龍騎・デジブレインを打倒した後、警察署に戻った翔は、入手したライドウォッチをウォズへと返還していた。
「これでこちら側が確保したライドウォッチは四つ。あと十五個の内、タイムジャッカーが持っているのは……八つ」
「その通りだ。さて、持ってきて貰ったところ悪いが……これは君が持ってくれたまえ」
そう言いながらウォズが放り渡したのは、オーズライドウォッチだ。
翔は不思議そうに首を傾げ「どうしてこれを?」と訊ねる。
「龍騎・デジブレインとの交戦で、向こうにエグゼイドの戦闘データが渡った可能性があるからね、手の内を読まれてしまうだろう。となれば、別のライドウォッチを持っておけば奇襲できる」
「なるほど……」
「次に使ったらそれを渡してくれれば良いし、新しくライドウォッチが見つかればそっちを持っておいてくれ」
「分かりました」
オーズライドウォッチをポケットにしまい込んで、翔はアシュリィを連れて次なるライドウォッチの捜索に向かう。
――背後で邪悪な笑みを浮かべているウォズに気づかないまま。
同じ頃。
電特課の安藤 宗仁から連絡を受けた鷹弘は、マシンマテリアラーをコンビニに駐車させて通話を行っていた。
「……そうか、あいつはもう三つも手に入れたか」
マシンのシートに座りながら、鷹弘はニィッと口角を上げる。
「分かった、俺も捜索を続ける。負けてらんねェからな」
そう言って通話を切ると、そのままマシンマテリアラーを走らせ、捜索を再開した。
だが、当然探すアテなどない。どこへ向かうべきか思案していると、不意に破壊音が鷹弘の耳に届く。それも、頭上から。
「あん?」
見上げれば、そこにあるのは歩道橋。頭上から降り注ぐ、破壊されたその残骸。
「うおおおおお!?」
絶叫しながら、鷹弘はマシンを走らせる。
マシンマテリアラーを全力で走らせれば回避は容易い。しかし、問題はそこではない。
周辺の車両への被害や、前方から来る車両の回避という問題もあるが、そうでもない。
鷹弘の眼は、破壊された歩道橋に紛れている、ライダーデジブレインの姿を捉えていたのだ。
「ざっけんじゃねェぞこんな町中で! クソが!」
悪態をつく鷹弘。マシンマテリアラーをデータに戻し、プロトマテリアフォンを取り出してプロトアプリドライバーを呼んだ。
そして、即座に変身する。
《デュエル・メイル! 孤高のガンマン、インストール!》
現れた敵影は三つ。
黄色い瞳に黒いボディ、輝く赤いラインが走るライダー。黄金の角を生やしている、龍を思わせる姿の戦士。そして、バチを持つ紫色の鬼。
どれも最初の戦いで確認できたデジブレインであり、タブレットで名前を確認していたリボルブには正体を割り出す事ができた。
「アギトと響鬼とファイズか。だが、アレは……」
リボルブは三体のデジブレインの腰に目を凝らす。
当初の交戦時に確認できなかったベルトが、全員に装備されていた。
ただでさえ一対三という厳しい状況で、ライドウォッチと完全に適合したデジブレインと戦わなければならないという事である。
「上等だこの野郎……やってやる!!」
先手必勝。素速くリボルブラスターを抜き、敵を撃つ。
リボルブの目論見通り、銃撃はファイズのベルトとアギトの左肩、そして響鬼の下顎へと正確に命中する。
無論、それだけで倒れる相手ではない。ファイズ・デジブレインのベルトに装填されていたファイズフォンは転げ落ちてしまったが。
「オラァッ!」
全員が怯んでいる隙に、リボルブは響鬼へと拳を繰り出す。
だが、響鬼の口部が突然開いたかと思うと、そこから紫色の炎が吐き出された。
鬼幻術・鬼火。仮面ライダー響鬼が扱う術のひとつである。
「こ、んのォォォ!」
だが、多少のダメージを負わせる事はできたものの、元より炎を操る能力を持つリボルブに対しての足止めとはならなかった。
拳はそのまま響鬼・デジブレインの顔面にクリーンヒットし、リボルブは拳をめり込ませたまま続けざまにプレートを押し込み、必殺技を発動する。
《フィニッシュコード!
「オオオオオッ! オラッ! オラァッ! オラオラオラァッ!」
全身にカタルシスエナジーを漲らせ、リボルブは響鬼に何度も何度も拳を叩き込む。
そして最後の拳が響鬼・デジブレインの胸に直撃した瞬間、その身体が大爆発し、地面に響鬼ライドウォッチが転がり落ちた。
「まずひとつ!」
ライドウォッチを拾い上げ、振り向きざまにアギト・デジブレインをリボルブラスターで撃つ。
だがアギトは自らのベルトの右側のスイッチを押し込むと、ベルトから伸び出た赤い剣を装備し、銃弾を全て斬り裂いた。
「なにっ!?」
リボルブの驚愕。見ればアギトの胴体と右腕、そしてベルト中央の石の色までもが赤く変化していた。
仮面ライダーアギト フレイムフォーム。あらゆる知覚能力を強化し、透明化や高速移動する敵を正確に捕捉する事ができる姿。
これにより、フレイムセイバーでリボルブの銃撃を防ぐ事ができたのだ。
「グゥルルル……」
アギト・デジブレインは、居合のような構えを取り、じりじりとにじり寄ってリボルブを迎え討とうとしている。
「ヘッ、面白ェ」
するとリボルブは、アプリウィジェットからアーキタイプ・マテリアルのマテリアプレートを取り出し、リボルブラスターにセットした。
《フィニッシュコード!》
「テメェの居合と俺の速撃ち……どっちが速いか」
金色の角とフレイムセイバーの鍔が展開するアギトと、プロトマテリアフォンを手に取るリボルブ。
睨み合いの末、先に動いたのは、リボルブだ。
《
「勝負だ!」
《
プロトマテリアフォンをかざし、弾丸を発射。しかし、袈裟に振られた炎を纏う太刀は、それを打ち落とす――はずだった。
接触の瞬間、弾丸は突如として無数の刃へと変わり、予想外の動きに対応できなかったアギトの顔面と胴体を貫いた。
そのままアギトは爆散し、リボルブの足元にライドウォッチが転がる。
「二つ目だ。後は」
リボルブは、先程から動きを見せていないファイズ・デジブレインを振り返る。
既にファイズフォンを拾い上げており、フォンブラスターに変形させてリボルブに向けていた。
「その携帯使うのかよ、なんか親近感あるじゃねェか」
言いながら、リボルブもファイズに銃口を向ける。
先に仕掛けたのはファイズだ。トリガーを引き、マズルアンテナからフォトンバレットを発射。エネルギー弾が真っ直ぐにリボルブの方へと飛ぶ。
だが、リボルブはそれら全てを、高速かつ精密に撃ち抜いた。
データの弾丸とエネルギー弾がぶつかり合い、相殺。射撃は通じないと判断したファイズ・デジブレインは、ファイズショットを装備して即座に真っ直ぐ殴りかかる。
「オラァ!」
リボルブもそれに対応し、拳を突き出す。
互いの拳が重くぶつかり合い、吹き飛ばされたのはリボルブの方だ。
「ぐっ!? 野郎!」
倒れ込む寸前、リボルブは身を反らしながらも発砲。
銃撃は、ファイズの両眼に命中し、火花を撒いた。
「グルァ!?」
「今だ……!」
《フィニッシュコード!
