しき虚無のため、極上の
漆黒に染まった七つの
立ち向かう術を持たない人間たちは、突如として現れた怪物たちを目にすると、悲鳴を上げて恐れ慄き逃げ惑う。
その中には当然、パニックに巻き込まれて逃げ遅れる者もいた。幼い女の子が一人、逃げる大人たちに突き飛ばされて転んでしまう。
「ああっ!?」
起き上がろうとした時、目の前にいるのは大口を開けた黒いコウモリ。このままでは、一口で丸呑みにされてしまうだろう。
「ひっ……」
恐怖から立ち尽くして、思わず目を閉ざす少女。
しかしかぶり付かれる寸前に、彼女の体は弾き出されたように飛んで行き、牙から逃れた。
恐る恐る目を開けば、そこには少女よりも少し年上の、しかし幼い少年が怪物に立ち塞がっている。
――元Cytuberの栄 進駒だ。
「君……大丈夫?」
「う、うん」
自分を助けてくれた進駒に手を取られ、少女は彼を見上げながら頷く。
そして進駒は手を繋いだまま、名も知らない少女と共に走り出した。
「安心して、きっと助けが来る。この街には……仮面ライダーがいるんだから!」
大蛇や大牛、大蠍をかわしながら、進駒は少女を抱えるようにして逃げ続ける。
体は震え、進駒自身も心臓が飛び出すような恐怖を感じているが、それでも彼は諦めなかった。
命ある限り諦めずに戦い、そして生き抜くために抗い続けた男の背中を知っているからだ。
「そうですよね、翔さん……!」
自分の心と命を救ってくれたその恩人の名を口にしながら、進駒は少女と共に怪物から逃げるべく走っていく。
「翔からの応答が……ない……」
襲撃が始まる少し前、ホメオスタシスの地下研究所にて。
マテリアフォンを片手に鷹弘が告げ、俯いて歯を食いしばる。いくらか時間が経っても帰還せず、何の連絡も来なかったので通信を行ったのだ。しかし、向こうからの反応は全くない。
久峰 業は病院に搬送されており、この場に集った翠月や浅黄は沈痛な面持ちでその言葉を受け止め、肇は腕を震わせながらも目元を隠すように帽子を目深に被る。
一方、響とアシュリィは信じられないと言った様子で目を見張っていた。
「嘘、ですよね……翔が、そんな」
「ショウが……負けたってこと……!?」
両手で口を押さえ、ツキミが両膝を床につく。フィオレの方は、ガチガチと歯を鳴らして自分を抱くような形で腕を握って震えている。
「そんな……お兄様……っ!!」
「生きてるよね!? 翔兄ちゃん、大丈夫なんだよね!?」
鷹弘は何も答えない。ただ自らの歯を噛み締め、拳を静かに机の上に乗せていた。
直後、響は半ば掴みかかる勢いで、怒声に近い声で鷹弘に向かって叫ぶ。
「なんとか言って下さいよ!! 翔が負けるはずが……死ぬはずがないですよね!?」
「お前が狼狽えてどうすんだバカ野郎ッ!!」
その一喝と同時に、鷹弘も響の胸倉を力強く掴み上げた。
「今のお前はホメオスタシスの戦闘隊長だろうが!! だったらァ!! エフェサレフの対処に動くのがお前の、俺たち仮面ライダーのやるべき事だろ!!」
ぐっ、と響は言葉を飲み込む。
顔を上げた鷹弘の表情を見てしまったからだ。
今にも泣き出してしまいそうな、哀しみに満ちた姿を。
「頼むよ、響……何もかも手遅れかも知れねェけど、俺たちじゃどうにもならねェかも知れねェけど……ここで諦めたら、それこそ翔になんて言や良いんだよ……!!」
鷹弘は響の両腕を掴んだままその場で膝をつき、震えながら静かに俯く。
「……街に怪物が現れた。恐らく、例のエフェサレフの仕業だ」
直後に鋼作からの報告を聞いて、失意に落とされていた一行に気迫が蘇っていく。
彼らの心はとっくに決まっていた。
一方。
