仮面ライダーアズール スピンオフ・アプリ   作:正気山脈

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「鷹弘たちは無事だろうか……」

 電特課のオフィスにて。
 椅子に腰掛けて指を組み、大きく溜め息を吐く鷲我の姿がそこにあった。
 その様子を見て、翠月は鋼作や陽子たちと顔を見合わせて苦笑いする。彼がこうして溜め息を吐くのは、何度目だろうと。

「会長。心配するのは分かるが、彼も翔くんも戦う力がある。今は吉報を待とう」
「それはそうだが……あいつが持っているのはプロトアプリドライバーだからな。デュエル・フロンティアを使えるように調整したとは言え、かなり突貫工事だったし……」

 そうしてまた、鷲我は頭を抱える。
 浅黄はそんな彼を見てくすくすと笑いつつ「そーいえば」と声を上げる。

「ウォズさんどしたの? いつの間にかいないけど?」

 質問には、翠月が答える。

「ずっとここにいても仕方ないから、ライドウォッチ捜索の手伝いがてら異世界観光でもすると言って出ていったぞ」
「……それ大丈夫かなー、デジブレインに襲われたりしない?」
「まぁ彼は不思議な力を持っているようだし、いざ見つかっても自力で逃げられるだろう」

 それを聞くと浅黄も「そっかー」と、追求せずに納得してしまう。全員、ウォズに関してはさして心配していないようだった。
 二人の問答の間も、鷲我はずっと鷹弘や翔の事を心配している。
 その時だった。

「情けないな。父親、ましてや大企業の会長ならもっとふんぞり返って胸を張ったらどうだ」

 オフィスの壁に背を預けている茶髪の青年が、そんな事を口走った。
 胸にバーコードの柄が入ったマゼンタカラーのシャツの上に、黒いパーカーを着て、グレーとマゼンタのデジタル迷彩柄のズボンを穿いている。
 どことなくプログラマー風の出で立ちだが、首からはマゼンタのトイカメラをぶら下げている。

『……』

 自然にこの場に溶け込んでいる彼の姿を見て、翠月も浅黄も鋼作も陽子も、皆が思った。
 この男は誰だろう、と。
 しかし、誰もその事を口にしない。深刻そうな面持ちの鷲我も、彼の話に黙って耳を傾けている。

「しかし、息子が死ぬかも知れないというのに……」
「あいつはそんなに心配しなきゃいけない程、ヤワな男なのか?」
「それは……違う。鷹弘ならやってくれると信じているが、プロトアプリドライバーの不安定な出力が原因で敗北に繋がりかねない」

 トイカメラを手でいじりながら、青年は鷲我と話を続ける。
 その姿があまりにも自然だったので、風貌も相まって、翠月たちは彼を『きっとZ.E.U.Sの社員だろう』と勝手に思い込む。
 青年は話し終えた後、壁から背を離して、出口に向かって歩き始めた。

「どこへ行くのかね?」
「散歩だ。適当にブラブラする」

 それだけ言うと、返事も聞かずに青年は歩いてその場を去った。
 鷲我は感謝の言葉を送ると共に彼の背中を見送りつつ、ポツリと呟く。

「……ところで、彼は誰だ?」
『え?』


EP.03[アノマリー2020]

《仮面ライダー! ジオウ!》

「行くぞっ!」

《ジカンギレード! ケン!》

 

 翔とアシュリィの前に現れた少年。その正体は、仮面ライダージオウだった。

 彼が右手を前に掲げると『ケン』と書かれた剣が握られ、電王・カブト・クウガの三体のライダーデジブレインへと突撃する。

 

「ハッ!」

「ギィッ!」

 

 対するは電王・デジブレイン。互いにジカンギレードとデンガッシャーを激しく打ち付け合う。クウガは、腕を組んでその姿を眺めていた。

 ガシンッガシンッ、と鉄と鋼の叫びが木霊し、僅かな隙をついてジオウが切っ先で電王の肩や腕を傷つける。

 

「ギィィィ……」

「よし、このまま」

 

 押し切ろうとするジオウだが、敵は一人ではない。

 

CLOCK UP(クロックアップ)!》

 

 その音声が聞こえた瞬間、クウガの隣で控えていたカブトの姿が消える。

 否、消えたのではない。眼にも留まらない程に高速で動いているのだ。

 その証拠に、ジオウが電王ではない何かから攻撃を受け、よろめいている。

 

「いかに我が魔王と言えど、ジオウⅡやグランドジオウの力なしでは、クロックアップの相手は厳しいか……せめて先程拾ったウォッチを使う事ができれば……」

 

 クロックアップ。タキオン粒子を体内に張り巡らせる事により、流れる時の中で自在に動く事ができる力。

 あらゆる物理法則を超越し、光や音さえ超絶的に加速した時の中へと隠匿する。そんな加速装置を、カブトは持っているのだ。

 カブトの攻撃の間も、電王は手を緩めない。ジオウの防御を崩すのはカブトに任せ、自分は意気揚々と攻撃に臨む。

 

「イクゼイクゼイクゼェェェ!」

「いだだだだだ! ごめんウォズ、ちょっと手伝って!」

「ご命令とあらば、喜んで」

 

 胸に手を当てて一礼し、ウォズはどこからともなくベルトを取り出した。

 黒と緑の色彩が特徴的な、ジクウドライバーとも形状が異なるベルト。しかし、その形状からライドウォッチを使う事は明らかだった。

 そしてそれがウォズの腰に装着された瞬間、電子音声が響いた。

 

《ビヨンドライバー!》

 

 さらにウォズは、他とは少々形状の異なるライドウォッチを取り出し、そのボタンを指で押し込んだ。

 

《ウォズ!》

 

 ライドウォッチから鳴る音声。直後、ウォズはそのウォッチをビヨンドライバーの右側にあるスロットに装填し、再びボタンを押す。

 すると、ウォッチのカバーが左右に割れて開き、音声と共にベルト中央部のミラーに頭部のようなものが映り込んだ。

 

《アクション!》

 

 ウォズの背後で、緑色のスマートウォッチの立体映像が浮かび上がり、光条が周囲を照らす。

 そして電子音を聞きながら、ウォズはビヨンドライバーのレバーを、閉じるように内側へと押し込む。

 

「変身」

《投影! フューチャータイム!》

 

 直後、ライドウォッチのライダーの顔がミラーへと写し出され、ウォズの身体が白と緑のカラーリングのパワードスーツに包まれて行く。

 

《スゴイ! ジダイ! ミライ! 仮面ライダーウォズ! ウォズ!》

 