リボルブが、再びプレートを差し込んで必殺の弾丸を発動。
真っ直ぐに放たれた銃弾が、ファイズに命中する、その一瞬。
《フォーゼ!》
爆発と同時に、ファイズの体からそんな音声が鳴り響いた。
「やったか!?」
リボルブはじっと目を凝らす。
爆炎が消え失せ、そこにいたのは、ファイズではない。
全く別の、ロケットのような形の頭部が特徴的な白い仮面ライダーだった。
「なんだと!?」
「ウチュウウウウウ! キタァァァァァ!」
ワケの分からない事を叫んで気合を入れながら、姿を変えたライダーデジブレイン、フォーゼ・デジブレインがジェット噴射でリボルブに突撃する。
「もうライドウォッチを取り込んでたのかよ、クソッタレが!」
悪態をつき、リボルブラスターで迎撃するリボルブ。
だがフォーゼは銃撃を受けても怯まずに進撃し、リボルブの肩を掴んだかと思うと、その大きな頭で頭突きを繰り出した。
「ぐっ!?」
鈍い音が耳に入るが、フォーゼは攻め手を緩めない。何度も頭突きを食らわせた後、リボルブの胸に前蹴りを炸裂させた。
そして地面を転がされ倒れたリボルブを、追い打ちとばかりに蹴りつける。
「この、野郎!」
怒声と共にリボルブはフォーゼの爪先を撃つ。そうして怯んだ隙をついてフォーゼの脚を払い、転倒せしめた。
「調子くれてんじゃねェ!!」
転んだフォーゼの頭を、今度は立ち上がったリボルブが踏みつける。
先程の頭突きの分の仕返しとばかりに、何度も何度も。
「ふざけた頭しやがって、ロケットみてーに飛ばしてやらァ!!」
リボルブがそう言ってベルトのマテリアプレートを押し込んで必殺技を使おうとした、その時だった。
フォーゼが自身のベルトに装填された、二番目のスロットにあるペンの先端のような形をしたスイッチをカチリと操作し、足を振り上げる。
アストロスイッチ。フォーゼが扱う、様々な機能を発揮するアイテムだ。
《ペン・オン》
すると、フォーゼの右足にある青いバツ印が輝き、形態が変化。黒いインクで濡れたペンのようになる。
そして足が振り上げられると共に、リボルブの顔と手足にインクがまぶされた。
「ぶぁっ!? なんだこれ!?」
突然の出来事に驚いていると、付着したインクが鋼鉄のように硬質化。
視界が真っ黒に染まり、リボルブの腕が胴体とくっつき、脚はインクで地面に固定され拘束されてしまう。
「しまっ……」
《ロケット・オン》
《ドリル・オン》
スイッチを操作する音が聞こえ、ぞくり、とリボルブの背筋に走る悪寒。
その予感は当たっており、身動きがとれない間にフォーゼは上空を飛んでフォーゼドライバーのレバーを操作し、必殺の準備を完了していた。
《ロケット・ドリル! リミットブレイク!》
リボルブの視界が元に戻った時、その眼に飛び込んできたのは、右腕にロケットと左足にドリルを装備して真っ直ぐに自分へとキックを放つフォーゼ・デジブレインの姿だ。
避け切れない。いや、避けられない。
それを悟り、リボルブは僅かな希望のためにベルトをかばい、攻撃に備えて身構える。
そして、直撃した。
「ぐあああっ!」
鋭利なドリルの一撃を受け、リボルブは大きく後方に吹き飛ばされる。
だが同時に、硬化したインクも砕けて剥がれ落ちた。ダメージは大きいが、すぐに立て直して反撃しよう。
リボルブはそう考え、リボルブラスターを抜いてそれを実行に移そうとした。
だが。
《ファイズ!》
「なっ……」
デジブレインの姿が再び入れ替わる。それも、ファイズポインターを右脚に装着した状態で。
《
ファイズ・デジブレインの右足に赤い光が集中し、突き出した右脚のポインターから円錐型の赤いエネルギーが射出。
これによってリボルブはポインティングされ、再び身動きが取れなくなってしまう。
「こ、ん……畜生が……!!」
ファイズが飛び上がり、キックを放つと同時に、赤い光のマーカーがドリル状に回転。
エネルギーがリボルブのボディに浸透し、爆発を引き起こした。
これがファイズの必殺技、クリムゾンスマッシュ。その衝撃によって、鷹弘の変身は解除された。
「ぐああああっ!?」
吹き飛ばされ、地面に倒れ伏す鷹弘。二つのライドウォッチが転がり、プロトアプリドライバーも外れて地面に落下し、粉々に砕け散る。
「クソッタレ……!!」
これでもう、鷹弘も変身する事はできなくなってしまった。
ならばせめて。ライドウォッチを護るように、這って全身で覆い被さった。
「グルル……」
当然、デジブレインがそれを許すはずがない。
ゆっくりゆっくりと、ファイズフォンを片手に鷹弘の背中に近づく。
まるで、死神の足音だな。そんな風に考え、鷹弘は皮肉めいた笑みを浮かべる。
その時だった。
「危ない!」
そんな勇ましい少女の声が聞こえたかと思うと、赤いエネルギー弾がファイズ・デジブレインの体に命中する。
鷹弘の眼には、それがファイズの放つものと同じ色に見えた。
驚きながらも鷹弘は、それを撃った者の方を見る。
黒い長髪を靡かせている、純白のマントとワンピースを纏う少女だ。片手には、ファイズフォンに似た武器を装備している。
「アナザーライダーではないな。どういう事だ?」
その後に聞こえたのは、力強く猛々しい声。少女の後ろからやって来る、黒い衣服を身に着けた少年のものだった。
彼の腰に装着されているもの、そしてその右手に持っているものを目撃して、鷹弘は瞠目する。
時計に似た形状の白いベルトと、赤いライドウォッチだ。ここに至って、鷹弘はライドウォッチの『本当の使い方』を理解した。
「とにかく……この場は俺が鎮める。下がってろ、ツクヨミ」
「お願い、ゲイツ!」
少女と少女は互いの名を呼び、ゲイツと呼ばれた少年の方はライドウォッチのカバーを回す。
そして、リューズを押し込んだ。するとライドウォッチが発光し、音声が鳴り響く。
《ゲイツ!》
