仮面ライダーアズール スピンオフ・アプリ   作:正気山脈

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 人々が寝静まった、真夜中の頃。
 その上空に十八の光が星のように瞬き、帝久乃市の地へと散らばっていく。

「ようやく来たか」

 とあるビルの屋上で、そんな声が響く。そこには、三つの人影があった。
 二人の男と、一人の女。彼らは夜空に輝く光を見上げながら、盃を交わしていた。
 男の内一人は、胸や肩にいくつもベルトがついたネオンレッドのロングコートとボンテージパンツを纏った若い男。髪色は金で、前髪の一部に赤いメッシュが入っている。
 もう一人は落ち着いた物腰の、グレーカラーのスーツを着込んだ黒髪の中年の男。装飾品の金の腕時計や、艶のある革靴が特徴的だ。
 そしてその中で唯一の女は、フードの付いたゴシックなネオンイエローのパーカーワンピースを着た少女だ。髪は黒でポニーテールにしており、結った先の部分が黄色く染まっている。

「ジオウなき世で、真の時の王者の力を手にする……」

 再び空に閃光が上がるのを見て、ネオンレッドの服に身を包んだ男が言った。
 だが、先程の星と見紛う細かな煌きと違い、たった今現れた光は月を隠すほどに大きなものだった。
 そして光が消えると同時に、巨大な人型の陰がほんの一瞬姿を見せたかと思うと、それも地上へ向かって消えて行く。

「いよいよその日が来たのだ。さぁ綴ろう、我らの伝説を」

 そう語ると同時に、ネオンレッドの服の男とネオンイエローの服の女が消える。
 残されたスーツ姿の男は、自分の手の中にある時計に似た小さな黒い機械を握ってリューズを押し込み、不敵に笑った。

《アズール……》


EP.01[アナザースカイ2020]

「んんー……」

 

 翌朝。

 いつものように自分のベッドの上で目が覚めた天坂 翔は、大きく伸びをして服を着替え、護身のためのマテリアフォンとブルースカイ・アドベンチャーのマテリアプレートを鞄の中に入れてから、それを持って部屋を出る。

 その後は、やはりいつものように朝食を作る。とは言っても、前日に余った生姜焼きなのだが。

 

「……あれ?」

 

 冷蔵庫の中を確認した翔は、ふと違和感に気づいた。

 生姜焼きの豚肉の量が、明らかに変わっている。と言っても減ったのではなく、増えているのだ。翔・アシュリィ・肇の三人分だったはずが、何故か四人分になっている。

 デジブレインたちとの戦いの疲れから量を見間違えたのだろうか。翔が不思議に思っていると、階段から物音が聞こえる。

 アシュリィではない。上階には、翔の部屋と響の部屋、そして肇の部屋があるのみだ。

 驚いて翔が振り向くと、そこにいたのは――。

 

「兄さん!?」

 

 行方不明になっていたはずの響の姿だった。

 信じられないものを見たとでも言うように何度も首を横に振っている対し、響は至極不思議そうに首を傾げていた。

 

「一体どうした翔? 何をそんなに慌てている?」

「どうした、って……兄さん、いつの間に帰って来たの!? サイバー・ラインに送られてたんじゃ!?」

「翔、何を言ってるんだ? 悪い夢でも見ていたんじゃないのか?」

 

 翔の言葉を聞いて、響はますます訝しんでいる。

 どうやら、本当に翔が何を言っているのか理解していないようだ。

 だが、響の口から続いて出た言葉が、より大きな衝撃を翔に与えた。

 

「そもそも、サイバー・ラインって何だ? お前は一体何の話をしているんだ?」

「え……?」

 

 翔は困惑した。彼にからかわれているのではないか、と疑いもした。

 だが、響の表情にウソはない。向こうも、翔の言っている事に困惑しているのだ。

 

「どういう事だ……!?」

 

 何が起きているのか、翔には理解できなかった。

 まさかおかしくなっているのは自分の方なのか。そんな事を思い始めた、その時だった。

 

「どうしたの?」

 

 アシュリィの声だ。彼女が起きて、パールブルーの寝間着姿のまま、瞼を擦りながら和室からリビングに現れたのだ。

 続いて肇も、二階の自室から翔たちのいる場に姿を現す。

 

「朝っぱらから騒がしいぞお前ら。どうしたってん……」

 

 そして二人は、今は消息不明となっていたはずの人間の姿を目の当たりにして、愕然とする。

 

「え、待って。なんで?」

「響!? お前、どうやって帰ってきたんだ!?」

 

 翔と同様に当惑する三人に、響は首を傾げる。

 とりあえず自分がおかしくなったのではない事に安堵する翔だが、これは明らかに異常事態だ。

 ホメオスタシスの皆に会いに行こう。翔が決心するのに、時間は全くかからなかった。

 ――この程度の異常は単なる予兆に過ぎないという事を知るのにも、さほど時間はかからなかった。

 

 

 

「うそ……」

 

 約一時間後、翔とアシュリィ、そして肇は響を置いてホメオスタシスの地下研究所がある巨大ビルへと到着した。

 否、今や正確には『地下研究所があるはずだった』ビルだろう。

 実際に三人が訪れてみれば、エレベーターから向かえるはずの地下研究所は、最初から存在しないものだったかのように綺麗サッパリなくなっていたのだから。

 