 そしてジオウと同様に水色の『ライダー』の文字が顔に貼り付くと、変身を完了した仮面ライダーウォズは、右腕を天へと掲げた。

 

「祝え! 過去と未来を読み解き、正しき歴史を記す預言者! その名も仮面ライダーウォズ! 異界の地にて書き記されし、新たな歴史の一ページである!」

「いいから速く来てー!」

「おっと、失礼……おや?」

 

 ウォズが、翔の方へと視線を落とす。その手の中には、ライドウォッチがあった。

 

「それは……! すまないが、ライドウォッチを返してくれ!」

「えっ、あっ、はい!」

 

 目の前の仮面ライダーから手を差し出され、翔は迷わず全てのライドウォッチをウォズに託す。

 

「よし……まずはこれだ」

《ジカンデスピア! ツエスギ!》

 

 ライドウォッチをひとつだけ手に取りつつ、ウォズは武器を手に取る。

 槍のような形状だが、先端が鉤状となっており『ツエ』と書いてあるため、文字通り杖の武器である事が理解できた。

 

《ウィザード!》

 

 早速ライドウォッチを起動し、ビヨンドライバーに装填されたウォズミライドウォッチと交換。

 

《ライドウォッチブレーク!》

 

 そして、ウォズはドライバーのレバーを閉じ、ウィザードの力を抽出した必殺技を発動する。

 杖を振り上げるとジオウの周囲が水で満たされ、さらに尖った土塊が漂い始める。そして水の飛沫が、粉砕された土がカブトの軌道を浮き彫りにした。

 

「フッ……ならばこれはかわせるか!?」

 

 体に付着した土塊が水と混ざり合ってまとわりつき、さらに土の魔力がカブトの身体に凄まじい重力を付加させる。いかに高速の時間の中を自在に動こうとも、自分自身が鈍重になればスピードも落ちるのだ。

 続いて頭上から雷が降り注いで檻を作り、カブトと電王はその中に囚われた。

 

「ギッ!?」

「ギギッ!?」

 

 こうなってしまうとクロックアップ中であろうと無関係で、その場から一歩も動けなくなる。カブトも電王も、狼狽していた。

 さらに、ジカンデスピアの杖の先端に炎が集まり、竜を形作る。

 

「いかにカブトの力を得ていようと、そしてクロックアップを使えようとも……君は人間でも、ましてや天の道を往く者でもない。偽物相手ならば、いくらでも勝つ見込みはある」

 

 その言葉と同時に、杖から火炎の竜が解き放たれ、雷の檻ごと二体のデジブレインを飲み込んだ。

 

「ギアアアッ!?」

「グガガガガ!?」

「今だ、我が魔王!」

「オッケー!」

 

 ジオウは強く頷き、腕に装着したライドウォッチを手に取った。

 黒と赤で色分けされたている、『2014』と記されているウォッチ。それを起動し、ベルトの左側スロットへと装填する。

 

《ドライブ!》

 

 さらにジクウドライバーのロックを外して、一回転。すると、ジオウの目の前に追加装甲が浮かび上がり、二機のミニカーのような物体と、タイヤが二つ現れる。

 

ARMOR TIME(アーマータイム)!》

 

 それを蹴り飛ばして、ジオウは装甲を纏う。ミニカーは両腕へ、タイヤは両肩に装着された。そして変身時と同様に、しかしそれとは異なる『ドライブ』の文字が顔に貼り付く。

 

《ドラァイブ! ドライブ!》

「よーし! 単細胞が……バックギアだぜ!」

 

 あまり言葉の意味を理解せず、適当な決め台詞を放つジオウ。

 それを聞いて呆然としている電王とカブトの背後から、オーズライドウォッチを持ちながらジカンデスピアを変形させたウォズが飛び出した。

 

《カマシスギ!》

「祝え!!」

《オーズ!》

「全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え……ハッ!!」

 

 呆けていた電王が、背を向けているウォズの後頭部へとデンガッシャーを突きつける。しかしウォズは首を僅かに傾けてそれを避け、鎌型となったジカンデスピアで振り向きざまに斬りつけた。

 

「ギィッ!?」

「過去と未来を知ろし食す時の王者!! その名も仮面ライダージオウ ドライブアーマー!!」

《ライドウォッチブレーク!》

 

 鎌の表面に、タカ・カマキリ・チーターのメダルが浮かび上がり、それぞれウォズの頭部・胴体・脚部に光となって宿る。

 そして、足を止めた電王とカブトに、カマキリのエナジーが込められ巨大な刃を形成した鎌が、チーターのスピードを利用して高速で幾度も振り抜かれる。

 

「ギァァァッ!?」

「グォォォッ!?」

 

 大鎌の連撃を受け、電王とカブトは爆散。その姿を見ながらも、ウォズはマイペースにジオウを称える。

 

「フゥ……異界においても美しき、ライダーの力を継承した瞬間である」

「あれっ、倒しちゃった?」

「いや、先程タカの眼で確認したが、彼らは……」

 

 ウォズが言い終えるよりも先に。爆炎に紛れて、電子音が響く。

 

《ダブル!》

《ビルド!》

 

 炎が消え去った時、電王は仮面ライダーダブルに、カブトは仮面ライダービルドに姿を変えていた。

 

「もうひとつウォッチを飲み込んでたのか……!」

「そういう事らしい。我が魔王、これを」

 

 言いながら、ウォズは二つのライドウォッチをジオウに放り渡す。

 ブレイドとキバだ。これらを駆使して、この局面を乗り切れという事らしい。

 そしてダブルがウォズに、ビルドはジオウに向かって飛びかかった。

 

「よし! なんか行ける気がする!」

 

 ジカンギレードを構えて踵を大きく踏み込むと、車の駆動音と共に、真っ直ぐに滑るような動作でジオウは走行を始める。

 そしてその高速移動状態のまま、ドリル型の武装を持つビルド・デジブレインに斬りかかった。

 

「とぉりゃあああ!」

「グルゥ!」

 

 攻撃は受け止められるが、ドライブアーマーのスピードは何度もやり過ごせるものではない。堪らずビルドは一度距離を取った。

 だがその直後、ジオウは両腕のミニカー型武装、シフトスピードスピードをビルドへと向けると、それを射出して攻撃する。

 この攻撃を皮切りに、ビルドは押され始めた。それを見ていたダブル・デジブレインは、ウォズへの格闘攻撃を一度中断して、ビルドの援護に動く。

 

「おっと、よそ見はご遠慮願いたい!」

 