ゲイツは音声を聞きながら、そのライドウォッチをベルトの右側に装填した。
するとベルトから秒数をカウントするような電子音が発せられ、ベルト側のリューズを拳で押し込む。
瞬間、ゲイツの背後に巨大な腕時計に見える立体映像が投影され、ロックが解除されたベルトのバックルの動きに合わせて僅かに傾く。
そして、ゲイツはバックルの両端をガシッと両手で掴んだ。
「変身!」
ファイズと真っ向から対峙したゲイツが叫んで勢い良くベルトを回転させると、再びベルトから声が放たれた。
《
セグメントに『GEIZ』という表示がされ、さらにベルトが名を読み上げる。
彼の、戦士としての名を。
《仮面ライダーゲイツ!》
背後の立体映像から四つの黄色い文字が飛び出し、ゲイツの体に赤い装甲のパワードスーツが装着され、その文字が顔面に貼り付いた。
右目から鼻を通って左目まで『らいだー』という文字が、でかでかと書かれている。ついでに、額には『カメン』とある。
続いてセグメントには『2068』という表記がされた。
「カメン……らいだー……?」
身を起こしつつ目を丸くして、鷹弘は文字を読み上げた。
少年、仮面ライダーゲイツはその声を聞きながら、眼前のファイズ・デジブレインを睨みつける。
「まさかアナザーでもないファイズと戦う事になるとはな」
拳を握り込み、腰を落とす。ファイズ側も、スナップを効かせて右手を振った後、ファイティングポーズを取っている。
そして互いに距離を空け、睨み合ったまま動かない。
相手との間合と攻め手を測り、いつ仕掛けるのか、思考を張り巡らせている。
「……グオオオッ!」
痺れを切らしたか、確実に勝てると踏んだか。ともかく、先に動いたのはファイズの方だった。
右手にファイズショットを装着し、真っ直ぐに拳を突き出す。
「フッ!」
だが、その手をゲイツは読み切っていた。僅かに身を反らす最小限の動きで拳を避け、平手で突いてファイズを押しのける。
そうしてファイズの背後を取った瞬間、その手に武器を握った。
《ジカンザックス! オーノー!》
それは、表面に『おの』と書いてある赤い武器。文字通り、斧だ。
振り向いたファイズの頭に、大上段から刃を叩きつけた。
「グガァッ!?」
よろめくファイズだが、ゲイツは攻撃の手を緩めない。横に薙ぎ、袈裟に振り、胴体や首へと斬り込む。
その度に火花が散り、堪らずファイズは大きくバックステップして距離を取りつつ、ファイズフォンを手に取った。
直後、ゲイツは握った斧を変形させる。それと同時に表面の文字も変わり、音声が鳴った。
《ユーミー!》
読み上げた通り、そして書いてある通りに『
ゲイツはそれを使い、その手からファイズフォンを撃ち落とした。
「グッ!?」
「無駄だ、手の内は全て知っているぞ。対処法もな」
「……グァァァッ!」
苛立った様子でファイズが咆哮。それと同時に、またも体内のライドウォッチが起動する。
《フォーゼ!》
「何!?」
瞬間、ファイズの姿がまたフォーゼ・デジブレインに切り替わった。
ゲイツにとってもこれは予想外の展開であったらしく、鷹弘の傍で戦闘の様子を見ていたツクヨミも驚愕している。
「ウチュウウウ! キタァァァ!」
大声で叫び、フォーゼは素速くゲイツへと突撃した。
奇襲気味に放たれた頭突きを防ぐ事ができず、ゲイツは大きく仰け反る。
「ファイズからフォーゼとはな……!」
《ランチャー・オン》
《ガトリング・オン》
《レーダー・オン》
「くっ!?」
フォーゼの両足がミサイル砲とガトリング砲のように変化し、さらに左腕にアンテナのようなものが出現するのを見て、ゲイツが焦った様子で声を上げる。
そして、一斉砲火が開始された。ミサイルはレーダーの能力によってゲイツをロックオンし、無数の銃弾が襲い来る。
迫る破砕音。だがゲイツはビル壁の陰に飛び込む事で遮蔽物としてガトリングの弾丸をやりすごし、さらに追いかけてくるミサイルはジカンザックスの矢で冷静に撃ち落とす。
とはいえ、このままでは防戦一方だ。何か手はないものかと思索していた、その時。
「ゲイツ、これを使って!」
そんな言葉と共に、鷹弘を連れて安全圏に避難していたツクヨミが、ある物を二つゲイツへと投げかける。
驚きつつもそれらをキャッチしたゲイツは、手に取った物を目視して、仮面の奥で目を見開く。
「なるほど。使うのは初めてだが……やるしかない!」
言いながらゲイツがその手で掲げた物、それは先程鷹弘が護った響鬼ライドウォッチであった。
指でカバーを回してリューズを押し、起動。ライドウォッチが光り、音声が鳴る。
《響鬼!》
先程と同じように、しかし先程と違ってベルトの左側に、ライドウォッチを装填。
そして、カウントダウンと共にロックを解除してベルトを両手で回転させた。
《
するとゲイツの周囲に追加装甲のようなものが出現し、それらが浮遊してゲイツの挙動に合わせて動く。
また、ベルトからは音叉の音が鳴り、ライダーの名が呼ばれると、それらの装甲はゲイツの体に合着された。
《響鬼!》
セグメントには『2005』との表記がされ、ゲイツの顔に再び黄色い文字が張り付く。その仮面ライダーと同じ『ひびき』の名が、両眼の位置に刻み込まれた。
仮面ライダーゲイツ 響鬼アーマー。二つの音撃棒を手に、フォーゼ・デジブレインへと突撃する。
「グオオオッ!」
《ロケット・オン》
フォーゼも、ランチャーからミサイルを発射しつつ、右腕をオレンジ色のロケットに変えて飛びかかる。
それに対してゲイツは音撃棒に炎を集めて立ち止まり、叫びながらそれを思い切り振り被った。
「ハァァァッ!!」
その直後、音撃棒の先端から炎の塊が吐き出され、それがミサイルを爆散させ、フォーゼの体を焼いた。
鬼棒術・烈火弾。響鬼の持つ音撃棒・烈火に炎の気を集中させ、それを解き放つ術である。