「おいおい、こいつは一体全体どういう事だ?」

「ホメオスタシスが解散した……?」

「たった一日でか。そいつは無理だな」

 

 真剣な眼差しで帽子を被り直した肇がそう言った。

 その後、駐車場など他の出入口から地下研究所へ入ろうとするものの、それらも全て塞がれている、というよりも存在しなくなっていた。

 これでは埒が明かない。そう思って翔は、マテリアフォンを取り出した。

 

「静間さんに電話してみよう」

 

 翔が言いながらマテリアフォンのアイコンにタッチすると。

 エラー音が鳴った。

 

「あれ?」

 

 不思議に感じながら再度、何度もタッチするが、やはりエラー音が虚しく響くだけだ。

 反応はするため、故障ではない。

 では一体どういう事なのか。頭を悩ませていると、翔の手の中にあるマテリアフォンに変化が起きた。

 画面だけでなく本体そのものにノイズが走り、徐々に透けて消え始めたのだ。

 

「なっ……これは!?」

 

 驚愕の声と共に、マテリアフォンは翔の手元から消滅した。

 その様子には、傍で見ていたアシュリィも肇も、目を見張っている。

 

「何が起きたの!?」

「僕にも何がなんだか……一体、何が起きてるんだ……」

 

 拠点である研究所が消失している今、もしもこの状況でデジブレインが現れてしまったら。

 ブルースカイ・アドベンチャーのマテリアプレートは残っているものの、これではアプリドライバーを使うができない。

 変身できない以上、翔にはデジブレインを止める手段がない。どうにかして鷹弘と合流し、打つ手を考えなければ。

 だが、無情にもその時は、ビル外からの悲鳴によって訪れるのであった。

 

「ショウ!」

「うん!」

 

 翔とアシュリィは頷き合って、肇を伴って外へ出る。

 そこにいたのは、想像通りデジブレインだ。九体のベーシック・デジブレインが、街の人々を襲っている。

 しかし、よく観察してみれば、今までのベーシックタイプと違い、体色が白から黒に近い灰色に変わっているのが分かった。

 

「くっ、マズいな……父さん、アシュリィちゃんと一緒に避難して。それから、静間さんたちに連絡を」

「お前はどうする?」

「静間さんが到着するまで、皆が避難するまで、少しでも足止めする!」

 

 そう言って、返事を聞く前に翔は駆け出す。

 するとデジブレインたちは一斉に翔の方を凝視し、彼を追跡し始めた。翔も、デジブレインを誘い出すように遁走する。

 

「そうだ、来い……!」

 

 このまま人のいない場所に誘導しよう。それが、翔の考えだった。

 だが、その目論見は大きく外れる事になる。

 

「……なんだ?」

 

 後方から追ってくるデジブレインを見て、翔は思わず足を止める。

 灰色のデジブレインたちが全員、自らの胸を押さえて苦しみ始めたのだ。

 何事かと思って見ていると、デジブレインたちの胸の中から、時計に似た形状の小さなデバイスが出現した。それらのカラーリングは個々で異なっているが、中央に顔のようなものが描かれている点が共通している。

 さらにデジブレインは出現したその時計のリューズを、一斉に押し込んだ。

 

《クウガ!》

《アギト!》

《龍騎!》

《ファイズ!》

《ブレイド!》

《響鬼!》

《カブト!》

《電王!》

《キバ!》

 

 瞬間、デジブレインたちの体内に再びその時計が埋め込まれ、姿が大きく変化する。

 その姿は、ベルトこそ体に装着していないものの、翔たちのよく知るものに酷似していた。

 

「仮面……ライダー……?」

 

 呆然としながら、翔はその名を口にする。

 

「その通りだよ、天坂 翔くん」

 

 突如、現れた仮面ライダーの姿を見つめていた翔の背後から、そんな声が聴こえた。

 驚いて振り向けば、灰色の長いマフラーを巻いた、カーキグリーンのロングコートを纏う黒髪の男がそこに立っていた。

 右手には、タブレット端末のようなものを持っている。

 その不審人物を訝しんで見つめながら、翔は恐る恐る「あなたは?」と訊ねる。

 

「我が名はウォズ。別世界からあのライドウォッチを追って来た、ジオウの家臣さ」

「えっと……え? 名前は分かりましたけど、何ですかジオウって?」

「そんな事より。来るよ」

 

 言われ、翔はハッと振り返りつつ、地面に伏せる。

 金色の角を生やしたクワガタめいた姿の赤い仮面ライダーが、その拳が空を切った。

 

「あっぶな……うわっ!?」

 

 当然、他にも仮面ライダーはいる。今度は赤いスーツと鉄仮面が特徴的な、騎士のような仮面ライダーの拳が、翔の頬を掠めた。

 

「気をつけたまえ。先程デジブレインが吸収したライドウォッチには、仮面ライダーの大いなる力が封じ込められている。世界をひとつ救う程の膨大なパワーがね……」

「それは分かりました、けど! 僕は今変身できないし……対抗できませんよ!?」

「ふむ、それは困ったね。ちなみに私もワケあって今は変身できない、自力で切り抜けたまえ」

「そんな無茶な!」

 