 そうはさせまいと、ウォズはダブルの背中へと鎌を振り下ろす。

 だが、ダブルはそれを予測していた。

 

《メタル!》

「む!?」

《サイクロン! メタル!》

 

 ダブルの紫色だった左半身が鋼鉄のような銀色に変わり、さらにその背が金属製の棍で武装され、振り向く事すらせずジカンデスピアの刃を防いだ。

 これがダブルの特性。ベルトに装填されたガイアメモリを交換する事で、様々なフォームに切り替える事ができるのだ。

 サイクロンメタルとなったダブルは棍型武装のメタルシャフトをウォズの腹に打ち込み、再度ビルドの援護に向かう。

 

「ぐ、しまった……!」

 

 ダブルがビルドとジオウの戦闘に介入し、メタルシャフトでジオウを攻撃。

 ジオウはそれをジカンギレードで防ぐものの、ビルドにフォームチェンジを行う隙を与えてしまうのであった。

 

《忍者! コミック! ベストマッチ!》

 

 ビルド・デジブレインが、腰のビルドドライバーに付いたレバーを回す。

 するとドライバーに挿入されたフルボトルの内容物がシェイクされ、ベルト内からビルドの前後方にプラモデルのランナーのようなものが形成される。

 

《Are you ready?》

 

 そしてビルドが回す手を止めると、ランナーとランナーの間に挟み込まれ、姿が変わった。

 赤いウサギと青い戦車を象った複眼から、紫の忍者と黄色いペンの複眼になり、体色も赤と青から紫と黄になっている。

 

《忍びのエンターテイナー! ニンニンコミック! イエーイ!》

《ヒート! メタル!》

 

 四コマ漫画の描いてある忍者刀を手に、ビルドはヒートメタルとなったダブルと共に、ジオウへと攻撃を仕掛ける。

 ビルドはその特徴的すぎる武装、4コマ忍法刀のトリガーを引き、その機能を作動させる。

 

《分身の術!》

「うおおおっ!?」

 

 音声と同時にビルドの姿が分身し、目を剥くジオウ。

 4コマ忍法刀はその絵柄に描いてある漫画と同じ忍術を発動する事ができる武装。ニンニンコミックは、それを活かしたトリッキーな戦法を得意としている。

 九人に増えたビルドから繰り出される素速い連撃と、ダブルのメタルシャフトによる重い一撃。あまりの攻勢に、ジオウは圧倒される。

 しかし、そこへウォズが救援に駆けつけた。

 

「忍にはシノビだ」

《シノビ!》

 

 ウォズは予め手に持っていたライドウォッチを起動、さらにドライバーからウォズミライドウォッチを外す。

 そして手早くビヨンドライバーにセットし、再びボタンを押してレバーを押し込んだ。

 

《アクション! 投影! フューチャータイム!》

 

 ウォズの体に紫色の光が溢れ、胸や肩に手裏剣型の追加装甲が、さらに首に長い紫のマフラーが巻かれる。

 

《誰じゃ? 俺じゃ? 忍者! フューチャーリングシノビ! シノビ!》

 

 最後に眼部へと紫色の『シノビ』の文字が貼り付き、仮面ライダーウォズ フューチャーリングシノビが姿を現した。

 

「グルルォ!」

「フッ……分け身の術!」

 

 ジオウの前に立ったウォズは、襲いかかって来るビルドとその分身に対抗するように、同じ数だけ自分の分身を生み出した。

 ビルドたちとウォズたちの武器がぶつかり合う。

 その間ジオウはダブルの相手をし、シフトスピードスピードの射出によってメタルシャフトを撃ち落とすと、スピードを活用した追撃を繰り返す。

 

「おりゃあああ!」

「グッ!?」

 

 拳の猛攻が、ダブルを襲う。このままでは勝てないと判断し、ダブルは二つのガイアメモリを黄と青のものに差し替えた。

 

《ルナ! トリガー!》

「グルルルォ!」

《トリガー! マキシマムドライブ!》

 

 背後でダブルが銃器にガイアメモリを装填したのを視認すると、ビルドの分身たちは一斉にウォズを取り囲む。

 ニンニンコミックフォームにはこの忍者刀の他にも特殊能力があり、それは視覚から得た情報から最も効果的な戦法を割り出すというもの。

 つまり。ビルドはダブルと何の打ち合わせも下準備もなく、最も効果的なタイミングで必殺技を確実に命中させられるという事だ。

 

《火遁の術!》

 

 包囲したビルドが疾走し、九つの刀身に炎を集めて渦を作りあげ、それを振り抜いて内側にいるウォズを焼き払う。

 

「ぐっ!」

 

 堪らず防御姿勢を取るウォズ。気付けば、分身は全て消失していた。

 そして、その隙をダブルが突く。

 手にした銃器、トリガーマグナムから、ジオウに銃口を向けて無数の光の弾丸を発射したのだ。

 ジオウは防御姿勢を取るが、自分へと発射されたはずの光弾は途中で散らばり、背後のウォズへと襲いかかる。

 

「あっ!」

 

 家臣へと声をかける暇もなく。必殺攻撃は、無情にも着弾する。

 

「ウォ、ウォズー!?」

 

 叫んで俯き、ジクウドライバーに手をかけるジオウ。目の前からはビルドが、背後からはダブルが迫りくる。

 その直後。

 

《一撃カマーン!》

「なんちゃって!」

《フィニッシュタイム! ドライブ! ヒッサツ! タイムブレーク!》

 

 顔を上げたジオウは、ビルドの背後から響いた音声と同時に、ドライバーのロックを外して回転。

 驚いてビルドが振り向くと、無傷のウォズがジカンデスピアを横薙ぎに振り抜こうと、必殺技を繰り出そうとしていた。

 先程のダブルの攻撃の着弾地点には、丸太が落ちている。ウォズは変わり身の術を使い、弾丸を凌いでいたのだ。

 

「ハァッ!」

「ゲェェェ!?」

「我が魔王、今だ!」

 

 鎌がビルドの腹を捉え、引っ掛けたまま振り抜いて前へと吹き飛ばす。

 同時にジオウの両肩から射出された二つのタイヤがビルドを挟み込み、凄まじい勢いで高速回転。

 ビルドはバッティングセンターのピッチングマシンのようにジオウの方へと吹き飛ばされ、ゲタのようにシフトスピードスピード履いて待ち構えていたジオウのドロップキックを受けて爆死する。

 

「……あの武器、使い方合ってるの?」

「さ、さぁ……上手く行ってるしあれで正解なんじゃないかな……多分……」

 

