突如として現れたCytuberの残党、ヴェーダ・エレクトロニクスの善来 識。
彼によって変身能力を奪われ、翔のアクイラの力も封じられる中、ホメオスタシスの会議場にて翔が放った言葉に鷹弘が瞠目する。
「まず……どうして仮面ライダーが変身できなくなったのか、という問題についてなんですけど。僕、ひとつだけ心当たりがあるんです」
「どういうことなんだ?」
「思い出したんです……僕がアクイラを倒した後、いくら探しても『あのドライバー』は見つからなかった。だから、僕は巨塔の崩壊で完全に破壊されたかサイバー・ラインに送り込まれたものとばかり考えていました」
それを聞いて、その場に集った全員が「あっ!」と声を上げた。
「カーネルドライバーとデジタルフォン!」
「そっか! どこで見つけたのか知らないけど、ヤツらはアレを密かに回収・分析していたんだよ!」
鋼作と琴奈の言葉に、翔は頷く。
本来、アプリドライバーはアクイラの設計したカーネルドライバーを元として作られたものだ。
であるならば、そのカーネルドライバーを介して電気信号や電波を発し、ホメオスタシス側の持つテクノロジーのみを使用不能にさせる事ができてもおかしくはない。
「そして、そこに思い至ればあの謎のデジブレインやAAウィルスの正体も分かります。以前、ハーロットが父さんのドライバーからアクイラの細胞片を回収したように……善来 識は、カーネルドライバーから細胞を抽出したんでしょう。そこから僕の体を蝕むウィルスを作り上げた」
翔のその発言に、鷲我と鷹弘は目を剥く。
ヴェーダ・エレクトロニクスの技術力の高さも無論だが、僅かな情報から答えを導き出す分析力に彼らは一様に驚いていた。
「まずはこのウィルスをどうにかします。そして、その後で兄さんを助ける。そのためには……」
言いながら、翔はアシュリィたちへと視線を移す。
「アシュリィちゃん、ツキミちゃん、フィオレちゃん。君たち三人にしか頼めない事がある」
三姉妹は不思議そうに互いの顔を見合わせ、次なる翔の言葉に耳を傾けた。
※ ※ ※ ※ ※
同じ頃。
「……さん……彩葉さん!」
面堂 彩葉は、何者かが自分を呼ぶ声を耳にして、意識を取り戻す。
目を開けてみれば、そこにいたのは仮面の戦士。響が変身した、ペイルライダーRだ。
さらに周囲に目を向けてみれば、理由は不明だがいつの間にか外にいる事が分かった。
どうやら、どこかの倉庫の前のようである。
「響、くん? ここは?」
「良かった、目を覚ました! 無事かい!? ヤツらに何もされなかったかい!?」
彩葉を抱き締めて優しく声をかける響。
そして『ヤツら』という言葉で、意識がなくなる直前の事を思い出す。
「そうだ……! いきなり変な三人組が家に押しかけて来て、気絶しちゃって!」
「怖い思いをさせてごめん……」
今にも泣き出しそうな声色の響の言葉を聞いて、彩葉は微笑みながら首を左右に振る。
眼の前の愛すべき人が、自分を助けてくれた。ただそれだけで、心が安らいだのだ。
直後、倉庫の方から破壊音が聞こえ、三つの影が歩み出て来る。
識の配下である三人の死神、ホワイトライダー・レッドライダー・ブラックライダーだ。
その内のブラックライダーが代表して、ペイルRに向かって話しかけた。
「安心しろ。手荒な真似をするなと念押しされていた、
これで心置きなく戦えるな、と呟くと、ブラックライダーはトゥルースガンナーを握り直して対峙する。
ホワイトライダー、レッドライダーも同様だ。彼らが全員臨戦態勢なのを確認すると、ペイルRもリペアガンナーとキアノスサーベルを手に、彩葉に背を向けたまま声をかけた。
「こいつらは俺がなんとかする。病気で辛いかも知れないけど、君はホメオスタシスの研究所まで走って、逃げるんだ。後は静間さんたちがなんとかしてくれる」
「でも……」
話している最中、レッドライダーは照準を彩葉の方に合わせる。
