D.C.Ⅲの冒頭から、主人公たちがさくらに出会うまでを、さくら視点から綴ったものです。

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

1950年台のロンドンから帰還した芳野さくら。
そんな彼女はある日、初音島の桜が再び満開になったのを目撃する。
その光景にある予感を感じた彼女は、杉並にあることの調査を依頼するが……?

これは、彼女が、清隆や立夏たち公式新聞部の面々と再会するまでの物語。

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第1話

2070年 春と夏の境目

 

「はい、できましたよ、さくらさん」

 

 俺……桜内義之は、羽箒で、ビニールシートに落ちた金色の髪の毛をちりとりに入れながらそう言った。

 

 

「にゃはは、ありがとね、義之くん♪」

 

 そう屈託のない笑顔で笑うのは、俺の保護者、芳乃さくらさんだ。

 

 帰ってきて、そしてあのさくら祭りを終えてから、不老の魔法を解いたのか、さくらさんは年を経るごとに成長していった。だけど、やっぱり抑制はしているのか、帰ってきてから10年経っても、20代前半の容姿を維持したままなのだが。

 それと同じだけの時を経て、30代を迎え、渋みが少し加わった俺と比べると、どちらが子供かわからないほどだ。

 

「そういえば、今年も桜、散っちゃったねぇ」

「あぁ……そうですね」

 

 ふとさくらさんが寂しそうにそう言った。

 やっぱり、初音島の桜を大事に思っているさくらさんだ。やはり、その桜が散るととても寂しいものを感じるのだろう。

 今や、桜が散るたびにさくらさんが落ち込むのは、桜内家の年中行事となっていた。

 

 そこに。

 

「兄さん、さくらさん。お茶とお菓子が入ったよ」

 

 そこに、妻の由夢がお茶とお茶菓子を持ってやってきた。というか……。

 

「由夢、もう結婚したんだから、兄さんじゃないって何度も言ってるのに」

「しかたないじゃないですか。兄さんは兄さんなんですから」

 

 その俺たちのやりとりを見て、さくらさんが楽しそうに笑う。

 

「にゃはは、二人は相変わらずだね」

「一緒にしないでください。俺はいっぱしの大人に変わりましたよ。変わってないのはこいつだけです」

 

 それを聞いて、由夢が頬を膨らませる。子供の頃からずっと一緒だった俺の妻は、こんなところもかわいい。

 

「何を言ってるんですか。わたしだって変わりましたよ。料理もうまくなったし、かったる屋も卒業しましたし」

「そういえばそうだったな、わりぃわりぃ」

「もう、兄さん。それちゃんと謝ってるんですかっ?」

 

 そんな俺たちのやりとりを見て、さくらさんはくすくすと笑った。

 

「にゃはは、そんな仲睦まじいところも含めて、相変わらずだねと言ったんだよ」

 

 でもそう笑うと、さくらさんはまた、庭から見える桜に視線を戻して、少しさびしそうな顔をした。

 

 

 

2071年2月、桜内家

 

「う、うーん……」

 

 朝起きて、ボクはうなりながら背伸びした。昨日は快眠。これもふかふかお布団のおかげかな。やっぱり、天日に干したお布団は最高だよね。

 それと、あの夢を見たせいもあるかもしれない。この時代に帰ってきてからは、見ることが少なくなってきた夢。あの子たちとのロンドンでの楽しい日々。そして、彼女たちとの別れの夢。

 

「にゃ?」

 

 そこまで思い返したところで、ボクは気がついた。カーテンの隙間から見えたピンク色に。

 ボクは胸騒ぎを感じて、思いっきりカーテンを開いた。そこには……。

 

「にゃにゃにゃ!?」

 

 ボクは思わず目を見張った。窓の外には、一面の桜色。初音島に植えられた桜が一斉に花を咲かせている。

 

 まさか、ボクの作ったコピーが……?と思ったけど、それは杞憂のようだった。この気配は、ボクの桜ではなく、リッカが初音島に植えた、オリジナルのものだ。

 

 それに、なんかわくわくにも似た胸騒ぎを感じる。ボクは、身支度を整えると、大急ぎでリビングに降りた。

 

 

 リビングに降りると、そこでは義之くんと由夢ちゃんが二人仲良く座ってテレビのニュースを見ていた。

 

「ねぇ、義之くん!外の桜が」

「えぇ、知ってますよ。今、ニュースでやってるところです」

 

 義之くんがテレビを指差すと、そこには……。

 

『この想像を超えた出来事に、島では戸惑いと期待の声が……』

 

と、初音島の桜が再び咲き始めたニュースが流れていた。

 

「でも、また春以外に桜が咲き始めるなんて、何事なんだろうな」

「お姉ちゃんの意見を聞いてみたいですよね」

 