 近くで見ていた翔とアシュリィは、そんな感想を漏らしていた。

 残るはダブルとクウガ。クウガの方は未だに戦闘の様子を見ているが、ダブルは気にせずジオウ・ウォズと対峙する。

 

「次はこれだ!」

《ブレイド!》

 

 飛び来る銃弾を前に疾走し、ジオウは起動したライドウォッチをセット。そして、回転させる。

 

ARMOR TIME(アーマータイム)!》

 

 ジオウの眼の前に、背中に『ブレイド』と書いてあるヘラクレスオオカブトが描かれた巨大な青い光の壁が出現。

 その中へジオウが飛び込んだ直後、全身に西洋鎧を模した装甲が合着し、両肩には扇状に広げられたカードが装備され、両眼には『ブレイド』の文字が貼り付く。

 

TURN UP(ターンアップ)! ブレイド!》

「うおおおおお!」

MACH(マッハ)

 

 ジカンギレードを手にジオウが叫びながら走っていると、その両肩にあるカードが一枚ずつ青い輝きを放ち、それらが体内に吸収される。

 瞬間、ジオウのダッシュ力が急激に上昇し、銃撃の中を走り抜けてダブルとの間合を一気に詰めた。

 

「ギッ……!?」

SLASH(スラッシュ)

「おりゃあ!」

「ギィッ!?」

 

 再びジオウの両肩のカードが輝き、今度はジカンギレードの刀身に青い光が収束。ジオウはそれを振るい、ダブルを上空へと打ち上げる。

 決定的な隙。ジオウはそれを、決して見逃さなかった。先程と同様にウォッチのボタンを押し、ジクウドライバーを回転させる。

 

《フィニッシュタイム! ブレイド!》

「うおおおおっ!」

《ライトニング! タイムブレーク!》

 

 ジオウの両肩から六枚のカードが飛び出し、それが巨大化、上空のダブルの両腕・両脚へと突き刺さって拘束する。

 その間にジオウは地面にジカンギレードを突き立て、それを踏み台に跳躍。

 

「ハァァァーッ!」

「グアアアア!?」

 

 雷を纏い、ダブルへと強烈なキックを放った。

 防ぐ手立てもなく必殺を受け、ビルド同様ダブルは消滅する。

 

「……あれもおかしくない?」

「うん、アレは絶対違う」

 

 翔が苦笑いしていると、その場に残ったライドウォッチを全て回収したウォズとジオウが、最後の怪人であるクウガ・デジブレインへと立ち向かう姿が目に映った。

 しかし相手が一体だろうと二人は油断しない。武器を構えて、じわじわと間合いを詰める。

 

「ウォズ、あいつのライドウォッチの数は?」

「間違いなくひとつだった。つまり、これ以上の変化はない」

「だったら……一気に決めよう!」

 

 そう言ってジオウが飛びかかろうとした、その時。

 突然上空から、ふたつの黒い人影が飛来し、クウガを守るように立ち塞がった。

 ひとつは少し前に翔たちも会敵した、アナザーアズール。そしてもうひとりは――。

 

「……えっ?」

「ウォズさんが……ふたり!?」

 

 今変身しているウォズとは別の、しかし全く同じ姿をした『もうひとりのウォズ』だった。

 ジオウと変身したウォズは首を横に振り、険しい声で二人の言葉を否定する。

 

「アレはウォズじゃない。偽ウォズだよ」

「さぁ正体を見せて貰おうか、タイムジャッカー……ローパ!」

 

 そう言ってウォズが、偽ウォズと呼ばれた男にジカンデスピアを突き出す。

 すると偽ウォズの唇が大きく歪み、耳まで裂けた後、全身がノイズによって波打つ。そして、身体から剥がれて分離した。

 新たに出現したのはウォズとは全く異なる姿の少年と、今まで翔やジオウが相手にしていたのと同じグレーカラーのベーシック・デジブレインだ。

 少年はこれまでに見たタイムジャッカーと似たネオンブルーの衣服を着ており、茶髪の先が青色に染まっている。

 

「アッハハハァ! 遅かったなぁジオウ! 君が亀みたいにノロノロしている間に、僕らは準備をほとんど終えてしまったよ! ここにいる協力者たちのお陰でさぁ!」

 

 少年、ローパが右手を真上に掲げると、アナザーアズールが変身を解いた。

 現れたのは、灰色のスーツを着た中年の男。金の腕時計や高級な革靴を履いており、明らかにモーハやドーサとは雰囲気が違う。

 どちらかといえば、翔たちと同じ現代の人間といった風貌だ。男は頬の肉を歪めながら、恭しく一礼した。

 

「お初お目にかかる、仮面ライダーアズール。私はジョー・ヒサミネ……元Cytuberにして、君の力を頂き、ここにいるデジブレインを考案した張本人だよ」

「なっ……」

「よく出来ているだろう? 名前はプロトドッペルゲンガー・デジブレインだ。通常のデジブレインと同じで言語を扱う事はできないが、その欠点を人体と一体化させる事でカバーした。事実、君もそこにいるジオウとやらもすっかり騙されてくれたね」

 

 つまり、翔たちが協力者(ウォズ)だと思っていた人物は実は敵であるタイムジャッカーそのものであり、彼らの計画を進めるための駒として利用されてしまっていたという事だ。

 

「彼はあのデジブレインの力で姿を変え、最初白ウォズの姿で我々に近づき……我が魔王を言葉巧みに騙して、ライドウォッチを奪い取ったんだ」

「騙される方が悪いのさ。そして僕らの計画はいよいよ大詰めだ」

 

 言いながら、タブレットを手に取ったローパは、その画面の中からある物を取り出した。

 ライドウォッチだ。それも、ディケイドの。

 

《ディ・ディ・ディ・ディケイド!》

 

 ローパはウォッチを起動すると、プロトドッペルゲンガー・デジブレインに顎で指示を出し、近くに立っているクウガと融合させる。

 さらに、自分の持つウォッチをデジブレインと融合しているクウガの体内に埋め込んだ。

 瞬間、クウガの姿は見る見る内に刺々しく変化していき、雷と共に黒く変色。瞳も真っ黒に染まった。

 

《ファイナルフォームタイム! ク・ク・ク・クウガ!》

「グルオオオッ!」

「倒してみなよ! この究極形態……クウガアルティメット・デジブレインを!」

 

 ケタケタと嘲笑いながら、ローパは戦闘域から離脱。電灯の上に立ち、戦闘の様子を見下ろす。

 

「クウガアルティメットだと……!?」

「おっと、私の事もお忘れなく。変身」

《アズール……》

 