「バカめ! アタシらがそいつを逃がすとでも――」
そして引き金を弾く寸前、ペイルRはキアノスサーベルを投擲。
刃はレッドライダーの股を掠め、倉庫の外壁に突き刺さる。
「な……ぅ、ひっ!?」
「お前は黙ってろ」
殺意に満ちたペイルRの言葉。
レッドライダーは失禁しそうになるのを堪えて内股になり、残る二人も恐怖で硬直した。
ここにいては足手まといになるかも知れない。そう判断した彩葉は、すぐに言われた通りに研究所に向かうべく走り出した。
善来 識が座す、ヴェーダ・エレクトロニクス本社ビルの最上階、社長室にて。
革張りの椅子に座って、識はガラスケースの中にあるカーネルドライバーとデジタルフォンを眺めていた。
ケースの下には装置があり、それがカーネルドライバーを介して、この街全体に怪電波を放っているのだ。
「ホメオスタシスがライダーシステムを失えば、変身システムを保有できるのはヴェーダ・エレクトロニクスのみ……仮面ライダーという正義の証は私一人のものとなる。この世に絶対の正義は一人で良い」
念願が叶う事、そしてその後の自分の雄姿を夢想し、識は恍惚の笑みを浮かべる。
だがその直後、階下の倉庫の方で轟音が聞こえて来た。
「……この様子では彼女は脱走したようだな、仕方ない」
パンパンッ、と識が柏手を打つと、そこに一体のデジブレインが姿を現す。
石膏でできたような、大きな牛角を生やして樹木や花で身を包んだ女性型の怪人で、豊満な胸部の先端は薄い花弁で覆われている。
「姿を変えて早速だが、面堂 彩葉を連れて来てくれ。できるね、プリトヴィ?」
プリトヴィと呼ばれたそのデジブレインは一度頷くと、窓から外へ飛び出し、地上へ降下していく。
それを微笑みながら見守る識の手には、カーネルドライバーとは別に
※ ※ ※ ※ ※
一方、ペイルRと三人の死神の戦いは続き、その戦場はビルの内部にまで及んだ。
「ハァァァーッ!!」
「ぐげぇ!?」
ペイルRのリペアガンナーを使った拳打がホワイトライダーの顔面を捉え、彼を受付窓口の内側まで吹き飛ばす。
背後から襲ってきたレッドライダーの銃撃は容易くサイドステップで回避し、反撃に放った銃弾を全て左脛に当てて転倒させる。
そして、チラリと案内板に目をやった。社長室は、最上階にあるようだ。
「善来はあそこか……!」
「行かせるものか!」
「邪魔だァッ!!」
殴りかかって来たブラックライダーの頭部をキアノスサーベルの一刀で容赦なく斬り伏せ、ペイルRは階段を使って駆け登る。
その背中を確認して、ブラックライダーは味方の二人に目配せをした後、そのまま階段から追跡を決行。レッドライダーはホワイトライダーを助け起こし、エレベーターから4階に向かって待ち伏せる作戦に出た。
しかし攻撃を受けたために出遅れてしまったブラックは、徐々にペイルRの姿が見えなくなると、舌打ちをしてマテリアプレートを取り出す。
「会社は滅茶苦茶になるがやむを得ん!」
《
「イヤーッ!!」
ジャスティスウェポンモードによって鎚型になったトゥルースガンナーを、ブラックライダーが階段に向かって思い切り振り下ろした。
すると、一気に階段が砕けていき、ペイルRのいる足場も崩落してしまう。
「うおっ!?」
《
咄嗟にリペアガンナーから鞭を伸ばして3階の手摺に巻き付け、跳躍して中へ入るペイルR。
これでこの階段から向かうのは難しくなったが、同時にブラックライダーも彼を追跡するのは困難となった。
「反対側にまだ階段があるかも知れない……そこから行くか」
そう呟いて、ペイルRはまた階段を破壊されない内に先を急ぐ。
案の定、走った先には階段があり、そこから4階へ向かう事ができた。
そして4階への出入口の前に立つのは、既に弓を持つホワイトライダーだ。
「ヒャハハハ! 良く来たな、俺の名は」
「うるさい!!」
「ぐえ!?」
一足で最上段まで飛び上がったキアノスは、そのまま白い死神の喉に飛び蹴りを食らわせて侵入成功。