帝久乃市で暴れまわる七体の怪物たちも逃げ惑う群衆も放置して、エフェサレフは自前の黒い端末を操作していた。
彼の背後にあるビルに泥で構築されたケーブルが繋がっており、ビルやその周囲の建造物が黒く汚染されている。
そして操作が終わると、汚染されたビル群が大きく形を変えていく。
「どの宇宙でも、やはり文明発展を締め括る最後の収穫装置はこれが相応しいな」
エフェサレフが見上げるそれは、巨大な黒い円筒状の兵器。
核爆弾だ。
彼が手に持ったホロウブリンガーをミサイルに向かってひょいと放り投げると、ミサイルの内部に取り込まれる。
するとその兵器は淡く赤黒い光を放ち、心臓の鼓動音のようなものを鳴らし始めた。
「充填が終わってこれが撃ち上げられ、そして着弾した時……この宇宙は『剪定』され、収穫祭は終わる。虚無が滅びた宇宙を喰らい、私は新たな宇宙を刈るために旅立つ」
そうなった時の事を想像しているのか、エフェサレフは含み笑いを発した。
しかし直後に笑みは消え、くるりと後方を振り向く。
「だからお前たちは帰れ、愚かな仮面ライダー共」
そこにいたのは、八人の戦士。
リボルブ・雅龍・ザギーク・キアノス・ネイヴィ・ピクシー・セインL&R。
住民の避難を負えて、彼らは何も言わず、エフェサレフの前に立っていた。
「無意味と知ってまだ立ちはだかるか? 天坂 翔……アズールが死んだ時点でこの星の行く末は決したも同然だ。それは、自分たちでも分かっているはずだが?」
端末をしまい、エフェサレフは腕を組んで見下ろしながらそう言い放つ。
そこで、リボルブとキアノス、そして雅龍が武器を構えながら返した。
「あいつは……あいつの意志は、死んでなんかいねェんだよ!」
「翔の戦いを無意味にはしない! 俺たちがそれを証明する!」
「見せてやる! 我々の、仮面ライダーの魂を!」
圧倒的な力を持つ刈人を前にしても、八人は決して退かない。
やがてその場に七体のアビス・シンズが集い、エフェサレフはうんざりだとでも言うように深い溜め息を吐いた。
「実に醜いな、人間」
獣たちの咆哮と同時に、仮面ライダーたちが動き出す。
宇宙と生命の存亡を左右する戦いが、今始まった。
※ ※ ※ ※ ※
頭の中で、声が響く。
うつ伏せに倒れたままふと目を開ければ、様々な映像が流れる水のように飛び交っては、風に吹かれた灯火のように消えて失せる。
ありふれた楽しい日常の声。古い激戦の記憶。大切な家族や恋人との思い出。
「ああ、そうか……」
天坂 翔がそれを精神世界の中で見ている走馬灯であると気付くのには、それほど時間はかからなかった。
エフェサレフの変身した仮面ライダーデマイズに背中から刺され、心臓を貫かれてしまったのだ。
立ち上がろうにも、体は全く動かない。転がって空を見上げるので精一杯だ。
「全力で……何もかも出し切って、本気で頑張ったのにな……」
認めざるを得なかった。
完全な敗北を。
これが彼の心の世界であったとしても。否、心から膝を屈してしまったからこそ。
もう翔の中には、立ち上がるだけの余力すら残されていない。
「終わりか……これで……」
意識が、徐々に昏い闇の中へと堕ちていく。その両目も閉ざされ始める。
その時だった。
『――立てよ』
「え……?」
いきなり頭上から若い男の声がして、翔は一瞬でハッと意識を取り戻した。
誰の声なのか? 翔には聞き覚えがある。
見れば、そこには白い靄に包まれた人影が立っていた。顔は分からないのだが、なぜか会った事がある気がしていた。
『立ち上がれよ仮面ライダー。テメェは正義の味方なんだろうが』
「……」
『なに黙って寝てんだ、さっさと起きろ』
相手が誰なのかを察したように、しかし翔は起き上がらずに右手の甲で目を覆った。