フォーゼは火炎弾とミサイルの爆風によって吹き飛ばされるものの、ロケットを使って浮上し態勢を立て直すと、上空からゲイツを睨む。
「グゥゥゥ!」
《ドリル・オン》
「これで終わらせる!」
《フィニッシュタイム! 響鬼!》
スイッチを操作したフォーゼがレバーを手に掛けるのを見ると、ゲイツも素速くライドウォッチのリューズを押してベルトのロックを解除。
そして、同時に必殺技を発動した。
《ロケット・ドリル! リミットブレイク!》
《音撃! タイムバースト!》
脚のドリルを突き出し、ロケットの加速力を利用して真っ直ぐにキックを放つフォーゼ。そのドリルの先で、音撃棒を構えて腰を落とすゲイツ。
ライダーロケットドリルキックが炸裂するかに見えた、その時。響鬼アーマーの両肩が光り、そこから二つの音撃鼓型のエネルギー体が放出されて、挟み込んでフォーゼを拘束する。
その音撃鼓にはデジタル時計のセグメントがあり、一秒ずつ時を数えている。
「グッ!?」
「行くぞ、火炎連打の型!」
クルリと音撃棒を回し、ゲイツは跳躍。フォーゼの背へと飛び乗り、音撃棒を使ってリズミカルに音撃鼓・火炎鼓へと連打を加える。
ドンドンドンッ、と清めの音がフォーゼの体に流し込まれていく。これが、音撃だ。
「ハッ! ハッハァァァッ! セァッ、ハァッ!」
「グオオオッ!?」
「オオオオオッ! ハァァァッ!」
最後に思い切り音撃棒を叩きつけた瞬間、爆炎が巻き起こり、フォーゼは激しい速度で地面に墜落した。
その姿を確認しながら、ゲイツは地面に降り立つ。
ツクヨミは安心しきって頬を緩めるが、しかし鷹弘は「まだだ!」と叫ぶ。
目を凝らして見れば、フォーゼの爆散した位置にファイズ・デジブレインが立っていた。体内のライドウォッチを起動し、生き延びたのだ。
「しつこいヤツだな。ならば」
響鬼のライドウォッチを抜き取ったゲイツは、そう言って別のライドウォッチを起動する。鷹弘が護った、もう一つのウォッチを。
《アギト!》
「もう一度倒すまでだ!」
《
叫び、ゲイツはまたもベルトを回転させ、先程とは異なるアーマーを召喚した。
頭部と両肩に角を生やした、金色の鎧。ベルトに表記されるのは『2001』の年数。
《アギト!》
ベルトから鳴る電子音と共に、ゲイツの両眼に『あぎと』の文字が貼り付いた。
「ガァァァッ!」
「ハッ!」
ファイズショットを装備して真っ直ぐに走るファイズ、それに対し空手家か居合斬りのような独特なファイティングポーズで待ち構えるゲイツ。
そしてファイズが拳を突き出した瞬間、渾身の一撃を手の甲で叩いて逸らし、カウンター気味に右腕の正拳突きを胸の中心に叩き込む。
「グッ!?」
「ハァッ!」
ダメージでファイズが怯むと、畳み掛けるようにゲイツはもう片方の腕で拳を繰り出し、さらに鋭い回し蹴りで頭部を斬り込む。
ゲイツの怒涛の攻勢にファイズはたじろぎ、焦りからか、ファイズポインターを右足に装着して必殺の態勢に移った。
「ガァルルルァ!」
《
「ならば!」
ゲイツがライドウォッチを操作すると、音声が流れると同時にゲイツの立つ大地にアギトの頭部に似た模様の紋章が浮かび上がり、そのエネルギーが脚に吸収されていく。
《フィニッシュタイム! アギト!》
ファイズは鷹弘と戦った時と同じように右足を突き出してポインティングを試みるものの、苦し紛れの一撃は見抜かれており、大きく跳躍したゲイツに避けられてしまった。
そして、ゲイツは空中でベルトを一回転させる。必殺の発動だ。
《グランド! タイムバースト!》
「ハァーッ!」
跳躍した状態から右脚を突き出し、ゲイツのライダーキックがファイズの胴体を捉える。
強大なエネルギーが放出され、それを受けたファイズの口から発せられるのは、苦しみの断末魔。
着地したゲイツは構えを崩さずに振り向き、残心を保ったままファイズの爆散を見守るのであった。
「勝ちやがった……!」
自分ではどうしようもなかった相手を一方的に打ち倒したのを目撃し、驚く鷹弘。
彼の傍にいたツクヨミは、変身を解いたゲイツへと駆け寄っている。そのゲイツ少年の手には、つい先程倒したばかりのファイズ及びフォーゼのライドウォッチが握られていた。
「ちょ、ちょっと待て!」
当然、鷹弘は慌てて呼び止める。
「何者か知らねェが、それは俺たちにも必要なモンだ! 勝手に持っていくんじゃねェよ!」
「なに? どういうつもりか知らんが、これはこの世界の人間が持っていて良い物ではない」
「ンだと? ……いや、まさかテメェ」
「貴様ひょっとして……」
言い争いになった鷹弘とゲイツの声が、重なり合う。
『例のタイムジャッカーの仲間か!』
一瞬の沈黙。
「は?」
「ん?」
あわや戦闘になるかと思われた空気が一気に弛緩し、二人とも何が起きたのか分からない、と言うような困惑した表情になった。
そんな二人の間に、ツクヨミが割って入る。
「あの! あなたは、この世界の方なんですよね?」
「あ、あぁ」
「私たちはこことは別の世界から、時空を超えてやって来たんです。奪われたこのライドウォッチを追って!」
「……ひょっとして、例のウォズとかいう胡散臭い男の仲間か?」
それを聞いて、真っ先に反応を示したのはゲイツだ。
「誰がアイツの仲間だ!?」
「まぁまぁ……その通りなんですけど、どうしてその名前を?」
ツクヨミに問われ、鷹弘は至極当然と言った様子で、正直に答える。
「本人から直接聞いた。石像みてーになって動けなくなった仮面ライダージオウを復活させるために、この世界に散らばったライドウォッチを集めろとかなんとか……」
鷹弘の返答を聞いている内に、二人の顔色は段々変わっていく。
焦りと不安、そして驚愕の色だ。彼らの様子が深刻なものに変わったので、鷹弘も困惑した。
「おい、どうした?」
「そいつはどこにいる!?」
「何?」