 角を生やした紫色の仮面ライダーが、和太鼓を叩く際に使うバチのようなものを振り上げ、翔へと襲いかかる。

 それを両腕を交差させて防ぎ、翔は右拳を突き出した。

 攻撃は命中したが、手応えがない。やはり、デジブレインとしての特性も受け継いでいるようだ。

 

「くっ、どうしたら……」

 

 攻撃が通じない以上、必然ながら翔はじわじわと追い込まれてしまう。

 反撃の糸口を見出だせないまま、攻撃を防ぎ続けていた、そんな時だった。

 ライダーデジブレインたちの背後から銃声が響き、弾丸を受けた者たちが怯んだ。発射された方を見れば、そこにはマシンマテリアラーに乗ってマテリアガンを構える鷹弘と陽子がいた。

 

「静間さん、滝さん!」

「待たせたな、翔。後は俺に任せろ」

「大丈夫なんですか!?」

「安心しろ。こっちもマテリアフォンとアプリドライバーはなくなっちまったが……俺にはまだこいつがある」

 

 鷹弘がそう言って取り出したのは、メタリックググレーのマテリアフォン、即ちプロトマテリアフォンだ。

 さらにマテリアフォンのベルトのマークのアイコンをタッチすると、鷹弘の腹部にプロトアプリドライバーが装着される。

 

「久々に使わせて貰うぜ!」

 

 そう言って、鷹弘は続けざまに手に取ったマテリアプレートを起動した。

 

《デュエル・フロンティア!》

 

 音声が鳴るのを聞きつつ、向かってくるライダーデジブレインたちの攻撃を避けながら、鷹弘はプレートをドライバーに装填する。

 すると、鷹弘の目の前に灰色のガンマン・テクネイバーが出現し、銃撃によってデジブレインたちを牽制し始めた。

 

《ビギニング・トゥ・ラン! ビギニング・トゥ・ラン!》

「変……身!」

 

 その間に、鷹弘は叫びながらプロトマテリアフォンをアプリドライバーにかざす。

 

HEN-SHIN(ヘンシン)! マテリアライド!》

 

 瞬間、ガンマン・テクネイバーの姿が分解され、赤いスーツを纏った鷹弘の体に装甲となって合着。

 少々色が違うが、ペコスブーツやテンガロンハット風の頭部、そしてポンチョと、見慣れた姿に変身した。

 

《デュエル・メイル! 孤高のガンマン、インストール!》

「仮面ライダープロトリボルブUD(アップデート)、行くぜェ!!」

 

 そう言って拳を鳴らし、プロトリボルブとなった鷹弘はリボルブラスターを構え、九体ものライダーデジブレインに向かってたった一人で突撃した。

 

「オラァッ!」

 

 真っ直ぐに走ったリボルブの拳が、吸血鬼のような姿のデジブレインの顔面にヒット。

 よろめきながらもデジブレインは反撃の蹴りを繰り出すが、リボルブはバックステップで簡単に避け、逆に腹へと銃撃を放った。

 

「グガァァァ!?」

 

 悲鳴を上げ、デジブレインが地面に倒れる。

 リボルブはすかさず追撃に出ようとするものの、それは頭部がヘラクレスオオカブトに似た特徴の銀色のデジブレインと、赤いカブトムシのような姿のデジブレインの割り込みによって阻まれる。

 

「数は多いが、変身すりゃそこまで手間取る相手じゃねェな」

「どうやら、デジブレインたちは我が王のライドウォッチの力を扱い切れていないようだねぇ」

「ヘッ、どうでも良いさ。何体いようがこの程度ってンなら……一気にケリつけてやらァ!!」

 

 ウォズと名乗った男に言いながら、リボルブは銃をデジブレインたちに向ける。

 だが、その直後だった。

 カチッ、という音が耳に響くと同時に、リボルブのみが動きを止めてしまう。

 まるで、時間が止まってしまったかのように。

 

「えっ?」

 

 驚愕の声を発したのは翔だ。

 リボルブが止まった事だけではない。ライダーデジブレインたちが、突然左右に分かれて整列し始めたのだ。

 まるで、誰かに道を開けるかのように。

 

「現れたか……タイムジャッカー」

 

 苦々しい笑みを見せながら、ウォズが言った。

 デジブレインたちの作った道の先からは、ネオンレッドのロングコートを羽織った男と、ネオンイエローのパーカーワンピースを纏った少女が悠然と歩いて来る。

 しばらく歩いてリボルブの背後に立った後、コートの男が腕を前に掲げて拳を握り込んだ。

 

「ハッ!?」

 

 すると、リボルブの体が正常に動き始める。

 その様子を見て、コートの男は静かに口を開いた。

 

「まだ抵抗できる力を残していたか、この世界の仮面ライダー……」

「動くんじゃねェ! テメェ、何者――」

「だが私の敵ではない」

 

 銃口を突きつけたリボルブに、コートの男が再び腕を掲げる。

 すると、またリボルブの身体が止まってしまった。

 

「名乗るのが遅れていたようだな。私はタイムジャッカーのモーハだ」

「アタシはドーサ。よろしく、そしてさようなら」

 