「もう、無理なんですよ……どうしようもなく体に力が入らないんだ。それに
その直後、翔はいきなり胸倉を掴まれて立ち上がらされ、頬を拳で叩かれた。
ぐら、とたたらを踏むが、立たされたお陰で足を踏ん張る事ができた。
『ベラベラと愚痴抜かす元気があるなら戦え!! テメェらしくもねぇ!! 不死身の俺をぶっ倒して、どこまでも意地を貫いたお前はどこに行った!!』
目の前の男にぶつけられた怒り。
それがまるで自分の内側からも湧き上がってくるように、僅かばかり翔の身体に活力を取り戻させた。
『痛みを感じられるんなら、まだお前は生きてんだろ』
「……」
『もう行け。勝ってお前らの正義を示せ』
男は背を向け、見つめている内に煙のように消えてしまう。
それと同時に翔の意識は覚醒した。
いつの間にか先程と同じように立ち上がっており、貫かれた胸の傷は完全に塞がっていた。どうやら死ぬ間際にサイバー・ラインのデータの一部を分解して、自分の身体に取り込んで傷を治したらしい。
とはいえ血はおびただしいほどに流れていたようなので、意識を取り戻せたのはまさしく奇跡と言っていいだろう。
空を見上げて深く息を吸い込む。
まだ息ができる。こんなにも体が動く。ならば、全てを諦めるには早すぎる。
死の風に散らばって消えた大切な記憶が呼び戻され、感情の励起が再び身体に活を取り戻させる。
フッと笑みを浮かべ、翔は消えた男に対して感謝の言葉を口にした。
「ありがとう、御種さん」
※ ※ ※ ※ ※
「オオオォォォラァァァーッ!!」
同じ頃。
帝久乃市では、仮面ライダーたちが七体の巨大な怪物と激戦を繰り広げていた。
リボルブは黒い大蛇に爆炎の射撃を浴びせて、雅龍は大蝿を凍結せしめ、キアノスは大牛を斬り裂いて攻撃している。
ザギークも大蜘蛛を相手に素早く立ち回り、ネイヴィの方は巨大蝙蝠にアンカーやドリルで対抗。ピクシーズは大蠍と巨体の狼の二体を相手取って優勢になっていた。
「ふん。不愉快だが、中々頑張っているな」
ミサイルにエネルギーが充填されていくのを待つ間、仮面ライダー一行の戦いを眺めていたエフェサレフが呟いた。
しかし眉間に寄っていた皺は、それほど時間をかけずにすぐ収まっていく。
そして、その唇を大きく歪めさせた。
「だが実に良いぞ。希望に縋って足掻けば足掻くほど、お前たちの敗北と絶望の味は虚無の満たされぬ心を悦ばせるのだ」
仮面ライダーたちは、それぞれ自分の目の前にいる怪物たちを圧倒していた。
燃え盛る炎の弾丸が大蛇を焼き尽くし、凍りついた蝿も雅龍の蹴りに砕かれる。
だがしかし、必殺の一撃を受けたにも関わらず、黒い泥水を浴びると途端に一瞬で傷が癒えて元通りになる。
「こいつらも再生できんのかよ……!」
「ハハハ。諦めろ人間、どうせ滅びる運命だ、もうあと十数分もすればミサイルが完成する。全てが消し飛ぶぞ、私以外はな」
そんな嘲弄を受けても、仮面ライダーたちは諦めない。
奈落の獣の攻撃を避け続け、そして反撃に転ずる。たとえ倒すことができなくとも、エフェサレフの元に到達して核爆弾を破壊するために、全力を尽くしている。
次第に、再びエフェサレフが眉をひそめていく。
「まだ続けるつもりか? それで一体何が変わる?」
苛立ったような彼の言葉に答えたのは、ピクシーたちだった。
「あなたは知らないのね。人間には、どんな絶望的な未来だって変えられる力があるんだよ」
「そうだよ! そうやって翔兄ちゃんは私たちの結末だって変えてくれたんだから!」
「お兄様の守った世界を……壊させたりはしません!」
さらにザギークも、蜘蛛の足にインク弾を撃ち込んで拘束しつつ、エフェサレフに向かって叫ぶ。