「そのウォズと名乗った男は、今どこにいるんだと聞いてるんだ!」
「な、なんだよ急に?」
「答えてくれ!! いいか!? アイツは、そのウォズはな……!!」
鷹弘の肩を掴み、必死に叫ぶゲイツ。
彼の語る『ある事実』を耳にした鷹弘は、大きくを目見張るのであった。
※ ※ ※ ※ ※
同じ頃。
ライドウォッチ捜索のため、アシュリィと行動を共にしていた翔は――。
「グラララァ!」
「ギシャアア!」
バイクを駆る多数のライダーデジブレインたちに追われていた。
マシンマテリアラーで必死に逃げつつ、翔はミラー越しに背後のデジブレインたちの内訳を確認する。
「ブレイド・カブト・電王・キバ。全員相手にするのは、やっぱり厳しいな……!」
「どうするの!?」
「近くにある廃工場に逃げる! その後、一体ずつ倒す!」
スピードを上げ、風を裂くようにマシンを走らせる翔。その後を追跡するデジブレインたち。
こうして作戦通り、翔たちは廃工場内に入る事ができた。
アシュリィと共に走り回り、今度は隠れ潜んで一人ずつ誘き出すために動く。
「……あっ!」
その途中、足を止めたアシュリィは突然声を上げ、錆びたドラム缶を指差した。
翔がその方向を見れば、予想もしていないものが落ちており、すぐさま飛びつくように走ってそれを手に取る。
ライドウォッチだ。
表面に赤い顔のライダーがあり、ライドウォッチ本体は銀と黒で色分けされている。
「このライダーは確か、ウィザードだ!」
これでまたひとつ回収できた。しかし、同時に翔たちのいる区画に二つの影が躍り出る。
ブレイドとキバのデジブレイン、彼らが襲いかかって来た。
翔はすぐさまアシュリィを下がらせ、オーズライドウォッチを手にし、臨戦態勢に移った。
「一対二なら……!」
《オーズ!》
「変身!」
リューズを押し込むと、エグゼイドの時と同様に、翔の姿が変わっていく。
頭部が赤、胴体及び両腕が黄、そして脚部が緑と三色に分かれた仮面ライダー。胸には紋章があり、上からタカ・トラ・バッタの姿が描かれている。
これが仮面ライダーオーズ。腰に装着されたオーズドライバー、そのバックルに挿入されている三枚のコアメダルに描かれた動物の能力を行使するという特性を持つ。
「ハァッ!」
「オン!?」
両脚が緑色に光り、オーズは真っ直ぐに跳躍し、ブレイドの肩を踏み台にして、黄色く輝く両爪でキバの胴体を斬り裂いた。
「おおっ、腕に武器って便利だなぁ」
「ルラギッ!」
感激していると、憤慨した様子のブレイドが、剣を片手に飛び掛かって来る。
オーズはそれを右に跳躍して回避し、二体のデジブレインの姿を凝視。
するとオーズの赤い頭部が光り、変身者である翔の視覚に劇的な変化が起こった。
デジブレインたちの体内にあるライドウォッチの正確な位置、そして数はおろか種類までも、まるでレントゲン検査のように透視できたのだ。
「なるほど! なんで三色バラバラなんだろうと思ったけど、これは……バランスが良い! 戦いやすい!」
見ればブレイドにもキバにも、既にもうひとつライドウォッチが埋め込まれている。
ブレイドには鎧武ライドウォッチ、キバにはゴーストライドウォッチだ。
「もう回収されてるのか! だったら!」
オーズは連続して繰り出されるキバの拳を、素速い足捌きと跳躍で背後に回って回避。
そしてキバが腰に付けたウェイクアップフエッスルを手に取った直後、右腕のトラクローで背中から刺し貫いた。
「ギッ!?」
腕を引き抜くと、キバの姿は解除され、元のグレーカラーのベーシック・デジブレインに戻る。
見れば、オーズの爪と爪との間には二つのライドウォッチが挟まれていた。このデジブレインが宿していた、キバとゴーストのウォッチだ。
オーズはタカヘッドで既に胴体の脆い位置を見抜き、それを回収せしめたのだ。鋭利なトラクローで貫く事によって。
「まずは一体!」
言いながら、すかさずオーズがオースキャナーをオーズドライバーに押し当て、スライドさせる。
《スキャニングチャージ!》
「そぉりゃあああっ!」
抵抗する術を失ったデジブレインは、大きく跳躍したオーズの渾身のライダーキックを受け、爆滅。
この場に残るのはブレイドのみだ。
「ディス……カァァァッ!」
《
ブレイドが剣にカードを読み込ませると、刀身が青い輝きを放つ。
これは仮面ライダーブレイドの特性。自らの専用武装である召喚機『醒剣ブレイラウザー』に、アンデッドが封印された『ラウズカード』をリードさせる事で、そのアンデッドの力を操る事ができるのだ。
様々な動物のアンデッドのカードを駆使して戦うため、この点はオーズとよく似ている。
「ウェアアアッ!」
剣を振り上げ、ブレイドはそれをオーズに叩きつける。
防御のため交差させたトラクローが容易く崩され、オーズはその一撃をまともに受けてしまった。
「ぐっ!?」
「ウェェェイ!」
《
《
続いては突進力強化と全身を硬質化させるカード。
鋼そのものとなったブレイドは、超至近距離から凄まじい勢いでオーズに激突。
それによって、オーズは跳ね返ったゴムボールのように弾き飛ばされ、壁を砕いて地面に背中を打ち付けてしまう。
「がっ……!?」
倒れ込んだオーズにも、ブレイドは剣を構えて容赦なく迫る。
少し相性が悪いかも知れない。そう判断した翔は、別のライドウォッチを手に取った。
「剣士にはこれだ!」
《ウィザード!》
ウォッチを掲げてボタンを押すと、再度翔の姿が変化する。
黒いコートをマントのようにたなびかせる、掌の形をしたバックルのベルトを装着したライダー。その顔は赤く宝石のように煌めいている。
仮面ライダーウィザード。その名の通り、指輪に宿る魔法を操る力を持つ。
《コネクト! プリーズ!》
バックルを操作し、指輪をはめた手をドライバーに掲げ、目の前に浮かび上がった魔法陣へと手を伸ばす。