 ドーサと名乗った少女が、パチンッと指を鳴らす。

 すると、二人の目の前にひとつの人影が降り立った。

 血管のようにケーブルが浮き出た青い体に、身を守るために装着された曇った白色の装甲。赤いレンズの下から覗く紫色の濁り切った眼光と、背中から伸びる銀色に輝くキチン質の翅。刃の欠けた剣を両手で握り、ずらりと並んだ牙が見る者全てを威圧する。

 そして腹部には一本のベルトが装着されており、画面のヒビ割れたスマートフォンが、バックルに装填されたプレートに叩きつけるようにして飾られている。そのせいで、プレートは砕け散っていた。

 銀色をベースカラーに、マゼンタとシアンの血管(カラーライン)が走るベルト。同じものではないが、翔はそれに見覚えがある。

 より正確には、その怪人の姿に。

 

「あれは……僕!?」

 

 驚きながら、翔は言った。

 目の前にいる鎧の怪人の姿は、細かい部分は違えど、翔自身が変身する仮面ライダーアズールに酷似していたのだ。

 しかし、モーハと名乗った男が異を唱える。

 

「違うな。既にお前は仮面ライダーの資格を失ったのだ……アレはアナザーアズール、お前に代わる真の仮面ライダーアズールだ」

「なっ!?」

 

 翔が目を見張っていると、また時間停止が解除される。

 気づけば、リボルブはアナザーアズールとライダーデジブレインの軍勢に取り囲まれていた。

 

「クソッタレが!!」

「もう二度と抵抗できないように、ベルトを破壊してしまえ」

 

 そう告げると、モーハとドーサは姿を消してしまった。それと同時に、アナザーアズール及び大群が一斉にリボルブへと襲いかかる。

 

「この……ぐぁっ!?」

 

 リボルブはデジブレインに攻撃を仕掛けるが、背後から迫るアズールの剣撃を受け、大きくよろめく。

 それを皮切りに、ライダーデジブレインたちもリボルブを殴り、蹴り、一方的に痛めつけ始めた。

 

「く、やめろ……やめろっつってんだろ!!」

 

 執拗に剣で攻撃を続ける桃を二つに割ったような顔のデジブレインの頭に、リボルブは三連続で発砲する。

 このままではやられてしまう。そう思ったリボルブは退路を見つけようと視線を動かすが、囲まれては身動きも取れない。

 だが、その時。

 

「静間さん!!」

 

 マシンマテリアラーに乗った翔が、マテリアガンを片手に突撃して来た。

 銃でアナザーアズールやデジブレインを牽制しつつ、勢い良く車体をぶつけて、道を開いた。

 しめた、とばかりにリボルブはマシンマテリアラーに飛び乗る。振り返れば、陽子とアシュリィも、肇と共にマシンマテリアラーで逃げ延びている。

 リボルブはそれを確認してから、声を潜めて翔に語りかけた。

 

「翔、警察署に向かえ。まだ電特課は残ってるんだ」

「分かりました」

 

 小さく頷いてマシンマテリアラーを走らせる直前、翔たちの耳に一人の男の囁き声が届いた。

 

「警察署だね。では私もそこへ行こう」

『うわっ!?』

 

 翔とリボルブは同時に驚愕し、右隣を見る。

 ウォズだ。翔らの反応を楽しむように、くつくつと笑っている。

 

「安心したまえ、すぐに追いつく。お先にどうぞ」

 

 彼を置いていく事に未だに躊躇しているが、リボルブにも急かされたので、翔は仕方なくバイクを走らせた。

 デジブレインたちもアナザーアズールも追いかけてこない。ミラーに映るその姿は遠ざかって、ついには見えなくなる。

 しかし、翔の胸中には焦燥感が押し寄せて来た。

 

「仮面ライダーの資格を失ったのか、僕は。一体どうしたら……」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「やぁ、二人とも。先程振りじゃないか」

 

 帝久乃市内の警察署に到着した直後。

 入口の長椅子に腰掛けていたウォズは、翔と鷹弘に向かってそう言った。

 自分たちが先に着くとばかり思っていた二人は、当然面食らった。

 

「お前……どうやって!?」

「私が異世界の人間だと言う事を理解してもらわないと、困るね」

「……胡散臭さは初対面から異世界レベルだがな」

「おっと、これは手厳しい」

 

 肩を竦めながら、ウォズは翔の隣に並んで歩く。

 あからさまにウォズに対して警戒心を剥き出しにする鷹弘だが、翔は苦笑しつつも彼を案内する。

 こうして、三人は電特課のオフィスに辿り着いた。

 既に肇とアシュリィと陽子も集まっており、鋼作・琴奈・鷲我の他、浅黄の姿もあった。それ以外のホメオスタシスの研究員もいるが、戦闘員や調査員などは外出中のようだ。

 そして当然、この部署の署長である翠月、そして部下の宗仁もこの場にいる。

 

「見慣れない部外者もいるようだが、どうやら全員集まったようだな」

 

 ウォズの存在を訝しんでいる翠月に言われ、鷹弘が大きく頷く。

 

「まずは状況を整理しようぜ。一体何が起きてんのか、情報を共有すべきだ」

「うむ。ではまずこちらの事情から……」

 