「お前が何をやったって、翔くんの思いはずっと生き続けるんだよ! この宇宙が滅んだって、ずっとずっと!」
「それが……仮面ライダーの魂だ!」
ネイヴィが言い、ドリルで蝙蝠の羽を貫いて、アンカーを穴に通して地面に落とす。
彼らの言葉を聞いた後、エフェサレフは深い溜め息を吐いて片手を上げた。
すると、七体の奈落の獣たちは動きを止める。
「能書きは十分だ。戯言はもう沢山だ。所詮は多少科学技術に長じただけの宇宙に芽吹いた下等な命、滅んでいった他の宇宙の人類と何も変わらんな……」
そう言いながら取り出したのは、サイバー・ラインでリボルブたちを一方的に打ちのめした力。アーマゲドンドライバーとネバー・エンディング・ネザーのマテリアプレートだ。
「喜べ、仮面ライダー。私が直接始末してやろう」
一行の表情が苦々しいものに変わる。相手はカタルシスエナジーを強制的に無に還す最悪の敵なのだから、それも当然と言える。
だが、やるしかない。滅びの未来を変えるために。
エフェサレフがベルトを装着し、そしてプレートを起動しようとするが、その寸前。
仮面ライダーたちの後方に現れたひとりの少年の姿を見て、手が止まる。
「なに!?」
「始末なんかさせない」
背中から聞こえた声に、ピクシーとキアノスが最初に振り向く。
そこにいたのは、ゲートを通って堂々と歩いて来る、アプリドライバーを装着した翔の姿だった。
「あ……あ……っ、ショウ!! ショウ!!」
「翔!? 生きていたのか!?」
二人の声を、そして雅龍とザギークやピクシーセインたちの驚愕の視線を受けつつも、翔は微笑んだ。
「遅れてごめんね、みんな。心配かけちゃったね」
その言葉を聞いてネイヴィが頭を抑えて僅かに空を見上げ、リボルブは仮面の上から腕で目を擦った。
一方で、彼の背中を刺した張本人であるエフェサレフは、動揺しつつも少しずつ冷静さを取り戻している。
「貴様なぜ生きて……いや、そうか。なるほど。サイバー・ラインで戦ったのは私の失策だったな」
「ああ。お陰で傷は治ったよ」
「面白い、だが愚かだ。今更のこのことこの場に現れて、一体何ができる?」
「お前を倒して、この世界を守れる。僕はもう……負けない」
自信に満ちた強気な笑顔で、翔は言い放つ。
するとエフェサレフの顔からあらゆる感情が消えて『無』となり、その口から小さく息を吐いた。
「……実に愚かだ。くだらん」
「もう言われ慣れてるよ、そういうの」
「ではもう一度教えてやろう。刈人に勝つなど不可能だという事実をな」
《ネバー・エンディング・ネザー!!》
無感情にプレートを起動し、ドライバーにセットするエフェサレフ。
そして、デジタルフォンをかざして再び禍々しく姿を変えた。
全てを滅ぼす虚無から生まれた仮面ライダー、デマイズへと。
《奈落ヨり這イ出ズる
その姿を目にしても、翔は一歩も退かない。
仲間たちに背中を向けたまま、彼らに語りかける。
「みんな! 僕に力を貸して欲しい! 一度あいつに負けてしまったけど……お願い、僕を信じて。生きたいという願いを捨てないで……一緒に戦って欲しい!」
その瞬間。
翔のウィジェットにあるマテリアプレートがひとつ、黄金に輝く。
さらにリボルブや雅龍、この場に揃った全員の仮面ライダーのプレートが同じ黄金の煌きを放った。
以前にスペルビアを倒した時と同じ現象。この星は、再び『生きたい』という願いの奇跡を齎したのだ。
しかし今回は、それだけではない。
翔は自身の手元に、あるものを構築したのだ。それを見たデマイズは、仮面の中で目を見開く。
「エンピレオユニット……!?」
「アクイラにできる事は僕にだってできるさ」