すると魔法陣を通して別の空間から剣が取り出され、ウィザードはそれを装備した。
ウィザーソードガン。剣にも銃にも変形する武器である。
「ハァーッ!」
「ウェァ!」
ガシンッ、と刀身同士がぶつかり合い、鍔迫り合いのようになる。
「くううう!」
「ウェエエ!」
真っ向からの剣撃で押し返し始めているのは、ブレイド。腕力に任せてウィザーソードガンを叩き割らんとしている。
だが、ウィザードも黙ってはいない。バックステップで鍔迫り合いから離れた瞬間、新たにウィザードリングをドライバーにかざした。
そしてそうはさせまいと、ブレイドもラウザーにカードをリードする。
《
《エクステンド! プリーズ!》
高速移動の能力を行使し、ブレイドは剣を前に突き出して疾走。
そのまま剣先による刺突が命中するかと思われた。
だが。
「そりゃっ!」
「ウェッ!?」
接触の瞬間、ウィザードの体は頭上へと浮かび上がって回避される。
驚いて見上げれば、そこには腕をゴムのように伸ばして上階の鉄柵を掴み、ぶら下がっているウィザードの姿があった。
「ウウッ!」
《
今度は跳躍力とキック力を強化するバッタ型アンデッド、ローカストの力を借り、さらに高い位置から蹴りを繰り出すブレイド。
だが、それもウィザードの思うツボだった。
「今だ!」
《ビッグ! プリーズ!》
叫びながら鉄柵から手を離し、ウィザードリングを読み込ませ、眼の前の魔法陣に向かってキックを放つ。
すると、その右足が天井に届く程に巨大化し、空中で逃げ場のないブレイドを一気に蹴り飛ばした。
「ウェア!?」
不意を打たれたブレイドは地面へと真っ逆さまに落下、しかし着地するウィザードを迎え撃つため、すぐに立ち上がって三枚のカードを取り、必殺の構えに移る。
しかし、ウィザードはそれさえも予測していた。
《バインド! プリーズ!》
「ウェ!?」
ウィザードの魔法によって虚空から現れた鎖が、カードを持つブレイドの腕を強く締め上げ、頭より高い位置にその手を動かす。
これではリードができない。堪らずカードを取り落してしまい、必殺技は不発となった。
そして、既に。
《シューティングストライク! ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー!》
ガンモードとなったウィザーソードガンによる、ウィザードの必殺技は発動していた。
銃口から射出される弾丸が雨霰と降り注ぎ、ブレイドは大きな悲鳴を発し爆散する。
「……」
それでもウィザードは油断せず、武器を構えてブレイド・デジブレインのいた場所を睨んでいる。
何故ならば、オーズに変身した時、既に確認していたからだ。体内に宿るもうひとつのライドウォッチの存在を。
《鎧武!》
「ガァッ!」
「来た!」
爆煙の中から銃声を耳にして、ウィザードは飛び出してきた弾丸を回避する。
煙が晴れてそこに立っていたのは、オレンジ色の鎧を纏う、双刀使いの武者の姿。鎧武・デジブレインだ。
「ハァッ!」
「ルガァ!」
ウィザーソードガンをソードモードに戻し、それを振り上げて立ち向かうウィザード。
対する鎧武は、大橙丸で剣を受け止め、もう片方の武器である無双セイバーで脇腹に斬り込んだ。
「ぐっ!?」
「シェアアア!!」
「ぐあぁ!?」
ウィザードが怯んだ隙を突いて、鎧武は無双セイバーから銃弾を放つ。
鎧武は二刀流であるため、手数が多い。トリッキーな立ち回りを得意とするウィザードだが、接近戦では鎧武に軍配が上がる。この状況では押し切られるのも時間の問題と言えるだろう。
一気に勝負をつけなければ。その判断から、意を決した翔は、今ウィザードの能力でできる最大の手を使う事にした。
《コピー! プリーズ!》
「ギッ!?」
指輪の魔法により、ウィザードの姿が二つに分身。鎧武の一刀は空を切り、本物と分身の見分けがつけられないでいる。
しかし、翔の狙いはそこではない。今からが本番なのだ。
「これで……!」
分身体が、あるものを手にする。
ウィザードリングではない。それは、先程新たに入手したライドウォッチだ。
《ゴースト!》
リューズが押し込まれ、分身の姿が切り替わる。
ウィザードから、別の仮面ライダーへ。パーカーを纏う幽霊、仮面ライダーゴーストだ。
「グッ!?」
「行くぞ!」
《ガンガンセイバー!》
大振りな剣を手に、ゴーストが霊の如く浮遊しながら斬りかかる。ウィザードは背後から射撃で援護しつつ、次の魔法の準備に取り掛かる。
鎧武はゴーストへと斬撃を繰り出すが、攻撃はすり抜けるようにスルリと回避され、まるで霞を斬るような手応えの連続。
痺れを切らしてウィザードから狙おうとすれば、その隙をつかれてゴーストに背中を上段から叩き斬られる。
これじゃ魔法使いじゃなくて死霊術師だな、と自分で思いながら、ウィザードは魔法を発動した。
《エキサイト! プリーズ!》
「うわっ!? え、えぇ~っ……?」
発動の瞬間、ウィザードの全身の筋肉が膨れ上がり、身長と体格が一回りほど大きくなる。
自分で使って困惑しつつ、長く強靭な腕で抉り込むようにアッパーカットを繰り出し、鎧武を天井目掛けて殴り飛ばした。
その鎧武の頭上に、ゴーストドライバーのレバーを掴んで印を結ぶゴーストが浮遊している。
必殺の準備だ。同時にウィザードも、指輪を変えて必殺技に移っている。
《キックストライク!》
《ダイカイガン! オレ!》
《サイコー!》
《オメガドライブ!》
『そぉりゃあああああっ!』
二人の仮面ライダーが同時に叫び、挟み込んで圧殺するように、鎧武・デジブレインへとキックを繰り出した。
同時に必殺技を受けたデジブレインは再び大爆発を起こし、地面に落下。その場にはライドウォッチが二つ残されるのであった。
「よし、これで……!?」
戦利品のライドウォッチを手に入れる翔であったが、直後に膝から崩れ落ちる。