 黒いライドウォッチを体内に取り込み、ジョーもその姿を変えた。

 クウガアルティメット・デジブレインとアナザーアズール。二対二とは言えそれまでとは違う強敵を前に、ジオウもウォズも身構える。

 戦う事ができない自分の無力さを歯痒く思いながら、翔はアシュリィと共にジオウたちの見守るのであった。

 

「グラァァッ!」

 

 獣のような鳴き声を上げてクウガアルティメットが手を前にかざすと、右手に黒い大振りの剣が、左手に黒い長槍が装備される。

 クウガの特殊能力、モーフィングパワー。変身や武器生成の際に使用する能力で、本来であれば素材として棒状の長い物体や剣などの武器が必要だが、最強の姿となったクウガは何の素材も必要とせずにこの力を利用する事ができる。

 しかも一発一発の破壊力が極限まで高められているため、並大抵の力で相手にすると、即死の危険すらある。

 

「我が魔王! あの攻撃に決して当たってはならない、死ぬぞ!」

「難しい事言ってくれるなぁ!」

 

 滅茶苦茶に武器を振り回すクウガから逃げながら、ウォズとジオウが言う。その頭上から迫るのは、アズールセイバーを手に飛翔するアナザーアズールだ。

 

「貰った!」

 

 ジオウへと刃が降りかかる、その寸前だった。

 

「宇宙、キタァァァッ!!」

 

 そんな叫び声と共に、顔面に『ふぉーぜ』と書かれたロケットのような形状に変形した仮面ライダーが、頭からアナザーアズールに突っ込んで来たのは。

 

「ぐはっ!?」

「ギッ!?」

「うごぁっ!?」

 

 アナザーアズールは武器を振り回すクウガの方へと吹き飛ばされ、極限まで破壊力が高まった斬撃を背中に受けて撃沈。爆発と共に地面に叩き落される。

 

「間に合ったようだな」

 

 そう言って、地面に立った赤い仮面ライダーがジオウの隣に立つ。

 ゲイツだ。そのさらに後ろをツクヨミが、翔の方へ鷹弘が走って来る。

 

「静間さん!」

「無事か、翔! 大体の事はゲイツとツクヨミから聞いた、まさかあの野郎が敵だったとはな……」

 

 忌々しいものを見るように、歯を軋ませタイムジャッカー・ローパを睨む鷹弘。

 ローパはそんな鷹弘を嘲笑しつつ、パチンッと指を弾いた。

 すると、倒されたはずのアナザーアズールが復活し、再びクウガの隣に並び立つ。

 

「何っ!?」

「ハハハッ! ジオウたちは知ってるだろうが、アナザーライダーは奪った同じライダーの力(仮面ライダーアズール)でしか完全には倒せないしこいつを倒さない限り歴史は元に戻らないのさ!」

 

 ローパの言葉と同時に、アナザーアズールはクウガと共にジオウ・ゲイツ・ウォズに攻撃を仕掛ける。

 ジオウはブレイドライドウォッチを取り外し、ジカンギレードに装着。必殺技を発動した。

 

《ブレイド! ギリギリスラッシュ!》

「ハァッ!」

 

 雷を宿す剣撃が、クウガに襲いかかる。しかし、アナザーアズールがその前に立ち塞がり、攻撃から守る盾となった。

 

「何っ!?」

「ハッハハハ、効きませんね。フンッ!」

「うわっ!?」

 

 アナザーアズールの拳がジオウに命中し、さらに背後からクウガがボウガンで狙い撃つ。

 

「我が魔王! くぅっ!」

 

 矢が命中する前に、ウォズの生み出した分身が体を張ってジオウを護る。しかし攻撃による爆発と熱風が、ジオウもゲイツもウォズも吹き飛ばした。

 

「なんて威力だ……!? こいつ、本当に格が違うぞ!」

「けど、絶対に倒すんだ!」

《キバ!》

 

 ジオウは新たにライドウォッチを起動、それをジクウドライバー左側へと装填し、回転させる。

 

ARMOR TIME(アーマータイム)!》

 

 すると、音声と共にジオウの両肩にコウモリのような姿をした物体が飛来、全身が鎖で包み込まれる。

 噛み付くような音が聞こえ、鎖が内側から全て千切れ飛ぶと、ジオウの両眼に金色で『キバ』の文字が貼り付く。

 

《ガブッ! キバ!》

「なんか、キバって行ける気がする!」

 

 見れば、そこには右足に鎖を巻きつけた、赤い追加装甲を装備しているジオウの姿があった。

 それを確認しつつ、ツクヨミもジクウドライバーと白いライドウォッチを手に取る。

 

「私も……!」

《ツクヨミ!》

 

 両掌で包み込むようにウォッチのカバーを回転させ、起動音と共にドライバーの右側に挿入。

 背後に天文時計が出現し、上部のロックを解除してドライバーを回した。

 

「変身!」

RIDER TIME(ライダータイム)!》

 

 金色の光が満ち溢れ、ツクヨミの全身を包み込む。光は白いスーツへと変わり、肩から背へと垂れたマントが、散らばる光に応じて揺れ動く。

 

《仮面ライダーツクヨミ! ツ・ク・ヨ・ミ!》

 

 ベルトに『2068』の数字が刻まれ、白いライダーの三日月型の複眼に『ライダー』の文字が、その特徴的な形に沿って貼り付いた。

 その姿を目の当たりにして、アシュリィは大いに驚いていた。

 

「あの人も仮面ライダーだったの!?」

「ハァァァァーッ!」

 

 仮面ライダーとなったツクヨミは、ファイズフォンXを手に雄叫びを上げてクウガ及びアナザーアズールへと立ち向かう。

 こうしてはいられない。四人のライダーが揃い踏みとなった場面を目撃した翔は、鷹弘の方に振り返る。

 

「静間さん、プロトマテリアフォンを貸して下さい! それがあれば、僕ならアナザーアズールを倒せます!」

「……無理だ」

「え?」

「無理なんだ、翔……」

 

 深刻な、絶望を突きつけられたような面持ちで語る鷹弘。

 膝から崩れ落ち、地面に拳を叩きつけ、懺悔するように頭を地面に垂らした。

 

「壊れちまったんだ……プロトアプリドライバーは、もう。デジブレインたちに……壊されたんだ!」

「なっ!?」

「俺のせいだ! 俺が、俺が油断したせいで……唯一の勝ち目を潰しちまった! 畜生……畜生ォォォォォ!!」

 