 お姉ちゃん……義之くんのお姉さん的存在で、由夢ちゃんのお姉さんでもある、朝倉音姫ちゃん。

 

 ボクの次に魔法に詳しい彼女は今、ロンドンに留学して研究の日々を送っている。

 「調べたいことがあるから」と言ってたけど、一番は義之くんと由夢ちゃんの仲を邪魔しないようにじゃないかな。

 といっても、帰ってきたときには、すごく義之くんにべたべたして、由夢ちゃんにやきもちを焼かせることになるんだけど。

 

「ちょっとボク、枯れない桜のところに行ってみるよ!」

 

 そう言って、ボクはリビングを飛び出して行った。

 

「気を付けて行ってきてくださいよ。晩御飯には帰ってきてくださいねー」

 

という義之くんの言葉に見送られて。

 

2071年2月・桜公園

 

「うわぁ……」

 

 桜公園にやってきたボクは、また目を見張って感嘆の声をあげていた。

 

 目の前の『枯れない桜』は、見事に、美しい花を満開にしている。

 

 だけど、やっぱり不穏な感じはしなかった。『枯れない桜』はあたりに幸せを振りまいている感じがする。

 でも、どうして……。

 

 と、そこで一つ思い出したことがあった。

 それは、みんなと別れる前の、あの約束。

 

「桜が咲いたら、約束のあの場所で花見をしようね!」

 

 と、そこで。

 

「これはこれは、芳乃さくら嬢ではありませんか」

 

 聞き覚えのある声に振り向くと、そこには学生服を着た、見知った顔がいた。

 というか……。

 

「す、杉並くん?杉並くんだよね?義之くんはもう30代になったのに、どうして君はそのままなの?」

「ふっ。それは秘密ということにしておきましょう」

 

 ……本当に謎が多い人だなぁ。

 

「それで芳乃嬢、今日はどうされました?あなたも、桜を見に?」

「う、うん。ちょっと気になって……あ、そうだっ。一つ頼みごとしてもいいかな?」

「なんでしょう?芳乃嬢の依頼とあれば無下にはできませんな」

「うん、実はね……」

 

 そして、ボクは彼に一つの頼みごとをした。

 

「……なるほど、ちょっと難しそうですが、わかりました。では、何かわかればお知らせしましょう」

「うん、お願いするよ」

 

 

 

2071年3月・天枷探偵事務所

 

 あれから一か月。杉並くんからの連絡は全くなかった。

 

 やっぱり、あの頼みは、杉並くんでも無理だったのかなぁ……。

 そう思っていたある日。

 

 杉並くんからの連絡があった。

 

『例の件について、天枷美夏が何かつかんだ模様』

 

 それを受けたボクは、期待と緊張でどきどきしながら、途中でバナナを買って天枷探偵事務所に向かった。

 

「おぉ、学園長じゃないか!久しぶりだなぁ。元気にしてたか?」

「うん。美夏ちゃんも元気そうで何よりだよ。はい、差し入れ」

 

 差し入れを受け取った美夏ちゃんは笑顔で、ボクを迎え入れた。

 

「それで例の件だけど……」

「あぁ。先日のことなんだが、枯れない桜のことを調べている高校生が美夏のところに来てな。苗字がちょっと気になったから、もしかしてと思ったんだ」

「苗字が……」

 

 ボクがそう聞くと、美夏ちゃんはうなずいて、目を閉じて一拍おき、それから口を開いた。

 

「あぁ。芳乃清隆というんだ。学園長と同じ苗字だけど、親戚なのか?」

「……!」

 

 その名を聞いて、ボクは言葉を失った。

 ボクのと同じ芳乃って姓にもだけど、それ以上に。

 

 芳乃清隆。

 

 ボクが1950年代のロンドンに飛ばされていたときに出会った、ボクのおじいちゃん……。

 一人記憶を失ったまま飛ばされて、どうしたらいいかわからなかったボクに、かまってくれて親身になってくれた人……。

 

 この時代に転生してたんだ……。

 もしかしたら、リッカやシャルル、他のみんなも……。

 

 そう思うと、懐かしく、そして嬉しい気持ちが胸を満たす。

 

「……ょう、学園長っ」

「え?あ……」

 

 と、そこで、美夏ちゃんの声でボクは我に返った。彼女が怪訝そうな顔でボクを見つめている。

 

「どうしたんだ?心ここにあらずなような顔をして」

「う、うぅん、なんでもないよ。懐かしい名前を聞いたから」

「そうなのか。それで、彼、学園長の親戚か何かなのか?なんか、義之みたいな雰囲気を感じたが」

「親戚じゃないかな。芳乃の本家はボクのところで止まってるし。でも、知り合いではあるよ。遠い昔の」

「ふぅん……」

 

 美夏ちゃんは首をかしげている。それはそうだろう。

 