かつてアクイラが使用していた、カーネルドライバー用の外装。当然これはアプリドライバーでは使えない。
そのはずなのだが、なぜかデマイズは心中から湧き上がる不安を抑え切れなかった。
そうしている内に、仮面ライダーたちは次々に決断を口に出す。
「俺の力で良いならいくらでもくれてやらァ! ブッ潰してやれ!」
「君は本当に……私の想像の遥かに上を行ってくれる。分かった、全てを託そう」
「ウチなんかの力で足引っ張んないかなって、昔なら思っただろうけどさ。今なら自信を持って預けられるよ!」
「お前は俺の自慢の弟だよ、翔。さぁ使ってくれ、俺の力を」
「今こそ仮面ライダーとして……信念を貫け、翔」
「ショウ……負けないで! 私たちがずっと傍についてるから!」
「共に参りましょう、翔お兄様!」
「翔兄ちゃん! ファイトだよ!」
八人全員が快諾し、黄金のマテリアプレートを掲げた。
直後、追い風と共に小さく別の声が耳に入る。
『やっちまえ、アズール』
背中を押すように響く、精神世界でも聞こえた声。
彼らの言葉を聞き、翔はぐっと唇を結う。
そしていつかどこかで聞いた事があるような、ふと頭に浮かんだ言葉を口ずさんでいた。
「なんか――いける気がする」
翔はエンピレオユニットを頭上に掲げ、全員のマテリアプレートから放たれる輝きをそこに集中させる。
するとリボルブたちの変身が自動的に解除され、エンピレオユニットとブルースカイ・アドベンチャーのプレートが形状を変化させていく。
そして翔は、そのユニットをドライバーへと装着した。
《アプリドライバー
カーネルドライバーエンピレオと同様、上部にボタンが付随したドライバー。
違うのは、エンピレオでは神殿のようであった外装の形状が『Ω』の文字のようになって、青のラインが走る金色に染まっているという点だ。
翔はそのボタンへ親指を添え、入力を開始する。
「行くぞ、デマイズ」
《リボルブ! 雅龍! ザギーク!》
「これが僕らの意志だ」
《キアノス! ネイヴィ! ピクシーズ!》
「僕が……僕らが!」
《ジェラス!》
「仮面ライダーだ!」
《ライダースピリッツ・オールリンク!!》
バックル部のΩの文字が青く発光し、それと同時に翔はプレートを起動した。
《ブルースカイ・アドベンチャー ハイアー・ザン・ユニバース!!》
マテリアプレートは白く変化しており、ユニットと同じく青色に光る。
そして、翔は素速くそれをドライバーに装填した。
《セーブ・ザ・ワールド!! セーブ・ザ・ワールド!!》
「変身!!」
《
最後にドライバーへマテリアフォンをかざした瞬間、翔の周囲を白い鷲が飛び回り、さらに翔自身の肉体からは青い鷲が飛び出す。二匹の猛禽の肉体は混ざり合い、さらに翔とも融合していく。
すると全身に神々しい白いアンダースーツが装着され、騎士の鎧を思わせる青い装甲が後から覆われて、金色の瞳が輝いた。
そして最後に、肩の右側に青いマフラーが、左側からは白いマフラーがそれぞれ伸び出す。
まるでその姿は、アズールとパライゾが一体となったように。
《ブルースカイ・アプリΩ!! 蒼穹の果てへ、ファイナルインストォォォール!!》
「仮面ライダーアズールオメガ! みんなの力を束ねて……デマイズ! お前に勝つ!」
アズールオメガはそう言い放つと同時に、右拳にカタルシスエナジーを込める。
最初こそ、その生まれ変わったようなアズールに驚くデマイズであったが、すぐに気を取り直すと一度だけフンと鼻で笑う。
「どのように姿を変えたところで、お前では私には勝てないぞ。この力がある限り」
《
以前と同様、デマイズの全身から漆黒の波動が放たれる。
だが。
アズールは歩みを止めない。拳にエナジーを滾らせたまま、デマイズを見据えて進んで来る。