 翠月は語り始める。

 それは今朝方、起床してからの事。いつものように出勤の準備をしていると、置いてあったはずのマテリアパッドが消失していたのだという。

 浅黄にも連絡を回すと、そちらでも同様の事態になったという。異常を感じてホメオスタシスの研究所の方に通信をかけてみれば、何度試してもなぜか繋がらない。

 仮面ライダーに関係するものが消滅しているのかと考えたが、しかし電特課は通常通り存在している。

 

「参ったよねー。ホントなら、今日は向こうでアシュリィちゃんの再検査するはずだったのにさー」

「そういえばそうだったね」

「せっかく合法的におっぱいとか触ったりあんな事やこんな事ができたのに」

「それは絶対やらせないから」

 

 妄想してヨダレを垂らす浅黄の姿にムスッと頬を膨らませ、翔の背中に隠れながらアシュリィは言った。

 次は、鷹弘からの情報共有だ。

 昨日彼は陽子と一緒に、研究所にて徹夜で新しいマテリアプレートの調整作業に没頭していたのだが、それがいつの間にか自室で一緒にベッドに座っていたのだという。

 マテリアフォンとアプリドライバーが消滅した事に気付いたのも、その時だったようだ。

 

「残ってたのは、倉庫にしまっておいたプロトタイプだけだ。デュエル・フロンティアだけはプロトアプリドライバー転送の時に一緒に来た」

「他のマテリアプレートも消えたのかよ」

 

 頭を抱える鋼作。琴奈も腕を組んで唸っている。実際、この状況で戦力の低下は深刻な問題だ。

 そこへ、翔が手を上げて質問を投げかけた。

 

「研究所が消えたのなら、捕まえたCytuberの二人……進駒くんと律さんはどうしたんですか?」

「あぁ、その件は電特課に任せてある。宗さん、どうだった?」

 

 宗仁は大欠伸をしながら、鷹弘に「とっくに終わってるぜ」と言い、報告に移る。

 

「二人とも生きてるぜ。なんというか、普通に生活してる」

「そうか……とりあえず生きてんのは安心だ」

「向こうは面食らってたぜ、この状況に。ただちょっと気がかりな事があってな」

「なんだよ?」

「最初に調査を頼もうと思ってたヤツ、昨日までお前らのところで一緒にサイバー・ラインの調査に行かせてたんだがな……そいつ、ホメオスタシスの事を全く覚えてねぇんだ」

「あん? そりゃあどういう……」

「お前らのマテリアフォンだのと同じだ、記憶がすっぽり抜けてやがるんだよ」

 

 それを聞いて、翔とアシュリィは目を見張った。

 宗仁の語った現象には、心当たりがある。今度は、翔が情報を明かす番だ。

 

「実は……兄さんが戻って来たんです」

 

 ざわっ、とオフィス内のそこら中でどよめきが起こる。

 聞こえる声は様々で、無事を喜んでいるものやなぜ今になってという戸惑いの声もあるが、最も多いのは『響がいるのなら』という安堵の声だ。

 響の戦闘能力は鷹弘よりも高いため、心強いと思ったのだろう。しかし、翔は残念そうに話の続きを語り始める。

 

「ただ、記憶を失っていました。その人たちと同じ状況だと思います」

「そうか。あいつの手を借りれりゃ、と思ったんだがな」

「すいません、僕も変身できないですし……」

「いや、気にすんな。それにしても、記憶が消えてる連中がいる中で、なんで俺たちはそのままなんだ?」

「記憶のある人とない人に何か共通点でもあるんでしょうか」

 

 全員で考え、頭を悩ませる。

 しかしそれを打ち切るように、ウォズがゆっくりと挙手した。

 

「結論の出ない事について考えるより、私の話を聞いてみる気はないかな?」

「……そうだな、そろそろ洗いざらい話して貰おうか」

 

 鷹弘は不信感を顕わにしながら、あくまでも強気な態度でウォズに接する。

 ウォズもそれを知ってか知らずか、不敵な笑みを崩さない。

 

「そうだね……まずは私の詳しい素性でも話しておこう」

 

 タブレット端末を片手に、腕を広げてウォズは語り始める。

 

「私は、我が王……仮面ライダージオウに仕えている忠臣、ウォズだ。こことは異なる世界で、遥か未来から時を超えてやって来た」

「ジオウ?」

「時空を超え全ライダーの力を手にした時代の覇者、時の王者さ。と言っても、君たちの力までは持っていないがね。その王位簒奪を狙う者が……タイムジャッカーというわけだ」

 

 ふむ、と鷲我が手で自らの顎を撫でて考え込む。その様子を横目に見ながら、ウォズは話を続けた。

 

「簒奪は既に成し遂げられようとしている。私が油断したばかりに……我が王の持つ十九のライドウォッチが奪われてしまってね。無論、私も必死に抵抗した。その甲斐あって奪われる前にライドウォッチを別の時空に落とさせる事ができた」

「それがこの世界って事ですか」

「その通り。後はヤツらが回収する前に私と我が王の手で全て奪い返すつもりだったのだが、大きな問題が起きた」

「問題?」

 

 翔が問うと、ウォズは眉間を指で押さえて、苦々しい表情を作った。

 