「それで、彼について、他にわかってることはないかな?」

「特にないな……。あ、でも、公式新聞部の活動で調査に来た、と言ってたっけ」

「公式新聞部……美夏ちゃん。彼と、その公式新聞部の子たちのことや、メルアド調べることってできない?」

「それはさすがに勘弁してほしいな。彼らのことはまだしも、メルアドとなると個人情報保護うんぬんもあるから……」

「そっか……」

「なんなら、美夏から杉並の奴に、メルアド調べてもらうように依頼しておいてもいいが?」

「う、うん、お願いするよ」

 

 再会の時が近づいてくるのを、その足音が聞こえてくるのを、ボクは確かに感じていた。

 

2071年3月・枯れない桜の下(1)

 

『明日の夕方、枯れない桜に来てみて……』

 

 そうメールを打つと、ボクはため息をひとつ着いて、気持ちを落ち着けた。

 

 天枷探偵事務所を訪れた数日後、すぐに杉並くんから連絡が届いた。

 

 清隆が所属している公式新聞部は、杉並くんの非公式新聞部のライバル……ただし彼曰く、ライバルと名乗るにはまだまだ未熟、とのこと……であるらしく、彼らとは浅からぬ交流があるらしい。それでメルアドを調べるのは難しくはなかった、と言ってた。

 

 そして、ボクにとって驚きで、そして嬉しかったのは、公式新聞部のメンバーは、みんな、あの風見鶏で出会った五人の転生であるらしいことだった。

 

 ボクのおばあちゃん、リッカ=グリーンウッド。

 リッカの親友の生徒会長で、アイシアのおばあちゃん、シャルル=マロース。

 由姫ちゃん、そして音姫ちゃんのご先祖様、葛城姫乃。

 清隆のクラスメートのサラ=クリサリス。

 フラワーズの看板娘、陽ノ下葵。

 そして、ボクのおじいちゃん、芳乃清隆。

 

 杉並くんがどうやってそれを調べたのかわからないけど、公式新聞部の子たちはみんな、あの五人の生まれ変わりの可能性が高いという。さすがに当時の記憶は失われているらしいけども……。

 

 それを聞いたボクは、彼らに会ってみるため、そしてできたら、あのときの約束……ここで花見をすること……を果たすために、彼らにメールを送ったのだ。

 

 メールを打ち終えた今でも、胸がどきどきする……。

 不安と期待が、胸の中をぐるぐるしてる。

 

 と、そこに。

 

「さくらさーんっ」

 

 ボクを呼ぶ声がして振り向くと、向こうのほうから義之くんが駆けてくるのが見えた。

 

「あ、義之くん、どうしたの?」

「いや、会社の帰りにさくらさんを見かけたので、一緒に帰ろうかと思って」

 

 ほほをかきながらそう言う義之くんに、ボクもつい笑顔になる。そして、不安も幾分か和らいだ気もする。

 

 ……ありがとね、義之くん。

 

「いいよー、もーまんたーい。行こう行こうっ」

 

 義之くん。いつか、キミにも紹介できたらいいな。

 年齢は逆転しちゃってるけど、義之くんのひいおじいちゃんに。

 

2071年3月・枯れない桜(2)

 

 そして翌日、ボクは枯れない桜の下で、彼らを待っていた。

 

 こうして当日を迎えると、やっぱり期待と不安で胸がどきどきする。

 

 彼らは来てくれるだろうか?

 彼らは風見鶏でのことを覚えてくれてるだろうか?

 彼らはあの頃から変わっていたりしないだろうか?

 

 そんなことが頭の中でぐるぐる渦巻いてて、どきどきが止まらなかった。

 

 やがて。

 

「……」

 

 人がやってくる気配。ボクは枯れない桜の木陰からそっちのほうをのぞきこんでみた。

 

「……っ」

 

 六人の少年少女たちがこちらに歩いてくる。彼女たちの姿を見て、ボクは言葉を失った。

 

 変わってないどころか、彼女たちの姿は、まさにあの風見鶏で出会ったみんなの生き写し、そのままだった。

 

 そんな彼らは、やがて枯れない桜の前で立ち止まり、木を見上げていた。

 

 意を決して、ボクは六人の前に姿を現した。

 

 あぁ……よかった。姿形だけじゃなく、雰囲気や内面も、風見鶏のままのようだ。

 

 様子を見ていると、さすがに記憶は失われているみたいだけど、それは大した問題じゃない。

 

 ボクの話を聞いていくうちに、記憶がよみがえるかもしれないし、もし蘇らなくても。

 これから新しい思い出を築いていくことはできるんだ。

 まだ若い彼らにも、そしてボクにも、そのための時間は一杯あるんだから。

 

 そう思いながら、万感の想いをこめて、ボクは最初の一言を口にする。

 

「こんばんは。久しぶりかな?それとも、はじめましてと言ったほうがいいかな?」

 


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