だが、社長室に向かおうとしたところで正面からレッドライダーとブラックライダーが、背後からはホワイトライダーが迫り、包囲される。
「
「社長に会いたきゃ全員倒してからにするんだねぇ!」
「俺を無視するんじゃねぇぇぇー!」
ジャスティスウェポンを持つ三人の戦士。最初に交戦した時と、ほぼ同じ状況だ。
「喰らえ、一斉攻撃だ!!」
「ぐ……!」
一直線に背後から放たれた矢が脇腹を掠め、振り抜かれた大剣が装甲を裂き、鎚が直撃して崩れた壁ごと身体を吹き飛ばし、休憩室に押し込む。
ジャスティスウェポンモードの発動中、ただ武器が変化しているだけではなく、明らかにブラックライダーたちの戦闘能力が向上しているのがペイルRには分かった。
そのブースト機能がリペアガンナーでは発動できない以上、ペイルライダーRでは勝ち目がない。まして、相手は三人いるのだ。
否。
「騒がしいですね。もうここまで来られてしまったのですか?」
《
廊下の方から識の声と、電子音が聞こえる。ペイルライダーTが現れてしまったらしい。
しかしそれでも、響の目に諦めはない。弟を救けるため、彩葉を守るため、大切な仲間たちのためにも。
――まるでそんな願いに引き寄せられたかのように、彼の耳にある人物の言葉が届く。
『兄さん!』
「……翔!?」
目を見開き、ペイルRは通信に応答。真っ先に、質問を投げる。
「お前、平気なのか!?」
『ウィルスが僕のカタルシスエナジーを食らうのなら……アシュリィちゃんたちの歌で、僕自身のカタルシスエナジーを大幅に抑制すれば良い。その後で会長や浅黄さんたちに手伝って貰って、非活性状態の内にAAウィルスを
「……ハハッ、やっぱりすごいな翔。良くそんな手を思いついた……」
『笑ってる場合じゃないでしょ、もう! どうして一人で勝手に行っちゃうんだよ!』
通信機の向こうから聞こえる、弟の叱りつける声。
困難な状況でも張り詰めた気が抜けるようで、それでいてなんだか頼もしい気がして、響は思わず吹き出してしまう。
『生きてる限り、生かすことも生き残る事も諦めるな……って、兄さんが教えてくれたんだよ? 無茶をしないで、全部勝ち取れば良いって』
「うん……そうだったな。ごめんな。お前と彩葉さんを助けなきゃって、そう思ったら動かずにはいられなかったんだ」
『もう……』
ペイルRは声を聞きながらゆっくりと立ち上がり、徐々に自分へと迫って来る四人の死神を睨む。
すると、翔からさらに言葉が紡がれる。
『僕らはまだ変身できない……恐らく、向こうにはその原因を作っているカーネルドライバーがあるからね。それをなんとかしない限り、状況は変わらない』
「増援は期待できない、か」
『でも大丈夫。今から新しいマテリアプレートを転送するから、それを使って』
「何? だが、リペアガンナーでは……」
『大丈夫。僕を信じて、兄さん』
確信に満ちた翔の言葉。直後に、大剣を肩で担ぐレッドライダーが先陣を切って出て来る。
「弟とのイチャイチャタイムは終わったかぁ? だったらさっさと死になぁ!」
「お前を信じるぞ、翔!」
《
その手に送り込まれたプレートを起動した瞬間、内包された黄金の翼を背負うコウモリのテクネイバーが姿を現し、攻撃からペイルRを守った。
さらに彼の方に戻ると、変形して金色の外装となり、リペアガンナーに合着する。
「こ、これは……!?」
《パーフェクトガンナー!!》
ペイルR自身も、敵である四騎士すらも呆然とそれを見つめていた。
そしてすぐに、翔からの言葉が聞こえて来る。
『そのプレートの中身は、AAウィルス……つまり元はアクイラの細胞片だったものを
「ありがとう、翔。これで……ヤツらを纏めて倒せる!」
《
言いながらペイルRはグリップエンドに掌を叩き込み、真っ直ぐに銃口を向け、トリガーを引いた。
「完装!」
《オペレーション・ザ・ペイルライダー!! パーフェクトパッチ!!