 それを耳にして、ジオウたちが戦う傍で衝撃を受けていた。

 あのアナザーライダーの存在が歴史を歪め、世界を偽りの形に作り変えている。その歪みを正せるのは、自分しかいない。はずなのに。

 一番必要な時だというのに、翔は完全に無力な存在となってしまったのだ。

 

「もう、手は残されていないのか……?」

 

 嘆くように呟き、翔は自分の手を見つめる。

 そんな中、ジオウ・ゲイツ・ウォズ・ツクヨミは、クウガとアナザーアズールの猛攻を耐え凌いでいた。

 

「ハァッ!」

《スレスレ撃ち!》

「ふん!」

《キワキワ撃ち!》

 

 ジオウとゲイツがクウガのペガサスボウガンから放たれる無数の雷の矢を撃ち落とし、その間を縫うようにウォズが疾走。

 鎌を振り上げ、渾身の一撃を放とうとする。

 

「甘いですよ?」

 

 その瞬間、目の前に立ち塞がったアナザーアズールの一突きに、身体を貫かれる。

 しかし。腹から背まで刃が達したはずのウォズの体は、既に丸太と入れ替わっていた。

 変わり身だ。唖然とするアナザーアズールの隙をついて、忍び寄っていたツクヨミはクウガの背後から必殺技を繰り出す。

 

《フィニッシュタイム! タイムジャック!》

「オリャァァァッ!」

 

 手刀から白く輝く光の刃が伸び、クウガアルティメットの黒い体に突き刺さる。

 

「グガッ!?」

「これで終わりよ!!」

「グ、グッ……」

 

 手に力を込めるツクヨミ。クウガは苦悶しつつも右腕を動かし、胸から生えるように飛び出ているその刃を、拳で叩き割った。

 

「えっ!?」

「ガァァァッ!」

 

 手にした武器を全て分解し、振り向いたクウガが手をツクヨミに突き出す。

 その仕草に悪寒を覚え、ジオウとゲイツは反射的に動いていた。

 

「ツクヨミ、危ない!」

《フィニッシュタイム! キバ!》

「させん!」

《フィニッシュタイム! フォーゼ!》

 

 キバアーマーの右脚の鎖が壊れ、ジオウは跳躍。ゲイツもフォーゼアーマーをロケット型に変形させ、クウガの方へと飛んでいく。

 介入しようとしたアナザーアズールは、ウォズが妨害した。

 

《ウェイクアップ! タイムブレーク!》

《リミット! タイムバースト!》

『ハァァァァァッ!!』

 

 二人の飛び蹴りにより、クウガの手が僅かに逸れる。

 直後、その手をかざした何も存在しない空間が、爆炎で燃え盛った。

 これがクウガのモーフィングパワーの応用。アルティメットともなれば、武器を持たずとも致命的なダメージを与える事ができるのだ。

 

「ツクヨミ、大丈夫!?」

 

 ジカンギレード・ジュウモードで牽制しつつ、ジオウは転倒したツクヨミを助け起こす。

 先程の攻防で多少ダメージはあるが、重傷ではない。しかしクウガの方も、三度に渡って必殺を食らわせたはずが、未だ健在だ。

 おまけに決して倒される事のないアナザーアズールもいる。この苦境に、ゲイツは苦しげな声を上げた。

 

「く……せめてリバイブライドウォッチが使えれば!」

「アナザーライダーに通用する私のギンガミライドウォッチも、我が魔王のジオウⅡさえも……今はヤツらの力で封じられているからね」

 

 クウガが、両腕を振り上げる。その瞬間、再びジオウたちの前に爆発が起こった。

 牽制の甲斐もあって、直撃は避ける事ができた。しかしダメージは甚大であり、四人のライダーたちは膝をついてしまう。

 その姿を、ローパはさも面白そうに見下ろしていた。

 

「ハハハッ! いよいよだ! いよいよ死ぬぞ、ジオウが死ぬ! ホラ死ぬぞぉ!」

「……死ねない……どんなに苦しくても、痛くても……それでも……それでも、負けられない!」

 

 そう言いながら、ジオウは立ち上がる。

 ローパは舌打ちし、その姿を見ながら足を組んでトントンと膝を指で打つ。

 

「平成ライダーの力は俺たちの世界の、俺たちの時代にあるべきものなんだ! それを勝手に持ち出して、他所の世界を無茶苦茶にするな!」

「醜いねぇ。どうしてそこまで抗う?」

「仮面ライダーだからだ!!」

 

 立ち上がって放たれた、力強い叫び。それに鼓舞されるように、ゲイツもウォズもツクヨミも、膝に力を入れて立つ。

 その姿を目の当たりにして、翔は自然と彼らの方に手を伸ばしていた。

 自分も戦いたい、戦わなければならない。仮面ライダーとして。

 折れかけた闘志を掻き集め、自らの意思を奮い立たせ、ただその一心で真っ直ぐに手を伸ばす。

 その時だった。

 

「翔!」

 

 聞き慣れた声が耳に入ると共に、振り向いた翔の手へとあるものが放り込まれた。

 プロトマテリアフォンだ。それも、鷹弘が持っていたものよりも古い型の。

 それを持って来たのは、ソフト帽とスーツを纏った男。翔の養父、天坂 肇だった。

 

「これは……!?」

「蔵の奥から引っ張り出して来た!」

「父さん……」

 

 翔の顔を見ながら、肇は黙って頷く。

 これを使え。眼がそう語っていた。

 頷き返し、翔はプロトアプリドライバーを呼び出す。

 問題なく腰に装着されたので、続いて翔はブルースカイ・アドベンチャーのマテリアプレートを手に取るが、我に返った鷹弘はその姿を見て肇に向かって思わず叫んだ。

 

《ブルースカイ・アドベンチャー!》

「ちょっと待て! アンタの使っていたプロトアプリドライバーはα版だ! 最新のプレートが使えるように調整がされてないだろ!?」

 

 そこで初めて気付いた様子で、鷹弘の言葉を聞いた肇が目を僅かに見開く。

 しかし、翔は止まらない。

 

《ビギニング・トゥ・ラン! ビギニング・トゥ・ラン!》

「変身!」

 

 最後まで話を聞かず、翔はドライバーにマテリアフォンをかざす。

 すると。

 

HEN-SHIN(ヘンシン)! マテリアライド! ブルースカイ・メイル! 蒼穹の冒険者、インストール!》

 

 翔の全身に青いノイズが走り、ウォリアー・テクネイバーを呼び出す事なく、問題なく変身を遂げた。

 青いスーツはそのままに、本来なら白い装甲は黒となり、複眼は角張った形状になって右眼側に亀裂が走っている。両肩の後ろから垂れるはずのマフラーはなくなり、左肩から腕全体を覆うようにボロボロの黒いマントが伸びている。