「我が王が、まるで石像のようになって動かなくなってしまった。タイムジャッカーの仕業だろう……ライドウォッチを全て取り戻す事ができれば、元に戻るはずなのだが。そう簡単にも行かないらしい、あの怪人共がライドウォッチを取り込んだせいでね」

「うーん……どうしてデジブレインがライドウォッチを?」

「恐らくタイムジャッカーの仕業だろう、偶然とは考えにくい。ヤツらはそのデジブレインとかいう怪人を使って何か企んでいるんだ……それに」

「それに?」

「君たちの言っていた記憶の消去や本来あるはずのデバイスの消失、それもタイムジャッカーの歴史改変のせいだ。間違いなくね」

 

 再びオフィス内にざわめきが起こった。

 

「タイムジャッカーは私と同じで、時空間を自在に行き来する事ができる。過去も未来も、思うがままだ」

「じゃあ、この現象は」

「連中がこの世界の過去の出来事に干渉した、というワケさ」

 

 時間を止めるだけではなく、歴史を変える事もできる。そんな能力を持つ者を相手に、どうやって立ち向かえば良いのか。

 絶望感が、ホメオスタシスや電特課の面々の胸をよぎる。

 そんな中でも翔は、解決の糸口を探すために「タイムジャッカーについて他に知っている事はありませんか?」と訊ねた。

 

「そうだね……人数と名前くらいなら。タイムジャッカーは全部で三人、ローパ・ドーサ・モーハだ。リーダーはモーハという男だね」

「さっきの赤コートの野郎か。となりゃ、ローパってのはあのアナザーアズールの中身ってところか?」

「それから……まだ悲観する必要はない、希望はある。ライドウォッチを全て奪還できさえすればね」

「そいつはどういう事だ?」

 

 目を細めて鷹弘が問う。ウォズはニヤリと唇を歪め、手に持ったタブレット端末を一同に見せた。

 そこには、図鑑のようにしてライドウォッチの名前と絵柄が表示されている。

 とは言っても、絵柄の方はひとつを除いて全て黒いシルエットのような状態になっているが。

 

「唯一手にする事ができたこのディケイドライドウォッチを除く、残る十八のライドウォッチを取り戻す事さえできれば、我が王は復活する。そうなればタイムジャッカーなど恐るるに足りない、ヤツらを倒せば歴史も正される」

「そんなに強いんですか、ジオウって人は」

「ああ強いとも、なにせ戦いの果てに全ライダーの力を手中に収めた王だ」

 

 ウォズはそう言うとタブレットを持ったまま、オフィスの椅子に腰掛ける。

 

「ライドウォッチが手に入ったら私のところへ来てくれ。このタブレットに封入して、またタイムジャッカーに持ち出せないようにする」

「デジブレインが取り込んでるのが九個、行方が分からないのも九個、そしてタブレットにひとつか……状況は悪いが、それに賭けるしかないようだ」

 

 翠月は立ち上がり、鷹弘に視線を向ける。

 それに頷き、鷹弘はホメオスタシスの面々に指示を出す。

 

「聞いたな。ひとまず電特課とも協力してこのライドウォッチを捜索する、デジブレインの動向も随時チェックしろ。見つけ次第俺が行く!」

『了解!』

 

 鷹弘から受けた命令に従い、皆が行動を始めた。

 その様子を眺めていたウォズは、ほんの一瞬だけ、ニヤリと唇を歪ませるのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「……翔」

 

 警察署から外へと出た後、アシュリィと並んで歩く翔の背に、肇が声をかけた。

 

「父さん、どうしたの?」

「少し用があってな、俺は一旦家に戻る。お前は調査を続けてくれ」

「えっ? えーっと……うん、分かった」

 

 頭上に疑問符を浮かべながらも、翔は頷く。

 肇は微笑み、翔の肩にポンと手を乗せた。

 

「悪いな。すぐ合流する」

「うん、気をつけてね」

 

 その後、肇は翔とは別方向に歩き出し、翔は翔でアシュリィと共に調査を開始した。

 

「で……アテとかあるの? ライドウォッチだっけ、それのありそうな場所」

「ないよ?」

「ないんだ……」

 

 地道に探さなければいけないと知って肩を落とすアシュリィを見て、翔は微笑む。

 

「でもまぁしょうがないよ、設備もないんだし。せめて研究所が残ってさえいれば、ライドウォッチが発する信号だか電波だかを解析して場所も特定できたんだろうけど」

「この街にあるのは間違いないのかな」

「多分ね。それだけ分かれば探すのは……いや、難しいかなやっぱり」

 

 そんな会話を交わしながら公園の近くを二人が歩いていると、翔の眼に二台の自販機が映る。

 すると思いついたように翔がアシュリィの方を向き、彼女に「喉乾いてない?」と問いかけた。

 

「じゃあ……ジュースほしい」

「分かった、ちょっと買って行こうか」

 

 翔は自販機へと歩き、商品を眺める。

 そしてふと、自販機とゴミ箱の隙間に、光る物体を発見した。

 

「これって……」

 

 黄色と緑のカラーリングが施された、時計に似たような見覚えのあるそれを、翔は拾い上げる。

 ライドウォッチだ。仮面ライダーの顔面らしいイラストが表面に描かれている。表示されている年数は2010。

 タブレットによればオーズという仮面ライダーだっただろうか、と翔が思っていると、すぐ後ろにいたアシュリィが翔の手の中にあるライドウォッチにぎょっと目を見開いた。

 