無数の黄金のコウモリが銃口から出現し、ペイルRのボディを覆い尽くす。
そうして誕生したのは、悪魔のような黄金の翼を翻す一人の死神。パーフェクトガンナーを手に、四騎士を睨みつける。
「姿が……変わった!?」
「ケッ! 何ビビってんだ崎守、ハッタリに決まってんだろ!」
「ゆくぞ!」
ホワイトライダーとレッドライダー、そしてブラックライダーはそれぞれジャスティスウェポンモードの武装で、一斉に攻撃を仕掛ける。
だが、次の瞬間。
攻撃が命中するよりも遥かに前に、その黄金の戦士は彼らの背後に回っていた。
「ペイルライダー・パーフェクトパッチ……」
「ハッ!?」
「お前たちが真の死神を名乗るのなら、俺はそれを狩る者となる!」
そう言って、ペイルライダーPPは照準を合わせて発砲。
三人の死神に命中し、彼らを怯ませた。
「フン!」
しかし背後にはまだペイルTがいる。
ジャスティスウェポンモードを発動した彼の放つ瘴気が、ペイルPPへと迫っていく。
それを見計らい、ペイルPPはパーフェクトガンナーにマテリアプレートをセットした。
《
「ハァッ!!」
銃口から飛び出したのは、黄金の輝きを放つ鋼鉄の鞭。
勢い良く振り回されたそれは、灰色の靄を散らしてペイルTの顔面を打つ。
「ガッ!?」
「まだまだ!!」
立ち上がって背後から襲いかかろうとしている三人の死神にも攻撃を加え、廊下の前に立つペイルTに飛び蹴りを食らわせた後、ペイルPPは休憩室の外へ出た。
「あの武装……こんな威力はなかっただろ!?」
「まさか、ユニットの機能か!? アレが私たちのトゥルースガンナーを上回る出力を……!?」
驚く間に、ペイルPPはグリップエンドを掌で押し込む。
それを見ると、四人の死神もトゥルースガンナーの形状を戻し、同じように操作していた。
「終わらせてやる」
《パーフェクトオーバードライブ!!》
「く……やらせるかぁぁぁ!!」
《オーバードライブ!》
全員が同時に銃口を相手の方へ向け、トリガーを引く。
《
《
「ハァッ!!」
四色の天使が黄金の死神に襲いかかり、パーフェクトガンナーの方からは黄金の鞭が振り抜かれて天使を貫き砕いた。
爆風と共に強烈な鞭の一撃が四人の戦士の身体を打ち、その変身を解除させる。
『ぐわあああああ!?』
「……」
そして扉を開いて照明を点けると、そこには何事もなかったかのように、ガラスケースの前で革張りの椅子に座る識の姿があった。
「やはり。貴様は難を逃れていたんだな」
「気付かれていたか……」
「貴様の武器は、恐らくアズールのスターリット・フォトンと似た機能……自在に形を変える粒子なんだ。それを利用して俺やあのデジブレインも操り人形のようにコントロールしていた。今回は自分の身代わりを作って、倒されたように見せかけたんだろう」
「いやぁお見事。ですが、これでも私を攻撃できるかな?」
拍手の後にそう告げて、識は指を弾く。
すると、別室の扉が開き、そこから姿を現したのは雌牛のデジブレインに羽交い締めにされている彩葉だった。
「彩葉さん!?」
「ご、ごめん……いきなりこのデジブレインが出て来て、捕まっちゃった……」
怯えた様子で、震える彩葉。ペイルPPは怒り心頭と言った様子で、銃口を識に突きつける。
「貴様! 彩葉さんを放せ!」
「命令するのはあなたじゃない」
言いながら立ち上がった識は、あるものを手に取って腰へ装着した。
銀色のベルト、アプリドライバーだ。
「私です」
「バカな……なぜ既に持っている!?」
「ホメオスタシスが技術を放棄したという事実が欲しかっただけで、元々開発は進めていたんですよ。まぁ私の知らない内に誰かが使って、しかも破壊したようですが……お陰で良いデータが送られて来た」
話を聞いて、仮面の中でハッと目を見開く。
曽根光 都竹だ。アクイラが復活した後、この研究所から勝手に持ち出したのだろう。
そのフィードバックされたデータが巡り巡って、今ここで牙を剥いた。