ウィザードの魔法を使用するには、魔力を消耗する必要がある。翔の場合それは代用としてカタルシスエナジーとなったが、使いすぎれば、当然疲弊する。
翔は連続して何度も魔法を使ってしまったため、疲労が限界を迎えてしまったのだ。
「ショウ!」
倒れ込みそうになる翔を支えるのは、アシュリィだった。
「大丈夫!?」
「な、なんとか。仮面ライダーウィザード、すごい能力を持ってるけど……使いすぎると思いっ切り体力を持っていかれるな……」
アシュリィの肩を借りながら、翔はどうにか歩き始める。
戦いは終わっていない。翔たちを追っていたカブトと電王のデジブレインが、まだ姿を見せていないのだ。
「とりあえずこの場を離れないと……」
「うん、しっかり掴まって……!?」
突如、アシュリィの足が止まる。真っ直ぐ前を見たまま、硬直しているのだ。
まさかデジブレインが現れたのかと思い、翔もその方向を視認する。そして、同様の反応を示した。
結論として、そこにいたのは紛れもなくデジブレインだ。
ただし――。
「おやおや。奇遇ですねぇ」
その正体は、孔雀の仮面の男。即ちスペルビアだ。
「スペルビア……なんでここに!? まさか、今回の事件もお前が!!」
ライドウォッチを手に身構える翔。しかし今の状況で勝てる相手ではない事は明白だ。
それにそもそも、スペルビアからは一切の敵意を感じなかった。
「まぁまぁ、落ち着いてください。今回の件に私めは何の関係もありません。いえ、正確には多少関係はしていますが」
「……何を言いたいんだ?」
「とにかく、この状況は私めにとっても望むところではないのですよ」
「……」
完全に警戒を解いたワケではないものの、翔は心を落ち着けて、ウォッチを再びポケットに収納する。
思えば、まだ捕らえていないCytuberたちがどうなったのか、デジブレイン側の状況がまるで分かっていない。
体を休める必要もあるので、翔はひとまずスペルビアから情報を聞き出す事になった。
一方、翔が話を聞く姿勢を見せたので、実に愉快そうにスペルビアは笑い始める。
「そもそも、あなた方は今の状況をおかしいと思いませんか?」
「おかしい事だらけだよ。ホメオスタシスはなくなってるし、アプリドライバーも使えないし……」
「では、何故ホメオスタシスがなくなったのだと思いますか?」
「え?」
翔にとって予想もしていなかった問いかけだ。その驚いた表情を見て笑いながら「少し質問を変えましょう」と言い放つ。
「今あなた方が敵対している組織は、タイムジャッカーでしたか……彼らはどうやってデジブレインを使役しているのでしょう?」
「……確かに、どうやってるのか知らないけど、ごく自然に操ってるな……いや、待てよ?」
顔を上げた翔は、誰にでもなく疑問を口にする。
「そもそもゲートはどこに?」
「……あっ! 言われてみれば、基本的にデジブレインはゲートがないと存在を維持できないはず……!」
アシュリィも気付いて、眼を丸くした。
仮にライドウォッチがその役割を担っているのだとしても、エネルギー切れを起こさずに半永久的に活動できるのは妙だ。
そもそも彼らはライドウォッチの力を完全に扱い切れておらず、当初はベルトも装着していなかったのだ。そんな不安定な状態ではエネルギー源の役目を果たせるはずもない。
となれば、もっと別の根本的なところに原因があるはず。そう思って翔は、スペルビアに質問した。
「サイバー・ラインは今どうなってる? 他のデジブレインはどこだ?」
「消えましたよ」
沈黙。
今、お前何を言った? そんな内容の事を翔は叫びそうになった。
「もっと正確な事を言うのなら、サイバー・ラインは形を変えました。ブラウザを開いて検索すれば簡単にアクセスできるようなサイト全てと完全に融合し、いわゆる普遍的な電脳世界となりました。私の知らない内にね」
「な……」
「その影響で、デジブレインはこの世のどこにでも飛び出せるようになりましたよ。ヤツらの生み出した紛い物しか他のデジブレインは存在しませんがね」
言葉が出なかった。本来あったデジブレインという種は、彼を除いて知らない間に絶滅してしまったというのだ。
これが歴史改変の影響なのだとすれば、アシュリィがデジブレイン化の能力を失ったのにも説明がつく。過去にあったはずのデジブレインが消えてしまったのだから。
そして、その話を聞いて翔はもうひとつの結論に達する。
「じゃあ、ホメオスタシスが消えたのは……サイバー・ラインにもデジブレインにも、対策する必要がなくなったから!?」
「そういう歴史になったからでしょうねぇ」
「電特課がそのままなのは、サイバー犯罪の対策が表向きの姿だからか……」
納得した様子で頷く翔とアシュリィ。しかし、疑問はまだまだ湧いて出てくる。
「でも、だとしたらあのデジブレインたちは何者なんだ? タイムジャッカーが過去から連れてきたのは間違いないとして……どうやってCytuberたちの目をかいくぐって実行した?」
「それは簡単ですよ。内通者、つまりは反逆した者がいるのです」
反逆者。それが原因でこのような事態が引き起こされたのだとすれば、それはやはりプロデューサーであるスペルビアの責任なのではないだろうか。
そう思いながらも口には出さず、翔は話を黙って聞く。
「その男の名は
「ジョー・ヒサミネ……どうしてその男が反逆者だと?」
「彼が二人のタイムジャッカーと行動を共にしている姿を見たからですよ」
『えっ!?』
翔とアシュリィの姿が重なる。
初めてタイムジャッカーの二人が現れた時、そんな男の姿はなかったのだ。
そもそも、ウォズの話の通りであれば、タイムジャッカーは三人のはずである。翔たちも三人目の姿を直接目撃していないとは言え、スペルビアが見た時も三人で行動していないなどという事があるのだろうか?