「……!?」
《
何度も再発動するが、結果は変わらず。
目前までアズールが近づいた時には、その拳が顔面に叩き込まれていた。
「がァァァァァーッ!?」
顔面に迸る激痛、罅割れる頭。吹き飛ばされ、地面を転がり全身が叩きつけられる感覚。
流血のように黒い泥水が滴り落ち、地面に零れる頃には透明化して消える。
そして、デマイズは気付いた。
自分の肉体が、一切再生していない事に。
「なん、だ……こ、これは……!?」
「拳が当たる瞬間に『お前の体が再生する未来』を摘み取った。そして、僕はお前がどんな能力を持っていたとしても、どこにいようとも。必ず望んだ未来に向かって『飛翔』する」
アズールの右拳に、またカタルシスエナジーが漲って青い炎のように立ち昇る。
「お前の時間は、未来は……ここで途絶えるんだ!」
その言葉を聞いて、デマイズの腕が僅かに震えた。その理由は明白だが、彼自身は激しく戸惑う。
宇宙を滅ぼす不死の刈人は、ここに至ってようやく恐怖という感情を知ったのだ。
立ち上がったデマイズは全力でバックステップし、一度指を弾いた。
「粋がるなよ人間……もうじき奈落の力を溜め込んだミサイルが発射される、そうなれば貴様が何をしようと、この世界の未来こそが途絶えるのだからな。そして」
直後、周囲にいた七体のアビス・シンズが泥水に変わり、その一部がデマイズの傷を修復。残った大部分は、その姿を増やして変えていく。
それは、デマイズそのもの。バイパリウム・デジブレインと同じように、姿と能力を完全に模倣したコピーを無数に生み出したのである。
「こうすれば貴様は私を見つけられん。ミサイルを解除するための端末はこの中の一人しか持っていない、これで終わりだ」
散開した無数のデマイズが、両掌に赤黒い光の塊を生成。
そして、四方八方から一斉にそれをアズールオメガに向かって放った。
「潔く滅びよ、人間!!」
光弾が向かって来てもなお、アズールはその場を動かない。
動かないままその右手でアズールセイバーを抜き払うと、勢い良く振り被って全ての光を跳ね返す。
「はっ!?」
思わぬ反撃。デマイズたちは、自分に返って来たその光を必死で回避する。
だがアズールがそれを許すはずもなく、両手に別の武器を形成した。
《リボルブラスター!》
《キアノスサーベル!》
右手に持ったリボルブラスターから飛び出した炎の弾丸は、通常時を遥かに超える出力で発射され、精密に大勢のデマイズの頭部を貫く。
「なんだと!?」
デマイズの知る限り、アズールがこのような正確な射撃能力を発揮した事はこれまでに一度もない。
ならば、と今度は無数の分体に接近戦を仕掛けさせる。
だがアズールは素速く身をかわし、キアノスサーベルを巧みに振るって分身たちを斬り刻んで消滅せしめた。
この立ち回り。まるでリボルブとキアノスそのもののようだと、デマイズは感じ、そして先頃アズールの放った言葉を思い出す。
『みんなの力を束ねてお前を倒す』
あれは文字通りの意味だったのだ。アズールオメガは、他の八人全ての仮面ライダーやその使い手の持つ特徴を引き継いでいるのだろう、と。
しかもその身体から放つ異様なカタルシスエナジーによって、先程と同様に再生能力も封じられている。
「だ、だが! もう発射まで一分を切った! この世界は間もなく滅び去る運命にある、今更貴様に何ができる!?」
「そうか。なら、悠長に戦ってる場合じゃないな」
アズールがそう言うと、左腕の袖部が変質してコードのようなものが触手めいて伸び、ミサイルに接続される。
さらに眼前にホログラム状のキーボードのようなものを生み出すと、素速くそれを操作し始めた。