「えっ、なんでこんなところに落ちてるの?」

「さ、さぁ……とりあえず、これは持ち帰って――」

 

 言いながら翔がオーズライドウォッチをポケットの中に入れると。

 突然、目の前の自販機から、赤い腕が伸び出て来た。

 

「え?」

 

 アシュリィが間の抜けた声を発する。

 背筋に悪寒を感じ取った翔は、腕に驚きつつもアシュリィを抱きかかえて、かばうように左方に飛び込んだ。

 翔を掴もうとしていた腕は空振りし、自販機の中から、ではなくそのガラスからデジブレインが現れた。

 

「このライダーはタブレットに書いてあった……確か、龍騎! ライドウォッチを取り込んだデジブレインだ!」

「ショウはタカヒロに電話して! 私が……!」

 

 言いながら、アシュリィは全身に力を込め、戦う意志を励起してデジブレインへと姿を変えようとする。

 だが、変化が起きない。何度やっても、人間の姿のままだ。

 

「あ、れ……?」

「アシュリィちゃん? もしかして……」

「なん、で」

「……ここは僕が食い止める、アシュリィちゃんは逃げて静間さんに連絡を!」

「ごめん、分かった」

 

 アシュリィを護るためマテリアガンを構え、翔は攻撃に出る。

 しかし、やはり威力が足りない。龍騎・デジブレインは、銃撃を腕で受け止め、平然としている。

 その上このデジブレインには、大きな変化が起きつつあった。

 

「あれは……!?」

 

 翔が注目したのは腰。龍騎・デジブレインの腰部にノイズがかかり、ベルトのようなものが形成されつつあるのだ。

 

「まさか、徐々にライドウォッチの力に順応しているのか!?」

 

 驚く翔の顔面に、龍騎・デジブレインは拳を突き出す。翔はそれを腕で防ぐが、当然吹き飛ばされて地面に転がった。

 

「くぅ……あっ!?」

 

 転がった拍子に、翔はオーズライドウォッチを落としてしまっていた。龍騎・デジブレインは、それを拾い上げる。

 

「しまった、まずいぞ!」

 

 これではさらにデジブレインが増えてしまう。

 そして時間が経てばライダーの力を完全に解放できるというのなら、このまま野放しにはできない。この場で倒してしまわなければ、より厄介な存在になる。

 しかし、翔にはマテリアガン以外、対抗する手段が存在しない。

 もはやどうする事もできないのだろうか。徐々に、翔の心に不安と焦燥が押し寄せてくる。

 せめて変身さえできれば。

 

「……いや、待てよ」

 

 ドクンッ、と心臓が跳ねる。頭の中でピースが組み上がり、勝利のパズルが完成していく。

 ウォズ曰く、これは仮面ライダージオウが戦う際に使っていた変身アイテムのひとつだという。

 もしも。もしも、デジブレインでなくてもこのライドウォッチが使えるのだとしたら。

 

「けど、どっちにしろアレを奪い返さないと……」

 

 そんな言葉を口に出した翔だが、その視線がある一点に注がれる。

 ベンチの下。デジブレインの出現で逃げ出した誰かが置き去りにしたであろう、ゲーム機。その隣に、ライドウォッチが落ちていた。

 翔は飛びつくように、それを手に取る。

 組み上げていたパズルは完成した。残るは、果たして起動して変身できるかどうかという問題だけだ。

 

「頼む! 僕にまだ、仮面ライダーの資格があるのなら!」

 

 翔はそのピンクと緑のカラーリングの、2016と表記されたライドウォッチのカバーを回し、リューズを押し込んだ。

 

「今だけで良い、応えてくれ!」

《エグゼイド!》

 

 ウォッチが起動し、輝く。それに合わせ、翔は叫んだ。

 

「変身!」

 

 翔の手の中からライドウォッチが消え、光と共にその姿が変化していく。

 ピンク色のボディに髪のような頭部装甲が特徴的な、スポーティな容姿の仮面ライダー。胸にはゲームのコントローラーのような意匠とゲージが記されており、腰には緑の蛍光色のベルトが装備されている。

 さらにそのベルトには、ゲームのカセットに見えるものが装填されていた。

 変身の瞬間、翔の頭の中にはその仮面ライダーの名前と、戦い方が流れ込んでくる。

 

「仮面ライダーエグゼイド……ゲームの力を使う仮面ライダーなのか」

「グゥァァァ!」

「ハァッ!」

 

 大きく跳躍し、エグゼイドとなった翔は龍騎・デジブレインの顔面を、着地するよりも前に三度も蹴り上げる。

 

「グガッ!?」

「な、なんて脚力なんだ、油断したら僕の体が持っていかれる……これほどの力を扱える人がいたなんて」

 

 そんな事を言いながら、エグゼイドは右手を前に突き出す。すると、その手元に二種類のボタンがついた白いハンマーが出現した。

 

《ガシャコンブレイカー!》

 

 そんな音声を聴きながら、エグゼイドは柄を握る。そして、龍騎の体をハンマーで思い切り殴打した。

 