唖然とする響の眼の前で、識は先程までトゥルースガンナーに使っていたマテリアプレートを起動。それをドライバーに装填する。
《ジャスティス・レギオン!》
「さぁ、今こそカリ・ユガ計画完成の時だ」
《ユー・ガット・メイル! ユー・ガット・メイル!》
「変身」
《
即座にマテリアフォンをかざすと、純白の天使の翼が識の身を包み込む。
《ジャスティス・アプリ! 正義の執行者、インストール!》
やがて羽根が散って中から出て来たのは、漆黒のアンダースーツと石膏で固められたような白い髑髏の装甲を纏う、純白の翼を負った戦士だった。
頭部には牛角が生えており、右手にトゥルースガンナーを武器として所有している。
「私こそが真なる正義、仮面ライダーデアウス! 裁きの時は来た!」
言いながらデアウスと名乗った識は発砲し、同じくペイルPPもパーフェクトガンナーで銃弾を放つ。
しかしその一撃は大きく逸れ、デアウスの背後で着弾した。
「おっと、それ以上動けば小娘が八ツ裂きになりますよ」
「善来、貴様……!」
警告を受け、ペイルPPの動きは止まってしまう。
それに気を良くして、デアウスは仮面の内側で笑いながら彼の方に歩み、プレートを使わずにトゥルースガンナーを弓と鎚に変化させてそれぞれ片手に持った。
「私は全てのジャスティスウェポンを、複数同時に扱う事ができる……当然スペックブースト機能もその数だけ発動する! 二倍から四倍、さらには八倍、フル稼働すれば十六倍にまで膨れ上がるのだ!」
「ぐあっ!?」
防御もできずに鎚を側頭部へ叩き込まれ、ゴーグルが割れて響の顔が露出し、血が吹き出す。
続いて追い打ちをかけるべく灰色の瘴気が生み出され、それが無数の弾丸のようになって雨霰とペイルPPに殺到。
「いや……!! 逃げて、逃げて響くん!!」
彩葉の悲鳴も虚しく、デアウスの放った矢がペイルPPの胸に直撃し、鮮血がマスクの内から溢れて床を濡らす。
「この先どのようなデジブレインが現れようとも、私ならば対処できる。私だけが対処できる。そしてカーネルドライバーを使った怪電波発生装置を応用すれば、人間の悪心を増幅させて容易に悪人を
「それが……お前の計画、か……」
「ああ、その通り! お前たちの事も悪として見せしめにしてやる! 私こそが最強! 私こそが究極! 唯一無二の! 正義なのだァ!」
さらなる灰の瘴気が固まって生み出された拳の追撃を受け、変身が解除されてしまい、倒れ込んで苦悶する響。
しかしデアウスは慈悲をかけず、その背中を踏みにじる。
「では、正義の名の下に……処刑致しましょう」
そう言いながらデアウスは大剣を形成し、響の首筋に狙いを定め、大きく振り上げようとする。
すると。
「……お前のように、正義を名乗る者と……以前、会った事がある……」
響の口から、そのような言葉が漏れ出て来た。
命乞いでもするのかと思い、デアウスも薄く笑いながら一旦腕を止める。
「ヤツは……ヤツも、卑劣な男だった……人を欺き、他者の命を躊躇いなく奪う……」
「私もそれと同じだと?」
「いいや。少なくともヤツには、自分の過ちを認める強さがあった。お前はヤツの足元にも及ばん……正しさでも、強さでも」
それを聞くと、デアウスの腕がピクッと反応を示した。
「黙れ。私のする事は全て正義だ、
剣の柄を握り込み、今度こそデアウスはそれを振り上げた。
「もう……死ね!!」
そして思い切り刃を叩き込んで首を両断しようとした、その時。
社長室の窓が割れ、そこから一つの影が飛来し、プリトヴィを突き飛ばしてその腕から彩葉を奪った。
「なに!?」
「ごめん兄さん、義姉さん! 遅くなった!」
デアウスが驚いている間に響も立ち上がって後ろに下がり、その人物の隣に立つ。
そこにいたのは――変身した翔、仮面ライダーアズール ブルースカイリンカーだった。
「あ、アズール……だと!? ば、バカな!? なぜ変身できている!?」