そして一分も経たない内に、ミサイルが解体されてホロウブリンガーが地面に落ち、本来の建築物が取り戻される。
ザギークと同じハッキング技術だ。
「……は……?」
愕然とするデマイズ。切り札の核爆弾も、これで失われてしまった。
驚く間に、アズールオメガは雅龍やネイヴィと同じ拳法を駆使して分体の数を半数以下まで減らしている。
「ふ、ふざけるなよ……この……果実に張り付いた……薄汚い
刈人の常識から見て、このような力はどの宇宙にも存在してはならない。デマイズはそう思い、怒りをあらわにした。
だが、その感情すらも萎んでいく。
アズールが口ずさむ、仮面の奥から聞こえる歌。それがカタルシスエナジーをさらに引き上げているのだ。
ピクシーたちと同じ能力。彼女らもかつて、歌によってエナジーを操作した事があった。
《レヴナントアックス!》
「そぉりゃああああああ!!」
そしてジェラスが使っていた斧を生み出すと、カタルシスエナジーを注いで全力で振り抜き、巨大な光の刃でデマイズたちを薙ぐ。
あっという間に、デマイズの分身は全て消滅してしまった。
追い打ちとばかりにアズールは地面に落ちたホロウブリンガーをも踏み砕き、その場で立ち尽くす刈人に向かっていく。
「あとはお前だけだ」
「……チィッ!」
一度だけ舌打ちすると、我に返ったデマイズは背後の空間に穴を開け、バックステップでそこに飛び込んだ。
それを見て、鷹弘は叫ぶ。
「野郎! 逃げる気だ!」
「良かろうアズール! 私は一度手を引くとしよう! だが、忘れるな!」
捨て台詞を残しながら、デマイズは奥へ奥へ目指して飛んで行く。
「我々刈人はいつでも収穫の時を狙っているぞ! 無論、私もな! ハ、ハハハ! ハハハハハハハハーッ!」
その言葉を最後に、宇宙と宇宙を繋ぐ裂け目は完全に閉ざされた。
これでアズールたちは自分を二度と追跡できない。デマイズはそう思って、安心からか高笑いを発する。
しかし、その時。
正面からメリッという音が聞こえたと同時に、白い指のようなものが空間を抉るようにズルリと伸び出て来た。
「ハ?」
「いいや、少なくとも」
「え……え?」
「お前は生き残れないさ……」
徐々に指の数が増え、声と共に空間にミシミシと裂け目が広がっていく。
そして裂け目が大きく力一杯に開かれた時、そこにいたのはアズールオメガだった。
「う、うあ……あ……わ」
「既に言ったはずだぞ、エフェサレフ」
「ああ……あ、うわ……は、が……」
「お前がどんな能力を持っていたとしても、そしてどこに行こうとも」
「あ、あが……うわあああああ!! うわあああああああああああああああっ!?」
「僕は『必ず』『飛翔』する。望んだ未来を実現するためにな」
果たしてデマイズにその言葉が聞こえているのかどうか。
彼はアズールを目にして恐慌し、絶叫して後方に飛び上がっていた。
数々の宇宙と人類を苦しめた刈人は、自分を滅ぼす事のできる存在が現れた時、ようやくその恐怖と絶望を心から理解できたのだ。
「く、来るな……来るんじゃない!! 私に近寄るな!! 刈人を滅ぼすなど!? 貴様の力は人類が持つには許されないものだぞ!? こ、この、イレギュラーがァァァーッ!!」
《ニヒリティフェイタルコード!!》
デマイズがドライバーのプレートを押し込み、そしてデジタルフォンをかざす。
生き残るために、必殺技で最後の勝負に出たのである。
《
「消し飛べェェェェェーッ!!」
巨大な赤黒い光の球を生み出し、見下ろしながらそれを放つデマイズ。
するとアズールも、自身のプレートを押し込んでから、正面から羽ばたくように立ち向かっていく。
《シンギュラリティフィニッシュコード!!》