翔たちが考え込んでいると、スペルビアは何やら察した様子で、微笑みながら数度頷く。
「あなた方も気をつけた方が良い……目に映るものが全て真実とは限りませんからねぇ」
「それは、どういう意味だ?」
「期待させて貰うという事ですよ。私が戦えばこの世界を滅ぼしかねない、そんな終わり方を望んではいません」
それだけ言うと、スペルビアはパチンッと指を弾く。
瞬間、二人の体が宙に浮かび、段々と体が透け始めた。
どこかに転送するつもりのようだ。
「待っ――」
「では、ごきげんよう」
翔とアシュリィ、そしてスペルビアの姿が消え、廃工場はもぬけの殻となるのであった。
「うわあああっ!?」
スペルビアとの対話の後。
翔は、レンガ造りの硬い地面の上に仰向けで倒れる。
そしてその顔に、アシュリィの柔らかい尻が覆い被さった。
「ぶっ!?」
「きゃっ!? ご、ごめん!」
顔を赤くしながら、大慌てでアシュリィはその場を離れる。
一方翔は、頭を押さえながらゆっくりと身を起こした。
「いたたたた……」
「君、大丈夫?」
不意に、背後からそんな声が聞こえる。
翔とそう年齢の変わらないような少年の声だ。
振り返ってみれば、そこには薄い黄色のロングティーシャツを着た、茶髪の少年が立っている。外見から、翔よりも少しばかり年上に見える。
「なんかいきなり出て来たように見えたけど……」
「い、いえ! 多分気のせいですよ!」
「そっか、まぁそんな事もあるよね」
のほほんと少年は笑う。
天然気味な彼の様子に安堵して、翔は立ち上がって周囲を見渡した。
どうやら、自分とアシュリィは広がる海と大橋を一望できる海上広場まで飛ばされたらしい。とりあえず知っている場所に出て、またホッと一息つく。
だが、その時だった。
「どうしたんだい、我が魔王?」
翔とアシュリィにとって、聞き覚えのある声が耳に入った。
よく通る若い男の声。その声の主の姿を見て、二人はぎょっと目を見開く。
灰色のマフラーにカーキグリーンのロングコートの黒髪の男。間違えるはずもない、ウォズだ。
「ウォズさん!?」
「なんでここに!?」
二人の言葉を聞いて、少年とウォズは顔を見合わせる。
「ウォズ、知り合い?」
「いや……君たちは、誰だ? なぜ私の名を?」
質問で返されて、二人は面食らった。なぜ自分たちの事を覚えていないのか?
しかしその理由を考える暇もなく、大きな破壊音と悲鳴が四人の耳に聞こえる。
すると、少年とウォズはすぐさま走り出し、現場へ急行した。翔たちは驚きつつもその後に続く。
辿り着いた場所は観覧車が間近に見える、埠頭付近だ。三体のライダーデジブレインが、人々を襲っている。
クウガ・カブト・電王。クウガ以外の二体は、先程翔を追跡していた者たちだ。
「くっ、また暴れてる……!」
「ショウ、どうするの?」
まだ戦闘できるほど十分に体力は戻っていない。しかし、戦わなければ人々が襲われるだけだ。
なら、やるしかない。翔が決意を固めた、その時だった。
「やるのかい、我が魔王」
「うん。民を護るのは、王の務めだからさ!」
「ではご武運を」
先程の二人が、翔とアシュリィをかばうように前に立った。
そして、少年は時計を模した形状の白いベルトを取り出すと、それを腰に装着する。
ウォズの方は微笑んだまま、待機している。まるで何かを待ち望むように。
《ジクウドライバー!》
流れ出た音声を聞きながら、さらに今度はライドウォッチを右手に取って掲げる。
カバーを回してライダーの顔を作り、そしてリューズを押し込んだ。
《ジオウ!》
ウォッチから流れ出た音声を聞いて、翔は眉をしかめる。
しかし疑問を挟む余地もなく。少年は、ジクウドライバーというらしいベルトの右側にウォッチを装填、さらにベルトのロックを掌で解除した。
すると、少年の背後に巨大な時計のビジョンが出現し、逆向きに時を刻み始める。
少年は左腕を前に出して手を顔より上に、右腕は後ろ側に向けて胸より下にそれぞれ掲げ、そのポーズのまま目の前にいる三体のデジブレインを睨む。
「変身!」
《
叫び声と共に、少年は左手でドライバーを一回転させる。
その瞬間、背後の時計にピンク色で『ライダー』の文字が浮かび上がり、ドライバーが名を叫ぶ。
《仮面ライダー! ジオウ!》
電子音声が鳴り、文字が前方に飛び出す。
それと同時に少年の体は、白と黒と銀でカラーリングされたパワードスーツが装備され、さらに文字が顔面部に貼り付いた。
少年は、仮面ライダーに変身したのだ。
「祝え!」
突如としてウォズが叫んだので、翔とアシュリィはビクリと身を震わせる。
「全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え過去と未来を知ろし食す時の王者!!」
恍惚とした表情で両腕を広げ、ひたすらにウォズは叫ぶ。少年の雄姿を称えるように。
「その名も仮面ライダージオウ!! 異界の地にて、初変身を遂げた瞬間である!!」
再び聞こえたその名。もはや、聴き間違いのはずがない。
翔は思わず、復唱するようにその名を声に出していた。
「仮面ライダージオウだって……!?」
ジオウ、時の王者。
存在するはずのない男が、そこにいた。