カーネルドライバーを使った怪電波発生装置により、対策をしていない変身ツールは機能していないはずなのに。
デアウスのそんな考えを見抜いてか、響は血で濡れた唇を釣り上げて指を差した。
「後ろを良く見てみろ」
その指先が示す方向にあるのは、件の怪電波発生装置。
良く見れば、銃痕ができて破損しており、機能が停止しているのが分かった。
瞬間、デアウスは目を見張る。
「ま……まさかお前が!!」
響はデアウスが変身した直後、パーフェクトガンナーで発砲していた。
その弾丸はデアウスには命中しなかったが、彼を狙ったのではなく、最初から装置を破壊するために撃っていたのだとしたら。
勝ったと思い込んで状況を確認しなかった自分の失敗に、デアウスは形容できない叫び声を上げ、地面に剣先を叩きつける。
「じきに静間さんたちも駆けつける、魔祓課も動いてる。お前に逃げ場はないぞ」
追い打ちをかけるようにそう言ったアズールだが、デアウスが諦める様子などなく、むしろ怒りを滾らせ臨戦態勢になっていた。
ならば戦うしかない。
しかし、剣を取ろうとした弟を、響が腕で制する。
「兄さん?」
「翔、彩葉さんと一緒に外へ逃げてくれ。彼女の安全が第一だ」
「えっ、でも!」
「それに。
言われて、アズールは理解した。
響も、この男を許すつもりは決してないのだという事を。
それほどの激しく冷徹な怒りの炎が、彼の目には宿っていた。
「こいつとは俺が決着をつける……!!」
《Arsenal Raiders-APEX-!!》
言われた通り彩葉と共に去っていくのを背中越しに確認しつつ、響はまたマテリアプレートを起動、それを装填する。
《ロード・オブ・ゲームズ!! ロード・オブ・ゲームズ!!》
「変身!」
《
マテリアフォンをドライバーにかざすと響の全身をシアンカラーのアンダースーツが包み、金色に輝くコウモリが現れてそのスーツを覆っていく。
そして装甲として合着、悪魔のようだがどこか神々しさを感じる鎧姿となり、最後に複眼が赤く煌めいた。
《エイペクス・アプリ!! 闇を斬り裂く黄金の翼、インストール!!》
「ハァッ!!」
最後にパーフェクトガンナーとキアノスサーベルを手に、その戦士は気迫に満ちた声を発する。
「仮面ライダーキアノス ニューオーダー! 今度こそ……お前を倒す!」
「ほざけぇぇぇ!!」
横薙ぎに振り抜かれた大剣が、キアノス ニューオーダーの胴に直撃。
確実に致命傷になると見ていたデアウスだが、その一撃を受けても彼は微動だにせず、むしろ刃の方が砕けてしまう。
「な……!?」
唖然とするデアウス。すると今度はこちらの番とばかりに、キアノスが左手のサーベルを突き出して来る。
咄嗟に粒子で盾を形作るが、剣先はその防御を貫き、デアウスの装甲を斬り裂く。
「バカなバカなバカな、なぜだ!? なぜ!? スペックブーストを全解放している今、デアウスの出力は十六倍! の、ハズなのに……!?」
今度は灰色の粒子を無数の腕に変換し、それらを使って拳のラッシュを繰り出した。
《
だがそれも、黄金の殻の盾で突き飛ばすようにして防がれてしまい、デアウスはよろめいて大きく体勢を崩す。
無論その隙を見逃すはずもなく、キアノスはサーベルで何度も何度も斬り裂き、装甲から火花が散る。
「なぜ……押し負けているぅ!?」
「分からないのか、こんな基本的な事が」
「黙れぇぇぇ!!」
《フィニッシュコード!》
癇癪を起こしたように叫ぶデアウスは、とうとうドライバーのプレートを押し込み、マテリアフォンをかざして必殺技を発動した。
「紛い物の正義め、死ねェッ!!」
《
跳躍し、右足にエネルギーを収束させてキックを放つデアウス。
しかしながら、キアノスもその行動に合わせて別のプレートをパーフェクトガンナーに装填し、必殺技を起動する。
《パーフェクトオーバードライブ!!》
「フン!!」
《
巨大な黄金の光弾がデアウスの一撃を相殺、どころか押し返して吹き飛ばし、壁面へ叩きつけた。