「その歪んだ欲望、僕が終わらせてやる!!」
気迫の込められた叫びと共に拳で光の球を木端微塵にすると、アズールはマテリアフォンをドライバーにかざし、右足を天にいるデマイズに向かって突き出した。
《ライジングブルースカイ・デスティネーションピリオド!!》
「そぉりゃああああああああああ!!」
「ぐあっ、が……あああ!?」
金色の光を纏い、マフラーをたなびかせて飛翔する。
それはさながら、空に昇る太陽のように。
渾身のライダーキックは空間の壁を突き破り、元の帝久乃市の空へと二人を連れ戻した。
必殺の一撃を受けたエフェサレフは、上半身と下半身が千切れて粉々になり、腕も足も失われて既に消滅が始まっている。
「こ、こんな、はずでは……虚無に還る事すらも……ゆる、されない……なんて……」
自分の身体が再生せず、泥水が澄んだ液体に変わって蒸発していくのを呆然と眺めながら、そう呟く。
そして変身を解いた翔を睨むと、恨み言のように言葉を吐き始める。
「だが……他の刈人が、黙っていないぞ……君が私を下した事が……知れ渡れば、必ず彼らは……この宇宙に、目をつける……」
「またお前みたいなヤツが現れるなら。どこにいようと、必ず見つけ出して一人残らず消すだけだ」
「ふ、ふふ……ふはははは……この宇宙は……どこまで耐えられるかな……?」
生首だけになった後もエフェサレフは笑い、そして消滅。
翔は再び取り戻された空を見上げ、背後から聞こえる家族や仲間たちの声を聞くと、彼らの元へ駆けて行った。
※ ※ ※ ※ ※
戦いが終わって、一ヶ月以上が経過し、2月。
病院で治療を受けて肉体の衰弱が治まった久峰 業は、あっさりと逮捕された。
彼自身も逃げ出す事はせず、拘束を大人しく受け入れたという。
身体検査の結果、エフェサレフの力によって一時的に変身能力を得ていただけで今は何もできないという事が分かったため、久峰 遼のように海底で幽閉される心配はない。
そのような報告を、翔たちは地下研究所で鷹弘の口から聞いていた。
「ただ、奈落秘神教はまだ存在しているはずだ。思ったよりもヤツらの根は既に深いところにまで張られてるらしい」
腕を組み、眉間に皺を寄せる鷹弘。
業の自供から、奈落秘神教という組織が思った以上に大規模という事が分かったのだ。今回現れたのは氷山の一角に過ぎず、業も幹部ですらないようなのだ。
「もしかしたら、もう次の刈人がここに来ているのかも知れねぇな」
「大丈夫ですよ」
強く頷き、翔は応える。
「たとえ何度現れたって、僕らで止めましょう。仮面ライダーとして」
「……そうだな」
鷹弘はフッと笑みを浮かべると、それで報告を負えた。
そうして翔と響が研究所から出ていくと、すぐにアシュリィたち三姉妹と彩葉が出迎える。
「ショウ」
「お兄様!」
「翔兄ちゃん!」
アシュリィ・ツキミ・フィオレが翔に抱き着き、その横で響と彩葉が並ぶ。
彼女らの元気な姿に、自然と翔の顔は綻んでいた。
今日はバレンタインデー。アシュリィたちは翔に、彩葉は響のために手作りのチョコレートを用意しているという。
「翔」
隣で響が語りかけ、翔は首を傾げつつもそちらを見る。
「本当にありがとう、こうしてみんなを守ってくれて」
「……ううん。僕だけの力じゃないんだよ、みんながいてくれたからね」
Z.E.U.Sのビルからも出ると、翔は空を見上げる。
いつも通りのどこまでも広がる青い空、穏やかな日常。
翔は、家族と共に帰っていく。
あの時それを守ってくれた、今は風に消えたもう一人の戦士に思いを馳せながら――。
仮面ライダーアズール スピンオフ・アプリ
次弾『仮面ライダーキアノス 黙示録の死神』
制作決定