「グゥッ!?」

「まだまだ!」

 

 ハンマーで龍騎の体を押さえつけながら、エグゼイドはガシャコンブレイカーのBボタンを連打。

 そして龍騎の反撃に合わせ、体を回転させながら回避し、顔面にハンマーを叩きつけた。

 ボタン連打で桁違いに破壊力の高まった一撃が、龍騎をそのまま地面に転倒させる。

 しかし、それが逆にデジブレインの力を活性化させてしまった。

 

「グゥガァァァ!」

《龍騎!》

 

 デジブレインの体内でその音声が鳴ると同時に、ベルトが完全な実体となる。

 龍騎はベルトにセットされた一枚のカードを取り出し、それを左手の篭手、ドラグバイザーにセットする。

 

《ソードベント》

 

 ドラグバイザーから音声が響き、龍騎の手に煌めく鋭い剣が握られる。

 今までよりも一層手強くなった事を感じて、エグゼイドもより警戒心を高めた。

 

「そっちが剣なら、こっちも!」

《ジャ・キーン!》

 

 エグゼイドがガシャコンブレイカーのAボタンを押すと、ハンマー上部から刀身が飛び出し、剣に変形する。

 ジリッ、とガシャコンブレイカーを構えながら徐々に接近するエグゼイド。龍騎も、剣を持ってじわじわと後退している。

 そして次の瞬間、エグゼイドが飛び出す。先に仕掛けたのは翔だ。

 だが、振り下ろした剣は無情にも地面に火花を散らした。

 

「えっ!?」

 

 空振りに終わった事に驚き、周囲を見回す。

 龍騎の姿はない、一瞬で煙のように消えてしまった。

 ――否、翔は思い出した。このデジブレインが現れた時の状況を。

 

《ガシャット! キメワザ!》

 

 思い出した時には、エグゼイドとなっている翔はほぼ無意識の内に、あるいは何かに導かれるようにしてベルトに装填されたガシャットを抜き取って、ガシャコンブレイカーに差し直していた。

 

《ファイナルベント》

 

 そして、その音声が聞こえると同時に自販機の方向に振り返り、カウンターの斬撃を繰り出していた。

 

「そこだぁぁぁ!」

《マイティクリティカルフィニッシュ!》

 

 自販機のガラスの面から、炎を纏うキックを繰り出す龍騎・デジブレイン。その体に、見事にエグゼイドの必殺技が炸裂する。

 

「グガァァァァァ!?」

《会心の一発!》

 

 斬りつけられた龍騎は爆散し、エグゼイドの足元にオーズと龍騎のライドウォッチが転がるのであった。

 

「やった、なんとかなった……」

 

 安堵しながら、変身の解けた翔はそれらを拾い上げる。

 通話を終えて避難していたアシュリィも、翔の前に出て来た。

 

「それショウも変身できるんだね」

「うん、正直賭けだったけど上手く行って良かった。これで僕も戦える」

 

 ライドウォッチをポケットに収納した翔はグッと拳を握り、アシュリィに微笑みかける。

 

「ウォズさんのところに行こう、さっきみたいに襲いかかられたら困る」

「ん」

 

 翔はアシュリィの手を握り、警察署に向かって走っていく。

 

 

 

 そんな二人の後ろ姿を、木陰から眺める人物がいた。

 

「おやおやおやおや。まさかこのような事が起きるとは」

 

 孔雀の羽根飾りがついた仮面を被った礼服の男、Cytuberを束ねるデジブレイン、スペルビアだ。

 

「異世界のライダーの力に、遥かな未来のテクノロジーを持つ人間。そして、あのアズールに似た怪人」

 

 ネクタイに付いたブローチを左手の指で撫でながら、仮面の奥でスペルビアは目を細める。

 そして、何も持っていない右手に徐々に力を込め、ゆっくりと拳を握る。

 すると周囲にある木々がメリメリと悲鳴を上げ、段々と枯れ始めた。

 

「いずれにしても、『彼』がこのふざけた状況を作った張本人なのは間違いないようですねぇ。久々に腹立たしい思いだ」

 

 スペルビアが完全に握り拳を作ると、まるで風船のように樹木が破裂した。

 

「さて、私はどうするべきか。まぁ……反逆者に死の裁きを与えるのは確定ですがね……」




『この時代のこの場所で間違いないの!?』

 青い光が迸るトンネルのような空間の中で、そんな勇ましい少女の声が響く。
 その場所を走るのは、二台の巨大なマシンだ。銀色のものと赤色のものがあり、バイクのような形態で走行している。
 声は赤色のマシンの通信によるものだった。

『あぁ。まさか、我が魔王のライドウォッチを異世界に持ち込むとはね……』

 今度は銀色のマシンからの声だった。落ち着いた雰囲気の、男の声であった。
 続いて、赤色のマシンから別人の声が聞こえる。静かな猛りを感じさせる、力強い若者の声だ。

『必ず取り戻すぞ。今更タイムジャッカー相手に、そう何度も平成ライダーの力を悪用されてたまるか』

 それを聞いて、銀のマシンから先程とは別の、少年の声が響いた。

『大丈夫! 俺たちなら別の世界でも……なんか行ける気がする!』
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