そして態勢を立て直そうとしたところで、一瞬の内に接近したキアノスの猛烈な乱打を顔面に浴びる。
「アプリドライバーの動力はカタルシスエナジー、感情の強さがそのまま仮面ライダーの戦闘能力に直結する」
「がっ!? ぐあっ!? げはっ!?」
「ジャスティスウェポン? 戦闘力十六倍? だからどうした!!」
膝がガクガクと震えているところに、キアノスサーベルの縦一文字斬りが頭に炸裂。
息も絶え絶えな様子だが、向かい来る黄金の戦士は容赦なくデアウスに前蹴りを食らわせる。
吹き飛ばされた勢いで社長室のデスクとパソコンが破壊され、本棚が倒れてデアウスはその下敷きになった。
「単純な話だ!! お前の正義などよりも……俺の貫く信念の方が、強い!!」
そう言って、武器を手にしたままキアノスは倒れた本棚の方に近づいていく。
すると、すぐにその本棚を引っ繰り返してデアウスが立ち上がった。
「お、おのれぇ……ならば!!」
アズールに蹴飛ばされ倒れている雌牛のデジブレインのプリトヴィに視線をやると、デアウスは粒子を発生させてそれを分解し、自身と一体化させる。
下半身に猛牛の身体を持ち六本の腕を生やす異形の姿となり、それぞれに弓・大剣・鎚を持ってキアノスへ猛攻撃を仕掛けた。
「どうだ!! 合体形態『デアウス・プリトヴィ』!! これでさらに戦闘力が――」
剛腕から繰り出される、斬撃と打撃と射撃の嵐。
そんな破壊の乱舞の中で、キアノス ニューオーダーは平然と攻撃を避け、真っ直ぐにデアウスを睨んでいた。
直後、金色の閃光が迸ると同時に、たった一瞬で全ての腕が斬り落とされる。
「へ、げ……ぇっ!?」
「温い」
言いながら、キアノスはパーフェクトガンナーで腹を全力で殴打した後、サーベルで喉元を切り上げ天井を破って上空へ吹き飛ばす。
さらに自身も跳躍した後、黄金の月を背負いながら、翼を拡げてプレートを押し込んでマテリアフォンをかざした。
《パーフェクトフィニッシュコード!!》
「これで終わりだ」
《
「ハァァァーッ!!」
全身から漲る、夜空の月に妖しく映える黄金の光。
まるで悪魔のようなその姿に、デアウスは思わず恐怖の声を上げてしまう。
「う、うわ……うわああああああ!?」
そして、キアノスの突き出した右足が頭部に直撃。そのままビルを真っ二つにするかのように、一直線に急速降下していく。
落下の後に砂煙が舞い上がり、黄金の悪魔の足の下には、変身解除されて意識を失っている識の姿がある。
「アギ、ギ……ィィィ……ギ……」
「二度と翔と彩葉さんに……この街に近付くな」
吐き捨てるようにそう言った後、響は自身も変身を解いて、その場を警察に任せて去っていく。
こうしてヴェーダ・エレクトロニクスの起こした騒動は終わりを告げ、彼らの夢想した正義も儚く散った。
――事件後、善来 識やトゥルースガンナーを入手した三人、彼の企てに加担したヴェーダ・エレクトロニクスの社員たちは逮捕された。
今回の一件の発端となったカーネルドライバーとデジタルフォンも無事にホメオスタシスが回収し、現在は厳重に保管している。
そして、その翌日。彩葉の家には、また響が訪れていた。
「具合はどうだい?」
ベッドの上に座って身を寄せ合いながら、響は恋人に問いかける。
すると、彼女は花の咲くような笑顔を浮かべ、頷いた。
「もう平気。心配掛けてごめんね」
「いいや、こっちこそ怖い思いをさせてしまった。ごめん」
改めて謝罪の言葉を述べる響に対し、彩葉は首を左右に振ってから彼の唇にそっと自分の唇を重ねる。
「助けてくれてありがとう」
「彩葉さん……」
指を絡ませ合い、笑みを交わす響と彩葉。
平和な一時を噛みしめるように、二人は身を寄せ合って愛を囁くのであった。
一方、天坂家では。
「コホッ、コホッ……」
翔が赤い顔でベッドに横たわり、溜め息を吐く。
「なんで僕に
そんな事をぼやきながら、翔は自分を看病するために慣れない手付きでせわしなく動き回る三姉妹を見つめていた。