 現れた仮面ライダーの姿に、鷹弘もアナザーアズールも驚いていた。

 

「なっ……!?」

「なんだと!?」

 

 これまでと姿の異なる仮面ライダーアズール。

 ライドオプティマイザーなしにV2アプリを使った時と同じだ。本来ならばあり得ない、起こるはずのない変身。

 矛盾(アノマリー)例外(アノマリー)逸脱(アノマリー)変則(アノマリー)特異(アノマリー)。この姿に名をつけるとすれば、それが相応しいだろう。

 仮面ライダーアズールアノマリー。アズールセイバーを右手で掲げ、彼は今飛び立つ。

 

「行くぞ!!」

 

 地面を滑るように、高速で前へと飛び出すアズール。

 アナザーアズールは舌打ちしながら、剣を向かって来るアズールへと突きつけた。

 

「甘いですね。そんな付け焼き刃で私に勝とうなどとはッ!」

 

 叫びながら突き出された剣先の前で、アズールはマントを翻す。

 すると、隠れていた左腕が稲光のように青く発光し、拳が真っ直ぐに切っ先にヒット。あまりの衝撃に、アナザーアズールの持つアズールセイバーは手元から離れ、後方へと吹き飛ばされた。

 

「あっ!?」

「付け焼き刃なのはそっちの方だ」

 

 再びマントを翻すと、青い輝きがアズールの全身に染み渡る。

 

「ぬぅ!」

 

 アズールと同様、アナザーアズールも地面を滑りながら突進。

 そのまま蹴りを繰り出すが、脚を振った時、既にアズールは目の前から姿を消していた。

 

「!?」

 

 直後、アナザーアズールの脇腹に突き刺さるような激痛が走る。

 アズールの左拳がめり込んでいるのだ。バランスを崩しかけたところで、続け様に高速の斬撃が襲いかかる。

 一閃、二、三。さらにアズールの体を伝う青い光が一際大きく煌いたかと思うと、その光が剣の形を成し、左手に握られる。

 

「おおおっ! そぉりゃあああっ!」

 

 双つの剣から放たれる連続攻撃。あまりの速さと攻撃力に、アナザーアズールは防ぐ暇もなく、体から火花を散らして地面でのたうった。

 

「ば、バカなっ……古いシステムなのに、なぜ私の方が押されて……」

 

 ジョー・ヒサミネは預かり知らぬ事だが。

 最初期のプロトアプリドライバーは、開発の進んだ現代のアプリドライバーと違って、あらゆる面で変身者への負荷を度外視している。

 それ故に、安定性においては通常のドライバーに劣るものの、コントロールさえできれば圧倒的な戦闘能力を発揮できるのだ。

 そもそもの話、アナザーライダーは同じライダーの力に弱いのと同時に、同じライダーに対しより大きなダメージを与えられるという面も併せ持つ。

 システムの違いがあるとは言え、互いに互いが弱点というのならば、勝つのは戦闘センスや技量のより高い方だ。

 

「これで終わりだ!」

「さ……させんっ!!」

 

 アズールがプロトマテリアフォンを手に取ったのを目撃して、アナザーアズールはすぐさま立ち上がり、自身のベルトのバックルを握り込んだ。

 

《フィニッシュコード!》

「そぉりゃあああああっ!」

Alright(オーライ)! ブルースカイ・マテリアルアタック!》

「ぬぅらあああああっ!!」

 

 アズールとアナザーアズールの飛び蹴りがぶつかり合い、青い光の奔流が生まれる。

 青い光は降り注ぐ雷のようにその場を駆け抜け、近くでジオウたちと引き続き戦闘を行っていたクウガを巻き込み、吹き飛ばした。

 そして、その競り合いに勝利したのは――。

 

「ぐあああああっ!?」

 

 アズールだった。アナザーアズールは悲鳴とともに吹き飛ばされ、地面に倒れ込むと、全身に火花と電流が散る。

 

「な、なぜだ……悲願を成就する力を手に入れたというのに……なぜ……!」

「やばっ!?」

 

 慌てて、ローパがアナザーアズールの時間を止める。

 そして飛びつくように彼に近づき、爆発する前に体内からアナザーアズールのライドウォッチを抜き取った。

 ウォッチは僅かに罅割れており、煙を吹いたまま時間が止まっている。故障しているようだ。

 

「くそっ、今はまだこれを失うワケには行かないんだよ! 戻って修理しないと……!」

「やらせるか!」

「こっちのセリフだボケッ!」

 

 ローパが手をかざした瞬間、アズールの動きは止まった。さらに続けて、ローパはジオウたちの時間をも止める。

 

「もう少し遊んでやろうかと思ったけど……もう良い、ジオウたちもアズールもまとめて! 殺せ、クウガァ!」

「グガァァァ!」

 

 クウガが咆哮し、両腕を突き出す。

 命令通りに、モーフィングパワーで全員焼き殺すつもりだ。時間を止められている以上、もはや防ぐ手立てはない。

 万事休す。そう思われた、その時。

 

「つくづく人からウォッチやら王座やらを奪われるヤツだな、お前は」

 

 そんな呆れたような声と発砲音がその場に響き、マゼンタ色に光る弾丸が飛んで来る。

 クウガはそれを受けて怯み、ローパをも狙った弾はバリアによって阻まれた。それと同時に、時間停止は解除される。

 

「ま、目をつけられるってのも……王のさだめってヤツか?」

「あ……あんたは……」

 

 急に体が動き出し、転びそうになったジオウが、銃弾の飛んで来た方向を見る。

 そこには、首からトイカメラを提げた茶髪の男が立っていた。

 彼の姿を見たローパの顔が青褪めているので、思わずアズールは訊ねる。

 

「あなたは一体……」

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ」

 

 男はそう言うと、カメラに似た形状のマゼンタカラーのバックルが特徴的なベルトを装着。その後一枚のカードを取り出して、握った右手の中指で軽く叩く。

 そしてそれをバックルに挿れ、両手をベルトの両端にあるレバーに添えた。

 

KAMEN RIDE(カメンライド)

「変身!」

DECADE(ディケイド)!》

 

 レバーを閉じた瞬間、男を中心に九つの紋章と透明な仮面ライダーの影が浮かび上がり、それらが男と一体化。

 黒いスーツとなり、眼の前に赤く光る九枚のカードのようなものが現れ、頭部に突き刺さった。

 瞬間、スーツの一部がマゼンタカラーと白色に染まり、両眼は緑となって、バーコードのような形状の顔が顕となる。

 

「せ、世界の破壊者……ディケイド……門矢 士(カドヤ ツカサ)……!!」

 

 ガクガクと体を震わせ、ローパはその名を呼ぶ。

 

「なんでだよ……なんでお前が出張ってくるんだよぉ!?」

「知るか。俺はこの世界に通りすがっただけだ」

「ふざけんなぁぁぁ!!」

 

 ローパの怒りに呼応するように、クウガがディケイドに殴りかかる。

 しかし、ディケイドは裏拳を腕に当てて攻撃を逸らすと、そのまま反対側の肘を顔面に叩き込む。

 

「それにしても、ディケイドの力で黒眼のクウガになるとはな」

「グッ……!?」

「面白いが、正直見ていて気分の良いもんじゃない」

「ガァァァッ!」

「戦い方もなっちゃいない。誰かさんとは大違いだなぁ?」

 

 逆上して突っ込んで来たクウガ、そのベルトに前蹴りを食らわせ、転倒させる。

 そうして両手をパンパンッと払い、一枚のカードを取り出しながら、首を僅かに傾けてジオウとアズールの方を振り向いた。

 

「こんなのに手こずってる場合じゃないだろ」

 

 その言葉を聞いて、アズールとジオウは頷き、ゲイツたちも立ち上がる。

 そして、全員が一斉に必殺技を発動した。

 

FINAL ATTACK RIDE(ファイナルアタックライド) DE-DE-DE-DECADE(ディ・ディ・ディ・ディケイド)!》

《フィニッシュタイム! キバ! ウェイクアップ! タイムブレーク!》

《フィニッシュタイム! フォーゼ! リミット! タイムバースト!》

《フィニッシュタイム! タイムジャック!》

《ビヨンドザタイム! 忍法! 時間縛りの術!》

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! ブルースカイ・マテリアルアタック!》

 

 六人のライダーが一体となって放つキック。

 無防備な状態でその攻撃を受け、クウガは大きな悲鳴を発し、爆散。ライドウォッチが転がり、鷹弘とアシュリィがそれを拾い上げた。

 

「これで……お前の最後の切り札も木っ端微塵だ!」

 

 電灯の上に立つローパに、剣を向けるアズール。

 これでタイムジャッカーたちになす術はなくなった。少なくとも、翔たちはそう思っていた。

 だが。

 

『それはどうかな?』

 

 上空から男の声が聞こえ、アズールはその方向を見る。

 そこにいたのは、胸に『ロボ』と書かれた巨大な人型のロボットだった。

 突然の事態にアズールが絶句していると、コクピットが開き、中から一人の男が姿を現した。

 タイムジャッカー・モーハだ。もう片方からは、ドーサが出て来た。

 

「少々イレギュラーが起きたようだが……ご苦労だった、ローパ。これでついに完成した」

「何……?」

「君たち仮面ライダーは、我々の計画通りに動いてくれたという事だよ」

 

 モーハがそう語ると同時に、ローパはタブレットを頭上に掲げる。

 直後、タブレットの中に封入されたエグゼイド・龍騎を含む、この場にある全てのライドウォッチが触れずして起動。ローパの目の前へと集まっていく。

 さらに彼の持っていたタブレットが手元から離れると、ライドウォッチと共に浮かび上がり、ウォッチの中から溢れ出て来た『もの』を吸収し始めた。

 爆散したはずのデジブレインたち、その体の一部だ。それらを取り込むと、タブレットは鷹弘たちが見慣れた物体に姿を変える。

 

「マテリアプレート……!?」

 

 完成と同時に、ライドウォッチが全て地面に落ちる。

 ローパはマテリアプレートをモーハに向かって放り投げ、受け取ったモーハはプレートをまじまじと見つめ、不敵に笑う。

 

「素晴らしい……これさえあれば、我々は真の時の王者になれる」

「真の……時の王者……?」

 

 モーハの放った言葉を復唱するように、アズールが呟いた。

 

「そうとも。この新たな世界で、平成ライダーの力で、我々の新たな王国を築くのだ。その時、我々の思想は正義となる」

「ど、どういう事だ……?」

「全てはそこにいる最低最悪の魔王の責任だ!!」

 

 ジオウを指差し、突然にモーハは怒声を浴びせる。

 

「我々のいた世界の2068年、ヤツは人類を脅かす魔王だった! そしてその玉座から引きずり下ろそうと、我らがスウォルツ様は尽力していた! 地球の未来を変えるために! なのに貴様はスウォルツ様の崇高な計画を台無しにした!」

「違う! スウォルツの目的は自分自身が王になる事……それに、ソウゴだって本当は――」

「黙れェッ!!」

 

 口を出そうとしたツクヨミの言葉を遮り、口の端に泡を噴きながら、モーハは続ける。

 

「真実がどうであろうとも、私にとってスウォルツ様は王に相応しいお方だったのだァ!! その計画を無に還して、あまつさえ偽の王ですらあった貴様風情が最低最悪の未来を変えるなどォ!! 貴様が正義となり、あの御方が、タイムジャッカーが悪として蔑まれる世界などォ!! あってはならんのだ、そんな歴史はァッ!!」

 

 興奮し、叫ぶモーハ。しかし喚きすぎたのか、一度深呼吸をすると、今までの落ち着いた様子に戻った。

 

「もはやあの世界の未来は変えられない……だから、私は別の形であの御方の意思を継ぐ事にした。彼らと共に」

 

 モーハがそれぞれ、ローパとドーサ、そしてジョーへと視線を向ける。

 そしてロボットの腕を操作し、ジョーを自分のコクピットに搭乗させた。

 

「力を失ったジオウに、我らNEW(ニュー)タイムジャッカーは止められん。その上で2000年から2018年のあらゆる平成ライダーの力を封じ込めたこのマテリアプレートを手に入れた今、敵はいない」

「それでも」

 

 ジオウはモーハを真っ直ぐに見据える。その視線を受けながら、モーハはジオウを強く睨みつけた。

 

「それでも俺は止めるよ」

「ならば追いかけてみろ。貴様らでは永遠に辿り着けんがな……」

 

 二台のロボットがバイク型に変形して空を飛び、空間にトンネルのようなものを開けて姿を消す。

 それを見届けた後で、ライダーたちは変身を解いた。

 

「……僕はこれからどうすれば……」

 

 虚空に消えたNEWタイムジャッカー。彼らの通った場所を見つめながら、翔はぽつりと呟いた。

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